Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》   作:アグニ会幹部

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最近、超電磁砲(レールガン)Tのおかげで、とある熱が再燃しました。
とあるには可愛い子がいっぱいですよね!
黒子と御坂妹と食蜂さんをすこれ。

以上、どうでもいい近況報告。
ちなみに内容はドシリアスである…。


#13 まもるべきもの

 目が覚める。

 飛び起きると、そこは暗い教会だった。

 

「痛ッ…」

 

 腹部に痛みを感じ、反射的に押さえる。服は血に塗れており、めくると包帯が巻かれているコトが分かった。

 続いて周りを見回すと、遠坂が目に入った。

 

「気が付いた?」

「あ、ああ――遠坂、これは」

「ライダーと教会に連れて来たのよ。大怪我をした桜も一緒にね」

 

 遠坂曰く、言峰は治癒魔術に長けているらしい。言峰の師匠であった遠坂の父親も、その腕には太鼓判を押していたとか。

 すると、礼拝堂の奥の扉が開き――そこから、言峰綺礼が現れた。

 

「――ようやく目が覚めたか。今、間桐桜の治療が終わった所だ」

「…桜――桜は無事なのか!?」

「安定してはいないが、一命は取り留めた」

 

 詰め寄った俺に対し、落ち着いて言峰はそう言った。すると、今度は遠坂が言峰を問い詰める。

 

「ちょっと待って――アンタ、魔術刻印はどうしたのよ!?」

 

 魔術刻印。

 魔術師が代々受け継ぐ、知識の結晶。外付けの魔術回路とも呼べる、魔術師にとっては命より大切なモノだ。

 

「――間桐桜の治療に、全て使わざるを得なかった」

 

 言峰は何の感傷も滲ませず、アッサリとそう述べてしまった。使い切り、無くなったと。

 それを聞いて、遠坂は頭を抱えてしまった。

 

「全部って…」

「それで、その治療した結果だが」

 

 続けて言峰は、淡々と桜の治療結果を語って行く。――それは、あまりにも信じがたく、受け入れがたいコトだったが。

 

「『刻印蟲』…? 何だよ、それは」

「生きた魔術回路と思えば良い。刻印蟲は一度喰らいつけば、身体の隅々まで浸透し、ひたすらに精を貪り尽くす。

 肌をその粘液で刺し、濡らし――快楽中枢を高揚、崩壊させるコトで飢えを満たす」

 

 …そんなの、マトモでいられるハズが――

 

「つまり、この蟲に(たか)られた女は、心と身体。その両方を完全に犯され、破壊される。間桐桜もまた―――」

「やめろ!!」

 

 ウソだ。そんなコト有るハズ無い。

 桜がずっと、そんな目に遭わされて来た来たなんて。

 

「手術は成功したんだろ!?」

「措置は一時的なモノに過ぎん。刻印蟲を身体から除去するコトは出来なかった」

「何で――」

「十一年分だぞ? 無理に引き抜けば、身体の方が保たん。

 十一年前に施術していたならば、まだ何とでもなったが――それだけの年数を掛けて定着した刻印蟲は、最早身体の一部だ。それを取り除くと言うコトは、神経を全て引き抜くコトに等しい。どうなるか、分からん訳でもなかろう」

 

 魔術刻印を全て使ってまで治療して、出来たコトは容態を安定させるコトだけだったと。

 言峰は、そう言ったのだ。

 

「間桐桜を救いたいのであれば、それこそ聖杯に頼るしかあるまい」

 

 ――聖杯。

 ここに来て、またそれか。

 

「――そう」

 

 遠坂が呟き、立ち上がった。

 そして、桜が寝ているらしい部屋へ向かって歩み出す。

 

「…遠坂?」

「冬木の管理者として、処分を下すわ」

 

 処分、って…何だ?

 それって、つまり――

 

 

「処分――()()()()()()()()()()?」

 

 

 その時。

 言峰が、とんだ爆弾を落として来た。

 

「――い、妹…?」

 

 誰が、誰の――?

