Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》   作:アグニ会幹部

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#18 悪夢

 飼育箱の夢を見ている。

 悪い夢だ。最近ずっと、毎晩のように見ている、わるいゆめ。

 

 ひたひたと散歩する。

 

 でも、怖いワケじゃない。

 何回も見たから、もう慣れた。

 

 ゆらゆらの頭は空っぽで、きちきちした目的なんてうわのそら。

 

 多くのモノを引きずって、彼女は歩く。

 彼女の通った跡は、真っ赤に染まっている。

 

 ぶるぶると震えてゴーゴー。

 

 彼女の食事は、他と少し違っている。

 けれど、彼女は何も変わらない。やり方が違うだけだ。それだけしか違わない。

 

 くすくすと笑ってゴーゴー。

 

 楽しそうに、彼女は歩く。

 わたしも楽しくなってくる。

 

 からからの手足は紙風船みたいに、ころころ地面を転がっていく。

 

 あの子についていく。

 くるくる回って、輪になって。

 

 ふわふわ飛ぶのは、きちんと大人になってから。

 

 川を渡ろう。街へと行こう。

 あそこにはいっぱい、楽しいものがある。

 

 ごうごう。

 ごうごう。

 ごうごう。

 

「オ―――よ。あの――、かわ――くね?」

「――ジ? ホ――だ、―――裸足だ――」

「何――てる――? おっ、――いじゃん」

 

 きいきい誰かが寄ってくる。

 ぞろぞろ人が寄ってくる。

 

「どこ行―――。遊――ぜ?」

「待――よ。―――と休憩して――ね――?」

 

 からからからと、笑い声。

 蠱惑した覚えはありません。

 

「              」

「              」

「              」

 

 きんきんうるさく響くので、

 

 飼育箱の夢を見る。

 そうして、虫をつぶした。

 

 くうくうお腹がなりました。

 

 最初は散らかしてしまっていた。

 けど、これも慣れた。ゆっくりと、時間をかけて噛み砕く。呑み込んで、唇を舐める。

 

 タリナイ。タリナイ。タリナイ。

 

 でも、彼女はまだ満足してない。

 わたしもまだ、この夢から覚めたくない。

 

 この夢はたのしい。

 足りなくて、楽しいから。

 もうちょっと、ゆめを見ていても―――

 

 

「精が出るな。今夜に限って、いつもの倍か」

 

 

 ―――怖いものに、出会った。

 

 怖い。殺される。逃げなくちゃ。

 知っている。あのひとは、わたしに死ねと言ってきた、黄金のサーヴァントだ。

 

「だからあの時、死んでおけと言ったのだ」

 

 きらきら、綺麗で――腕が無くなった。

 

「――え?」

 

 音がする。後ろからだ。何かが刺さる音。

 ピカッとひかって、あの子の腕を切断した。いっぱい血が出て、とっても痛い。

 何でだろう。

 

 何で、わたしの腕も無くなってるんだろう?

 

 

「猶予は終わりだ。――せめてもの慈悲と知れ」

 

 たくさん光る。全身がいたくなる。

 痛い。痛い。いたい。いたい。イタイ――

 

 夢が覚めない。

 

 あの子と一緒に倒れる。感覚が無くなって、息が詰まって、動けない。ずっと鉄の味だ。

 

「あ、れ―――?」

 

 おかしいな。

 先輩、わたしおかしいです。

 

 こんなに痛くて苦しいのに。

 

 

 わたし、夢から出られないんです―――

 

 

 

   ◇

 

 

 とある路地裏で、少女が倒れる。

 彼女の左腕は千切れ飛び、その全身は宝具によって貫かれていた。

 

「あ、れ―――?」

 

 終わりだ。今しがた、採決は下された。

 背後に展開した「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」の門を閉じながら、ギルガメッシュは血溜まりの少女を瞥する。

 

「いや、だ…死にたく、ない」

 

 少女が身じろぎする。動くハズのない身体を動かそうとしているが、動けるハズもない。

 

「――何?」

 

 死にたくない。

 死にたくない。

 死にたくない。

 

「まだ息が有るのか――生き汚いな、娘」

 

 ただその一心で、彼女は動こうとする。

 そんな彼女に、裁定者たる王は、ゆっくりと歩み寄って行く。

 

「今、死んだら…先輩は、姉さんに――」

 

 嫌だ。彼女は、それだけが嫌だった。

 自分より相応しい人がいると思って、諦めかけていた想いは、彼によって繋がれた。

 

 彼女に元々、生への執着など無かった。

 けれど、今は違う。彼女は死にたくない。

 

 

 彼はもう、わたしのものになったのだから。

 

