Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》   作:アグニ会幹部

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3月2日は間桐桜ちゃんの誕生日なので、盛大な祝福をしなければならない!(気が早い人)
とりあえず、ufotableが出した桜ちゃん誕生祭の絵が尊くて死にました。
桜とライダーの組み合わせはとても良いぞ。

というか、第三章の公開舞台挨拶は厳しい感じですよね…厳しくない?
そもそも公開日はそのままなのか…(ドラえもんを見ながら)


#23 サクスィード・フロム・ディープ

 士郎は教会で言峰が運転する車に乗り込み、郊外の城へと続く道を駆ける。日は既に沈み、世界は再び暗黒に包まれた。

 車は黒く、運転席と助手席が一つずつ、後部座席が三つと比較的大きめの車だ。後ろのボンネットには、言峰が武器を乗せまくった。

 運転席に言峰、助手席に士郎、後部座席にギルガメッシュ。後部座席は赤い布に覆われており、ザ・成金と言った服を着た黄金の王が、そこにふんぞり返っている。

 

「――言峰。お前、桜が聖杯だって気付いてたのか?」

 

 ふと思ったコトを、士郎は言峰に聞く。

 言峰は前方へ視線を向けたまま、答える。

 

「勿論。あの娘の身体を開いて、その中を見たのだからな。間桐桜に聖杯の欠片が埋め込まれており、間桐臓硯の調整で、黒き聖杯になりつつあるコトは分かっていた」

「…だったら、何で言わなかった!?」

「心外だな。私は忠告したぞ――救いようの無い女だ、とな。そしてその上で、どうするかとお前に問うたハズだ」

 

 言峰の言葉は、確かに事実だ。

 きっと今も、士郎以上に桜の容体について知っているのだろう。

 

「――何で、桜を助けた? お前にそんな義理は無いだろう」

「お前と同じように、私も間桐桜を死なせたくなかったと言うだけだ。アレが内包する、新しい命をな。――人間はいつか死ぬ。死ぬのが間桐桜、一人だけだったならば、私もああまで手を尽くしはしなかっただろう」

 

 つまり、それは。

 あの「影」を生かす為に、桜を生かしたと――そう、士郎は受け取った。

 

「傷を負い、息絶える――それは自然の摂理だ。だが、誕生しうるモノ、生まれようとするモノを殺すコトなど出来ん。

 お前は間桐桜を救う為、彼女を保護した。私は間桐桜が孕んだ闇を救う為、彼女を救った。互いに目的は違えど、間桐桜には生きていてもらわねばならなかった。その結論に、何か不満が有るとでも?」

 

 言峰の言う通り、士郎に不満は無い。

 結果的に、言峰は桜を助けたのだから。

 

「言峰――あの影について、何を知ってる?」

「まあ、私なりの考えならば有る。お前はどうだ? アレは一体、何だと思う?」

「…臓硯は、聖杯の中身だと言っていた。聖杯の中に有るモノが、桜と言う不完全な聖杯から漏れ出てるって」

 

 それを聞いて、言峰は多少驚きを見せた。

 

「臓硯に直接聞いたのか?

 ――成る程。確かに、あの老人の考えそうなコトだが…それで、お前は奴の言葉を全て信用したと?」

「あんな奴、信用出来る訳無いだろ」

「ああ。だが、少なくとも嘘は無いだろうな」

 

 と、言峰は述べた。

 そして、間髪入れずに続ける。

 

「同時に、真実を語ってもいない。

 聖杯に満ちる力は無色。人の願いと言う目的が無ければ、その力を発揮するコトは無い。それが勝手に人を襲っているなど、随分とおかしなコトだ」

 

 ――確かに、言峰の言う通りだ。

 ではどうして、聖杯から漏れたモノが、人を襲ったりしているのか。

 

「では何故、と言いたげな顔だが――答えは至極簡単だ。()()()()()()()()()()()()()()()()

「ッ、それこそおかしい! 聖杯の力が無色なら、目的を持ったモノなんて――」

「いいや。アレは確かに、聖杯に潜んでいる」

 

 そう、言峰は確信を持って断言した。

 

