Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》   作:アグニ会幹部

29 / 32
今日から公式サイトにて「第二章 おさらいヘブンズフィール!」の掲載が始まった模様です。
密かな楽しみが復活して嬉しい…嬉しい…!

内容的には最終決戦開始。
いよいよ終わりが近づいて来た感じ。


#28 悲願の果て

 岩で隠された入口から、洞窟の中へと入る。

 今ここにいるのは、士郎とギルガメッシュの二人だけ。イリヤは何かしら準備が有るとのコトで、後から合流する手筈になっている。

 

 中は光ゴケのようなモノに照らされ、岩が緑色に淡く輝いている。あちこちから水の滴る音が聞こえ、鍾乳洞のようになっているらしい。

 しかし、その奥には、禍々しい気配がする。息が詰まり、吐き気すら覚える空気。

 

「――持って行け、雑種」

「え?」

 

 洞窟を進む間、ギルガメッシュは士郎にとある物を投げ渡した。それをキャッチして、士郎は無意識に解析(トレース)する。

 

「…これって」

「餞別だ。この(オレ)が下賜してやろうと言うのだ、ありがたく拝領せよ」

 

 士郎が受け取ったのは、片手で握れるサイズの、黄金の輪。あらゆる悪を祓う浄化宝具であるらしいそれは、白い光を淡く放っている。

 

「――分かった」

 

 しばらく進むと、開けた空間に出た。

 

 横幅は実に数百メートルにもなり、高さも十メートルを超えている。しかし、奥にはまだ道が続いているらしいコトから、ここが件の大聖杯が安置された場所ではないようだ。

 そして――

 

「来たか、士郎」

 

 その空間の中央には、漆黒の剣士が立ち塞がっている。

 

「――セイバー…!」

 

 セイバー、アグニカ・カイエル。

 泥で汚染され、反転したその姿は、以前と全く異なっている。炎のように赤かった髪は、氷のように白く染まり――凪いだ海のように青かった双眸は、血のように赤く変わった。肌には赤い刺青が走り、纏う「ガンダム・バエル」の白青の装甲は、赤と黒に塗り変わっている。

 

「間桐桜はこの先だ」

 

 変わり果てたアグニカは、しかし――あっさりと、士郎の道を開けた。

 

「…セイバー?」

「お前はあちらに用が有るのだろう? ならば俺が止める必要も無かろう。――せいぜい俺の剣でも使って、無駄に足掻いて来るが良い」

 

 士郎はギルガメッシュを一瞥してから、走り出す。アグニカの脇を通り抜けて、士郎は更に奥へと進んで行った。

 

「――本当は行かせてはならんのだろう? 何故あの雑種を通した?」

「確かに、マスターには『誰も通すな』と命令されたがな。…何にせよ、結果は変わらない。俺が殺そうとマスターが殺そうと、士郎が死ぬというのは同じだ。だったら、せめて殺させてやり、殺されさせてやるのが救いだろう」

 

 僅かに口元を吊り上げながら、アグニカはそう言った。そこに慈悲は無い。何にせよ、彼はこの世の人類が全て死んでくれるのなら、それで良いのだから。

 一方、黄金の鎧を纏ったギルガメッシュは鼻を鳴らし、自らの背後に「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」を展開させた。

 

「その割には、随分と手厚いコトだな? 非情にもなりきれず愉悦にも浸り切れぬとは、全く半端なモノだ」

 

 アグニカは無言のまま、両手に赤く変わったバエル・ソードを握る。門から数多の宝具をせり出させたギルガメッシュは、顎を突き出して宣言した。

 

「来るが良い、厄祭の英雄とやら。真の英雄とはどういうモノか、この(オレ)が手ずから教えてやろうではないか」

 

 アグニカが剣を振り、ギルガメッシュは武具を射出する。

 

 最古の英雄と最新の英雄。

 最後のサーヴァント同士の対決が、始まった―――

 

 

   ◇

 

 

 先へと向かった士郎は、しばらくして――大空洞の最奥へと、辿り着いた。

 

 天を突く肉の柱。赤い光に黒い太陽。

 濃密な魔力が蔓延する空間は、いるだけで息が詰まり、人心を恐怖させる。

 

 そして――その前には、暗黒の少女。

 

「桜――!」

 

 黒き聖杯と化した間桐桜は、ノコノコやってきた士郎を見下ろし、口元を歪めた。

 

「先輩――そう。来てしまったんですね。

 セイバーったら…わたしは一人も通すなって言ったのに」

 

 目元に影を落とし、くすくすと嗤う。

 士郎は周囲を見回し、間桐臓硯を警戒しているが――赤子をあやすかのように、桜は士郎に言った。

 

「お爺さまならもういません。目障りでかわいそうだったから、わたしが終わらせてあげたんです」

「――殺したのか」

「はい、プチッと潰してあげましたよ。

 あの人は、先輩を傷つけました。先輩を傷つけるのも、先輩を殺せるのも、わたしだけの特権なのに。だから殺したんですよ?」

 

 何でもないコトのように桜は言い、嗤う。

 士郎は背負っていた竹刀袋からセイバーの剣を取り出し、構える。

 

「…俺は言ったな、桜。覚えてるか?

