鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

14 / 86
この辺は、ずっと石ミコになるよなと思う今日この頃。


ゆうプロブレム

悩み。

それは古今東西を問わず、あらゆる人間が持つものだ。

かく言う僕も悩みを抱えて生きてきた。

とりわけ、今の所人生で一番悩んだのは中等部の事件の時だった。

あの頃の僕は、絶望に打ちひしがれていた。

自身の妙な正義感で行動を起こして、失敗した。

荻野(あいつ)の罠にかかって、停学になった。

理由は話せなかった。

それをしたら、大友が傷つくだろうから。

でも、謝ることも出来なかった。

反省文は書けなかった。

先生から、荻野が白々しい事を言っていることを聞いた。

ふざけんなと思った。

告発文を書こうとも思った。

その結果、大友がどうなろうと僕には関係ないと思った。

けれど、やっぱり反省文を書けなかった。

今でももっといい方法があったんじゃないかと考える。

いつの間にやら真相を知っていた鳴山は言う。

 

「どうだろうね。もっといい方法があるのは確かだろうけど、お前がそれを選べるかは別問題だろう」

「結局、どういう形での決着を望むかだろうな」

「例えば、荻野を追い詰めるだけなら、証拠を揃えて先生に提出すればいい」

「けれど、これだと大事になるし、なにより大友が傷つくだろう」

「クラスの連中を味方につけるという手もあるが、これはまぁ、無理だろう」

「当時の話から考えるに、荻野は陽キャでクラスの中心に近い人物なんだろう」

「単純に人望の差がある。ちょっとしたことなら兎も角、あの手のことは関係が大きく影響される」

「人をそういった目線で判断しない人なら、まだ聞いてくれるかも知れないけど」

「例えば、伊井野とかな」

「と、まぁ、立ち位置的に糾弾するにはちとキツい立場だったとは思うよ」

「なにより、()()()()()()()()()立ち回りをするには、結局極秘裏に荻野と交渉するしかないのが問題なんだよな」

「まぁ、過ぎたことをグチグチ話しても仕方ない」

「過去を反省して、未来に活かす」

「過去についての悩みの結論は、結局、こんなオチになるんだろうよ」

 

過去を反省して、未来に活かす。か。

確かにその通りだ。

過ぎ去ったことを言っても仕方ない。

いい加減、前を向いていきたい。

所で話を戻すが、この事件における僕にとっての恩人は大きいものだと二人。

一人は会長。

僕のずっと言えなかった秘密を引っ剥がし、僕のことを分かってくれた。

生徒会という居場所をくれた。

大恩人だ。

もう一人は伊井野。

中等部時代に、僕のことを嫌ってのに、先生にわざわざ直談判してくれて、そのお陰で僕は高等部にいる。

それに、家族とのことも夏に伊井野が言ってくれたから、勇気を出せた。

ちょっとずつだけど、関係も戻ってきている。

他にも、恩人と言える人はいるけれど、一番の恩人と言えるのはやはり、この二人だった。

ここで僕の悩み。この二人が戦う時、僕は()()()()()()()()()()()()()

 

***

 

9月の終わり頃。僕ら第67期生徒会は任期を終え、解散した。

僅か半年ばかりの任期であったけれど、それでも僕にとっては大切な思い出になった。

そして、生徒会の解散と同時に生徒会選挙が行われる。

とは言っても、基本は生徒会長が誰かを決めるだけで、役員は会長の指名制である。

じゃないと、僕が生徒会に入ることなんて有り得ないし。

まぁ、そんなことは良いとして、ここに一つの問題が出た。

なんと、会長がまたしても、()()()()に立候補したのだ。

理由を聞いてみると、一生に一度、根性を見せる時がきたようだ。と言って多くは語らなかった。

それでも、本気の目だった。

解散した時の打ち上げの時は、もうやらんとか言っていたのに何があったのだろうか?

