Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》   作:アグニ会幹部

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今回は士郎のセイバー召喚前の話。
原作だと二日有りますが、面倒だったので(オイ)一日に集約しました。


#02 崩れる日常

   ―interlude―

 

 

「子供の頃、正義の味方に――憧れてた」

 

 いつか。

 月が綺麗な夜、縁側に座ったじいさん――衛宮切嗣は、ふと思い出したようにそう呟いた。

 子供だった俺は、切嗣のその言い方が引っかかり、尋ねた。

 

「何だよ。憧れてた、って――諦めたのかよ?」

「うん、残念ながらね。

 ヒーローは期間限定で、大人になると、名乗るのが難しくなるんだ。そんなコト、もっと早くに気付けば良かった。

 それに――誰かの味方をすると言うコトは、誰かの味方をしないコトなんだ」

 

 少しだけ寂しそうに、切嗣はそう答えた。

 この頃、切嗣は海外に出かけなくなり、一日中家で過ごすようになった。それが死を悟ってのものなのだと、俺は気付いていたのかいなかったのか。

 切嗣の答えに対し、俺はぶっきらぼうに返していた。

 

「そうか、ならしょうがないな」

「そうだね――本当に、しょうがない」

 

 自嘲めいた笑みを浮かべる切嗣。

 俺はその笑みを見て、一つの決断をした。

 

 

「じゃあさ――俺が代わりになってやるよ」

 

 

 切嗣が息を呑む。

 無邪気に言ったそれは――いつの間にか、衛宮士郎の全てになっていた。一種、呪いとさえ言えるほどに。

 

「じいさんは大人だからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。

 任せろって、じいさんの夢は――」

 

 ――俺がちゃんと、形にしてやるから。

 そこまで言うより前に、切嗣は心底安心したような――ある種の救われたような、穏やかな笑みを浮かべて。

 

「――ああ、安心した」

 

 ゆっくり、その目蓋を下ろし――二度と、それを開けるコトは無かった。

 

 

   ―interlude out―

 

 

 

 

 街が燃えている。

 視界が赤く染まり、息が苦しくなる。

 業火の中を一人、俺は頼りなく、前へと歩き続けた。

 

 一体、幾つの声を無視しただろう。

 どれだけの人を見捨てて、どれくらい歩いただろう。

 

 空にはポッカリ空いた黒い穴と――漏れ出す泥のようなモノ。

 

 何てコトのない、いつも夢で見る光景だ。昔は見る度に泣いていたが、この十年で有る意味見慣れてしまった。

 夢の最後は、いつでもこの光景だ。

 思い出に浸るコトを許さない、いつも通りの終着駅がここである。業火の中を歩いて進む幼い俺を、俺は他人事のように眺める。

 

 十年前、冬木で起こった大火災。

 俺はそのただ中にいて、切嗣に助けられた。

 

 一歩前へ進もうとしたが、何かに袖を引っ張られて止まる。

 振り返ると、そこには――およそ炎には似つかわしくない、白銀の少女が立っていた。

 

「早く喚び出さないと、死んじゃうよ?

 ―――お兄ちゃん」

 

 赤い双眸に魅せられる。吸い込まれるような少女の瞳に――俺は、何故狂気を見た心持ちになったのだろう?

 

 

   ◇

 

 

「先輩? 起きてますか?」

 

 声をかけられる。綺麗で透き通った、ここ一年で聞き慣れ、耳に馴染む声。

 寝ぼけた頭を少し覚醒させ、目蓋をゆっくり開きながら、俺は後輩の少女の名をボンヤリと口にする。

 

「さ、くら…?」

「はい。おはようございます、先輩」

 

 紫の美しい髪を耳にかけながら、桜はいつも通りの挨拶をしてくれる。土蔵に差し込む朝日の光が、少女の柔らかな笑みを照らし出す。

 

「悪い…朝飯の支度、任せちまったな」

 

 昨夜は土蔵で鍛錬とガラクタ弄りをしていたのだが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。土蔵は普段締め切られているので冷たい風が吹き込むコトこそ無いが、二月の頭という時期に毛布の一枚も無しで寝るのはまずい。風邪を引かなかったのは僥倖だ。