「十年前、私と衛宮切嗣が聖杯を懸けて戦ったコトは言ったな。少なくともその時点で、聖杯は汚染されていた。無色であるハズの聖杯の力は、あらゆる解釈を以て人を殺す『渦』となっていたのだ」

 

 第四次聖杯戦争――その最後の舞台は、現在は新都の中央公園となっている場所に有った、冬木市民会館だった。そこで衛宮切嗣と言峰綺礼は戦い、共に聖杯の泥を浴びた。

 結果として、衛宮切嗣は自らのサーヴァントであったセイバーに聖杯を破壊させ、大聖杯からは「この世全ての悪」が漏れ出した。その果てが()()、冬木大災害である。

 

「じゃあ、あの黒い穴は」

「そう、アレが聖杯の『(あな)』だ」

 

 例えるなら、水に一滴の絵の具を垂らすようなモノだ。穢れ無き最高純度の魂をくべる器であるハズの聖杯は、無色であったが故に、たった一粒の毒により汚染された。

 

「アインツベルンは三度目の戦いで、喚んではならぬモノを喚んでしまった。聖杯が汚染されたのは、その不純物の為だ。

 『人を殺す』コトに特化した呪いの渦、人間の悪性を具現化した混ざり気の無い魔――それが影の本体だ。もっとも、まだ誕生してはいない。未だに間桐桜がいなければこの世に影すら落とせない、出産予定児に過ぎぬがな」

 

 聖杯の中身(アンリマユ)は漏れているのではなく、間桐桜に浸透するコトで、この世に生まれ落ちようとしている。

 故に、あの「影」は聖杯の中身ではない。

 アレは「間桐桜」そのもの――力の継承が済んだ時こそ、間桐桜自身があの影に変貌する。

 

「アインツベルンの聖杯ならば、こんな事態は起こっていない。聖杯の中身が呪いに満ち満ちていようと、それに適合するだけの依り代ではないからな。

 マキリの聖杯――あの呪いに適合する依り代でなければ、ああしてカタチを得るコトも無かっただろう。呪いは間桐桜と言う最適の依り代を得て、その身体を蝕み始めている」

 

 誕生を控え、生まれ出ようとするモノを止めるコトは出来ない――そう、言峰は言った。

 善悪は発生した後、決められるモノだ。有りもしないモノを否定するコトは出来ない。それは、犯罪者の子は必ず犯罪者だと、決めつけるコトに同じだ。

 

「…アレは、もう人を殺してる――だったら、それは悪なんじゃないのか?」

「無論、アレは罪も罰も与えられるべき存在だろう。だが、それは誕生してからの話だ。孵らざるモノ、未だ世に無いが故に罪科を問われぬモノを排斥するコトは出来ん。明確な悪の定義など、この世には存在しない」

 

 人を殺す、と言うコトは悪だとされる。

 だが、戦争へ出た兵士が敵兵を殺したとしても、その兵士が殺人罪を問われるコトは無い。それどころか、自国では「英雄」として扱われるだろう。

 このように、立場の違い、状況の違いで、善悪はいとも容易くひっくり返る。故にこそ、人の善悪の定義に価値は存在しない。善悪とはあくまで、主観的な判断に過ぎないのだ。

 

「だが――それでも、この世に『悪』が在るのなら。生まれ出ようとするモノを止めるコトこそが、絶対の『悪』ではないか?」

 

 それが、言峰綺礼と言う男の考えだ。

 コイツとは絶対に相容れない、と改めて士郎は実感した。

 

「衛宮士郎。お前は間桐桜を助ける、と言ったが――お前はそれで良いのか?」

「…? 何がだよ?」

「間桐桜が聖杯でなくなったとしても、あの娘が人を殺した事実に変わりは無い。何せ、実の姉すら殺そうとしたのだからな。

 その罪人を――お前は擁護すると?」

 

 士郎はその問いを前に、凍結した。

 

「耐えられぬのはお前だけではない。間桐桜自身、多くの人間を殺した自分を容認出来るとは思えんがな。罪を犯し、償えないまま生き続けるコトほど、辛いコトも無かろう。

 ならば、一思いに死なせてやった方が、幸せなのではないか?」

 

 それが無意識のコトだったとしても、加害者は必ず罰せられねばならない。桜を法で裁くコトは出来ないが、奪われた者がいる以上、奪った者がのうのうと生きるコトなど赦されない。

