レインオルガ   作:レインオル太郎

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なるべく双方リスペクトできるように頑張ります。俺止まるんじゃねえぞ……


第一話 新たな異世界

 

 俺──鉄華団団長(てっかだんだんちょう)オルガ・イツカ──はゆっくりと目を覚ました。だんだんと意識がはっきりしてくる。固いレンガの感触。どうやら倒れてしまっていたらしい。身体を起こして辺りを見渡す。

 

 ここは城下町ってやつか。上には晴れ渡った空、周りには人の流れと賑わう市場。そして北に見えるあの建造物がおそらく城だろう。俺は立ち上がり、スーツに付いた土埃を払って少し考える。

 

 どこなんだよここは。

 いやそもそも俺は死んだはずの人間だ。なんで今生きている?あの日確かにヒットマンの凶弾からライドを庇って……それで終わりか?いや、その後も俺の人生は終わらなかった。

 

「そうか、異世界転生ってやつか……」

 

 少しずつ思い出してきた。俺は最初に死んでから異世界を渡る旅、俗にいう異世界転生に巻き込まれたんだった。流石に記憶が曖昧で、どれだけの世界を巡ったかもう覚えちゃいないが、ミカや他の仲間たちと異世界を巡ることもあったはずだ。

 

「あいつらも来てるのか? この辺りにはいねえみたいだが……」

 

 周りには、道のど真ん中で目を覚ました俺を不思議そうに眺めている人もいる。俺は人目を避けようと狭い路地に入る。そこには隠れるように通りを覗いている黒髪の少女がいた。ちょうどいい。こいつに色々聞いてみるか。

 

「なあ、あんた…」

「うわっ! びっくりしたぁ!」

 

 跳び上がって驚いた少女は俺を見ると一瞬ぎょっとするが、通りを一瞥すると、圧し殺した声を出す。

 

「あんたねえ、人の後ろからいきなり話しかけるんじゃないわよ!」

「悪ぃ。ここがどこか聞きたくてな」

「は? あんたおかしなこと聞くのね」

 

 碧眼を細めて呆れたような顔で見てくる彼女だが、説明はしてくれた。ここはミュールゲニア大陸南方のサンクワールという国らしい。聞いたことのない地名だ。おそらく地球でも火星でもないだろう。

 

「それとこっちに三日月はいるか?」

「誰それ? 聞いたことないわ」

「そっかー。助かった。えーっと、あんたは……」

「名前? あたしはユーリ」

「俺は……鉄華団団長……オルガ・イツカだぞ……」

「もういいでしょ。仕事の邪魔だからあっちに行って」

 

 彼女──ユーリは手で追い払うような仕草をするが、俺は聞き逃さなかった。

 

「仕事? 俺にはそんな風には見えねえがな」

「えっ」

「こそこそ隠れて何かを覗き見てるようなやつが全うな仕事をしてるとは到底思えねえぞ」

 

 ユーリの顔に一瞬しまった、と浮かんだ気がしたが、すぐ肩を落とした。

 

「あたしのバカ……。まああんたはこの国の人間じゃなさそうだしいいか」

 

 ユーリは視線を通りで買い物をしている男に向ける。18歳くらいの黒髪の男で、細いが引き締まった身体をしている。黒い軽装を身にまとい、見事な毛並みの白馬を連れている。

 

「誰だ? あいつは?」

「レインよ。"知られざる天才剣士"と言われるこの国の上将軍。ザーマインって国の命令であいつを尾行しているところなの」

「……そいつは大層な名前だ」

「あいつがガルフォート城を出てから見張ってるわ。まあ将軍らしい振る舞いなんて今のところしてないけど」

「そうみてえだな……」

 

 バカにするような目線を黒ずくめの男──レイン──に向けるユーリに俺は同意する。レインは店で買い物がてら女性店員を口説きにかかっているようだ。買い物を終えたと思ったら白馬に跨がり、超音波のような声を発しながら馬を進めていく。近くの犬に吠えられようがお構いなしだ。

 

「なんて声出してやがる……。まさか歌じゃねえよな?」

「なわけないでしょ」

 

 俺の苦しい解釈を即座に切り捨てると、ユーリは先程より穏やかな表情で俺の方に向き直る。

 

「さあもういいでしょ。ここは目を瞑ってさ」

「とやかく言うつもりはねえよ」

 

