Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》   作:アグニ会幹部

6 / 32
今回はライダーが登場。
まあ、一話でガエリオがちょろっと言ってましたけど。


#05 マキリの末

   ―interlude―

 

 

 言峰は、祭壇に置かれた燭台に立つ消えた蝋燭に、火を灯し直す。

 月光にのみ照らし出された礼拝堂に、僅かな光が戻って行く。灯されたばかりの炎が、少しの風によって小刻みに揺れる。それをしばし眺めて、言峰は目を伏せた。

 

「あれから十年か。

 予想より早く始まったな――言峰」

 

 声が響く。 王気(オーラ)に満ち、一言で場を支配せしめる、荘厳にして傲岸不遜な玉音。

 それを発したのは、礼拝堂に幾つも設置されている長椅子の内の一つに腰掛けた、金髪の青年である。蛇を思わせる赤い瞳は、妖しげな光を宿している。

 

「前回の戦いは、結果が出ぬ内に終わった戦いだ。異例の早さでの仕切り直しは、聖杯の意志だと考えるべきだろうな」

 

 言峰の言葉を聞き、青年はくつくつと笑う。

 

「聖杯に意志が有る、と? 単に杯が満ちただけであろうよ」

「――そうか。…そうだな。聖杯自体は、単なる無機物に過ぎぬモノだ」

「しかしだ言峰。此度の聖杯戦争、些かの異常が見られるな?」

 

 笑いながら言う青年に対し、言峰は疑問符を浮かべる。そして、それを問いかけた。

 

「何がだ? 『英雄王』ギルガメッシュ」

「面子の話だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。いや――()()()()()()()()()()()、とすら言えるな」

 

 金髪の青年――前回の聖杯戦争でアーチャーとして召喚され、それから現世に留まり続けている「英雄王」ギルガメッシュは、長椅子にふんぞり返りながらそう述べた。

 

「――ランサーは、未来の英霊だったか」

「未来ではない。()()()()()()()()()()()()。並行世界ですらない」

「架空? 本来なら存在しないモノだと?」

 

 全能の眼を持つ王は、さぞ愉快だと言わんばかりに口元を緩め、言峰の言葉を肯定する。

 

「然り。この世界のモノでない架空の存在、正確には英霊ですらない。在るハズが無く、有り得もしないモノだ。

 何故か喚ばれたかは知らん。運命の悪戯、と言う他に有るまいて」

「…儀式への影響は無いのか?」

「無い。架空とは言えサーヴァントとして召喚され、存在しているのだからな」

 

 サーヴァントは、撃破されれば聖杯にくべられ、五騎が敗退するか、一定期間が経過した時点で聖杯は起動する。これまでの聖杯戦争と全く変わらない。

 

「しかし当然、格などは(オレ)のような正当な英霊に及ぶべくも無い。少なくともこの世界に於いては、誰の記憶にも、記録にも残らない存在だ」

 

 英霊としての格と戦闘能力が一致する、とは一概には言えないが、少なくともギルガメッシュはその両方において別格の英霊だ。別世界の架空の存在など、取るに足らないと言える。

 

「だが――架空であるとは言え、奴らは己が意志を持って現界した。奴らが奴らの世界で如何にして生き、この世界でどう絡み合うか。それを裁定するのも、この(オレ)の役目よ」

 

 ギルガメッシュは、史上稀に見る冷酷にして無慈悲の暴君である。

 されど、彼は人類の裁定者だ。手前勝手な物差しで、私情すら交えながら裁定を下す。しかし、如何なる時もブレるコトの無い全知なりし王が下す裁定は、並ぶモノが無いほど正しく、確信を突いたモノでもあるのだ。

 

「飛び入りの役者、継ぎ接ぎの舞台。あまりに不始末だが――なればこそ、(オレ)という観客を楽しませてくれるやも知れぬ」

 

 

   ―interlude out―

 

 

