鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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藤原は攻めに回ると強いと思う今日この頃。


はくとコイン

僕は、最近お疲れ気味である。

何故かと言うと、怪異の数が増加傾向にあるからだ。

秀知院の怪異の数が増えているのだ。

今までも、怪異が発生していなかった訳ではないのだが、というか、試験期間はあかる様に大量発生しているのだが、それにしても、日常の中での発生率が高くなっている。

お陰で、あちらこちらに走り回っている。

主に夜に。

日中は学校での勉強や生徒会や部活を優先している。

おいおい、それはまずいじゃないの?日中だって怪異は発生しているだろ!とか、ツッコミが飛ぶかもしれないけれど、そもそもで僕の本業は学生だ。

専門家業は、あくまで副業だ。

そもそも、僕の頭はそこまで良くない。

地頭はそこそこにあるけれど、しかし、ここ秀知院では大したことはない。

四宮先輩は言うに及ばず、石上よりも地頭は悪い。

そもそもで、石上の成績が悪いのは(最近は悪いとは言えなくなったが)中等部時代の停学によって、勉強が遅れているからだ。

もしも、同程度の知識量から僕と石上が積み重ねたら、石上の方が圧倒的に成績が高くなるだろう。

なので、日中の授業を受けないことはそのまま、落第生になることに繋がる。

それは仕事的にも学生的にもマズイのだ。

なので、日中は他の専門家に任せている。

他の暇な専門家に。

具体的には千石辺りに。

まぁ、夜中の仕事はキッチリしている。

働いている。

ただし、日中の授業だけでは勉強が足らないので、仕事が終わった後に更に勉強をしている。

お陰で睡眠時間が足らない。

早起きは得意だが、ショートスリーパーではない。

それなりに睡眠を取らないと、疲れが取れないのだ。

なので、体が段々と疲れが蓄積するのだ。

そもそもで僕は秀知院のエアスポット化を防ぐために来たのに、余計に悪化しているのだ。

僕が原因の一つになっている。

だが、まぁ、それは嫌がらせによるものなのだろう。

あの金髪の少女が原因だ。

あの少女は言った。

 

『私の今の使命はあなたに嫌がらせすることですから』

 

つまり、怪異を日常的に発生させることでこちらを疲れさせようという策略なのだろう。

怪異が増加したタイミングが、体育祭なのがその証拠なのだろう。

あれ以来、あの金髪少女を見ていない。

他の生徒の目撃情報は確認しているが、ついでに目撃している人物がもれなく怪異譚に巻き込まれるが、僕自身は見れていない。

裏で画策されている。

しかし、奴の行動目的から考えるに、あの怪異を生んだ人物は僕に恨みを抱えている人物なのだろう。

でなければ、こんなことにはならない。

こんなに僕を追い詰めるような流れにならない。

ため息もつきたくなるがしかし、そうしてもいられない。

僕にも原因の一端を半強制的ではあるが担っている。

だからこそ、これからも頑張るしかないのだ。

 

***

 

「こんにちは」

「おう、早速来たのか」

 

美青が家に来た翌日。

つまりは今日。

美青は早速、高等部の生徒会に来たようだ。

因みに現在の生徒会室には男性陣しかいない。

 

「うん?彼女は?」

「ああ、中等部の3年の鬼ヶ崎美青ですよ」

 

会長の疑問に、石上が答えた。

 

「どうも。鬼ヶ崎美青です。よろしくお願いします」

 

美青が丁寧に挨拶をした。

 

「ていうか、あれ?石上は美青のこと知ってたの?」

「ああ、伊井野に紹介されてな。主にメンタル面にについての相談で」

「ああー」

 

成程。

確かに、集団における迫害のことなら石上はよく知っているし、それなりのアドバイスは出来るだろうけど……

 

「お前は……、大丈夫なのか?」

「えっ。あ、あーあ、大丈夫だよ。僕はもう。生徒会の皆がいるしな」

「……そうか」

 

……本当に成長したんだな。

これもどっかの風紀委員さんのお陰かね?

