Letztes Weihnachten   作:Towelie

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深い、深い森の奥、赤い頭巾の少女が一人、大きな岩の前に立っていた。
手には不釣り合いな巨大なハンマー。豪華な装飾が施してある特注品だった。
それを両手で持って狙いを定める。

「いっせーのっ!」
勢いを付けて少女は岩の塊にハンマーを振り下ろした。

ガグォォォン!!!

石を砕くような音と、爆発音が同時に発生して、森の木々をざわつかせた。
辺りは爆炎に包まれるが、飛び火などはしていない。

赤い頭巾を被った少女はしゃがみこみ、周辺の物質をを採取しはじめた。

「ふぅ、こんなものかなぁ」

採取した物をリュックに詰める。
先ほど使ったハンマーを片手に、うんしょっと、と背負って立ち上がった。
さっきの爆発のせいで、服が大分汚れてしまっていたが、今はどうすることも出来ない。
赤ずきんの少女は嘆息していた。

赤ずきんは少し前にお婆さんの家に着いていたのだが、用があるからと行ってお婆さんは単独で何処かへ行ってしまった。
病気や寝たきりというのは所謂、暗号の様なもので、お婆さんがそう事づけをしたときは、赤ずきんを呼び出して色々と秘密の雑用をさせていたのだ。

それで今回も、留守の間に幾つか必要なものを、森から採取して欲しいと、赤ずきんに頼んでいたのだ。

「まったく、相変わらず人使いが荒いよね。か弱い女の子にこんな重労働させるなんて」
ぶつくさ言いながらも赤ずきん──燐は採取した物を背負って小屋への帰り道を歩く。
でも、実はそれ程嫌気は感じて無かった。自身の勉強になることだし、何より自分で決めたことだったから。


「うーん、部屋の中は結構広い、ね」
一方、オオカミの格好をした少女──蛍は不思議な小屋の中に居た。

外観より広く感じる。
それは最低限の家具しか置いていないせいかもしれない。
入って直ぐの部屋は、ちょっとしたタンスや収納箱が数点あるだけで、後はベッドとキッチンがあるだけだった。
隣の部屋はもう少し広いが、テーブルとソファしか置いていなかった。
だが、その中において、あまり見たことのない巨大な窯が、存在感を誇示する様に部屋の端の台座に鎮座していた。

「何に使うんだろうこれ……料理じゃなさそうだけど」
蛍は指先でちょん、と窯に触れてみる。熱いとも冷たいとも感じなかった。
窯には火に掛けてあって、なにやら怪しげな色の液体が時折泡を立てていた。
何か独特の臭いがするし、これ以上弄らない方が良い気がしていた。

(さて、どうしようかな?)
取り立ててすることのない蛍は、なんとなくベッドに腰かけて思案していた。
部屋の持ち主が帰ってくるまでここで待ってみるべきだろうか。
それとも、赤ずきんの少女を探しに行った方がいいのだろうか。

赤ずきん──燐はどうしたのだろう?

まさか本物のオオカミと遭遇してしまったのではないだろうか。
それならここに居ないのも納得がいく。
……でも、それでも燐なら大丈夫な気がする。なんとなくそう思った。
初対面の少女なのに何故そこまで信頼できるのだろうか?

色々考えているうちに疲労感がようやくきたのか、蛍は眠気を感じて、少しベッドで横になることにした。
(ごめん、なさい。少しだけ、休ませて……すぐに、起きる、から……)
何時しか蛍は、すぅ、すぅ、と寝息を立てていた……。






Alchemist

こん、こん。

誰かが扉をノックする音が聞こえる……だれ、だろう……。

 

こん、こん、こん。

またノックの音、めんどーだよ……誰か出て……。

 

ぎいぃぃ。

木の板が軋む音がする。恐らく玄関扉が開いたのだろう。

外からの光が、扉を開けた人物のシルエットを木の床に伸ばした。

 

「あれ?まだ帰ってないのかな」

誰かの声がする。可愛らしい声、弾む様な女の子の声がする。

聞き覚えがあるような、気がした。

 

わたし、何、してたんだっけ……寝て、たんだっけ。

薄く目を開けてみる、が瞼が重くて目が開いていかない。

 

(誰か来ちゃった、みたい?……燐、かな? それとも……?)