 

「…遠坂には、魔術の素養を持った子供が二人いたの。でも、魔術は一子相伝。私が遠坂の魔術を継いだ。

 もう一人の子供だった桜は、既に血が途絶えていた間桐――マキリの後継者として、養子に引き取られた」

「それじゃ、遠坂と桜は…」

「私と桜は、実の姉妹よ。――一度もそう、呼び合ったコトは無いけどね」

 

 実の姉妹。遠坂が姉で、桜が妹。

 全然分からなかった。二人とも、髪の色も目の色も違っているから、気付けるハズもなかったが。

 

「…待て。それじゃ尚更、桜を殺させる訳には――」

 

 振り向いた遠坂の顔を見て、俺は言葉を詰まらせた。

 

「――遠坂、お前」

「あの子をこのまま放っておいたら、また同じコトが起こる。今度は見知らぬ人に、見境無しに。私は冬木の管理者(セカンドオーナー)。そんな魔術師を捨て置く訳には行かない」

 

 …分かる。分かってしまった。

 遠坂だって、本当は桜を殺したくない。

 呼び合ったコトが無くとも、血の繋がった姉妹――両親が他界している遠坂にとっては、唯一の肉親なのだ。

 けれど、話はそんなレベルのコトじゃない。

 

 今、桜を殺さなければならない。

 一般人に犠牲を出さない為に。桜が、人殺しの化け物になってしまう前に。

 

 遠坂が誰よりも辛い。

 桜の姉としての感情と、冬木の管理者としての義務。二つに板挟みにされ、平然としていられる訳は無い。

 大人びているとは言え、遠坂も俺と同じ年なのだ。そんな少女に課せられた選択としては、あまりにも重すぎる。――それでも、彼女は自らの義務を優先しているのだ。感情に蓋をし、噛み砕いてでも。

 

「だから私は―――あの子を殺すわ」

 

 そんな遠坂を、俺は止められなかった。

 遠坂は礼拝堂の奥へ進み、桜が寝かされている部屋の扉を、ゆっくりと開ける。

 

「…桜?」

 

 遠坂は、そこで動きを止めた。

 何事かと思い、遠坂の背中越しに部屋の中を覗く。

 

 部屋の中に、桜はいなかった。

 ただ、窓が開け放たれているだけ。

 

「ああ、言ったコトは無かったか。ウチはこう見えて安普請でね。この部屋には、礼拝堂の会話が筒抜けになっているのだ。

 大方、お前達が間桐桜を殺すだの何だのと物騒な会話をしていたから、たまらず逃げ出したのだろう」

 

 愕然とする俺達の背中に向けて、言峰はいけしゃあしゃあとそう述べやがった。

 

「な…!?」

「許せ。構造的欠陥、と言う奴だ」

「ッ、ウソ付けこのインチキ神父! それ、絶対ワザとでしょう!?」

 

 遠坂の言う通りだ。間違い無く、言峰はそれが分かっていながら、敢えて桜をこの部屋に寝かせたのだろう。

 盛大に舌打ちして毒を吐いた遠坂は、礼拝堂の入口へと走って行く。扉を乱暴に開け、そのまま走り去って行った。

 

「――桜」

 

 俺は部屋の中へと踏み入り、開け放たれた窓から外を眺める。――すると、窓の真下に何かが落ちているコトを発見した。

 窓から飛び降り、それを拾う。

 

 桜が持っていた、衛宮邸と間桐邸の鍵。

 

 衛宮邸の鍵は、以前俺が渡した物だ。

 俺がまだ一年生だった頃、バイトで怪我をして片腕が使えなくなったコトが有った。そんな時、家の手伝いをしに来てくれたのが、桜だった。――初めて会った時、桜はまだ中学生だったか。

 最初は友人の妹に手伝いをさせる訳には行かないと思って断ったのだが、大人しい年下の少女は、意外にも頑固だった。来なくて良いと言っていたのに、毎日手伝いに来てくれた。

 

 そんな少女に、俺は根負けした。

 そして、家の鍵を渡したのだ。

 

『桜には負けた。だから、これをやる』

 