 それに――このまま桜が聖杯になるのなら、今まで以上に多くの人命が失われる。ならば、殺してやるコトの方が、双方にとっての救いになるのではないか。

 

「ッ―――」

 

 士郎は、せり上がって来た胃液を飲み下し、自身の常識、理想を斬り伏せて。

 

「―――けど、それは償いじゃない」

 

 その言葉を。

 言峰は、何を思いながら聞いたのか。

 

「…ならば、止めはせん。せいぜい、背負いたいだけ罪業を背負ってみせるが良い。

 何であれ、間桐桜を救うにせよ救わないにせよ、間桐臓硯だけは殺さねばならない。奴は間桐桜の精神が消滅した後、空になった肉体へ乗り移る腹積もりだろう。アレの本体は、人体に寄生する蟲だからな。そして奴の本体は、間桐桜のどこかに隠れている。乗っ取りも易い」

 

 聖杯への願いは「不老不死」だが、既に臓硯は独力で半分実現しているようなモノだ。何せ執念で、五百年もの時を生きてきた怪物――そこらの近代の英霊より、前の時代を生きている。

 臓硯の魂を現世に留めている、手のひらほどの本体を桜の体内から探し出して殺すか――魂そのものを浄化するかしなければ、臓硯を滅ぼすコトは出来ない。

 

 やるコトは決まっている。

 

 イリヤを奪還する。間桐臓硯を殺す。桜によって現れる聖杯を制御し、間桐桜の身体に住まう蟲と影を聖杯の力で殺す。

 

「取り返しのつかぬ罪を背負い込み、その生を全うするか。結局人間は、そんな視点からしか物事を考えるコトが出来ん。だから『死んでおけ』と言ったのだがな」

 

 言峰に代わり、静聴していたギルガメッシュが口を開いた。

 王にして裁定者たる彼にとって、人間を間引くコトは当然のコトだが、当の人間にとってはそうではない。それをギルガメッシュは、心から哀れんでいる。

 

「助かったとしても、アレは己が罪の意識に押し潰されるだろう。言峰の言う通り、アレではもう死なせてやるコトだけが救いとなる。もう一つの聖杯として目覚めた今、アレの意識が消え去る時も近い。

 今一度問おう。――それでも貴様は、アレを生かすと言うのか?」

「…そうだ。桜が桜を赦せないって言うなら、俺が桜を赦す。桜が背負わなきゃいけない罪なら、俺も一緒に背負う。そう誓ったんだ」

 

 もう迷わない。

 間桐桜を絶対に救うと、士郎は決めている。

 

「――では、(オレ)が一つ、貴様に助言をしてやろう。貴様は贋作者(フェイカー)…いや、最早偽物(フェイク)ではないか。

 とにかく、貴様は真似る者に過ぎん。あらゆるモノを複製し、悉くを模倣する。(オレ)からすれば不愉快だが、その投影こそが、貴様に唯一為せる業だ。ゆめ心得ておくが良い」

 

 ギルガメッシュがそう言うのとほぼ同時に、言峰はブレーキをかけた。

 

「さて――着いたぞ」

 

 車が止まり、三人はそれぞれ外へ出る。

 言峰は車のボンネットを開け、士郎へとある武器を投げ渡した。

 

「これって…?」

「黒鍵と言う、聖堂教会の霊装だ。元々は異端を狩る為の物でな。サーヴァントに対しても、一定の効果が期待出来るだろう。だが――可能な限り、それを使う機会が無いようにしろ」

 

 赤い柄に、魔力で精製された刀身。柄は完全に片手用だと言うのに、長さ的にはセイバーの剣より少し短いぐらいなので、全体のバランスは少し悪い。

 投擲にも使える、と言峰は付け加えた。むしろそちらの方が本来の用途だ、とも。

 

「車は此処に置いておき、鍵はお前に預ける。例え一人で戻って来たとしても、これで戻れ」

「待て、俺は運転なんて出来ないぞ?」

「やり方くらいは知っているだろう。徒歩で逃げるよりは、幾分マシだと思うがな」

 

