この時期、街はクリスマスマーケットで一日中彩られていて、これが目的でこの地に訪れる者も居るほどだった。
そんなお祭りムード漂う町の中において、中心地に立つ一軒の家屋。そこには母子が二人で住んでいた。
そこに住む可愛らしい一人娘は、お婆さんが作ってくれたベルベットの赤い頭巾を気に入り、常に赤い頭巾を身に着けていたので、いつの日からか”赤ずきんちゃん”と界隈でも呼ばれるようになった。
常に急がしくしている母親に代わって、赤ずきんは頼みごとを良く手伝っていた。
先日、郊外に住むお婆さんが病気で寝込んでいるとの一報を受けたので、様子見舞いに行って欲しいとのことだった。
赤ずきんは二つ返事で了解し、葡萄酒と
山道に入る途中で街の大人に行先を聞かれた赤ずきんは、お見舞いの旨を伝えると、オオカミが出るから注意したほうが良いとの助言を受けた。
それに手を振って了解の合図を出して先へ急ぐ。
可愛らしい容姿からは想像とは裏腹に、頭の回転も速く、動きも俊敏で更に要領も得ているので、住人からの信頼はそれなりにあった。
街からお婆さんの小屋までは、正味30分ほどの道のりであった。山道とはいえ走って行けばもう少し時間を短縮できそうだが、あえて急ぐようなことはしなかった。
なるべくこの一人の時間を大切にしようと、赤ずきんは走り出しこそ勢いがあったが、街から離れるにつれて、ゆっくりと辺りを見渡しつつ山道を楽しみながら歩いていた。
木々はすっかり冬の様相を呈しており、雪こそ積もっていないが針葉樹が音もなく立ち並ぶ静寂な森は肌寒さを感じるほどだった。
冬の肌寒い林道を一人淡々と歩いていく。流石に寒さを感じるが気分は高揚していた。針葉樹の緑の森は幻想的でリリカルに溢れていた。
そしてお使いの際に立ち寄る丘に辿り着くと、何時もの様に丘から街を見下ろしてみる。
──空の青さと街並みのコントラストが視界一杯に広がって浮遊感さえも感じさせた。
今日は朝から晴天だったので、クリスマスマーケットの町の煌びやかさがここからでもハッキリと見えていた。
冷たくも爽やかな風が体を吹き付ける。ここまでくれば大丈夫のはず。何時ものように赤い頭巾を下ろしてみる。
柔らかそうな栗色の髪とルビーを思わせる輝いた瞳を持つ少女だった。
赤ずきんの本名は当然あるのだが、誰もその名で呼ぶものは居なかった。以前はそうではなかったのだがいつの間にか少女=赤ずきんで通っていた。
実の母親さえ赤ずきんと呼ぶ始末である。
(でも、だからって家の中でも頭巾を被らなくてもいいと思うんだけど……)
まあ、そんなことを今更気にしても仕方がない、そう割りきり、少女は再び赤い頭巾を被り直して、丘を後にした。
山道から林道に入り、幾分歩きやすくなった。周りの針葉樹林から清々しい青い臭いがしてくる。赤ずきんは思わず立ち止まって深呼吸をしてみた。肺に新鮮な空気が満たされて、目が覚めたようにクリアな気分になった。
ふと、ある木を見てみると、何かと視線があう。
針葉樹の林の中で、一際高い木の幹に隠れるように何かがいるように見えた。少し距離があるので何なのかはまだ良く分からない。
ただ、2つの赤い光が木々の間から覗いているように光っていた。
──もしかして!
赤ずきんは両手でバスケットを胸の前で抱え持ち、咄嗟に身を守る体勢をとった。
このところ近隣ではオオカミの目撃の報が相次いでいた。そのせいで狩人が山狩りを行っているようだが未だ発見には至らず、思ったように戦果は上がっていなかった。
そんな中、少女が単独でオオカミと
冬場とはいえ滅多に遭うことはないだろうと少し楽観視していた。
オオカミが出るかもしれない森を女の子一人で行かせる母親、赤ずきんは
だが、そんな想い引き摺っていても現実は変わらない。
赤ずきんは冷静に現状を把握して、オオカミと思しきモノに対し正面を向き合ったまま、一歩ずつ後ずさりをしていた。
恐怖で逃げ出したくなるが、獣に対して後ろを見せて逃げるのは悪手だった。それはこの辺に住んでいるものなら子供でも常識レベルの決まり事だった。
赤ずきんは更にじりじりと後ずさるが、対象はこちらを見つめているだけで、その場から動こうとしなかった。
何かがおかしい気がする。
野生動物との遭遇回数は少なからずあるのだが、明らかにそれとは何かが違っていた。
何より特有の獣の臭いがしなかったし、目線を合わせても目に獣特有の野性味を感じられなかった。
まるで作り物で出来た目に見えた。
(──だとしたら!)
