鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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早坂の展開に悩む今日この頃。


あいレーバ

早坂愛は四宮かぐやの近侍(ヴァレット)である。

四宮かぐやに仕え、従い、命令を忠実にこなす。

そう言うと、忠犬のような印象を受けるがそんなことはない。

四宮かぐやとは、主従関係ではあるものの、実際の所、その関係性は深く結びついた姉妹のような関係に近い。

お互いに素の相手を知っているし、お互いの素を見せられる。

そういう関係性だ。

まぁ、最近は四宮先輩のアホ化に伴い、早坂先輩に無理難題(無茶ぶり)が多く発生していて、早坂先輩もお疲れのようだけれど。

それでも、早坂先輩にとって、四宮かぐやとは、大切な主人であり愛すべき姉妹なのだと、そう思う。

 

***

 

「こんな性欲にまみれた男の群れに私を放り込むなんて、本当に薄情者…」

「ホントですね…」

 

現在、僕と早坂先輩は四宮先輩の命令で合コンの会場であるカラオケのルームに居る。

何故、こんなことになったのか。

それは、数時間前に遡る。

 

***

 

放課後、僕は四宮先輩と早坂先輩と話していた。

因みに、人に見られる心配はあまりない。

そこで、チラッと声が聞こえてきた。

 

「おい、白銀。今日は生徒会もバイトも無いんだろ?カラオケいかね?」

「カラオケか……。あんまり歌は得意じゃないんだよな…」

「違う違う。放課後、色んな高校の人と繋がりを作る交流会的なのがあってさ。俺たちだけじゃ行きづらいんだよね」

「ふーん」

 

という会話が、廊下から聞こえた。

白銀先輩が善良だからと言って、ああいうのはどうなのかと思うが。

だって、あれ。絶対合コンだろうし。

 

「かぐや様…。いいんですか?」

「?たまの休みに友達と遊ぶのを(はばか)る理由なんてありませんよ」

「いや、そうじゃなくて交流会のことですよ」

 

どうやら、四宮先輩は気づいていないようだ。

こういう所に箱入り娘というか、世間知らずな面が出ているよな。

 

「いいじゃないですか。生徒会長として、他校とのコネクションを作っておいて損はありません。私は束縛しない女ですし」

 

……いや、先輩は束縛が強いというか、嫉妬深いタイプでしょう。

それに巻き込まれてるだよ、こっちは。

早坂先輩は、四宮先輩に突っ込む。

 

「いや、ですからあれ多分合コンですよ?

「絶対、止めなきゃじゃない!!」

 

四宮先輩の全力の手のひら返しだ。

すっごく、焦っとる。

本当に分かりやすい人だな。

 

「合コンってアレでしょう!?男女がつがいを求めて乳繰り合う盛り場のことでしょう!?」

「うーん。話が面倒なので補足や訂正はしません。そうです

 

まぁ、間違いはあまりないな。

最終的に行き着く先はそんな感じだ。

いきなり、そこまでいくことは少ないとは思うが。

 

「そんな集まりに会長が…!?」

「いや、本人は気づいていなさそうでしたけどね」

 

僕が言った。

そんなに気にしなくても良いとは思うが、まぁ、不安にはなるだろうな。

そこら辺は不安になるのが普通ではある。

 

「どうしたら……」

「かぐや様もお目付け役で一緒に参加すればいいじゃないですか?」

「いやよ!そんな性欲にまみれた男の群れに私は放り込むっていうの?この薄情者!!」

「……そうですね。すみません」

 

第一、私がそんな会に参加したと家の者に知られたら勘当ものよ。と、言う四宮先輩。

まぁ、確かに。

財閥のお嬢様ともなれば、そのぐらいの規則は普通か。

特に間違ったことも言ってないしな。

 

「……あ。何も私が直接行く必要もないのよね」

 

そう言うと、四宮先輩は早坂先輩の方をじっと見た。

……は?