まぁ、それだけじゃないけど。

 

「さて、仕事も丁度終わらせたし、何しようか?」

「あれ?もう、仕事が終わったんですか?」

 

美青が驚いたように言う。

確かに高等部の生徒会は忙しいことで有名だが…、

 

「後輩たちが優秀でな。もう、仕事が終わったんだ」

「へぇー!流石ですね!」

 

美青は感心するように言う。

石上はなんだか照れくさそうだ。

と、そこでドアが開いた。

 

「こんにちはー」

「こんにちは」

「こんにちは」

 

どうやら、女性陣も来たようだ。

 

「あれ?美青ちゃん!遊びに来たの?」

「うん。そうだよ!」

 

と、美青と伊井野が手を合わせて、喜んでいる。

身長の低さも相まって、非常に微笑ましい。

 

「あれぇー、誰ですかー、その子?」

 

一見、明るそうな口調でしかし怖い口調で藤原先輩が言う。

 

「ああ、そう言えば体育祭ではちゃんと自己紹介してませんでしたね、藤原先輩。改めまして、鬼ヶ崎美青と言います」

「そうですか。ヨロシクネ、鬼ヶ崎ちゃん」

 

おお、美青の口調が心なし強気だ。

どちらも一見にこやかだが、その間には火花が散っていた。

 

「おい、石上。どういう関係なんだあの二人」

「ああー、あれです。ライバルです。あれを巡っての」

「マジか……」

 

と、石上と白銀先輩がコソコソ話している。

大体は石上の言う通りだけど、あれって言うな。あれって。

一応、友人だろうが。

取り敢えず、ここは普段通りに、

 

「さて、女性陣も来ましたし、仕事も終わらせたし、美青交えて遊びましょうか」

「美青!?何で名前呼びなんですか?!?」

「まぁまぁ、良いじゃないですか」

「ハァー。この後輩は…」

 

空気を読まずにいく。

どうせ、二人同時のフォローなんて、僕にはこなせない。

だったら、若干カオスな状況にして有耶無耶にした方がいいだろうという考えだ。

四宮先輩には呆れられたようだが。

仕方ないでしょう。

出来ないものは出来ないんです。

 

「むむ。まぁ、丁度、かぐやさんとも話していましたし、これをしましょう」

「何をするんですか?」

「十円玉ゲームです!」

 

伊井野の質問に対して、藤原先輩の返答だ。

十円玉ゲームか。

確か、YESなら表、NOなら裏で投票してアンケート形式でするゲームだな。

 

「これを使いますよね!」

「どんな合コンだよ」

 

伊井野が取り出したのは、はい、いいえと、五十音と1から10までの数字が書かれた紙。

うん。

それは、こっくりさんであって、十円玉ゲームではない。

石上の言った通りだ。

こいつもこいつで、怪異を使役してそうだな。

しかも、無自覚に。

 

***

 

という訳で、皆への説明を終えて、実際に始める段階になった。

 

「いいですか。念を押しておきますがウソは無しですよ!一応、ウソ発見器も持ってきていますから、怪しい人はすぐに晒し上げですからね!」

「なんでそこまで……」

「合コンにポリグラフ持ってくる人、次から絶対に呼ばれませんよ

 

男性陣、二人のツッコミが入るがどこ吹く風で無視し、ゲームスタート。

 

「じゃあ私から質問しますねー」

「ぶっちゃけ今恋してる人は(YES)、してない人は(NO)で出してください!」

 

うわー。初っ端から飛ばすなー。

 

「そのレベルの質問……!?」

「おーー…、なんか合コンぽい…」

 

男どもはこう言っているが、どうなんだろうか?

おそらく、藤原先輩的には、この質問は恋敵への確信とこちらの気持ちを知りたいが故の質問だろう。

まぁ、僕の出す答えは決まっているが…。

 

という訳で結果。

表6裏1

 

「えっ、ほとんどじゃないですか!」

「これは多いな…」

「むしろ、恋してない一人が誰ですか?」

「だれ!」

「本当にだれ!?」

「あっ皆さん!特定行為は禁止ですので!答えが分からないモヤモヤとドキドキ……。これが十円玉ゲームの楽しい所です!!」

 

……正直、白々しいと思う。

だって、裏出したの僕だし。

他の人の矢印の先なんて僕には分かりきっているし。

だから、僕的にこの質問の答えは大した意味など持たない、が。

 

「うーん」

「うーん」

 

