Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》 作:アグニ会幹部
タイトル出て来る所で流れる梶浦節全開のBGM好き。
「you have to choose your future」って言う名前の。
#11 イノセント・マーダー
夜が明けた。
外には雪が積もっており、寒さが肌に突き刺さる。吐く息は白く、空は憎らしいほど青く澄み切っている。
玄関で靴を履き、靴紐を堅く締める。肩にはセイバーの剣が入った袋をかけ、立ち上がる。
俺の後ろに立つ桜は、俺の背に視線を向けているようだ。昨夜、俺の帰りを待っていてくれた桜。俺が危険なコトをしていると察しているだろうし、桜がそれを望んでいないコトも分かっている。
それでも、やらなければならない。
セイバーがいなくとも、俺のやるコトは変わらない。
「じゃあ、行ってくる。桜は休んでろ」
「――先輩…」
そう、まだ終わっていない。
俺の戦うべき相手は、まだこの街にいる―――
◇
深山商店街の側に有る公園。
そこに立てられた街の地図を睨みながら、考える。
新都。
中央公園。
柳洞寺。
これまで「影」がいた三ヶ所。地図で見たところで、共通点らしきコトは見当たらない。一体何が目的なのか――いや、そもそも意志が有るかも分からない。
間桐臓硯との関わりも不明だ。
中央公園で、臓硯は「影」を見て大きく狼狽えていた。しかし、柳洞寺での戦いでは、セイバーが影に捕らわれた傍らで、アサシンやキャスターは自由だった。影について、何かしら臓硯が知っているコトは間違い無いだろう。
使役している――あるいは、ただ利用しているだけなのか。
「――遠坂にも聞いてみないと」
俺一人で考えていてもどうにもならない。
遠坂なら何か分かるコトが有るかもしれないし、昨夜間桐邸へ調べに行った遠坂が、何かを掴んだとも分からない。
「ぶっ」
その時。顔の左側に、雪が飛んで来た。
雪を払いつつそちらの方向に顔を向けると、もう一発飛んで来る。今度は正面から直撃だ。
「っ…」
雪を払って、恐る恐る目を開ける。
すると、そこには。
「うんしょ、うんしょ――あ。
生きてたんだね、お兄ちゃん!」
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
バーサーカーのマスターである冬の娘が、人懐っこい満面の笑顔を浮かべて立っていた。
「―――」
公園のベンチに座り、机越しにイリヤスフィールへ視線を向ける。小さな雪だるまを幾つも作って机に並べていたイリヤスフィールは、上目遣いで聞いてくる。
「――名前、教えて?」
「え?」
「お兄ちゃんの名前」
「…ああ――俺は士郎。衛宮士郎」
いきなりの問いに拍子抜けして、思わず素直に答えてしまう。一方のイリヤスフィールは、名前を聞くや否や、嬉しそうにステップを踏みながら近付いてくる。
「エミヤシロ…うん、シロウは、シロウね!」
くるくると回って俺が座るベンチの右前へと移動したイリヤスフィールは、イタズラっ子みたいな表情になり――
「たーっ!」
勢い良く、俺に飛びかかって来た。
俺の上に乗ったイリヤスフィールは、じゃれるように足をパタパタを動かして、はしゃいでいる。
「ちょ――敵同士だろ、イリヤスフィール!」
「イリヤで良いよー! マスターが戦って良いのは夜だけなんだよ! 私はシロウとお話に来たの!」
「は、話?」
何とかイリヤを引き剥がし、隣に座らせる。
それからイリヤは、年相応の笑顔で、本当に色々なコトを話してくれた。
「じゃあ、イリヤは森の城に住んでるのか?」
「そう。今日もセラの目を盗んで、シロウに会いに来てあげたんだから。コーエイに思いなさい!」
ふんす、と胸を張るイリヤは、何とも可愛らしい。とても、バーサーカーのマスターとは思えない様子だ。
「今だって、殺しちゃうコトも出来るんだから。セイバーのいないシロウなんて、あっという間なんだからね」
…訂正。
目を細めて妖艶に笑うイリヤを見ると、やはりマスターだと思える。
「――じゃあ、もう一つ聞いて良いか?
衛宮切嗣、って名前に覚えは」
「知らない」
一応、と思って聞いたその問いを、イリヤは瞬時に否定した。俺が言い終わるより早い。
そして、イリヤは立ち上がり、公園の出口に向かって歩き出した。
「――知らない。そんな奴、知らない。
私、帰る」
「え、ちょっと…イリヤ!」
側に置いていたカバンを持ち上げ、公園の外に出て行ったイリヤを追う。
公園の外に出て見回すが、イリヤの姿はとっくに消えていた。
「――何だったんだ?」
イリヤの機嫌は悪くなかったハズだ。それでも、切嗣の名を聞いた瞬間、途端に不機嫌になったようだった。…何か、有るのかな?
