Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》 作:アグニ会幹部
戦いってのは、ノリの良い方が勝つんだよ!
そんな訳で、今回から第三章「spring song」です。
劇場版HF第三章の範囲になりますので、少なからずネタバレが有ります。
くれぐれもご注意を払われますと共に、ネタバレNGの方は自衛して頂きますよう、お願い申し上げます。
なお、今こうして警告致しましたので、以降は「ネタバレじゃねーかフザケんな」などの
こちらもご了承下さいませ。
#22 フィナーレ・リプレイ
息を切らしながらも、士郎は間桐邸へと到着した。ずっと全力疾走していた為、もう肺は限界に近い。
しかし、息を整える時間も惜しく、士郎は桜の部屋へと飛び込んだ。
「桜…!」
部屋の中に、桜の姿は無かった。
ただベッドの上に、ここで何が起きたかを物語るモノが残されていた。
「――慎二?」
赤く染まったベッドに、うつ伏せになって間桐慎二の遺体が転がっている。
それを見た瞬間、士郎は――桜がやったのだろうと、直感的に理解してしまった。
慎二だったモノを仰向けにすると、喉笛を引き裂かれて殺されているコトが分かった。その目は見開かれたままであり、一瞬で殺されたのだろうと言うコトも。
友人の死を痛ましく思い、士郎は慎二の目を伏せさせる。そして、慎二の遺体をベッドの上に、優しく丁寧に寝かせた。
『来たか、衛宮の小倅。しかし、些か遅かったようじゃの』
その時――部屋に、間桐臓硯の声が響いた。
声だけで姿は見えないが、士郎は嫌悪感を隠すコトも無く、臓硯に向かって叫ぶ。
「臓硯――テメェ、桜に何を…!」
『何もしておらぬよ。見ての通り、不肖の孫が妹から返り討ちに逢っただけだ。騒ぎ立てるほどのコトでも有るまい。
いや――不肖の孫、と呼ぶにはもったいないかの。全く使えぬ欠陥品であったが、最期の最後にだけは、己が役目を果たしてくれたわ』
臓硯は嗤う。如何にも満足そうだ。
『桜をその気にさせるコトだけは、儂には出来なんだ。悲しいが、儂はちとアレに嫌われすぎてしまったからのう。
己が影を受け入れさせる為に、桜にはこの世に絶望してもらう必要が有ったからな。あやつの堰を壊せるのはお主か慎二、そのどちらかしか無かった』
士郎は怒りのまま、歯を食いしばった。
「テメェ…!」
『いやはや、あそこまで桜が我慢強く育つとは思わなんだ。自分から崩れぬ以上、誰かに崩してもらう他に無い。
欲を言えば、お主に桜を裏切ってほしかったのじゃがな。それならば、あのような半端な覚醒でなく、完全に影そのものへと変わり果てたであろうに』
――つまり、それは。
あの時、桜を殺そうとしていたなら。
包丁を振り下ろしていたなら、桜はそうなっていたと。
『だがまあ、ここまで至れば最早時間の問題。慎二の死で、アレはようやく己が罪を受け入れた。後は放っておけば、本能のままに人を食らい、その暴食故に自滅するであろう。
儂の仕事はその後と言うコトにな――』
士郎は、全力で壁を殴りつけた。
凛によって開かれたばかりの魔術回路を全力で駆動させ、ありったけの魔力が籠めた一撃。それで、部屋の中にいた蟲どもが全て、潰れて死に絶えた。
『
「黙れクソジジイ!! さっさと出て来い、八つ裂きにしてやる…!!!」
『残念ながら、そうは行かんな。マキリ五百年の宿願に、ようやく手が届いたのだ。ここで殺される訳にも行かぬし、ここでお主を殺すほどの恩知らずでもない』
臓硯はいけしゃあしゃあと述べたてる。
その言葉の全てが、士郎を苛立たせている。
「恩だと――!?」
『そうだ。お主は桜をああまで育ててくれた。よくぞあの娘に、他者を欲する感情を教え込んでくれたものよ。儂はお主が思う以上に、お主に感謝しておる。お主がいなければ、此度の儀は成功しなかったであろうからな。
故に、儂はお主を殺さぬ。お主には、見事成長したアレの姿を、しかと見てもらわねばならぬかのう…!』
怒りに身体を震わせる士郎を更に煽り立てるのは、部屋に響く臓硯の哄笑。
『最早、誰にも止めるコトは出来ぬ。自らの意思で人を殺した以上、アレのブレーキは完全に壊れた。
アインツベルンの聖杯――あの人形が持つ、門に至る鍵を奪う。さすれば、それで終わりよ。
マキリ五百年の悲願。
アインツベルンの聖杯。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを奪う――臓硯は、確かにそう言った。
「―――ッ!」
気付いた瞬間、士郎は走り出した。
この場にいない臓硯など、今は相手にしても仕方が無い。一刻も早く、衛宮邸に戻らなければ――!
