白銀御行は、この秀知院学園高等部の生徒会長である。
この秀才達の集うこの場所に置いて、その頂点に立つ彼は正しくスーパーエリートと言える。
しかし、彼の本質はポンコツである。
基本的にやることなすことダメダメなポンコツである。
僕が何故それを知っているのかというと、
藤原先輩の苦労も白銀先輩の努力も聞いていた。
そう、白銀先輩の一番凄い所は何かと聞かれれば、その努力である。
基本的な基礎値の絶望的な低さと反比例するように存在する上達速度。
それを支えるのが、彼の並々ならぬ努力である。
何か一つの努力が、さらに別の努力の養分にもなる。
だから、彼は優秀でいられる。会長の位置にいる。
おそらく、この秀知院学園において、彼以上の努力家は存在しない。
さて、本人にその努力をする理由を聞いてみた。
「うん?そうだな、勉強に関しては何が何でも続ける理由があるが、その他はそうだな。雲の上に手を伸ばしたいからだろう」
「どこまでも雲の上にあるものに手を届かせたい。その一心だ」
そう彼は語った。
彼はそうやって明言を避けた。
けれど、僕には分かる。
その雲の上にある
普通に考えれば、無理難題だろう。
並の人間なら失敗して、全てを失うのだろう。
けれど、彼はそれを手に入れる一歩手前まできている。
ある意味で、この努力中毒に近い様子は怪異的と言えるかもしれない。
しかし、それもまた、彼の欠点であると同時に長所となり得るものだ。
はたして、かぐや姫を手に入れられるのだろうか?
そして、手に入れた後にそれを誰にも奪われないだろうか?
答えは決まっている。
それが、秀知院学園高等部生徒会長 白銀御行である!!
***
白銀先輩の誕生日は9月9日である。何故知っているのかと聞かれると四宮先輩に協力の過程で教えられたからである。
さて、四宮先輩はと言うと、
「んん~~~~」
と、唸っていた。
どうやら、1年前に誕生日についての話題になった時に、白銀先輩にここ数年祝っていないから、平日と変わらないと言われたらしい。
まぁ、つまり、祝おうという流れにしなければ、そのまま平日としてお流れになるという訳だ。
それは確かに、恋愛頭脳戦的にも、
しかし、ここで僕が誕生日の話を振るのは無理があるしな。どうしよう。
そんな事を考えていると、四宮先輩の異変に気づいた藤原先輩が、
「どうしたんですかかぐやさん。何か悩み事ですか?」
「まぁ、悩み事といえば、そうなりますかね…」
「ふむふむ。では!この
と、なった。
確かに、占いの中で誕生日を引き出すのは、良い作戦かも知れない。
問題は、
「風紀委員的にこれはOKか?」
「うーん。まぁ、ただの占い程度で風紀が乱れたりはしないだろうし、OKじゃないかな」
と、伊井野は言った。すっかり、この生徒会にも馴染んでいる。
一瞬、役員かと思ったぞ。
まぁ、伊井野の許可もでたし、
「それじゃあ、皆でやりますか」
と、僕は言った。
さて、どんな結果だろうかね?
