Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》 作:アグニ会幹部
やっぱり社長絵は最高やなって…いとエモし。
ちなみに今回は、完全に原作通りなんだ。
すまない、本当にすまない(CV:諏訪部順一)
深夜の間桐邸には一切の光が無く、暗黒の帳によって、完全に隠されていた。
重々しい鉄格子の扉をこじ開け、アサシンの赴くままに間桐邸へと踏み入り、奥へ奥へと進んで行く。居間や応接間、書斎なども通り過ぎて、更なる奥へと向かっている。
やがて、植物園へと続くドアの前へと案内された。
アサシンは霊体化し、消える。案内はここまでらしい。――恐らく、この植物園の中に、間桐臓硯がいる。
「―――」
錆びたドアを開け、植物園の中に入る。
その植物園は、これまた見事なモノだった。円形の天井はステンドグラスのようにも見え、植物は綺麗に整理されながらもところどころ乱雑に生え、青白く輝く蝶が無数に飛び回っている。否が応でも間桐邸の歴史を感じさせるが、その空気は詰まるように絡み付く。
そして――中心には、間桐臓硯が立っていた。
「ほう――思ったより早い到着だな、衛宮の
「臓硯、俺から言うコトは一つだ。――今すぐ、桜を解放しろ」
臓硯と話すコトなど、俺にはそれだけしか無い。臓硯がいる限り、桜に安息は無く、桜は苦しみ続ける。
「解放か――そうとも言えるかの。とは言え、儂には叶わぬコトだ。
桜は既に、聖杯として機能しておる。この場で儂が刻印蟲を取り除いた所で、アレが自滅するコトに変わりは無い」
――聖杯? 聖杯だと? 桜が?
「お前、桜に何を――!」
「聖杯を手に入れ、己が望みを叶える為の手段じゃよ。
全ては我らマキリの悲願。真の不老不死たる
つまりそれで、桜は聖杯としての機能を獲得させられた、と言うコトか。
「――じゃあ、桜の刻印蟲は」
「聖杯を触媒にして生み出し、増殖させたモノよ。肉体は魂を受け入れる為の小聖杯となり、儀式が果たされた時、門となって大聖杯への道を繋げる触媒として機能するようになる。
アインツベルンが作り上げた聖杯の真似事じゃな。まあ、儂にはアインツベルンほどの
…アインツベルンの真似事、なんて大したコトではないだろう。
臓硯は完成された聖杯の欠片を拾った上で、全く無関係の桜に与えただけだ。自分が聖杯を造れないからと言って、真似ようなどと。
「本気でやったワケではない。あくまでも実験的なコトに過ぎん。本来――儂の見立てによれば、桜は何十年という歳月を経て、ゆっくりと聖杯に近い存在へと変わるハズじゃった。
魂を収める
桜が、第一歩。
踏み台でしかないと、臓硯はそう言った。
「桜はその為に、遠坂から間桐へ寄越された娘だ。マキリの悲願達成の為、礎となるも必定。遠坂もそれは承知のハズ。
元よりこの地の聖杯戦争は、その
臓硯の言うコトは、魔術師として特段珍しいコトではない。
元々、魔術師とはそう言う生き物だ。何世代も先の後継者が悲願を達成するコトと信じ、何百年単位で魔術刻印を後継へと託して行く。
「だが――全く、運命とは皮肉なモノよ。本来ならば『適応しない聖杯』でしかなかったハズの桜は、ここに来て驚くほど成長した。
いやはや、儂も老いた…よもや、桜があそこまでの資質を持っていようとは。六騎ものサーヴァントを取り込んでなお自滅せず、間桐桜としての自我を残したまま、今なお生き長らえておる」
口元を吊り上げて、臓硯は心の底からの歓喜を滲ませながら、こう言った。