「衛宮くん?」
次に聞こえて来た声は、イリヤのモノではなかった。振り向くと、赤い服を着たツインテールの少女が、そこに立っている。
「…遠坂」
「ちょうど良かったわ。衛宮くん、付いて来てちょうだい」
有無を言わさず、遠坂は微笑んだ。
◇
俺が連れて来られたのは、遠坂邸――遠坂の自宅だった。遠坂の部屋に通された俺は、遠坂がお茶を淹れに行っている間、落ち着かなさを感じながら、部屋を見回した。
すると、写真が一つ立てられているコトに気が付いた。写っているのは、恐らく小学生の頃の遠坂凛。
「――これって」
だが、俺はその写真の中で、一ヶ所気になる所が有った。
それは、遠坂が付けているリボン。今付けているリボンと違うコトが分かるが、それにはどことなく既視感が感じられて――
「お待たせ、衛宮くん」
「あ、ああ」
遠坂が茶器を手に戻って来たコトで、俺の思考は打ち切られた。…もうすぐ思い出せたかも知れない。それくらい見慣れたリボンだった。
遠坂は紅茶の入ったティーカップを、ソーサーに乗せて出して来る。緑茶が根付いた衛宮邸では有り得ない、実に優雅な光景だ。
「で、衛宮くん。セイバーはどうしたの?」
つられて優雅に紅茶を嗜んでいた(嗜んでる感を出していた)俺は、遠坂の質問で紅茶を吹き出しかけた。
聞かれるとは思っていたが、いきなりズバッとド直球ストレートで聞かれるとは予想外だ。
「――セイバーは…」
ソーサーにカップを置き、答えようとしたのだが――どうにも、言いよどんでしまった。同盟相手である遠坂には言わなければならないと分かってはいるが、それでもなかなか口に出来ない。
しばらく無言だった俺を見て、遠坂は重々しく口を開いた。
「…ゴメンね、衛宮くん。そう――まさか、あのセイバーが」
察してくれたらしく、遠坂は若干「そんなハズ無い」と言いたげな口調で、そう呟いた。
俺だって、本当は信じたくない。けれど、手の甲から消えた令呪が、それを立証している。
「何が有ったの?」
「柳洞寺に行って…臓硯、アサシン、キャスターと戦闘になった。俺とセイバーはアサシンに分断させられて、セイバーはアサシンと戦った後――『影』に捕まって、そのまま消えた」
「…アーチャーは『サーヴァントの天敵』って言ってたけど――セイバーでも、あの『影』には抗えなかったのね…」
セイバーは、間違いなく最強のサーヴァントだった。そのセイバーすら、影からは逃れられなかった。
でも、残った物は有る。
「遠坂。これを見てくれ」
竹刀袋からセイバーの剣を取り出し、遠坂に見せる。遠坂は驚いた様子だったが、次に床を指差した。「そこに置け」という意味なのだろう。
「よ、いしょっ…!」
両手で持ち上げて、床に投げるように置く。
セイバーの剣は重く、俺は両手じゃないと扱えない。こんな物を片手で軽々と振り回していた辺り、流石はサーヴァントというべきか。
「これ、どうして?」
「ああ――セイバーは『影』に捕まった状態でこれを投げて、臓硯とキャスターに襲われてた俺を助けてくれたんだ」
あの攻撃が無ければ、俺はキャスターに殺されていただろう。最期の最後まで、セイバーは俺を助けてくれたのだ。
「それでセイバーが消えて、この剣は残った」
「ああ。置いて帰るのは嫌だったから、持ち帰って来たんだ」
遠坂はそれを聞いて、顎に手を当てて考え始めた。――この剣に、何か有るのだろうか。
「衛宮くん。この剣、セイバーが持ってたのよね? 貴方がセイバーを召喚する時、触媒として使ったとかじゃなくて」
「触媒、って何だ?」
「…その様子からして、これはセイバーの持ち物か。召喚される時、一緒に持って来たってコトなのね」
遠坂が剣を睨む中、アーチャーがその側で実体化した。思わず身構えた俺を一瞥してからアーチャーはしゃがみ、セイバーの剣に触れる。
「――間違い無いぞ、凛。この剣はセイバーの持ち物だ」
「アーチャー? どうしてそう言えるの?」
「この剣の素材は、高硬度レアアロイと特殊超硬合金。どちらもこの時代に存在しない物だ」
アーチャー曰く、現代に存在するどんな物よりも硬い素材らしい。この時代の技術では造れない物なら、未来の英霊であるセイバーの物と言って良いだろう。
「それが、どうしたんだ?」