 

 

 遠坂と分かれ、俺は帰路についていた。セイバーも霊体化して、付いて来ているようだ。

 冬木大橋を渡り、川辺の公園に入るべく、階段を降りる。この公園を横切ると、近道になるからである。どうやら、あまり知られてはいないらしいが。

 

「…?」

 

 公園に降りた途端、違和感を感じた。何かが反響するような、常と違っているような感覚。

 しかし、それは気のせいではないらしい。

 

「――マスター」

「セイバー?」

 

 セイバーが実体化した。何事か尋ねると、セイバーはこう答える。

 

「この公園には、結界が張られている。人払いの結界だ。…近くに、サーヴァントの気配が有る」

「――遠坂じゃないのか?」

「アーチャーの気配ではないし、ランサーやバーサーカーとも異なる、全く別の気配だ。一日の間に三騎ものサーヴァントに出会うとは、運が良いのか悪いのか」

 

 肩をすくめつつ、セイバーは無言になり、目で問うてくる。――どうする? と。

 

「行こう。姿くらいは見ておかないと」

 

 公園に出て、周囲を警戒しながら進む。

 あちこちには球場に有るような照明塔が立っている為、夜とはいえ視界は充分だ。

 

「近いぞ、気を付けろ」

 

 セイバーが注意を促してくれた時、植え込みの反対側から声がした。

 

「この愚図が! 何度言えば分かるんだよ!」

 

 男の怒声。何やら揉めているようだ。

 しかし、その声には聞き覚えが有った。

 

「アレは…慎二――!?」

「…あの男は知り合いか? ワカメみたいな髪型だが」

 

 植え込みの側にしゃがんで、気付かれないように視線を上げる。やはり、叫んでいるのは慎二だ。

 …てかセイバー、ワカメって酷いな。

 

「さっさと喰えよ! そいつの魂を喰え、ライダー!

 お前はサーヴァントで、お前のマスターは僕なんだぞ!? お前はただ、僕の言う通りにしてれば良いんだよ!」

「だとしても! イシュー家の名にかけて、私はそのような下劣な非道を決してしない! 家の名に掛けても、この少女の魂を喰らうコトなど絶対に出来ない!!」

 

 隣にしゃがんだセイバーがほう、と呟くのが分かった。笑みを浮かべて、顎に手を当てている。

 

「…セイバー、気になるコトが有るのか?」

「いや何、聞き覚えの有る名が聞こえたというだけだ。…イシューか。成る程成る程」

 

 何やら満足げに頷くセイバー。

 よく分からないが、とりあえずどうするか。

 

「――ライダー、と言ってたか? あのサーヴァント、人間を一人抱えているぞ」

「え? …って、美綴!?」

 

 ライダーのサーヴァントが横抱きに抱えているのは、同級生にして弓道部の部長である、美綴綾子だった。気を失っているらしい。

 魂を喰え、と慎二が言ってたのは――まさか、美綴の魂を喰えとライダーに命令していたというのか。それをライダーが拒否したコトが、慎二の癪に触ったと。

 

「チッ――!」

「マスター? って、オイ!」

「慎二!」

 

 立ち上がり、植え込みを踏み越えて慎二の名を叫ぶ。…何をやってるんだ、お前は!

 

「――へえ。誰かと思えば、衛宮じゃないか」

「美綴を離せ!」

「おっと、そうは行かないなぁ。我らが弓道部部長には、ちょっと手伝ってもらおうと思ってた所なのさ」

 

 いつもの笑みを浮かべて、いけしゃあしゃあと慎二はのたまう。しかし、俺の後ろに立ったセイバーを見た瞬間、慎二は歯を見せて笑みを深めた。

 

「それ、お前のサーヴァント?

