Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》 作:アグニ会幹部
というか、今日は鉄血的には「ガンダム・マルコシアス」の発売日だったんですが、諸事情で買えなくて泣いております。
いつか必ず手に入れます。
それで言うと「ガンダム・キマリス」や「ガンダム・アスタロトオリジン」、「ガンダム・ダンタリオン」とかの厄祭戦時代のガンダム・フレームを揃えたい。
刀身たる円筒の回転が停止し、ギルガメッシュは掲げていた乖離剣を下ろす。
エアによる空間切断――真名解放を行わずとも、その攻撃は圧倒的だ。吹き荒れた赤き暴風は、直撃せずとも城の屋根に敷かれたスレートを吹き飛ばし、範囲内にいた三日月を塵のように一蹴せしめた。
「――う、あ…」
纏っていた装甲のほぼ全てを剥ぎ取られた三日月は、エアが深々と傷付けた地面に転がっている。暴風の直撃を受けたレアアロイ製の巨大メイスは粉砕し、衝撃に強いハズのナノラミネートアーマーも砕け散った。今、三日月に残された武器は、背中のテイルブレードのみだ。
血反吐を吐きながら、地に転がる三日月はギルガメッシュを見上げた。
「フン…つまらぬぞ、雑種。それなりに興が乗ったが故に見せてやったが、これでは何の楽しみも無い」
ギルガメッシュが無感動にそう言い捨てて、三日月を見下ろした、その時――
「ま、だ…」
横たわる三日月の身体が、僅かに動いた。
それを見て、ギルガメッシュはほんの少し、その双眸を細める。
「まだ――止まれない」
全身に出来た傷から血を吹き出させながら、三日月はゆっくりと立ち上がる。首の骨も折れているらしく、頭から血を流しながらも、目を見開いてギルガメッシュを睨み付けた。
「ほう。エアの直撃を受けて立つとは、存外に粘るではないか」
そう評した後、ギルガメッシュが右手を上げると、その周囲に黄金の門が展開される。八門ほど開かれたバビロンの門からは、何かしらの原典たる宝具が、その姿を見せた。
三日月はその黄金の輝きを目にしながらも、テイルブレードを文字通り尻尾のように蠢かせながら、唇に滲む血を舌で舐め取る。
「『
その宝具の名を、口にした瞬間。
三日月の眼が、鮮血が如き赤の光を走らせ始めた。両脚が地面にめり込み、両手を地面に付いた状態で、テイルブレードが直上を舞う。
彼の姿は、人よりも獣に近かった。
リミッターの解除による、
それが、三日月・オーガスの宝具である。
「ウオオアアア――!!」
地面を思い切り蹴り、獣が飛び出した。
テイルブレードが先ほどまでとは比べ物にならないほどの速度で飛び、ギルガメッシュの喉元を貫くべく滑空する。
「――フン」
それを、ギルガメッシュは放った宝具で容易く撃ち落とす。撃ち出された宝具は更に空中で方向を転換し、三日月本人へと向かう。
「ウガアアアッ!」
眼前に迫った宝具に三日月は噛み付き、自身の後ろへと放り出す。二本の宝具が三日月の右肩と右胸に突き刺さり、出た血が宙を舞う。
しかし、屋根上のギルガメッシュに向かって飛び上がった三日月の速度は、落ちるコトを知らなかった。霊核さえ砕かれねば良い、と言わんばかりに、三日月はどんどん距離を詰める。
「獣畜生が、
青筋を浮かべたギルガメッシュは、宝物庫の門を追加で展開し、そこから次々と宝具を三日月に向けて撃ち放つ。二十を越すそれらを、三日月は霊核への決定的損傷だけを避けながら、確実に凌いで行く。他のどんな箇所を宝具が穿とうと、お構いなしに三日月は飛ぶ。
ついさっき弾かれたテイルブレードが再びギルガメッシュに迫るが、ギルガメッシュは放った宝具でブレードと本体を繋ぐワイヤーを切断せしめる。これで、武装はほぼ全て失われた。
「さあ――いよいよ後が無くなったな、雑種!」
嗤うギルガメッシュに対し、三日月は歯を見せて笑った。
充分だ。
奴がテイルブレードに気を取られている隙を突いて、射程圏内に捉えてやったのだから。
三日月の左手に、太刀が握られる。
右手はさっき右肩に宝具を食らったせいで、使い物にならなくなっているが――この太刀さえ有れば、ギルガメッシュの首を飛ばすには充分だと言えよう。
「届け―――!」
満を持して、三日月は太刀を振った。
懐に入ってからの、完璧完全な一撃だ。間違い無く敵の首を捉えた、と三日月は確信した。
(勝った…!)
