Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》   作:アグニ会幹部

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第三章の公開日が近づいて来て、ドキドキが高まって来た今日この頃。
なか卯は特典が第二弾になってから行きます。
書き下ろしのドレス姿の桜の奴が欲しいので…。


#19 ミザリー

 夜が明けた。

 痛いほど白い光が台所の窓から差し込み、居間を淡く照らしている。

 

「――桜は?」

「生きてるわ」

 

 空気は重かった。居間に集った面々は、重々しく言葉を交わす。

 

「でも、酷い状態よ。あの子、外見だけ綺麗に繋げてあるだけで、中身がズタズタなの」

 

 血だらけになって帰って来た桜を、夜通し治療していた凛は、少しやつれた顔で言った。

 

「誰にやられたかは知らないけど――確実に一度死んでるわ」

 

 一回殺されて、それでも生きている。

 およそ人間の成せるコトではない。それほどまでに、間桐桜の様子は最悪だった。

 

「…ッ」

「―――」

 

 士郎は歯噛みし、イリヤは表情を変えずに凛と士郎に視線を向けている。

 とりあえず桜の容体を二人に伝えた凛は、廊下へ向かって歩き出す。

 

「一刻も早く、臓硯を倒すわ。その為に、やれるコトをやりましょう」

 

 廊下に出る直前で、凛は足を止め――

 

「衛宮くん。あの『影』と臓硯が、全くの別物なのだとしたら――貴方は、どうするの?」

 

 それだけを、言い残した。

 

「クソ―――」

 

 どう、するのだろうか。

 とにかく現状として、あの影について最も詳しいのは臓硯だし、関わりが有るのも臓硯だけだろう。

 しばらく頭を抱えていたが、やがて士郎は力無く立ち上がり、凛を追って居間を後にした。

 

 

   ◇

 

 

 目を開くと、そこは見慣れた天井だった。衛宮邸の、いつも使っている客間。先輩が用意してくれた、間桐桜の居場所。

 けれど、今日はそれ以外に、違うモノが映った。

 

「おはよう。まだ自分は残っている? 桜」

 

 銀髪赤眼の冬の少女――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、ベッドに横たわる自分の顔を見下ろしていた。

 

「――セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、バーサーカー…昨日はキャスターを取り込んだようね。順調そうで何よりだわ」

 

 感情の乗らない声で、イリヤは言う。

 間桐桜(まがいもの)とは違う、本当にかく在るべくして造られた小聖杯(イリヤ)は、泥にまみれた女に問う。

 

「桜。これから自分がどうなるか、分かる?」

「――知りません。どうなるんですか、私」

 

 そして、アインツベルンの聖杯は――本来なら己が辿るハズだった運命を、マキリの聖杯に告げた。

 

 

「死ぬわ。絶対に助からない」

 

 

 一言。あまりにも呆気ない、当然のコトだ。

 サーヴァントの魂を貯蔵する小聖杯は、消滅し聖杯にくべられたサーヴァントが増えれば増えるほど、人間としての機能を失って行く。最後には大聖杯を降誕させ、小聖杯自身は死ぬ。

 

 既に六騎。

 まだ消化されず、霊基が残っているセイバーを除いても五騎。

 

 万能の願望機としての機能を得て、聖杯を降誕させるには充分な数だ。

 

「―――」

 

 桜が目を見開き、イリヤは無言のまま、冷徹な瞳で桜を見下ろしているだけ。沈黙が二人の間に降りる。

 

 その時――玄関が、バーンと音を立てて開かれた。

 

「たっだいまー! ちょっとだけ帰って来れた――って、士郎ー? いないのー?」

 

 藤村大河。

 この衛宮邸、もう一人の住人だ。

 

「あれー? かくれんぼしてるのかな?」

 

 無人の居間には興味を失って、誰かの姿を求めて大河はせわしなく衛宮邸の中を駆け回る。

 そして――桜が寝る客間に辿り着いた。

 

「全くもう、士郎はどこ行っちゃったんだろうなー。桜ちゃんがタイヘンな時に!」

 

 体調が優れない、と桜が説明すると、大河は桜の付き添いを開始した。

 先ほどまで部屋にいたイリヤは、自分が見つかると話がややこしいだろうと思い、部屋の外から聞き耳を立てている。

 

「――先生、ごめんなさい」

「ん? いいのいいの、桜ちゃんが謝るコトじゃないわよ。謝るべきは士郎ね!」

 