 初対面だがこいつが理由もなしに悪事を働くようには見えない。仮に違ったとしても、俺たち鉄華団だって生き残るためにいくらでも手を汚してきた。俺が止めるのは筋が通らねえ。

 

 俺はふとミカのことを考えていた。思えば俺たちは何をするにも一緒だった。俺たちの行く手を阻む奴らをぶっ潰す時も。全てはここじゃないどこか……俺たちの本当の居場所に辿り着くために。たとえ異世界だろうとそれは変わらねえ。俺が立ち止まらない限り、いつだってミカは着いてきてくれた。俺たちは鉄より固い絆で結ばれていたはずだ。それなのに……

 

「どこいっちまったんだ……ミカ……」

「へっ?」

 

 気付けば俺は天高く叫んでいた。

 

「ミカァァァァァ!!」

 

 ピギュ

 

「ッ!?」

「うるさいなぁ。何?」

 

 唐突な誰かにぐっと引っ張られる感触と聞き覚えのある声。見ると目の前にはミカが立っていた。何度見たか分からない仏頂面で俺の胸ぐらを掴んでいる。さっきまでいなかった……今異世界転生してきたのか?まあそんなことより……

 

「そうだよな。お前がこんなところで俺を終わりにするはずがねえ。よく来てくれたなミカ」

「オルガがいるところが俺の居場所だから」

「はっ、そうやってお前は……」

 

 ミカの言葉につい笑みがこぼれるが、そこで蚊帳の外だったユーリが遮ってくる。

 

「いやいやちょっと? いきなり叫び出したと思ったら何? ……なんか感動の再会っぽいけど」

「オルガ、誰これ?」

「悪いな、ユーリ。騒がしくってよ」

「ほんとよ! さっきのでもしレインに逃げられでもしたら……」

 

 ユーリが怒りで顔を真っ赤にしながら俺からレインに視線を戻し──青ざめる。レインがどこにもいないのだ。

 

「いない!? 嘘でしょ? あーもうどうしてくれんのよー!!」

 

 ユーリが頭を抱えたまま身体を仰け反らせて叫ぶ。仕事を失敗できない理由でもあるのだろうが正直うるさい、とか考えていると、ユーリが再び顔を真っ赤にさせて俺に向き直る。

 

「あんたのせいよ! あ・ん・た・の!! 何とかしなさいよー!!」

 

 甲高い声が俺の耳を直撃する。俺のせいとは正直ピンと来てねえが、場合が場合だ。俺は目を閉じてため息をつくと、ミカに静かに告げる。

 

「なあ、ミカ……」

「ん?」

「そろそろ離しやがれ!」

 

 俺は胸ぐらを掴んでいたミカの手を払いのける。

 

「ああ分かったよ! 連れてってやるよ! どうせ後戻りはできねぇんだ……連れてきゃいいんだろ!!」

 

 

 

 勝ち取りたい!

 

 ものもない!

 

 無欲なバカにはなれない!

「いた! そこの角を右に曲がったわ!」

 

 それで君はいいんだよ!

「足を止めるなぁ!! あと少しっ!! あと少しでっ……!!」

 

 

 

「グウッ」

 

 レインを追って角を曲がったら、すぐそこに彼が待ち構えていた。立ち塞がるレインに勢いよくぶつかって俺はその場に転がる。

 

 希望の花~♪  繋いだ絆を~♪  力に~♪

「だからよ……止まるんじゃねえぞ……」

 

 やっぱりこの世界でも俺は死にやすいみたいだ。俺は血まみれの左手を、残された仲間に進むべき道を指し示すかのように伸ばし、そのまま力尽きる。そんな俺をレインは不思議そうに見ていたが、やがてユーリとミカの方を向いてにやりと笑う。

 

「よう、少し話さないか?」

「話しやがれ!」

 

 即座に復活した俺はレインの言葉に反応しつい声を荒げてしまった。案の定ミカにまた胸ぐらを引っ張られる。

 

「話を遮っちゃダメだよ。オルガ」

「すみませんでした……」

 

 そんなふざけたやり取りをよそに、ユーリは引きつった笑みを浮かべてなんとか誤魔化そうとしていた。

 

「えっと、何の御用でしょう……?」

「いや何、お前らが俺のあとをずーっとついてくる理由を聞きたくてな」

 

 バレてたか。このレインとかいう男はこの国の将軍らしいが、それは肩書きだけじゃないらしい。俺はレインが腰に下げている長剣をチラ見する。どうにか怪しまれないように切り抜けねえと……

 

