Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》   作:アグニ会幹部

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第三章の最新キービジュアルが格好良すぎて、私めは無事に死亡致しました。
やっぱり社長絵は最高やなって…いとエモし。

ちなみに今回は、完全に原作通りなんだ。
すまない、本当にすまない(CV:諏訪部順一)


#20 I beg you

 深夜の間桐邸には一切の光が無く、暗黒の帳によって、完全に隠されていた。

 重々しい鉄格子の扉をこじ開け、アサシンの赴くままに間桐邸へと踏み入り、奥へ奥へと進んで行く。居間や応接間、書斎なども通り過ぎて、更なる奥へと向かっている。

 

 やがて、植物園へと続くドアの前へと案内された。

 

 アサシンは霊体化し、消える。案内はここまでらしい。――恐らく、この植物園の中に、間桐臓硯がいる。

 

「―――」

 

 錆びたドアを開け、植物園の中に入る。

 その植物園は、これまた見事なモノだった。円形の天井はステンドグラスのようにも見え、植物は綺麗に整理されながらもところどころ乱雑に生え、青白く輝く蝶が無数に飛び回っている。否が応でも間桐邸の歴史を感じさせるが、その空気は詰まるように絡み付く。

 

 そして――中心には、間桐臓硯が立っていた。

 

「ほう――思ったより早い到着だな、衛宮の小倅(こせがれ)

「臓硯、俺から言うコトは一つだ。――今すぐ、桜を解放しろ」

 

 臓硯と話すコトなど、俺にはそれだけしか無い。臓硯がいる限り、桜に安息は無く、桜は苦しみ続ける。

 

「解放か――そうとも言えるかの。とは言え、儂には叶わぬコトだ。

 桜は既に、聖杯として機能しておる。この場で儂が刻印蟲を取り除いた所で、アレが自滅するコトに変わりは無い」

 

 ――聖杯? 聖杯だと? 桜が?

 

「お前、桜に何を――!」

「聖杯を手に入れ、己が望みを叶える為の手段じゃよ。

 全ては我らマキリの悲願。真の不老不死たる魂の物質化(ヘヴンズ・フィール)の為、十年前の戦いの折に手に入れた聖杯の欠片を、儂は桜の身体に埋め込んだ」

 

 つまりそれで、桜は聖杯としての機能を獲得させられた、と言うコトか。

 

「――じゃあ、桜の刻印蟲は」

「聖杯を触媒にして生み出し、増殖させたモノよ。肉体は魂を受け入れる為の小聖杯となり、儀式が果たされた時、門となって大聖杯への道を繋げる触媒として機能するようになる。

 アインツベルンが作り上げた聖杯の真似事じゃな。まあ、儂にはアインツベルンほどの錬金術(ぎじゅつ)が無い故、八割方自己流となってしまったがのう」

 

 …アインツベルンの真似事、なんて大したコトではないだろう。

 臓硯は完成された聖杯の欠片を拾った上で、全く無関係の桜に与えただけだ。自分が聖杯を造れないからと言って、真似ようなどと。

 

「本気でやったワケではない。あくまでも実験的なコトに過ぎん。本来――儂の見立てによれば、桜は何十年という歳月を経て、ゆっくりと聖杯に近い存在へと変わるハズじゃった。

 魂を収める(せいはい)としての機能を持つとは言え、あくまで人間として生き、天寿を全うするように施されていた。マキリの杯の完成、その第一歩にするつもりでしかなかった」

 

 桜が、第一歩。

 踏み台でしかないと、臓硯はそう言った。

 

「桜はその為に、遠坂から間桐へ寄越された娘だ。マキリの悲願達成の為、礎となるも必定。遠坂もそれは承知のハズ。

 元よりこの地の聖杯戦争は、その(いち)に至る為の儀式よ。その為にアインツベルン、遠坂、マキリ――『御三家』は手を結んだ。今となっては儂だけが、無様に生き続けておる。間桐の後継者達によって、遥か先になるであろう悲願達成の為にな」

 

 臓硯の言うコトは、魔術師として特段珍しいコトではない。

 元々、魔術師とはそう言う生き物だ。何世代も先の後継者が悲願を達成するコトと信じ、何百年単位で魔術刻印を後継へと託して行く。

 

「だが――全く、運命とは皮肉なモノよ。本来ならば『適応しない聖杯』でしかなかったハズの桜は、ここに来て驚くほど成長した。

 いやはや、儂も老いた…よもや、桜があそこまでの資質を持っていようとは。六騎ものサーヴァントを取り込んでなお自滅せず、間桐桜としての自我を残したまま、今なお生き長らえておる」

 

