先輩は後輩を見捨てない   作:クローン・イレイザー

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・直樹美紀
中学の頃に図書室で居眠りをしていた秦野に注意したことがあり、そこから知り合った。
何度注意しても図書室で眠りこける秦野に対して躍起になって喧嘩をしたことがあり、二人仲良く図書委員に叱られた経歴を持つ。それ以来何かとだらしない秦野に世話を焼き続けてきた結果、秦野の事が気になり始めてしまった。
昔に秦野がガーターベルト好きという噂を聞き、物は試しと着用している。


2時間目

モール内に響いた尋常じゃない悲鳴に、俺達だけじゃなく周りの客達も何事かと辺りを見回す。

 

「な、なに?」

「少し見てくる。直樹後輩と祠堂後輩はここで待ってろ」

「あっ!先輩!」

 

先に事情を確認したのだろう客達が大慌てで逃げていく波を押し退けて元凶を確認する。

どうやら元凶は外にあるらしい。窓際で口を抑えてうずくまってる女性を尻目に外を眺めると、そこには凄絶な光景が広がっていた。

 

「はは……なんだこりゃ。何かの撮影、って訳じゃないよな」

 

人が人を食っている。それも遠目からでも分かるくらいにかぶり付いている。

流石にホラゲによるグロ耐性を獲得している俺でもちょっとクるものがあるが、まだマシだろう。

これが直樹後輩や祠堂後輩ならば……いや、あぁ見えて直樹後輩ならば案外耐えられるかもしれん。案外グロ耐性付いてたなあいつ。

 

「なにはともあれ、ここから逃げる事に越したことはないが……」

 

ふと周りを見回すが、既にちらほらとしか人は残っておらず、彼らも逃げ遅れた分類だろう。

となると俺らは出遅れてしまった訳だ。

 

「「先輩!!」」

「……む?直樹後輩に祠堂後輩か。丁度良い所に──」

「せ、先輩!ひ、人が!血だらけで!エレベーターもダメで……!!」

「なに?少し落ち着け祠堂後輩。直樹後輩、詳しく聞こう」

「そ、それが……」

 

青ざめた様子で合流した直樹後輩と祠堂後輩を落ち着け話を聞いてみれば、よもや既に上の方でも地獄が始まっているらしい。

その情報を頭の中で噛み砕く。

 

エレベーターで変死だと?この手のものは噛まれたり引っ掻かれたりしたら感染するというのがベタだが。

ならば外から入ったアレが人知れず紛れていて、そこから始まったという説は……ないな。

もしそうだとしても、誰も気付かないままでいられる筈はない。

 

もう一度外のアレを観察する。

動きはゆっくりで単調、視覚や聴覚が機能してるかは現段階では不明。掴んで噛みつく動作はあるものの、引っ掻く等の動きがあるかも不明。

知能があるようにも見えない。どちらかと言えば本能で動いているような様子だ。

筋力は高いらしく大の大人でも振り払えていない。

恐らく捕まれればほぼ即死コースだろう。

 

パッと見ただけで分かるのはこれくらいか。

うむ、この情報だけでも気付かれずに紛れ込んだとかは無理だな。そもそも本能で動いているならば紛れる前に襲ってくるだろう。

結論。空気感染等も視野に入れるべし。

 

「よし。取り敢えず上に逃げるか」

「う、上ですか?」

「おう。話は動きながらしようか」

 

不安がる二人を誘導しながら空気感染の考えを伝え、皆で口をハンカチで押さえながら非常階段へと向かう。

さっきのエレベーターの話とかを聞くに、逃げられない個室に入るのは躊躇われる。かといってこのままこの場所にいても餌になるだけだ。

もちろん沢山の客が逃げていった下の階はほぼ全滅と言っても良いだろう。移動する前に大量のアレらが入り込んで来てたのは確認済みだ。

 

「そこまで見てたんですか!」

「そりゃね。逃げるにしても戦うにしてもまずは観察からだろ?まぁまだ逃げる一択だが」

「はっ!はっ!先輩は落ち着き過ぎじゃないですか…!」

「これでも驚いてるほうだぞ。まだ現実味を感じてないだけかもな」

 

