Fate/Iron-Blooded Orphans《完結》   作:アグニ会幹部

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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

第三章公開まで、今日で88日。
年末特番で新PVも公開され、私めは夜な夜な発狂する不審者と化しながら年を越しました(やべーやつ)
すごく楽しみ。とても楽しみ。メチャクチャ楽しみ。


#06 ディザスター

 冬木教会に戻って来て、扉を開ける。

 礼拝堂に有る祭壇の前には、数時間前と変わらず言峰が立っていた。

 

「…どうした、衛宮士郎。数時間足らずで戻って来るとは」

「聖杯戦争に巻き込まれた奴を連れて来た。怪我はしてないけど、気を失ってる。保護してほしい」

「良かろう。貸したまえ」

 

 言峰が歩み寄ってくる。そして、セイバーから美綴の身体を預かった。

 

「奥の部屋に寝かせておき、気が付き次第家に帰そう。――だが、衛宮士郎。本来、教会の敷地内にサーヴァントを入れるのはルール違反だ。今回は不問とするが、以降は罰則を貸す」

「――分かった」

 

 言峰が礼拝堂の奥の扉、その向こうへと消えていく。…礼拝堂には俺達だけになったかと思いきや、長椅子に誰かが座っている。

 金髪の男だ。蛇のような赤い瞳から、舐め回すか如き無遠慮な視線をこちらに向けていた。

 

「――面白い。良くないモノに魅入られているな、贋作者(フェイカー)

「…え?」

 

 そう言うと、金髪の男は俺から視線を外し、セイバーに向ける。セイバーは真顔のままその視線を迎え撃ったが、男は鼻で笑って長椅子から立ち上がった。

 そして、戻って来た言峰と入れ替わる形で、男は礼拝堂から立ち去った。同時に隣のセイバーが霊体化し、視界から消える。

 

「――じゃあ、俺はこれで」

「衛宮士郎。お前は、衛宮切嗣と言う名に聞き覚えは有るかね?」

 

 帰ろうとした俺に、言峰は聞き捨てならないコトを問うて来た。

 

「切嗣は、俺の親父だけど…お前、何で切嗣を知ってる?」

「当然、知っているとも。衛宮切嗣は、前回の聖杯戦争で――()()()()()()()()

「―――え?」

 

 切嗣が、聖杯戦争の勝者になった?

 と言うコトは…!?

 

「切嗣は、マスターだったのか!?」

「そうとも。奴はアインツベルンのマスターとして、前回の聖杯戦争に参加していた。

 衛宮切嗣は、一言で言えば殺し屋だった。魔術師専門の暗殺を生業とする、『魔術師殺し』でね。まさに血も涙も無いと言う奴だ。勝利の為ならばあらゆる手段を是とし、命乞いをする相手でも容赦無く抹殺した。爆殺、射殺、謀殺――実に合理的な方法で、奴は聖杯戦争を勝ち上がった」

 

 脳裏に、切嗣のコトが思い出される。

 大火災の中で俺を助けてくれて、病院に引き取りに来た時「僕は魔法使いなんだ」と言い、それからずっと育ててくれた。だらしなくて頼りなかったけど、暖かかった。よく海外に出かけていたらしいコトも覚えている。

 俺の知る切嗣と、言峰が述べた切嗣は全く異なっていた。だけど、言峰が嘘を言っているとも思えない。

 

「だが―――衛宮切嗣は、聖杯を裏切った。

 最後の一人となり、その手に願望機を得たにも関わらず、それを拒んだ。最後には、己がサーヴァントに聖杯を破壊させた」

 

 切嗣が、聖杯を破壊した。

 四度目の聖杯戦争でも願いは叶えられず、今に至ると言う訳か。

 

「…言峰。親父は何で、聖杯を壊したんだ?」

「―――さてな。敗者に過ぎぬ私には、知る由も無いコトだ」

 

 言峰は踵を回らせ、教会の奥へと引っ込んでいった。一人残された俺も、教会を後にする。

 

『聖杯を破壊した、か』

 