終わった。
――ギルガメッシュが油断をしていたなら、あるいは決着が付いていたのかも知れない。
現在のギルガメッシュは違う。
「影」に脚を呑まれてからと言うもの、一度たりともギルガメッシュは油断していない。あの影に近い場所で戦っている今、慢心をギルガメッシュはほぼ捨て去っている。
「甘いわ」
三日月の振った太刀は、ギルガメッシュの前方に横向きで展開された門からせり出した宝剣に、弾かれてしまった。
「――ッ!?」
狼狽した三日月の周囲に、二十近い「
そして――それらの宝具が射出され、宙に浮いていた三日月の身体を貫いた。
続いて頭上から降り注いだ宝具は、三日月共々地面に突き刺さり、大爆発を引き起こす。爆煙が舞い上がり、小柄な三日月の姿を、完全に覆い隠した。
「ここまでだ」
ギルガメッシュは宝物庫から「ヴァジュラ」を喚び出し、煙の発生源へ向けて放った。それは一秒と経たず着弾し、再び巨大な爆発が発生して、煙がその場を覆い尽くして行く。
煙が晴れた時――そこには動かなくなって久しい、ズタズタに引き裂かれた三日月の身体が残されていただけだった。
「――ッ!」
三日月が倒れた直後、ギルガメッシュは自らが立っていた屋根から飛び退く。その半秒後に黒い「影」の触手が、屋根を下から突き破って現れた。
宝物庫内に納められた宝具の効果で、宙に浮き上がったギルガメッシュは、少し離れた地点に着地する。
「ほう――世界に拒絶され、さぞ苦しいであろうに、わざわざ出て来ようとはな」
ギルガメッシュは顎を引き、影を支配する者――マキリの杯と化した、間桐桜を睨みつけるように見据える。
黒化したセイバー…アグニカ・カイエルを侍らせた桜は、口元を歪めて邪悪に嗤った。倒れたアサシンの死体が「影」に覆われ、マキリの杯へと還って行く。
「そこまで変わり果てて、まだ喰らうか。自ら壊れてまで苦を投げ出したと言うのに、変わらずに破滅の道を歩み続け、苦しみ続けようとは――つくづく、あの時死んでおけば良かったモノを」
「あら。わたしは後悔なんてしてませんよ? だって、こうなってからわたし、すごくタノシイんです。アナタも食べてあげましょうか?」
目を見開きながらそう宣う壊れた女を、ギルガメッシュは鼻で笑い飛ばす。
「ハッ。
「…身の程知らずはアナタでしょう。サーヴァントのクセに、私に勝てるとでも思ってるんですか? ――いやなひと」
アグニカが動き、ギルガメッシュに向かって突撃する。そしてそれすらも超える速度で、影の触手が、ギルガメッシュへと一直線に突き進む。
明確な「死」を目前として、英雄王は。
「一掃せよ、エア」
右手に握られていた乖離剣エアを掲げて、赤い暴風を撒き散らした。
「!!」
世界を斬り裂く剣の一撃を前にしては、流石のアグニカも一転して後退し、回避に徹した。影は勇敢にも突き進んだが、暴風に触れた瞬間ズタズタに切断され、千切れて弾け飛ぶ。
「ッ――!」
サーヴァントに絶対優位であるハズのマキリの杯さえ、赤い暴風に怯んで二歩ほど後退。暴風が収まる頃には、既にギルガメッシュはその場から去って久しかった。
「――まあいいわ。もうあのひとじゃ、わたしには勝てないもの」
そう吐き捨てて、桜はアグニカと共に、再び森へと歩み出した。
◇
森の中を、天使が舞う。
聖杯の泥の魔力から誕生したにも関わらず、その翼は白く美しい。
モビルアーマー、ハシュマル。
アグニカ・カイエルが自らの記憶と、乗機たる「ガンダム・バエル」の記録データから魔力で編み上げた、殺戮と破壊の天使。