そう、驚いてはいる。遠目からとは言え人が食われている瞬間を見たのは間違い無いし、逃げている最中でも時折見かけて正直どうかしてるとも思う。

だがそれ以上に────

そうやって思考の海に落ちそうになった瞬間だった。

 

「む……!」

「わっ!」

「停電!?」

 

バチンという音が聞こえたと思いきや、店内が一気に暗くなる。時間としては大体夕方頃な為にそこまで暗いという訳ではないが、生憎と現在の位置では夕日の明かりが入らないので視界が悪い。

 

「痛っ!」

「美紀!」

「直樹後輩!大丈夫か!」

 

足下が見えづらかったのだろう。直樹後輩が通路に伸びていたコードに足をとられ転んでしまった。

すぐに祠堂後輩が駆けつけ、俺も辺りを警戒する。

幸いにも怪我はしていないようだが、祠堂後輩の助けで立ち上がっても足が震えてしまっている。精神的に体力も追い詰められてきているようだ。

 

このままではすぐに限界が来る。直樹後輩にも、祠堂後輩にも。

ならばこれ以上の移動はリスクが高いか。残念ながら安置すら把握出来ていない状況下で限界近い二人を上まで誘導するのは難しい。

 

「ふむ……直樹後輩、祠堂後輩。ここに隠れてろ」

「隠れてろって、先輩は?先輩も隠れないと……!」

「流石にその狭い空間に後輩二人と俺一人じゃ狭すぎる。なに、少しだけ連中と鬼ごっこでもしてくるさ。これでも小さい頃は鬼ごっこは無敗だ」

「だ、駄目です!危険過ぎます!」

「大丈夫だって。それより俺が声をかけるまでは何が来ても絶対音を立てるなよ?あいつらは多分音に敏感だ。直樹後輩が動けない今、襲われたら全滅だと思え。他の生存者だとしても油断するな。この状況じゃ生きてる奴だって簡単に信用出来ないからな。危なくなったら何をしても逃げろよ」

「わ、分かりました……。先輩、絶対無事に戻ってきて下さい」

「先輩が戻ってくるまで、美紀と一緒に待ってますから」

「おう。直樹後輩を任せたぞ祠堂後輩。じゃ、行ってくるわ」

 

後輩二人を試着室へと押し込んで素早くカーテンを閉めると、辺りを見回して現状を再確認する。

洋服屋のコーナーな為に視界はやや不良、物陰からの不意打ちに注意するべし。

なるべくこのコーナーから奴らを引き離しつつ、避難場所を探して安全を確保する。その為には得物が必要だ。

はてさて、丁度いい物は何かあったかな……?

 

 

 

 

 

──────

────

──

 

 

 

 

 

「……ねぇ、美紀。秦野先輩大丈夫かな…」

「……わかんない。けど先輩は出来ない事は言わないから…」

 

先輩が離れてからどれだけ時間が経ったのか。

今は美紀と一緒に試着室の中で肩を寄せあって出来るだけ小声で話している。

先輩が彼らは音に敏感だって言ってたから、携帯もサイレントマナーに切り替えて美紀を奥に私が手前に座っていざという時に美紀を守れるように意識を試着室の外に向けながらだ。

幸いとは言いたくないけど、先輩が音を立てながら移動してたみたいだから近くに彼らの気配が無いこと。

だから先輩が戻ってくるまでは二人で息を殺して耐え忍ぶのだ。

 

でも、万が一にでも先輩が襲われてたら?

先輩が彼らの仲間になってしまったらと考えると、ぶるりと体が震えた。

 

何時でも冷静で、でもちょっと抜けてる所があるけど頼りになる先輩は美紀や私にとって大切な人だ。

先輩がそうなってしまったら私も、何より美紀が正常でいられる訳がない。

 

「……圭。手、握っててもいい?」

「……うん、いいよ。ほら」

 

美紀の震える左手を右手で握る。人肌を感じる事でさっきよりは心が落ち着いてきたのか、私も美紀も震えは収まっていた。今はこの熱がとってもありがたかった。

 

チラリと携帯で時間を確認すれば、先輩が行ってから15分は経った。むしろまだ15分しか経過してないのに精神の消耗が早い。音を立てないように意識するのがこんなにも大変だとは思わなかった。

