体育祭で、石上は一つ成長した。
目を逸らさずに、きちんと見ることが出来るようになった。
変に怖がることもなくなった。
……後、ようやく自覚するようになった。
何がとは言わないが。
言うまでもないことだが。
兎も角、石上は成長した。
これ自体は良いことだし、問題はない。
だが、やはりあの
そもそもの話だ。
普段の、というか、体育祭前の石上の時点で、仮に大友と会った所で本来はそこまで塞ぎ込まないのだ。
日々の生活の中で、伊井野との関わりの中で、きちんと成長しているあいつはその程度で悩むことなど無い筈なのだ。
物事を何でも怪異の所為に良くないことだが、しかし、こればかりは怪異が原因だ。
お調子猿。
呪い系の怪異だ。
調子に乗った者を貶め、追い詰める怪異。
それを遣わした。
そもそもで、体育祭の日は結界も張って、怪異が発生しにくくしていた。
それでも発生したものも速やかに退治したし、そもそもが怪異とよくないものの中間のような存在ばかりだった。
それなのに、猿だけはきちんとした形で現れた。
理由は決まっている。
あの金髪の少女だ。
あの子がお調子猿をきちんとした形で具現化させたのだ。
おそらく、元々呪いを掛けた人物は別だろう。
大友か、荻野か、はたまた大友の友人か。
誰かは分からないが、しかし、その辺りが妥当なラインだろう。
理不尽極まりないと思うし、そもそもで条件を満たしてさえいないとも言える。
あの怪異は、調子に乗った者を貶める怪異なのだから。
しかし、あの少女が発生させた。
ここから考えるに、あの少女が秀知院学園における怪異の親玉なのだろう。
怪異の親玉にして、発生源。
似たような事例としては、伝説の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの第一の眷属、死屍累生死郎は北白蛇神社でよくないもの集めて、自身の体を回復していたことがあったそうだ。
そして、その過程でその町のありとあらゆる怪異を取り込み、様々な怪異現象を引き起こした。
つまり、そのレベルの怪異ということなのだろう。
そのレベルの、よくないものを引き寄せる位の怪異なのだろう。
あの伝説の吸血鬼のその眷属。
それと、同等レベルの怪異。
…正直、僕一人で対処の出来る怪異で無いことは確かだろう。
だが、放置することも出来ない。
怪異現象も呪い系が多い。
被害を防ぐため、そして、この日常を守るためにも、僕は戦い続ける。
***
「何回でもシコシコしてよくて、でも最低一回はシコってしなきゃいけなくて限界に達した人が負けっていうゲームしませんか!?」
なんか、藤原先輩が変なことを言い出した。
体育祭が終わって数日が経ち、いつもの日常が帰ってきた。
そして、いつもの藤原先輩の遊びも帰ってきた。
まぁ、藤原先輩の遊びに関しては結構楽しんではいるので否定する気はないが、それにしても、また誤解を生みそうな表現を。
「藤原先輩、落ち着いてくださいよ」
「そんな説明じゃ一体どんなゲームか、全然わからん」
「「でも、とりあえずやってみるか!」」
ほーら、馬鹿な男どもが引っかかる。
落ち着けお前等。
そんなカッコつけてもお前等の考えるようなゲームじゃないぞ。
別に四宮先輩や伊井野にしてもらえることも無いぞ。
「じゃあ、準備しますね~っ」
そう言って、藤原先輩が準備したのは風船と空気入れ。
正式名称はよく分からないが、バラエティー番組でよくあるゲームだ。
風船に空気を入れて、割れたら負け。
うん。まぁ、そんな所だろうとは思ってたよ。
「つい私、Hなゲームなのかと…」
「なんで鳴山くん以外の男子はテンションは下がってるんですかぁ?」
「大丈夫ですよ。ただ勘違いしてただけだと思うので」
顔を赤くしている伊井野。
そして、分かりやすい位にテンションが下がっている男二人。
普段からそういうこと考えてそうなメンバーだ。
駄目だよ。藤原先輩に変な期待しちゃたら。
大体、希望の斜め75°いくんだから。