 

 誰にも渡さない。渡したくない。

 渡させるわけにはいかない。

 彼はわたしのものだ。わたしだけの――

 

「中身だけでなく、身体まで変わりかけていたとはな」

 

 断頭。

 少女の背丈を遥かに超える長剣(ハルペー)が、少女の頭と身体を分離(わか)った。

 

「ここまでだ。(オレ)の手を煩わせるな」

 

 痙攣も収まり、彼女は動かなくなった。

 当然だ。首を跳ねられて、即死しない者などいない。それを行ったのが不死殺しの宝具であれば、尚更である。

 

 ギルガメッシュは少女が事切れたコトを確認し、去ろうとした――が。

 

「――ん?」

 

 身体のバランスが、唐突に崩れた。

 

 真っ直ぐ立っていられず、ギルガメッシュは前方へと倒れる。

 

「―――!」

 

 しかし、地に手を付けるコトは無かった。

 

 英雄王たる彼の矜持は、彼を地に蹲らせるコトを赦さなかった。地に手が付く直前に、ギルガメッシュはバランスを取り戻す。

 倒れた身体をゆっくりと戻し――ギルガメッシュは、自らの足下に目を向けた。

 

 

 王の左足が、膝下から無くなっていた。

 

 

 傷口から血が滴り、地を赤く染める。

 続いて後ろに視線を向けると、そこには千切れた左足が有り――地面に落ちた黒い影に、呑み込まれていた。

 

「――(オレ)を跪かせようとは…!」

 

 少女に視線を戻し、ギルガメッシュは叫ぶ。

 足を奪われた雪辱など些細なコトだ。

 

 雑種如きが、(オレ)の手を地に付けさせようとした。

 

 自ら進んで平伏し、天に仰ぎ見るべき「英雄王」ギルガメッシュを、跪かせようとした。

 何よりも断罪すべき不敬だ。

 

「―――あ、あ…」

 

 英雄王の怒りを知るコト無く。

 その足を奪ったソレが、黒い影に覆われる。

 

 そして――断たれた少女の左腕が飛び出し、地を叩いた。

 

 ノイズが走り、引っ張られるように少女が立ち上がる。血に染まった少女は、虚ろな瞳でギルガメッシュを見る。

 対するギルガメッシュは驚嘆すると共に、本当に少し、ほんの僅かに――恐怖を抱いた。

 

「――、おのれッ!!」

 

 激昂し、ギルガメッシュは門を展開する。

 王の背後が黄金に波打ち、二十にも達するほどの輝きが生まれ――その全てから、一斉に宝具が撃ち放たれる。

 放たれたのは揃いも揃って、蔵の中でも最上級の武具。たった一人、しかも生身の少女に対するには明らかに行き過ぎの火力。サーヴァント相手でも、彼がこれほどの数の門を開くコトは珍しい。

 

 だが――撃たれた宝具の全ては、少女の前に伸びた黒い影に呑み込まれた。

 

 黄金の宝具は黒い魔力に冒され、少女の背後で荒れ狂い、壁や地面を飛び跳ねて、火花が散らされる。

 漆黒に汚された宝剣が街灯の柱に直撃し、街灯が地面に叩き付けられた。ライトのガラスが割れ、血に濡れた少女を足下から照らし出す。

 

「ッ――ほう…」

 

 少女の背後の壁に、その「影」が映される。

 それを見上げながら、バビロニアの英雄王は――感嘆の声を漏らした。

 

 

「貴様…よもや、そこまで―――」

 

 

 全能であるが故に、王は全てを悟ったのだ。

 彼女の成長は、ギルガメッシュの予測を遥かに上回っていた。如何に「英雄王」ギルガメッシュと言えども、所詮は聖杯によって喚ばれた使い魔(サーヴァント)に過ぎない。

 

 聖杯に喚ばれたモノである以上、聖杯に敵う道理は無い。

 

 サーヴァントでしかない自分では、サーヴァントを喚び出した聖杯――正確には、それと繋がり誕生を控えたもう一つの聖杯――を、どうにか出来るハズなど無かったのだ。最早、ギルガメッシュに収拾出来るモノではない。

 この少女(せいはい)に刃を届かせうる者は、サーヴァントではない――今を生きる人間のみである。

 

 ギルガメッシュに向けて、影が伸びる。

 そして、それがギルガメッシュの身体を貫く―――直前。

 

 

 ギルガメッシュの身体が、突き飛ばされた。

 

 

「何だと――!?」

 

 玉体は、少女から離れて行く。ギルガメッシュが影から逃れたコトを認識すると共に、王のサファイアが如く赤い瞳は、一つの光景を視界に入れていた。

 

 

 キャスターが、影に貫かれる光景を。

 

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

 夜の帳に包まれた街を見下ろしながら、キャスター――オルガ・イツカは思案していた。その隣にはアサシン――三日月・オーガスと、マスターの間桐臓硯がいる。

 

(…このままで良いのか?)

