Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》   作:アグニ会幹部

17 / 32
気合いを入れた回その二。
劇場版で超絶神作画だった部分なので、負けじと頑張った――つもりです。アインツベルン城の敷地を惜しみなく使った大決戦、お楽しみあれ。

ちなみに、作業時のBGMは前回同様、劇場版第二章の奴でした。
「come on, make your move」
「He comes back again and again」
「what else, we can do?」
「despair and hope」
の順番で。特に二番目。


#16 絶対の終焉

 森の中を、縦横無尽に駆け巡るアサシン…三日月・オーガス。

 それに対し、アーチャー…ラスタル・エリオンはダインスレイヴによってあらゆる木を薙ぎ倒しながら、遠距離制圧攻撃を仕掛ける。

 

「チ――ジュリエッタ!」

 

 ラスタルは腹心の部下であるジュリエッタ・ジュリスの操る「レギンレイズ・ジュリア」を召喚し、三日月に差し向ける。

 ダインスレイヴによる射撃を継続しつつ、ラスタル自身も大剣を持って距離を詰める。

 

「ラスタル様の為に! はあっ!」

「お前、邪魔だな…!」

 

 苛立ちを隠しもせず、三日月は突き出されたレギンレイズ・ジュリアの剣をメイスで防ぐ。続いて後ろへ跳んでダインスレイヴをかわした三日月だったが、そこへジュリアが追撃をかける。

 

「今一度、私が討ち取る!」

「やれるモノか…!」

 

 

 その時――影の触手が、ラスタルを襲った。

 

 

「ッ、ぐ…!」

 

 ジャンプしてかわそうとしたラスタルだったが、サーヴァントである以上、黒い「影」には抗えない。

 横腹に、影の触手が掠った。

 

「ラスタル様! …がッ!!」

 

 ジュリアが注意をラスタルに向けた隙を突いて、三日月が放ったテイルブレードが、ジュリアを彼方へと弾き飛ばした。

 霊基を汚されて膝を付くラスタルに、三日月は無情に言い放つ。

 

「俺達の邪魔をする奴は、全員潰す」

「ッ…!」

 

 サーヴァントは、影の呪層界に逆らえない。聖杯の呪いに侵された今のラスタルは、既に森に満ちる怨霊と大差が無くなっている。

 「気配遮断」によって影の影響を受けにくくなっている三日月を、ラスタルは睨み付けた。

 

 

   ◇

 

 

 ランサー…ガエリオ・ボードウィン。

 バーサーカー…マクギリス・ファリド。

 そして、セイバーオルタ…アグニカ・カイエル。

 

 更地となり果てた森の中で、三騎のサーヴァントが一同に会した。

 

「…どういうつもりだ、ガエリオ」

「マスターの命令だ。キャスター、アサシンの陣営と戦えと」

 

 今回の聖杯戦争で、ガエリオとマクギリスが出会うのは、初めてではない。「全てのサーヴァントと戦い、相手を倒さず生還しろ」との令呪をかけられたガエリオは、ラスタルやアグニカが召喚される前に、マクギリスと交戦している。

 ――こうして並び立つのは、生前を含めてもかなり久々となるが。

 

「今はあのセイバーが先決だ。手早く片付け、決着を付けるぞ」

「――勝てると思うのか?」

 

 ドリルランスを構えるガエリオに対し、ようやく立ち上がったマクギリスはそう聞いた。

 

 戦力差は歴然だ。

 例えガエリオとマクギリスが二人がかりで立ち向かったとしても、倒しうる敵ではない。アグニカ・カイエルの力は、それほどまでに絶対的なのである。

 

 それは、ガエリオも理解している。

 だがそれ故に――ガエリオは、笑った。

 

 

「勝てるさ。お前とならな」

 

 

 ガエリオの答えには、何の根拠も無い。

 しかし――マクギリスは、その答えだけで全て納得した。

 

「――そうだな」

 