 

先輩……まだかな……大丈夫かな……。

 

そうやって静かに耳を澄ませていると、静寂を破るようにドタドタと複数の足音が聞こえてきた。

彼らが鳴らすような音じゃない気がする。先輩が言ってた生き残ってた人たちかもしれない。

咄嗟に声を出そうと思ったけど、何とか思いとどまる。

 

先輩が言ってた「生存者を簡単に信じるな」という忠告を思い出した。

先輩の忠告の意味はまだよく分かってないけど、先輩が私たちの身を案じて言ってくれた事には間違いない。

なら、私たちが一番信じるべきは先輩だ。

 

「……圭」

「……美紀」

 

どんどんと近付いてくる音に二人で息を殺して身を縮め、嵐が過ぎ去るのを待つ。

少しでも情報を得るために、会話にも耳を立てる。

 

『…生存者はいないか。とりあえず男女で別れて何着か下着や衣服を回収しよう。どこから襲われるかわからないから、あまり時間はかけないで動こう』

『『『了解』』』

 

この人たちはどうやら衣服を集めに来たみたい。

集団で協力して動いてる事から、もしかしたら安全な場所を確保して生活するために物資を集めてるのかな。

話し声からして男女四人?男性と女性が各々二人ずつかも。

 

『そういえば、さっきの人大丈夫かな?一人で行動してたし、あいつらに襲われかけてたよね…』

『本人が大丈夫だって言ってたし、一人で行動した方がバレにくいってのも納得出来るけどな……こんな状況でそんな判断出せるのはやべぇだろ』

『みんな集め終わったか?じゃあ一旦拠点に戻ろう。周りの警戒は怠らないように』

 

え……一人で行動って、もしかして先輩のこと?襲われかけてたってなに?先輩は無事なの?先輩はどうなったの?

 

「……圭。大丈夫。先輩なら大丈夫」

「……」

 

 

先輩の事が気になるけど、今の私たちじゃ何も出来ることはない。震えを抑えるように美紀と繋いだ手にギュッと力を入れ、そっと息を殺して先輩を待つだけ。

…先輩、早く帰ってきてください。

 

 

 

──────

────

──

 

 

 

 

ここリバーシティ・トロンはデカいショッピングモールだけあり大体の日用品は揃っており、その他にもアウトドア用品や工具、はたまたスポーツ用品と取り扱っている品が多彩だ。

だからこそ町の人はこぞってリバーシティ・トロンで買い物をしていく。要するに人の集まりが凄い。

 

人混みが嫌いな俺にとっては新発売の本を買うためだけに訪れる場所だが、直樹後輩や祠堂後輩に連れていかれる事も多いため館内の把握は出来ている。まさかそれがこんな最悪なタイミングで役に立つことになるとは思わなかった。

 

先に確保しとくべきは医療品と食べ物。次点で武器と衣服と言いたいが…

 

2人と別れる時に棚からひったくったリュックを背に素早く移動する。あちこちで不快な音が聞こえる中、時々こちらを狙ってくるヤツに蹴りを食らわせて吹き飛ばし倒れているヤツの片足を踏み砕いておく。流石に片足で立ち上がってくることはあるまい。

本当はトドメを刺しておくべきなんだろうが、これよりも後輩たちの方が優先だ。

 

「てか、蹴り心地が気持ち悪い。やっぱり武器も必要だなこれ」

 

先程遭遇した生存者たちに2人が見つかっていない事を祈りつつ、目標ついでに新しい靴を手に入れる為に移動を再開した。

…今後の事を考えると非常に憂鬱だな。

 

 

 

 

 




・リバーシティトロンの生存者
この作品では原作よりも早く生存者たちが協力して物資を回収し始めている。本来ならば2人は彼らに発見され助けられるはずだったが、秦野の言葉に従い必死に気配を消した事で発見されることはなかった。

・秦野の身体能力
小さい頃から才能を遺憾無く発揮していた秦野に面白がった両親が様々な習い事をさせたおかげで、身体能力や思考力が飛躍的に上昇した。肉弾戦でヤツらに余裕で勝てる程だが、充分な睡眠をとっていないと本人のやる気が下がり集中力もダダ下がりする欠点がある。
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