流石にまずいと思ったのだが、目も意識も体も動いてはくれなかった。

(ごめん、なさ、い……わた、し……)

謝罪の言葉を口にしようとしたが、眠気には抗えなかった。

蛍は少しの罪悪感があったが、再び眠りの中に落ちていった……。

 

……あれ、やっぱり寝ちゃってたんだ。

結局、蛍は二度寝していたようだった。どれぐらい寝ていたのだろうか。

体には何時の間にか毛布が掛けてあった。誰かが、掛けてくれたみたい?

 

そして覚醒すると、すぐ近くに、暖かい体温と柔らかい呼吸が当たっているのを背中越しに感じとった。

蛍は体をゆっくりと捻って、それと向かう合う体勢をとった。

 

そこには──全裸の少女が寝ていたのだった。

 

その光景に蛍は一瞬、思考が停止してしまうが、その少女は良く見るとあの赤い頭巾の少女だった。頭巾をしていなくとも間違いようがなかった。

だって、それ程までに蛍の中で強く印象に残っていた少女なのだから。

 

幸せそうな寝息を立てる少女に蛍は安堵するが、裸をまじまじと見るのは流石に悪いと思い、少し目線を逸らしつつ、少女の頭に触れてみた。

綿毛の様に柔らかい髪で、絹の様にさらさらと指に流れてゆく。

 

(ふふっ、まるで天使みたい)

蛍は少女の頭を優しく撫でる。

無防備に裸体を晒して眠る少女を見て、蛍は誇張でもなんでもなくそう感じていた。

 

「う、うーん……もう、朝?」

蛍は恍惚の表情で頭を撫で続けていると、反応してしまったようで、不意に少女の目覚めの声が届く。蛍は慌てて頭から手を離した。

 

「ごめん、起こしちゃった?」

 

「ううん、大丈夫だよ。おはよう蛍ちゃん」

起き抜けなのににっこりと爽やかな笑顔で名前を呼んで挨拶してくれる。

蛍は少女が名前を憶えててくれたこと、ただそれだけで、とても幸せな気持ちになった。

 

「うん……おはよう。燐」

だから蛍もにっこりと微笑み、名前を呼んで挨拶を返した。

この幸福感を少しでも燐に伝えたかった。

 

朝の挨拶をするには既に遅い時刻だったが、これが二人の初めての朝の挨拶だった。

 

「それにしても、どうして裸なの?」

一つの毛布を二人で分け合いながら、まだ横になったままで話を続ける。

 

「んー、外で作業してたら汚れちゃったんだよね。そのまま寝たらベッド汚しちゃうと思って……脱いじゃったよぅ」

 

「そ、そうなんだ……」

だからって裸にならなくてもと蛍は思ったが、口には出さなかった。

 

「それにしても蛍ちゃんの着てる毛皮って柔らかくて暖かいよねぇ。裸だと余計に分かるよ」

燐が裸のまま蛍に抱きついて、胸の部分に顔を埋めて頬ずりしてきた。

突然のスキンシップに蛍は声を出すことも出来ずに膠着してしまっていた。

 

「わたしオオカミ蛍ちゃんに食べられちゃうかも~」

燐が上目使いで蛍を見つめてくる。

それだけで蛍の顔は赤くなった。

 

「わ、わ、わたしは、食べたりしないよ」

蛍は表情を悟られないよう、少し強めの声で否定する。

 

「じゃあ、わたしが食べちゃおうかな~。ふふふ。覚悟してね、オオカミちゃん」

燐が悪戯をする目つきになったことは、流石の蛍でも理解出来てしまっていた。

ベッドから逃げようとした蛍の足を燐が両手で掴む。

 