 桜が悪いコトをしたら怒る」

「ええ、勿論覚えています。だからその剣で、わたしを殺すんでしょう? 全く、出来もしないくせに――」

「違う」

 

 くるくると身体を回しながら、桜が言った推測を、士郎はハッキリと否定した。桜は面食らったように、士郎を見る。

 士郎は剣の切っ先を持ち上げて桜に突き付けながら、頑としてこう言い放つ。

 

「俺は桜を助ける。この剣は桜を縛るもの、その全部を斬り裂く為の物だ。桜を殺す為のモノじゃない」

「――ふ、ふふふ…あははは、ははははははははははははははははははははははははは!!!」

 

 桜はひとしきり哄笑し、手をかざした。

 すると、桜の背後から巨大な影が現れる。のっぺりとした「影」の人形。彼女の虚数魔術により、聖杯の呪いがこの世に落としたモノ。

 

「ああおかしい。大好きですよ、先輩。アナタのそういう所が、わたしは大好きです。本当に愛しています、先輩。

 だから――お願いします。 どうか、ここで死んで下さい。

 例え先輩でも、わたしからこの力を奪うのは赦さない。わたしはやっと、やっと強くなったんです。姉さんより強くなって、これで先輩を独り占め出来るようになったんですから」

 

 世界すら食らい尽くさんとする少女の冷徹な声が、場を震わせる。聞く者全てを震撼させるような少女の声が――少年には、泣いているように聞こえた。

 

「――行くぞ、桜。歯を食いしばれ」

 

 黄金の剣を握る士郎に、桜の影が向かう。

 赤い光で染まった大空洞が、一転して暗黒に塗り潰される―――

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

 地を蠢くモノが、一つ有った。

 人ではない。元々は人であったが、人としての面影など、最早この怪物には残っていない。

 

『お、おお…おおおおお――』

 

 死は目前だ。どうあっても助からない。

 それが思うコトはただ一つ。

 

 ――死にたくない。

 

 妄執と言うに相応しいその一念だけが、彼の魂をこの世界に繋ぎ止めていた。もっとも、その魂もとうに腐り果てているが。

 

 ――死にたくない。

 

 間桐臓硯は、ただそれだけを思ってこの世に留まっている。その執念だけで、彼は地を這い続けて、大空洞の入口付近にまで来た。

 …彼が求めてやまない聖杯とは全く逆の方角だが、彼には最早、聖杯が何処に有るかを知る為の眼すら無い。故に彼は、自らの進む先に聖杯が有ると途切れ行く意識の中で信じて、ここまで這いずって来たのである。

 

 死ぬのはイヤだ。死んでたまるモノか。

 このまま消え去るなど、出来るハズもない。

 

 五百年だ。

 

 五百年もの時を苦しみ、生き長らえた。その悲願の結晶たる聖杯が誕生する直前だと言うのに、どうして消えてやらねばならないのか。

 

 彼の生には、苦しみしか無かった。

 衰退の運命を定められたマキリの宿業。故郷たる冬の国を追われ、流れ着いた極東の地で、最後の後継者たる男は今、死に絶えようとしている。

 

 冬木がマキリに合わなかったのではない。

 マキリの限界は三百年。マキリの祖から三百年の探求は、ゾォルケンの代で衰退すると定められていた。

 その運命を知り、それを覆すべく抗った。間桐臓硯――マキリ・ゾォルケンの人生は、それが意義の全てだった。

 

 苦しんだ。苦しんだ。苦しんだ。

 死ぬ訳には行かない。求めた不老不死は、第三魔法「天の杯(ヘヴンズ・フィール)」は目前に有る。すぐそこに在るハズなのに、どうして届かぬのか―――

 

 

「―――そこまで変貌したか、マキリ」

 

 

 その時。

 鈴が鳴るような美しく尊い声が、執念の怪物にかけられた。

 

「な、に…?」

 

 臓硯は視線を上げた。

 いや、視界は失われている。ただの蟲の一匹に視線も何も無い。視覚情報を捉える器官は、もう臓硯には存在していない。

 

 

 だが、臓硯は確かにその姿を見た。

 

 

 アインツベルンの、黄金の聖女。

 大聖杯を築き上げる為、自ら生贄となった――天の杯であった、かつての同胞。

 

『ユス、ティーツァ―――』

 

 ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルン。

 始まりの聖女。今や聖杯そのものと化した、アインツベルンの最高傑作。第三法の具現。

 

「――問おう、我が仇敵よ。

 汝は何故、死にたくないと思ったのか」

 

 あの日と同じだ。

 在りし日の輝きは全く衰えていない。

 彼が焦がれていた女、そのままの姿だ。

 

『おお―――』

 

 懐かしく麗しい声での問いに、臓硯は苦しみを忘れた。妄執を忘れた。

 

 何故。

 何故。

 何故――?