「――アレこそ、まさしく聖杯。儂では作り上げられぬと諦めておった、アインツベルンの聖杯そのものよ」
歯を食いしばる。
もうダメだ――こんなクソジジイの言い分を、これ以上聞いていられる気がしない。
「フザケんな、何が聖杯だ! 何が悲願達成の為だ! 人間を犠牲にするようなモノを、偉そうに聖杯だなんて――」
「聖杯だとも。
そもそもアインツベルンからして、聖杯のベースは人間だ。お主が匿っておるイリヤスフィールこそ、此度のアインツベルンの聖杯。
桜がサーヴァントを取り込んでいなければ、今頃その魂はイリヤスフィールに収められておった。――彼女の自我は消え去り、万能の願望機としてその定めを果たしていたであろう」
イリヤが聖杯。桜だけでなく、イリヤも。
目眩がしたが、そんなコトは意にも介さず、臓硯は本題に入った。あちらとしても、長々と話をするつもりはハナから無いらしい。
「衛宮士郎。今日呼び立てたのは、頼みが有ってな。
―――
その時――俺の頭は、一瞬真っ白になった。
「影、って…アレは、アンタの仲間だろ!?」
思わず素直に聞き返す。
そのハズだ。これまで臓硯は「影」とサーヴァントを連携させ、聖杯戦争を戦って来た。そして、今なお圧倒的優位に立っている。
「仲間――アレと意思疎通など出来るモノか。昨夜からは宥めるコトすら出来なくなった。最早、儂にはあの影をどうするコトも出来ん」
監視用の蟲も全部呑まれおった、と臓硯は言った。士郎の中で、焦燥が広がって行く。
――「影」と臓硯は、全く別だったのか?
じゃあ、桜はどうすれば。
「嗚呼、その前に――お主には、あの『影』が何であるか教えねばならなかった」
そう、それだ。
アレは一体何なんだ。臓硯とは、どういう繋がりが有るんだ?
「うむ――言ってしまえば、アレは
聖杯の、中身――?
「我らが目指したモノは、完成された聖杯を以て、外へと通ずる『
あらゆる魔術師が目指している「根源」のようなモノ、なのだろうか。
「聖杯と言う門から溢れ出た意志。それが、あの『影』よ。
臓硯は語りかけるように、影の正体について述べる。
「気付いていたであろう?
アレと桜が、似ているコトに」
…分かっていた。とっくの昔から分かっていたのに否定して、見てみぬフリをしていただけだ。
あの「影」が無意識の中のモノだろうと、その功罪は全て、桜と結ばれているのだ。無意識だからこそ、とすら言える。
「アレは、意思を持った聖杯だ。故にこそ、自らを完成させる為、魂を糧とするべく命を取り込み続ける。被害は際限無く拡大するだろう。
止める方法は一つだけだ。――『影』自体を殺すコトは出来ずとも、それを溢れさせておる『門』を殺すコトは出来る」
…まさか、それは。
「儂や遠坂の娘では感づかれる。サーヴァントでは、ただのエサだ。だからこそ、儂はお主をこうして呼びつけたのじゃよ。
十年をかけて育て上げられ、意思を持って動く間桐の聖杯を殺せるのは――」
「やめろ!!」
やめろ。やめてくれ。
もう、桜をこれ以上は…。
「ただそこに在るだけの人形が、愛しい男の手で終わるのだ。――さぞ本望であろう」
そんな、ハズが無い。
そんな。そんなコトが…。
「桜を救いたいのであれば、聖杯戦争の期限切れまで耐えるコトだ。大聖杯の完成…門を開くコトの出来る
――どうじゃ? 桜は保つと思うか?」
「――保つ。保つに決まってる…!」
桜の意識ははっきりしている。
四日くらい、保たせられるに決まってる――!