得体のしれない物への好奇心に駆られたのか、赤ずきんは十分逃走可能な距離まで離した間合いを自ら詰めてしまっていた。
作り物の目を持つ者の正体が知りたかった。
赤ずきんが近づいていくと対象は狼狽えたように、木の陰に身を隠そうと縮こまっていくように見えた。
さらに対象に近づく赤ずきん、相手は木にしがみつくように隠れる。
太い針葉樹の木を挟んで両者は睨みあう形になった。
だがその立場は逆転していて、赤ずきんが対象を追い詰めていた。
肌寒い北風が木々の葉をざわざわ、と擦れさせる。
二つの対象も細かく身震いした。
……暫くすると木の影からオオカミ──の様な格好をした人間の少女が姿を現した。
頭にはオオカミを模した被り物をして、体にはオオカミの体毛を模した服の様なものを身に着けていたが肌の露出が多く、服というより水着に近い格好となっていた。両手と両足にはオオカミの足を模したものを付けていたが肩や太ももは露出したままになっている。
真冬の森を歩くにはあまりにも無謀な服装だった。
値踏みするように、その姿をじろじろと観察していた赤ずきんだったが、ため息を一つ、つくと開口一番、当たり前のことを敢えて尋ねた。
「……寒く、ないの?」
赤ずきんと、オオカミの様な少女との衝撃的かつ運命的な出会いだった。
冬の森の奥でオオカミ?の様な少女と出会う。
そもそも、この娘は何なのだろうか?
オオカミに育てられた少女……にはとても見えない。明らかに作り物のオオカミで毛皮ですらなさそうだし、頭に被っているのも剥製のオオカミの頭部ではなさそうだ。
それでも適当な作りではなそうで何かの糸を編んで作られている感じがした。ちゃんとシッポまで編んで再現されていた。
少女の容姿は美しく、長い黒髪を二つに束ねていて発育も良く健康そうに見える。どことなく品の良い清楚な感じがしていた。
女性を象徴する部位も赤ずきんよりも発達しているようだった。
知らずのうちに赤ずきんは食い入るようにオオカミの少女を眺めてしまっていた。
少女と目が合うと、何処か恥ずかしそうにしていたが、やがてしっかりと目を向き合って微笑んでくれた。
こちらに興味があるようにも見えたので再びコンタクトを取ろうとしたのだが……。
「……くしゅん!」
突然、オオカミ少女はくしゃみをしていた。
……やはりその恰好は今の時期には無理があったのだろう。
その様子にすっかり緊張が解れてしまって、赤ずきんは思わず、くすくすと笑いだしてしまった。
オオカミ少女は恥ずかしくなったのか、顔を赤くして俯いてしまっている。
くしゃみをしたことよりも、そもそも自分の格好が恥ずかしくはないのだろうか?
流石に笑ってしまったのは悪いと思い、慌てて近寄って声を掛けた。
「ご、ごめん。でもその恰好だと寒いでしょ、大丈夫?」
「うん。やっぱり寒いね……。これだと」
顔を覗き込むと目があった。当然、獣の瞳ではなく美しく澄んだ真鍮のような瞳をしていた。
一瞬で心が奪われるほどに綺麗だった。
「とりあえず、はい、どうぞ」
赤ずきんはオオカミ少女にハンカチを手渡した。
犬の刺繍が施された可愛らしいデザインで、この少女に渡すものではうってつけだった。
それを手に取るとこちらに一礼した後、遠慮することなく、鼻をずびずびとかみはじめた。
「ありがとう。これ洗って返すね」
……ハンカチはすっかり鼻水まみれになってしまっていた。
「あはは、お構いなく……」
ハンカチのことはさておき、赤ずきんはどうしても気になっていることがあった。それを少女に問いかける。
「なんでそんな恰好で森に居るの?まさか、ハロウィーンの続きってわけでもないだろうし」
赤ずきんの質問に対してきょとんとした表情を見せるオオカミのような服装の少女。こういう質問がくるのを想定していなかったのだろうか。
「えっとね、オオカミが出てくるか見張ってたの。この辺りの森で、目撃されてるみたいだから、木の陰に隠れて見張ってたんだ。そこにあなたが通りかかったんだよ」
オオカミ少女は口に手、というか肉球?を当ててはにかみ気味に答えてくれた。
どうやら誤解をしていたようだった。この少女は自分とさほど年は離れていないように見える上に、少しほわっとしているが、恐らく狩人なのだろう。そう考えるとオオカミの格好をしているのも納得がいく。武器は持っていないように見えるが、罠か何かを仕掛けていたのかもしれない。