 全くけしからん、と大河は拳を握ってジャブをする。陽気な大河に対し、桜は弱々しく(かぶり)を振った。

 

「…先輩は、私を守るって言ってくれたんです。ここが桜の家だ、って」

「――おお…」

 

 頬を染めて驚く大河。

 一方、桜は俯いてしまう。それがダメなんです、と言うかのように。

 

「でも、ごめんなさい――私のせいで、先輩の夢を壊しちゃう…!」

 

 悲痛な声で言って、桜は膝を抱える。

 そんな桜に、大河は。

 

 

「―――どうして?」

 

 

 優しく落ち着いた声で、問いかけた。

 如何に衛宮邸の住人でも、大河は聖杯戦争には無関係の、ただの一般人だ。士郎と桜に何が有ったのかなど、彼女の知る所ではない。

 

 それでも――桜が苦しんでいるコトは分かる。

 

 教師として。姉として。年長者として。

 話を聞かなければ、と大河は感じた。

 

「それは――私が、悪い人だから…」

「士郎は、悪いコトはダメだって、ちゃんと叱れる子だよ? 桜ちゃんも、悪い所は直したい、って思ってるんだよね?」

 

 泣きたくなるような優しい声に、桜は僅かに頷いた。それを受けて、大河も頷き返す。

 

「だったら大丈夫。士郎は桜ちゃんを助けてくれるよ。何たって、正義の味方だもん」

「――でもそれは、みんな平等に…」

 

 すると、大河は顔を横に振り、その言葉を否定した。

 

「士郎が目指してるのが切嗣さんなら、やっぱり大切な人がいてもいいのよ。

 切嗣さんだって、えこひいきしいだったんだから」

 

 切嗣。その名を聞いて、聞き耳を立てていたイリヤは目を見開いた。

 

「士郎を引き取って、この屋敷に住むようになってからも、切嗣さんは毎月のように海外に出かけていたの。それこそ、身体が動かなくなって――亡くなっちゃう、直前まで」

 

 知らない。イリヤは、そのコトを知らない。

 一回たりとも来てないと思っていた。アハト翁は「あやつはお前を捨てた」としか言わなかった。イリヤはその言葉を信じて、自分が痛い思いをしてるのに来てくれなかった切嗣を憎んで、切嗣と士郎を殺す為にやってきた。

 

 でも――それは違った。

 来てくれていたのだ。何度も、何度も。

 

「きっと、どうしても会いたい人がいたのね」

 

 聖杯を持ち帰らなかった切嗣に対し、城の門戸が開かれなかった。だから会えなかった。

 

「――私も、着いて行こうとしたんだけどね。はぐらかされて、置いて行かれちゃった」

 

 少し切なげに、大河は笑って――桜の頭を、自分の両腕で覆った。そのまま抱き寄せて、優しく撫でる。

 

「だから、桜ちゃんは――士郎の側にいてあげてね」

 

 暖かい、とは感じなかった。

 そんな能力は、もう彼女の身体に残っていない。人としての機能を失い始めた彼女には。

 

 それでも桜は、とめどなく涙を流した。

 感覚が消えかけている手で、優しい人にしがみついて、泣き続けた。

 

 

   ◇

 

 

 壁に手をついて、黄金のサーヴァントはフラフラと歩いていた。

 

「おのれ――」

 

 「英雄王」ギルガメッシュ。

 影に敗れた彼はキャスターの犠牲により奇跡的に生き延び、片足のみで歩いている。深山町の住宅街、その裏道を。

 

「この(オレ)に、こんな屈辱を…!」

 

 傷こそ塞いで血は止めたが、それが限界。

 思った以上に魔力を根こそぎ持って行かれ、消耗していた。マスターからの魔力供給を必要としないほど高ランクの「単独行動」スキルを保有しているとは言え、保有魔力が限りなくゼロに近くなれば、現界を留めるので精一杯だ。

 

 無様を晒し、雑種に救われた。

 

 有り得ぬ失態である。英雄王たる者、常に泰然と構えて然るべきだ。

 だが――生き延びた以上、ただ座して消滅を待つコトなどしない。それこそ本当に負け犬の所業、逃げに転じた臆病者のするコトだ。このまま負けっぱなしでいるなど、英雄王としてのプライドが許さない。

 

「――このままでは済まさぬぞ」

 