 ッハハ、ハハハハハハハハハハハハ!」

「―――」

 

 セイバーは無言、かつ無表情のまま、俺の前に進み出た。その蒼き瞳に、慎二はどう映っているのか。

 

「紹介するよ。コイツが、僕のサーヴァント。

 …そうだ、戦わせてみようぜ衛宮。僕はサーヴァント同士の戦いを見たかったんだよ」

「――慎二、お前。何でマスターに…?」

「間桐は由緒有る、旧い魔術師の家系でね。聖杯戦争においちゃあ、『御三家』とまで呼ばれてたんだぜ? まあ、お前みたいな素人に知られたくはなかったけど。

 その長男である僕が――」

 

 慎二は懐から、赤い装丁の本を取り出した。本は紫色の淀んだ光を放ち、一気に開かれて頁がパラパラと捲れる。

 

 

「―――聖杯戦争に参加するのは、当然だろ?」

 

 

 謳うようにそう述べて嗤う慎二。

 その傍らでは、慎二のサーヴァントであるライダーが武装し、剣を構えた。

 

「慎二!」

「相変わらずノリが悪いなァ! もう分かってるんだろ!? ――この遊びは、ちょっと本気の遊びだったってコトをさァ!!」

 

 ライダーは両手で剣を握り、セイバーに切っ先を向けた。対するセイバーも、右手に黄金の剣を召喚する。構えは自然体で、剣はぶら下げたままだ。

 

「やれ、ライダー!!!」

「――カルタ・イシュー、参る!」

 

 背中のバーニアを全開にし、ライダーはセイバーに向かって突撃をかけて来る。セイバーは「何の機体か知らんが…」と呟きながらも。

 

「よッ!」

 

 ライダーが間合いに入った瞬間、下げていた黄金の剣を神速で振り上げ――ライダーの剣を、天高く弾き飛ばした。

 

「な…!?」

 

 白銀の剣が宙を舞う中、ライダーは呆気に取られ、セイバーの前に大きな隙を晒した。そして、そんな俺ですら見て取れた隙を、セイバーが見逃すハズも無い。

 セイバーは左手を後方へと振りかぶり、ライダーの腹部に拳を叩き込んだ。

 

「がッ…ァ!」

 

 骨が軋み、へし折れる音が聞こえた。ライダーは吐血し、海老のように身体を仰け反らせ、四肢を前方へ突き出した体勢のまま、思い切り後方へと吹き飛ばされる。

 慎二の横を音速でかっきり、二十メートルも後ろの照明塔を支える柱に激突させられたライダーは、その場で崩れ落とさせられた。

 

 

「―――はァ?」

 

 

 爽快に叫んだ表情のまま、慎二は固まっている。…自分のサーヴァントが、一瞬で撃退され無力化させられたのだ。放心するのも無理は無いだろう。

 

「…ええっと――」

 

 実際、俺もセイバーの強さには驚いている。

 召喚されてからと言うもの、ランサー、バーサーカー、そしてライダーの三騎ものサーヴァントと立て続けに交戦しているが――その全てで、セイバーは圧倒的な強さを見せた。これが「最優」と称される、セイバーのサーヴァントが持つ力なのか。

 

「速さは悪くないが、単調だな。ああいう力押しの戦法が通用するのは、モビルアーマーに対してだけだ。覚えておくと良い、イシューの末裔」

 

 セイバーは、ライダーに評価を下した。

 モビルアーマーだのイシューだのは良く分からないが、どうやらセイバーはライダーと何かしらの関係が有るらしい。ランサーといいアーチャーといいバーサーカーといい、知り合いが多過ぎるのでは。

 

 その時――宙を舞ったライダーの剣が突き立つと共に、ライダーが衝突した照明塔が倒れた。轟音が響き、照明は幾つか割れ、乱雑な光を不規則に撒き散らし始める。

 

「マスター。今の内にあの少女を」

「――そうだ、美綴!」

 

 セイバーに言われて、俺は美綴に駆け寄る。

 一方、一瞬でやられたライダーに、慎二は無言のまま歩み寄った。そして、紫光を宿した本を翳す。

 

「オイ。誰がやられて良い、なんて言った?