「オオカミちゃんの足、細くてキズ一つなくて綺麗だね」

燐は蛍の無防備な太ももを撫でまわす。

恥ずかしくなった蛍は、燐の手を払おうと、手を伸ばすが、今度は手を掴まれてしまった。

 

「オオカミちゃんの手は華奢だけど、指は雪のように白くて細い、ね」

オオカミの前足を模したグローブを外されて手をギュッと握られる。

「あっ」

蛍は思わず声が出てしまっていた。

そういえば燐とちゃんと生で手を繋ぎ合ったのは今が初めてだった。

指先から燐の手の暖かさが伝わって、こそばゆい。でも嫌いじゃなかった。

手を繋ぎ合ったまま見つめ合う二人。

 

「くすっ、オオカミちゃんの瞳、大きくて綺麗だね。穢れてなくて吸い込まれそうだよ」

瞳の奥まで見透かされていた。すこし恥ずかしかったので蛍も燐の瞳の奥まで見つめ返していみる。

 

「燐だって、すごく綺麗だよ。瞳の奥で星が瞬いているみたい……」

蛍は顔を真っ赤に染めながら、素直な感想を口にしていた。

他の人の瞳の奥までちゃんと見たことはないけれど、燐の瞳なら戸惑う事なく奥まで見つめられる。いつまでも見ていられそうだった。

 

「ありがとう、蛍ちゃん。あ、そういえば」

繋いでいた手を解いた燐は、再び蛍を抱きしめた。

手は首に回されお互いの頬が密着する。

 

「オオカミちゃんの耳、小さくて綺麗な形してるよね……」

燐は耳元でじっとりとささやく。その声に蛍はぞくっと身を震わせた。

 

「……耳、敏感なの?」

燐は耳元にふうっと優しく息を吹きかけてみる。

「ううっ、ダメ……だよぉ」

蛍は、びくっと反応してしまっていた。

 

「ごめんね、オオカミちゃん。つい可愛くて」

燐は謝罪ついでに耳たぶにそっと可憐な口を当てる。

「はううぅ、燐、もう許して……」

あまりの刺激に蛍はつい許しを請いてしまっていた。

 

燐はちょっとやりすぎちゃったか、と謝罪を込めて蛍の頭を優しく撫でた。

蛍の頭部はオオカミの被り物で覆われているのだが……それでも蛍は少し嬉しかった。

 

燐は耳から離れて真正面から蛍を見つめていた。吐息が重なる距離まで顔が近づく。

「オオカミちゃんの唇も、綺麗な色してるよね……それに小さくて可愛い」

燐の指が無造作に蛍の唇をなぞる。だがその行為に不快感はなく、むしろ快楽を覚えるほどだった。

(すごく気持ちいいよ、燐。でも、わたしだけ色々してもらっちゃってる……燐にも何かしてあげたい)

 

「あっ、蛍ちゃんっ!だめ、汚いからっ」

蛍は自身の唇に添えられた燐の指をぺろぺろと舐めていた。

燐にも気持ちよくなってもらいたいとの想いが、蛍を無意識に動かしていた。

 

「汚くなんかないよ。燐の指、少ししょっぱいけど、燐の味がして……ちゅうっ」

指を舐めるだけでなく、口に入れてしゃぶったり、吸ってみたり、と蛍は一心不乱に燐の指を嘗め回して奉仕していた。

ぴちゃ、ぴちゃ、と指を舐める水音と、燐の押し殺した息遣いが小屋の中に響き渡っていた。

 

「くうん、はぁ、はぁ……」

燐は蛍にされるがままになって嬌声を押し殺していた。

指を舐められることに快感を得ていたのではなく、蛍という可憐で無垢な少女にこんな淫猥なことをされているという背徳感に興奮していたのだ。

 

「ん…………はぁ」

蛍は人差し指を存分に嘗め回した後、今度は中指を口に入れた。

慈しむように丹念に舐めてくれる。

「あ、あっ、蛍ちゃん」

蛍の小さな舌で指を絡めとられるだけで、燐の体がびくびくと反応して声が出てしまっていた。

 