「ごめんなさい!狩りの邪魔をしちゃって。わたし離れているからオオカミ退治、頑張ってください!」
赤ずきんはオオカミの格好をした狩人?に謝罪をして、その場から離れようとした。
街の安全を確保してくれる狩人には最大限の敬意を払いたい。街に住む人なら誰しもがそう思っていたのだが──。
「うん?わたし狩人さんじゃないよ~」
申し訳なさそうに間延びした返事を返される。
「えっ?じゃあ何をしているの」
すっかり狩人と誤解していたので少し恥ずかしかった。
「ここでオオカミが来るのを待ってたんだ。知ってる?オオカミってね、家畜は襲ったりするけど人間は襲わないんだよ。でもそれが本当がどうか確かめたいじゃない。だから、ここで待ってみることにしたの、そうしたら……」
「わたしが通りがかったってこと、だね。うん? じゃあ、もし本物のオオカミと遭遇してたら助けてくれ……ないよね。そもそも狩人じゃないみたいだしね」
「大丈夫。その為の、この衣装だよ。オオカミさんもきっと仲間だと思って心を開いてくれるよ」
何故かオオカミ少女は自信満々に答えるが、仲間というにはかなり無理な格好に見える。でも敢えて赤ずきんは指摘しなかった。
「そ、そうかなあ、ちょっと難しいんじゃないかなぁ? もしかして他に理由があったりして、例えばオオカミと友達になりたい──とか」
ちょっとどころではない無謀な行為だったが、あえてそれ以上は追及しなかった。
だがそれだけでは理由が弱い気がして赤ずきんは少しメルヘンチックな考えを口にしてみた。
──動物と友達になりたい。
少女なら一度は夢見た行為かもしれない。赤ずきんも実は試したことはあるのだが栗鼠やキツネと心を通わせることなど当然出来るわけもなく、その辺にいる野良犬にすら懐かれたことすらなかった。
(動物好きなんだけどなぁ……なんだろう?ふぇろもん?が足りないのかなぁ)
赤ずきんは思わず自分の手の臭いを嗅いでみたが特に何も匂ってはこなかった。
人前で変な仕草を見せてしまったと、慌てて取り繕ってみたが、オオカミの少女はこちらを見ては居らず何故か俯いてしまっていた。
オオカミ少女はそれ何処ではなく、うっ、と狼狽えてしまっていた。
実は友達のとの間で最近トラブルがあったばかりで、現在ぼっち進行中だった。
そこでこの場所で一人、孤独にチャンスを待ち続けていたのだ。
オオカミに襲われている人がいれば、それを助けて友達になれる切っ掛けがあるかもしれない(出来れば女の子がいいなぁ)
それがダメでも、もしかしたらオオカミと友達になれるかもしれない(ちょっと怖いけど懐いてくれれば可愛いかも)
一応、それなりに考えぬいた作戦?だった。
だがオオカミが現れる前に赤いずきんの少女に発見されてしまったので計画は頓挫してしまったわけだが。
(これはこれで良かったかもしれない。出来れば友達になってほしいけど……)
思わず赤ずきんの少女を物欲しそうな目で見つめてしまっていた。
その視線を感じとったのか少し照れながらも頭巾を下ろして素顔を見せてくれた。
リボンをあしらったカチューシャを付けている栗色のショートヘアの少女だった。
「わたし”
燐は握手を求める為、手を差し出した。
「あ。名前”赤ずきんちゃん”だと思ってたよ。でもオオカミちゃんじゃないよ。ええっとね……」
突然何を思ったのか、オオカミ少女が抱きついてきた。予想だにしなかったことに燐は戸惑いを見せてしまう。
(えっ!何、どういうこと?)
しっかりと胸から抱き合う形になる二人の少女。抱きしめられて分かったが、オオカミの衣装は思ってたよりも柔らかくて暖かかった。そして赤ずきんの耳元にか細い声が吐息交じりに聞こえてくる。
「
声が震えているのは寒さの為だろうか。
何にせよ、少女が名乗ってくれたので良かったのだが、少し過剰とも言える挨拶行為だった。
「……あのー? まだこうしてなきゃダメ?」
互いに自己紹介したので、燐はすぐに離れてくれるかと思っていたのだが、寒さの為か蛍はなかなか離れてはくれなかった。
「後、もうちょっとだから。こうしてて欲しい、な」
蛍は何故か時間を気にしていた。長い事ハグしていると何かあるのだろうか?