 差し出した時、桜は顔を横に振った。

 だが、こればかりは根負けしてやらないと思って、少々無理矢理だったが押し付けた。

 

『大事な人から、大切な物を貰ったのは――これで、二度目です』

 

 受け取った鍵を胸に抱いて、桜は満面の笑みを浮かべながら、そう言ってくれた。あの花が開くような笑顔は、俺が初めて見た、桜の笑顔だったように思う。

 

 その鍵がここに落ちている、というコトは。

 桜は、何もかも諦めてしまったのかも知れない。

 

「桜――!」

 

 フザケるな。桜が苦しむ必要なんて無い。

 あの笑顔を見てから、俺は誓った。桜は大切な家族だと。絶対に、守ってみせると。

 

「衛宮士郎」

 

 走り出そうとした俺に、窓の向こうの言峰が声をかけて来る。それを、俺はじれったく感じた。

 

「何だよ、長話はゴメンだぞ…!」

「まあそう言うな。先程、一つ言い忘れたコトが有る。間桐桜に関わるコトだ」

 

 急ぎたがっている俺の気持ちを察したのか、言峰は一言で、核心を口にした。

 

「端的に言えば――間桐桜は、もう永くない。

 保って数日の命だ。刻印蟲が身体を蝕み、魔力を吸い上げ続ける限り、あの女は魔力を求めて他者の命を喰らう。己が機能を保つ為、何十何百という数の命を喰らい、それでも耐えきれずに自滅する。先の無い女だ。どうしようもなく、救いようの無い女だ」

 

 それを聞き、鍵を強く握りしめる。

 そして、言峰綺礼は問いを投げかけて来た。

 

 

「さあ少年、どうするかね?

 それでもお前は、間桐桜の手を取るのか?」

 

 

 その問いに、俺は――即答出来なかった。

 半ば逃げ出すように、教会を後にした。

 

 

   ◇

 

 

「――お前らしくも無い。一体どういう風の吹き回しだ、言峰。何故、ああまでしてあの女を生き長らえさせた?」

 

 走り去る士郎を見届けた言峰の背中に、黄金の王が声をかける。

 いつ現れたのか、部屋の入口では、ギルガメッシュが壁に背を預けていた。

 

「これは私の愉悦だ。間桐桜が生き延びれば、衛宮士郎も遠坂凛も苦しむだろう」

 

 振り向かず、雨が落ちて来る空を見上げながら、言峰は答えた。その答えを、ギルガメッシュは鼻で笑い飛ばす。

 

「ハッ。(オレ)の目には、とてもそれだけには見えなかったがな。いつもの鉄面皮はどうした?」

 

 ギルガメッシュは、言外にこう言っていた。

 ――感傷に浸るなぞ、お前らしくも無い。

 

「そうだな――ああ、そうだとも。お前の言う通り、個人的な感傷だ」

「死に行く女と、その手を掴む偽物。全く以て三流の見世物だが…何か、覚えでも有るのか?

 ―――()()

 

 言峰の脳裏に、一つの光景がチラつく。

 

 十何年も前のコト。

 全く下らない、消え行くだけの女の姿。ボロボロの包帯を巻いた、醜く見窄らしく――どこまでも白く、美しい女。

 四十年と生きていない言峰にとっても、最早遠い昔のコトだ。

 

 されど、その姿は今もなお、言峰の脳裏に深く深く刻まれている。

 

 取るに足らぬコトのハズだ。

 少なくとも、言峰のような異常者――生まれながらの欠陥品にとっては。

 だが、言峰はどうしても、それを忘れられない。忘れるコトが、出来ないのだ。

 

「―――」

 

 王の問いに、言峰は答えなかった。

 しかし、ギルガメッシュは常と異なり、それを「不敬」として咎めるコトをしなかった。

 

 

   ◇

 

 

 新都の丘、教会の側に有る公園。

 そこへ入り、士郎は白い息を吐き出して、一人の少女の姿を求める。

 

 時間は無い。

 遠坂凛が彼女を見つければ、その場で手を下すだろう。時間が経てば経つほどリスクは高まり、躊躇も生まれるから。

 士郎は何としても、凛より先に間桐桜を見つけなければならない。

 

 だが。

 見つけたとして、桜をどうする?

