つまり、現在中等部3年である。
これから語るのは、彼女との出会いの物語である。
彼女がどんな人物で、どのように僕と知り合い、そして、どのような物語を作るのか。
それを語る物語である。
さて、今回に関しては前置きを長くするのは止めよう。
きっと彼女を語るのに、そんなに長い前置きは必要ないのだから。
それでは、語るとしよう。
あの、鬼に泣かれた女の子の話を。
***
「ぐへー。きつかった」
8月20日。ようやく夏の宿題を終えた僕は、ベットの上でうつ伏せになっていた。
さて、ここまで付き合ってくれた人なら分かると思うが、僕は本来、宿題はためないタイプである。
夏休みの宿題は、7月中に終わらせるのが鉄則と考えるタイプである。
しかし、今回8月の下旬にまでもつれ込んだのは、専門家としての仕事のせいである。
まず始め、夏休みの初め頃に遠征として撫子と出雲まで行った。
そこでの仕事は、3日ぐらいで終わらせて、撫子とデートをした。
デートの定義は仲の良い男女が一緒に出かけることだ。それは恋愛感情がなくても成立する。
いや、本当にそういった感情はないです、両方とも。
そこは誤解しないでね。
東京に帰ってからは、宿題をしながら、ちょこちょこ秀知院に湧く怪異の退治をしていたが、夏休みの10日位に。
ぬらりひょんという、日本怪異の親分的な存在が登場。
全国に怪異を大量発生させるもんだから、専門家の中でも屈指の実力者である臥煙伊豆湖、忍野メメ、貝木泥舟、影縫余弦などがぬらりひょんの討伐に向かった。
その他の専門家達は本来はなくすはずのエアスポットを、復活あるいは作り出し、そこに怪異を引き寄せ、片っ端から片付けるという大仕事となった。
僕の管轄は当然秀知院学園であり、部外者が入らないように結界を貼り、怪異退治に精をだした。
途中、撫子も合流し、二人での共闘となったが、量がテスト期間の時の20倍はおり、しかも、増え続ける状態である。
そんな中で、闘い続け、臥煙さん達がぬらりひょんを倒すのに丸一日かけて倒した。
しかし、ぬらりひょんを倒しても、怪異の増殖が止まるだけで、怪異は依然と残り続け、全体を処理するのに丸々3日はかかった。
その後は、流石に筋肉痛になり、ずっと動けず、二日前ようやく夏休みの宿題のラストスパートをかけ、終わらせた。
長く激しい戦いだった。
詳細は気が向いたら、外伝扱いで話してもいいが、バトルパートが8割を占めるため、上手に話せる気がしない。
そんな訳で今日はもう、流石に寝て過ごしたいと思ったが、そうはいかないらしい。
ブーンと携帯がなる音がする。
見ると、臥煙さんからメールがきた。
「はぁー。キッツ」
そう言って僕は出かける準備をし始めた。
***
今回の仕事内容はこうである。
浜松町の方で、4月頃から冤罪によって捕まる人が増えているらしい。
ある人は万引きの疑いで、またある人は強盗の疑いで、さらにある人は殺人の疑いで、それぞれでケースは異なるけれど、冤罪が起きているらしい。
そのそれぞれの人間に関連性はなし。
同じ浜松町に住んでいる人間のケースもあれば、飲み会の帰りに冤罪をふっかけられた違う街の人のケースもある。
ケースが結構多いため、中には知り合いが混じっている場合もあるが、しかし、全員に共通する特徴はないらしい。
老若男女問わずに冤罪が起きている。
しかも、改めて捜査してみると、店側の手違いで、事件性皆無のものもあったらしい。
なんて迷惑な。
さて、ここまでなら警察側の不手際で怪異的要素皆無なのだが問題はこれだ。
冤罪の量に釣られれて、
火のないところに煙は立たない。
とういうか、煙をつくるために火をたいている感じである。
そんな風に、人の憎悪が増え続けていった結果、ある種のエアスポット的な所になりつつある。
そこで原因を究明し、エアスポット化を防げというのが、今回の仕事である。
正直、原因は警察の不手際だと思うので、エアスポット化を防げは兎も角、原因の究明は管轄外な気がする。
けれど、臥煙さんがわざわざ言うくらいだ。
という訳で、僕は今、浜松町に来ていた!!