「私の誕生日は1月1日。元旦生まれですよ」
「ふむふむ」
「藤原さんは?確かー」
「3月3日のひな祭りです!」
へぇー。二人ってそんな誕生日なのか。
横で、ササッと、メモに書き込む風紀委員を見ながら感心する。
「えーっと、1月1日生まれは~」
「あなたは『アレキサンドライト』のような人間です」
「王の名を冠するこの宝石のように、高貴でプライドの高い人間のようです」
「また、この宝石には環境光に応じて赤くも青くもなる珍しい特性があり、あなたの周囲の環境によって天使にも…時には悪魔にもなるでしょう」
「プライドを捨て、素直になれば幸せは訪れます。ですって!」
……まぁ、大体合ってるよね。
四宮先輩は、全然当たってないじゃないみたいな顔をしてるけど。
石上は、なんか恐怖の感情でてるし。伊井野はそれに気づいて大丈夫?って声掛けてるし。
本当に仲良くなってんな。
と、お次は藤原先輩。
「あなたは『蝋燭の火』のような人間です」
「周囲を照らし、ささやかな熱は少しづつ氷を溶かします」
「蝋燭は光を与えると同時に自分を燃やし続ける存在…。その姿は『献身』『慈愛』の象徴でもあります」
「これからも惜しまぬ愛を注ぎ続ければ、願いは叶います。ですって!」
……ふむ。まぁ、これも大体合ってるんじゃないだろうか。
時に
意外と当たるもんだな。
「年に一度だけの誕生日は私だけを特別扱いして欲しいのに!!石上くんと一緒だったら私だけ特別じゃなくなるでしょ!!」
……いや、強欲と自愛の間違いだわ。
さて、四宮先輩はこの流れで白銀先輩から誕生日を引き出そうとしているな。
しかし、会長は全力で拒否った。
……実はもう既にやってて、結果が悪かったのかな。
サポートするなら、外堀を埋めるところからにするか。
「それじゃあ、会長は一旦パスってことで、次は石上いこうか」
「お、おう」
ここで、会長以外の全員がやれば集団の圧力をかけられる。
バトルものなら兎も角、日常に置いて数とは、暴力にもなり得る大きな力になる。
嫌がることを強要するのは、結構クるものがあるが誕生日の占いぐらいは余興みたいなものだから、そんなに気にする必要はないはずだ。
「ええと、石上くんはですねー」
「あなたは、『カナリア』のような人間のようです」
「カナリアが周りから実際以上にか弱い鳥と思われるように、あなたの人生にはどこか誤解が付き纏うことになるでしょう」
「さらに、カナリアが炭鉱で毒ガス検知に用いれたり、実験動物にさせられることもあるため、『不運』や『犠牲』も付き纏います」
「失言をしないようにすれば、あなたの人生はより良いものになります。ですって」
流石に藤原先輩も同情を隠せないらしい。
ちょっと、精神にくる系の内容だ。
石上も心なしか凹んでるし。
励まさないと。
「大丈夫よ!!私達はあんたのことを誤解なんてしてないし、あんたが本当に凄いことも知ってるんだから!!」
その前に、伊井野が励ましていた。
一学期ではまず見れない光景である。
なにより、
石上も少し、持ち直したようだ。
「それじゃあ、次はミコちゃんですね~。誕生日はいつですか?」
「5月5日の子供の日です」
「ええと、5月5日と」
と、次は伊井野の占いのようだ。
「あなたは『犬』のような人間です」
「忠誠心に厚く、身内や信用している人には従う反面、知らない人や嫌いな人には容赦なく吠え続けます」
「しかし、餌を前にすると誰に対しても気を許してしまう一面もあるようです」
「なので、きちんと手綱を握ってくれる人を見つけると、あなたに幸せが訪れるでしょう。ですって!」
……ふむ。意外と的を射ている。
しかも、手綱を握ってくれる人が既に近くにいる。
ほら、なんかそんな想像したのか顔が赤くなっている伊井野がそこにいるし。
石上もこの結果はよく分かるらしい。
自分が手綱を握っている自覚はないらしいが。
「それじゃあ、次は鳴山くんですね」
「はい。12月22日の冬至ですね」
さて、僕はどうなのだろう?