少なくとも少し変な気分になってしまうのは意識しているからだろうか。
──暫くの後、ようやく蛍は離れてくれた。
真正面からの突然のハグだったので今でも胸がどきどきと高鳴ってしまっている。
「なんかね、4分間ハグし合うと愛情が高まるんだって。少しは愛情感じられたかなぁ?」
恐らく他意は無いのだろうが、初対面の少女に対して愛情はまだ早い気がした。
「あー。うん……ごめん。でも暖かったよ」
燐は素直な感想を漏らしていた。
「そうだったんだ、ごめんね、変な事して。でも、わたしは愛情感じちゃったな。燐ってやさしい子だよね」
「えっ、そうかなぁ?自分ではそんな感じないけど」
困った表情で笑い返す。
でもこの少女に名前で呼んでもらえるのは何故か嬉しかった。
「それでね、良かったから友達になってほしいんだ。良いかなあ?」
長い髪をくるくると弄りながら蛍が恥ずかしそうに言ってきた。
困ったときにする癖、なのかもしれない。
「うん。もちろんだよ。むしろわたしのほうから友達になって欲しいっておもってたよ」
街に友達は多い燐だったが、この蛍からは何か違うものを感じていた。
何かのシンパシーを感じているかもしれない。
「本当?ありがとう、燐」
「こちらこそありがとう……蛍、ちゃん。よろしくね!」
「うん!」
再び蛍が抱きついてくる。やっぱり寒いのかなと燐は思ったので、今度はしっかりと抱きしめることにした。
でも何か変な影響を受けて実践しているのかも、と思い少し不憫にも感じていた。
寒空の下、少女たちは再び抱き合った。
吐く息は白く、風冷たく感じてはいたが心と心が触れ合って暖かかった。
偶然の出会いだったが何か運命的なものも感じていた。
…
……
燐は蛍と抱き合って時間を忘れるぐらい心地よかったのだが、何かが引っかかっていた。
(何か、大事な用が、あった気が……あっ!)
「そういえばわたし、お婆さんの家に見舞いに行く途中だった!」
急にばっ、と燐が離れたので蛍は驚いてしまった。そして少し寂しい気分にもなっていた。
「ご、ごめんね蛍ちゃん。また今度遊ぼうねっ。じゃあね、道中気を付けてね!」
申し訳なさそうに燐は言うと、素早く身を翻して森の奥深くに続く林道を足早に駆けていってしまった。
返事を返す間もなく燐は立ち去っていってしまった。
もう後姿も見えないほど足早に……。
友達になったばかりの少女の温もりが、まだ胸や手に残っている。
蛍はさっきまで抱き合っていた空間をもう一度抱いてみたが、冷たい風が通り抜けるだけだった。
途端に寒さが蛍の体に突き刺さり、思わず身震いした。ついさっきまであんなに暖かく、良い臭いに包まれていたのに、今は酷く冷たさを間近に感じることになった。
なんとなく鼻を利かせてみるが、燐のほのかな残り香すら残ってはいなかった。
さっきまで木の裏で一人で待っていることが出来たのに、何故か今はもう出来そうにない。
むしろよく出来たものだと今更に思えてしまった。
(もし燐が通りかからなかったら、わたし今頃……)
考えるだけでも恐ろしい程だった。無茶を通りこして無謀な行為だった。
それよりも今は、もう一度あの赤ずきんの少女──燐に会いたい。
会ってお礼を言いたいし、それにもっとお喋りしたり色々と親しくなりたい。
そう思うと居てもたっても居られず燐の姿を追って駆け出していた。
ただ、もう一度会いたい。その一心で蛍は見えない背中を追う。
しかし赤ずきんの少女はかなり足が速そうに見えた。少なくとも蛍が追い付けるレベルではない。
それに自身も野山を走るのには慣れておらず、スタミナも人並み以下しかなかった。
走るたびに息がきれてきて苦しくなる。
オオカミの格好をしていても中身は普通の少女なのだ。
とてもじゃないけどオオカミにはなりきれなかった。
「はぁ、はぁ、はあああぁ……」
とうとう蛍は息がきれて立ち止まってしまった。ちょうど分かれ道にあった木に手を着いて、しばし息を整えるために休んだ。
さて……あの娘はどちらの道を行ったのだろうか?既に姿は見えなくなっているし、これといって何の痕跡も残っていなかった。
「ふぅ……こんなときオオカミならどうするだろう? やっぱり臭いを嗅いでみるしかないのかな……」
蛍は先ほどと同じように臭いを嗅ぐ仕草をとってみる。しかし冬の澄んだ空気の臭いしかしなかった。
ううむ、と蛍は考え込んでしまう。
二者択一なので運が良ければ燐に会えるかもしれない。だが間違っていたら?
