鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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後日談が随分と短い今日この頃。


まきルーザー

四条真妃は四宮の血を引く者だ。

その能力は高水準であり、そのスペックは、四宮先輩にも引けを取らない天才である。

ただし、天才の種類は異なる。

四宮先輩の天才性は『思考の速さ』『模倣力』『完全記憶』であるのに対し、四条先輩の天才性は『思考の深さ』『対応力』『選別記憶』である。

この違いは、両者の家の違いが原因だろう。

元々、四条家は高度経済成長期に四宮財閥の利己的な戦略、つまり、人道からかけ離れた方針を取り、一部の穏健派がこれに反発し、生まれた家系である。

つまり、四宮家と四条家は源流を同じくするものの、相容れない関係にある。

それに付随するように、四宮先輩とは仲が悪い。

………しかし、その割に二人の辿り着く結論は似ているが。

元が穏健派からの出ということもあり、四条先輩は普通に良い人である。

友達付き合いも、親しみやすさも、四宮先輩よりも上手い。

しかし、まぁ、良い人だからと言って、幸せになれるとは限らない。

これは石上にも言えることでもあるが、良い人であるが故に傷つくと言うことは多分にある。

まぁ、個人的には彼女が傷ついているのは、それとは関係ないと思っているけれど。

 

***

 

とある放課後。

白銀先輩と石上と僕で、話しながら歩いていた。

 

「んでさー」

「あっ、ちょっとストップしてください」

「ん?どうした?」

「下に……」

「ええーっ!?」

 

そこには、四条先輩(したい)が倒れていた。

 

***

 

「おぢゃ」

「えっ?」

「おぢゃもでだいのごのぜいどがいば!!」

「あ!お茶ね!」

「すぐ淹れます!」

 

現在、生徒会室。

四条先輩も連れて、僕たちはここで話している。

今、石上がお茶を淹れている。

 

「連れて来てどうするんです……?」

「仕方ないだろ……。泣いている子を見ておいて、放置なんて出来るか!」

 

と、二人は話しているけど、こっちとしてはいつもの流れなので、そんなに気にしていない。

この人は一定周期でこうなるのだ。

 

「とりあえず、名前聞いていいですか?」

 

石上が聞く。

 

「私の事知らないの?とんだ不調法者ね」

「私の名前は四条真妃!学年三位の天才にして、正統な四宮の血筋をひくものよ!」

 

などと言っているが、実際の彼女はそこまで偉いものでもないことを僕は知っている。

いや、偉いのは偉いのだが、その割に本人の性格やらあれが色々と残念なのを知っている。

 

「白銀と鳴山は私の事を知ってるわよね」

「まぁ、同じクラスだしな……」

「まぁ、そうですね……」

「あれ?鳴山も知ってるのか?」

「ええ、まぁ、個人的な付き合いで…」

 

そう、僕と四条先輩は知り合いである。

どこで知り合ったのかと聞かれれば、あれは体育祭が終わった頃。

 

『ちょっと、いいかしら?』

 

と、話しかけられたのが最初である。

僕が四宮先輩と白銀先輩との恋愛頭脳戦を手伝っているのは知っているとは思うが、その過程で四宮先輩と早坂先輩と一緒に話すこともそれなりにあり、単体となら兎も角、二人が一緒にいる所で話しているのは少々怪しい為、四条家として探りを入れて来いというお達しがあって、話しかけたらしい。

 

『成程』

『私としては、多分、四宮家の手伝いじゃなくて、白銀との関係の手伝いをしているのだと踏んでいるのだけど』

『……、流石は天才ですね』

 

と、いった具合に最初からこっちの立ち位置を大体当てていたため、軽く弱みを握られて手伝っていることを話した。

 

『はぁー。全く。これだから四宮家は…』

『まぁー、これに関しては四宮家がどうのこうのは関係ないですよ。個人的に四宮先輩に目を付けられただけです』

『あの叔母様が個人的に目をつけるって、相当珍しいんだけど。……それはともかく、私が匿ってあげようか?』

『ありがたいですが、遠慮します。あくまで、こちら側の問題ですし…』

 