 

「気にしないで下さい。私が好きでしているコトですから」

「今からでも何か手伝えるコト、有るか?」

「いえ、先輩に手伝って頂くほどのコトは有りません。もうほぼ出来ていますから」

 

 微笑みながら、桜はそうのたまった。

 …この後輩の少女は、最近朝飯の準備が終わってから俺を起こしに来る。まだまだ台所の支配権を譲り渡すつもりは無いので、一緒に朝飯を作る為にもキッチリ起きなければ。

 

「先輩はお着替えをなさった方が良いかと。朝ご飯の準備は私がやっておきますから」

「ああ、まだ作業服のまんまだった。じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「はい」

 

 一旦桜と別れ、俺は部屋に戻って制服に着替える。それから居間に行くと、机の上には朝飯が完璧に配膳完了されていた。…見事だ、桜。

 

「おはよう、藤ねえ」

「ハイ、オハヨー」

 

 居間には桜の他、机の前で新聞を広げて読みふけっている藤ねえこと藤村大河がいる。――いつになく真剣に新聞を読んでいるが、この虎は何を企んでいるのやら。とりあえず居間を見渡す限り、怪しい所は無いが。

 

「いただきます」

 

 まずはとろろご飯を手に取る。醤油をかけるべく、自分用の醤油さしに手を伸ばすが。

 

「ありゃ、俺の醤油が切れてるな…。藤ねえ、醤油さし貸してくれ」

「イイヨー」

 

 珍しく、朝飯が始まっても新聞を読み続けている藤ねえは、若干の棒読みで了承した。

 ――やはり怪しい。あの藤ねえが食欲以外のモノを優先しているなど、明らかなりし異常事態だ。一体何をしでかすつもりなのか。

 

 しかし、ここは藤ねえの企みを暴くコトよりも、飯の方が優先である。

 俺は藤ねえ用の醤油さしを取り、とろろご飯に醤油をかける。

 

 だが!

 この時の俺は、新聞の向こう側で藤ねえが浮かべていた、不敵な笑みに気付かなかったのである!

 

 醤油を適量注いだとろろご飯を、口に運んだその時。

 

 

「ごはああああッ!?」

 

 

 俺の舌は、有り得ない味に驚愕したッ!

 想定していた醤油の味とは異なる、この絶望的にとろろとマッチしていない味は――!

 

「先輩ッ!?」

「こ、これソースじゃないかソース! しかもオイスター!!」

「フッ、ハハハハハハ!!! どうだ思い知ったか士郎ーッ!!!」

 

 下手人は当然こやつ、穂群原学園に名高き「冬木の虎」、もとい藤村大河ッ!

 

「昨日の内にソースと醤油のラベルを取り替えておいたのだー! 見事に引っかかってくれやがったわね士郎! ざまーみやがれ!!」

「アンタ、今年で二十●歳のくせに何やってんだ!?」

「ホーッホッホッホ、負け犬の遠吠えが聞こえるのう。だがしかし、これは正当な報いという奴なのだよ少年! 甘んじて受け入れたまえ!

 ところで私、昨日からこんなコトを企んでいたおかげで、早めにいってテストの採点しなきゃヤバいのである!」

 

 俺を一杯食わせて満足したらしいこのタイガーは、急に現実的なコトを言い出して眼前に並べられた朝飯を四十秒程度でシュバババと片付け、速やかに原付に乗って学校へと走り去って行きやがりましたとさ。

 

「…先輩、昨日藤村先生に何かしたんですか?」

 

 それから俺と桜は朝飯を食べ終わり(ソースのかかったとろろご飯も完食した。食べ物は粗末にしてはならないのである)、桜は皿の片付け、俺は机の拭き掃除をしていた。その途中、桜は俺にそう聞いてくる。

 藤ねえがあのような凶行に及んだ理由については、俺も心当たりが無い訳ではなかった。

 

「あー…間違えて渾名で呼んじまった」

「それじゃあ先輩が悪いです。藤村先生、先輩にだけは渾名を呼ばれるの嫌がるんですから」

 