「いや、!!じゃねぇな。うん」
無理やりテンションを上げようとも思ったが、無理だった。
そりゃそうである。どのぐらい働いたと思ってんだ。
正直、断ろうかと思ったぞ。
でも、それをしなかったのは、結構実害があるからである。
犯罪の大量発生は、普通にヤバい。
エアスポット化もかなりヤバい。
ただでさえ、ぬらりひょん異変の際に、本来は封じるはずのエアスポットを開放したため、全国の専門家は闘いの傷も癒えぬまま、仕事をしている。
それほど、エアスポットはヤバいのだ。
下手をすると、新たなぬらりひょん異変の開幕になる。
それは避けなくてはならない。
「さて、確かに
鼻で嗅ぎながら言う。
さて、そろそろ皆感づいていると思うが、僕もまた、体の中に怪異を残している。
兎の怪異である。
具体的な説明は省略するが、まぁ、自分自身と向き合った結果である。
詳しくは、過去編で語ろう。
過去編は普通に語る予定である。
本当は、語りたくないんだがな!!
「さて、匂いにつられてきたけど、ここか?怪異の出処は」
そこにあったのは、一軒家だった。
表札には、鬼ヶ崎と書かれている。
さて、どうしたものか。
おそらくここに今回の仕事の元凶がいるのだが、どうやって会おう?
このままここにいても、家の前にいる不審な男として通報されかねない。
それこそ、冤罪がかかってしまう。
しかし、この家の人に会わなければ、仕事が解決しないのも事実。
どうしたものか?
「あれ、鳴山。こんな所でどうしたの?」
と、そんな風に悩んでると家の方から声をかけられた。
そこに居たのは、伊井野ミコだった。
***
「ふーん。頼みごとね」
「そうそう。それであそこの家に来たは良いけど、流石に普通には入れなくて困ってたんだ」
とある喫茶店で、お茶をすることにした。
僕は、仕事先の人の頼みごとで少し調査をした。
その人に恩があるため、断れないとも言った。
嘘はない。
ただ情報を隠しているだけだ。
正直、かなり疑われているようだが、日頃の行いがものを言うのだろう。
信用してくれた。
「それで、お前はあの家に何の用があったんだ?」
「ああ、あそこに後輩の鬼ヶ崎美青って子がいるんだけど、その子が4月から不登校になったらしくてね。元々、その子と仲が良かったのもあって、私は様子を見に来たの」
「ふーん。因みに不登校の原因はなんなんだ」
「人間関係のトラブルがあったらしいのよ。先生も詳しくは分からなくて、それを聞きにきたの。門前払い食らったけどね」
「そっか」
となると、今回の原因はその子だろうな。
人間関係のトラブルで先生が意図的に情報を制限してるわけじゃなそうだし。
だって、伊井野は先生からの信頼が厚いから。
これで、先生が情報制限をかけるようならそうとうヤバい案件であるということだ。
それにしても、
「なんか、雰囲気が柔らかくなったな」
「えっ。そ、そう?」
「ああ。いままでは小さくまとまって硬い感じだったのが、なんかフワフワした感じになってる」
「へ、変?」
「まぁ、今までを知ってると違和感があるが、良いと思うぞ。親しみやすいし」
そういうと満更そうな顔をしていたが、窓の方を見ると、一気に赤面した。
いや、どうしたと思って窓の方を見ると、石上がいた。
向こうはこっちに気づいていないようだが。
しかし、そうか。
一学期終わりにあからさまにおかしかったが、今の反応を見るに
「まぁ、なんというか、頑張れよ」
「へぇ!?な、何が!?違うからね!?そんなんじゃないからね!?」
あからさまに動揺している。
分かりやすい娘である。
しかしまぁ、あの時に
これからは、もっと仲良くなることを祈ろう。
***
そんな訳で、伊井野はこの後、予定があるようで、帰っていた。
その時の顔は、妙に嬉しそうだった。
あの伊井野が表面には出さなかったものの、かなり心配そうだった。
その子のことをそうとう可愛がっていたのだろう。
しかし、前の伊井野なら相手の事情も聞かずに、特攻しそうなものだが、わきまえるようになっている。
ろくな情報もなく、説得するのは無理だと。
……あっちの石上の話も知ったのだろうか?
兎も角、伊井野のためにも、早めの解決が求められそうだ。
そうやって、家の前まで戻ると、ドカンという音を耳にした。
部屋の中からだった。
それと同時に怪異の匂いも強くなる。
どうやら家の中で怪異が発生したようだ。
しかも、音からして物理現象を引き起こしている。
僕はもう、なりふり構わずに家の中に不法侵入した。
これで、伊井野が近くにいたら地味にやばかったなと思いつつ、音のした方に向かう。
そこに居たのは、赤鬼だった。
日本古来より存在する、怪異だ。
てか、鬼はヤバい!!