「わたし、も蛍ちゃんにして、あげるね……むちゅっ」

燐の口の中に蛍の指が2本入っていく。

暖かい燐の口と舌に指が包まれる。蛍は指先が性感帯になったように身もだえしてしまった。

 

二人の少女はベッドの上で見つめ合ったままで、お互いの指を舐め合った。

小屋の中は少女達の指を舐める水音と淫猥な息遣いだけが反響していた。

 

……

………

 

「あら?お邪魔だったかしら?」

少女達の蜜月の空間に、柔らかい女性の声が部屋の中に響き渡った。

 

「ひゃう!」 「ふえっ!」

二人同時に奇妙な声を上げて驚いてしまっていた。

行為に夢中になり過ぎて、他の人の気配にまったく気づいていなかった。

 

蛍は恐る恐る顔を窺ってみる。そこには黒髪の大人の女性が立っていた。

この辺りではあまり見たことのない変わった形状の衣服を纏っている。

美しい黒髪はとても長く、床にまで届きそうなほどだった。

蛍は初対面の女性だったが、燐は良く知っている人物だったのか、その女性に対し、愛想笑いを浮かべていた。

 

「燐。この工房(アトリエ)は女の子を連れ込んで楽しむ場所じゃないのよ」

静かな小屋の中に女性の声が響く。怒鳴っているわけではない、むしろ詩の調べのように聞きほれそうになる穏やかな声色。

 

「ご、ごめんなさいっ!」

慌てて謝る燐。その様子から母親というより教師と生徒の関係に見えた。

「仕方ないわね……もう少し留守にしておくから、それまで楽しんでなさい」

入ってきたばかりの女性は、二人に気を利かせたつもりなのか、再び出て行こうとするので、流石に燐が呼び止める。

 

「あの! 大丈夫ですから、そういうのじゃないです。ね、ねぇ蛍ちゃん?」

「えっ!あ、うん。そーゆーのとは違うと思います……多分」

 

突然話を振られて蛍はビックリしたが、とりあえず燐に話を合わせておくことにした。

(でもそーゆーのってどういうことなのだろう?)

蛍も燐もこの手の知識には疎かった。

 

「そう?だったら良いのだけれど。もしまだやり足りたいようなら、今度はわたしも混ぜてもらうわね」

その女性は頬に両手を寄せて少しはにかみ気味に話す。

 

「あ、ええっ……!?」

本気なのかどうかは分からないが、その言葉に燐も蛍もすっかり気持ちが覚めてしまい、これ以上いちゃつく気にはなれなかった。

 

「それで、えっと……燐。こちらの方は?」

気を取り直して蛍が、気にしていることを燐に尋ねる。

 

「あ、うーん。なんと説明すればいいかなぁ」

正体を言ってしまって良いのか燐は逡巡した。特に問題はないと思うのだが本人の手前、確認を取る必要がある気がしていた。

その本人と目が合うと、こちらの意図を理解してくれたようで頷き返してくれた。

 

「わたしは……燐の、お婆さんよ」

長い黒髪の女性は、表情を変えることなく淡々とした口調で名乗った。

 

(流石にそれはないよー!)

燐は声にこそ出さなかったが表情で女性に訴えかけていた。

 

「ええっ! でも、いくら何でも……お婆さんって感じじゃない、ですよね?」

蛍は女性と燐の両方を見比べて困惑してしまう。

(お母さんなら、なんとか分かる気は、するけど)

それぐらい若々しく綺麗な女性だった。

 

「ごほん!」

流石に埒が明かないと思い、燐は大げさに咳払いをして、おかしくなった流れを変えることにした。

 

「えー、蛍ちゃん。この人はオオモト様と言って、それなりに有名な()()()()だったのです!」

ベッドから抜け出した燐がその女性──オオモト様の横に立ち、称え挙げるように紹介した。

……本人は全裸のままで。

 