 口元を吊り上げて、臓硯は心の底からの歓喜を滲ませながら、こう言った。

 

「――アレこそ、まさしく聖杯。儂では作り上げられぬと諦めておった、アインツベルンの聖杯そのものよ」

 

 歯を食いしばる。

 もうダメだ――こんなクソジジイの言い分を、これ以上聞いていられる気がしない。

 

「フザケんな、何が聖杯だ! 何が悲願達成の為だ! 人間を犠牲にするようなモノを、偉そうに聖杯だなんて――」

「聖杯だとも。

 そもそもアインツベルンからして、聖杯のベースは人間だ。お主が匿っておるイリヤスフィールこそ、此度のアインツベルンの聖杯。

 桜がサーヴァントを取り込んでいなければ、今頃その魂はイリヤスフィールに収められておった。――彼女の自我は消え去り、万能の願望機としてその定めを果たしていたであろう」

 

 イリヤが聖杯。桜だけでなく、イリヤも。

 目眩がしたが、そんなコトは意にも介さず、臓硯は本題に入った。あちらとしても、長々と話をするつもりはハナから無いらしい。

 

「衛宮士郎。今日呼び立てたのは、頼みが有ってな。

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その時――俺の頭は、一瞬真っ白になった。

 

「影、って…アレは、アンタの仲間だろ!?」

 

 思わず素直に聞き返す。

 そのハズだ。これまで臓硯は「影」とサーヴァントを連携させ、聖杯戦争を戦って来た。そして、今なお圧倒的優位に立っている。

 

「仲間――アレと意思疎通など出来るモノか。昨夜からは宥めるコトすら出来なくなった。最早、儂にはあの影をどうするコトも出来ん」

 

 監視用の蟲も全部呑まれおった、と臓硯は言った。士郎の中で、焦燥が広がって行く。

 

 ――「影」と臓硯は、全く別だったのか?

 じゃあ、桜はどうすれば。

 

「嗚呼、その前に――お主には、あの『影』が何であるか教えねばならなかった」

 

 そう、それだ。

 アレは一体何なんだ。臓硯とは、どういう繋がりが有るんだ?

 

「うむ――言ってしまえば、アレは()()()()()だ。

 聖杯(holy chalice)は願いを叶える万能の釜と言われておるが、我らの目指した聖杯(holy grail)は違う。アレもまた手段に過ぎぬ」

 

 聖杯の、中身――?

 

「我らが目指したモノは、完成された聖杯を以て、外へと通ずる『(もん)』を開くコト。完成した聖杯とは即ち、あらゆる願いが叶う場所と、この世界を繋げる門なのだ」

 

 あらゆる魔術師が目指している「根源」のようなモノ、なのだろうか。

 

「聖杯と言う門から溢れ出た意志。それが、あの『影』よ。

 本来の聖杯(イリヤスフィール)ならば、あのような不始末はしでかさん。模造品(さくら)は聖杯としての成長こそしたが、きちんと門を閉じられぬらしい」

 

 臓硯は語りかけるように、影の正体について述べる。

 

 

「気付いていたであろう?

 アレと桜が、似ているコトに」

 

 

 …分かっていた。とっくの昔から分かっていたのに否定して、見てみぬフリをしていただけだ。

 あの「影」が無意識の中のモノだろうと、その功罪は全て、桜と結ばれているのだ。無意識だからこそ、とすら言える。

 

「アレは、意思を持った聖杯だ。故にこそ、自らを完成させる為、魂を糧とするべく命を取り込み続ける。被害は際限無く拡大するだろう。

 止める方法は一つだけだ。――『影』自体を殺すコトは出来ずとも、それを溢れさせておる『門』を殺すコトは出来る」

 

 …まさか、それは。

 

「儂や遠坂の娘では感づかれる。サーヴァントでは、ただのエサだ。だからこそ、儂はお主をこうして呼びつけたのじゃよ。

 十年をかけて育て上げられ、意思を持って動く間桐の聖杯を殺せるのは――」

「やめろ!!」

 

 やめろ。やめてくれ。

 もう、桜をこれ以上は…。

 

「ただそこに在るだけの人形が、愛しい男の手で終わるのだ。――さぞ本望であろう」

 

 そんな、ハズが無い。

 そんな。そんなコトが…。

 

「桜を救いたいのであれば、聖杯戦争の期限切れまで耐えるコトだ。大聖杯の完成…門を開くコトの出来る時期(タイミング)は、そう長くない。過去の例から行けば、後四日ほどか。

 ――どうじゃ? 桜は保つと思うか?」

「――保つ。保つに決まってる…!」

 

 桜の意識ははっきりしている。

 四日くらい、保たせられるに決まってる――!