「ふむ――だが、他の人間はそうは行かん。昨夜の暴食で今は腹が満たされておるかも知れんが、明日になれば、また
…後何日で、この街の人間が『完食』されるかな?」
意地悪げに嗤って、臓硯は述べ立てる。
その言葉の全てに踊らされ、思考がマトモに働かない。
「――もう時間は無い。桜の意識が消えれば、これまで無意識を借り受けて来た『聖杯』が浮上する。そうなれば、止めるコトなど本当に出来なくなる。
十年前の災害が、再現されよう」
…冬木大災害。
何百人もの人が死んだ、聖杯戦争の爪痕。
俺にとっての、始まりの光景。最初の地獄。
「判っておるであろう」
そして、臓硯は両手を広げて。
「万人の為に悪を討つ。
お主が衛宮切嗣を継ぐのなら――」
杖を突き付けて来て、俺にとっての「理想」を語った。
「――
◇
朝の目覚めは憂鬱だった。
とにかく日課として、士郎は桜の部屋の戸を叩き、中へと入る。
「おはよう、桜」
桜は既に目覚めており、ベッドの上で身体を起こしていた。士郎を見るや、花が綻ぶような笑顔を向ける。
「はい。おはようございます、先輩」
それからの時間は、実にのんびりと、ゆっくりと過ぎて行った。その平穏な一日は、士郎にとって何年もの時が過ぎているように感じられた。
桜とたくさん話した。
イリヤと一緒に商店街へ行き、彼女が幼い時に聞いた歌を聞かせてもらった。
「桜。この戦いが終わったら、何かしたいコト――有るか?」
夕方。赤く染まった部屋で、士郎は桜にそう言った。
あまりに都合の良い、未来の話。士郎も、そんな日が来ないコトは分かっている。
「うーん…」
ベッドに寝そべる桜は、少し考え込んで。
「…何か、思い付かないです。先輩と一緒にいられれば、それで良いかなって」
本当にささやかな、何でもない幸せ。
ただ、それだけを願った。
「――桜。この戦いが終わったら、どこかへ遊びに行こう。どこへ行きたい?」
士郎の唐突な提案に、桜は困惑したらしかった。しばらく目を泳がせて、隠れるように口元までシーツを持ってきて。
「じゃあ、お花見とか…したいです」
これまた、些細な願いを口にした。
士郎は優しく笑って、桜に右手の小指を差し出した。
「よし、約束だ」
桜は弱々しく、けれど確かに、士郎の指に自分の指を絡めた。
凍らせた心で、暖かな幻想をする。
いつか冬が過ぎて、春になったら――一緒に、櫻を見に行こう。
◇
決断の夜。
みんなが寝静まった頃を見計らって、俺は布団から抜け出した。
台所に入り、包丁を持ち出す。
桜と一緒に料理をして、遠坂と桜が並んで料理をしていた台所。桜にとって、大切な場所。
普段、俺と桜が使う包丁は今夜、桜の命を絶つ為の凶器となる。月明かりに照らされた包丁は、青白い無機質な輝きを放っていた。
音を立てないよう、桜が使っている客間に足を踏み入れる。桜は眼を閉じ、規則的な寝息を立てて眠っている。
桜の側に立ち、包丁をゆっくり持ち上げる。
たった一回。ほんの一瞬。
この包丁を振り下ろせば、桜は死ぬ。
やらなければならない。
でなければ、多くの人が死ぬ。
俺が切嗣に――「正義の味方」になるなら、この手を振り下ろし、桜の心臓を貫くべきだ。
なのに何で――俺は、泣いているのか。
『先輩』
桜の声が、頭の中にリフレインする。
いつも優しく、可愛らしい笑顔で俺を呼んでくれた彼女。俺が好きな桜。
「――うっ、ああ…あああ…!」
嗚咽が漏れる。涙が止まらない。
嫌だ。嫌だ、嫌だ嫌だ――桜を殺したくない。無くしたくない。いなくなってほしくない。ずっと、ずっと側にいてほしい。桜がいなくなるなんて考えられない。
『間桐、桜です』
あの時、来てくれた桜。
『大切な人から、大事な物を貰ったのは――これで、二度目です』
あの時初めて、笑ってくれた桜。
『お花見とか、したいです』
初めて、自分の望みを言ってくれた桜。
これからもいてほしい。笑ってほしい。色々なコトを言ってほしい。わがままも。
この手を振り下ろせば、もう出来ない。
包丁を振り下ろすなんて、とても簡単なコトなのに、それがどうしても出来ない。
『俺は、桜だけの正義の味方になる』
分かっていた。決まっていた。
あの時、桜を抱きしめた時から、俺の心は決まっていた。あの瞬間、俺は俺の人生を否定した。自分を騙し続けると誓った。
例え、他の何を無くすコトになろうとも。
俺は桜を無くさない。無くさせない。
絶対に桜を守る。
――裏切るのか?