「れ、錬金術師さま?す、凄いなー。わたし初めてみるよ……」

蛍はいたく感心したが、目線は横に立つ全裸の燐に向けていた。

(どうしよう、言った方がいいのかな? オオモト様?は、燐の格好になんとも思わないのかな)

 

「これでも、一応、現役なのだけどね」

オオモト様は自身の補足をした。

掴みどころがなさそうな感じがしたが、プライドの様なものはあるらしい。

 

「確かあなたは蛍……だったかしら? 山のお城に住んでいるのよね?」

燐も知らない情報を話すオオモト様。

その横で燐は、まさか蛍と顔見知りであったとは、驚いてしまっていた。

 

「あ、はい。わたしの事ご存じなんですか?」

対して蛍はそれほど驚きはなかった。

 

「ええ、あなたの着ているその衣装。わたしが以前、依頼を受けて作ったものなのよ」

蛍が着ているオオカミの衣装の、頭部を指差して答える。

 

「そうだったんですか……。通りで変わった衣装だと思っていたんだけど、錬金術師さまが作ったのなら納得です。でもこれって何の為に作られたものだったんですか?」

仮装衣装にしてはしっかりとした作りだったので、着ている蛍も疑問には感じていたのだ。

 

「オオカミと仲良くする為よ」

オオモト様は、まさかと思った疑問をあっさりと解消した。

 

…………

 

「や、やっぱり、その使い方で良かったんですね。わたし、てっきり……」

蛍は割と嬉しかった。無謀とは思っていたが、自分の使い方で間違いはなかったのだ。

でも正直な所、もうちょっと利己的な答えがあると思っていたのは言えなかった……。

 

──

───

 

「蛍ちゃん、すごーい!お城に住むお姫様だったんだねー!」

燐はこれまでの話の流れをばっさりと切って、蛍の元に駆け寄り、手を取ってはしゃいでいた。

 

「あ、う、うん。ごめんね。別に言わなくてもいいことだと思って……それに、別にお姫様ってわけじゃないよ」

燐の急な行動に、蛍は困った顔でぎこちなく微笑む。

 

燐が自分の近くに寄って来たので、蛍はウィンクをして、未だに服を着てないことを知らせようとしたが、蛍の素性について興味津々の燐には、その意図は届かなかった。

 

「あ、そっか。じゃあ、お嬢様かぁ。なんかわたしと全然違う感じだったから、道理で」

燐は腕を組んでうんうんと一人で納得する。

「ねぇねぇ、お城の暮らしってどんな感じ?わたし憧れちゃうなぁ。きっと毎日高級な料理を食べて、優雅に暮らしてるんだろうなあ。いいなあ~」

 

「え、えっと……」

燐が食い気味に蛍に密着して質問攻めをしてくる。

他の人の前で裸であることを気にしない無垢な燐に、蛍は逆に恥ずかしくなって顔を赤くしてしまう。

 

「燐」

完全に蚊帳の外にあったオオモト様が、ため息交じりの声を掛ける。

怒った感じではないようだが──。

「いい加減服を着た方がいいわ。お客様が困っているわよ」

燐は言われて自分の体を見る。そこには生まれたままの自分の姿があった。

 

「──きゃぁ! 本当だ! わたし何時の間にか裸だったよー!」

自分で脱いでおきながら燐は今更のように恥ずかしがった。

「なんで直ぐに教えてくれなかったの~!」

慌てて、もぞもぞと服を着る燐。

指摘があるまで気づかなったのもおかしいが、何故か微笑ましい光景だった。

 

「それだけ燐の裸が可愛かったからよ。ねえ?蛍」

「えっ!う、うん。とっても可愛かったよ、燐」

 

突然、オオモト様に話を振られてどきっとしたが、蛍もオオモト様と同じ意見だった。

オオモト様と蛍は初対面だが、割と気さくな印象をもっていた。

 

「それって……別に褒めてないよね」

燐は恥ずかしいのか赤い頭巾をすっぽりと被って表情を隠した。

その拗ねた様な仕草も可愛らしい。

 