 

「ふむ――だが、他の人間はそうは行かん。昨夜の暴食で今は腹が満たされておるかも知れんが、明日になれば、また(アレ)は動く。

 …後何日で、この街の人間が『完食』されるかな?」

 

 意地悪げに嗤って、臓硯は述べ立てる。

 その言葉の全てに踊らされ、思考がマトモに働かない。

 

「――もう時間は無い。桜の意識が消えれば、これまで無意識を借り受けて来た『聖杯』が浮上する。そうなれば、止めるコトなど本当に出来なくなる。

 十年前の災害が、再現されよう」

 

 …冬木大災害。

 何百人もの人が死んだ、聖杯戦争の爪痕。

 俺にとっての、始まりの光景。最初の地獄。

 

「判っておるであろう」

 

 そして、臓硯は両手を広げて。

 

「万人の為に悪を討つ。

 お主が衛宮切嗣を継ぐのなら――」

 

 杖を突き付けて来て、俺にとっての「理想」を語った。

 

 

「――()()()()()()()()()()

 

 

 

   ◇

 

 

 朝の目覚めは憂鬱だった。

 とにかく日課として、士郎は桜の部屋の戸を叩き、中へと入る。

 

「おはよう、桜」

 

 桜は既に目覚めており、ベッドの上で身体を起こしていた。士郎を見るや、花が綻ぶような笑顔を向ける。

 

「はい。おはようございます、先輩」

 

 それからの時間は、実にのんびりと、ゆっくりと過ぎて行った。その平穏な一日は、士郎にとって何年もの時が過ぎているように感じられた。

 桜とたくさん話した。

 イリヤと一緒に商店街へ行き、彼女が幼い時に聞いた歌を聞かせてもらった。

 

「桜。この戦いが終わったら、何かしたいコト――有るか?」

 

 夕方。赤く染まった部屋で、士郎は桜にそう言った。

 あまりに都合の良い、未来の話。士郎も、そんな日が来ないコトは分かっている。

 

「うーん…」

 

 ベッドに寝そべる桜は、少し考え込んで。

 

「…何か、思い付かないです。先輩と一緒にいられれば、それで良いかなって」

 

 本当にささやかな、何でもない幸せ。

 ただ、それだけを願った。

 

「――桜。この戦いが終わったら、どこかへ遊びに行こう。どこへ行きたい?」

 

 士郎の唐突な提案に、桜は困惑したらしかった。しばらく目を泳がせて、隠れるように口元までシーツを持ってきて。

 

「じゃあ、お花見とか…したいです」

 

 これまた、些細な願いを口にした。

 士郎は優しく笑って、桜に右手の小指を差し出した。

 

「よし、約束だ」

 

 桜は弱々しく、けれど確かに、士郎の指に自分の指を絡めた。

 

 

 凍らせた心で、暖かな幻想をする。

 いつか冬が過ぎて、春になったら――一緒に、櫻を見に行こう。

 

 

   ◇

 

 

 決断の夜。

 みんなが寝静まった頃を見計らって、俺は布団から抜け出した。

 

 台所に入り、包丁を持ち出す。

 桜と一緒に料理をして、遠坂と桜が並んで料理をしていた台所。桜にとって、大切な場所。

 普段、俺と桜が使う包丁は今夜、桜の命を絶つ為の凶器となる。月明かりに照らされた包丁は、青白い無機質な輝きを放っていた。

 

 音を立てないよう、桜が使っている客間に足を踏み入れる。桜は眼を閉じ、規則的な寝息を立てて眠っている。

 桜の側に立ち、包丁をゆっくり持ち上げる。

 

 たった一回。ほんの一瞬。

 この包丁を振り下ろせば、桜は死ぬ。

 

 やらなければならない。

 でなければ、多くの人が死ぬ。

 俺が切嗣に――「正義の味方」になるなら、この手を振り下ろし、桜の心臓を貫くべきだ。

 

 

 なのに何で――俺は、泣いているのか。

 

 

『先輩』

 

 桜の声が、頭の中にリフレインする。

 いつも優しく、可愛らしい笑顔で俺を呼んでくれた彼女。俺が好きな桜。

 

「――うっ、ああ…あああ…!」

 

 嗚咽が漏れる。涙が止まらない。

 嫌だ。嫌だ、嫌だ嫌だ――桜を殺したくない。無くしたくない。いなくなってほしくない。ずっと、ずっと側にいてほしい。桜がいなくなるなんて考えられない。

 

『間桐、桜です』

 

 あの時、来てくれた桜。

 

『大切な人から、大事な物を貰ったのは――これで、二度目です』

 