 

 膝に両手を置いて俯く士郎の背に、冬の冷たい雨が際限なく降り積もる。やがて、士郎は公園のベンチに座り込んでしまった。

 

 桜は死ぬ。

 言峰はそう言い、士郎に問うた。

 

 それでもお前は、間桐桜の手を取るのかと。

 

 

「桜を見つけて、俺は――」

 

 士郎はあの場で、答えを出せなかった。

 

 衛宮士郎は、正義の味方を目指している。

 なりたいのではない。絶対にならなければならない。その為には、悪い奴を殺さなければならない。

 人を襲い、傷付け、命を奪うならば――間桐桜は、衛宮士郎が倒すべき「悪」だ。

 

 それでも、士郎は桜を救いたい。

 守りたいと、そう願ってしまった。

 

「シロウ?」

 

 その時。

 俯く士郎の下に、冬の娘が現れた。

 

「イリヤ…?」

 

 バーサーカーのマスター。

 夜である今、彼女はそう在るハズだった。

 

「…夜は、戦うんじゃないのか?」

「シロウは、もうマスターじゃないもの。私はなーんでも知ってるんだから!」

 

 雨の中、イリヤは軽い足取りで、俯いたシロウに近づいて来る。

 

「ライダーのマスターが倒れて、残りは三人。シロウはライダーのマスターを助けたいけど、見つけられないのよね」

「――うるさい!」

 

 伸ばされたイリヤの手を、士郎は拒絶した。イリヤは驚きつつ、もう一度手を伸ばそうとはしなかった。

 

「…ッ」

 

 反射的にやってしまった士郎は、歯噛みしてそっぽを向いた。

 

 

 そんな士郎の頭に、イリヤは手を乗せた。

 

 

「――シロウ、泣きそう」

 

 幼い子を宥めるように、イリヤは士郎の頭を撫でる。それからしばらくして、イリヤは悲しげに口を開いた。

 

「…今朝の話。キリツグのコト、本当は知ってた。私が生まれた目的は、聖杯戦争に勝つコトだけど――(イリヤ)の目的は、キリツグとシロウを殺すコトだったから」

 

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、衛宮切嗣とアイリスフィール・フォン・アインツベルンの間に生まれた娘だ。

 人間と人造人間(ホムンクルス)の混ざり物である彼女は、究極最強のマスターとして生み出された、アインツベルンの最高傑作。生まれてからずっと、この聖杯戦争の為に調整を繰り返されて来た。

 

 彼女は衛宮切嗣を憎んでいる。

 

 アインツベルンを裏切り、聖杯を持ち帰らなかった切嗣を。ただの一度たりとも迎えに来なかった、父親のコトを。

 娘のイリヤより、見知らぬ誰かを優先した偽善者を――「正義の味方」を、恨んでいる。

 

「でも――」

 

 切嗣に養子がいると知り、そいつも「正義の味方」を目指していると知った時、イリヤはそいつも一緒に殺してやろうと誓った。

 だけど、士郎が切嗣と違う選択をするなら。

 

「シロウが大切な人を守りたいって言うなら、私は――シロウの味方だよ」

 

 もし士郎が、見知らぬ誰かでなく、大切な誰かを守ると言うのなら。

 

「好きな人のコトを守るのは、当たり前のコトでしょ?

 ――私、知ってるんだから!」

 

 その「大切な誰か」が、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンでないとしても。

 頼りない背中を押してやるのが、姉であるイリヤの仕事だろう。

 

「――俺は…!」

 

 士郎は立ち上がった。

 ――その眼にはもう、迷いなど無かった。




全く以て原作通りじゃねぇか…フヘッ…。
次回も多分そうなる。サーヴァントはちょっと出せそうですけど。

公園での士郎とイリヤのやり取り好き。
HFを見て「もうロリコンでイリヤ」から「イリヤお姉ちゃん…」にシフトしたお兄ちゃん達は、一体何人いるのだろうか…?




次回「レイン」

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