2学期期末テスト。
優が伊井野に良い所を見せるため、自信をつけるために努力した定期テスト。
結果は、50位以内には入れなかったが、成長の度合いで考えれば中々の結果と言えるだろう。
何より、
これは、大きな意味を持つ。
正直、僕があいつを焚き付けた時、今回で50位以内は取れないだろうと感じていた。
それはトイレであいつ自身が口に出していた。
『基礎がまだ甘かった!』
『応用も少し変化が加えられただけで対応出来なかった!!』
『四宮先輩があんなに尽くしてくれたのに!』
『何やってんだ!!』
そう、言っていた。
この後、なんと四宮先輩が男子トイレに入ったのだが、そこら辺は割愛。
言えることとしたら、四宮先輩は石上のことを可愛い
それはさておき。
つまり、中等部時代の基礎の問題は一朝一夕でどうこうはならないということだ。
まぁ、3学期までこの調子でいけば、50位以内になれるだろうと予測している。
……伊井野関係で何かトラブルが起きなければ、なのだが。
そんな親友の話はひとまず置いておこう。
今回語る物語は、その裏側。
僕の闘い。
そして、
***
「という訳で、はーくんには経過観察を聞かせてもらおうか」
現在、期末テスト2週間前の自宅。
ベッドの上に寝そべりながら、専門家の元締め、臥煙伊豆湖と電話していた。
「怪異の数は確実に増えていますね。しかも、何らかの
「目的かー。因みに、その検討はついているのかな?」
「いいえ。本人は僕に嫌がらせをするためとは言っていますが、どこまで本気で言っているのかは図りかねますね」
「そうか。全く、厄介なものだよ」
軽そうな口調で、臥煙さんはそう言う。
この人がこういう所があるから、どこまで焦っているかは判断がつかないが、それでもマズイ方向に自体は進んでいると考えた方がいいだろう。
下手をすれば、妖怪大戦争という自体になりかねないほどの問題である。
これを放置することは出来ない。
だが、根本的な解決を行うにしても、あの学校では中々行えないというのも事実だ。
御札なんて貼れないし、儀式なんてもっと行えない。
中々、良い状況というのは訪れないものである。
「しかし、あの怪異は一体なんなんでしょうかね?」
「ふむ。お姉さんは君の言うその
「……なにげに重要な所が判明しているじゃないですか」
新種の怪異。
報告にあったレイニー・デヴィルや苛虎と同じ。
その人の願いを叶えるために生まれた、特別な怪異。
「でも、新種の怪異なんて、そんな簡単に生まれるものでも無いですよね?」
「そうだね。今まで私が知っている中でも、10人もいかない。だが、そういう怪異を生み出す人物には、一定の法則みたいなものが存在する」
「法則?」
「ああ。法則というよりも定義に近いけれど。その特徴は、どの人物も相当な異常性を持ち合わせていることだ」
異常性。
臥煙さんだって、何でも掌握するように知っていて、周りを掌の上で転がすのに。
そういう相当な異常性というか異端性を持った人だと言うのに、その人がそういう風に表現する異常な存在。
どんだけ、頭のネジが吹っ飛んだ人物達なんだろうか。
「まぁ、君が知って得をするような人物達かと言われればそうでもないね。一人は世界的にも有名になってきたから、言えば分かるだろうけど」
「誰なんです?」
「いや、君は知らなくても良いことだ。4年後位になれば自然と分かるだろうしね」
そんな風に言われた。
しかし、4年後か。
丁度、大学1年生頃だけど、何が起きるというのだろうか?
まぁ、そんな未来予知的なメタ発言は置いておいて、
「それで、その位の異常性がある人物があの金髪の少女を生み出していると?」
「そうだ。そしてこの場合、怪異についての知識を持っているかどうかは問題じゃない」
「……そうなんですか?」
「基本的な知識があった方が作り出しやすいのは確かだが、それでも全くの知識なく作る人もいる」
えらく実感のこもった声だ。
身近な人でそういう人がいたのかも知れない。
まぁ、なんでも知っているお姉さんのその辺のプライベートを触れるつもりはないが。
というか、触れたくもないが。
「しかし、そうなると特定は難航しそうですね。学校の特性上、
「所詮は『イマドキの高校生だから』と、言いたいけれど、あの女バスのことを思うと、一概にそうとも言えないか」
「生徒会だけでも、異常な人物は居ますからね」
例えば、白銀先輩。
普段からのあの生活は、正直、色々な無理がかかるように思う。
僕も相当な過密スケジュールの中で暮らしてはいると思うが、流石にあのレベルではない。
本心の方も上手く隠してはいるが、その実、相当な負担がかかっている筈だし、時折見せるあのナイーブな一面も危ないだろう。
四宮先輩も、四宮家のあの教育によって、歪められている部分は感じる。
元々の性格の部分もあるだろうが、ときたまにでる、あの冷徹さはきっと、その英才教育によるものだと思う。
しかし、僕はこの二人がその犯人であるようには
そもそも怪異とは、ズルのようなものだ。
自力では出来ないことをするために、神に、妖怪に、悪魔に、天使に、すがったのだ。
あの二人は多分、そんなものにはすがらない。
「随分と信頼が厚いようじゃないか。まぁ、まだ大きな何かが発生している訳じゃない。こっちも色々と対策は練るから、ひとまずはそのまま監視を続けてくれ」
「分かりました」
そう言って、電話を切った。
「ハァーーー」
そうして、寝返りを打つ。
「しっかし、本当に何が目的なんだろうな……」
あの金髪の少女の目的が分からない。
僕に嫌がらせ?
