鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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そろそろメインヒロインらしくして欲しい今日この頃。


みおゲーマー

鳴山白兎は、高等部の一つ上の先輩だ。

生徒会庶務にして、怪異の専門家だ。

そして、その、私の好きな人、だ。

もう既に皆さんも知っているのかも知れないけど、それでもここでしっかりと言及しておきたい。

ハイ、好きです、それはもう確実に。

けれど、ここで確かに言っておきたいのは、私があの人に惚れたのは別に助けられたからではないということだ。

確かに、助けられたことには恩は感じている。

感謝もしている。

だけど、正直、そこは重要な事ではない。

私が好きになったのは、彼がする気遣いだ。

例えば、相談した時には確かなアドバイスをくれたり、私が中等部に復帰してからも実は裏で根回しをしてくれたりする。

根回しのことは、何一つとして言わないけれど。

そう、あの人は何も言わずに、裏からフォローする。

それは、私に対してだけではない。

伊井野先輩でも、石上先輩でも。

上級生とか、同級生とか、下級生とかそういうのは関係なく助けている。

でも、その理由を聞いても、

 

『ただの自己満足だよ。恩を売っている訳でもなければ、感謝されるためにやっている訳でもない。自分がスッキリしたいからしてるだけ』

 

と言う。

お人好しではあるのだろう。

ただ、良い人であるだけではない。

これは、先日の体育祭で話すようになった千石さんに聞いたことだけど、

 

『彼は良い人ではあるけど、自己中だよ。他人を思い遣るけど、その根底には自分勝手な所がある。そういう所を彼自身も嫌ってもいる』

 

普段は中々見せないと思うけどね。っと、言っていた。

こうして、そういう一面を知っている千石さんは実は鳴山先輩に一番近しい存在なのかもしれない。

……これを聞いた後に対価として、私の気持ちを根掘り葉掘り聞かれたのはウンザリしたけど。

漫画のネタにすると言っていたけど。

どうやら、少女漫画を書いているらしいけれど、イマイチ、自分の恋愛談はネタにしづらいらしい。

まぁ、この話は置いといて、鳴山先輩の話だ。

先輩は多分、私の気持ちに気づいているだろう。

他の人の気持ちに気づく割に、自分に対しての好意には気づかない、みたいなタイプではない。

そんな、THE鈍感ではない。

それでも、気づいていない振りをしている。

私自身が明確に言わない限り、気づいていないことにするらしい。

何故そうするのかは分からない。

少なくとも、今言えることは私には現時点で脈がない、ということなのだろう。

それだけは分かる。

だから、私に出来るのは好きになって貰うための努力だ。

体による魅了はきっと効かない。

私のプロポーションの問題ではない。

これでも、胸はそこそこある。

しかし、あの先輩はそこを重要視していない。

それは、千石さんも言っていた。

 

『彼を攻略する鍵は、好意的に彼のことを知ろうとすることだよ』

 

あの先輩のことを知る。

それが、攻略の鍵だと言っていた。

私もあの人のことを知りたいと思う。

例え、どんな一面だとしても……

 

***

 

日曜日。

気持ちのいい秋晴れだ。

そんな秋晴れの中で、私はマンションの一室に来ていた。

チャイムを鳴らす。

 

ピンポーン!

 

「はーい」

 

その部屋のドアが開くと、そこには鳴山先輩が居た。

 

「ほーい、来たな」

「お邪魔します」

 

そうして、部屋の中に入っていた。

さて、この風景にどういう状況なんだろう?と思うかもしれないけど、なんてことはない。

定期的に、遊びに行っているというだけだ。

いや、始めはダメ元で家に行っていいですか?と聞くと、

 

『うん?別にいいぞ。急な来客でなければ』

 

