私にとっての携帯は、電話するための道具だった。
5歳の頃に買い与えられましたが、緊急の連絡以外では基本的には触れることはありませんでした。
ですが、生徒会に入ってからはこの日常を写真に残すようになりました。
それまでは携帯のカメラは無駄な機能だと思っていましたし、何かあるごとにカメラを構えている同年代の子には軽蔑さえ感じていましたが、でもそれは撮りたいものが無かっただけでした。
思い返したい日常が無かったから。
残したい日常が無かったから。
でも、この生徒会に入ってから
いつもの日常の風景を。
会長が猫耳をした姿を。
藤原さんがゲームをしようと誘う姿を。
それにやれやれと言って付き合う鳴山くんの姿を。
お互いに照れたりしながら仲良く話している石上くんと伊井野さんの姿を。
皆で笑い合う生徒会の姿を。
そんな、いつも通りの、でも大切なこの日々を。
私は、残していきたい。
***
「私たちの写真をですか!」
そろそろ、秋も終わり、進路についてもよく考えなければならない頃。
校長から、ある頼まれごとをされました。
それは、秀知院のパンフレットのモデルになって欲しいというものでした。
確かに、そろそろ来年度用のパンフレットを作り始める時期ですし、そのモデルに高等部の代表と言える生徒会メンバー選ぶのは順当という感じですが…
「申し訳ないですが……、私は家の方針で不特定多数が目にするメディアに顔写真を掲載してはいけない決まりでして」
「オゥ~、顔出しNGトイウやつデスか。ソレはトテモ残念デス~」
そう言われると、罪悪感がでますが仕方ないですよね。
家の方針ですし。
「コウイウのでは駄目デスか?」
「なんのパンフだ!!」
校長が目隠し風に言うと、会長が大きな声で指摘しました。
流石にそれでも駄目でしょうし、元々撮られるのは得意ではないですしね。
校長は少し残念そうに言うと、ゴホンと咳払いするとパンフレットのテーマについて話し始めました。
「私の作りタイパンフレットはズバリ、『この学園で青春したい』ト思わせるモノデス」
「ナノデみなサンのイキイキとシタ姿を見せテくだサイ」
イキイキした表情ですか。
人に見られることを考えると、難しそうですけど。
「こっ、こうですか」
「藤原先輩のイキイキ観、わんぱくだなぁ」
「こ……こう?」
「初めての七五三」
「こうですか!」
「なんでラケットがこの場にあるの…」
皆さんの固い動き(一人変なノリの人居ましたけど)に、石上くんがツッコミを入れていますね。
因みに藤原さんがワキワキと手を振るっていて、会長はカチコチに歩いていて、鳴山くんが笑顔でどこからか出てきたラケットを振る感じです。
……本当に鳴山くんのそれは何なんでしょうね?
一体、どこに持っているんですか?
と、そこで校長が今度は伊井野さんにカメラを向けると、伊井野さんはボードで顔を隠しました。
「ドウして顔を隠すんデスか?」
「そ、その、恥ずかしくて…」
「ノー…、それはトテモモッタイナイ。ソンナにカワイイお顔をシテいるのニ」
「かわいい……?」
「ソウです!」
そこから、校長の伊井野さん褒めが始まった。
明る様な褒め言葉にどんどんとノッてきた伊井野さんがポーズとか取り始めた。
チョロい一面がまだ残っているですね。
「伊井野。街で変なスカウトに会っても絶対に付いて行くなよ」
石上くんが軽く怒っている。
イライラしているのが、よく分かる。
「あっ…。うん」
「まぁ、その辺はまだまだ甘いところだよな。直していかなきゃね。……石上とね」
伊井野さんが石上くんの雰囲気に気圧された所に鳴山君が追い打ちをかけた。
ぎりぎり、私が聞き取れる声。
石上くんには聞こえていないようですね。
伊井野さんは照れているし、鳴山くんはクスクス笑っている。
楽しそうね、随分と。
「石上クン。彼女ノ横に立ってモラエますカ」
「えっ、僕も…!?」
そう言って、二人が並ぶ。
どちらも平静を装っているがどことなくぎこちない。
互いに二人での写真を撮ることに緊張しているようだ。
「オー……、コレは堅いデスネ。イケマセーン」
「鳴山クン。石上クンの身嗜みを整エてもらえマスか」
「伊井野サンもチョット髪をオロせマスか?」
校長の指示が飛ぶ。
そうして二人の身嗜みを整えると、一昔前の学生のような格好になりました。
そうですね。
石上くんも結構、整っている顔立ちですし、伊井野さんも美人の部類。
二人並ぶとお似合いという感じはしますね。
そうして、二人を撮り始める校長。
パシャ、パシャ。
「何時も陰ナガラ助け合って、お互いにソレを感謝し合ってイル感じがトテモでてマース」
「「!!」」
校長の言葉に二人とも顔から火がでそうな位に赤くなっている。
「な、何を意味の分からないことを、ねっ!石上!」
「ほ、ホントそうだよな!伊井野!」
……そこまでして否定しますか。
別に助け合っていることぐらい、認めても良いと思いますけど。
全く、なんでさっさと告白しないんですかね?