 冬木の虎だのタイガーだの、本人も虎柄の服とか着てるくせに、俺に言われると怒ってあの手この手の報復を敢行してくる。なんでさ。

 

『深山町で起きた殺人事件については、未だ警察が犯人を捜索中です。続きまして、新都で発生したガス漏れについて――』

 

 ふと、テレビでやっているニュースの音声が耳に入って来た。殺人事件だのガス漏れだの、あまり良い話題ではないが。

 

「新都でガス漏れか…最近何かと物騒だな」

 

 殺人事件の影響で、現在放課後の部活動は生徒会の判断で中止になっている。ガス漏れの方も、意識不明者が何人か出ているようだ。

 

「大丈夫です! ガスの元栓は片付けの後と出かける前、二回チェックしてますから!」

「――桜、そういう問題じゃないと思うぞ…?」

 

 天然的発言をする桜にそれはかとないツッコミをしつつも、俺たちは出発準備を整えた。桜は弓道部の朝練で早めに出かけるが、俺も生徒会の手伝いで今日は早めの出勤だ。

 

「じゃあ行こうか、桜」

「はい」

 

 念入りに戸締まりをし、桜と談笑しながら歩いて学校へ向かう。

 

「なあ桜。何も毎日家に来るコト無いんだぞ? 桜には桜の生活が有るんだから――」

「そんなコト有りませんよ。…私、趣味はお料理と弓だけですから。

 ちなみに将来の夢は先輩の味を越えるコトで、もうすぐ射程圏内だったりします」

「ハハ、本当に?」

「はい。それに私――」

 

 俺の前を歩いていた桜は立ち止まり、振り返って満面の笑みを見せる。

 

「先輩のお家じゃないと、ご飯――美味しく頂けなくなっちゃったんですから」

 

 その綺麗な笑顔に、思わずこっちも破顔してしまう。…見とれてはいない。決して。友人の妹だからなうん。

 

「ほら、急がないと朝練間に合わないぞ」

 

 しばらく歩いて、学校の校門に辿り着く。放課後部活が中止になったコトで、朝練をやる部活は多いらしい。朝のHRまでかなり時間が有ると言うのに、生徒の大半が来ているようだ。

 …校門を跨いだ時、違和感が有った気もするのだが。

 

「じゃあ、朝練頑張れよ桜」

 

 左手を上げて、弓道場に向かう桜を見送る。しかし、桜は何かに気付いたように、俺の方に近付いて来て――俺の左手を両手で掴み、その甲を見つめだした。

 

「さ、桜?」

「―――あ、いえごめんなさい…あの、この痣はどうしたんですか?」

「え?」

 

 桜に問われて、自分の左手の甲を見る。…確かに、赤みがかった痣のようなモノが有る。

 

「本当だ…ガラクタ弄ってる時にどっかぶつけたりしたかな? まあ、痛みも無いし大丈夫だろ」

 

 実際、桜に言われるまで気付かなかった訳だし。気付かないくらいの痣なんて、放っておいてもすぐ治るだろう。

 

「――先輩。今日、出来るだけ早く家に帰ってもらえませんか?」

「…? まあ、良いけど…」

 

 バイトも入ってないし、生徒会の手伝いもそうかからないハズだ。夕飯までには、余裕を持って帰れるだろう。

 

「お願いします。美味しいご飯、作って待ってますから。――それでは、失礼します」

 

 桜は一礼して、弓道場の方へ歩いて行った。俺が首を傾げていると、隣に生徒会長であり友人でもある柳洞一成が現れた。

 

「おはよう、衛宮」

「ああ、おはよう一成」

 

 それから一成と二人で校舎に入り、階段を登って行く。すると、馴染みの有る背中を目にした。

 

「おはよう、慎二」

 

 それは桜の兄、間桐慎二のモノだ。

 

「やあ衛宮。今日もまた、つまらないお節介? 物好きだねぇ、どーも」

 

 振り向きもせず、ぶっきらぼうに返してくる慎二。隣の一成は「何だ貴様その態度は」とでも言いたげだが、慎二はこういう奴なのだ。むしろ、これこそが慎二の味と言えるだろう。

 