伊井野と石上が唸っている。

おそらく、ここに居る全員が僕が裏を出した人であることを見抜いているだろう。

であれば、他の人は恋をしていることがここに発覚することになる。

つまり、ここで石上と伊井野はお互いに他に好きな人がいるのではないかという疑問を持つことになる。

美青も知っているが、他の生徒会メンバーもあの二人が両片思いであることなど知っている。

それはもう、バレバレだからだ。

だが、当事者二人はまだ知らない。

だからこその悩み。

お互いにもしかしたら、相手には自分の他に好きな人が居るのではないのか?という疑問が生まれることになる。

なまじ、二人は根本的に自己評価が低いタイプであるため、余計にそれが刺さるのだ。

厄介な状況になった。

因みに、白銀先輩と四宮先輩はお互いがお互いが好きなことをなんとなく察しているため、そこまでの影響はない。

しかし、取り敢えず進行しないと状況が打破出来ないため、ゲームを進める。

 

「ほら、次、石上だぞ」

「あっ、ああ」

 

さて、この状況で石上はどういう手を打つのか?

 

「自分がモテるタイプだと思う人は(YES)、思わない人は(NO)をだして下さい」

「なんで、またその質問なんだ?」

「だって、この生徒会ってモテそうな人が多いから、そう思ってんのかなーって」

「だからって、その質問はどうなんだろうね?」

 

正直、うまい質問が浮かばなかったからだろうけど、どうなんだろうなこの質問。

 

という訳で結果。

表3裏4

 

「意外と少ないな」

「そうですね」

 

おそらく、表を出したであろう白銀先輩と四宮先輩が言う。

この二人は実際に、ラブレターだの贈り物だのを貰うからな。

無駄に自信だけはあるんだよ。

本命には全然使えない自信だけど。

 

「謙虚を装った人がいそうですよね」

「疑い深くない石上?」

 

恐らくは裏を出した、石上と伊井野。

取り敢えず、表面上の取り繕いは出来たらしい。

よし、このまま進めよう。

 

「次はミコちゃんですよ!」

「えっ、私ですか!何も考えていませんでした!」

 

藤原先輩が朗らかに言うことに、伊井野が狼狽えながら答える。

こっちも頓珍漢な質問が来そうだな。

 

「ええと、それじゃあ、告白はしたい派なら(YES)、されたい派なら(NO)で」

「……先輩って、本当に風紀委員ですか?」

「うぅ、こんな質問しか浮かばなかったの!」

「全く、ミコちゃんは可愛いですね~。本当に思春期風紀委員なんだから!」

「そ、そんなことはないです!」

 

と、藤原先輩に撫でまくられている伊井野。

まぁ、本当に恥ずかしいんだろうな。

しかし、本当に頓珍漢な質問がくるとは。

流石は、思春期風紀委員。

まぁ、どちらかと言えばなぁー。

 

という訳で結果。

表3裏4

 

「今回も半々位か」

「まぁ、好みの差はありますからね」

 

と、ほぼ確実に告白されたい派の白銀先輩と四宮先輩。

僕もそれに巻き込まれている人だからな。

別に楽しいから良いけど。

 

「石上は…、告りたい側そうだよね?」

「おい、特定は禁止だぞ」

「あ、ごめん」

 

いまいち、話しづらそうな、おそらく、告りたい派の石上と伊井野。

中々と進まない展開である。

さて、白銀先輩と四宮先輩の質問は確実に恋愛頭脳戦に活用するのだろうから、ここらで僕もあの二人(石上と伊井野)の発展に繋がる手を打ちたい。

うーん。

下手をすると誤解が広まりそうだが、打つだけ打ってみるか。

 

「それじゃあ、次は僕です」

「どんなのがくるんだろうな?」

「彼のことだから、意外と藤原さん並のが来ますよ」

「それでは、この参加者の中に好きな人がいる場合は(YES)、いない場合は(NO)をだしてください」

「うわ、藤原先輩のを更に発展させてきた」

 

さて、当然僕は誰が誰を好きかは把握している。

よって、こちら側の利益はないが、ここで重要なのはここでもたらされる結果だ。

 

結果は当然。

表6裏1

 

「う、うむ。つまり、先程好きな人がいる人達は全員がここに好きな人が居るということか」

「こ、これは、特定禁止だからアレですけど、中々興味深い結果ですね」

「そうですねー!もしかしたら、この中からカップルが出来ちゃうかもです!!」

 

と、2年生組は言う。

白銀先輩も四宮先輩も、冷静を装ってはいるが、内心の焦りは感じているだろう。

四宮先輩はルーティンも使ってるしな。

そう、恋愛頭脳戦においては、これはつまり互いの好意の確認を行っているとも言える。

勿論、純粋にこの結果だけなら、他に好きな人がいることも十分にあるが、しかし!!