 

 何故だろう。おかしいではないか。

 何故そこまで、死にたくないと思ったのか。

 何故、彼は死ぬわけには行かなかったのか。

 

 死してしまえば、生の苦しみから解放されると言うのに。あらゆる苦しみを抱いたまま、それでも生にしがみついたのは。

 

 

 ――一体、何の為だったのだろう?

 

 

『思い出しなさい。

 私達の悲願――奇跡に至ろうとした切望は何処から来たモノなのか』

 

 臓硯はふと、ユスティーツァの模造品たる少女の言葉を思い出した。取るに足らぬ真似事と一蹴したハズの。

 

『私達は何の為に、人であるコトに拘り、人の身であるままに――人ならざる地点へ、到達しようとしていたのか』

 

 ――そう。思い出す。思い出した。

 最初に、ただ崇高な目的が有ったのだ。

 

 万物をこの手にし、あらゆる真理を知り、誰にも届き得ない地点へと行く為に。

 肉体という有限を越え、魂という無限へと至る為に。

 人間という種――予め限界を定められ、脳髄という名の螺旋で回り続けるモノを、外へ解き放つ為に。

 

 

 あらゆる憎悪、あらゆる苦しみを全て癒やし―――その悉くを、消し去る為に。

 

 

 楽園など無いと知った。

 その悲嘆の後――この世に無いのならば。人の身では創るコトすら赦されぬのなら、それが赦される場所へ旅立とうと考えた。

 新しい世界を創るのではなく、自身を変えるコトで。人という命を、全く新しいモノに変えるのだと。

 

 見上げるばかりの、(ソラ)へ行く為に。

 その果てへ新しく生まれ変わり、何人たりとも想像出来ない地平――人間では思い描くコトの出来ない、真なる理想郷へと到達する為に。

 

 その為に、彼は聖杯を求めた。

 人の手に余る奇蹟を求め、それに至るまで消える訳には行かなかった。幾度と無く運命に打ちのめされ、何度もこの身では辿り着けぬと悟りながら、生きている限り諦めきれなかった。

 

 

 ―――ユメみたモノはただ一つ。

    この世、全ての悪の廃絶の為。

 

 

 叶わぬ理想に、その生命を賭したのである。

 

 ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルンが、聖杯の礎となり。

 遠坂永人が、寿命を迎えて死んだ後も。

 

 ――マキリ・ゾォルケンは、ただ独りでこの世に残った。生にしがみついた。

 

 生きる限り、苦しみが続くと分かっていた。その苦しみが如何なるモノかを理解しながら、ゾォルケンは死ぬわけには行かなかった。

 自身の肉体を蟲に置き換え、人の血肉を食らい、取り込んで生きるような怪物になり果て。そうまでして、彼は運命に抗った。

 それが間桐臓硯の生き方であり、マキリ・ゾォルケンが出した答えではなかったのか。

 

 

 例え、その生の先に。

 報いが何一つとして、無かったとしても。

 

 

『――そうか。

 そうであったな、ユスティーツァよ』

 

 それを思い出し、理解した瞬間。

 ようやく、マキリ・ゾォルケンは己が運命を受け入れた。

 初めから、全て定められていたコトだ。

 ゾォルケンが何処で果てるとしても、マキリの旅はそこで終わり。所詮はその程度である。

 

 だが、それは永い苦痛の果てに待つ、惨めな終焉などでは断じてない。

 

 彼らの旅は今、始まったのだ。

 五百年がどうした。たかだか五百年程度の時間は、取るに足らない些末事だ。

 たったそれだけの年月で、どうして彼らの悲願に届き得ようか。

 

 彼らが望んだモノは遥か遠く、眩く、尊く――しかして、必ずや果たされるモノ。

 

 幾星霜の時。千の年月、万の年月の末に人間が手に入れる、人間という種の成長。たった五百の年月が、一体何だと言うのか。

 これから始まる彼らの旅は、遠き日に見たユメと共に、遥か彼方を回って行くモノである。

 

『だが無念よ。いやはや、後一歩だったのだがなぁ』

 

 と、魔術師は嘆息する。

 如何に崇高な目的があろうとも、彼は悪行を良しとし、他者の苦しみを食い物とした外道。彼は怪物として、怪物のまま死ぬ。

 

 最後の一人が、その生を終える。

 二百年もの間、奇蹟を巡る聖杯戦争を見守った彼は今、崩れて行く。

 

 そしてそれは――冬木の地に縛り付けられた、妄執の解放。

 五度に渡り再演された、奇蹟を描く為の戦い、その終焉と言えよう。

 

 

『五百余年―――ク。

 今思えば、瞬きほどの宿願であった』

 

 

 

   ―interlude out―




次回「Mighty Wind」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。