「……とりあえず燐。お腹が空いたわ。年寄りの楽しみは食事だけなのよ」

空腹感を露わにするオオモト様。表情があまり変わらないのでイマイチ深刻さが伝わらない。

それにまだお婆さん設定を引き摺っていた。

 

「だーかーら、お菓子と葡萄酒を、ってあれ?」

燐は家から持ってきたバスケットを指差すが、中には何も入ってはいなかった。

もう一度戻ってきたときにも、中身は入ったままだったのに。

 

「ごめんなさい。これじゃ腹八分目にも満たないの」

オオモト様はワインを飲みながら、もぐもぐとシュトレンを一本丸ごと頬張っていた。

「全部食べちゃったの!? わたしも食べようと思ってたのに」

燐はすっかり忘れていたのだが、オオモト様は甘いもの、特にお菓子には目がないのだった。

 

だからって全部食べなくてもいいでしょー。

折角作ってきたシュトレンを全部食べられてしまって、燐は落胆していた。

 

「そういえば、わたしもお腹空いてきたかも……」

オオモト様の食欲に当てられたのか、蛍も空腹感を思い出していた。

今日は森を走り回ったので何時もより、カロリーの消費が激しかったのだ。

 

「仕方ないわね、燐。錬金術でなにか作ってあげなさい」

オオモト様はもごもごと口を忙しなく動かしながら、燐に指示を出してきた。

あまり宜しくない大人の在り様だった。

 

「ええっ!わたしがやるんですか!?」

急な展開に、燐は一瞬理解が追いつかなかった。

 

「そうよ。あなたも錬金術師の卵なんだから、これぐらい出来るはずよ」

「でも……錬金術っていうか、これって普通に料理です、よね?」

 

「料理も錬金術も基本は同じよ。期待しているわね」

オオモト様はワインを片手に高みの見物を決め込むつもりだった。

実際、呼ばれたときは、燐が家事全般を担当していたので、いつもの事と言えばいつもの事なのだが。

 

「……燐も錬金術師、なの?」

蛍がおずおずと訊ねてきた。

 

「うーん、まだ見習いってとこなんだけどね。ここに来るときに少しづつ教えてもらってるの」

「へぇ~、凄いね。なんか感動しちゃったよ」

燐の意外な一面に、言葉以上に感動していた。

自分と同世代だと思ってた少女が、実は錬金術を習っていたとは思いもよらなかった。

 

「でも今回は料理だしなぁ。さてさて、何、作ろうかなぁ……Eintopf(ソーセージのスープ)でも作ってみようか」

アイントプフはスープ料理で、ソーセージや野菜を煮込んで作る、家庭での定番料理だった。

燐は実家でも作ることがあったので、割と得意料理だった、

 

「燐。わたしに手伝えること、ない?」

「ありがとう蛍ちゃん。じゃあ野菜の下ごしらえって、お願いできる?」

燐は手伝ってくれる気持ちに応える為に、つい勢いで蛍に頼んでしまっていた。

自分の軽率さに少し後悔してしまった。

 

「うん、いいよ。任せて」

蛍は野菜袋からジャガイモを取り出してキッチンナイフで器用に皮を剥いていく。

蛍の違った一面にすっかり感心してしまっていた。

 

「どうしたの、燐?」

視線に気づいて蛍は照れたような表情で燐に向き直る

 

「ごめんー。蛍ちゃんはお嬢様みたいだから、こういうのはしないのかなーって、勝手に思っちゃってたから」

「あ、そういうことね。あの、わたし、ね……」

蛍はジャガイモの皮を剥きながら、ぽつぽつと話し始める。

 

「わたし、小さい頃にお母さんを亡くしちゃったから、身の回りの世話は殆ど執事やメイドさんにやってもらってたの。でもこれじゃ後々困るかなって思って、最低限の事は自分でやれるように、こっそり練習してたんだ」

 

「そうだったんだ……ごめんね。変な事聞いちゃって」

燐は自身の軽率さを顧みて、蛍に謝罪する。

 

