鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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原作改変が基本の2学期になると思う今日この頃。


みゆきコミック

俺の名前は、白銀御行。秀知院高等部の生徒会長だ。

元々は再び生徒会長になるつもりは無かったが、四宮が()()()()()と言うのでな。

一生に一度わがままと言われたしな。

そんな訳で新生生徒会の発足と成った訳だが、ここに新メンバーが二人加わった。

一人は伊井野ミコ。

生徒会選挙で戦った相手であり、真面目な風紀委員であり、生徒会会計監査だ。

少々、妄想もとい想像力は豊かな一面があるが、しかし、物事をしっかりと見て、噂や風潮に流されない面がある。

最初に会った時は誤解されて、揉めもしたが、今は友好的な関係を築いていると思う。

…少し、話しづらいと感じる時はあるが。

選挙でも一票の差だった…

正直、やばかった。

最初に結果を見た時に冷や汗がやばかった。

だが、任期を終えた時に確かな後輩がいるのは、安心感がある。

そういう意味でも大切にしたい役員だ。

もう一人は、鳴山白兎。

生徒会選挙で伊井野陣営についた人物であり、真面目な一年生であり、生徒会庶務だ。

彼は事務処理能力に優れており、あまり、話しかけない方だ。

全体的に受動的である反面、了承した仕事はきっちり果たす。

彼はリーダーというより縁の下の力持ちであると言えるだろう。

そして、彼は四宮の協力者であると同時に()の協力者でもある。

いわゆる二重スパイである。

本人曰く、

 

「さっさとくっついてくれればいいだけで、どっちの陣営にもつかない裏方ですよ」

 

と、言った。

四宮には話していないらしい。(何でも弱みを握られているからだとか、本当か?)

しかし、四宮との恋愛頭脳戦においてはアドバンテージになるのは確かだ。

そろそろ、将来についても考えねばならないし、決着(ケリ)をつけなければならない。

今日もコーヒーを飲んで、頑張るとしよう。

 

***

 

「めっちゃ恋したいわーーー!!」

 

夜の家。

そこで、ご近所迷惑になるくらいの音量で叫んでいた。

クソ……。

少女漫画と思ってナメていた……。

やるじゃないか、別冊マーガレット!

くっそぅ!

明日うっかり四宮に告ってしまいそうな程の恋したいテンションになってしまった……。

はっ!そうか。

四宮にもコレを読ませれば…

 

『私も恋したーい!!』

『会長付き合ってー!少女漫画みたいな恋愛しましょうー!!』

 

そういう感じに甘える四宮がイメージ出来た。

 

イケる!!

だが問題はこの本が少女漫画だという事だ。

もし男の俺が少女漫画を薦めたりなんかしたら…

 

『あら…。日本男子たる会長が少女漫画を…』

『人に薦める程恋愛に胸キュンしてしまったのですが…』

『お可愛…

 

ぐぬぬ~

やはり直接、渡すのはなかなかハードルが高い…

だが…手段はある。

 

***

 

次の日。

 

「会長もこういうの、読むんですね」

「意外ですね。ラブコメとかあまり読まないと思ってました」

 

石上と鳴山はそう話している。

 

「あぁ石上も鳴山も漫画、好きだろ。妹に薦められて読んでみましたがな。これが中々泣ける感じで…」

「へぇー。どれどれ」

「まぁでも僕、これで結構な読み手なので、もう先の展開読めちゃうっていうか、泣かせに来てるって気づくとシラケちゃうんですよね」

 

鳴山は興味津々のような口調の割に、大して表情が変化せずに見ている。

石上は、チープだな。うわ、全然駄目とか言いながら読んでいく。

 

数分後。

 

「丸見え…。丸見えだったのに…。ぐやぢぃ…」

 

石上はポロポロと大泣きしていた。

 

「ふーん」

 

鳴山は表情を変えずに読み終えた。

 

「ほら見たことか!泣けるだろう!!」

「泣けちゃうー!!」

「恋したくなっただろ!!」

「キラキラな恋したくなっちゃったー!!」

 

石上は凄いいい反応だ。

代わりに鳴山は大して反応しない。

目で気にせずに続けていいと言っている。

 

「あーどっか出会いは無いかなぁ!」

「この生徒会には女子が三人いるだろ。ほら、伊井野とか」

「伊井野かー…。伊井野かぁー…。いやでも、あいつは。でもー…」

 

石上が悩みだした。

ふむ。この様子だと結構()()()はありそうだな。

良かったな伊井野。

しかし、

 

「鳴山は無反応だな。こう、恋をしたくならないのか?」

「ならないですね。なんというか、こう、ハッピーエンドの振りをしたバッドエンドなのが気に食わないですね」

「そうか?バッドエンドというよりもビターエンドと言う感じな気がするが?」

「相手の男が死んでたらバッドエンドですよ。ラブコメで複数のヒロインがいる場合はきちんと一人を選ぶべきだと思いますけど、そうでないなら例えご都合主義と言われたって、ハッピーエンドにするべきだと思いますよ。過程に成長譚があるのはいい。けれど、結末は成功譚であるべきだと思いますよ」