まさか…

 

***

 

という訳で回想終了。

会長を守るために、早坂先輩がこの合コン会場に入り込んだのだ。

 

「それにしても、どうしてあなたも来たんですか?」

 

早坂先輩が聞いてくる。

確かに、ここまでの流れで僕が行く必要性はない。

お目付け役をするのは一人でいいのであり、僕が来る意味は実のところあまりないのだ。

 

「いや、早坂先輩を一人にするのは忍びないですし、いざと言う時に、()()()()も必要でしょう?余計なお世話かもしれませんけど」

「…そんなことはないですよ」

 

そう言うと、目でお礼した。

まぁ、ここには白銀先輩もいるしな。

と、ここで僕と早坂先輩の関係性を明らかにしておこう。

元々、僕が彼女が四宮先輩の近侍だということは知っていた。

これは、早坂先輩が下手を打ったのではない。

四宮先輩との交渉のために、僕が調べていただけだ。

僕の情報網が広いだけだ。

まぁ、そんな話は置いておいて。

つまり、僕は早坂先輩の正体を始めから知っていた為、隠す必要がない。

なので、恋愛頭脳戦への協力に当たって、すぐに会うこととなった。

 

『どうも、鳴山白兎です』

『どうも、早坂愛です』

 

そして、その日はそのまま恋愛頭脳戦への議論へと移行した。

早坂先輩は普段の学校生活では、四宮先輩の近侍であることは隠している。

まぁ、護衛が主な任務となるのだから当たり前だが。

そのため、学校生活では貞操観念が意外とあるギャルとして振る舞っている。

どうも、話している限り、只でさえ、普通の近侍の仕事だけでも大変なのに、四宮先輩の無茶ぶりにも答えているらしい。

最近の無茶ぶりはもっぱら会長関連ではあるが。

その癖、一向に発展しない関係に苛立ちを憶えているらしい。

しかし、そういう愚痴を言える人はあまりいない。

友人たちにはその辺は話せないし、家族は本家の方にいる。

なので、そういう愚痴を夜の10時、四宮先輩が寝た頃に聞いている。

こういったことは実際に人に話したほうが楽になるし、自身の息抜きも兼ねている。

そうやって、愚痴を聞いている内にそこそこ仲の良い友人の関係になった。

つまり、協力者であり、色んなことを話せる友人というのが僕と早坂先輩の関係だ。

相手がどう思っているかは、また別の話だけれど。

 

閑話休題

さて、本題だ。

 

「なんか暗いね。どしたのー。友達が来れなくなったとか」

 

どうやら、引っかかったようだ。

白銀先輩が友人と一緒にこっちに来た。

 

「別に…、どうだっていいでしょ」

「ハーサカさん…、だよな?」

 

ハーサカさん。

早坂先輩の疑似人格の一つ。

女子校育ちで日々の生活を退屈に感じて、男を漁り手玉に取る清純派ビッチ…という設定である。

以前、四宮先輩に煽られて、会長を落とすように動いたが、白銀先輩がそれを振ったというのがあったらしい。

早坂先輩も普通に美人の部類なのは確かなのに。

つまり、そういうことだ。

このエピソードは、白銀先輩の一途さを表しているエピソードと言えると思う。

それはさておき、

 

「あっ白銀の知り合い?紹介してくれよ!」

「いや、知り合いっていうかなんていうか」

「言えばいいじゃん。むかしこっぴどくフッた女だって」

 

うわー。

マジでか。

そういう方向でいくの?

白銀先輩がすっごい顔になっとる。

白銀先輩の友人も、

 

「えっ、ああ、そういう」

 

シーン…

 

「んじゃ白銀…。俺はあっちの方で…」

 

と、去っていた。

一瞬、空気が固まった。

冷房効きすぎじゃないって位に冷えた。

白銀先輩が友人の方を見て、ここで置いていくなやみたいな顔をしている。

 

「大丈夫っすか、ハーサカさん」

「ん…ありがとう」

 

と、僕はハンカチを渡す。

 

「ええと、君は?」

火鳥辛子(ひとりからし)っす。ハーサカさんと同じところでバイトしてるっす」

 

現在の僕の格好は、茶髪のかつらに眼鏡をしている。

声色も普段よりも高めだ。

そんなんで、ごまかせるのかって?

下手に弄り過ぎないのもばれないためのコツだ。

 

「やっぱり気まずいよね。フッた女がいる会は…。私も君の傍にいるの…。つらいよ」

 

早坂先輩が思い切り泣きの演技に入った。

露骨な位に煽る。

白銀先輩が罪悪感に押しつぶされそうになっとる。

 

「大丈夫っすか。ハーサカさん」

 

と、背中を擦る僕。

ここは普通に乗るとしよう。

なんかもう、凄いぐらいに罪悪感に満ちる空間になった。

このまま居たたまれなくなって、帰らせる作戦だ。

 

「俺……、違う席行くよ…」

 

罪悪感に飲まれて、顔色の悪い白銀先輩が席を立とうとする。

が、

 

「傍に居て…」

 

と、白銀先輩の手を掴む早坂先輩。

白銀先輩がガチで困った顔をしている。

えっどっち!?って考えているだろうな。

まぁ、傍に居て欲しいのか欲しくないのか、よく分からん言動になっているからな。

 