 ガエリオ・ボードウィンは、こういう男だ。

 物事を楽観視する、ツメの甘いお坊ちゃん。けれど、それこそがガエリオの良さだと、マクギリスは知っている。

 

「行くぞ、ガエリオ」

「ああ、マクギリス」

 

 今再び、二人はその爪先を揃えた。

 敵は堕ちた厄祭戦の英雄。人類滅亡を望む、絶対的な終焉。

 

 ――上等だ。相手に取って不足は無い。

 

 対する漆黒の剣士は、右手にのみ握る紅蓮の剣を持ち上げ、二人に突きつける。それを合図に、ガエリオとマクギリスは動いた。

 ガエリオはドリルランス、マクギリスはバエル・ソードを構え、正面からアグニカに突撃を開始した。

 

「ぬあっ!」

 

 まず突き出されたのは、ガエリオの槍。アグニカは剣で槍を叩き落とし、続くマクギリスの剣も防ぐ。二人をまとめて蹴り飛ばし、剣に魔力を纏わせて追撃をかける。

 

「ッ…!」

 

 ガエリオが二枚の盾を前方へ構え、アグニカの魔力を伴う斬撃を受け止める。盾は二枚ともが木っ端微塵に粉砕し、拡散した魔力が周囲の悉くを焼き尽くす。

 しかし、その瞬間――ガエリオは、己が宝具を起動させた。

 

「アイン!!」

 

 左膝のドリルニーが回転しながらせり出し、アグニカの胸部を下から攻める。すぐには貫通出来なかったが、胸部装甲から火花が散る。

 流石にまずいと思ったか、アグニカは後ろに少し跳んで距離を取り、剣を振り上げてガエリオを両断しようとする――が、そのアグニカの後ろにはマクギリスが回り込んでいた。

 黄金の剣による下からの連撃で、アグニカは空へと打ち上げられた。

 

「ほう――」

 

 宙を舞いながらも、アグニカはガエリオとマクギリスを観察する。すると、ガエリオの左目が赤く輝いているコトに気が付いた。

 

 TYPE-E(オンスロート・アイン)――「阿頼耶識TYPE-E」を発動させ、戦闘能力を引き出すガエリオの宝具だ。

 

 ガエリオが跳び上がり、アグニカに槍を振り下ろして来る。アグニカは剣に魔力を纏わせ、その槍を迎撃。ガエリオが魔力にまかれ、彼方へと吹き飛ばされる。

 

「うああッ!!」

「ふっ!」

 

 間髪入れず、マクギリスが追撃する。

 空中で全身のバーニアを吹かせ、回転したコトでマクギリスの剣を避けたアグニカは、その背中を足で蹴り飛ばし、マクギリスを地面に叩き落とす。

 

「がはッ…!」

 

 アグニカは剣から赤い魔力を迸らせながら、そのマクギリスに向けて落下し、剣を振り下ろす。マクギリスはすんでのところで横に跳んでそれをかわすが、魔力はアインツベルン城の壁を打ち壊し、粉砕させる。

 煙と共に石材が吹き荒れる中、マクギリスは剣を横薙ぎに振って、塔の方へとアグニカを弾き飛ばす。アグニカはスラスターを吹かせ、塔の上部に向かって飛び上がるが、そこにはガエリオが待ち構えていた。

 

「るああああッ!!」

 

 槍を突き出し、ガエリオは飛んできたアグニカを打ち落とす。そのまま自身も飛び降り、アグニカを塔に打ち付けるように槍を突く。押さえつけられたアグニカは背を塔に埋もれさせ、塔が半ばから崩壊していく。

 やがて地面に達した時、ガエリオは右膝のドリルニーでアグニカの頭部を狙い、一気に勝負を決めようとしたが――アグニカの剣が魔力によって伸び、塔もろともガエリオを飲み込んだ。

 

「そこだ…!」

 

 魔力を放出した直後、一瞬の隙を突くようにして、マクギリスは剣をアグニカに突き出す。しかしアグニカは――剣を手放した。

 

「何…!?」

 