 しかし、直接対峙して敵う相手ではない。

 例え「乖離剣エア」の一撃を以てしても、一時的に押し返すのが限度だろう。大聖杯に直接撃つならば、また話も違うだろうが。

 

 それからしばらく、日の入らない路地裏を行くと――とある邸宅の前に出た。

 

「ほう――これは、時臣めの(やしき)ではないか」

 

 遠坂邸。

 実に十年前になる第四次聖杯戦争の折、ギルガメッシュを召喚したマスター、遠坂時臣が拠点としていた場所だ。

 

 ちょうど良い。

 遠坂邸は冬木に於いて、円蔵山に次いで優秀な霊脈地でもある。それ故に、第二次聖杯戦争では大聖杯の降霊地にすらなったと言う。ここでなら、充分に魔力を回復させられるだろう。

 

 開かれていた鉄格子の門から堂々と敷地内に入り、本館に向かう。そして、扉を開けて正面から入る。

 中には灯りが点いており――

 

「げえっ!? 何よアンタ!」

 

 大量の本を抱えた赤い服の少女が、扉の正面に在る階段の上から、ギルガメッシュを見下ろしていた。

 

「騒々しいぞ娘。この(オレ)を見下ろすとは、なかなか良い度胸ではないか」

「人ん家に勝手に入って来たくせに、随分と偉そうねコイツ…って、アンタ――足はどうしたのよ!?」

 

 抱えていた本を置いて、現在の邸の主――遠坂凛が、階段を下ってギルガメッシュに近寄って来る。ギルガメッシュは彼女の質問に答えず、一方的に宣言する。

 

「しばらく此処を借りるぞ。(オレ)は今、少々傷を負っているのでな。早急に回復させねばならん」

「ちょっと待ちなさい」

「何?」

 

 重傷の身とは言え、王の宣告を凛は遮った。機嫌を損ねたギルガメッシュは、凛を睨み付ける。

 

(オレ)が使ってやると言っているのだ。今すぐ献上するが筋で有ろう」

「まあ、使わせるのは構わないわよ。最近は、いないコトの方が多いしね。でもその前に、私の質問に答えなさいよ」

 

 あくまで自分のペースで話を進めようとする凛。対するギルガメッシュは、最早苛立ちを通り越して、逆に一目置き始めていた。

 キッチリ階段を降りてきているし、邸を好きに使うコト自体に異を唱える気は無いらしい。時臣はつまらない男だったが、娘の方はなかなかの逸材かも知れない。

 

「不敬もここまで来ると清々しいな貴様。良かろう、答えてやろうではないか。下らぬ質問なぞするなよ?」

「アンタ、サーヴァントなの?」

 

 凛は初っ端から、確信に迫る質問を投げた。

 

「当然だ、(オレ)を誰と心得るか」

「成る程――影にやられて、消えかけてるってコトか。魔力もごっそり無くなってるっぽいし」

 

 現在、凛の頭には疑問符が浮かんでいた。

 既に七騎のサーヴァントを、凛は確認している。となると、このサーヴァントは八騎目のサーヴァントになるのではないか。他のサーヴァントと違い、彼は機械的な鎧を纏って戦うタイプでもなさそうだ。

 

「アンタ――私と契約する気は有る?」

「雑種如きが、英雄王たる(オレ)を縛ろうと言うのか?」

 

 英雄王、と聞いて、凛は僅かに息を呑んだ。やはりこのサーヴァントは、他の七騎とは大きく違っている。

 そして――凛の覚えが正しいなら、眼前のサーヴァントは間違い無く、最強の英霊である。臓硯は愚か、聖杯と繋がって黒化したセイバーすら、凌ぎ得るだろう。

 

「何で八騎目なんてのがいるかは知らないけど――そんな状態じゃ戦闘どころか、現界もままならないでしょ? 私と契約して経路(パス)を繋げば、少しはマシになるんじゃない?」

「――(オレ)に魔力を貢ぐ、と?」

「まあ、そうなるかしらね。アンタもあの影を倒したいんでしょ? 目的も一致してるわ」

 

 ギルガメッシュは少し考える。

 

 確かに、この娘の判断は正しい。娘としては戦力を欲しているのだろうし、ギルガメッシュとしても魔力供給が有れば、こんな所でちまちま回復する必要は無い。充分、利用価値は有るだろう。

 契約は切ろうと思えばいつでも切れるし、令呪の命令も同様だ。利害が一致する限り、協力する体制を取るのも良い。言峰の行く末も見届けたいが、同じ陣営ではなく、敢えて端から見るのも一興か。