どうして?
もし、何か大きな計画があるとして。
そのことの為に、僕に怪異を遣わす必要などない。
だって、
専門家を巻き込む必要なんてない。
わざわざ、僕と会う必要なんてないんだから。
僕の怪異が、計画に必要だとしても、僕の出会った怪異と似たようななのを生み出す位、奴ならどうと言うこともない筈だ。
ということは、狙いは僕自身?
いや、それはない。
………結局、分からないことばかりだと思い、その日は寝た。
***
次の日。
朝方。
「よう。鳴滝」
「おう、槇原」
同じ部活のマッキー先ハイこと、槇原こずえが話しかけてきた。
「どうした?」
「いや、そろそろ期末テストだし、テストの点でも競おうかなーって」
「断る!」
「随分断固だな、おい」
「いや、勝ち目ないし」
そう、勝ち目がない。
こいつ、意外と頭がいいのだ。
まぁ、こういう類の変人は頭が良いというのは知っているので、意外と言う程でもないのかもしれないが。
10番以内に入るレベルだ。
そんな相手に競おうとは思わない。
僕は、
いくら勝負は水ものと言っても、確率の差は酷いことになっているだろう。
そんな闘いはしたくない。
「そんなことはないと思うけどな。結構頭良いでしょ」
「だからそんなに頭良くは無いって」
「いやいやいや」
「いやいやいや」
お互いに手を振り合う。
ブンブンブンブン
結構、でかい音が鳴った。
やがて、槇原は手を振る速度が落ちると、
「ハァーー。まぁ、いいや。何かしら奢ってもらおうと思ったけど」
と、愚痴った。
ああ、何?
そういうこと?
「別に奢るぐらいやってあげるけど?期末終了祝いで」
「……そういう所だろ」
「?何が?」
「さぁ?ただ、そこに嫉妬してる先輩が居るなって」
それは気づいていたけど。
そう。
扉の所に不治ワラこと千花先輩がそこに居た。
思い切り、ぐぬぬ顔して言う。
全く、
「別に千花先輩の分も奢りますよ」
大きな声でそう言った。
すると、千花先輩は近づき、プンプンとしていた。
「そんなので機嫌が取れると思わないで下さい!」
「ということは、藤原先輩はいらないと。ギガ子にも奢ろうと思ってたけど」
「そうじゃないです!いりますよ!!」
マッキー先ハイがヤレヤレ顔をしている。
いや、まぁ、自覚はあるけどさー。
「まぁ。期末終わったら、行きますか」
「ほーい」
「待って下さいよ!話は終わってませんよ!」
僕が席を立つと教室を出ようとすると、千花先輩が引き止める。
「いや、トイレ行くんですけど」
「……どうぞ」
そう言って、教室を出た。
***
そして、期末1日前の夜。
いつもの如く、怪異を潰していく。
手持ちのオールで叩いて、怪異をよくないものまで引き戻す。
流石にここまで来ると慣れたものだが、怪異に対して、こういう暴力的な解決方法はあまり正しいとは言えないだろうな。
そんなこと考えてたら、こんな仕事は出来ないけど。
「ハァーー」
思わず、ため息がでた。
流石に6日間も続いてくると疲れもでる。
このまま、何も解決しないまま、続けていくのは厳しいものがある。
そろそろ、取っ掛かりが欲しい。
終わらせるための取っ掛かりが。
「その鍵は、あの金髪の少女か」
少女。
どっかの誰かは10歳頃を指して使うそうだが、僕としては高校生まで全般で使うな。
あいつの正体。
あるいは、誰が原因なのか。
その答えに辿り着ければ、きっと終わる。
「と、こんなものかな」
一通りの怪異を潰した。
匂いはない。
「お疲れと解散のメールを送らないと」
そう思い、メールを送った。
メールの返信がきた。
音からも分かる。
皆、帰宅し始めたようだ。
「さて、帰って僕も勉強しなきゃ…」
そうして、帰ろうとした時、
「あらあら。帰ってしまうんですか?」
「!」
ブゥン!!