 立て」

 

 本が強い光を放ち、ライダーに雷のような魔力が走る。内臓が粗方潰され、背骨まで折れるような重い腹パンを食らったライダーには立ち上がるコトなど到底出来ず、声を上げてもがき苦しむコトしか出来ない。

 慎二は激昂し、更に叫ぶ。

 

「立て、立てよ! クッソ…! これじゃあ、僕の方が弱いみたいじゃないかァッ!!」

 

 すると、慎二の持っていた本から放たれていた光が消え――本は、紫色の炎に捲かれて燃えだした。驚いた慎二は本を取り落としたが、すぐに消火すべく叩き出す。

 

「クソ、消えろ! 消えろ! 消え―――」

 

 しかし、慎二の抵抗も虚しく、本は炭と化してしまった。四つん這いになった慎二は表情を歪め、悲痛な声を絞り出している。

 その傍らで、ライダーが消える。――消滅した、のだろうか?

 

 

「――お前には荷が勝ちすぎたな、慎二」

 

 

 暗闇から声がした。水気が全く無く、しわがれた声――それでいて、背筋が凍るような感覚。

 その声の主を視認したらしい慎二は、目に見えて怯え始めた。

 

「あ、あ…あ――!」

「これで間桐は敗退じゃ。残念至極」

「お…お、お爺様!!」

 

 現れたのは、腰が曲がりきっており、木製の杖を突く一人の老人。

 和服に身を包んでおり、髪の毛は一本も生えていない。見た目、声からしてかなりの老齢のようだ。――慎二に「お爺様」と呼ばれたコトから、恐らくは慎二の祖父にあたる人物。

 

「ま、待って――待ってくれよ! 僕が、僕が間桐の魔術師なんだ…僕がァ!!」

「無能は何処までも無能よな」

 

 慎二は、老人に必死にすがりつく。

 だが、当の老人は慎二をたった一言で切り捨てた。

 

「間桐――マキリの血筋は地に落ちた。

 ()()()()何一つ、期待してはおらぬ」

 

 そう吐き捨てた老人は、その全身が無数の蟲となり、夜の闇へと消えて行く。

 だが、俺にはその異常な光景よりも、得体の知れない老人の言葉の方が気にかかった。

 

「待て、待ってくれ! まさか桜も、こんなコトをやらされているのか!?」

「――ッ!」

 

 這い蹲る慎二から、息を呑む音がした。慎二はゆっくりと起き上がり、言い放った。

 

「何で、アイツの名前が出て来るんだよ…! 僕がいるのに…!

 あんな愚図が、魔術なんて知るもんか!! 間桐の教えは、僕だけのモノだったんだ!!」

 

 そう叫ぶ慎二に、いつもの余裕に満ちた様子は全く無い。俺には、それが悲痛な訴えにも見えた。

 消沈した慎二は、トボトボと夜の闇へと消えて行く。しかし、なおもその瞳には濁った光が宿されていた。

 

「――美綴は…!?」

「外傷は無い、気を失っているだけだろう。

 とは言え、彼女は聖杯戦争の被害者だ。ならば、監督役に頼るのが正道になる」

 

 セイバーがそう言う。…正直、あの神父には会いたくないのだが――美綴の為にも、ここは頼るしかないだろうか。

 

「………戻るコトになるけど」

「了解した。彼女は俺が運ぼう」

 

 生身の俺よりもサーヴァントであるセイバーの方が、体力は多いし揺れずに済むだろう。妥当な判断だ。

 

「――連れて行こう」

 

 そうして、俺とセイバーは元来た道を引き返すコトになるのであった。




年内の更新はこれで最後です。
皆様、良いお年をお迎え下さいますよう。
次回更新は水曜日、元日となる予定。


次回「ディザスター」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。