『そうだ、せいぜい急ぐが良い衛宮士郎!
既に桜は黒化しておる。イリヤスフィールを捕らえたならば、容赦無く飲み下すだろうよ――!』
◇
早朝、衛宮邸の庭で、起きて着替えたばかりのイリヤは空を見上げていた。起きた直後には晴れていたハズなのに、今は鈍色の雲が空を埋め尽くしている。
「――もう、起動が始まってるのね」
イリヤは誰に聞かせるでもなく、呟いた。
既に「門」は開かれた。本来その役目を果たすハズのアインツベルンの聖杯にではなく、マキリの聖杯によって。
不完全な聖杯が起動したコトで、中に棲まうモノが漏れ出て来た。その結果があの「影」であり、それはアインツベルンの聖杯にはどうするコトも出来ない。間桐臓硯は、同じモノを開いたつもりで、違うモノを開いたのだから。
そんなイリヤの背後には、一人の少女が迫っていた。
少女は表情を隠したまま、イリヤに手を伸ばし――
「お帰り、桜。何処へ行ってたの?」
それは、凛の一声によって阻止された。
桜は俯いたまま、凛を睨み付ける。凛は左手を構えて、淡々と桜に言う。
「イリヤから離れなさい。撃つわよ」
イリヤは桜から離れ、対峙する姉妹を端から見るように、中庭の端へと歩いて行く。
桜は嫌悪感を隠すコトも無く、凛に告げる。
「――本当に嫌な人ですね、姉さんは」
「あら。アンタの方がよっぽどよ? アンタはアンタを守るって言った奴を、最後まで信じてやらなかった。救いようの無い大バカだわ」
その言葉で――桜は、口元を歪めた。
「心配しないで下さい、姉さん。私は強くなったんです。これからは私が、先輩を守ってあげるんですから」
桜の全身に、赤い刺青のような模様が走る。
その足元の影が、曇りの日には有り得ないほど、真っ黒に染まっている。
「…!?」
それを見て、凛はほんの半歩ほど、後退してしまった。
――その焦りこそが、間桐桜の背を押す、最後の一手となるとは気付かずに。
「あら。どうしたんですか、姉さん。もしかして――わたしに怯えているんですか?」
凛が己が失態に気付き、舌打ちする。
しかし、もう遅い。何もかも手遅れだ。
「…そう。もう部屋で大人しくしてるつもりは無いってコト」
「ええ。姉さんの言うコトなんて聞きません」
桜の足元から、影の触手が無数に伸びた。やがて桜は影に覆い尽くされ、円形に集束した影が、花が咲くかのように一気に開かれる。
「――だって。わたしの方が、強いもの」
白い髪。赤い瞳。黒い影のドレス。
――マキリの杯が、姿を見せた。
「桜、アンタ――!」
「…そう。そこまで同化したのね、サクラ」
凛が狼狽し、イリヤは眼を細める。
同時に、イリヤは実感した――聖杯としての機能は、桜が自分を遥かに上回っていると。
「来なさい、セイバー」
桜が指を鳴らすと、地面に広がった影がせり上がり、黒化したセイバーが姿を見せた。桜と同じく、白い髪と赤い瞳、黒き鎧を纏った、変わり果てた姿を晒す。
「アインツベルンの聖杯を捕らえなさい。
要るのは心臓だけだから、他は無くても構わないわ」
「―――」
セイバーは無言のまま、イリヤの下へと歩み出す。一方、凛は懐から宝石を取り出し、セイバーと桜に向けて投げつけるが――
「ッ!」
セイバーの対魔力により、凛の宝石魔術はその全てが無力化させられた。
「その程度でどうにかしようだなんて、姉さんは随分と可愛らしいですね――ホント、不愉快だわ」
桜が手をかざすと、無数の影が超速で伸び、凛へと襲いかかる。凛の動態視力を遥かに凌ぐ速度で迫る、その触手は。
飛来した黄金の魔力弾により、全てが撃ち落とされた。
魔力弾の全ては影が吸収したとは言え、攻撃を阻まれた桜は、思わず魔力弾が飛んで来た方向を見上げる。そこには――
「それ見たコトか。ものの見事に踊らされて帰って来るとは、期待通り過ぎてつまらぬぞ娘」
自身の背後にバビロンの門を展開した黄金の王、ギルガメッシュが立っていた。