 問答無用で、言峰は士郎に鍵を投げる。

 無免許で良いのか、とも思ったが、命の危機にそんなコトは言っていられない。山道で他の車と出会うコトも無いだろうし、街に入る前に降りれば良い。

 

「行くぞ、衛宮士郎。時間が無い」

「――ああ」

 

 そして、三人は敵地へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

 アインツベルン城内、大広間。

 正面玄関から入ってすぐ、赤い絨毯の敷かれた階段が中心に置かれたそこは、客人を出迎えるべく荘厳に仕上げられている。

 

 しかし、今はもう見る影も無い。

 中心に立つ間桐桜が、悶え苦しむと共に蠢かせる「影」によって、大広間はメチャクチャに荒らされている。置かれた調度品は全て粉々にされ、階段や二階渡り廊下は崩落し、シャンデリアは落下し砕けた。影は秩序無く暴れ回り、触れた物全てを破壊する。

 

「あ、ああ――!」

 

 間桐桜は、ずっと苦しみに支配されている。

 「影」との一体化を目前とし、なおも桜は自我を失わぬよう抵抗している。その結果だ。

 

 元々、この世界に有ってはならないモノ。

 

 魚が陸上に出るのと同じだ。そこでは呼吸すらままならない。世界の全てが、間桐桜という異物を拒絶している。己が肉体すら、今の彼女にとっては煩わしい。

 

「―――」

 

 影に犯された少女は、懸命にも抵抗する。その様を、側に立つ黒き剣士は、何の感情も抱かずに眺めているだけ。

 壊れっぷりはなかなかだと期待したが、いざとなれば、間桐桜は完全に壊れきらない。もう壊れるしか無いと言うのに、哀れで健気な少女は、必死の抵抗を続けている。

 

(全く、つまらんな。壊れてしまえば、楽になれると言うのに)

 

 ただ、剣士はそう思うだけ。

 一方で、彼女をそうなるよう唆した怪物は、さぞやご機嫌である。

 

「そろそろ頃合かのう」

 

 間桐臓硯は、二階から暴れ苦しむ桜を見下ろしている。その側には、アサシンのサーヴァント――三日月・オーガスが立っていた。

 

「全く――とっととセイバーを解かしてしまえば良いモノを。単に度胸が無いだけか、小娘なりの浅知恵か。儂に対する牽制なぞ無駄、儂には敵わぬと理解しておるハズじゃがな」

 

 サーヴァントを現界させておく為に、間桐桜という小聖杯は、大聖杯から魔力を引き出さねばならない。だが、大聖杯からは魔力と共に、呪いも流れ込んで来る。

 彼女はサーヴァントを生かしておく限り、自ら変貌を速めるコトになっている。臓硯が手を下すまでもなく、直に変わり果てるだろう。

 

「嗚呼、全くお前は素晴らしいぞ桜。ただの実験作のつもりじゃったが、よもや儂に『不老不死』を授けてくれようとは――!」

 

 臓硯は、桜へ愛情を注いでいる。

 自分が求め続けてやまないモノを、間桐桜は与えてくれるのだ。これを愛さずして、一体何を愛せと言うのか。

 

 桜がどれだけ抵抗しようと、無駄なコトだ。

 間桐臓硯は、十一年前から間桐桜の優位に立ち続けている。桜がどれだけの力を持ち、最優のサーヴァントを従え、未だに理性を残そうとも、全く意味は無い。

 

 ――この老人は目を閉じ、目を覚ますだけで、間桐桜を完全に殺すコトが出来る。

 

 彼は歪んでいる。人が生きるにはあまりに長すぎる時を生き、人が味わうにはあまりに苦しいコトを、自らの身に課してきたが故だ。

 結果、彼は腐敗し、忘却し、狂い、歪み、爛れてしまった。

 

「ホホ、苦しいか桜? だが耐えよ、お前であらば耐えられよう。十一年もの間、何の為に愛する孫娘を壺毒に晒して来たと思う? 何千という責め苦、何万という蟲に身体を弄ばせ、蹂躙させたのは何の為だと思う?