変な角度で曲がっていく人なんだから。
「今からやらないって言ったら意味出るよな…」
「めちゃくちゃ出ますね」
「ていうかアレ狙って言ってるだろう」
「五分五分って所ですかね。謎のミラクル属性持っているので」
僕の予想だと天然で言ってると思うぞ。
あんまり、そういうことを言うタイプじゃないし。
結構、ウブな人だしね。
「こんなのどこから…」
「体育祭で最後、風船、飛ばしたじゃないですか。捨てるの勿体ないから大きいの貰っておいたんです!」
「素晴らしいエコの精神です!」
「かぐやさんもミコちゃんも当然やりますよね!」
「あっ、はい。せっかくなので!」
「まぁ、皆さんがやるのであれば…」
「鳴山くんもやりますよね!」
「まぁ、別にいいですけど…」
やる流れになるのは良いが、その前に確認しなくては。
「伊井野は良いの?風紀委員的に」
「エコの精神だし、大丈夫よ」
「最近、お前の正義の許容量が随分広くなったのを感じるよ。いい傾向なんだろうけど」
全く、ここまでゆるいといつか痛い目を見そうだ。
まぁ、恋愛についてはとやかく言わなくはなると良いことか。
白銀先輩的にも四宮先輩的にも……石上的にも本人的にも。
***
ゲームスタート。
順番は、白銀先輩→四宮先輩→石上→伊井野→僕→藤原先輩だ。
序盤。
白銀先輩も四宮先輩もそこそこな量しかいれない。
いや、普通の風船なら確かに適量だろうが、体育祭でのことを考えるとかなりの大きさになるはずだ。
そのまま、石上が入れて、伊井野に渡す。
「「あっ」」
二人の手が触れ合った。
同時に手を離し、後ろを向く二人。
どちらも顔を赤くして、照れている。
手が、触れた程度でね……。
こいつら可愛いな。
ニヤニヤ顔の藤原先輩が二人に絡む。
「アレレェ~。どうしたんですか~二人とも。たかだか手が触れた程度で~」
そのまま、伊井野の顔をツンツンする藤原先輩。
どうやら、伊井野に狙いを絞ったようで、これ見よがしに煽る煽る。
「ミコちゃん~どうしてそんなに赤くなってるんですか~?」
「石上くんと一緒にいる時は本当によく赤くなりますね~」
伊井野が完熟トマトのように赤くなっている。
本当に藤原先輩はからかうの好きですよねー。
でも、そろそろ、変なことになりそうなので止めよう。
「藤原先輩。このままだとゲームが進行しないので、止めて下さい」
「う~ん。そうですね。止めます!」
よし、止めてくれた。
しかし、伊井野はまだ恥ずかしいようでモジモジしている。
石上も口元を抑えて、赤くなっている。
もう、なんというか、白銀先輩達よりも分かりやすい二人だな。
本当に可愛くて仕方ないんだけど。
こいつらが付き合いだしたら、どんな、可愛い様子が見れるだろう。
ちょっと、ワクワクしてくるな。
と、まぁ、この話はこの辺にして。
そして、伊井野はその恥ずかしさを空気入れに使い、彼女の胸辺りの大きさになった。
そして、そのまま四宮先輩に抱きついた。
本当に恥ずかしかったようだ。
と、そんな伊井野の頭を撫でつつ、四宮先輩が疑問を持ち始めた。
あれ?こんなに大きくなるんですか?という顔だ。
そして、次の僕の番。
平然と空気を入れていく。
大体の限界のラインは分かるので、そこよりもちょっと少ない位を目指す。
シコ、シコ、シコ、シコ
「いや結構膨らむな!」
白銀先輩のツッコミが飛ぶ。
確かに、結構な大きさだ。
始めからこのぐらいになると分かっていた藤原先輩以外、皆、顔が青ざめてゆく。
本気で怖がってる。
でも、なんかそういう反応が可愛いと感じ始めた僕がいた。
「さて、取り敢えずはこんなもんですかね」
ギリギリまでいかない範囲。
けれど、既に部屋の一部を占領している状態だ。
「なかなかやりますね~。鳴山くん!」
「いえいえ、次は先輩の番ですよ」
ニコニコ顔の藤原先輩に渡す。
自然と顔が綻ぶ。
皆の怖がるさまが楽しい。
こうして見ると、僕は結構Sっ気があるらしい。
人の嫌がる姿はあまり好きではないが、まぁ、これはゲームだから良いと思う。
