Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》 作:アグニ会幹部
没タイトルは「プロミスト・サイン」。
原作(ゲーム版)でVSランサー戦のタイトルになってたモノなんですが、ここはやっぱ…ねえ?
「――良かったのか?」
自分のサーヴァントに問われて、凛はため息を吐きながら答える。
「良くはないわよ、切り札を使っちゃった訳だし。でも――あのまま見捨てるよりは良いわ。心の贅肉だって、分かってるけどね」
自虐的な笑みを浮かべる凛に対し、問いを投げたラスタルは笑いながら返す。
「確かに、合理的とは言えぬ判断だ」
「うるさいわね、分かってるわよそんなコト」
「だが、君はきっとそれで良いのだろう。割に合わなくとも、自分の気持ちを優先するのは悪いコトではない」
私には出来ぬ選択だ、とラスタルは言った。
「…アーチャー?」
「いや――ところで凛。ランサーがあの少年を殺したのは、口封じの為なのだろう?」
「ええ」
神秘の隠匿は、魔術師にとっての大原則だ。
――もっとも、最近はメディアの発達により、難しくなってきているのだが。時計塔、現代魔術科の
「少年は君が生かした。記憶についての処置もしていない。
――ランサーが少年の生存を知れば、再び消しに行くのではないかね?」
ラスタルのその言葉を聞いて――凛は、思わず青ざめていた。
「ッ、行くわよアーチャー! せっかくお父様の形見まで使って助けたのに、死なれちゃたまらないわ!!」
(ツメはまだまだ甘い、か)
脳内ではそんなコトを思いながら、駆け出した凛を追って、ラスタルも歩を進め始めた。
◇
家に帰り、一息つこうとした瞬間――さっきの男に、襲われた。馬上槍を持ち、全身に鎧…と言うよりも装甲を纏った、紫髪の男。
「お前に恨みは無いんだが、令呪で命令されてるコトだ。俺は従うしかない、諦めてくれ」
バツが悪そうに、槍を持った男は言う。
さっき、俺はコイツに殺された。しかし、何故かは分からないが誰かに助けられ、今此処にいる。大人しく殺されてやる訳にはいかない。
居間に落ちていた、丸められたポスターに強化魔術をかけ、ギリギリで重い槍を捌きながら中庭に出た。
「が…!」
しかし、男は俺の何倍も強い。
次元の違う強さを持つ男に蹴られ、土蔵にまで吹き飛ばされた。五メートルは飛んだ。柱に打ち付けた背中が鈍痛を発する。
起き上がろうとする俺の眼前に、男は槍の穂先をもたげる。穂先は丸くなっており、貫くというより抉り潰す形をしているようだ。
「ここまでだ」
男が槍を引き、俺に向かって突き出す。
再び「死」が迫る。一秒後、俺は心臓を抉られ、床に倒れるのだろう。
ふざけてる。
そんな簡単に死ぬなんて、馬鹿げてる。
俺は切嗣と約束した。絶対に「正義の味方」にならなければならない。
こんなところで、殺されてなるものか――!