「暇だからな。慎二も何か有ったら頼って良いぞ。弦の張りとか弓の直し、苦手だったろ」

「――衛宮はさ。もう、弓道部には戻らないんだろ?」

 

 慎二は階段の吹き抜けで立ち止まり、下にいる俺にそう言ってくる。

 確かに俺は一年の終わりに弓道部を抜けて、それ以降は部長の美綴綾子にしつこく誘われても断っている。まあ普段の勉強もバイトも有るし、ちょうど良かったのだ。

 

「余計なコトに首突っ込まない方が、自分の為だと思うけど?」

 

 その言葉は、慎二には珍しい――割と本気の忠告だと感じられた。

 

 

   ◇

 

 

 放課後。

 生徒は速やかに帰宅せよ、といった校内放送が流れる中、俺は夕焼けに染まった廊下を一人で歩いていた。

 

「よう衛宮。何やってんのさ?」

 

 もう帰ろうと思った時、慎二に声をかけられた。珍しく、取り巻きの女の子がいない。

 

「――あんまり美綴を困らせるなよ」

「…何それ? 部外者に言われたくないんですけど」

 

 その後、慎二は歯を見せて笑みを浮かべた。

 

「ああそうだ。僕も一つ、お願いをしていいかい?」

「何だ?」

「下らない弓道部の、下らない後片付けさ! ハッハハハハハ!」

 

 高らかに笑いながら、慎二が近付いて来る。

 

「…それ、お前の仕事じゃないのか?」

「僕は色々やるコトが有って忙しいわけ。暇なんだろ? なら手伝ってくれよ、衛宮」

 

 慎二は手を伸ばし、俺の右肩を叩く。

 …桜との約束が有るが、まあ弓道部の後片付けなんてそう時間のかかるコトでもない。請け負おう。

 

「ああ、構わないよ」

「…あっそ。じゃあせいぜい、善人気取ってれば?」

 

 慎二は何故か不機嫌になったらしく、俺の隣を通り過ぎて去っていった。

 さて、手早く終わらせて帰ろう――と、したのだが。

 

「…ちょっとやり過ぎたかなぁ」

 

 俺が後片付けを終わらせたのは、すっかり日が落ちた後だった。時間は八時をとうに過ぎており、学校には教師すら残っていない。

 初めは軽く済ませるつもりだったのだが、やり始めたら細かな部分まで気になってしまい、どうせならと徹底的にやってしまった。広い弓道場の床を全て水拭きし、立てかけられた弓の弦を全てメンテナンスし、畳の敷かれた休憩室まで埃一つ残さず掃除した。

 

「――帰ろう」

 

 ため息を吐き、家に帰るコトにした。こんな時間になってしまえば、桜も自宅へ帰った後だろう。悪いコトをしてしまった。

 

 その時。

 轟音が、学校中に響き渡った。

 

「ッ!!」

 

 風圧が弓道場にも襲いかかる。

 校庭の方からだ。音は一度でなく、何度も響いている。

 

「な――何だ…!?」

 

 何か、ただならぬコトが起こっている。

 俺は弓道場を出て、校庭に向かう。土煙が発生しており、閃光が雨の如く降り注いでいる。

 

 戦っているのだ。

 人ならざる何かが、殺し合いをしている。

 

「――誰だ!」

 

 気付かれた――逃げなければ。

 脇目もふらず逃げ出し、校舎に飛び込む。

 逃げろ。とにかく、奴を撒くんだ。

 校舎の中なら、地理的優位はこちらに有るハズだ―――

 

「があッ!」

 

 吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。

 気管を血が逆流し、口から吐き出される。全身に痛みが走り、力が抜けていく。貫かれた胸部から血が吹き出し、床に血溜まりが出来ていき――俺は、その中に倒れ込んだ。

 

「――すまない」

 

 視界が霞む。思考が出来なくなっていく。

 薄れ行く意識の中で、俺は―――赤い、何かの光を目にした。




描写出来ませんでしたが、桜を間桐邸まで送った後の臓硯との遭遇は、起こっている体でお願いします。
ノリで書くとこういうコト有るよね(反省)


次回「運命の夜」
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