彼は衛宮邸の塀の上に君臨し、蛇のような眼で桜を見下ろしている。十ほど展開された波打つ門からは、黄金の魔杖がその穂先を見せており、そこから魔力弾を放ったのだろうと桜は予測した。
「全く――この
先日、既に最上級の武具を何本も呑まれているギルガメッシュは、慢心を多少捨て去って桜を見下す。桜はそれで、気分を害したらしい。
「――勝てもしないクセに、偉そうですね」
「当然だ。
笑いながらそう宣ったギルガメッシュに、桜は無数の影を伸ばす。ギルガメッシュは魔力弾を放ちつつ、防ぎ切れないコトを悟って跳び上がり、影を回避した。
「うっとうしい――セイバー」
桜に呼ばれ、セイバー…アグニカ・カイエルは指を鳴らした。すると、足下を覆い尽くす影から、突如として――桃色の光が、吹き出した。
「ほう――」
ギルガメッシュは自身の前に盾を幾つか展開し、その光…ビームを防ぐ。弾かれたビームは四散し、ギルガメッシュの背後の壁を粉砕し、溶解させていく。
続いて、影から白い巨躯が現れた。
尻尾のようにワイヤーブレードを振り回し、三本の鋭い爪が地に噛みつき、二本の腕によって、その胴体と翼が影から持ち上げられる。
モビルアーマー、ハシュマル。
厄祭戦で人類が戦った、無人兵器の一機。それは、他ならぬアグニカ・カイエルの手によって、冬木の地に姿を現した。先ほどのビーム攻撃も、この白き天使が行ったモノである。
「面白い――厄祭の英雄とやらめ。期待はしていなかったが、存外に興じさせるではないか」
翼を堂々と広げた、五メートルほどの殺戮の天使を見上げながら、ギルガメッシュは笑う。一方、凛などは理解が追い付かず、叫ぶばかりだ。
「な、何よアレ――!」
「あら。よそ見はダメですよ?」
凛の意識が完全にハシュマルへ向いた瞬間――桜が伸ばした影が、凛の身体を貫いた。
「が…!?」
腹を貫かれて吐血する。桜は身体を震わせ、恍惚として舌で唇を舐め回す。
「うふふ…ああ、魔術師から魔力を吸うのは初めてですね。全然足りないけど――とっても、とってもおいしいですよ」
「さ、くら――アン、タ…!」
「さようなら、姉さん。貴女はもう要らない」
続く二本の影が、凛の右胸と左肩を貫く。
ショックで意識を失った凛を、桜は適当に放り投げた。
「悪いな。これも命令だ」
「――!」
巨大な天使を見上げていたイリヤの背後に、黒い剣士が回り込み――首元に手刀を入れ、昏睡させた。倒れ込んだイリヤの身体を、アグニカは左手で受け止める。
「桜―――!!」
その時、息を切らした士郎が、衛宮邸へと帰還した。場を見回した士郎は、状況を把握しきれず、思考を停止させてしまう。
黒化した桜。
気絶したイリヤを横抱きにするセイバー。
血まみれで倒れた遠坂。
巨大な天使のような、得体の知れない怪物。
それを前に笑うギルガメッシュ。
中庭を埋め尽くす黒い影。
まさしく
「先輩――見てください。私、こんなに強くなったんですよ」
顔を歪めて嗤う、黒い桜。それを見て、士郎の思考は戻った。すぐにまた、グチャグチャにかき乱されたが。
『桜よ。アインツベルンの礼装、天の
「――はい、お爺さま」
臓硯の声がした。
それを受けて桜は踵を返し、影に覆われて消えて行く。出現していた巨大な天使も、同様に影へと姿を消して行く。
「――桜…!」
桜に向かって駆け出そうとした士郎の前に、アグニカが立つ。左手でイリヤを抱えたまま、右手に持った紅蓮の剣の切っ先を、士郎の喉元へと突き付けた。
「退け、士郎。お前がこれ以上邪魔立てするのなら、俺はお前を斬らねばならなくなる」
「…どいてくれセイバー、俺は桜を――」
「退けと言っている。
――俺の剣は、あらゆる敵を斬り裂いてきた。故に、物理的な物も概念的なモノも、この剣の前ではサビとなるしか無い。そうはなりたくないのなら、ここは退いておけ。死んでは、何を為すコトも出来なくなるぞ」
アグニカがそう言う間に、桜は影の中へと消えていて、中庭に広がっていた影も中心に集まっている。アグニカは剣を納め、イリヤと共に影へと沈んで行った。
