生徒会選挙。
しかし、これは二人だけの物語ではない。
色んな人物の色んな思いや考えが詰まっている。
そんな物語の裏側で何が起きていたのか、それを語るのが今回だ。
とは言っても、そんなに難しい話ではない。
ただ単に、あの二人がお互いに夢中な間に周りがどんなことをしていたのか。
裏設定を見せるようなものだ。
なので、気負わずに聞いて欲しい。
そんな物語だ。
**
石上が伊井野に応援すること伝えた日。
僕は四宮先輩と
「それにしても、先日は流石でしたね、四宮先輩。本郷先輩をいとも容易く
「あら。聞いていたの?」
疑問形で、笑顔で言っているが、その実、本気でその事を知ったこちらに対してどのように処置しようかと考えている。
潰すことも考慮に入っている。
そして、実際にこちらを潰せるだけのものも持っている。
なかなかに怖い人なのだ、この先輩は。
まぁ、確かに、信頼を置くにはまだまだ足らない関係性だ。
とは言え、すぐには潰しにはこないだろうが。
「ええ、まぁ。
「ふぅーん。
そういうと、先輩は紅茶を僕の前に置いて、自身も座った。
ぼくは、紅茶に砂糖を入れると、それを飲む。
ふむ。実のところ、紅茶やコーヒーは苦手なのだが、この紅茶は美味しい。
これも、
「それで、今日はどういったご用件で?」
「ええ、釘を刺しにきたんですよ」
こちらの狙いを聞きにくる言葉を、しかし僕はキッチリと言う。
こういう事にいちいち含みを持たせても仕方ない。
正面からいき、相手の出方を見る。
それが僕のやり方だ。
「釘を?何の為に?」
「いえ、伊井野に対して、本郷先輩と同じような真似をしないかという疑念があったのでね」
そう、四宮かぐやは目的の為なら手段を選ばない。
なんとしてでも、自身の誓いを果たそうとする。
そこが白銀先輩が惹かれたものの一つだが、それは必ずしも良いとは限らない。
長所と短所は表裏一体。
そこを疑うのは、当然である。
「ふん。心外ね。しませんよ。そんなこと」
「どうですかね。別に先輩と伊井野は特別仲が良い訳じゃない。そしてあなたは、親しくない者なら容赦なく踏み潰しにくる。そんなあなたをどう信用したらいいのでしょう?」
「…確かに、伊井野さんだけなら、そうしていたでしょうね」
と、四宮先輩は紅茶を少し飲み、続ける。
「ですが、今回は
「そんな彼の決意を踏みにじるような真似はしないわ」
と、四宮先輩は言う。
こっちも本気の目だった。
……やっぱり、四宮先輩は石上のことを可愛がってるよな。
テストの面倒も見ているし。
「そうですか。なら良いです」
「ええ。それと、私も一つ聞いていいですか?」
「何でしょう?」
「
どういう意図かは分からない。
どこまでとは、何のことかも分からない。
なので、こう答えよう。
「何の話かはわかりませんが、僕は何でも知っているわけではないですよ。知ってることだけです」
「そうですか。一応、言っておきますが、あなたの学園生活は私が握っていること。忘れないで下さいね?」
「おお、怖っ!」
そう言って、生徒会室を出ると生徒会室から、厄介な子ね。と聞こえた。
お互い様だよ。
***
そうした四宮先輩とのやり取りを終えた後。
僕は考える。
どうすれば伊井野が勝てるのかを。
相手はあの会長。
四宮先輩の小細工なしでも、かなりの確率で勝てるだけ実績と能力のある強敵だ。
そんな相手に勝つ方法。
どうすれば良いのだろう?