 マクギリスに背中を向けて体勢を低くしたアグニカは、突っ込んできたマクギリスが突き出した右腕と胸ぐらを掴み、ブン投げた。まさかの背負い投げに意表を突かれ、マクギリスは背中から地面へと叩き付けられる。

 

「じゃあな」

 

 一旦放した紅蓮の剣を持ち直し、魔力を纏わせてマクギリスに振り下ろす。マクギリスは急いで身体を回転させ、本当にギリギリで直撃を回避。アグニカの魔力を帯びた剣撃は、地面を割るだけに終わる。

 起き上がったマクギリスは、二本の剣を交差させ、「×」の軌道を描くような斬撃を放つ。それをアグニカが剣で受け止めた時、マクギリスはスラスターを全開にし、アグニカを押し出し始める。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 壁へ突っ込んだ。アグニカの背中が壁に打ち付けられるが、マクギリスは勢いを緩めない。やがて壁が粉砕し、その向こうへと進む。

 その時、アグニカの剣が魔力を刀身に宿す。アグニカは回転するコトで地面とマクギリスの間に入り込み、剣を振り切って魔力を解放。マクギリスは魔力に呑まれながら、天高く舞い上がる。

 

「アイン、後一撃だけ頼む…!!」

 

 所々ヘコんだ槍を構え、炎に身を焼かれながら、ガエリオはアグニカに向かって吶喊をかける。アグニカはマクギリスを追撃する為に飛び上がったので、その軌道を読んでガエリオも飛び上がり、槍を突き出す。

 空中でアグニカは槍を難なくかわし、剣で槍を弾く。ガエリオの手から槍が零れ落ち、彼方へとすっ飛んで行く。アグニカの左手がガエリオの顔を掴み、アインツベルン城の屋上に有る中庭へ向けて、ブン投げた。

 

「が、ぐあッ!」

「ぐうっ…!」

 

 中庭に叩き付けられ、ガエリオは床を転がった挙げ句、中庭を囲む壁に衝突した。同じ頃、空高く打ち上げられていたマクギリスが、ガエリオの側へと落下して来た。

 そんな二人から十メートル程度離れた所へ、未だに傷一つ付いていないアグニカが、逆噴射まで吹かせながら美しく着地する。

 

「――終わりか?」

 

 無傷のアグニカに対して、ガエリオとマクギリスはもうボロボロだ。二人はとっくの昔に、限界を超えている。

 ガエリオは「TYPE-E」をもう使えず、上半身の装甲が剥がれ落ちた。残された武装は左足のドリルニーと、左腰に差した太刀。

 マクギリスは全身の装甲を失い、バエル・ソードも片方がへし折れた。使える武装は、バエル・ソードが一本だけだ。

 

「――立てるか、ガエリオ」

「がはッ…! クソ――」

 

 フラつきながら、二人は立ち上がる。どちらも血を吐き、身体のあちこちが燃え、焼け焦げている。

 

 ――これほどまでとは思わなかった。

 まさか、ここまでの差が有るとは。

 

「マクギリス――何か、逆転の一手は…」

「――有るには有る。俺の宝具だ」

 

 発動条件は厳しいが、今ならば撃てる――と、マクギリスは告げた。

 それを聞きながら、ガエリオは腰の太刀を抜いて構え、マクギリスに問い返す。

 

「よし…俺は、どうすれば良い?」

「この宝具は一発限りだ、二発目は無い。どの道、そんな時間はくれないだろうからな。

 剣で防がれてはならない。確実に、霊核を狙って撃ち込まなければ、アグニカ・カイエルを撃破するには至らない」

 

 心臓部に位置する、サーヴァントの霊核。一部の例外を除けば、此処を砕かれたサーヴァントは間違いなく消滅する。

 如何にアグニカ・カイエルと言えども、霊核を破壊されれば消えるしか無い。アグニカに、蘇生したと言った類の逸話は無いのだから。

 

「撃つには時間がかかる。時間を稼ぎ、出来れば隙を作ってくれ」

「…ああ。任せろ」

 