全てのMAを根絶するコトを目的として戦い、厄祭戦における英雄と言われたアグニカ・カイエルがMAを召喚するなど、支離滅裂も良い所だが――聖杯の泥は、それほどまでに彼の英雄の在り方を変容させたのである。
『 ――!』
鳴き声のようにも聞こえる駆動音を響かせ、ハシュマルが頭部ビーム砲を撃ち放つ。桃色の熱線が森を引き裂き、逃走する士郎とイリヤに迫る。
「うわあッ!」
「きゃ…!」
イリヤを抱えたまま、士郎は思い切り跳ぶ。ビームが士郎の間近を掠め、焼けた地面が煙となって舞い上がり、士郎は石を全身に浴びた。
「クソ…!」
「もう良い、シロウ…私を置いて、逃げて!」
「バカ、そんなワケに行くか…!」
ハシュマルが…いや、MAが実行する命令はただ一つ――人類の抹殺だ。
攻撃のやり方からして、恐らくハシュマルにはイリヤを捕らえる気が無い。士郎もろともに殺すつもりだ。臓硯の意志とは明らかに違う、完全な暴走状態になっている。
逃げられない。
このままじゃ殺される。
そう士郎は分かっているが、打開策が思い当たる訳でもない。ギルガメッシュが間に合ってくれるかは分からないし、そもそもあのサーヴァントが素直に助けてくれるかどうか。
かと言って、あんな怪物を相手に士郎が出来るコトなど無いも等しい。だが、何かアクションを起こさなければ、このままイリヤと共に嬲り殺しにされるだけだ。
(考えろ…俺に出来るコトは何だ…!?)
走りながら、士郎は人生で最も速く、頭を回転させる。せめてイリヤだけでも、逃がす方法は無いのか…!?
『貴様は真似る者に過ぎん。あらゆるモノを複製し、悉くを模倣する。その投影こそが、貴様に唯一為せる業だ』
ふと、その時――ギルガメッシュの言葉が、士郎の脳内を反芻した。
聞いた時、意味は分からなかった。
だが、あの英雄王がわざわざそう言ったのだから、何かしらの意図が有るとしか思えない。
(真似る、模倣、複製、業――)
キーワードを拾い上げて、思考回路を全速で巡らせる。猶予は無い。ハシュマルは再び、ビーム砲の発射態勢に入っている。
(――『投影』…!?)
その二文字を思い出した時、士郎はその言葉の意味を理解した。
投影――「
「シロウ…?」
怪訝な表情で、イリヤが士郎を見上げる。
そこで士郎は足を止め、イリヤを降ろした。
「シロウ?」
「――イリヤは逃げてくれ」
そう言い放って、士郎は背負っていた竹刀袋を左手に持ち、そこから黄金の剣を抜く。
柳洞寺でアグニカが投げ、士郎の窮地を救った「ガンダム・バエル」の剣。「バエル・ソード」と呼称される、幾多のMAを斬り捨てて来た、ある意味ではMAにとっての弱点とも言える物だ。
「まさか、それで戦うの…!?」
「ああ――何とか、やってみる。けど、成功するとも思えない。だから逃げてくれ」
しかし、剣を右手に握った士郎の服の裾を、同じようにイリヤが握る。士郎が怒鳴ってでも行かせようと思ったのを見透かしたように、イリヤは毅然とこう口にした。
「私もシロウと一緒にいる。連れて帰るつもりなら、最後まで責任持って連れて帰りなさい」
「…イリヤ」
微笑を浮かべたイリヤに、士郎は微笑み返した。そして、剣を両手で構え、士郎は迫り来るハシュマルを見据える。
投影魔術を行うには、幾つかの手順を踏まねばならない。
創造理念の鑑定。
基本骨子の想定。
製作技術の模倣。
憑依経験の共感。
蓄積年月の再現。