そう、こちら側の問題だ。

それに、四宮先輩だって、早々にその弱みを利用しようとはしない筈だ。

別にそんなものを持ち出さなくたって協力しているし、それ以外の使い道なんて僕の排除以外位しかないからだ。

それにしても、

 

『良い人なんですね。先輩は…』

『うっ!?そ、そんなことないわよ!!』

『いえいえありますよ。……なのに、どうして幸せになれないんでしょうかね?』

『はっ!?………、まさか!あんた……!』

『愚痴ならいくらでも聞きますよ?』

 

と言うことがあり、定期的に愚痴を聞いている。

ええ、そりゃ知ってますとも。

田沼先輩のことが好きなことも、それを親友に取られたことも。

大体、聞いていたからね。

そもそもで、四条家の方だってこっちの警戒対象に成り得るのだから調べるに決まっているのだ。

しかし、あそこまでこじれているのに、親友を嫌いになったりはしてないから、良い人だと思う。

 

閑話休題

 

話を戻そう。

 

「それにしても、本当に四宮先輩の親戚なんですか?」

 

石上が驚いたように聞く。

 

「ええそうよ。かぐやは正真正銘、私の親族」

「彼女は私の最従祖叔母にあたるわ」

 

本当にそれ聞くと、遠いな。

石上も他人だと感じているようだ。

まぁ、立ち位置上、他人とは言えないんだけど。

 

「……で、四条先輩はあんな所で何してたんですか?」

「おい、石上」

 

そこは、触れないでやれよ。

酷いことになるぞ。

 

「そんな事も分からないの!?これだから不調法者は」

「私はあそこで……」

「………」

「………」

「ほんと……。何してたんだろうね……」

 

「ええーー」

「何!?なんなの!?」

「あーあ」

 

ああ、やっぱ泣きだした。

やっぱり、そうなるのか。

石上と白銀先輩の二人は、四条先輩の態度に戸惑っている。

 

「何がしたいんだろうね。私」

「こっちも全然わからない!」

「お願いです。説明してください!!」

 

ああ、いつも通りだな。

この雰囲気。

 

***

 

説明省略。

 

「つまり、四条はあいつが好きな訳か」

「はーー??別に好きとかじゃないわよ!!馬鹿にしないでちょうだい!」

 

あーあ、フラグが立った。

この後、大ダメージを受けるフラグが。

 

「あ、違うのか?」

「私は国家の心臓たる四宮家……、血筋を引く人間よ!虎が鼠に恋をすると思うの!?」

「まぁ……、向こうから告ってきたら付き合ってあげなくもないけど」

 

なーんか、馴染み深い感じの台詞だ。

具体的には、どっかの会長とか副会長が言いそうな台詞だ。

やはりと言うべきか、白銀先輩も聞いたことあるようなワードだと感じているみたいだな。

いや、まぁ、普段から言ってるからね。

 

「いやちょっと待ってくださいよ。それはただの甘えです」

「好きなら自分から告るべきじゃないですか?」

「向こうも同じ気持ちだったら永遠に結ばれないですよ?」

 

ああ、石上のいつもの正論マウント取ってるな。

ほら、四条先輩と、……白銀先輩も傷ついてるな。

……まぁ、石上は自分から告るタイプだから、言う資格はあるのかもしれないけど。

 

「だから好きとかじゃない」

「いや好きでしょ。好きじゃない人なら付き合っても良いなんて言いませんよ」

「好きじゃない!」

「いや、どうみても好きでしょう!」

「好きじゃないって!」

「ホントは好きなんでしょ!!」

「……、……うん」

「あっ思ったより素直で可愛いなこの人!!」

 

まぁ、確かに可愛いな。

言い合ってからの落差が大きいから、よりギャップが大きい。

でも、まぁ、こっちは慣れているから、今更なんとも思わないけど。

 

「びっくりした……。突然、可愛くてびっくりしましたよ……」

「まぁ、そういう人だよ。この人は」

「恋する乙女は可愛いって言うからな」

 