それと同時に会長に言われた。

 

「石上、別に今回はお前が無理に協力する必要はない。…他に応援したい奴がいるんだろう?」

 

四宮先輩も藤原先輩も同意見のようで、すぐにうなずいていた。

生徒会の皆は、僕を尊重してくていた。

それは嬉しかったが、それと同時に苦しくもなっていた。

何故なら、同じことを()()()()()()()()に言われたから。

 

「石上、前に選挙の時に手伝って欲しいって言ったけど、あれ、無かったことにして」

「えっ。なんでだよ」

「だって、白銀先輩も立候補しているんでしょう?だったら、無理して私を応援する必要はない」

「先輩を応援してあげてよ」

 

寂しそうな顔で伊井野はそう言った。

夏休み頃には、手伝うことは頼んでいたのに、わざわざそれを無かったことにした。

こっちも僕を気遣ってくれた。

けれど、これで僕は八方塞がりになった。

どちらにも恩があって、どちらにも力になりたいと思う。

けれど、この場合はどちらかしか選べないだろう。

それは仕方のないことだ。

しかし、どちらを選んだとしても、きっと罪悪感が生まれる。

裏切ったような気分になる。

なまじ、どちらも遠慮し合うから余計に選べなくなった。

 

「はぁ~~~」

 

教室でため息をついた。

本当にどうしたらいいのだろう?

 

「おーい大丈夫か?」

 

鳴山から、声が聞こえたが返事をする気になれなかった。

しばらくは声をかけてくれたが、今は駄目か。と言うと、前を向いて読書をし始めた。

少し、呆れられているのを感じたが、仕方ない。

今の僕はどっちつかずの腑抜けた野郎なのだから。

 

***

 

悩み続けて数日。未だに答えは出ない。

あれから、伊井野とも会長とも話せていない。

どうやら、どちらも遠慮して話しかけるのを避けているらしい。

話しかけてくれるのは、

 

「おーい。大丈夫か?ちゃんと前見て歩けよ」

 

こうやって、心配そうな素振りを見せない鳴山ぐらいだ。

分かってる。こいつはブレない。

例え、誰が敵対しようとどちらともに話しかけ、戦うことも助けることも厭わない。

 

「鳴山はどっちにつくんだ?」

「伊井野の方だな。お前と違って、別に白銀先輩に大した恩はないし、仲が良いのも伊井野の方だしな」

 

本当にブレない。

いや、この場合は揺れ動いている僕の方がおかしいのか。

 

「とは言え、流石に前期生徒会は強いよ。事前調査でも過半数を獲得している」

「前期の実績は早々にひっくり返せるものじゃない」

「それに伊井野自身も柔軟になってはきているが、公約も男子坊主、女子おさげ、男女の50センチ以内接近禁止を未だに謳っている」

「まぁ、あいつもそこはブレさせたくないんだろうが、このままだと多分負ける」

 

きっと、こいつは事実を述べているだけだ。

客観的で冷静な意見を言っているだけだ。

けど、それでも、あいつの努力が報われないように言われるのは悔しい。

でも、会長たちへの恩も変わらず残っている。

どうすればいいのか分からない。

そんな僕を、見定めるように見ていた鳴山はこう切り出した。

 

「なぁ、石上。お前はどうしたいんだ?」

「どうしたいって?」

「いや、どっちの味方につきたいんだ?」

「分からない」

 

怪訝そうな表情をして、鳴山は言う。

 

()()()()?」

「だって、どっちも大切で応援したいんだ。でも、そんなことは出来ないだろう?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「えっ」

 

ぼくはきっと、凄いアホな顔をしていたと思う。

そのぐらい、衝撃的なことを言われた気がした。

 

「だって、別にどちらも手伝えるだろう」

「どちらの良い所も悪い所も知っている。そして、それを修正する術もお前は知っているだろう?」

「でも、どっちも手伝うなんて!」

「後ろめたいと?なら、宣言すればいい。どちらも大切でどちらも応援したいから、どちらにも協力するって言えばいいだろう」

「そう言って、拒否られたなら、それに従えばいい」

「確かに普通の人なら、どちらか一方の応援で手一杯になって、他の応援なんて出来ないだろうさ」

「でも、お前は元生徒会会計。別にお前が生徒会に選ばれたのは、過去に同情してじゃない。お前の()()()()()が買われて選ばれたんだ」

「だから、お前ならやれる。どちらかを選ぶ必要なんて無い。()()()()取れる」

「でも、僕の投票権は一票しかない。それでも、どっちも応援するすることなんて」

「それはきっと、その時になったら自然と結論がでるさ。言い切ることは出来ないけどな」

「さぁ、第三の道は示した」

「会長を取るのか、伊井野を取るのか、それともどちらも取るのか」

「それはお前の自由だ。存分に悩め!!」

「悩むことも人生だ!」

 

そう言うと、鳴山は去っていた。

衝撃的なことを言われた気がしたけど、別におかしなことは言っていない。

どちらか選べないならどちらも取れ。

罪悪感が有るならきちんと話せ。

変にカッコつけようとして滑っているような気もするが、勇気は貰った。

今度は、僕の番だ。

 

***

 