真面目にぬらりひょんと同列かそれ以上だ。
勝てるかどうかは分からんが取り敢えずやるしかない!!
そういって、僕は
しかし、
「止めて!!」
と、大きな声が聞こえた。
そこには、150センチぐらいの眼鏡を掛けた、原石系美人がそこに居た。
「
***
「それで、あなたはこの子を退治しようとしに来たのね?」
「ある意味、そうだな」
場面転換。現在、夕方の4時。
何故か鬼も含めて、正座している。
何だこれ?
特に、鬼が正座している状態は珍しい。
「だとしたら、やらせませんよ。この子は私なんですから」
「それは、どういう意味だよ」
一応、先輩相手に敬語は使うらしい。
しかし、この部屋をよく見ると、漫画が多い。
モーニングの地獄の漫画もある。
僕、結構あれ好きなんだよな。
こんな状況でなければ、語り合いたいのだが。
「この子は、茄子ちゃんなんです。芸術家なんだから繊細に扱わないと」
「いや、茄子は確かに芸術家だが、あいつは図太いだろう結構」
「あっ、やっぱり分かるんですね!!この話題分かる人、そんな居なくて困ってたんです」
うん。普通にオタク気質ぽいな。
結構、僕と気質が似ているようだ。
「そうだな。この件が終わったら語り合うとしよう」
「そうですね。
「それで、そいつは何なんだ?」
「だから、私なんですよこの子は」
***
「私は、中等部二年の頃、日陰寄りでしたが、そこそこ友達が居て、そこそこ幸せでした」
「成績も中の上くらい。なにか赤点を取るような事なく、問題行動もありませんでした」
「さて、そんな私にはある友達が居ました」
「その子は、いじめられっ子でした」
「いじめの種類としては、一部の生徒が一部を苛める形式でした」
「その子は、完全に暗くて友達もほとんどいない子でした」
「私は
「なんとかしたいと思いました」
「だから、風紀委員にも協力して貰って解決に当たりました」
「その時に伊井野先輩に会いました」
「伊井野先輩は凄い人で、いじめっ子が苛めている証拠を集めると、すぐに先生に提出」
「さらにいじめっ子達に直接説教までしていました」
「私の憧れです!!」
「意外そうな顔しないでくださいよ。確かに私は基本イメージで真面目な感じ無いですけど」
「それで、いじめは
「けど、違いました」
「いじめは、より
「クラス全体に悪い情報を流したんです」
「『あいつは風紀委員を脅してる』とか、『自分の罪を他人になすりつけた』とか」
「しかも、私の方にまで向かってきました」
「『あいつにそんな入れ知恵したのは、こいつだ』とか」
「勿論、これがクラスの陽キャ相手に対して言っても何言ってんだとなります」
「でも、相手が
「だって、
「なまじ、発信源が噂話だから元を誰が流したのか見つけるのには難航しました」
「そうしている間も、いじめは続き、私は自分の身を守るのが精一杯で、その友達にまで気を配れなくなりました」
「その友達は、周り全体の雰囲気にやられて、精神が押し潰されていきました」
「結果、その子は自殺
「そして、その事を学校側は隠しました」
「勿論、そんな生徒を出したことを隠蔽しようとした面もありましたが、その子の場所をいじめっ子達に伝えない意味もありました」
「私は、同じくいじめを受けた人として真相を聞かされました」
「私は絶望しました」
「そんな簡単に人を批判し、貶める人たちに」
「何よりも、助けようと思った友達を自分の都合でないがしろにした自分に」
「そして、自分も家に引き籠もる様になってから、この子に会いました」
「この子は、私の為に泣いてくれました」
「それにどこか、心が軽くなっていく気がしました」
「だから、この子は私なんです」
「私の為に泣いてくれる友達なんです」
「だから、今度こそ私は友達を守ります」
***
話は終わった。確かにこの鬼はこいつ自身なのだろう。
しかし、このままこの鬼を放置して置く訳にはいかない。
けれど、今ここでこいつを退治すれば、鬼ヶ崎は確実に
また、友達を守れなかったのだと絶望してしまう。
……いざと言う時に、
けれど、今はまだ、大も小も守れる筈だ。
だから、僕は言葉を紡ぐ。
「確かに、悪かったのはお前かもしれない」
「事態が悪化した責任の一端かもしれない」
「けれど、一番悪いのはあくまでいじめっ子であり、それに騙されたクラスの連中だろ」