 

 オルガと三日月は今、間桐臓硯のサーヴァントとして戦っている。

 間桐臓硯は、悪辣な怪物だ。五百年を生きる妄執の化身にして、ノブリス・ゴルドン以上の外道と言える。オルガは臓硯にしてやられ、自分を救ってくれた恩人である葛木宗一郎を人質に取られた。彼を解放してもらう為に、オルガは臓硯に従っているのだ。

 

 現状、良いように使われているだけ。

 それは、あの頃から全く変わっていないのではないか?

 

 マルバ・アーケイら、CGSの大人達に従っていた、あの頃と。

 

 CGS時代、クズな大人の支配から脱却し、オルガ・イツカ――鉄華団は、自由の為に戦って来た。いつか辿り着く「本当の居場所」を目指して進み続けて、死ぬ時すらも進み続けた。

 ただ進み続けるだけで。止まらない限り道は続くと思って、死んだ後も様々な世界を渡り歩き、進み続けてきた。鉄のような絆を信じ、その生き方こそが決して散らない華だと信じて。

 

 だが――今はどうだ?

 振り出しに戻った。良いように使われ、利用されている。

 

 マルバ・アーケイに。

 マクマード・バリストンに。

 ノブリス・ゴルドンに。

 蒔苗東護ノ介に。

 ガラン・モッサに。

 マクギリス・ファリドに。

 ラスタル・エリオンに。

 

 鉄華団は振り回され、最後には瓦解した。

 無論、振り回されて良かったと思ったコトも有る。クーデリア・藍那・バーンスタインには振り回されて良かったが――大半は、良くない方向にしか働かなかった。

 

(――分かってる。このままじゃダメだ)

 

 臓硯をのさばらせてはならない。あんな怪物が「万能の願望機」とかいうモノを手に入れた所で、ロクなコトは起きないだろう。

 

 反撃の一手を打たねばならない。

 筋を通すべき相手は葛木宗一郎であって、間桐臓硯ではないのだ。勝利後、臓硯が大人しく葛木宗一郎を解放するのかも分からない。

 

 その時――オルガの目に、一人の男が映った。

 

 黄金の髪に、紅蓮の瞳。

 その威圧感、重圧は黒化したセイバー――アグニカ・カイエルすら上回っている。

 

「…アイツは、誰だ?」

 

 オルガが思わず呟いた言葉に、知識を持つ臓硯は返答した。

 

「前回の聖杯戦争で召喚され、受肉して現世に留まっておったサーヴァントじゃな。真名は――ギルガメッシュと言ったか。マスターは教会の神父だ」

 

 真名を聞いた所で、ギルガメッシュと言う英雄はオルガの知る所ではない。

 だが、その男がただ者でないコトは分かる。オルガの側で、三日月も目を見開いていた。

 

「人類最古の英雄王――この世全ての財を手中に納め、あらゆる宝具の原典を有する者。傲岸不遜にして、慢心の塊のような男じゃが、実力は本物よ」

 

 その言葉通り、ギルガメッシュは圧倒的な力を見せた。一見して「勝てない」と感じさせられ、オルガと三日月は思わず身震いする。

 

(コイツなら――)

 

 勝てる。ギルガメッシュの前では、臓硯など羽虫でしかない。蚊を潰すかの如く、ギルガメッシュは臓硯を潰せるだろう。

 

 しかし――ギルガメッシュは、影に片足を呑まれた。

 

「やはりか。奴とてサーヴァント、アレには敵うまいて」

 

 臓硯がそう言う中、オルガは心中で焦りを感じていた。まずい、と。

 

(――このジジイをどうしようも出来なくなっちまう…!)