むしろ、こうしたスリルがある位でないと面白くない。
藤原先輩も平然と空気を入れる。
だが、元々僕が結構入れているので、そこまで入れなかった。
そして、再び、白銀先輩の番。
見事にビビっている。
ガチガチにビビっている。
結果。1シコ。
いやいや、ビビリ過ぎでしょう。
男は度胸でしょう。
続いて、四宮先輩。
「全く皆さん。こんな物の何が怖いのですか」
頼もしい発言だ。
ただ、ルーティンをしていることに目を瞑れば。
「かぐやさん。両手じゃないと膨らませるの無理ですよ?」
「えっ?」
案の定、藤原先輩からのツッコミが飛ぶ。
ルーティンが封じられて、一気に絶望した顔になる。
ヤダヤダという気持ちと藤原先輩への憎悪が見える。
結果。一シコ。
「ハイ次、石上くん!!」
「大見得きった割に1シコですか」
「ビビリの石上くんが、言うじゃない」
「ビビリですか…。そうですね。まぁ見ててくださいよ」
カッコ良さげな感じで、次の石上の番。
伊井野が密かに、カッコいいと若干惚れ直している感じがする。
まぁ。周りにはバレバレなんだけど。
「頑張れ。石上」
あっ、小さな声で言った。
さて、石上優。
恐れることをやめた男。
大事なのは目を逸らさないことだと学んだ男。
彼はそのまま、よく見て、
絶望した。
どうやら、直視して怖くなったらしい。
全く無意味な体育祭編だった。
おい、僕の今回の前語りを無駄にするような感じにするんじゃーない。
石上が成長したんだ。
友人として誇らしい。
みたいな感じで思ってたのに。
結果。一シコ。
「ハイ次伊井野!!」
「石上くんも1シコじゃないですか」
心なしか、伊井野の方も若干残念そうな顔をしている。
好感度が少し下がったようだ。
まぁ、大見得を切っておいてのこのオチだから仕方ないだろうけど。
そして、伊井野の番。
結果。3シコ。
怖がりながらもチャレンジした。
どこかの3人に比べたら、充分だろう。
石上の方も、どうやら惚れ直したようだ。
スゲーって顔してる。
……それで良いのか?お前は?
仮にも男だろ?
で、僕の番。
「さて、やっていきますか」
周りがどうせ1シコで終わるんだろう見たいな目で見る。
が、しかし、僕はそんなに甘くない!
シコ、シコ、シコ、シコ、シコ、シコ。
「ど、どんどん空気を入れていくぞ!」
「まるで迷いがない」
「一体、どこからあんな勇気が…」
さながら、バトル漫画のような解説をされるがなんてことはない。
割れる前の音を聞き分けている、ただそれだけだ。
風船は割れる前にビリビリと僅かに音を立てる。
その音を聞き分け、次の藤原先輩に渡せばいいだけだ。
それ位のことは出来る。
それに仮に割れたとしても、僕には多分効かない。
覚悟を持てば、人は恐れないものだ。
覚悟とは、暗闇の荒野に道を見つけ出すことだ。
という訳で結果。大体30シコ位。
限界ギリギリのラインにまでやった。
それで、藤原先輩の番。
ここからは1シコでもドボンする。
5シコしたら確実に割れるので、僕の勝ち抜けは確定的である。
「うぅぅ、怖いです。助けてくださいよ~」
と、涙声で言うが、誰も代わろうとは言わない。
全員揃って、顔を背けている。
そもそもの言い出しっぺだからだろうし、自分もやりたくないからだろう。
というか、言い出しっぺなのに、この自体を想定していないのは、流石というかなんというか。
「なんで皆、助けてくれないの~。鳴山くんは~?」
「言い出しっぺじゃないですか?恨むなら自分を恨んでください」
「そんな~」
そのまま、1シコ。
結果。割れない。
「うぅぅ、怖かったです~」
本気で涙しそうになっていた。
可愛い。
そして、白銀先輩の番。
次が回ってくれば四宮先輩の番となる。
どうやら、本気で怖いらしい四宮先輩は、シャーペンの芯を抜き、筒状にした紙で巻く。
どうやらあれで、この風船を割る気のようだ。
だが、そんなに上手くいかせる訳には当然いかない訳で。
打ち出される芯!