「クソ―――!」
嵐が過ぎ去ったところで、士郎は地面を殴りつける。結局、何も守れなかった。何も、出来なかったのだ。
「…遠坂? 遠坂!」
ふと気付き、士郎は凛に駆け寄る。
意識が無い上、出血が酷すぎる。このままでは、本当に死んでしまうだろう。
「しっかりしろ、遠坂!!」
士郎は上着を脱いで凛の傷口に当てるが、服はみるみるうちに赤く染まっていく。血が止まる気配は無い。しかし、士郎ではこれ以上、どうするコトも出来ない。
「――雑種、言峰に連絡しろ」
「…!」
ギルガメッシュの言葉を受けて、士郎は冬木教会に電話した後、とにかく出来るだけの止血措置をする。連絡して十分も経たぬ間に、言峰は衛宮邸に到着した。
◇
数時間にも及ぶ言峰の治療により、凛は一命を取り留めた。士郎とギルガメッシュのいる居間に、治療を終えた言峰が入って来る。
「…遠坂は」
「無事だ、案ずるコトは無い。とは言え、未だに意識不明だ。目覚めたとしても、しばらくは絶対安静――戦闘など以ての外だな」
胴体に穴が二つも空き、左腕などは千切れかけるほどの大怪我。魔術刻印が汚染されるコト無く無事だったのは、せめてもの救いか――と、言峰は述べた。
「して衛宮士郎。お前はどうするつもりだ?」
「イリヤを取り戻しに行く。これ以上、臓硯の好きにさせてたまるか」
聞かれるまでも無いコトだった。
竹刀袋に入った黄金の剣を握り締めて、士郎はそう即答した。
「取り戻す、か――アレは所詮、此度の聖杯戦争の為に造られただけの人形だ。生き残ったとしても、そう長くは保つまい」
「そんなの関係有るモンか。俺の自己満足だとか言われても知らない。俺はイリヤを、助けたいから助けるだけだ」
ギルガメッシュの言葉を受けても、士郎の意志は一ミリもブレない。続けて黄金の王は、士郎に問う。
「では、あの聖杯となった小娘はどうする?」
今度は、一瞬、言葉に詰まった。
どうするかと言えば、助けるしか無いが――どうやって。一体どうすれば良いのかが、分からないのだ。
しかし、そんなコトは関係無いと考えるのをひとまずやめ、士郎は答えた。
「桜も助ける。絶対に連れ戻してやる」
当たり前だ。好きな子を助けるのに、理由など必要無い。
「何処へ行く気だ、衛宮士郎」
「アインツベルンの城だ。多分あそこに、桜もイリヤも臓硯もいる」
それを聞き、ふむ――と、言峰は頷き。
「イリヤスフィールを攫われたと言うなら、私も静観は出来んな。お前一人では、荷が重いコトでもあろう」
「――は?」
「ほう?」
その言葉に士郎は耳を疑い、ギルガメッシュも反応した。…言峰は今、士郎に手を貸すと言ったのだ。
「不服か?」
「…いや、不服どころかありがたいけど――何でだよ?」
「相手は最大勢力。イリヤスフィールを救出する為には、協力出来る限り協力すべきだろう。例えその相手が、お前であろうとな」
士郎と言峰の利害は一致している。
疑問符を浮かべつつ、士郎は「勝手にしろ」とぶっきらぼうに返した。馴れ合うつもりは、士郎にも言峰にも無い。
「教会に車が有る、乗せてやろう。持つべき物は持て」
「あ、ああ」
持つべき物、と言われても、士郎の手元に有る中で臓硯や桜に対抗出来そうな武器はセイバーの剣しか無い。今も持っているので、出発はすぐにでも出来る。
「どういうつもりだ、言峰」
「何――私としても、あの老人には少しばかり因縁が有るのでね」
ギルガメッシュの問いに、言峰はそれだけを返した。ギルガメッシュは目を細めたが、今は悠長に会話している暇など無い。
「――行こう」
「良し」
そして、士郎と言峰、ギルガメッシュの三人は衛宮邸を後にした。
原作でも士郎と言峰のコンビはなかなかの絵面だったんですが、ギルガメッシュが増えて更におかしなコトに。
絶対に相容れないラスボスと協力するの好き。
次回「サクスィード・フロム・ディープ」