 あの時初めて、笑ってくれた桜。

 

『お花見とか、したいです』

 

 初めて、自分の望みを言ってくれた桜。

 これからもいてほしい。笑ってほしい。色々なコトを言ってほしい。わがままも。

 

 この手を振り下ろせば、もう出来ない。

 包丁を振り下ろすなんて、とても簡単なコトなのに、それがどうしても出来ない。

 

 

『俺は、桜だけの正義の味方になる』

 

 

 分かっていた。決まっていた。

 あの時、桜を抱きしめた時から、俺の心は決まっていた。あの瞬間、俺は俺の人生を否定した。自分を騙し続けると誓った。

 

 例え、他の何を無くすコトになろうとも。

 俺は桜を無くさない。無くさせない。

 

 絶対に桜を守る。

 (いち)の為に、全部(じゅう)を犠牲にするんだとしても。

 

 

 ――裏切るのか?

 

 

 俺の理想が、そう聞いてくる。

 衛宮士郎という人間の原点。あの大火災を、衛宮士郎はエミヤシロウを裏切るのかと。

 

 

「ああ――裏切るとも」

 

 

 もう、こんな包丁(モノ)を振り下ろす必要は無い。

 俺は桜の側から離れ、また物音を立てないよう、部屋を後にする。そして、部屋から出ようとした時。

 

「先輩。――どうして、殺さないんですか?」

 

 暗闇の中で、桜はそう聞いた。

 

「桜――」

 

 桜の身体は震えている。その瞳は曇って、今にも泣き出しそうに揺れている。

 

 俺が殺しに来た、からではなく。

 俺に殺させようとしてしまった――そのコトを悔いて、謝罪するかのように。

 

「お願いします。私、自分じゃ怖くて出来ませんから。

 ――先輩になら、良いです」

 

 その言葉は、あの日――あの土蔵で、桜が言った言葉だった。

 ようやく、その言葉の意味を理解出来た。思えばあの時から、桜は自分の運命を悟っていたのかも知れない。

 

 桜は恐怖を隠し切れていない。

 きっと、今すぐにでも逃げ出したいだろう。

 

「―――桜」

 

 何で、最初に気付かなかった。

 桜の決意を。眠ったふりで、俺を生かそうとしてくれていた、桜の覚悟に。

 

「先輩の選択は、きっと正しいです。だって、悪いのは私なんですから。私はもう、いつまで自分でいられるか分かりません」

 

 桜は震えながら、独白を続ける。

 

「…私、おかしな夢を見るんです。怖くて、いつも血まみれで、でもそれが楽しいって思えて――全部、悪い夢だった。

 そこだと、わたしは悪いひとなんですよ。みんなから何もかもを奪って、笑ってるんです。それが怖くて、ずっと助けてって言ってたのに、誰も助けてくれなかった。

 だから、みんなが殺されるのは仕方ない。助けないから助けられないんだって、見てみぬふりをして来ました」

 

 でも――そういう夢を望んでいたのは、他ならない自分だと。

 

「臆病で、汚くて、ズルくて…嫌いで、恨むコトしか出来ない。楽しいなんて思った私が悪かった。私が全部、悪かったんです。あんな夢を見る私なんて、最初からいちゃいけなかった。

 きっと、私はアレしか分からなくなる。先輩のコトも分からなくなって、みんなを殺して回る悪者になるんです」

 

 だから、と。

 私が悪いわたしになる前に、終わらせてくれと。

 それで私は救われる、なんて――

 

「――あ」

 

 包丁を投げ捨てて、桜を抱き留めた。

 震えて冷たい、彼女の身体。背中を掻き毟るかのように、ありったけの力で、桜を受け止める。

 

 死ぬのは怖いのに。

 本当は死にたくなんてないのに。

 殺してくれ、と乞うた桜は、恐怖に強張った身体を緩めて。

 

「ダメ、です――それじゃ、先輩を傷付け…」

「傷なら付いてる。これからのコトじゃない、今までにだ。今まで、桜を守れなかった」

 

 桜の頬から、涙が溢れる。

 俺の背に手を回して、桜は泣き始めた。

 

「俺が守る。俺がちゃんと、桜を守る」

 

 雨の夜で、俺はそう誓った。

 桜の味方になる、と。もう後悔なんて無い。

 俺が謝り、乞うべき相手がいるとしたら、それは一人だけだ。

 

 

 桜、赦してくれるか?

 俺が、俺を裏切るコトを―――




第二章も残り一話を残すのみになりました。
終わったら第三章に入るんですけど…劇場版のネタバレが有るという大問題ががが




次回「ラストピース」
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