「それを後輩に相談するのはどうかと思いますよ。先輩」
「良いだろ、美青。お前とは一歳違いの友人って感じなんだから」
ファミレスで美青と夕食を取りながら話す。
実際に中等部時代の伊井野を知っているから、良い意見を貰えると思っての人選である。
「でも、生徒会選挙って人気投票みたいな側面ありますから、そのままの伊井野先輩だと失礼ながら当選しないと思いますよ」
「まぁ、そうだろうな。あいつは万人に好かれるタイプじゃないし」
そこだけは分かっている。多分、公約とかその辺は石上の修正が入ると思うけど、それ以外の要素はなかなか難しい。
「それに、伊井野先輩にはあがり症もあります。そこも問題じゃないですか?」
「いや、そこは大丈夫だろう。その辺の表立つ部分は石上の方がフォローするだろから。僕のするべきことは、ガチの裏方。票数の裏操作だ」
「ぐぇ、何言ってるんですか。それこそ伊井野先輩の嫌いなことでしょう。それをしてどうするんですか?」
確かに伊井野が嫌う手法だろう。
一般的な正義に反するとも言える。
「世の中は綺麗事だけじゃあ回らない。それに相手だって真っ当な手段しか使ってない訳じゃない」
「どういうことですか?」
「いや単純に、四宮先輩もいくつかの部活を丸め込んでいたり、選挙管理委員を傀儡にしようとしてるってこと」
そう、四宮先輩は伊井野の方の妨害に回らないだけで、裏で工作しないとは
少なくとも、ここ1週間に4件ぐらいの部活動にそういう
まぁ、それ自体はよくあることだし、そういう汚い部分も含めての彼女だ。
「うわー、最低じゃないですか?それに、同じ方法で返したら意味がないじゃないですか?」
「まぁな。でも、僕に出来る
「…それってつまり、四宮先輩の工作を無意味にするってことですか?」
「そういうことだ」
対等さ。平等さ。そんなものは勝負の世界にはないことは既に話した。
だが、それでも、伊井野がそういうものを求めているのだから、僕はそうなるようにするしかない。
対等な場を作る。
それが今回の僕の戦いだ。
「けど、相手は四大財閥のご令嬢。取れる手は無数にある。けど、こっちは庶民だ。打てる手なんて少ない、少ない」
「でも、怪異の専門家なんですよね?その怪異を使えば…」
「そりゃ出来るだろうけど。専門家がむやみやたらに怪異を使役は推奨されない。下手を踏めば、こっちが消される」
「そんなに難しいものなんですか?」
「難しい。特にそういう人心掌握の類のものはね」
そう。下手に怪異に頼る訳にはいかない。
それは、バランスを崩すことになりかねない。
歯止めが効かなくなるかも知れないからだ。
そしたら、こわ~いお姉さんが来る。
正直、僕にとってはなんだかんだ優しさのある四宮先輩よりも臥煙さんの方が怖いのだ。
恐ろしいとも言う。
そういう今も監視されているから、下手なことは言えない。
「でも、だとすると、打つ手無いんじゃないですか?交友関係が広いわけでも無いんですよね?」
「そうなんだよな。どうしたもんかねー」
ここで、交友関係が広ければ、純粋にそれを伝えれば良いのだけれど、そうはいかない。
少なくとも今の僕の発言力は大したこと無いし、もっと上の立場の誰かの意見なら良いかも知れないが。
あっ。
「あぁ、それがあるか」
「何がですか?」
「いや、こっちも抱き込めば良いのかって思っただけ」
確実性はないが、それでも影響力もあるし、効果も有るはずだ。
「
「別にいいよ。誰かとの会話の中で気づけることも多いんだから」
かなり申し訳無さそうにするので、フォローする。
多分、一人じゃ思いつかなかったので、それでいい。
それに、あんな言葉で察するのだから、大体同じことを考えていたのだろう。
「それじゃあ、一つ先輩に聞きたいことがあったんですけど」
「なんだ?」
「先輩ってどんな人が
「う~~~ん。変人?」
「そ、そうですか」
一応、僕なりに真面目に答えた。
僕にとっては、少しぐらい変な所がある位が好きだ。
どうして、こんな質問をしたのかは深くは考えないが。
今はまだな。
食べ終わり、店を出る。
「それじゃな」
「うん」
さて、明日から行動開始だ。
***
さて、誰を抱き込むのか。
それは、子安先輩と風野先輩だ。
周りの意見を聞いている感じ、3年の中で特に輪の中心にいる人物。
その二人が、伊井野派であることが知られれば、それは3学年や下の学年にも影響する。
端的に言うと、注目度が上がる。
注目を集めて、そこから良い方にいくか悪い方にいくかは伊井野次第である。
だから、確実とは言えない。
だが、やる価値はあるだろう。
それに、部活の方の抱き込みも別途で妨害しなくてはならない。
そんな訳で二人に伊井野の応援をしてくれるように頼んだ。
ビラを渡して、どういう思想でそうしているのかを伝えた。
説明を終えると二人は、少し考えさせてと言った。
感触的には微妙だったが、後々になって、やってくれたことがクラスの会話を聞いて分かった。
普通にいい人達だった。
後々、何か良いことをしてくれそうだ。
そんな調子で、四宮先輩の部活の抱き込みを絶妙に妨害しながら本番を迎えた。
本番当日。
石上が目の隈を隠しながらも目つきが悪い状態で登校して来た。
しかも、フラフラしている。
頑張りすぎだろ。
いやまぁ、焚き付けた側の言えたことじゃねぇけどさ。
そんな中でも、自分の仕事はちゃんとするのは凄いとは思うが。
***
そして、演説が始まった。
大仏の応援演説は言い淀みがないが、会場の意識が散漫になっている。
これでは、あまり効果がない。
ていうか、難題美人の割にこうして壇上に上がった時に大した反応がないのは何故だろう?