「そ、そうか」

 

イマイチ、何を言われたのかは分からないが、なんか重要なことを言われた気がする。

石上はまだブツブツ言っている。

 

「こんにちはー!!」

 

藤原書紀の頭が空っぽそうな声が響く。

……いや、流石にただ挨拶しただけで頭空っぽはひどいか。

四宮と伊井野も一緒に来たようだ。

 

「それで何の話してたんです?」

「ああ、この漫画の話をな」

「『今日あま』だー!!」

「あの、漫画の持ち込みは一応禁止なんですけど」

 

藤原書紀は知っているようで涙腺が崩壊しかかって、伊井野は伊井野らしく指摘した。

これでも、控えめに注意し、大きな声で責めるように注意していないのだから、ゆるくなっている。

 

「まぁまぁ、良いじゃないですか。たまには」

「いや、でも、ちゃんと注意はしとかなきゃなので」

「でも、石上くんの持ち物かも知れませんよ」

「うっ。でも、こいつはもうそういうものは持ってきませんし、仮に持ってきても私はちゃんと注意します」

「はっ。いや、これは会長が持ってきたものですよ」

「そうなんですか~」

 

どうやら、トリップからは帰ってきたらしい石上は少々顔を赤くしながら答え、何故少し赤くなっているのか疑問に持ちつつ、それでも石上が持ってきたのでは無いことに安堵する伊井野と、何も考えていない藤原書紀である。

まぁ、漫画を読んでいる時点で同罪ではないか?と言う気はするが、ツッコまれないのでスルーするとしよう。

 

「…これ、そんなに面白いんですか」

「私的にはさいっこーに面白かったです!!」

「まぁ泣きという要素だけで言うならこの数年では上位に食い込むと言えなくもないかな」

「いや、どの目線だよ」

 

と、ここで絡んでいなかった四宮が食いついた!

人に薦めさせる作戦!!

男子が女子に少女漫画を薦めるのは恥ずかしい。

だが!周りからの口コミによる薦めなら、自分は「まぁ良いんじゃない?」「お前等、こういうの好きだと思って」ポジションを保ちつつ、胸キュン漫画を読ませることが出来る!

さぁ、効果のほどは…

 

「かぐやさんも読んでみてくださいよ~」

「んー……。いえ、お構いなく。私、漫画を嗜まないので」

 

はああああ!?

そうか、無趣味人間(その)タイプか…

だが、なればこそ薦めたい!

初めて読んだ漫画は大体、面白く感じるもの!

ここで読ませられたら、奴は読後『恋したい欲求』が爆発する筈だ!!

 

「四宮、これも勉強…。漫画というものを一度、通しで読んでみるのも悪くないと思うが」

「でも、それいやらしいんでしょう?」

「そうなんですか!?だとしたら、より駄目です!」

 

四宮にあらぬ疑いが生まれ、それに派生して伊井野がキレてしまっている。

それぞれ、藤原書紀と石上が対応しているが、どうにも押され気味だな。

まずいな、どうする?

 

「別にいやらしくないですし、純愛ものですね」

「あなたはあまり押さないのね」

「ええ、あまり好みでなかったので。でも、まぁ、折角の薦めですし読むだけ読んで見れば?」

「そうですか。……そうですね。ちょっと考えてみます」

 

鳴山がフォローかけてくれた。

しかし、鳴山が言うと読むとは、何かの策略があるとみるべきなのか?

 

「……」

 

後は、伊井野が気まずそうな視線で見ているのが、気になるが。

 

***

 

次の日。

 

そろそろ四宮が来る時間だ。

扉を開けておこう。

ドン。

 

「いてて…」

「四宮、怪我は、ないか?」

 

そうやって、俺は四宮に手を伸ばす。

心なしか、四宮の乙女度が上がっている。

 

「そろそろ四宮が来る頃かと思って扉を開けたら、案の定だ」

「えっ…、それってどういう」

「プリンですよ。校長からの差し入れです」

「そ、そうですか」

 

四宮が顔を赤くして、目を合わせない。

まるで少女漫画のようだな。

この中で、雰囲気に当てられていないのは、抹茶の水の量を今日はかなり少なめにしている鳴山くらいだ。

苦くないのか?

 

「こんにちはー」

 

ブワッとして現れたのは、伊井野だ。

凄い美少女感が出てる。

しかも、

 

「あっ。石上」

 

石上の顔を見た瞬間、周りに花が咲いているような感じになっているぞ。

なんか、こっちが現実に引き戻されそうになる。

鳴山がどこから取り出したのか、スパイシーチキンを食ってるぞ。

大丈夫か?