こんな、お互いが好き合ってるのは分かりきってそうな状態で。
そうやって、ボヤボヤボヤボヤと…。
それを見てる側の焦れったさが分からないんですかね?
本当に面倒な子達ですね。
「次ハ藤原サンと鳴山クン、カモン!」
「は~い」
「ほーい」
二人が返事をする。
藤原さんはワキワキとぎこちない感じですが、鳴山くんは自然な感じをしている。
どうやら、先程の石上君と伊井野さんの様子で校長がどういうのを求めているのかを掴んでいたみたいね。
「NO……、鳴山クンは自然デスけど、藤原さんはモット自然ニ」
「ムウゥ。なんで鳴山君はそんなに上手に出来るですか?」
「それはアレですよ、千花先輩。ゲームのポーカーフェイスな笑顔をする感覚ですよ」
「……ああ!成程!そういうことですか!!」
そう言うと、藤原さんも自然な感じになった。
ゲームのポーカーフェイスもそういう風にしていたんですね。
私でも知らない藤原さんの癖を知っているのは、TG部だからなのか、それとも別のことが理由なのか。
いえ、それよりも、
「鳴山くん、いつの間に藤原さんを名前で呼ぶようになったんですか?」
「えっ?ああ、いや呼んでくれって言われたから」
「ちょっ!?なんで言うんですか!!」
「別に良いじゃないですか。変な理由という訳でもないですし」
「こっちにはあるんですよ!!」
そのまま藤原さんは顔を真っ赤にして鳴山くんの胸をポンポンと叩き出しました。
ハァー。全く。
鳴山くんも天然なのかワザとなのか。
今までの彼の傾向で言えば……、ワザとの可能性の方が高そうですね。
天然の
「ウーン。片思いト、ソレに気付キつつもなにも言わナイ感じが出てマス」
「何を言ってるんですか?」
「意味が分からないんですけど」
二人揃って、否定した。
いや、あなた達は自覚しているでしょう?
それでいいんですか?
……いえ、良いんですね。
分かっているんですね?
藤原さんが威圧感を鳴山くんに与えて、鳴山くんはそれを知らんぷりしています。
本当にこの二人はどうなるんでしょうね?
「シカシ、残念デス……」
「何がですか?」
「ドウセなら、白銀クンと四宮サンを恋人ととして2ショットを撮りタカッタノデスガ……」
「え!?な、何故ですか?」
「この二人は互いを高メ合ウ理想ノ関係……。私はソレが撮りタカッタ……」
「コノ悔しさがわかりマスか!?」
うんうん!わかるわ!!
良いわよね!その関係性!!