 太刀を構えて、ガエリオはアグニカに最後の戦いを仕掛ける。

 一方、マクギリスは黄金の剣を掲げた。黄金の剣に魔力が集まり、剣が黄金の光を放ち、輝き出す。

 

 ――マクギリス・ファリドの宝具。

 それは、絶対に一人では発動出来ない。

 

「うああああああ!!」

 

 ガエリオの太刀と、アグニカの紅蓮の剣が交錯する。激しい斬り合いが始まり、幾度と無く激突する二人の剣が、火花を散らす。その間にも、マクギリスが持つ黄金の剣は、魔力を集束させていく。

 

 やがて――ガエリオの太刀が、半ばからへし折れた。

 

「まだ…!!」

 

 左足のドリルニーが、アグニカの右腕に接触する。高速回転するドリルは、魔力により頑強さを増している装甲を破り、その奥まで間違い無く突き刺さった。

 

「これは――」

「マクギリスッ!!!」

 

 ガエリオの奮戦の果てにアグニカが見せた隙を、マクギリスは見逃さない。

 掲げていた黄金の剣を、マクギリスは真名解放と共に振り下ろす――!

 

 

「『友情と絆の剣(エクス・ガエリオ)』―――!!!」

 

 

 黄金の光が、アグニカ・カイエルに襲いかかり――その身体を、呑み込んで行く。

 

 其は、友情によって放たれる一撃。

 

 生前に否定し続けた友情を認め、友との共闘を果たした時にのみ発動可能となる、何者をも討ち果たす黄金の輝きである。

 A+ランクの対城宝具であり、本来なら個人に向けて放つような代物ではないが――相手は堕ちた英雄、災厄を齎す化け物だ。

 まさしく、友情と絆を以て討ち倒すに相応しい厄祭と言えよう―――

 

 

 

 

「『絶対の終焉(ベルゼビュート・カラミティ)』」

 

 

 

 

 ――その時。

 黄金の友情は、漆黒の絶望に塗り潰された。

 

 

「そんな――」

 

 ガエリオ・ボードウィンと、

 

「――馬鹿な」

 

 マクギリス・ファリド。

 

 

「「有り得ない」」

 

 

 彼らは、終焉の時を迎えた―――

 

 

 

   ◇

 

 

 漆黒の光が、世界を引き裂いた。

 それはやがて地面へと達し、溶解させ――凄絶な暗黒の爆発を、引き起こす。

 

 莫大な魔力が光の柱となり、天を貫く。

 衝撃波と爆風が吹き荒れ、森を揺るがした。

 

 やがて、それらが収まった時。

 

 

 ランサー…ガエリオ・ボードウィンと、バーサーカー…マクギリス・ファリドは、この世から消滅していた。

 

 

 勝者は一人。

 最後の戦場となったアインツベルン城の中庭には、漆黒の剣士が立っている。

 

「――最後の一撃は、なかなかだった」

 

 セイバーオルタ…アグニカ・カイエルは、既に消え去った二人に対し、そう評した。あらゆる人間を否定する彼にしては、破格の評価と言えるだろう。

 

 アグニカは飛び上がり、最初に現れた場所へと着地する。

 彼は今回、バーサーカーの撃破以外の役目を請け負っていない。何だかんだでランサーも一緒に撃破したが、これ以上の仕事は彼の役目ではない。

 

「士郎――お前は、俺を止めに来ないのか」

 

 やがて、その足下から「影」の触手が現れ――アグニカを、完全に覆い隠した。

 

 

   ◇

 

 

 城の方角で、巨大な爆発が起きた。

 爆心地から離れるように逃げていた士郎と凛、イリヤの下にも、その爆音が届いた。

 

「――バーサーカー」

 

 マスターであるイリヤは、自身のサーヴァントが消滅したコトを感じ取った。そして、そんなイリヤの様子から、士郎と凛も察する。

 

「…あの、黒いセイバーね」

 