「伊井野」

 

僕は声はかけた。

伊井野は振り向くと、

 

「い、石上。どうしたの?」

 

と、言う。

一見、冷静を装っているけど、その実、動揺をしている。

目を見れば分かる。

そうでなくとも、昔から見ていたし、夏休みからはよく話すようになった。

だから、こいつの考えてることも大体想像がつく。

全く、貧乏くじを引きにいくやつだ。

()()()()()、僕は応援したい。

こいつのことを。

 

「なぁ、伊井野」

「な、なによ?」

「僕はなぁ、どっちも応援することにした」

「は、はぁー!?な、なんで!?というか、そんなの出来る訳が

「僕もそう思ってたよ。どっちも応援することなんて出来ないって」

 

自分の言葉で伝えるんだ。

自分の気持ちを。

 

「でも、そうじゃないって、気づいた。気付かされた」

「大切なのは、どっちも応援したいっていうこの気持ちを大切にすることだった」

「だから僕は、その気持ちを大切にすることにした」

「伊井野、お前を手伝わせてくれ!!」

「お前の頑張りを僕は応援したい!皆に伝えたい!」

「そして、会長の手伝いもさせてくれ!!」

「会長の本気を手助けさせてくれ!」

 

そう言って、頭を下げた。

正直、何言ってるんだろうと思う。

こんな事を言って、はい。そうですか。なんて、言うわけ無いだろう。

なんで、私だけを応援しないんだ。とか、最低。まるで二股する男みたい。とか、言われても仕方ない。

場合によっては、絶交もあるだろう。

でも、これが僕の本心なんだ!

偽ざる僕の本音なんだ!

後悔しないためにやっているんだ!!

だから、どんな返事が返ってきても、ちゃんと受け止める。

………………あれ?

うんともすんとも言わないぞ!?

どういうことだ!?

伊井野の顔を見ると、完熟したトマトみたいに真っ赤になってて、声がうまく出せないようだった。

仕方ないので、暫く待つ。

10分ぐらいすると、ようやく声がでるようになった。

 

「ねぇ、石上にとって、私はどんな存在なの?どうしてそこまでしてくれるの?」

 

聞かれた。伊井野をどう思っているのか。

すぐには言えなかった。

どんな存在かなんて、考えたことがなかったから。

一学期の頃なら、こっちは散々助けているのに感謝せずにぎゃいぎゃい言ってくるうるさい奴だったろう。

でも、今はどうだろう。

僕はこいつのことをどう思っているのだろう?

きっちりとした答えはこの場で出すことは出来なさそうだった。

だから、感じたことをそのまま言う。

 

「毎日、掃き掃除したり、学年一位を取り続けていたり、風紀委員の仕事をしたり、ずっと努力をし続けていて、そういう所を僕は尊敬していて、それに中学の事件の時も僕の気づかない所で助けてくれて、つまり、その、誇らしい恩人かな。だから、頑張っているお前を支えたいと思ってる」

 

いや、ちょっと違う気がする。と、凄く煮えきらなくて、明確さなんてこれっぽっちもない言動だった。

恥ずかしい。ここで会長みたいにビシッと言えたらいいんだけどな。

きっと、伊井野も呆れてるんだろうな。

 

「あ、ありがとう石上。嬉しい」

 

と、若干自虐的になっていた僕に伊井野はそう言った。

いや、あんなんでいいのか!?

かなり、ダサかったぞ今の!?

 

「言い切れない所が、ちょっとダサかったけどね」

 

やっぱり、ダサかった!!

 

「それじゃあ、改めてお願いするね」

 

そう言うと、伊井野は花のような笑顔で言った。

 

「生徒会選挙。私の手伝いをしてくれない?」

「おう、任せろ」

 

今度はすぐに答えた。

さぁ、ここからが始まりだ。

 

***

 

後日談。というか、ここまでが前日談。

会長の所に行き、同じように自分の気持ちを果たすと、OKを貰った。

 

「しかし、石上がこんなに積極性を見せるとはなぁ」

「変ですか?」

「いや、変というより変わってきたんだろう。良いと思うぞ」

 

そんなことを言った。

 

ここからは、忙しくなる。

会長の方は、前年度のノウハウを生かしているから、そこまででもないが、伊井野の所は問題が山積みだ。

そうだな。まずは、公約を調整していくところから始めよう。

 

僕にとって伊井野がどんな存在か。

その答えが分かるのは、もう少し、先の話。

 




それなりに闇がある子の方が可愛いと思うの(個人的な意見)。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。