「…何!?」
男が驚愕の声を上げる。
俺の左側、土蔵の床から光が発され、爆風が吹き荒れる。蒼きマントが舞い上がり、黄金の剣が煌めく。
「七騎目の、サーヴァントだと――!?」
閃光が走る。
それは、現れた七騎目のサーヴァントが槍の男に向けて振った、黄金の剣が残した軌跡だ。
「ぬあッ!?」
漆黒の槍と黄金の剣が接触する。
火花が散り、重厚な金属音が鳴り響き――槍の男は、勢いに負けて土蔵の外へと弾き飛ばされた。
「―――サーヴァント、セイバー。
召喚に応じ、参上した」
突如として現れたのは、一人の男だ。
獄炎が如き赤い髪に、満月のように蒼く深い瞳。軍服らしき服の上に蒼いマントを肩に掛けて、その手には黄金の剣が握られている。
「問おう―――」
土蔵に白い月光が差し込み、男はそれを背にする。尻餅をついた俺を見下ろし、赤髪の男は言葉を紡ぎ出す。
「お前が、俺のマスターか?」
―interlude―
「嘆かわしい」
嘆息する老人。無数の蟲の中に立つ彼は、街中にバラまいた蟲の一匹が観測した光景を目にし、しわがれた声を漏らした。
「あまりにも未熟。あまりにも不出来な召喚よ。
役者は揃ったものの、役者の質も舞台の精度も足りてはおらぬ。此度の聖杯戦争は、我らが目指した大儀式にはほど遠い」
いとも容易く、老人はそう吐き捨てた。
しかしその声音には、幻滅したかのような調子も折り混ざっている。
「だが、始まってしまったモノを取り止めるコトは出来ん。杯に水が満ちたのなら、誰が飲み干さねばならぬ。魔術師は英霊を喚び、英霊は契約者を必要とする。この儀式に巻き取られたならば、何人であれ殺し合うが定め。
――要は、最後に一人残れば良いのだ」
老人のいる地下室の壁から、天井から蟲が湧く。壁も床も無数の蟲で埋め尽くされた、異様なりし空間は、完全に老人の支配下に有る。
そしてその中に立つ、
「幸い、教会の監督役はあの男だ。この歪な聖杯戦争を、上手く取り持つであろう。
教会は不可侵地帯、手は出せぬが――さて、あの小僧は…」
眼前の少女を眺め――老魔術師は歯を見せ、さぞ痛快と言わんばかりに嗤った。
「福音を齎すに足る、聖者か否か―――」
―interlude out―
サーヴァント、セイバーと名乗った赤髪の男は、俺に問いを投げたまま無言で立っている。恐らくは俺に答えを求めているのだろうが、俺は唖然としたまま見上げるコトしか出来ない。
「マス、ター…?」
「――成る程、そういうコトか」
呆ける俺を見て、セイバーは何かを察したらしい。俺から視線を外し、中庭に押し戻された槍の男に注意を向けた。
「これから俺の剣はお前と共に有り、お前の運命は俺と共に有る。――此処に、契約は完了した」
体勢を低くし、セイバーは床を踏み込んで槍の男に突撃した。槍の男がこれを迎撃すると同時に、セイバーは後ろに跳び、距離を取る。
(あの剣は間違い無く「バエル・ソード」だ。この男、まさか―――)
「どうしたランサー? 止まっていては、キマリスの面目丸潰れだぞ。動き続けろよ、ボードウィン」
「…何故、俺の名を知っている?」
ランサー、と呼ばれた紫髪の男は、セイバーに尋ねる。対するセイバーは、黄金の剣の切っ先をランサーに突きつけながら言う。
「やはりそうか。その装備、その色はキマリスの物だ」
「――厄祭戦時、使われた装備だとは聞き及んでいたが。だが、そうすると貴方の真名にも察しが付く」
「ほう? 面白い、述べてみろ」
真名、とは…本名のコトだろうか。
「このキマリスの装備を知っている以上、貴方は厄祭戦を知っている人間だ。そして、その剣は『ガンダム・バエル』が持っていた」
「…結論は?」
ランサーは息を吐いて、僅かに震える声でセイバーの真名を口にした。
「――アグニカ・カイエル。それが貴方の名だ」
…誰、それ?
俺はそう思ったが、セイバーは薄い笑みを浮かべている。どうやら、当たりらしい。
「ではどうする、ボードウィンの末裔」
「…俺は今、マスターに『七騎のサーヴァント全てと戦い、相手を倒さず生還しろ』との令呪をかけられている。見逃してくれると助かる」
「――構わん、好きにしろ。お前の先祖には世話になったしな」
ランサーは塀に跳び乗り、そのまま街へと去って行った。セイバーも剣を納め、俺の方に近付いてくる。
「えっと…」
「怪我は無いか、マスター」
「…お前、何なんだ」
とにかく、目の前にいる男についての情報が足りていなさすぎる。説明してもらわないと。
「俺はセイバーのサーヴァントだ――と言っても分からないんだったか」
申し訳無いと思いつつ、首を縦に振る。
すると、セイバーは説明を始めてくれた。
「サーヴァント、ってのは使い魔のコトだ。魔術師なら、使い魔が何かは分かるだろう?」
「あ、ああ…魔術師が使役する…」
「そう、それだ。英霊を使い魔としたモノがサーヴァント。マスターは、英霊を召喚して使役する魔術師。その証が、お前の左手に有る『令呪』」
自分の左手の甲を見る。
確かにそこには、赤い刻印が刻まれている。
「三回だけサーヴァントに命令を強制出来る魔力リソースであり、お前が聖杯戦争の参加者である証明だ。それを使い切るとマスターではなくなり、サーヴァントとの契約も切れる。使いどころを見誤るなよ」
また、分からない単語が出て来た。
聖杯戦争? 一体何のコトなんだ?