何かが、風を切る音がした。
咄嗟に声のした方から体を反転させながら、距離を取った。
「ぐっ!」
だが、躱しきれなかった。
腹に一撃貰ってしまった。
勢いがあったのもあったが、それにしても随分と硬かった。
口から血が出た。
相当痛いが、しかし、僕は敵を見据えた。
「やっぱり、お前か」
「ええ。私です」
そこに居たのは、透き通るような金髪を携えて、うちの学校の制服を着た少女だった。
「で?いきなり来たかと思えば、キツい一撃をかましてきた理由は?」
「随分な言い分ですねー。あなただって、私を見つけたら取り敢えず一撃入れにいくでしょうに」
「まぁ、そうだな。
そう。
敵なのだ。
この少女は。
不思議とそんな気がしないのだけれど。
「それにしたって、今まで姿を現さなかったのにここで出てくるのはどういう風の吹き回しだ?」
「いえいえ。あの体育祭以来、中々あなたと二人きりになれる場面がありませんでしたからね。こうして、他の専門家がいない今、あなたとの二人きりを満喫することが出来るのですよ」
「……まるで、秘密で付き合ってる彼女であるかのような口ぶりだな」
「ふふ。そうですね」
そう言って、その少女は笑う。
まるで、面白い話を聞いたかのように。
いい顔だった。
「あなたとこうしてお喋りがしたいとは思ってました」
「そのためにわざわざ僕に一撃を入れていくのはどうかと思うがな」
そう言って、僕は構えを取る。
「目的は何なんだ?」
「そうですね。明確にこう!と言える目的はありません。強いて挙げるとするなら、あなたにお仕置きというか、お灸をすえるのが目的ですかね」
「……訳が分からないんだけど」
「その辺は察して下さい。あなたは自身の能力を低く見て、あるいは、敢えてそうしているのかも知れませんが、あなたはあなたが言う程、能力が低い訳ではありませんよ。あなたなら、結構簡単に私の正体に気づけるんじゃないですかね?」
「どうだか、な!」
僕はそう言うと同時に、地面を蹴り、金髪の少女の方に飛んだ。
相当な勢いがある筈だが、その少女は笑みを浮かべていた。
そして、金髪の少女は、掌を上にクイッと上げると、地面から木が生えだしてきた。
木はそのまま少女を覆い隠した。
「!!」
僕は、オールを下の地面に叩きつけ、一気に屋上付近まで上昇する。
しかし、木はそのまま成長して、僕の方に襲いかかる。
「せい!」
僕は上空でオールを使い、木を折る。
それにより、いくつかの木は折れたが、
ニョキニョキ
と、また生えてくる。
そして、木はムチのようにしなったかと思うと、
ブゥン!!
と、凄い勢いで僕に叩きつけてきた。
それをオールで防ぐものの、対空中だから踏ん張ることは出来ない。
そのまま吹き飛ばされる。
そして、僕は理解する。
最初の攻撃、あれはなにかと思ってはいたが、正体はこれだ。
木は、自身の硬度を保ったまま、つるのようにしなって攻撃していたのだ。
硬さと柔らかさが両立している。
面倒くさいな!