 凛の言葉に、士郎も頷く。先程の爆発は、間違い無くセイバーによるモノだろう。

 恐らくは、宝具攻撃。その直撃を受けて、バーサーカーは消えたのだ。…何故か見かけたランサーも、多分一緒に。

 

「行こう。――バーサーカーが、命懸けで時間を稼いでくれたんだ」

 

 イリヤの手を引き、士郎は走り出す。

 犠牲を無駄には出来ない。何としても逃げなければ――

 

「――衛宮くん!」

 

 ――瞬間。

 士郎の真後ろに、アサシン…三日月・オーガスが現れた。

 

「お前、邪魔」

 

 テイルブレードが、士郎に迫る。

 三日月が受けた命令は「アインツベルンの娘を捕らえる」コトだ。それ以外は邪魔者でしかない。

 

「はあっ!」

 

 何者かが、テイルブレードを弾く。

 三日月は舌打ちし、自身に迫る剣――レギンレイズ・ジュリアが突き出す剣を、メイスで防いだ。

 

「チ、しつこいな…」

「よくも、ラスタル様を!」

「知らないよ」

 

 大質量でジュリアを跳ね飛ばし、三日月はなおも士郎を追おうとする。だがそこへ、ダインスレイヴによる攻撃が降り注いだ。

 

「――ッ」

 

 回避行動に出た三日月だったが、胴体に一撃を食らい、吹き飛ばされる。

 

「せいッ!」

「うおああッ!」

 

 大きく後退した三日月の下に、ライダー…カルタ・イシューによって押し返されたキャスター…オルガ・イツカが転がって来た。そんなオルガを受け止めつつ、三日月は周囲を改めて見回す。

 

「――オルガ」

「ああ…こりゃ、キツいな」

 

 アーチャー…ラスタル・エリオンは霊基を汚染されて弱体化しているが、カルタはまだまだ元気である。

 

 加えて――何やら、ヤバい雰囲気だ。

 

 結論として、三日月とオルガは霊体化し、姿をくらませた。ラスタルはジュリアを戻して、カルタは構えていた剣を下ろす。

 

「…お疲れ様、アーチャー」

「いや、これからだ凛」

 

 横腹を押さえながら、ラスタルがそう言った直後――森の奥で、無数の「影」の触手が暴れ始めた。

 

「アレは――!」

()()()()()()()()()()()()

 

 影は、士郎達の下へと迫って来ている。

 二騎ものサーヴァントを取り込み、随分とご機嫌なようだ。

 

「行くわよ、急いでここから―――」

 

 そう言って、凛が走り出そうとした時。

 

「ッ…凛ッ!」

「遠さ――」

 

 

 凛の真横に、影が現れた。

 

 

「…!?」

 

 影が触手を伸ばし、凛は吹き飛ばされる。

 地面に突き飛ばされた後、起き上がった凛は――

 

 

 ――影に貫かれた、カルタを見た。

 

 

「ぐっ…!!」

「な、何で――ライダーッ!?」

 

 カルタは投げ出され、地面を転がる。影の触手に貫かれた箇所から、全身に呪いが広がって行く。

 

「…ライダー、どうして私を――」

 

 倒れたカルタに対して、凛が問いかける。

 カルタに課せられた命令は「士郎が危なくなったら連れ帰る」コトであり、凛を助ける理由は無い。にも関わらず、カルタは凛を庇い、現界を続けられなくなる程の深手を負った。

 その行動に至った理由が、凛には分からなかった。

 

「――貴女は、桜の姉だ。貴女が死ねば、桜が哀しむ。私は、桜の笑顔を守ると決めている」

「…私は、桜を殺そうとしたのよ?」

「だとしても――貴女は桜の、唯一血が繋がった家族だ」

 

 凛とカルタが話している間にも、影はゆっくりと凛の方へと近付いて行く。

 

「貴様――がっ!?」

 

 ラスタルが叫んだ直後、影が伸ばした触手に胴体を穿たれた。先程受けた霊基汚染も有り、その場でラスタルは倒れ込んでしまった。

 