わかる……
***
「ソレでは校庭を背に集合写真を撮りマショウ!」
そうして、一通りの撮影を終えて、最後に屋上で集合写真を撮ることになりました。
今日は少し、風が強い日ですね。
少し、肌寒いです。
それにしても、集合写真……。
そういえば私……。
その手の写真を撮った事、一度もありませんね……。
クラスの写真も禁じられてますし……。
羨ましいな。
ぐいぐい
伊井野さんに手を引っ張られました。
えっ…。
「四宮サン。コッチに来テクダサイ」
「最後は皆で記念写真撮りマショウ」
あっ、気を使わせているんですね。
でも……。
「でも……、私の為にそんな」
「チガイマスヨ。これは貴女の仲間が望んいる事です」
そう言われて、皆の顔を見る。
皆が笑顔で迎えてくれてる。
「ココからハプライベート。ソノ携帯デ撮るブンニハ問題アリマセン」
「じゃあ……
そう言って、携帯を取り出す
ビュゥ
大きく風が吹いた。
その風で携帯をとり零した。
そのまま携帯は柵を越えて、校庭に落ちていきました。
べキュン、という音がした気がした。
「あ……、あはは。ちょっと拾ってきますね」
階段を降りて携帯を確認すると、やはりと言うべきか、携帯は壊れていた。
液晶も割れていますし、パネルも外れている。
流石に……電源は入りませんね。
写真は…、取り出せないでしょうね……。
…………でも、これはチャンスよ。
次に買い換えるならスマホかしら?
最近のは画質も良いらしいですし。
そしたらラインとか出来る様になるし、会長を落とす方法も格段に増える……!
好い事ずくめ!!
そう考えていると、脳裏に今まで撮ってきた写真がよぎる。
何度、これからの利点を挙げても、頭から離れない。
涙が流れる。
写真ごときで何を泣いているの。
私、こんなに女々しかったのね。
***
その後、早坂に携帯が壊れたことを伝えた。
それで、一応携帯の中のデータをサルベージを試しましたが駄目でした。
まぁ、この携帯も相当な年代物。
仕方ないのよね。
そう、仕方がない。
なんだか早坂が冗談を言ってくる。
会長と同じのにしたら、『お可愛やつめ』と言われるとか。
会長はそんな事言わないわよ。
励ましてくれるのかもしれないけど、早坂の冗談に付き合う気分じゃない。
「先読み機能あるので笑顔検出撮影出来ますよ」
「笑う気分じゃない」
早坂が最新機種を見てウキウキしているけど、早くしてくれないかしら。
次の日。
どうにも笑う気分になれないまま、学校に行く。
生徒会室にて、
「みなさんコーヒー入りましたよ」
藤原さんがコーヒーを入れてくれた。
「はい、石上」
「おう。ありがとう」
伊井野さんが石上くんにコーヒーを渡す。
相変わらず、仲が良いわね。
……駄目ね。
いつもなら、可愛がるような言葉が浮かぶのに……。
「かぐやさんもど……」
藤原さんがコーヒーを渡そうとした所で、私の手元にあるものに気づいたようで、
「ついにスマホを買ったんですか?」
「まぁ……、こないだ壊してしまったので」
「頑固一徹……。なんと言っても『不要です』『昔から使っているので……』と、買わないの一点張りだったかぐやさんが……。ようこそ文明社会に……!」
藤原さんがなにやら感動しているようですが、別にそこまで拘ってませんよ。
それよりも…
「あの…、ラインというのもインストールしてみたのですが」
「わ~。じゃあ交換しましょう~!」
そうして、藤原さんとIDを交換した。
そうです。
会長とも交換しましょう。
「あ……、会長。ラインのID交換してもらっていいですか?」
「ああ……IDな。勿論交換して…。……えっ?」
なにやら、会長が動揺しているようでしたけど、どうしたのでしょう?