と、あっさり許可された。

この先輩。

かなりその辺がユルい。

本人が受動的なだけで、頼めば意外と色々とするんだろうな。

嫌なことは、はっきりと嫌と言うんだけども。

まぁ、そんな訳で度々先輩のマンションに来ては、ゲームに勤しんだり、漫画について語り合ったりしている。

随分と距離が近いなーって感じるかも知れないし、男一人の部屋に入る時点でそれなりに怪しいかも知れないけれど、それでも手を出すとか、そういうことは一切ない。

意識さえ、されていない。

いや、こっちを女性として扱っていない訳ではないのだ。

ただ、性差など気にしていないというか、そこで気にするのは邪な考えばかりをしているからだと言う感じで、気にしないことにしているらしい。

正直、恋愛対象として見て欲しいこちらとして困りものだけれど、しかし、誘惑系が意味をなさない以上、ここでは純粋に楽しみながら相手を知ることが大切なのだろう。

という訳で、本日は色んなメーカーのキャラが大乱闘する某ゲームをしている。

 

「先輩って、ポ○モンばかり使ってますよね」

「好きだからな。そっちだって、マ○オ系ばかりじゃないか」

「まぁ、好きですから」

 

と、現在二人で対戦をしている。

両者の実力はそれほど高いわけではない。

ネットの対戦をしていないからだ。

娯楽として嗜む程度だ。

 

「先輩って、何か一つのゲームを、極めたりとかしませんよね」

「そうだな。ゲームにしても何にしても、極めるという行為に対して否定的に思っている部分はある」

「どうしてですか?」

「宗教で考えると分かりやすいかな?宗教に属する人、特に信仰心の強い人なんかはその信仰が絶対に正しいものだと考えるだろう?それだけならまだいいのだけれど、それによって、他の宗教は間違っていると、口には出さなくても考えてしまう。でも、僕としてはどちらも正しい所はあると考えている」

「つまり、ひとつのことにこだわって視野が狭まるのが嫌だと」

「そういうことだ。高みから見る景色は違うのだろうけど、僕は平地で色んなものが見たい人なんだよ」

「へぇー」

 

この人はたまに自分の哲学みたいなものを語る。

普段から、そういうことを考えていたりするんだろうか?

残念ながら、私には相手の思考を読み解く力はそこまでない。

 

「とは言え、仕事上、怪異のことは知識の上でよく知っておかなくちゃいけないんだけどな」

「そこは、否が応でも極めなくてはならない、と」

 

怪異の専門家として、あの人がどのくらいの能力があるのか分からない。

実際に私は助けてもらったけれど、それでも、私は怪異に関しては素人も同然だ。

なので、その立ち位置は分からないけれど、本人が言うには下っ端もいい所らしい。

本当かどうかは分からないけど。

 

「やっぱり、大変なんですね。仕事」

「そうでもないよ。まぁ、最近忙しくなったのも確かだけどね」

 

どうやら、忙しくなったらしい。

 

「どうして忙しくなったんですか?」

「……最近、怪異の発生率が上がってたな。清めの塩の効力も下がってきていて、困っているんだよ」

「そうなんですか」

 

鳴山先輩は、仕事の愚痴は言っってくれるが、怪異自体のことはあまり話さない。

怪異を知れば、怪異にひかれる。

だからこそ、怪異の事をあまり教えてくれない。

プロとしての線引きだ。

だから、これに関しては知らない方が良いことなのだろうと思う。

 

「……あっ。負けた」

 

今の勝負は、私の負けらしい。

 

***

 

その後、昼食を挟みつつ、何戦も戦った。

因みに昼食はチャーハンだ。

一人暮らしだからか、自炊もしていて、美味しかった。

どうやら、以前に生徒会でチャーハン対決をしたらしく、その際は審査員の方に回ったらしい。

四宮先輩に4点、石上先輩に7点、白銀先輩に9点を付けたらしい。

まず、四宮先輩への評価の理由として、さっさと作るチャーハンであることが基準になるから、牡蠣を一から捌くとなると簡単とは言えないから、らしい。

石上先輩のは、少し油っけが気になるから。

白銀先輩には、十分上手いけれど、更なる躍進があるように、つまり、もっと美味しくなるかも知れないという願いを込めての点数らしい。

因みに、自分のものの点数は6点。

まだまだ、味が追求出来ていないかららしい。

こういう所で、贔屓目を持たないのがこの先輩だ。

 