確かに恋する乙女は可愛いという。

四宮先輩とか分かりやすい例だし、伊井野も大概だしな。

 

「しかし、告る告らないにしても相手は彼女持ちだ。どうするつもりだ?」

「いや、この人。別に略奪とかしませんよ」

「そうなのか?」

「ちょっと!」

 

四条先輩の止めに入るが、知ったことではない。

変に長々と話しても仕方ないので、省略していこう。

 

「ドロドロとした展開は嫌だし、学生の付き合いはそんなに長続きしないって考えてて…」

「ちょっと止めなさいよ!止めて!」

「最後に私のそばにいてくれたら、それで十分らしいですよ」

「やめてーーー」

 

あらあら。

ちょっとやり過ぎたかな?

ちょっと、泣き出しているな。

でも、最終的にここに着地するんだから良いでしょ。

だから、男共もひでぇなこいつみたいな目で見ないで。

 

「ともかく、一途で優しい人なんですね」

「やめて」

 

四条先輩が止めにかかる。

相当に精神に負担がかかったらしい。

 

「本当に、鳴山が言うから、……意外と酷いことするわね」

「だって、自分で言ってたら、ハァーーー、しないしーー、そんな野蛮なことしないしーー、と言う感じで最終的に同じところに着地するんですよ。もう、何回、僕がその愚痴を聞いたと思っててるんですか?いい加減、パターンは覚えますよ」

 

因みに、愚痴は正確には15回ぐらい聞いた。

一回辺りに2時間ぐらいかけて。

流石にね。

 

「つまり、別に別れさせる工作とかはしないのか」

「そりゃそうよ。渚は大事な友人なんだから。まぁ多少の憂さ晴らしはするけどね」

「僕、この人嫌いじゃないですよ。思っている事、全部口に出ちゃう感じ。共感出来ます」

「まぁ、お前の場合は口に出し過ぎて、地雷を踏むタイプだからな」

「そこで追撃入れるなよ」

 

石上にツッコまれた。

僕も人のことは言えないけどね。

結構、酷いことは言ってるし。

 

「僕……、なんだか同情してきました」

「ふん」

 

……同情はしないかな。僕は。

別に同情するようなことじゃないしな。

 

「待つのって辛いですよね。僕だったら耐えられない」

「弱い人間だ事!私はアンタと違って鋼の心を持ってるから全然、平気よ!!」

「すごい……」

「だって、いつか二人で行きたかったデートスポットで今ごろ遊んでたりするんですよ」

「初めて二人で遊園地に行っても……、彼は『元カノと来た事あるけど……』とか心の中で思う訳じゃないですか」

「手料理を振る舞っても、元カノの味と比べられて」

「初めてのキスも妙に手慣れてたり、ホテルの場所ばっちり把握してたりしてた日には…」

「石上!石上!!」

「なんでそんな事いうの……」

 

……これには同情するけど。

本当にえげつない位に酷いなぁ。

ていうか、フラグ回収してるし。

それにしても、石上の考え方は、暗さが中々抜けきれていない。

まぁ、暗い一面も一概に悪いとは言えないけど。

それはそれで、大事な部分だし。

 

「すいません!!先輩を傷つけるつもりじゃ無かったんです!!」

「石上の被害妄想は妙に生々しいんだよ!!」

 

あーあ、大きい声だしちゃった。

四条先輩は大きい声に弱いのに。

四条先輩が怖がってるな。

 

「突っ込みなのはわかってるけど……。男の人の大きな声……。ちょっと怖い……」

「ごめんねー!!」

「意外と繊細な事を言う子!」

 

確かに、四条先輩は結構繊細な一面も持っている。

そこら辺は、四宮先輩も似たような一面を抱えているし。

……本当に似てるよね、あの二人。

 

「他人を顧みない自己愛の権化……」

「男を誑かす事しか能のないヘンテコヘアピン女……」

「絶対に許さない……」

 