「あなたは『ウサギ』のような人間です」
「寂しがり屋で人恋しいときが多々あるようですね」
「それと同時に警戒心も強く、他人を強く警戒する一面もあるようです」
「警戒心を解けるように、努力していくと良いでしょう。ですって!」
「なんだか、全然当てはまらなそうな結果ですね」
「そうですね。そんなに他人を警戒している様子もないですし」
と、石上と藤原先輩は言う。
伊井野も、同意しているようだ。
まぁ、大体合ってるんだがな。
自覚はある。が、それに関してはもうしばらくはそのままになるかな。
さてと、
「さぁ、みんなやりましたよ?白銀先輩もやりましょうよ」
「いやだから、俺はやらないって!」
「ええー、四宮先輩からもなにか言ってやって下さいよ」
「誕生日に意味はありますし、年に一度の大切な日ですよ」
「四宮だけには一度、俺の誕生日、伝えた事あるんだがな。記憶力のある四宮が忘れる程度のものだろ」
白銀先輩は不貞腐れ、四宮先輩はキレた。
ほとほと面倒くさい人たちだな。
しかし、こうなるとどうしようもない。
こっちから、手出しが出来ない。
そこで、ふと白銀先輩が伝わらないものだな。とつぶやいた。
他の皆には聞こえなかったようだ。
いや、正確には四宮先輩には聞こえたようだ。
そしたら、少し考える素振りをした後、
気持ち悪いくらいの笑みだった。
石上もきもちわるっ!!みたいな顔をした。
勝手に悩みを解消したようだった。
手伝い甲斐がない人たちだった。
***
後日談。というか今回のオチ。
役員が帰った後、会長に聞いた。
「会長ってもしかして自分で既に占ってました?」
「そんな事無いぞ」
ごまかしたつもりだろうが、若干の動揺が見て取れた。
…やっぱりそうか。
「それじゃあ、別に占わないので誕生日を教えて下さい」
「……9月9日だ」
「そうなんですか。四日後じゃないですか」
「しかし、俺にとっては平日と変わらん」
「皆に言えばいいじゃないですか。きっと祝ってくれますよ」
「しかし、あの場で言うのはな」
「ああ、そういうことですか」
……占い以外なら良かったんだな。きっと。
「それじゃあ、皆にそれとなく伝えておきますよ。面倒にならない程度にね」
「そうか」
「それじゃあ、帰ります。さようなら」
「ちょっと待て」
呼び止められた。つくづく似たようなパターンが好きな人達だ。
「なんですか」
「いや、一人で帰って
「……どうしてそう思うんですか?」
「いや、あの占いに対するお前の反応が気になってな」
ずっと、書類とにらめっこしていた気がするが、きちんと見ていたらしい。
流石は、天才と渡り合う人だ。
しかし、素直に認めない。そう簡単に
「そんな事ないですよ。皆が結構当たってるなーって思ったぐらいです」
「そうか。呼び止めて済まなかったな」
「いえ。それじゃあ、今度こそさようなら」
「困った時は、石上でも誰でも頼れよ」
ついでのように、言っていった。
……本当に、厄介な人たちだな。
渡り合うのは苦労しそうだ。
後日、石上と伊井野に誕生日を言った所、普通に石上は知ってた。
流石だな。
それで、今度の土曜日に買いに行くそうだ。
伊井野がなんか言いたそうだった。
……はぁー。しゃあない。
「石上、伊井野が一緒に会長のプレゼント買いに行きたいてよ」
「うん?なら、鳴山も一緒に来るか?」
「いや、僕はいい。一人で選びたいしな。二人も仲良く選べばいい。
伊井野の顔が赤くなったようだが知ったことではない。
石上はそのまま、伊井野と待ち合わせの予定を立て始めた。
頑張れよ。と言ってその場を去る。
そして、白銀先輩の誕生日当日。
僕を含めた一年生組は、朝早めに渡した。
こうすれば、四宮先輩を阻害することもない。
因みに渡したものは、石上が万年筆、伊井野がシャーペンの本体、僕が目の疲れを軽減する眼鏡だ。
眼鏡はギャップを生むことの出来る道具だ。
精々、恋愛頭脳戦で使ってくれるだろう。
しかし、この後にウエディングケーキかと思うほどの誕生日ケーキを見ることになり、更にそれを食することになった。
しかも、僕の苦手なショートケーキ。
この後しばらくは甘いものを食いたくなくなった。
愛の重い人だった。
主人公のプロフィールとかいるかなと思い始めている。
ストーリー内の質問は答えられる範囲で答えますので、感想欄にどうぞ。