 

 後は――この娘が、英雄王を楽しませられるかどうかだ。

 

「娘。貴様が聖杯にかける願いは何だ?」

 

 聖杯が正しく願望機であるとしたら、貴様はどんな願いを託す? と、ギルガメッシュは付け加える。そう問われた凛は、首を傾げて答えた。

 

「願い? そんなの無いわよ?」

「…何?」

 

 凛は嘘を吐いていない。ギルガメッシュにはそれが分かり――なればこそ、困惑した。

 彼女の父である時臣は「根源への到達」という願いを持っていた。下らぬ願いだが、あんなつまらぬ男にすら願望は有った。しかし、凛には願いなど無いらしい。

 

「普通の魔術師なら『根源へ到達する為』とか言うんでしょうけど、そんなの自分でやれば良いし」

「――では、貴様は何の為に戦う?」

「冬木の管理者(セカンドオーナー)として、この土地の異常は見過ごせないってのも有るけど――一番は、そこに戦いが有るからよ。私は勝つ為に戦うの」

 

 さも当然のように、凛はそう言った。

 その答えを聞き届けたギルガメッシュは――

 

「フ、フフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 ――高らかに、爆笑した。

 挙げ句の果てにバランスを崩して、倒れかけている始末だ。片足が祟っている。

 

「な、何よ! 悪い!?

 って、そういうアンタはどうなのよ!? どうせ世界征服ーとか、そんなベタな望みなんでしょ!?」

 

 笑われたのが気に食わず、凛はギルガメッシュに突っかかる。ギルガメッシュはしばらく笑っていたが、やがて答えた。

 

「ハハハハハ――戯けめ。何故そんなコトを願う必要が有る。この世界は余さず(オレ)の庭だ。この世のモノは全て(オレ)のモノ。世界の全てなど、とうの昔に背負っておるわ」

 

 ギルガメッシュの言葉に、今度は凛が頭を抱えた。

 

「呆れた…アンタ、本当に唯我独尊を絵に描いたみたいな奴ね。世界が自分のモノって所は同意するけど、アンタはぶっ飛んでるわ」

「…待て貴様。今、同意したか?」

「ええ。世界なんて自分のモノじゃない」

 

 雑種に有り得ざる凛の言に、またもギルガメッシュは問いを投げさせられた。

 何だこの娘は。本当にあの時臣の娘か?

 

「世界ってのは要するに、自分を中心とした価値観でしょ? そんなの、生まれた時から私のモノよ」

「――フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 今度こそ、ギルガメッシュは抱腹絶倒した。

 遂に床に手をつき、拳で床を叩いて笑い転げている。凛は顔を赤くしているが、ギルガメッシュは笑い過ぎて冥界に逝きかねない状態に陥っており、とてもじゃないがそんな光景は見えていない。

 

 この娘、面白い。面白すぎる。

 まさかここまで面白い奴を世に出すとは、やるではないか時臣め――と、若干時臣の評価まで上がっている始末だ。

 

 それから実に五分以上も笑い続け、そろそろ凛が恥じらいを通り越して怒りを感じ始めていると、ようやく笑いが収まったギルガメッシュは立ち上がった。

 

「気に入った。貴様を(オレ)のマスターと認めよう」

「――じゃあ、始めるわよ」

 

 腑に落ちない凛だったが、とても良い笑顔のギルガメッシュを前に、契約の詠唱を始める。

 

「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 されば我が命運、汝の剣に預けよう――!」

「サーヴァント、アーチャー。『英雄王』ギルガメッシュの名に於いて誓おう。汝の魔力を我が血肉と為す。

 遠坂凛――新たなるマスターよ」

 

 二人の間で経路(パス)が繋がり、潤沢なる魔力がギルガメッシュに注ぎ込まれる。失われていた左足が再構築され、それでも有り余る魔力によって黄金の鎧が編まれ、全身を覆う。

 

 「英雄王」ギルガメッシュ。

 最強のサーヴァントたる頽廃の王が今、完全に復活した。

 

 

   ◇

 

 

 大河が帰り、桜が眠りに落ちた頃。

 衛宮邸に、遠坂凛が帰宅した。

 

「お帰り、リン。どこに行ってたの?」

「ちょっと、家に本を取りにね。士郎の鍛錬に関わって、気になるコトが有ったの」

 