他の人達も集まって、なにやら話していますが今はそれも気にする気にならない。
ぼぉっーーとした顔をして、スマホを見る。
でも、何も映らない。
ここに写真はない。
ここに思い出はない。
ここには、何もない。
そのまま、スマホを眺め続けていると、
ティロン♪
スマホにある画面が表示された。
「…これって」
「いま生徒会のグループ、作ったから入っといて」
「はーい!」
「了解です」
「分かりました」
「今までありませんでしたもんね」
映し出された画面にあったのは、生徒会連絡網と書かれていた。
「あっ、ついでに共有のアルバムも作りましょう!みんな自由に写真をアップしてくださいね~」
「じゃあ僕は体育祭の時の写真を」
「僕も」
「スノウの写真、全部送っていいですか?」
ティロン♪ティロン♪ティロン♪
どんどん写真が送られてくる。
「会長ってば、グループ作るのはかぐやさんがスマホを持ってからって決めたんですよ。四宮が仲間外れになってしまうーって」
「良いタイミングでしたね。写真もない空っぽの携帯は寂しいですもんね」
「ねぇ、なんでこんな写真があるの!?」
ティロン♪ティロン♪ティロン♪
会長との写真。
石上くんとの写真。
藤原さんとの写真。
私のネコ耳の写真やベルマークの写真。
選挙の時の写真や花火大会、月見の写真。
藤原さんがゲームをするのを、やれやれ顔で従う鳴山くんの写真。
石上くんと伊井野さんが顔を赤くしている写真や会長と恋愛頭脳戦している時の写真。
凄い量の
「…………、凄い量ですね……」
「一杯撮ってますから~!」
藤原さんが笑顔で言う。
いつもの調子で。
「前の携帯が壊れたとき、全部無くなってしまったと思ったのに、かえって前より一杯になってしまいました」
良かった。
本当に良かった。
大切ないつも通りがここにある!
「四宮先輩のスマホ、こないだ出たばっかのヤツじゃないですか?いいなぁ」
石上くんが言う。
「それじゃあ、折角なら昨日撮れなかった写真、笑顔検出で撮りましょうよ」
鳴山くんが言う。
「良いね。……でもその前に、なんであんな写真を撮ってるの!?」
伊井野さんが鳴山くんを叱る。
そうこうしている間に石上くんが写真を撮る準備を整える。
「これでOKです」
「えっ、いや」
「じゃあほらかぐやさん!笑って笑って!」
「笑わないと撮影されないですよ」
そうして、藤原さんと石上くんが背中を押してくる。
もーーー!!
仕方ないんですから。
カシャ
その写真に写っていたのは、
笑顔で私の背中から顔を出す藤原さんと、
その横で押して伊井野さんと石上くんを近づけようとして押す鳴山くんと、
それに押されて伊井野さんとくっついて驚き半分に照れている石上くんと、
急に石上くんにくっつかれて顔が赤い伊井野さんと、
その後ろでピースのサインをしている会長と、
そして、その真ん中で笑っている私が写っていった。
***
後日談。というか今回のオチですかね。
その後、いくつか色んなポーズの写真を撮った。
女子三人でハートを作ったりとか。
「いや~、結構いい写真撮りましたね」
「そうですね」
「そうだな。今後も写真を撮っていきたいな」
「でも、鳴山は変な写真は撮らないでよ」
「なんで?お前等が仲良くしている写真を撮っているだけじゃないか」
「それが恥ずかしいから止めろって言ってんだよ!」
一年生組は鳴山くんの説教をしながら、別れていく。
「本当に仲が良いですよね、あの三人」
「そうだな。最近は鳴山がからかい癖みたいなのが出始めているが…」
「そうなんですよー。本当に大変なんですー」
プリプリと藤原さんがむくれている。
いえ、あなたも人のこと言えないですけどね?
まぁ、口には出しませんが……。
しかし、本気で怒っている訳でもないでしょう。
「……大変ですね。色々と」
「……まぁ、別にそういう一面も嫌いじゃないですけど」
そう言う、藤原さんの顔は少し赤くなっていました。
藤原さんのこんな顔、早々見れないですが…。
「まぁ、藤原書紀ならどうにかなるだろう」
「どうですかねー。あっ。それじゃあ、この辺で」
「そうですね。それじゃあ、二人とも。さようなら」
「さようならー」
「おう。さようなら」
今日もまた一日が終わる。
そして、いつもがまたやってくる。
さぁ、ここからが本番だ。
精々、ボロボロになるがいいさ。