「普通なら、召喚されたサーヴァントの持ち物は、そのサーヴァントが消えた時点で一緒に消えるハズなの。セイバーが消えたなら、セイバーの剣も消えないとおかしい」
――それはつまり、逆に言うなら。
「セイバーは、まだ消えていない。
貴方との契約が切れただけで、セイバーの現界は続いてる」
どんな状態かは分からないけれど、と遠坂は付け足した。…黒い影に捕らわれた以上、マトモな状態ではないだろうとも。だが、俺にとっては、そんなコトは些末なコトだ。
セイバーが生きている。
それが分かっただけでも、充分だ。
「せっかくだ。その剣は使えば良い」
「え?」
「セイバーの持ち物なら、サーヴァントにも有効な武器になる。それに、その剣の性能は折り紙付きだ。上手く使えば、鋼鉄すら紙のように斬れるし、よほどのコトが無い限りは折れん」
アーチャーがそう言ってくる。
確かに、使えるならサーヴァント相手に一杯食わせられるかも知れない。
「――さて、それじゃ作戦会議しましょ」
「…遠坂。俺はマスターじゃなくなった。役に立てるか分かんないぞ」
「衛宮くんに、聖杯戦争を降りる気は無いんでしょ?」
「当たり前だ」
街の人に被害が出ている以上、あの影を捨て置くコトなんて出来ない。
「目的は同じなんだし、協力した方が出来るコトは増えるわ。それに――いや、何でもないわ」
「――?」
「とにかく! そっちの方が、私に都合が良いってコトよ。衛宮くんが嫌なら、解消しても構わないけど」
「…ありがとう、遠坂」
―interlude―
私は、電車の座席に座っていた。
横に止まっている電車には、あの人達の姿。電車は出発し、私とあの人達を引き離す。
私は、離れて行く中で追う。
追い付けないのは分かっている。私が乗っている電車と、あの人達が乗っている電車は違うからだ。絶対に追い付けるハズがない。
追いかける内に転んだ私の前には、翅を失った蝶が地を這っていて。
その向こうには、たくさんの蟲がひしめいている。
そして、蟲は私を呑み込んだ。
―interlude out―
目が覚める。悪い夢を見ていたらしい。
何てコトも無い。いつものコトだ。
「…夕飯の仕度、しなきゃ」
窓から差し込む光は赤く、空は茜色に染まっている。そろそろ準備をしないと、ご飯の時間に間に合わない。
ベッドから出て、居間に向かうべく部屋の扉を開ける。
体調は良くなった。夕飯の準備をしても、先輩に怒られるコトは無いだろう。
その時、インターホンが鳴った。
お客さんだろうか。今、この家には私以外誰もいないので、私が出なければならない。
居間を一旦通り過ぎて玄関へ向かい、ドアを開けると―――
◇
「早く言いなさいよ、桜が熱出してるって!」
「遠坂が口を挟ませなかったんだろ!?」
遠坂と共に、急いで家に帰って来た。
桜が熱を出して寝込んでいたコトを知るや否や、遠坂が鬼気迫る表情で「桜の容態を見せなさい」と言ったからだ。
「ただいまー」
玄関のドアを開ける。
――三十秒ほど経っても、誰も出て来ない。
「桜、寝てるのか?」
靴を脱いで家に上がり、居間を見る。誰もいないから、桜は多分寝ているのだろう。
すると――固定電話が鳴り出した。
「はい、衛宮ですけど」
受話器を取り、お決まりの言葉を言う。すると、その向こうから聞こえて来たのは。
『やぁ衛宮』
「…慎二か?」
『そうだよ。早速で悪いんだけど、桜は僕が預かったから』
――何だと?
慎二の奴、今何て言った?
『人質みたいで気が引けるんだけどさぁ…ちょっとこれから、学校の図書館に来なよ。勿論、お前一人だけで。サーヴァントなんて連れて来るなよ』
「――ッ!!!」
受話器を叩き付け、駆け出す。
靴をしっかり履くのももどかしく、遠坂の横を通り過ぎて学校へと走る。
「衛宮くん!? あー、もうッ!!」
…以上、大体劇場版通りでした。
もうちょっとイリヤのシーン増やしとくべきだったかもしれない…?
ラスタルがバエル・ソードを触って素材を鑑定するシーンについて、少しばかり補足をば。
何故そんなエミヤ(士郎)っぽいコトが出来てるかと言うと、宝具「
触れた時に「アリアンロッドの技術班が持つ解析技術だけを召喚した」感じ。さてはチートだな?
次回「桜の真実」