 しかし俺が何か言うより先にユーリが「実は……」と指先を口元に当てて呟く。

 

「あたし……お城の前で人目お見掛けした時から……騎士様に心を奪われて……ついそのままあとを」

「は? あんた正気──グウッ」

 

 言いかけた俺だったがユーリの恐ろしく早い肘鉄を脇腹にもろに食らい、再びその場に崩れ落ちる。

 

 希望の花~♪  繋いだ絆を~♪  力に~♪

「だからよ……止まるんじゃねえぞ……」

 

「なるほど、一目惚れで……」

 

 レインの言葉にユーリが頬を染める。

 

「ええ。それで……」

「…………で、本当は?」

 

 レインが気のいい友人のように聞いてくるのに対し、張り付いていた笑みが一瞬消え、あからさまに嫌そうな顔をするユーリ。そこでレインは目を閉じた。おもむろに自分の胸に手を当てて、もう片方の手で虚空を握る。

 

「あのなぁ……確かに俺はかっこいい! だがそんな見え透いた言い訳は効かん!」

 

 周囲の温度が2℃ほど下がった気がした。ユーリは見るからにドン引きしているし、ミカですら「こいつ……ヤバイな」と呟いている。それには俺も同感だ。恥ずかしくねえのかよ。

 

「あっ……いや、本当なんです! あたしはそれはもうあなた様にメロメロで──」

 

 言い訳と言われたユーリが慌てて訂正を入れるが、そこでレインが手で制止する。そこにさっきまでの笑みはなかった。背筋が凍る感覚。俺がミカを横目で見ると、ミカはもう懐に手を伸ばしている。

 

「……シラを切るなら言わせてもらう。お前達──」

 

 レインが静かに告げる。

 

「──ザーマインの間諜(スパイ)だろ?」

 

 ユーリが一瞬硬直し──瞬時に後ろに飛び退く。

 

 ユーリが隠し持っていたナイフに手をかける時には、既にミカが銃を構えている。

 

 俺も攻勢に出ようとして──

 

 

 

「──どうした?」

 

 

 

 レインの声にはっと目を見開く。気が付くと、しゃがんだユーリが短剣の柄に手をかけたまま動かない。レインがユーリの喉元に剣──刀身が青く光っている──を突き付けているのだ。

 

 ユーリが信じられないといった表情で、ゴクリと唾を飲む。

 

「嘘……なんて速さ……」

「ユーリを守んのは俺の仕事だ!」

 

 咄嗟に俺はユーリを庇おうと足を踏み出す。しかし下からボトッ、という音がして動きを止めた。

 

「は?」

 

 俺はまさかと思い、足元に視線を降ろす。

 そこには──斬られた俺の前髪が転がっていた。

 

「なんだよ……」

 

 希望の花~♪  繋いだ絆を~♪  力に~♪

「だからよ……止まるんじゃねえぞ……」

 

 レインが俺の後方に視線を送る。復活した俺が振り返るとレインから距離をとったミカがいた。あの一瞬でレインの間合いから逃れたらしい。やっぱすげぇよ、ミカは。レインもほう、と感心するような声を出す。

 

「銃身を切断したつもりだったんだが……よく避けたな」

「オルガ、俺撃てるよ」

「待てミカ!!」

 

 俺はレインに向けて銃を構え直したミカに怒鳴る。ここで撃ったらユーリに当たるかもしれないし、そもそもミカが引き金を引くより先にユーリの首が転がるだろう。あいつはおそらく俺みたいに生き返ったりはしねえ。生殺与奪の権は向こうにある。

 ミカはしばらくレインをじっと見つめたあと、銃を持つ手を下げる。俺はレインに向き直り、両手を上げて降伏の意を示す。

 

「あんた、一体何者だ……?」

「……何者って言われてもな。お前らが調べた通りだよ」

 

 レインが目を閉じ、ユーリに突き付けていた剣を腰に下げた鞘に仕舞った。鍔と鞘がぶつかり、キンと音をたてる。

 

 

 

「レイン────"知られざる天才剣士"」

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださった方ありがとうございます。おそらく不定期更新になると思いますが、止まるんじゃねえぞの精神で続けていきます。

用語解説的なもの

サンクワール
大陸南西部の小国。現王ダグラスによる貴族贔屓の施政は民衆の反感を買っている。

ザーマイン
北の大国。大陸制覇を掲げ、複数国に侵攻を開始。サンクワールのおよそ十倍の国力を持つ。
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