 本を大量に抱えた凛を、イリヤが出迎えた。…しかし、凛の後ろには、イリヤの見知らぬ男が立っている。

 

「ほう、ここが貴様の拠点か。見窄らしいな」

 

 金髪の青年が、赤い眼を左右させている。

 ギルガメッシュはイリヤを見て、眼を細めてまじまじと無遠慮な視線を向ける。

 

「ホムンクルスと人間の混ざり物か。これはまた、随分と酔狂なモノを造ったな」

「…何よこの失礼な奴。リンってば、男の趣味悪いわね」

「そんなんじゃないわよ。コイツは切り札なんだから」

 

 ふうん、とイリヤはギルガメッシュを見据える。眼前にいるのがサーヴァントであるというコトに、聖杯となるハズだった少女は気付いているようだ。

 

「八騎目のサーヴァント――こんなの、どこから拾って来たの?」

「私だって分からないわよ。コイツが勝手に遠坂邸(ウチ)に入って来たんだから。とりあえず契約したけど――アンタ、本当に役に立つんでしょうね?」

「貴様、さては(オレ)をナメているな?」

 

 とにかく、と凛は本を置きながら言って。

 

「セイバーはコイツが何とかしてくれる、ってコトで、もう一回作戦を考えましょ」

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

 燃え盛る街の中を歩いている。

 この十年で見慣れて久しい、衛宮士郎の最初の記憶。黒い太陽が輝く空に、赤く染まる大地――何ら変わらない、いつも通りの夢。

 

 

 ――裏切るのか。

 

 

 声がした。自分の声。

 自分の理想が、俺にそう問うて来る。

 

 

 ――かつての自分を、裏切るのか。

 

 

 獄炎の中、聖杯の穴の真下に、一人の少女が立っている。あの夜、守ると誓った少女。

 そして、そんな彼女に近づいていく者が、一人いた。

 

 分かる。アレは、エミヤシロウだ。

 「正義の味方」になった、俺自身の姿。

 

「よせ――」

 

 呼びかける。声は届かない。

 白い髪、くすんだ銀の瞳、茶に染まった肌。

 理想の成れの果て、辿り着くべき所に辿り着いた、エミヤシロウ。

 

「やめろ――」

 

 彼は一本の剣を携えて、少女の側に立つ。

 これから彼が何をするか――そんなの、分かりきっている。

 

「やめろ!」

 

 剣が振り上げられる。当然だ。

 少女は、多くの人を殺している。エミヤシロウは少女を殺すコトで、これから犠牲になるであろう、まだ見ぬ人々の命を救うのだ。

 

 十の為に一を殺す。

 

 それが「正義の味方」の、在るべき姿だ。その「一」が例え自分の大切なモノであろうと、理想の礎にする。人々に害を及ぼすなら、消し去るのが道理だ。

 

 理想を見せつけられている。

 衛宮士郎の理想。頑なに信じ、守り続けて来たモノ。必ずならねばならないモノ。

 

「やめろ――!!」

 

 

   ―interlude out―

 

 

 

 

 飛び起きた。汗が全身から吹き出している。

 息が荒くなり、肺が突き刺されたかのように痛い。

 

「違う――そんな、ハズは…」

 

 それでも、そう呟く。呟かずにはいられなかった。

 そんな理想が、選択が有ってたまるものか。たまらない。

 

 桜を殺す、なんて―――

 

 

「衛宮士郎、ってアンタ?」

 

 頭を抱えたその時――襖の向こうから、声をかけられた。少し高い、幼さが残る男の声だ。

 衛宮邸の結界は反応していない。だが、安心出来る声ではない。味方でもない。

 

 ――その声は、アサシンのモノなのだから。

 

「マスターが、話をしたいって」

「――ッ」

 

 間桐臓硯が、俺を呼び出している。

 俺は他の住人に気付かれないよう、こっそりと衛宮邸を抜け出し――間桐邸へ、歩を進め始めた。




ギルはマスターを必要としないんですが、個人的に凛とのコンビが見たかったのでこうなりました。
反省はしているが、後悔はしていない。

某菌糸類曰く、とても相性が良い二人。
CCCとかでも分かりますし、何よりも分かりやすいのがイシュタルとイシュタ凛での、ギルの対応の差。
FGOのバビロニアとFakeを見比べると、凛要素が入っただけでどれだけマシになるか分かる(弓ギルと術ギルという違いも有るので、一概に言えないのがアレですが)




次回「I beg you」
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