冬の森の奥深くで道に迷ってしまう危険性もはらんでいた。
今ならまだ引き返すことも出来る……臆病風に吹かれそうな心をなんとか立て直して、もう一度考えてみた。
(本気度が足りないのかもしれない。もっと本気でオオカミになりきって燐の香りを探さなきゃ。もう一度会いたいよ燐……)
今度は四つん這いになって地面の臭いを嗅いでみた。
遠目で見ればオオカミと間違うものがいるかもしれない。それぐらい蛍は必死になって臭いを辿った…………。
「あっ、この臭いかな、多分……」
蛍はかすかに甘い香りを嗅いだような気がしていた。
それはバスケットに入れてあったシュトレンの香りかもしれないし、まったく別の臭いかもしれない。そもそも気のせいの可能性の方が高いのだが。
ともかく臭いがあったと思われる方向の林道を蛍は走った。四つん這いのままで──は流石に恥ずかしいし、走りづらかったので人間らしく2本足で駆けた。
蛍が頼りにしてるのは臭いでも勘でもなく燐への想いだけだった。
…
………
しばらく走ってみたが、燐どころか何とも合う事すら叶わなかった。
気付けば、けもの道となっていて、森の奥深くまで入ってしまったらしい。
周りの木々は塔のように高く、空の見える範囲も狭いものとなっていた。
戻りたくとも今となっては帰り道の方向すら分からない。
それになんとなく森というか草木の感じが何時もとまったく違うように感じられる。見た目には変わらないように見えるが……性質が違うのだろうか。
蛍は焦燥感に駆られて途方にくれてしまっていたが、もはやどうしようもない。
やはり道が間違っていたのだろうか?
また、無謀な事をしてしまった……。後悔に苛まれながらも再び木の下で休んでいると、木隠れに煙突の様なものが見えた。
──まさかと思ったが、藁にも縋る気持ちでその方角へと足を進める。するとそこには──。
森を切り開いた平原にレンガ造りの小さめの小屋が建っていた。
パッと見は可愛らしいキノコの様な外観をしていて、少し年季があるような苔も見えていた。
屋根は赤く、煙突も見える。どうやらコレが葉陰から見えたらしい。
テラスの様なものもあり、近くには小さい畑と井戸もあった。
玄関ドアは少し小ぶりだが鮮やかな空色をしていた。夏の青空のように澄み切った青いドアだった。
森の奥深くにこんな建物があったことに驚いてしばし見とれていた蛍だったが、気を取り直してとりあえずその青いドアをノックしてみる。
コン、コン。
乾いた木の音色を響かせるが……中から誰かが出てくることはなかった。
もう一度ノックをして暫く待つが……やはり誰も出てはこなかった。
蛍は考え込んでしまった。
恐らくここが燐の言うお婆さんの家の筈なのだが、何故誰も出てはこないのだろう?
お婆さんが留守だとしても先に行った燐が居るはずである。蛍よりも先に着いている筈なのにどうして?
考えても答えは出ないので、試しにドアを軽く押してみた……すると音を立ててドアが開いてゆく。鍵は掛かっていなかったようだ。
蛍は少し逡巡したが、このまま突っ立ってても埒が明かないので意を決して中に入ってみることにした。
「お邪魔します……」
か細い蛍のささやき声は家の中に響いて、そして吸い込まれるように消えていった……。
……。
再び宣伝小説を書いてみたが──やっぱり無謀な企画……。
もう少し早めに取り掛かってれば良かったけど腰が重くてねぇー。
赤ずきんと青い空のカミュのコラボは結構前から頭の中では考えていました。ただ赤ずきんといっても童話の方ではなく少女漫画のアニメ版の方でしたが。
燐、サトくん、蛍ちゃん。が向こうの主役3人と妙に被るんですよねー。まさか元ネタでは……ないはずです。
でも3人のパーソナルイメージ?も割と被っていて、愛、勇気、希望。これも青カミュの3人と一致しているような……気がする──かも。
こじつけが強いかもしれないですが。
さて次の話なんですがとにかく時間がないので、クリスマス過ぎてしまってもなんとか完結させたいなあ。それではー。