「その子のことをよく知りもせずに、適当な考えで言った連中だろう」
「だったら、お前がすべきなのはそいつらに立ち向かうことじゃないか?」
「今後、そういうことが起こらないように対処していくことじゃないか?」
「こんな所で、グジグジ言ってたって何も変わらないだろう」
「変えたいなら、動くしか無い」
「辛くても、苦しくても、進むしか無い」
「それに、その子はまだ
「だったら、謝って今度こそ守ると言えばいい」
「実際に出来るかどうかなんて分からない」
「もしかしたら、出来ないことかもしれない」
「それでも、やろうと思わなければ
「そして、この鬼は確かにお前の苦しみを肩代わりしてくれているのだろう」
「でも、それでいいのか?」
「本当は自分で背負わなきゃじゃないのか?」
「誰かが代わりに傷ついているなら、それは
「苦しいことも辛いことも分かち合いながら励まして前へと進めてくれるのが友達だろう?」
「だから、その鬼を開放してやってくれ。そんな悲しみから」
「それでもし辛いなら、伊井野でも僕でも誰にだって頼れば良い」
「頼るのもまた強さなんだから」
そんなことを言った。
ずっと、問答し続けた。
彼女は、自分のことをそんなに強い人間じゃないと言った。
しかし、僕は言った。
そんなことないと。
だって、
***
後日談。とは言うが実際はその後。
問答の末、彼女は再び戦うことに決めた。
一学期期間の勉強について聞くと、その分は自習していたらしい。
凄いことだ。精神状態はよく無いだろうに。
あの鬼に関しては、彼女が決意を固めたことでいなくなった。
そのことについて聞かれると、消えたというと傷つきそうなので、
僕は専門家だから見えるけど、彼女は決意を固めたから見えなくなった。
たとえとして、子供にだけ見える妖精の話を出すと、分かって貰えたようだった。
間違った理解だけれど。
帰り際、彼女と連絡先を交換しあい、こんな事を言われた。
「私、鬼ヶ崎って言われるの苦手なんです」
「男ぽい感じで」
「なので、名前で呼んでくれませんか?」
と言われたので、呼ぶようにした。
次の日に彼女の家を訪れ、ある漫画について、朝の10時から夕方の6時まで昼食をはさみつつも話した。
意外と雑食系女子だった。
さて、今回の怪異の名前を後で臥煙さんに確認した所、泣き鬼というらしい。
モデルとしては、泣いた赤鬼である。
あの話は、赤鬼が皆と仲良くなりたいために意図せずに青鬼を悪者にしてしまう話だが、それはつまり、青鬼の
つまり、あの鬼が泣き続けている間、同情を引き、冤罪を誘発する。
そういう怪異なのだ。
程度としては、童話ベースなので中級程度。
つまり、最初見たときほどの危険さはなかったが、それでも中々の危機だったと言える。
彼女に対しても、皮肉が効いていたが、まぁ、知らなくてもいいことはあるということにしておこう。
こんな怪異現象を引き起こしたことで、彼女に監視がつくことになるが、こちらで制御するだけするとしよう。
と、ふと外を見上げると花火が上がっていた。
現在、夜の7時55分。どうやら、花火大会があったようだ。
それを見終わった後、周りを見ると悲しげな様子の四宮先輩が路地裏の方に入るのが見えた。
そこに近づくと後ろからキィィィという音が聞こえた。
そこには、汗だくで必死の様子な白銀先輩が、
「四宮を見なかったか!?」
と聞くので、そこの路地裏に行きましたよ。というと、白銀先輩は自転車を放り投げて走ってそこへ向かった。
そこで待っていると、白銀先輩と四宮先輩が出てきた。
二人が向かった先に、藤原先輩と石上、それに伊井野が居て、全員が近くに停まっていたタクシーに乗り込むとどこかへ向かった。
あの生徒会に何があったのか僕は知らない。
けれど、必死の努力とその結果があるのだろうとそう確信した。
根拠なんて無いけれど、それでいいと思った。
長いようで短い、思い出の夏休みだった。
この後、鳴山は会長の乗り捨てた自転車を回収し、石上から会長の住所を聞き、送り届けています。
そして、鳴山サイドのヒロインも登場。
まだまだキャラクターは固まりきっていませんけど、それでもどうにか可愛い正ヒロインになることを願っています。
次回より、怒涛の二学期編をお届けします。