白銀先輩は、藤原先輩は対象にはならないし、伊井野の相手は石上だと知っているし、美青に至っては今日初めて会っている!

四宮先輩も、石上とは姉弟みたいなものだし、僕に対してはなんとも思っていない!

これを、お互いに知っているからこそ、確認として意味合いが生まれる!!

とは言え、これは暗黙の了解に過ぎない。

声に出しての確認は、後輩たちの恋愛を妨げることになる。

だからこそ、暗黙の了解なのだ。

で、肝心の二人はと言うと、

 

「へ、へぇー。そうなんですか」

「い、意外ですねー」

 

照れたような、しかしまだ不安もあるような顔をしていた。

そう、ここで生徒会のメンバーの中で好きな人が居ることを確定させることで相手の好きな人は自身であるという可能性が上がる。

同じ生徒会メンバーで、顔に出やすい二人である。

お互いに相手にそういう目線を送る相手が居るなら、気づきやすい。

それも身近な相手なら尚更。

しかし、二人の中には当然、自身でない可能性も残っている。

つまり、不安自体は残しつつも、期待も残すという寸法である。

下手をすると、敵の強大さも分かる分、心が折れる可能性もあったが、大丈夫そうである。

 

「それじゃあ、次は私ですね!」

「次は美青ちゃんか。どんなのを出すんだろ?」

 

次は美青か。

…何だろう?

嫌な予感がする。

 

「好きな人は年上ですか?年下ですか?年上は(YES)、年下は(NO)で」

「お、同い年はどうするんだ?」

「厳密な意味での年上と年下で良いんじゃないですか?」

 

な、なに!

こいつ、こっちを無理やり土俵に上げてきやがった!

この十円玉ゲームにおいて、匿名性こそがこのゲームの鍵と言える。

しかし、ここまでの流れにおいて、好きな人がいないのは僕だということが、()()()()()として存在する。

そう、あくまで暗黙の了解だ。

しかし、あくまで匿名であるからこそ、この質問に僕も答えなければならない。

そこで、好きな人いない人も居るじゃんという理屈は通らない。

何故なら、僕が既に好きな人がいない人もいることが分かった上での質問をしているからだ。

つまり、この場合、そのツッコミは通らない。

そして、年上か年下かの二択にされている。

この質問をするということは恐らく、美青は既に気づいている!

誰が、誰を好きなのかを!

白銀先輩と四宮先輩。

石上と伊井野。

この二人は同い年だ。

だから、誕生日など知らなくても、確実に年上と年下に同じ票が入る。

残る、藤原先輩と美青は言わずもがな!

そして、メンバーの総数は7!!

つまり、余った一人である僕の好きな人、というか現状で有利な人の発表になるという寸法だ。

くっ、中々マズイな。

ここで、そういう話題にされるとより一層、二人の戦いが激化される!

しかし、現状、恋愛する気のない僕だ。

変な誤解をされたくない!

 

「それじゃあ、投票してくださいね」

 

藤原先輩もこの意図をわかった上で、スルーしている。

これに関しては、普通に気になるのだろう。

まぁ、重要なことではないが。

取り敢えず、僕の打てる手はコレだ。

 

結果。

表3裏3

 

「あれ、一枚足らないぞ」

「そうですね。誰か投票していないんでしょうか?」

 