「俺が傍に居るとつらいんだろ…?」

「えっとそれは…」

「あなたが他の女の子と仲良くしているのを見せるのは、残酷じゃないっすか」

 

僕もそれに乗る。

早坂先輩もそれに、うんうんと頷く。

 

「というか、お前はハーサカさんとどういう関係なんだ?」

「オレっちは、ハーサカさんとバイト仲間なんすよ。それで、もしもの時に守って欲しいって頼まれたんっすよ」

「そ、そうなのか」

 

どうやら、半信半疑のようだ。

まぁ、当然だが。

 

「あ、私が歌う番だ」

 

と、早坂先輩は歌う。

うーん。

うまいんだけど、歌詞がなー。

ひどいなー。

白銀先輩がどうしたらいいか分からない顔をしている。

 

「歌…上手いね。こういう集まりには結構来るの?」

「いいえ、男性が多い所は結構、苦手です」

「だったらどうして…」

 

白銀先輩が意外そうな顔で見る。

…早坂先輩はなんて答えるだろう?

 

「今日は妹に無理やり来させられたの。いい加減、失恋から立ち直れーって」

「私は来たくなかった。だけど強引に…」

「火鳥君は気を使ってくれるけど、それでも正直足らないんですよ」

「人の気持ちを理解出来ないんですよ」

「どうしようもなく性根が悪いんです。あんなんで将来やっていけるんでしょうかね?」

「まぁ、最近は少しマシになってきましたが……。それにしても、本当にひどくて……」

 

いつもの愚痴だな。

いつも聞いている愚痴だ。

そんなに苛ついてたのか。

と、そこで

 

「ふふ……」

 

会長が笑い出した。

この話で笑うって……。

どうなの?

 

「何かおかしかったですか?」

「いや……。ようやく素に近い部分が見えたなって」

 

…………

 

「前、会った時はなんていうか少し演じてる感じがしたから」

「まぁ……。今も少しするんだけど」

「こっちの方が親しみやすい」

 

……あーあ。

なんでそういうこと言うかな。

この人は。

 

「演じない方が……いい?」

「まぁ……」

 

()()

()()()()()()()()()()()()()()()

 

早坂先輩の本音が出ている。

薄々気づいていた本音が。

 

「弱さも醜さも、演技で包み隠さなければ愛されない。赤ん坊だって本能で判ってる事です」

「ありのままの自分が愛される事なんて絶対に無い」

「そんな事は……」

「だったら」

 

そして、早坂先輩が言う。

 

「君は見せられるの?背伸びも虚勢も無く、弱さも全て隠さない本当の白銀御行を」

 

静かになる。

周りのワイワイ声ばかり聞こえる。

白銀先輩は何も言わない。

僕としても分かる所はある。

()()、僕は…

 

「ごめんね!今日ちょっと私、友達と喧嘩しちゃって。感じ悪いよね……!」

「君もそろそろ帰った方が良いよ」

「好きな人が居るって言ってたじゃない」

「彼女……、君がこんな所に居たら、きっと悲しむよ?」

 

そうやって、早坂先輩は誤魔化した。

苦笑いを浮かべて。

誤魔化し入れて。

 

「……そうだな…。そうする事にしよう」

 

これで、目的は達成か。

なんかなー。

スッキリしないなー。

 

「ちょっと聞こえてたけど、失恋中なんだって?」

 

軽いノリの碌でもない奴が来た。

 

「俺もこないだ彼女に振られちゃってさー」

「傷心仲間同士仲良くしようぜー」

「そらそうでしょ。君みたいな可愛い子が居たら、男ならグイグイいくって」

 

ウザい。

嫌いなタイプだ。

取り敢えず、仕事しよう。

 

「ハーサカさん。そろそろ飲み物取りにいきますっか?」

「おいハーサカ。ドリンクバー行くんだろ。早く来いよ」

 

白銀先輩と声が被った。

……そういうことか。

 

「そうスっよ。ほらほら取ってきてくださいよ」

 

そう言って、早坂先輩の背中を押す。

そして、そのまま二人を部屋の外に出した。

ふう。

これで、本当に()()仕事は終了だ。

 

***

 

後日談。というか今回のオチ。

二人は勿論、この部屋には戻って来なかった。

とは言え、二人は帰った訳ではない。

どうやら、新たに部屋を借りたらしい。

と、そんな事を話している僕は決してこの合コン会場を出ていない。

いつも通り、地獄耳だ。

カラオケ店の防音程度なら、関係ない。

だから、二人の会話も聞こえているんだけど……。

えっ。

ちょっと。

駄目だ!それはいけない!!