 念話でセイバーが呟いた。姿こそ見えていないが、側にいるのだろう。

 

「…俺の知っている切嗣なら、困ってる人を放っておくハズが無い。きっと何か理由が有る」

 

 足を止める。それを、セイバーは怪訝に思ったらしい。「ん?」と言ったようだ。

 

「遅くなっちまったけど――セイバー。

 俺と一緒に戦ってほしい。これ以上、誰かを不幸にしたくないんだ。…頼りなくて、不甲斐ないマスターだけどな」

 

 すると、俺の前にセイバーが実体化した。

 口元には、笑みが浮かべられている。

 

「契約は既に成されている。俺はお前の剣となり、共に戦う。きっと、それが運命だ」

 

 セイバーが差し出した手を、俺はしっかりと握り返した。俺よりも大きくて、力強く逞しい手だ。

 

「良ければ俺のコト、士郎って呼んでくれ」

「…分かった。こちらこそよろしく頼むぞ、士郎」

 

 

   ◇

 

 

 翌日。

 少々機嫌が悪い状態で学校に行き、階段を昇っていると、遠坂に遭遇した。

 

「あ、遠坂」

「『あ』なんて失礼ね」

 

 なんて良いタイミングで現れるんだ。

 昨日のやり取りで、遠坂が学校で猫を被っているのが分かって軽くショックだったが、今の俺には遠坂が救いの女神であるかのように見えている。

 

「ちょうど良かった、相談に乗ってくれ!」

 

 それから昼休みになって、俺と遠坂は屋上で待ち合わせていた。本題の前に、ひとまず俺は遠坂に昨日起きたコトを報告する。

 

「そう――慎二がマスターで、綾子が巻き込まれて、ライダーが消えた…と」

 

 言峰から切嗣について聞いたコトは、遠坂には関係無いので伏せた。遠坂は頷いて、俺に問いかけてくる。

 

「それで? まさか、これで終わりじゃないでしょ?」

「…慎二には妹がいるんだ。桜、って言うんだけど」

「―――その子が、どうしたの?」

「桜を、巻き込んじまうかも知れない。慎二の奴、まだ諦めてないみたいだった」

 

 これが本題の相談だ。

 桜は今日、頬に痣を付けていた――慎二に殴られたからだろう。「桜は魔術を知らない」と慎二は言っていたが、今後、慎二が桜を聖杯戦争に巻き込まないという保証は無い。

 それに、慎二がお爺様と呼んでいた老人――間桐臓硯の「お前には何一つ期待しておらぬ」という発言も気にかかる。慎二には期待していないと吐き捨てていたが、桜にはどうなのか。

 

「――なら、貴方の所で保護すれば良いと思うけど」

 

 少々考えた後、遠坂はそう提案した。

 しかし、心なしか…その表情には陰りが見られるような――?

 

「桜が、貴方にとって大切な人だ、って言うのならね」

 

 

   ◇

 

 

 夕方。

 帰り道に深山商店街に寄り、様々な生活用品を買い込んで家に戻った。

 

「お帰りなさい、先輩」

「士郎、お帰りー」

 

 居間には、先に帰宅していたらしい桜と藤ねえがいた。「ただいま」と返しつつ、机の上にタオルやら何やらの入った紙袋を大量に置く。

 

「…先輩。これは?」

「ああ――藤ねえ。これからしばらく、桜を家に泊めようと思うんだが」

「え…ええっ!?」

 

 桜は驚いている一方、藤ねえは案外冷静に「どうしてよ?」と聞いてきた。「一つ屋根の下にうら若き男女が二人とはけしからん!」とか言って、暴れ出すかと思っていたのだが。

 

「最近、何かと物騒だろ? 夜に一人で出歩くのは危険だし、俺や藤ねえがいつも送っていけるとは限らないし」

「あの…良いんですか?」

 

 紙袋を覗き込みながら、桜は上目遣いでそう聞いてくる。…泊まらせないと、桜が危ない。多少、無理にでも押し切らないと。

 