藤原先輩は驚いた顔をしている。

それはそうだ。

2枚しか無いはずの昭和56年が3枚になった上で、自分の十円玉が無いのだから。

そう、この十円玉ゲーム。

年号から、誰が何を投票したかが分かるのだ。

これ自体は、今まで使うまでも無いから気にしていなかったが、匿名性を損なう事案である。

つまり、それを指摘した時点でこのゲームは終了する。

その上で、僕は元々場にあった昭和56年の十円玉2枚に着目し、投票の布に被さった時に藤原先輩の十円玉を自身の昭和56年の十円玉で布の外に弾き出した。

このゲームで重要なのは、匿名性だ。

藤原先輩が誰かに弾かれたことを指摘しても、何故、自分のが弾かれたと分かったのか。という風に持っていくことが出来る。

そして、僕が弾いたと言っても、僕のがどれかは分からない。

何故なら、3枚ある昭和56年のどれかなのだから。

証拠不十分の推定無罪でやり過ごせる。

それが、僕の打った手だ。

かなり汚い手だが、これも一つの策略。

この中にも、年号による特定を行っている者もいることから、否定的な意見も出づらいだろう。

 

「ああ、藤原さんの下に落ちてましたね」

「何かの拍子に落ちたんだろう。気にしなくてもいいだろう」

「え、ええ。そうですね」

 

藤原先輩と、後、美青もこっちを睨んでいるが指摘はしない。

取り敢えず、これで僕の方の意見は出さなくて済む。

戦いが激化することは無い筈。

どうにか、乗り切れた。

 

***

 

後日談。というか今回のオチ。

白銀先輩と四宮先輩の質問はやっぱり、恋愛頭脳戦になった。

四宮先輩が、『私に恋愛感情を持っているか』

白銀先輩が、『年号特定者の自首』

結果として、四宮先輩の策は躱され、白銀先輩の策は、犯人が複数いたことでお流れとなった。

そんな訳で、帰り道。

 

「もう、鳴山くんはしれっと誤魔化すんですから」

「いいじゃないですか。匿名性あってこそのゲームですよ、あれは」

 

僕と藤原先輩で帰っていた。

石上と伊井野は二人きりで帰らせ、美青はゲームの後で予定で早めに帰り、白銀先輩と四宮先輩はまだ生徒会室に残っている。

まぁ、今回のイベントの発端は、この前、白銀先輩が合コンに行ったことが原因で起こったことだ。

今頃、その辺の和解でもしているのだろう。

 

「それはそうですけど!でも!ああいう風にされるのはムカつくんです!!」

「それはすいませんね」

「反省の色がない!」

 

反省する気がないからな。

悪いこととも思ってないから、怒られても対して気にしない。

 

「……それで、どうしてあの子のことを名前で呼んでるんですか?」

「鬼ヶ崎って名字が男ぽいのが嫌で、名前で呼んで欲しいって言われたんですよ」

「……へぇー」

 

不貞腐れたように聞かれたので、素直に答えた。

別に隠すような理由がある訳でもないしな。

そうして、歩いていると今まで横並びだった藤原先輩が前の方に出て、

 

「だったら、私も千花って呼んでください」

 

と、振り向きながら言った。

 

「…えっ。どうしてですか?」

「私が呼んで欲しいからです!駄目ですか?」

 

この台詞を強めの口調で言う。

まぁ、ここで変に意識するとかもおかしな話なので軽くため息をついて、

 

「分かりましたよ。()()()()

「うーん。先輩は抜けませんか」

「そりゃ、先輩は先輩なのでね」

「そうですか」

 

そう言って、また二人で横並びで歩く。

千花先輩は、不満そうな、それでも嬉しそうな顔をしている。

 

「そう言えば、最近はどうですか?」

「?何の話ですか?」

「いや、疲れてますよね、最近」

「……まぁ、確かにそうですね」

 

認めた。

美青にも言われたし、そんなに疲れたように見えるということなのか。

むぅぅ、体調の管理もちゃんとしなきゃなんだけどな。

 

「……詳しくは訊きませんけど、疲れたなら疲れたで言って下さいよ?いくらでも力になりますから」

「……そりゃどうも」

 

むぅぅ、少し恥ずかしい。

母性はあるんだよな、この先輩。

 

「照れてます?」

「……そうですね、少しだけ…」

「本当に可愛いですね」

 

そう言って、頭を撫でようとしてくる。

僕は咄嗟に身を引く。

そうすると、千花先輩は顔を膨らませて、

 

「なんで逃げるんですか!?」

「からかい半分にされるのは嫌なんです!」

「別にからかってませんよ!」

 

そう言って、頭を撫でようとする千花先輩から僕は逃げる。

いや、本当にからかいでされるのは嫌なんです!!

 




言っておきます。
白兎くんは!基本的に!そんなに好かれる人ではないです!

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