 全てはこの為だ。世界に否定されるから何だと言うのだ! 儂はお前をそのように育て上げた! そのように鍛え上げたのよ――!」

 

 影に蝕まれる桜の、声にもならぬ絶叫は、確かに臓硯の耳に届いている。そして、臓硯はその命乞いに、満面の笑みで頷く。

 

 臓硯にとって、間桐桜の精神などどうでも良い。影を受け入れるコトで苦痛から逃れた桜では、聖杯から溢れ出る呪いを受け止めるコトは出来ない。そんなコト、臓硯は初めから百も承知している。

 必要なのはただ、聖杯に潜む怨念と一体化した肉体のみ。完全なる聖杯、万能の願望機として完成したそれで、臓硯は死を克服するのだ。

 

「天の門を開くは、アインツベルンの聖杯の役目。正装を整えるまで、好きにさせておくしか無いのはちと業腹じゃが――今更、刃向かいもすまいて」

 

 聖杯の完成はマキリだけでなく、アインツベルンにとっての悲願でもある。それが間近に迫っており、自らの力が必要とあらば、イリヤスフィールが臓硯に逆らう理由は無い。

 

 

 その時――正面玄関が、吹き飛んだ。

 

 

 

   ―interlude out―

 

 

 

 

 扉が周囲の壁ごと粉砕され、煙が大広間に充満する。その煙幕を破って、幾多もの黄金の魔力弾が、桜へと飛来した。

 

「―――」

 

 桜へ向かって直進するそれを、黒化せしセイバー――アグニカ・カイエルは、一本のみ握る紅蓮の剣を以て、その全てを両断せしめた。

 魔力弾が拡散し、影に吸われて消え去る。

 

「ほう――招かれざる客が来たか。よもや、自ら死地に飛び込んで来るとはのう。

 アサシン、奴の相手はお前に任せる。宝具を使ってでも、確実に仕留めるのだ」

 

 臓硯は嗤いながら、蟲へと還って飛び立ち、大広間から姿を消す。

 痛みに悶えていた桜は、それを受けて顔を上げ――黄金の王を、その視界に収めた。

 

 「英雄王」ギルガメッシュ。

 黄金の鎧を纏った最強のサーヴァントが、腕を組んで堂々と立っていた。顎を突き出し、見下す姿勢が取った彼の周囲には、魔杖の先端を見せる黄金の門が多数展開されている。

 

「――貴様」

 

 剣の切っ先を突きつけ、アグニカはギルガメッシュを睨み付ける。対する英雄王は、見下したまま言う。

 

「どうした雑種? さっさとあの、モビルアーマーとやらを出すが良い。アレとなら、少しばかり戯れてやっても構わんが」

 

 アグニカは口を閉ざしたままだ。

 その背後では、桜が口を歪め、嗤う。

 

「――来てくれたんですね、先輩。

 あの神父さんも一緒だなんて…バカなひと」

 

 桜にとって、ギルガメッシュは歯牙にかける必要の無い存在だ。サーヴァントである以上、桜に敵うハズも無いのだから。

 そして、その不敬はギルガメッシュを激昂させる。

 

「フン――そんなに死にたいか、小娘!」

 

 ギルガメッシュの背後に見て取れる魔杖が、黄金の魔力を解放する。桜に襲いかかるその攻撃を――アグニカの前に出た三日月が、巨大なメイスで弾き飛ばした。

 

「主を失った番犬風情が、この(オレ)に刃向かおうとはな――ハッ」

 

 体勢を低くし、無言で自らを睨む三日月を、ギルガメッシュは鼻で笑い飛ばす。

 

「虫ケラ如きに良いように扱われているだけの貴様に用など無いわ。そこな人形にも劣る悪魔モドキが、(オレ)の視界に入るなぞ不愉快極まる。疾くゴミとなり、(オレ)の前から消え去るのが道理であろう」

 

 門から見えていた魔杖が消え、代わりに宝剣宝槍宝斧が露わとなる。本来の「英雄王」たるギルガメッシュの戦闘法――黄金の光を纏う二十もの宝具を眼前とし、三日月は。

 

「―――」

 

 無言のまま、巨大メイスを持ち上げて腰を下げた。その眼は真っ直ぐに、ギルガメッシュを捉えている。

 

「無駄と分からず、無駄に足掻こうとはな――戯けめ」

 

 なおも嘲るギルガメッシュに、三日月(バルバトス)は突撃を仕掛けた――




次回「Don't let her die」
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