先輩は後輩を見捨てない 作:クローン・イレイザー
赤樫の木刀:4階のスポーツ用品コーナーで発見。溢れ出る子供心に勝てなかった。意外と使い心地は良い。バットと悩んでいた。
ゲーターマチェット:2階のキャンプ用品コーナーで発見。バトニング等のサバイバルに使えるかもと回収した。なお武器として使用される頻度が圧倒的に多い。
・秦野のお気に入り
十徳ナイフ:2階のキャンプ用品コーナーで発見。使用出来るタイミングをこっそりと楽しみにしている。
折りたたみ式シャベル:2階のキャンプ用品コーナーで発見。凄いぞキャンプ用品コーナー。
その後の生活は予想に反して充実したものだった。
竜巳さんのリーダーシップが発揮され、どんどんと拡張されていく安全地帯と内装決めで次第に後輩たちも笑顔が増えてきたのは良い傾向だ。竜巳さんと話し合ったあの夜から彼にも思うところがあったのか、1回目の探索の時よりも慎重になっていたのは助かる。万が一でも探索組の誰かが怪我を負わされた場合感染している可能性は非常に高い。そうなれば必然的に排除するしか選択肢は無くなる。それは出来れば避けたいところではある。
こうして安全地帯の拡張と物資調達の生活から数日、今日もまた俺たちは無事に調達を終えバリケードの中へと戻ろうとしていた。
「よっ!今日もお疲れさん!何回見てもお前の身体能力にはビビるぜ」
「お疲れ様です健二さん。そちらこそ凄い活躍だったじゃないですか」
「はっは!昔から運動神経は良かったからな!ヤツらなんてこいつでちょちょいのちょいよ!」
「健二、あまり調子に乗ってヘマするなよ?秦野君やリーダーに迷惑掛かるんだからな」
「わーってるって!リーダーにも口酸っぱく言われてんだし、気をつけてるさ!」
「まったく…悪いね秦野君。コイツはあんまり相手にしなくて良いから」
「分かりました」
「ちょっ!そりゃないぜ!」
今こうしてイジられている彼、大塚健二さんは中々にガタイが良いパワーファイターみたいな人だ。得意げに金属バットを振るってヤツらを始末する姿は頼もしい。しかし少し調子に乗りやすい欠点があり、竜巳さんも俺もそこに不安を感じる時がある。
そしてそんな彼を諌めるのが河上悟さん。健二さんとは違い細身な人で力もそこまで大したことはなく、サポーター役といった人だ。どうやら2人は高校からの友人らしく、ここでたまたま遭遇しこの事件が発生し巻き込まれたとのことだ。
「そーいやよぉ秦野。お前いつも夜になるとヤツらを観察してるよな?なんか分かったか?」
「分かった事と気になる事がいくつか」
「へぇ…それって?」
健二さんの言う通り、俺はここ数日間でヤツらの動きを観察するべく外を眺めたり館内に彷徨くヤツらを調べてたのだが、気になる点が出てきたのだ。
「夜になるとヤツらの数が減っているんです。俺たちが排除した分じゃなくて、総数がですね」
「ん?ん??どういう事だ?」
「つまり朝や昼に比べて夜の方がヤツらの数が少ないってことかい?」
「そういうことです。ヤツらは何故か夜になるとどこかへ行ってしまうみたいです。理由は分かってませんが」
「そうだったのか…全然気付かなかったよ」
「俺も……」
驚いた表情をする彼らを余所に、俺の中では試してみたい事が沢山ある。まずはそれを実験し結果を確認するのを優先したい。その為にもこれは竜巳さんにも話しておかなくちゃいけない。
これでヤツらに関する何かしらの情報が得られればそれは大きなアドバンテージになる。
「竜巳さんにも話しておきたいんですが…」
「あー、リーダーなら別のところに引っ張られてるからなぁ。手の空いた時にでもいいんじゃねぇの?」
「そうですね。そうします」
「僕はリーダーの方を手伝って来るよ。健二、秦野君もまた後で」
「俺も少しだけ一眠りしてくるかな〜。またな秦野」
「はい、また後で」
2人と別れ自分の部屋へと戻る最中、直樹後輩と祠堂後輩にも相談しとかないとなぁとぼんやり考えながら歩く。
ちなみに何故か俺の部屋は後輩たちの部屋の隣である。最初は男性グループと女性グループで別れる筈だったのだが、後輩たちが手回しをしたのか俺だけ部屋が女性グループに寄ってしまった。正直滅茶苦茶気まずいから許して欲しい。幸いなのは俺の部屋は一番端の方で、後輩たちしか隣人が居ないことだな。
おもむろに時間を確認しようとポケットに手を突っ込んで携帯を取り出そうとするが、その手は空を切った。何度かポケットを漁るが全くない。
(…あぁ……教室に忘れたな……)
この数日間があまりにも忙しかったとはいえ、ここまで自分の持ち物にルーズになるとは思わなかった。もしかしたら俺も予想以上にこの状況に疲れてるのかもしれない……って!そんなことを言っている場合じゃない!
(ま、まずいぞ……携帯のフォルダの中にはあの写真が……!!)