「良い、って言うか何と言うか…そうしてくれると助かる。桜を危険な目には合わせられないからな」

「うむ! 桜ちゃんのお家には、私が責任を持って連絡するから安心して!」

 

 藤ねえも賛成してくれる。非常に頼もしい。

 

「…じゃあ、お言葉に甘えます」

 

 それを受けて、桜も了承してくれた。ひとまず一安心と言うべきか。

 

「部屋は――離れの洋室を使ってくれ」

「はい、ありがとうございます」

 

 桜は紙袋を一気に持ち上げ、離れに向かう。俺も手伝おうと、桜の後ろを追ったが。

 

 

 突如として、桜が倒れた。

 

 

「桜!」

 

 倒れ込んだ桜を抱き上げる。身体が熱く、汗をかいていて、顔も赤みがかっている。風邪にでもかかったのかも知れない。

 

「どうしたのー? って、桜ちゃん!?」

「とにかく部屋に運ぼう。ベッドに寝かせるから、藤ねえは桜を着替えさせてくれ。汗をかいてる」

「う、うん!」

 

 桜の着替えを取りに行った藤ねえを尻目に、桜を横抱きにして部屋に運ぶ。その間、この一年ほどで女の子らしくなった桜の身体には、意識を向けないようにして。

 

 

   ◇

 

 

 深夜。桜が目を覚ました。

 付き添いをしていた俺を見て、桜は微笑んでくれる。買ってきた毛布が役立って良かった。

 

「先輩…」

「早速役に立ったな。それじゃあ――」

 

 席を立とうとした俺の袖を、桜がちょんと掴んで来た。俺は笑って、椅子に座り直す。

 

「もうちょいここにいる。後三十分は監視してるから、大人しくしてろ」

「――先輩。先輩はどうして、私を守ってくれるんですか? 私が、心配だからですか?」

 

 俺は桜の手を握り返し、答える。

 

「…ああ、桜が心配だ。だから、ここにいてくれると助かる」

「………あの――よろしくお願いします、先輩」

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

 柳洞寺。

 冬木市深山町に有る円蔵山の頂上に建てられた由緒正しき寺であり、二、三十人の僧侶が住み込みで修行をしている場所である。

 また、魔術的にはこの冬木における、最大の霊脈地でもあった。円蔵山の地下に在る大空洞には、大聖杯が置かれているほどだ。

 

「…オルガ、どう?」

「ああ、防衛網の構築は大体済んだ」

 

 そして、此処には現在、二騎のサーヴァントが陣取って結界を築き上げている。この二人は正門の前に立っていた。

 

 キャスター、オルガ・イツカ。

 アサシン、三日月・オーガス。

 

 彼らはこの柳洞寺を拠り所として、これまで聖杯戦争を傍観して来た。

 

「俺の宝具で鉄華団の奴らを召喚して、見張りに付けさせた。結界も完璧に作動してる」

 

 現在こそ柳洞寺に拠点を置いているオルガだが、最初に彼を召喚したのは時計塔の魔術師、アトラム・ガリアスタだった。

 だが、アトラムは狙った英霊が召喚されず、オルガが知名度補正ゼロで大火力の攻撃宝具を持っていないと知った途端、マスター権を放棄して時計塔への帰還の途に付いてしまったのである。

 

 マスターがいないはぐれサーヴァントとなったオルガは、路頭に迷った。

 サーヴァントは聖杯が喚び寄せるモノだが、マスターからの魔力供給が無ければ現界を続けられない。しばらく彷徨った後、オルガは遂に道端で倒れ込んだ。

 そして、まさに消滅しようとしていた時。

 

『行き倒れか?』

 

 オルガは、穂群原学園の教師である葛木宗一郎に発見され、柳洞寺に連れ込まれたコトで一命を取り留めた。

 柳洞寺は冬木一の霊脈であり、円蔵山の地下大空洞には大聖杯が在る。それにより、オルガは消滅の危機をひとまず回避出来たのだった。

 