 

 せっかく見つけた可能性だった。

 今残されたサーヴァントは、オルガと三日月にアグニカ・カイエル、そしてあのギルガメッシュ。間桐の陣営と対立するサーヴァントは、ギルガメッシュだけだ。

 

 助けなければならない。

 ギルガメッシュがこのまま「影」に食われたなら、本当に間桐臓硯が勝者となってしまう。

 

 臓硯を殺した場合、宗一郎の命が危うくなるだろう。しかし、ギルガメッシュのマスターが教会の神父だと言うなら、治療の見込みが有るかも知れない。

 ただの楽観的推測だ。これで本当に筋を通せるかは分からない。

 

 だが――このまま従っていても、いずれ自分達は聖杯にくべられる。宗一郎の安否は、それこそ不老不死になった臓硯に託されてしまう。

 

「ッ――!」

 

 オルガは走り出した。

 この役目は、三日月には託せない。いくら「気配遮断」のスキルが有っても、影に近寄り過ぎれば呑まれる。

 

(それはダメだ。俺よりも、ミカが残った方が良い)

 

 それに、オルガには蘇生宝具が有る。

 もしかしたら、影にやられても生き残れるかも知れない。

 

「オルガ!?」

 

 三日月が走り出すと、臓硯は手をかざす。

 

「止まれ」

 

 一言で、臓硯が絶対命令を下す。三日月はそれで動けなくなったが、オルガは違った。

 

「止まるんじゃねぇぞ…!」

 

 そう言いながら、オルガは自らのこめかみに銃を突き付け、引き金を躊躇い無く引く。

 

「ほう――?」

 

 一瞬死ぬコトで、命令はその対象を失った。オルガのみ、令呪の軛から逃れたのである。

 

「オルガ!!」

 

 三日月の声を後目に、オルガは路地裏に飛び降りて行った。

 

 

   ―interlude out―

 

 

 

 

「があッ…!」

 

 少女とギルガメッシュの間に割って入り、ギルガメッシュを突き飛ばしたのは、キャスターのサーヴァント――オルガ・イツカだった。

 影に貫かれ、オルガは派手に吐血。横の壁に叩き付けられて、崩れ落ちた。

 

「貴様、(オレ)を下がらせるなど――!」

「ぐ、ッ…行け!」

 

 オルガはモビルワーカーを一機召喚し、ギルガメッシュを路地裏から押し出す。片足を失って機動力が鈍ったギルガメッシュは、向かって来るMWから逃れられず、されるがままだ。

 それからオルガは、影によって貫かれた傷を押さえて、再び血を吐いた。

 

「クソ、何でだ…()()()()()()()――!」

 

 影に貫かれたのは、左胸と腹。間違い無く致命傷であり、本来ならば宝具が発動し、希望の華が咲いて治癒され、蘇生するハズなのだ。

 

 なのに、宝具が働かない。

 いや、働いていても効果を発揮していないのか。やはり、あの「影」にはサーヴァントの何もかもが通用しない。

 

「…足りない」

 

 眼前の少女が、虚ろに呟いた。

 オルガはそれを聞いて怖気立ち、現在召喚可能な鉄華団の戦力、全てを召喚する。

 

「やっちまえ…!」

『うおおああああッ!!』

 

 何十機ものMW、モビルスーツが少女へと銃撃する。ガンダム・グシオンリベイクフルシティを始めとしたMS隊は近接武装を構え、少女に向かって一斉に振り下ろす。団員達の声は、最早悲鳴に近いモノだ。

 

 しかし――少女には、弾の一発すら届いていない。

 

 

「あーむっ」

 

 

 少女は口をガバッと開け、閉じる。

 もぐもぐと噛み、いつもより多くの魂を咀嚼し、消化していく。そう大して、時間は掛からなかった。

 

 

 それで、全てが終わった。

 

 

 キャスターのサーヴァントは、この世から消え去った。彼が死に際に召喚した鉄華団も、その全てが影に取り込まれた。

 

 タリナイ。

 

「――こんなんじゃ、足りない」

 

 英雄王の足とサーヴァント一騎を取り込み、なおも満ち足りない。空腹は、飢餓は満たされない。まだ、いっぱい食べなくちゃ。

 

 もっと、もっと欲しい。

 

 暗闇に立つ少女――間桐桜の足下から、影が広がって行く。街が黒く染まり、あらゆる命を吸収して行く。

 人も動物も魚も。

 何もかもが吸われ、黒い影が世界を覆う―――

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

 夜の街に、サイレンが鳴り響く。

 暗黒に染まった暴食を眺めて、間桐臓硯は杖で一度、地面を突いた。

 

「ふむ――加減を知らぬのも困りモノだな。良かれと思って放逐してきたが、これはそろそろ刈り取らねばならぬかのう」

 

 阿々(カカ)、と老人は嗤う。

 そして、その横には――絶対的な命令により四肢を縛られ、動こうにも動けなくなっている一騎のサーヴァント。

 

「オル、ガ…!」

「しかし、これは一体どういうコトだ? 独断にしては些か、度が過ぎておるようだが?」

 

 令呪により縛られているのはアサシン――三日月・オーガスだ。五百年を生きる怪物は、淡々と己がサーヴァントを糾弾する。

 三日月とオルガは、生前からの親友だ。その絆は兄弟のように堅い。キャスターの独断専行を、アサシンが知らぬハズは無い――と言うのが、臓硯の見解だった。

 