以上の全てを解析し、模倣し、複製してこその、真に迫る投影である。
幸い、元となる現物は手元に在る。
アグニカ・カイエルの剣を再現するには、もう一本を投影するだけで良い。
「――
ここ数日で開かれたばかりの魔術回路に、魔力が通される。士郎の身体から、触れる剣に緑色の回路の光が通って行く。
「…ヅ、あああああ!!」
いきなり全開で魔力が通された身体が、悲鳴を上げる。士郎は左手を横に突き出し、更に段階を踏んで行く。
やがて――左手に、剣が象られる。
魔力によってバエルの、アグニカの剣が形作られる。明確な実体が形成され、士郎はそれを力強く掴み取った。
『 ――!!』
ハシュマルが吼え、ワイヤーブレードを士郎に向けて全速で突き出す。――感じたのだ。眼前に現れた、アグニカ・カイエルと言う名の、絶対の死を。
特殊超硬合金で打たれたワイヤーにより操作されるレアアロイ製のブレードは、確実に士郎の息の根を止めるべく、その喉元へと迷い無く突き進む。
「憑依経験、共感終了――」
対する士郎は双剣を構え、全身に魔力を通して、アグニカ・カイエルの技をも複製する。
衛宮士郎の投影魔術の特異性は、投影された武具の本来の担い手の経験、記憶ごと解析し、丸ごと複製してしまう点にこそ有る。人の身である士郎には身体能力――この場合は「ガンダム・バエル」が持つ圧倒的な機動性――までは再現不可能だが、こと技術に於いて、
さあ、悉くを凌駕しろ。
この
「――
士郎の意志に関わりなく、双剣が、腕が自動的に動く。
アグニカは、ハシュマルの――MAの動きを知っている。
左手の剣が、ブレードを叩き落とした。
落ちたブレードが地面に突き刺さると同時、士郎は全身で回転し――ブレードを動かすワイヤーを、右手の剣で切断していた。
「ううおおおおおおおおお――!!!」
剣の赴くまま、士郎は走り出す。
ハシュマルが口を開き、ビームを放つ。士郎にそれを避ける手立ては無い――だが、アグニカならば避けられる。
左の剣を振り、ビームを斬り裂く。右の剣でハシュマルの左足を斬り落とし、胴体の下へと滑り込み、二本の剣で思い切り斬り上げる。立て続けに右足を切断し、ハシュマルが地に這い蹲った。
「――ッ、はあ…!」
不完全な投影品であった左手の剣が割れ、魔力へと還って消滅する。同時に士郎の憑依経験も消え去り、士郎が思い切り息を吐くと共に、無理矢理魔力を通してアグニカの剣を再現した代償たる反動が襲いかかって来た。
「がっ…ぐ――!」
「シロウ!」
全身から力が抜け、後ろに倒れ込む士郎を、イリヤが抱き留める。
一方、両腕と尻尾をもがれてもなお、ハシュマルはまだ死んでいない。地に墜ちた天使は、その頭を上げて――ビーム砲を露わにした。
「!」
「ッ、シロ――」
ビームが吐き出される、その直前。
天から、黄金の宝具が無数に降り注いだ。
『 ――』
その攻撃で、ハシュマルは完全に動きを停止させた。そして間髪入れず、天使は爆散する。
士郎とイリヤが空を見上げると、そこには――黄金の王が、浮いていた。
「ギル、ガメッシュ…!」
「――何で飛んでるのよ?」
「フ、
地上に降り立ち、全身に反動が来ている士郎を見下ろしながら、ギルガメッシュはそう告げた。対して、イリヤに支えられる士郎は、こう聞き返す。
「…言峰、は」
「――奴はそう簡単にはくたばらん。余計な心配は無用だ」
士郎に背を向け、ギルガメッシュは言う。
悠々と歩み出したその背を追うように、士郎とイリヤも歩を進め始めた。
次回「聖者の死」