俺の理想が、そう聞いてくる。
衛宮士郎という人間の原点。あの大火災を、衛宮士郎はエミヤシロウを裏切るのかと。
「ああ――裏切るとも」
もう、こんな
俺は桜の側から離れ、また物音を立てないよう、部屋を後にする。そして、部屋から出ようとした時。
「先輩。――どうして、殺さないんですか?」
暗闇の中で、桜はそう聞いた。
「桜――」
桜の身体は震えている。その瞳は曇って、今にも泣き出しそうに揺れている。
俺が殺しに来た、からではなく。
俺に殺させようとしてしまった――そのコトを悔いて、謝罪するかのように。
「お願いします。私、自分じゃ怖くて出来ませんから。
――先輩になら、良いです」
その言葉は、あの日――あの土蔵で、桜が言った言葉だった。
ようやく、その言葉の意味を理解出来た。思えばあの時から、桜は自分の運命を悟っていたのかも知れない。
桜は恐怖を隠し切れていない。
きっと、今すぐにでも逃げ出したいだろう。
「―――桜」
何で、最初に気付かなかった。
桜の決意を。眠ったふりで、俺を生かそうとしてくれていた、桜の覚悟に。
「先輩の選択は、きっと正しいです。だって、悪いのは私なんですから。私はもう、いつまで自分でいられるか分かりません」
桜は震えながら、独白を続ける。
「…私、おかしな夢を見るんです。怖くて、いつも血まみれで、でもそれが楽しいって思えて――全部、悪い夢だった。
そこだと、わたしは悪いひとなんですよ。みんなから何もかもを奪って、笑ってるんです。それが怖くて、ずっと助けてって言ってたのに、誰も助けてくれなかった。
だから、みんなが殺されるのは仕方ない。助けないから助けられないんだって、見てみぬふりをして来ました」
でも――そういう夢を望んでいたのは、他ならない自分だと。
「臆病で、汚くて、ズルくて…嫌いで、恨むコトしか出来ない。楽しいなんて思った私が悪かった。私が全部、悪かったんです。あんな夢を見る私なんて、最初からいちゃいけなかった。
きっと、私はアレしか分からなくなる。先輩のコトも分からなくなって、みんなを殺して回る悪者になるんです」
だから、と。
私が悪いわたしになる前に、終わらせてくれと。
それで私は救われる、なんて――
「――あ」
包丁を投げ捨てて、桜を抱き留めた。
震えて冷たい、彼女の身体。背中を掻き毟るかのように、ありったけの力で、桜を受け止める。
死ぬのは怖いのに。
本当は死にたくなんてないのに。
殺してくれ、と乞うた桜は、恐怖に強張った身体を緩めて。
「ダメ、です――それじゃ、先輩を傷付け…」
「傷なら付いてる。これからのコトじゃない、今までにだ。今まで、桜を守れなかった」
桜の頬から、涙が溢れる。
俺の背に手を回して、桜は泣き始めた。
「俺が守る。俺がちゃんと、桜を守る」
雨の夜で、俺はそう誓った。
桜の味方になる、と。もう後悔なんて無い。
俺が謝り、乞うべき相手がいるとしたら、それは一人だけだ。
桜、赦してくれるか?
俺が、俺を裏切るコトを―――
第二章も残り一話を残すのみになりました。
終わったら第三章に入るんですけど…劇場版のネタバレが有るという大問題ががが
次回「ラストピース」