 命の恩人である葛木への義理を立てるコトを心に決めつつ、オルガは柳洞寺を拠点として、防衛結界の構築に乗り出した。

 鉄華団のメンバーを召喚出来る宝具を応用して、三日月・オーガスをアサシンのサーヴァントとして召喚。更に防衛網を構築し、柳洞寺を完璧な拠点として確立したのである。

 

「マスターになる、とまで言ってくれた先生の為にも、勝とうじゃねぇか」

「うん。勿論だ、オルガ。いつも通り、邪魔する奴は全部潰す」

 

 二人は拳を合わせる。しかし、その時。

 

 

阿々々々々(カカカカカ)

 

 

 悪辣な老人の笑い声が、響き渡った。

 オルガと三日月は周囲を見回すが、声の主は見つからない。配置してある防衛隊からも、何の連絡も無い。

 

『意気だけは良いが、青いのう若造共』

「警戒班、状況は!?」

 

 オルガは通信機を耳に当てて叫ぶが、警戒にあたっていた団員達からは「異常無し」の報告しか得られない。しかし、三日月は何かに気付いて境内へ向かって走り出した。

 

「オルガ、中からだ!」

「何だと…!?」

 

 三日月を追って、オルガも境内に入る。

 すると、そこでは―――

 

「…先、生――!?」

 

 

 葛木宗一郎が、血溜まりの中に倒れていた。

 

 

「いやはや、脆いのう。魔術師ですらない男がマスターとは、笑わせてくれるモノよ」

「お前…!」

 

 三日月は葛木の傍らに立つ老人、間桐臓硯に飛びかかるべく、体勢を低くする。だが、臓硯は全く動じず、言葉を紡ぐ。

 

「焦るな若造。この男はまだ、生きておる」

「…ッ!」

 

 その言葉で、三日月は動けなくなった。

 臓硯はほくそ笑み、続ける。

 

「こやつの体内には、儂の操る蟲が埋め込まれておる。それにより、辛くも命を繋いでおる状態じゃ。

 当然、蟲の使い手である儂が死ねば、こやつを延命させておる蟲も死ぬ。儂を殺すコトは、こやつを殺すコトと同義だと心得よ」

 

 歯を見せて笑いながら、臓硯はそう宣う。

 サーヴァントであるオルガと三日月にとっては、臓硯を殺すコトはさして難しくない。如何に臓硯が五百年の時を生きる怪物であるとは言え、近頃は衰えたコトも有り、サーヴァントの戦闘力には及ぶべくも無い。臓硯が実際に死ぬか、というのはさておき。

 

 ――しかし、二人には臓硯を殺せない。

 

 恩を忘れず、筋を通すコトを重視する二人の性格まで見抜いた上で――臓硯は葛木宗一郎という男を敢えて殺さず、人質に取ったのだ。

 

「これは取引よ。お前達の行動如何では、こやつを解放してやらんコトもない」

「――何が、望みだ?」

「簡単なコトだ」

 

 続けて、臓硯はその条件を提示する。

 

 

「儂のサーヴァントとなれ。

 儂の手足として戦い、儂に聖杯を齎したならば――その時こそ、この男を解放してやろう」

 

 

 思わず、オルガは唇を噛んだ。

 だが、臓硯は逡巡の時間を与えるほど優しくはない。

 

「さあ――決断せい、青二才。

 くれぐれも、儂の気が変わらぬ内にな」

 

 命の恩人を見捨てるコトなど出来ない。それでは筋が通らないし、そもそも恩を仇で返すような暴虐など出来るハズがない。命の恩人を救うには、どうするべきか。

 

「…オルガ、どうする?」

「ミカ、お前は――」

「俺はオルガの決定に従う」

 

 三日月が、オルガに視線を向ける。決断を迫られたオルガだが、答えなどとうに決まっている。いや、とっくに決められている。臓硯によって。

 

 オルガが選ぶべき選択肢など、実際には一つしか用意されていないのだ―――

 

 

   ―interlude out―




どんなに悪いコトしても全く違和感の欠片も生まれない臓硯マジ愉悦部最高顧問。許すまじ。
さあ、皆様ご一緒に――

「くたばれクソジジイ!!!」




次回「花の唄」
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