……この辺も四宮先輩は似ているんだよね。

主に藤原先輩に対して。

こっちに関しては冤罪だけどね。

そもそもで、藤原先輩に白銀先輩を誑かすなんてありえないのに。

手のかかる子供としか見ていないのに。

 

「それもこれも……、彼に変な事を吹き込んだ奴のせいだ……」

「変な事?」

「壁ダァンとかいう変な技よ!!」

 

……どっかの会長さん発案の技ですね。

まぁ、元々ある技ではあるんだけど。

つまり、不幸の原因はその会長であると。

いや、まぁ、とっくの昔に僕は知っていたけど。

ついでに、どっかのマスメディア部にも責任の一端があることも知っているけど。

その会長さんもカタカタ震えているようですね。

まぁ、会長が悪い訳ではないと思うけどもね。

 

「それまでは良い感じに距離を詰めていたのに……!!」

「アレがなければ今頃……!!」

「奥手な彼にアレを吹き込んだ奴の皮を剥いで鞣してやる……」

「もう四の五の言うのは止めたわ!」

「略奪だろうとなんだろうとやってやる!!」

「協力……してくれる?」

 

「ん……」

「……まぁ」

「いいえ。愚痴はともかく、略奪には協力しませんよ」

 

良い感じに距離を詰めていたというけれど、そもそも田沼先輩が告白した相手が柏木さんな時点で詰めれてないと思う。

基本的にツンデレ属性は、現実だとただの面倒くさい人にしかならないからな。

まぁ、その理屈で言うとこの生徒会に面倒くさくない人なんて一人たりとも居ないんだけどね。

というか、面倒くさすぎるメンバーが揃っていると言えるだろうな。

だから、お前空気読めよ、みたいな目線を送るのは止めて頂きたい。

 

「お前、空気読めよ!」

「いやいや、空気に流されて、碌でもないことを承認するのは僕としては駄目なので」

「ぐっ!」

 

どうやら、白銀先輩もこれが碌でもないことだという自覚はあるらしい。

僕は略奪愛なんて肯定しない。

そういうのは、本当に嫌いなのだ。

そもそも略奪が成立する時点で、大した関係性じゃない。

男の方も浮気してる訳だし、仮に成功しても裏切られる可能性の方が高いだろう。

と、そこまで話していると、ちょうど四宮先輩が来たようだ。

 

「あら、こんばんは、おば様」

「眞妃さん……、そのおば様って言わないで貰いますか。同い年でしょう……?」

「続柄上そうなっているのだから仕方ありません。目上の人は敬えと教わっているので……」

「そうですね。分家は本家を敬うのが筋ですよね……」

 

ああ、いつも言い争いだ。

面倒くさいたら、ありゃしない。

……本当は、お互いに仲良くしたがってる癖に。

 

「それじゃこわーいおば様も来ちゃったし、おいとまします」

「本当に可愛いくない子……」

「白銀と石上は私を可愛いって言ってくれましたけどね」

 

……ハァーー。

最後に爆弾残していったな、あのツンデレ先輩。

 

***

 

後日談。というか今回のオチ。

四宮先輩がさっきの可愛い発言を聞いて、白銀先輩に詰め寄っていった。

本当に露骨に嫉妬するなー。

これで自分は好きじゃないですしーってするから、中々だけど。

そりゃ、早坂先輩も面倒くさがりもするよ。

まぁ、そういう二人だから微笑ましいというのもあるんだけど。

……それに、白銀先輩が可愛いと思ったのは、あなたに似ているからなんだけどね。

まぁ、似てると言われるのも心外だと言われそうだから、言わないけど。

 

「さて、ちょっとメールを送るか」

 

ポチポチと、()()()()()を打ち込んで、四条先輩に送った。

返事が返ってきたのは、その日の夜。

 

『余計なお世話よ!』

 

と、返ってきた。

ふー。

結構、真面目なアドバイスだったんだけどな。

 

『失恋をした時は、きちんとした区切りを設けないといつまでも引きずり続けますよ』

 

只の失恋経験者のアドバイスなんだけどなー。

 




このシリーズでは、マキちゃんも救済したい。
ただし、付き合うという形ではないけども。

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