「ううん、そんなことないよ。むしろ聞いてもらって嬉しい。燐に話したら少し楽になったよ。それに練習したことも役に立ったし」

ジャガイモの皮を剥き終えた蛍がにっこりと微笑んだ。

悲壮感を感じさせない透明な笑みだった。

その微笑みを見て燐は少し泣きそうになってしまった。ちょうど玉ねぎを切っていたからではないと思う、多分。

 

まずは鍋にバターを入れて、そこに切った野菜を投入し、しばらく炒めます。そこに更にレンズ豆を加えて炒めていきます。

 

蛍が鍋を炒めている間、燐は……錬金術用の窯の前にいた。

 

神経を集中させつつ何かを窯の中に一つづつ入れていく。

何が起きるのだろう。蛍は固唾を飲んで成り行きを見守った。

窯の中に光が溢れて何かがおきようとしている。

蛍は瞬きすることも、鍋を炒めることも忘れて、燐と光り輝く窯を凝視し続けた。

 

(これが、これが錬金術なの? 燐……)

 

──そして。

 

「じゃーん!バッチリ上手くいったねっ!」

朗らかな燐の声が、先ほどまでの神秘性のあった様相をすべて吹き飛ばしていた。

 

「えっ?何か、出来たの?」

蛍には何が起こったか理解出来なかったので、当事者の燐に成果を聞いてみる。

 

「ほら、コレが、出来たんだよ」

燐が出来たものを蛍の掌に落とす。

コロッとした小さな四角形の塊が掌に乗った。

 

「なぁに、これ?」

指でつまんでみると、割と柔らかく簡単に崩れそうに思えた。

 

「これはスープだよ、スープを固めたもの。上手く調合できて良かったー。コレをこうやってお鍋に入れるとね、良い味が出るんだよー」

燐は出来栄えに満足がいったのか、胸を張って自信満々に説明する。

そして、その出来上がったものを、躊躇することなく、炒めていた鍋に投入した。

 

「そ、そうなんだ。凄いね……どんな味になるのかな」

にわかには信じかたかったが、誇らしげに言う燐を見ていると、不思議と何でも信じられそうになる。

 

「後は、レシピ通りに作っていこう」

水と香辛料、ジャガイモを加えて煮込んでいきます。そしてソーセージを加えてさらに煮込んでいくと──アイントプフが出来上がりました。

 

「最後にこれを掛ければ完成だね」

出来上がったスープをお皿に盛りつけてると、仕上げばかりに燐が一皿づつ何かを振りかけていった。キラキラとした粉がスープの上に落ちて煌びやかなアクセントとなっていく。

 

「燐。何をかけてるの?」

 

「ふふーん、これはなんと、金だよ。金の粉。なんでも東洋の方じゃ金を食べるんだって! 美容と健康に良いらしいよ」

燐は聞きかじりの知識を惜しげもなく披露してくれた。ちなみにこれも錬金術で作ったものらしい。

燐が楽しく喋ってくれるだけで、蛍もつられて楽しくなってしまう。

 

 

小ぢんまりとしたテーブルに人数分のスープとライ麦パン、サラダが並ぶ。

これで少し遅い、 Mittagessen(ランチ)の時間となった。

 

一応、オオモト様も食器を置くのを手伝ってくれていた。

 

「さて、蛍ちゃん、お味はどう?」

燐がスープを飲む蛍の顔を、自信無さげに覗き込んで聞いてきた。

 

「悪くないわね。欲を言えばもう少し具材が多い方が味にコクが出るわ」

蛍が答えるよりも早く、オオモト様が味の感想を呟く。

 

「んもー、オオモト様には聞いてないですっ。蛍ちゃんはお嬢様でいつも美味しいのを食べてるはずだから、舌に合わないかもしれないでしょ」

最初に蛍ちゃんから感想を聞きたかったのに、と燐は少し拗ねて抗議した。

 