「その名の通り、聖杯を取り合う戦争よ」
「え――って、うわあ!?」
セイバーじゃない声を聞き、顔を上げると――敷地内に、見知らぬ赤い服の少女が入って来ているではないか。その隣には、セイバーと同じデザインの軍服を肩から掛けた大男もいる。
「セイバー、何で言ってくれないんだ!?」
「敵意を持って侵入して来た、という訳ではなさそうだったからな。…マスターが気付いていない、とは思わなかった。言うべきだったか」
いや待て、見知らぬ少女ではない。
少なくとも、俺は彼女をよく知っている。
「お前…遠坂!?」
二年一組の、遠坂凛。
学園のマドンナとも言える、俺が密かに憧れている存在だ。…何でこんな所に。
「こんばんは、衛宮くん」
挨拶と共に、遠坂は微笑んだ。
◇
聖杯戦争に巻き込まれた衛宮士郎に、凛が説明をしている間、セイバー…アグニカ・カイエルとアーチャー…ラスタル・エリオンは屋根の上に立っていた。目的は見張りだ。
ふと、ラスタルが口を開いた。
「――お前が、あのアグニカ・カイエルか」
「ああ」
アグニカは端的に答える。
心の中では「ランサーとの会話を聞かれていたか」と思ったが、アグニカの場合、真名がバレた所で不都合が起きるコトは無いだろう。
「『ガンダム・バエル』を駆り、モビルアーマーを殺し尽くし、厄祭戦を終結に導いた英雄。伝説を聞いてはいたが、本当に会えるとは。セブンスターズの末裔としては光栄だ」
「――お前の時代に、どんな形で語られているかは知らんが…俺は英雄、なんて大層な奴ではないぞ。エリオンの末裔」
「…お気づきだったとは」
「見た感じの印象から勘で言ったんだが、当たっていたか」
ラスタルは厄祭戦から三百年後の末裔だ。
医療技術の発達で寿命も延びている為、初代セブンスターズからの世代交代はそこまで多くない。少なくとも、面影が残っている程度には初代の血は濃い。
しかし、ラスタルはアグニカの言葉の中で、一つ引っかかりを感じた。
「…英雄ではない、とはどういう? 貴方は紛れもなく、MAの脅威から人類を救っているハズだ」
「まあ、それはそうなんだが――」
「セイバー、アーチャー」
バツが悪そうにアグニカが頭をかき、ラスタルが首を傾げていた時、二人は庭に出て来た凛に声をかけられた。
「どうした、凛」
「これから衛宮くんを教会に連れて行くわ。二人も霊体化して付いて来なさい」
「と、遠坂? 勝手にそんなコト…」
「アンタに足りてないのは知識よ。この私が助けてあげたのに、野垂れ死なれたらたまらないわ」
士郎はアグニカに視線を向けるが、凛の言葉にはアグニカも頷いた為、反対出来るコトではないと諦めた。
かくして、士郎は凛に引きずられて教会へと足を運ぶコトになった。
【速報】セイバーはアグニカ・カイエル
原作で名前しか出てないだろうって?
いや、それはそうなんですけど…鉄血世界最強の男ですからね、そりゃねじ込みますよ(謎理論)
キャラ付けはオリジナルなんでご注意下さい。
次回「オルター・エゴ」
水曜日更新予定。