「アーチャー!!」

「――逃げろ。コイツが、私を消化している内にな…!」

 

 影はラスタルの身体を引き寄せ、呑み込む。ラスタルの身体はたちまち分解され、影に取り込まれて行く。

 

 ――アーチャーのサーヴァント。

 ラスタル・エリオンもまた、影によってその役割を終えた。

 

 

「アーチャーッ!!!」

 

 

 凛が絶叫する。

 ラスタルを消し、なおも佇む影は――()()()()

 

「ライダー…!」

「私のコトは良い――行きなさい!」

 

 影が膨らみ、魔力が集束して行く。

 遠からず放出され、周囲を一掃するだろう。

 

「魔力が集まってる、このままじゃ――!」

「ッ―――」

「走れ、遠坂!!」

 

 士郎の叫び声を聞いて、凛は影に背を向け、走り始めた。

 カルタは最後の抵抗と言わんばかりに、フラつきながら立ち上がって、影が伸ばして来た触手を剣で弾くが――間髪入れずに飛来した触手に、身体を貫かれる。

 

「がぁあッ…!」

 

 霊核を砕かれ、カルタは吐血する。影に触れられた時点で消滅は確定していたが、ここまでやられては最早一刻の猶予も無い。

 

 だが―――まだ、消える訳には行かない。

 

 眼前で膨張を続ける影が魔力を放出すれば、士郎達はそれに呑み込まれる。それはダメだ。それでは、桜との約束を果たせない。

 身体を二本もの影に貫かれた状態で、カルタは両足で地面を踏みしめ、剣を地面へ突き立てる。

 

「――我、ら…」

 

 言葉を一つ話す度に、血が喉から口に逆流して、息が詰まる。身体は薄くなり、今にもカルタは消滅しようとしている。

 それでも、カルタは言葉を発する。

 

「地球、外縁…軌道――」

 

 影に集まっていた魔力は最高潮に達し、溢れ出すのも時間の問題となっている。それはまるで、空気を限界まで注入された風船のようだ。

 だが、それと同時に、カルタの魔力も最高に達しようとしていた。

 

「――統制、統合艦隊ッ!」

 

 

 影が、破裂した。

 

 限界まで膨らんだ風船に針を刺したかのように、影は魔力を放った。木々をなぎ倒し、影の魔力がカルタと、その背後で逃亡する士郎達に迫る。

 

 

 その時――親衛隊が、カルタの隣に並んだ。

 

 

『面壁九年、堅牢堅固!!!』

 

 今度こそ完璧に、八人の声が揃う。

 最高の防御結界が、カルタと親衛隊の前方へと展開される。

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊。

 カルタが生前率いた、最後に地球を守るギャラルホルン屈指の艦隊が、影が放出した魔力を迎え撃つ。

 

「――おのれ…!」

 

 結界が、影の魔力に侵される。

 どんなに防御力を誇ろうと、所詮サーヴァントの力では、影に対抗出来ない。結界が黒く染まり、どんどん押されて行く。

 

「がああッ!!」

 

 やがて、カルタと親衛隊は完全に押し返された挙げ句、魔力の奔流に呑み込まれる。

 手足を吹き飛ばされ、影に引き寄せられる間――カルタは、無傷で逃げていく士郎達の姿を見た。

 

(――これで良い)

 

 笑みを浮かべながら、カルタ・イシュー…ライダーのサーヴァントは、影の中に取り込まれた――




第二章最大の見せ場、終了。
サーヴァント七騎(ギル除く)の内、四騎が一気に消滅する異常事態。原作と違って全然取り込めてなかった影さんの殺意が高すぎる…。

ガエリオ&マクギリスVS黒化アグニカは劇場版さながらに移動しまくってて、文だと伝わりきらないと思ったので、図解を付けておきます。

【挿絵表示】


また、宝具開帳につき、黒化アグニカのステータスを追加しました。




次回「クラック」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。