閑話休題

 

そんなこんな言いつつ、今回のゲームの勝率は、先輩の方が微妙に高かった。

悔しい。

 

「悔しいものですね」

「ま、そういう時もあるさ」

 

悔しくて地面に寝転がる私に、先輩はお茶を出してくれた。

ありがたい。

 

「ありがとうございます」

「別に良いよ」

 

そうして、先輩も座り、お茶を飲む。

このゲーム終わりの落ち着いた時間が私は好きだ。

 

「はぁー、温まる」

「まぁ、最近、寒くなってきたからな」

 

そう言って彼はエアコンの温度を一度上げる。

この先輩、基本的にこの時期にはエアコンは使わないらしい。

本人曰く、

 

『外との温度差にやられたくないから』

 

らしい。

イマイチ、理由になってない気がするが、鳴山先輩が意外と倹約家であるのが本当の理由な気がする。

まぁ、そんなのは良いとして、

 

「それで、新作は出来たのか?」

「ああ、出来ましたよ。鬼白の新作」

 

私はたまに絵を描いていて、同人誌も作っている。

主に腐の者の。

鳴山先輩はそのことを知っている。

最初にこの手のことに理解があるのは驚いたが、本人が言うには、

 

『まぁ、自分がやるのは断固・絶対・本気で嫌なんだけど、それでも、まぁ、こういうものを作るのは分かるからな』

 

らしい。

どうやら、以前にも似たような所があったらしい。

つまり、その相手は腐女子ということで……。

なんだろう?

色んな意味で、私はそれを知らなければならないような、知ってちゃいけないような、なんにも言えないような部分な気がする。

 

「そうか」

「でも、正直そんなに見たい訳でもないのにどうして聞くんですか?」

 

そう、この先輩。

理解があるだけで、見たくはないらしい。

一度、見て貰ったことがあるが、それを読み終えた後のあの真っ青過ぎる顔は印象に残っている。

そこまで嫌なのかと思った。

元々、生理的に駄目らしい。

………実は鳴山☓石上の生同人があるのだが、色んな意味で見せられない。

絶対に、嫌われる

 

「前々から頑張ってはいるぽいからな。応援はしたくなる」

「でも、BL同人ですよ?」

「趣味を応援したっていいだろ」

 

そもそもで、部活も趣味の範疇になるしなっと、続けた。

そんなものなんですかね。

というか、それなら学生の大体のことが趣味になる気がする。

それこそ、鳴山先輩の()()のようなもの以外は。

と、鳴山先輩の仕事と言えば、

 

「ああ、そう言えば先輩」

「うん?どうした?」

「みーちゃんと仲直り出来ました」

「おお、それは良かったな」

 

みーちゃんこと、赤崎美玲。

いじめられていた私の友人だ。

彼女は自殺未遂後、しばらくは病院で精神治療を行っていた。

二学期になって、面会可能になったので会いにいったが、拒絶された。

元がいじめが原因の自殺だ。

人に対しての拒絶感があるのは、当たり前だと言えるけれど、それでもショックを隠しきれなかった。

人に拒絶されるのが、こんなに辛いとは思わなかった。

それ以降、何度も病室に足を運んでは、その度に拒否された。

正直、キツいと感じる日もあったけど、それでも続けた。

先輩は時々、そういう愚痴も聞いてくれて、アドバイスもくれた。

それは日々の励みになった。

お陰でどうにか、みーちゃんと仲直りが出来た。

だから、感謝を伝えたい。

 

「ありがとうございます」

「いやいや、僕はきっかけを作っただけ。結果を出したのはお前の努力だ」

 

そうして、なんてこと無い顔して言った。

本当に、この人は……

 

「本当にお人好しですね。先輩」

「そんなことは無いぞ。ただ、自己満足をしてるだけさ」

 