「――分から、ない…!」

 

 だが三日月は、先ほどから「分からない」としか言わない。この問いも一度目ではないが、三日月の答えは全く変わらない。

 

「儂に逆らうと言うコトは、あの男の命を投げ出すと言うコトに等しい。それは貴様も分かっておるであろう。

 己が筋を通したいのであれば、真実を述べるが良い。令呪で無理矢理喋らせても構わぬのだぞ?」

「――分からない…」

 

 脅しをかけても、三日月の答えは変わらなかった。それを受けて、臓硯は自らの推測を改めた。

 

 知っているのに述べない、のではなく。

 アサシンは、キャスターが行動するコトを本当に知らなかったのではないか、と。

 

 事実として、この推測は当たっていた。

 オルガは三日月に、己が考えを述べてはいなかった。

 

 何故か。

 述べたとしたら、三日月は間違い無く自分がやろうとするからだ。

 

 三日月の優先事項において、オルガの命は自身の命よりも重い。三日月はオルガの命令であれば、何の躊躇いも無く己が命を投げ出す。

 それはダメだ。

 

(オルガ…どうして)

 

 オルガはあの「影」の恐ろしさを重々承知していたし、蘇生宝具が通用するとの確信は持っていなかった。それでも、自分の方がまだ命を無駄にしない可能性は有ると考えたのだ。

 だから、オルガは三日月に伝えないまま、作戦を実行した。そしてそれは成功し、ギルガメッシュは現状「影」から逃れた。

 

「まあ良い。戦力は減ったが、今更あの小僧どもにどうにか出来るコトではない。――あの魔力タンクも要らぬモノとなったな」

 

 臓硯は俯く三日月から視線を外し、暗闇に呑まれた街を一望しながら。

 

「――そうさな。桜の幕引きはあやつにこそ相応しかろう。予想外の成長ではあったが、アレをあそこまで保たせてくれたのだ。

 なれば、息の音を止める喜びくらいは譲ってやらねばなるまいて」

 

 悪辣に、そう一人ごちた。

 嗜虐と愉悦を込めて放たれたそれは、少年と少女を大いに弄ばんとするモノだ。

 

「人の世に疎まれ、憎まれ、呪われ続けた哀れな肉にとっての安息。唯一の味方に否定された時、健気にも世界を恨まずにいた肉がどうするか―――全く、見物と言うべきよな」

 

 

   ―interlude out―

 

 

 

 

 襖が乱暴に開けられた音で、俺は目を覚ました。飛び起きると、襖を開けた人間――遠坂が目に入った。

 

「士郎、すぐ居間に来て!」

 

 そう言って、遠坂は居間へと走って行った。

 桜が隣にいないコトに気が付き、俺は服を速やかに着て居間へと向かう。

 居間には遠坂とイリヤがいて、テレビでは衝撃的なニュースが流れていた。

 

 新都で、百人近い人が行方不明となった。

 

 現場は血が残っている箇所も有り、全く不明瞭な事件。警察にも「知人がいなくなった」などと言った声が多数寄せられており、不明者数はこれから増える可能性が高いと。

 

「遠坂、これは――」

「ええ――間違い無いわね」

 

 教会の事後処理、隠蔽が追いついていない。

 そして、あまりにも被害が出過ぎている。――「影」の暴食だろう、と遠坂は言った。

 

 その時、玄関でガタン、と言う音がした。

 居間を出て玄関に向かい、ドアを開けると、そこには―――

 

 

 ――桜が、血まみれで倒れていた。

 

 

「ッ、桜!?」

「――待ってて、治療の道具を持って来る!」

 

 遠坂が家の中へと走って行き、俺は血に染まった桜に近寄り、その身体を抱きかかえる。

 

「…!?」

 

 その時、得体の知れない悪寒を感じた。

 

 全身が総毛立ち、冷や汗が頬を伝う。しかし目は、桜の向こう側――桜の影へと向かっていた。

 

 気付くな。やめろ。

 

 本能が叫ぶ。しかし、俺は目を背けるコトが出来ない。そして、確かに見てしまった。

 

 

 似ているだなんて、考えるな―――

 

 

 桜の影はノイズがかかって、歪んでいた。




【朗報】ギルガメッシュ、生き残る

正直言うと、最後の最後までギルを残すか残さないかで迷いました。
ただ、色々鑑みた結果、ギルがいないと今後の展開がガン詰みするのでこういう感じに。
オルガが命懸けで作ったのは、突破口です。




次回「ミザリー」
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