何か嫌われるようなことしてないだろうな。
そして、四宮先輩の応援演説。
四宮先輩が前に出て、多少は反応があるが、全体としては散漫なままだ。
キィィィィィィンという音がした。
今のハウリング、わざとだな。
教師も含めて全員の意識が壇上に向いた。
しかも、藤原先輩がしれっと教師を反白銀派の近くに誘導していた。
はぁ、本当にやり手だな。
しかも、映像を交えたハッタリをかましたPV。
流石は石上だ。なんだかんだ伊井野の方に応援が傾いていたような気がしたけど、映像もかなり作り込んでいたな。
本当にこの生徒会は強い。
敵に回したくないな。
回してるんだけど。
そして、伊井野の演説だ。
やっぱり、アガってる。
しかし、流石に壇上には手出しできないしな。
そう思っていると、伊井野の背後から声がした。
「石上?」
そう、石上の励ましの言葉だった。
それが、伊井野の背中を押した。
そして、伊井野はハッキリした声できっちりと言いたいことを言っていた。
本当に、お互いがお互いに引き立てあってるなぁ。
これが、一学期頃だったら、引き立て合うこともないだろうと思うといい傾向かなと思う。
それはそれで、違う物語になるだろうな。
もしかしたら、変に拗れたかもしれない。
けど、そんなIFを語っても仕方ない。
今は取り敢えず、演説を終えて、話している石上と伊井野を見て、ニヤニヤするとしよう。
***
後日談。というか今回のオチ。
当選したのは、白銀先輩だった。
しかし、僅か一票の差だった。
けれど、実はそれはおかしい。
何故なら、この学校の総生徒数は600人。
つまり、誰か一人が投票していないことがある。
さて、その一人は誰だろう?
まぁ、察する奴は簡単に察するだろうが。
そう、
あいつ、投票の時に両方に黒丸をしていた。
つまり、
それが、あいつの結論だ。
今の所、あいつにとって、会長と伊井野は同じくらいの存在らしい。
これからどうなるかは知らないけれど。
さて、そんな石上。
まぁ、既にフラフラだった訳だが、結果を見て少し笑った後、倒れそうだったのを慌てて掴んだ。
緊張の糸が切れたか。
なんでそんな無理をするかね。
いや、焚き付けた側の言えた事じゃないな、やっぱり。
取り敢えず、保健室に運ぼう。
運んで、寝かせると丁度、会長が来た。
「大丈夫か!!石上!!」
「白銀先輩、しっーー」
心配で大きな声になる先輩を、静かにさせた。
「ただの寝不足です。しばらく安静にしていれば、大丈夫だそうです」
「そうか、良かった。無理をさせてしまったか」
「先輩は悪くないですよ。体調の管理を怠ったこいつが悪いですし、頑張りすぎたのが悪いのなら、焚き付けた僕が悪いです」
「…なるほど、石上を誘導していたのはお前か」
誰かが誘導したのには気づいていたらしい。
「全く。石上をこうして動かすとは凄いな」
「違いますよ。本人がそうしたいと思うくらいに信頼を築いた
「ふむ。そのことで思うのだが、石上、心なしか伊井野の方に応援が傾いていなかったか?」
その辺も気付ける辺り、流石だ。
しかし、正解には辿り着いてない感じだな。
「本人も無自覚だと思いますよ。どっちも本気で応援してた。けど、実は少しだけ偏りがあった。まぁ、先輩たちが優秀だったからというのも有るでしょうが」
「なるほどな。ところで鳴山」
そこで話を区切ると、先輩は言った。
「お前、生徒会に入る気はないか?」
「えっ。どうしてですか?」
「前々から事務処理に向いていると思っていたが、今回のことで四宮と裏工作をし合ってたそうじゃないか。あの四宮と渡り合えることは十分に評価出来ることだ」
「あちゃっ、どこからバレました、それ?」
「藤原書紀から聞いた」
「ああー、そこか」
なるほど、やっぱり親友だけあって、四宮先輩の動きも読んでいたのか。
そして、その動きに付随する僕の動きも。
普段は何も考えてなさそうなのに、やっぱり秀才なのだと感じる。
手強いな、藤原先輩も。
「言わないで下さいよ。特に伊井野には」
「嫌いそうだもんな、そういうの。それでどうする?」
「入りますよ。色々楽しめそうですし」
「そうか」
という訳で、僕も生徒会に入ることになった。
四宮先輩との契約もあるし、二人のこともある。
近くに居たほうが何かと便利だろう。
ひとまずは、
「先輩。一つ頼んでもいいですか?」
「何だ?」
「伊井野の生徒会の初仕事を石上の看病にして欲しいんですけど」
二人にねぎらいをすることだ。
「よく、伊井野を生徒会に入れようとしているのが分かったな」
驚いたように言う、先輩に
「そうするんだろうなって、思ってただけですよ」
と、返す。
「分かったそうするとしよう」
「ありがとうございます」
「ただ、一つ聞いていいか?」
「なんです?」
「お前にとってあの二人は何だ?」
神妙な顔の白銀先輩に、僕は困ったように笑って言う。
「
中々言えない、僕の本音だった。
話のボリュームを増やすべきかな?と思うけど、下手に長くもしたくないと感じる。