 

「あら、プリンの箱に何か封筒がありますがこれは…?」

「水族館のペアチケット…?」

「私、水族館、好きなんです。色んな生き物が居て、ロマンチックで…」

 

少女漫画の影響を受けつつも、四宮は四宮だ。

いつもの頭脳戦を仕掛けてくる。

 

「あれ、石上?食べないの?」

「いや、お前が来るまで待ってたんだ。その、一緒に食べたくてな」

「そ、そっか」

 

あっちはあっちで盛り上がっているようだ。

鳴山は見るからに赤い辛そうなカレーを食っている。

……本当にどっから取り出したんだ?

 

「でも、二枚なんですよね?」

「それなら、二人で行ってくれば良いんじゃないですか?」

 

そうやって、カレーを食べながら俺と四宮の二人で行くように促す。

サポートはきっちりこなすらしい。

と、そこに、

 

「いやー、白鵬。強いですねー」

「昨日、巡業で相撲、見てきたんだですけど」

「かち上げからの突き合い!回り込もうとした所をどすこーいって!!」

 

…今までの雰囲気が吹っ飛んだ。

藤原書紀め!

どうすんだこれ?

 

「ちょっと予定を確認してからでいいですか?」

「そうだな」

 

取り敢えず、このチケットは藤原から隠すか。

鳴山はカレーを食い終わったようだな。

石上と伊井野は、

 

「伊井野って魚が好きなのか?」

「!ど、どうしてそう思うのよ?」

「いや、さっき、会長達のペアチケット見て、ソワソワしてたしそうなのかなって」

「…まぁ、好きよ」

「だったら、連れて行こうか?これでも魚には結構詳しいぞ」

「えっ!えっ、えっと、あ、あんたが良いなら、い、行くけど」

 

……あっちはまだ、少女漫画の世界が崩れていないらしい。

それより、四宮の顔が赤くなっているな。

 

「熱があるのか?大丈夫か?」

「い、いえ」

 

赤くなってるな。

…ちょっと、藤原から離れたいし、保健室に連れて行って…

 

「プリン食べ終わったので私が連れていきますよ」

「いや本当に大丈夫ですよ。熱は無いですから」

「えっ、そうですか」

 

藤原の邪魔が入ったが、ここで諦める訳にはいかない。

 

「一応、診てもらうだけタダだ。行くぞ、四宮」

「会長…!」

 

よし、四宮を連れ出せた!

 

「四宮はやっぱ…、水族館行きたいか?」

「…」

「いいえ。行かなくていいんです」

 

断られた!

今、結構勇気出して誘ったんだけどな…

なんか凄く意味のわからない理由で断られた気する…

 

***

 

後日談。というか今回のオチだな。

無事、四宮に熱がないことを確認して、二人で戻ってきた。

取り敢えずは石上と伊井野にペアチケットを譲った。

四宮と行けないしな。

 

「いや、残念でしたね」

「全くだ。なんか変な理由で断られた気がするし」

 

帰り道。自転車の駐輪場に向かう道で鳴山と話し合う。

 

「流石にあのクソ甘い空気は今後は勘弁して下さい」

「分かってるよ。辛くなかったのか?」

「まぁ、辛かったです」

 

やっぱり、辛かったのか。

そんなに雰囲気が甘かったか?

まぁ、石上と伊井野はかなりの甘さだったが。

しかし、伊井野のあの様子から考えるにあいつも『今日あま』を読んだな。

しかも、藤原が来てからも続いてたのを見ると、恋したい気持ちが元々強かったのか、思い込みが強かったのか。

どちらにしても、デートの約束を付けれたし、伊井野的には良かったのかな?

 

「あの二人が早めにくっつけば良いんですけどね」

「そうするように仕向けたんじゃないのか?」

「いやいや、仕向けたのは普通に仲良くなる所まで。()()()()好きになるなんて予想してませんでしたよ。まぁ、石上の方はまだ自覚はないようですが」

「どうだかな」

 

実際、裏で色々動いているようだし、何かとんでもない裏がありそうな気もする。

が、それを本人に聞いてみても、

 

「あんまり深入りしないほうが良いですよ。四宮先輩と違って、いざという時の権力がないですからね」

 

と、意味深に裏がでかそうなことを言うが、本当にそうか?

そうやって、大きそうに見せて、実際には大したことはないのかもしれないんじゃないか?

まぁ、しかし、結局、本人が言わないのなら干渉すべきことではない筈だ。

 

「そうか」

「そうですよ」

 

そうこう話しているうちに駐輪場まで着いた。

 

「それじゃあ、これからも頑張って下さいね」

「ああ、そうだな。それじゃあな」

 

ふむ。難しい後輩だ。

これからも難儀しそうだな。

 




今回の勝敗、デートの約束を取り付けた石上と伊井野の勝利。
なお、デートの描写は次回に断片的に語られます。

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