そう言って、あの先輩はお茶のおかわりを注ぎにいった。

私の分も。

そして、戻ってきた。

うん、お茶がうまい。

さて、前々から聞きたかったことを聞こう。

 

「先輩って、最近凄く疲れていますよね?」

「うん?まぁ、確かに疲れてはいるよ」

 

先輩は、一息つくと、思い切り体を伸ばし、そのまま倒れた。

まぁ、そしてなんとも微妙そうな顔をして、

 

「こういう生活をしてたらなぁー、どうしたって疲れるよ」

「自分で選んででやってるから、不満がある訳じゃないんだけど」

「それでも、まぁ、たまに思う。なんで、こういう生き方をしてるんだろうなーって」

 

と、疲れたように言った。

……どことなく、普段は聞けない本音を聞けた気がする。

というか、こんなに明確に疲れたように言うのは珍しい気がする。

だからと言って、今、私に言えることはそんななくて、だから、

 

「だったら、休んでみたらどうですか?たまには休んだって誰も文句は言いませんよ」

「……、どうだろうなー。まぁ、ゆっくり出来る時にさせて貰うかな」

 

そう、明るい口調で立ち上がった。

……つまり、有益なアドバイスにならなかったのだろう。

この先輩が明るく言うときは、本当に楽しいときと誤魔化しとして明るく振る舞うときだ。

まぁ、普通の人もそういう面はあるけれど、この先輩の場合はどっちか判別しやすい。

状況的にも、顔的にも、分かりやすくなっている。

意外とその辺が分かりやすいのが、この先輩だ。

しかし、どういう風に言うのが、正解だったのかな?

 

「さて、そろそろいい時間じゃないか?」

 

そう言われて時計を見ると、夕方の5時ぐらい。

確かにいい時間であると言えた。

 

「そうですね。そろそろ帰ります」

 

今日はこんな所ですかね。

 

***

 

後日談。というか今回のオチ。

 

「毎度のことながらすいませんね。送ってもらって」

「別に気にしなくていいよ。女子を一人で出歩かせる訳にもいかないし」

 

そういう風に言って、この先輩は送ってくれる。

本当にこういう所は優しい。

 

「ああ、それで、中等部での問題もある程度片付いたので、度々高等部の生徒会にお邪魔してもいいですか?」

「おう。そっちにはいつでも来てもいいぞ。伊井野も喜ぶだろうし」

「はい!」

 

これで、学校での先輩の様子も知れるし、それに()()との様子も覗けるはずだ。

 

「……喧嘩はしないでくれよ?」

「あはは、誰と喧嘩するっていうんですか?」

「……そうだな。その通りだわ」

 

……やっぱり、大体は気づいているらしい。

気づいた上で招くのだから、この先輩も意外と邪悪なのかもしれない。

あるいは、混沌(カオス)が好きなのか。

 

「また、騒がしくなるな」

「騒がしいのは嫌いですか?」

「いや、楽しい騒ぎなら大歓迎だよ。ウザい騒ぎはノーサンキューだが」

「そうですね」

 

隣を見ると、先輩が笑みを浮かべていた。

これは、本当に楽しんでいる方の笑みだ。

先輩が笑ってくれると、自然とこちらも笑みが零れる。

好きであることを実感出来る。

 

「先輩と一緒に居ると、とても楽しいです!」

「……おう」

 

イマイチ、反応に困る回答が返ってきた。

まぁ、告白に近しい発言なことは分かっているが。

そこで、キッチリした回答をすることも出来ないのは分かるが。

それでも、ここではビシッと男らしく言って欲しかったな。

 

「……まぁ、僕も楽しいよ。お前と一緒にいると」

 

クリーンヒット!

ちょっと!

時間差で言うのは、反則でしょ!

もう、顔が見れない。

 

「どうかしたか?顔を反らして?」

「いえ!何でも無いです!!」

 

顔を見れないから、判別がつかない。

分かってて言っているのか、天然でやっているのか。

……いや、この先輩の場合は分かってやっているかな。

本当に厄介な先輩だよ。ホント。

 




ヒロイン力とは、何を指すのだろう?

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