そう、あの携帯の中には非常に珍しい直樹後輩の寝顔写真が収められている!!厳密に言えば撮ったのは俺ではなくて祠堂後輩なのだが、祠堂後輩がその写真を送ってきた時にからかってやろうと面白半分で写真を保存してそのままだったのだ!
もしもあんなものが万が一にも校内にいるかもしれない生存者に見つかれば終わりだ。その時点で俺は寝ている女の子の寝顔を盗撮した度し難い変態と言うレッテルを貼られる事は間違いない!
「くっ…回収されない事を祈るか…しかし勿体ない…」
「何が勿体ないんですか?先輩」
「んっ!?な、直樹後輩じゃないかどうしたんだこんなところで」
「こんなところって、私たちの部屋の前でボソボソ何か言ってたから聞いたんですけど」
「…いや、なに。今更ながら携帯を教室に忘れてきたことを思い出してな。それだけだよ」
「……本当ですか?」
至極冷静な俺の返答に直樹後輩はジトーっとした目を向けてくる。この目は確実に俺の言葉を疑っている目だ。
「なんでそこで疑う」
「いえ、先輩って結構無頓着というか、自分の物にもあまり執着しないタイプなのに携帯の事を気にしてたのが引っかかりました。もしかして大切な写真とか残ってます?」
ちょっ、なんか感が鋭いな直樹後輩!?こんなところでも察しの良さを発揮する必要はないぞ!て言うかそんなこと馬鹿正直にでも言ってみろ、絶対キレるぞ!
「まぁそんなもんだ。出来れば回収しておきたかったが、こんな状況だし諦めるさ」
「……そうですか」
「うむ。それと丁度いいタイミングだし、直樹後輩と祠堂後輩に相談があるだが……祠堂後輩はどうした?」
「圭なら柊菜さんに捕まりました。まぁ私も巻き込まれたんですけど逃げてきました」
「一体何をしてんだお前ら…」
「乙女の秘密です」
「さいですか。なら直樹後輩には先に話しておこう」
「分かりました。ではお話は先輩の部屋でお願いします」
「はいはい」
部屋に入って直樹後輩を椅子に座らせ、俺はベッドに腰掛けながらヤツらに関するこれまでの観察結果を共有することにした。
直樹後輩とはこうして情報共有を頻繁に交わしており、俺はバリケード外の状況を、直樹後輩からはバリケード内での人間関係等を話している。スパイみたいな事をさせて申し訳ないが、周囲の情報は常に把握しておきたいので今後ともよろしくお願いしたいものだ。特に人間関係なんてこんな状況で拗れてしまえば全滅もありえなくは無い。
「……とまぁ、皆仲良くまとまっています。今は何も心配は無いと思います」
「そうか、共有助かるわ。俺の方でもいくつか話しておきたい事がある」
直樹後輩にも健二さんたちに話した事を伝えると、直樹後輩は顎に手を当てて考え込む。恐らく彼女の中で憶測が飛び交っているのだろう。俺としてはひとつの仮定があるが、直樹後輩はどのように考えるだろうか。
「…先輩、もしかしてですけど…あれらは記憶にそって動いてる可能性がありますか?」
「やはり直樹後輩もそう思うか。ヤツらは音に敏感なのは間違いなく、視力も問題なく機能している。よくあるゾンビ映画でもこれらは確認出来るが、違うところは一日を通しての動きだ」
探索をこなしながら観察していたが、ヤツらがこのリバーシティトロンに群がって来るタイミングは大体昼から夕方が一番多い。しかも夕方からはチラホラと学生服を来たヤツも増えてくる。それではまるで俺たちと同じ、学校帰りにショッピングモールに寄ったみたいではないか。
そして夜になれば学生が消え始め、大人たちの姿がまばらになる。全員消える訳では無いが、明らかに1階にいる人数が減っているのだ。ちなみにこれは家電量販店コーナーで見つけたビデオカメラで録画した情報なので間違いない。
「もしこれが本当なら、ヤツらの大まかな動きは把握出来るようになるかもしれない。もっとも、成れ果てたヤツらが記憶にそって完璧に動いてるとは思えないけどな」
「それでも動きが分かるのは大きいですよ!皆にも早く共有しましょう!」
「待て待て。こういうのはまず竜巳さんに話してからだ。リーダーから伝えないと混乱しかねないからな」
珍しく興奮する後輩をなだめ、次に確かめていきたい事をあれやこれと相談していくうちに祠堂後輩も戻ってきて、「美紀と先輩だけ楽しそうにしてずるい!」と叫びながら突っ込んでくるお転婆娘に振り回されながら、今日もまた無事に生き延びた事を実感するのだった。
「あぁ…くそ…痒すぎる」
秩序崩壊の足音が、楽しそうに笑う彼らに静かに忍び寄ってきていた。
・大塚健二
この作品のオリジナルキャラ。ガタイがよく力が強い、絵に書いたパワーファイターみたいな人。元々は野球部だったのでバットの扱いは得意。秦野の身体能力に驚くもそれに追いつこうと奮起するところもある。調子に乗りやすい。
・河上悟
この作品のオリジナルキャラ。細身で力は強くない。探索ではライトやポータブルプレイヤーを用いてヤツらの気を引いたり逸らしたりしているサポーター役。健二とは高校からの友人で良いコンビになっている。