そっちで何が起きたのか。

簡単に言うと、なまこの内蔵だ。

言わなくても分かるだろう。

察しているだろう。

あーあ。

早坂先輩が死にそうになっとる。

四宮先輩も、気になって来たようだ。

何、この人。

なんで一人漫才やってんの?

段々と、地の文が実況状態なんですけど。

でも、映像ないからどんな状況か明確には分からないんだけど。

あー、白銀先輩(なまこの内蔵)がスッキリして出たようだ。

早坂先輩もキツそうだな。

聞くだけでぶっ倒れるとは、ジャイアンリサイタルだろうか。

いや、ジャイアンリサイタルよりも酷いか。

あれもあれで、呪いの一種ぽいけど。

まぁ、違うんだけどね。

と、四宮先輩と早坂先輩と、四宮先輩から呼び出された藤原先輩が帰った。

藤原先輩も、被害者だもんな。

因みに、この間。

僕も一人百面相状態の為、誰も声をかけなかった。

まぁ、こんな所に来る女なんて大概尻軽だから別にいいけど。

 

 

と、その日の夜。

 

「大丈夫ですか?早坂先輩?」

「ええ。正直、今でも頭がジンジンしますけど」

 

早坂先輩と電話した。

どうやら、会長のダメージはまだまだ抜けていないらしい。

 

「それにしても、会長のラップのこと知ってたんですか?」

「いえ。でも会長、元々普通の歌もあのレベルだったので、そこから考えるとまぁ、当然かなーって」

「えっ!マジですか」

「マジです」

 

本気で驚いたようだ。

まぁー、そりゃなー。

 

「あなたは本当になんでも知ってますね」

「何でもは知りませんよ。知らないことも多いです」

 

これは本当。

万能には程遠いのが僕だ。

 

「そうですか」

「…一つ言っていいですか?」

「? どうぞ」

 

そして、僕は言う。

 

「確かに、他人や友人に対して偽らなきゃいけないこともありますよ」

()()

「だからって、本当の自分が愛されないなんてことはないと思いますよ」

「そうでなければいけないとさえ、思います」

「心配しなくても、あなたの周りにはありのままを受け入れてくれる人達で溢れてますよ」

 

言った。

なんと捉えられるかは分からないけれど。

それでも、言いたいことを言った。

 

「……そうですか。その辺は個人の価値観ですし、議論しても仕方ないですね」

 

話を逸らされた。

深く話さないことにしたようだ。

……まぁ、いいか。

言っても仕方ない。

この人の問題を解決出来るのは、()()()()()というだけだ。

きっと、それを出来るのは……

 

「それでは、こちらも一つ聞いていいですか?」

「どうぞ」

()()()()()()()()()()()()?」

 

……うん。

どこら辺かなー。

どこら辺で気づかれたかな?

 

「何の事ですか?」

 

「いえ。前々から気になってたんですよ」

「あなたの情報網は些か異常です。明らかに()()()()聞いただけにしては明らかに知りすぎている」

「私は情報漏洩を気にしています」

「これでもマスメディア部に情報を漏らしていないぐらいには、優秀であるつもりです」

「それなのに、あなたは知りすぎている」

「録音機も盗聴器もない」

「だとしたら、地獄耳にも程があるという話です」

「それだけではありません」

「中間試験の時、私は夜の学校に行ったんですよ」

「私の疑念について解消するために」

「それで、見たんですよ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……普通に人間の動きではないですよね」

「明らかに異常です」

「明らかにおかしいです」

「あなたは一体、何者ですか?」

 

随分と考察されてたようだ。

一応、あの時には結界が貼られていたと思うのだが、この辺は優秀だな。

流石は四宮財閥の令嬢の近侍。

どうしても主人の天才性で目立ちづらいが、これはこれでガチの天才なのだ。

 

「そうですねー。まぁ、人間ですよ。()()()()()とは言えませんけど」

 

本当のことだ。

ただし、()()()には言えないんだよな。

まぁ、でも、

 

「詳しいことは言えませんけど、それでもいつかは分かると思いますよ」

「……そうですか。では、失礼します」

 

切られた。

しかし、早坂先輩に気づかれたとなると、もう少し結界を見直す必要があるな。

調査も進まないし、そろそろ何か進展が欲しい所ではあるだよな。

それにしても、本当の自分か…。

……駄目だな。

まだまだ、駄目だ。

 




ここから文化祭まで、長くなりそうだな。

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