それを片手でキャッチする僕!
向けられる殺気!
知らんぷりする僕!
この手の勝負事はきちんとしたルールで行うのがセオリーだ。
風船の膨らませ方での駆け引きはしても、外的な要因で割れたら面白くない。
というか、こんなオチではつまらない。
四宮先輩は、頭を抑えて震えだした。
どうやら、本当に怖いらしい。
ふ~む。
そんなに怖がられると助けたくもなる。
けれど、これは勝負。
どんな結果であれ、厳粛に受け止める必要がある。
だが、しかし。
どうやら、白銀先輩も震える四宮先輩に気づいたらしい。
考え込んでいる。
これは、もしや……
などと思ったが、しかし、
シコォォォ
「しゃっああ!次、四宮のばんーーーっ!」
特に惚れた女を守ろうとは思わないらしい。
フルフルと震えながら、空気入れを渡す。
声がずり上がっている。
しっかし、盛り上がったなー。
結構楽しめたし。
四宮先輩の負けかー。
音的にも、そろそろ割れるだろうし。
そう思って、肩を回す。
「あっ」
手に芯を持っているのを忘れていた。
誤って風船に芯を当ててしまった。
白銀先輩と四宮先輩が空気入れを持っている状態でそれは起こった。
パァン
…勝敗的には、僕の反則負けかなー。
やらかしたわ。
***
後日談。というか、今回のオチ。
現在、生徒会室。
とてつもない爆裂音により、周りには4体の死体が転がっていた。
「いやー、死屍累々ですね」
「よ、よく、平気ですね。鳴山くん」
生き残った藤原先輩も腰が抜けたようだ。
因みに他の人はまぁ、当然のことながら本当に死んだ訳ではなく、ただ失神したようだ。
僕も無警戒だったら、腰を抜かすこと位はしたかもしれない。
だが、
「まぁ、くると分かっていればこの位はなんとも。それよりも風船の残骸片付けますよ」
石上と伊井野。白銀先輩と四宮先輩。
それぞれを端で並べて、ほうきで辺りを掃除する。
「なんでセットで並べてるんですか?」
「そうした方が起きた時の反応が楽しそうじゃないですか」
「君って本当に性格悪いですよね」
「先輩ほどじゃ無いですよ」
未だに腰を抜かしてて、ソファに背中を付ける藤原先輩に言う。
「ええ、私って性格悪い?」
「そうですね。意外と容赦なく酷いこと言ったり、悪い方に誘導したり、
「そ、そんなにですかね」
ショックを受けたような顔をされた。
が、どこか演技くさい。
慰め待ちみたいな感じがする。
…はぁ、全く。
「まぁ、別に嫌いじゃないですけどね。先輩のそういう性格も」
「そ、そうですかね?」
「誘導も混ぜておいて、白々しく反応しないでくださいよ」
「バレてましたか」
「モロバレです」
「すいません」
と、謝っているようで実の所、反省しているようにも見えなかった。
まぁ、そういう人だし。
関わっていて楽しいと感じるから、それは別に良いんだけど。
でも、まぁ、仕返しはしたいので…。
「でも、本当に嫌いじゃないですよ。楽しいですし」
「……そうですか」
と、藤原先輩は少し照れたようだった。
………。
まぁ、取り敢えずはそこで聞き耳を立てている会長カップルを起こすとしますか。
次回、オリジナルエピソード