「お嬢様は余計だよ、燐。でもこれ美味しいよ。今まで食べたどんな料理より美味しい、かもしれないよ」

「本当!?無理して言ってない?」

ぱぁっと燐の顔が明るくなる。だがまだ半信半疑なところもあった。

 

「うん。お世辞は言ってないよ。それに料理の味だけじゃなくて、みんなで一緒に作って、一緒に食べるから美味しいと思うの」

蛍は燐にとびっきりの笑顔を向けた。

 

燐と一生懸命作ったので美味しくないわけがないとは思ってはいたが、錬金術で作ったものを加えたのが、更に美味しくなったのだろう。蛍はそう理解した。

 

「そっか、そうだよね。ありがとう蛍ちゃん」

燐はようやくほっとしたのか、胸を撫で下ろして、自分のお皿に盛りつけられた食事を口にする。やっぱり味に間違いはなかったようで、その顔を見れば一目瞭然だった。

 

「そうね、赤ずきんとオオカミが初めての共同作業で作ったんですもの。余計に美味しくなるわね」

何やら意味ありげな事を口にするオオモト様。何か意図があるのか。それともワインの飲み過ぎだろうか?

 

「オオモト様は意味不明な事言ってないで、後片付けぐらい手伝ってください」

「うふふ。どっちが先生だか分からないね」

二人のやり取りを見て蛍はくすくすと笑ってしまう。

 

「今日の燐は当たりが強いわね。昨晩はあんなに可愛い声を挙げていたのに……」

オオモト様は空になったワインの瓶を見つめて悲しそうに呟いてみせた。

 

「り、燐……やっぱり二人って……」

蛍はもしやと思っていたことが的中したことに驚愕する。

やっぱり燐とオオモト様はその、夜の授業も教え合っていたのだろうか……。

二人の邪な想像して、蛍は顔が真っ赤になっていた。

 

「んもー。どうしてそう出任せゆーかなー。昨日は来てないし、今まで一緒に寝たこともないでしょー」

燐が呆れたようにツッコミを入れた。

 

「本当、かなぁ?」

「もー。蛍ちゃんまでー」

 

楽しい。本当に楽しい笑い声が小屋の外まで漏れていた。

外は既に夕刻になろうとしていて、気温が氷点下近くまで下がっていたが、部屋の中はいつまでも暖かった。

 

あのとき、後を追っていって良かった。蛍は感嘆する。

一時の出会いがこんな素敵な偶然を生むなんて。あの時は考えも及ばなかったから。

 

またここに遊びに来よう。灰色だった日常に新しい火が灯った。

 

燐と蛍はすっかり薄暗くなった林道を、手を繋ぎ合って最初に出会った所まで戻った。

更に寒さが増していたがが、胃の中も心も暖かったので気にならなかった。

そして、お互いに手を振り合って、それぞれの方向へ別れた。

 

燐とわたし。赤ずきんとオオカミ。二人は決して交わらないのかな。

どんなに好意を寄せていても、結局最後は……。

 

「蛍ちゃーん! Happy Holidays!」

振り返って大きく手を振る燐の姿。手渡されたランプの燈火よりも光に満ち溢れている。

 

だから、わたしもその光に向かって手を振った。

 

「Happy Holidays! 燐!!」

これまで出したことのない大声で──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱり、イヴどころかクリスマス当日にも間に合わなかったなあー。
しかも後1話あるんですけど……どうしよーかなー。
とりあえず今回の話でも一応〆られるような形をとっておきました。
1話分はなんとか都合を付けて、頑張って今年中に終わりにしておきたいなあー。

さて今回は童話というより某ゲームの設定をお借りしました。
最近やった、ライザのアトリエ要素をそこそこ使っております。この話の冒頭で燐が使っているのは、同ゲームのアイテム、ハンマー+フラムロッドで出来るフラムハンマーをイメージして出しています。
更にこの話のオオモト様はライザの某キャラの要素を多く含ませていて、かなりのキャラ崩壊となっておりますことをご了承ください。

さてー、なんとか続きいけるかなー。

それではーーHappy Holidays!!






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