僕はそのことを考えながらも、地面に叩きつけられる前にオールを地面に突き刺し、どうにか着地する。
「ふぅ~~」
息を吐く。
最初の一撃を貰った腹が痛む。
しかし、休んでいる間などない。
木はそのまま上から襲いかかる。
僕は地面からオールを引き抜くと、そのまま向かってくる木を折る。
しかし、木はまた成長する。
「チッ!」
僕は、木を飛びながら躱し、木の上に乗る。
そして、僕は木の根本に走り出す。
そこに本体の金髪の少女がいる筈だ。
背後から、木が伸びてくる。
僕は背後の木を折り、そのまま飛び上がる。
下を見ると、折れた木からは成長しない。
やはり、一度折れた木はそこから成長はしないのだろう。
となると、根っこの方を折れば成長はしないだろう。
木は空中に上がった僕に襲いかかる。
僕は、オールで木を切断すると、そこを足場にして根本に近づく。
木が圧迫しようと近づくが、
「せい!」
と、足場の木を折り、そこから脱出し、そのまま根本を折った。
そして、そこで顔の見えた金髪の少女の腹を狙って、オールを突き出す。
少女はまるでおかしなものを見るように笑うと、
「残念♪」
次の瞬間、
グサッ
と、枝が腹に突き刺さった。
「グハッ!」
血が漏れ出す。
口からも、腹からも。
突き刺さった枝の方を見ると、そこにあったのは、
僕が間違っていた。
折れた木から生えない訳ではない。
ただ、生やしていなかっただけだ。
つまり、この隙を狙っていたのだろう。
……いや、違う。
この状態の僕なら、
単純な木の増殖だけでも十分に倒せた。
それを、あたかも対抗出来るかのように見せかけた。
愉悦を覚えるような金髪の少女の顔を見て、そう感じた。
「あらあら残念でしたね」
「何、が、残念、だ。本気、じゃ、ない、癖に」
「ええ、そうですね。本気ではありません。ただ、それは
「………」
僕は、腹の近くの木を切ると、そのまま抜け出す。
確かに、僕は持てる力の全てを出していた訳じゃない。
だが、僕はそれを引き出す訳にはいかないし、例え引き出しても勝てないであろう。
その位に、力の差が離れている。
「まぁ、あなたならその位では死なないでしょう?」
「……それを、知っているなら、どうして、とどめを、刺さない?」
「いえいえ、確かに私とあなたは敵同士ですが、あなたには死んで欲しくないんですよ」
「こんな、殺意のある攻撃を、しておいて、言うのか?」
息も絶え絶えにながら、僕は言う。
どう考えても、死んで欲しくないという攻撃じゃないし。
普通、腹に穴が空いたら人は死ぬ。
そもそも、敵に死んで欲しくないというのはどういうことだ?
「あなたならその位では死なないでしょう?実際、段々と喋れるようになっているじゃないですか」
「………」
「理由については最初に言ったと思いますけど、お仕置きですよ」
何に対してのお仕置きだよ。
訳が分からない。
邪魔をするなという意味ではないだろうことは分かるが。
それはそれとして、腹の穴を塞がないといい加減ヤバい。
マジで死ぬ。
「さて、顔色も大分悪そうですし、そろそろ立ち去るとしますか」
「………」
ここでは引き止めることは、出来ない。
勝ち目のない闘いをすることは出来ない。
あるいは、ここで感情的に行動することも出来ないのが駄目な所とも言えるのだろうか?
「それでは」
そう言って、僕の横を当たり前のように、無警戒で通って去っていく。
それは、圧倒的な力の差を表していた。
「あっ、そうそう。言い忘れていました」
僕の横を通り過ぎて、そこから1m位の所で振り向いた。
「雪兎事件」
「!!」
「あれが、全ての始まりですよ」
……なんだと。
あの事件が。
関わっているのか。
この事態の始点に。
「それでは」
そう言って、彼女は陰に入ると徐々に見えなくなった。
***
後日談。というか今回のオチ。
「まぁ、流石に無理があったなー」
期末テストは終わった。
結果は惨敗に近い。
70位に落ちてしまった。
槇原は8位。
本当に勝負しなくて良かった。
腹の穴は辛いものを沢山食べて塞ぎはしたものの、血は生成出来ないので本当に体調は崩れていた。
まぁ、点数の取れない言い訳にはならないけども。
「大丈夫か?体調的に」
「まぁ、大丈夫だよ」
マッキー先ハイの言葉に、僕はそう返す。
腹に穴が空いて大丈夫な訳は無いのだけれども。
それでも僕はそう言った。
変に気を使わせるのも嫌だから。
「取り敢えず、約束通り、パフェでも奢るよ」
「「おー」」
ギガ子とマッキー先ハイは二人は仲良く、前を歩いていた。
「大丈夫ですか?」
千花先輩が聞く。
「だから、大丈夫ですよ」
「無理しなくていいんですよ?」
そんな風に言われた。
本当に心配そうな顔で。
……少しくらいならいいか。
「結構、キツいです」
「それなら、無理する必要は無いんですよ?」
「いいえ」
そういう訳にはいかない。
あの金髪の少女への警戒もあるし、なにより、
「こうして、部活メンバーや生徒会メンバーで楽しむのが好きですから。だから、その時間を楽しみたいんです」
「……そうですか。でも、本当に無理そうなら言ってくださいよ?」
頼りになりますから!!と、笑みを浮かべると、千花先輩は前の二人と合流した。
僕もそこに走っていった。
あの日の夜。
金髪の少女の正体を考えた。
しかし、何も浮かばなかった。
何かしらの木の怪異かとは思ったが。
しかし、疲れと傷から、まともな思考を働かせる余裕が無かった。
自宅に戻って、穴を塞いだ後に、臥煙さんに電話したが、でなかった。
何か急用があるのだろうと思い、僕は寝た。
……あれから、臥煙さんからの電話はかかってこない。
次回、早坂の話。