皆さん、こんにちは。
四宮かぐやの
毎日、毎日、主の命令に従い、働いています。
年中無休、朝から晩まで、あくせく働いています。
本当に大変な生活です。
しかも、主人のかぐや様が大分横暴です。
無茶振りも酷いし性格も悪い。
こっちの努力を無にすることも多々あります。
特にここ最近のかぐや様、というか、会長に惚れてからのかぐや様はその傾向が強い。
昔の氷のかぐや姫と言われていたかぐや様なら今程無茶なことはやらせないし、アホでもなかった。
恋は人を変えると言われていますが、本当に変わりました。
毎日がつまらなさそうなだったかぐや様が楽しそうな位に。
かぐや様は今、全力で
それが本当に羨ましくて……。
そして、少し寂しいのです。
***
「昨日のラップは感動しましたねー」
「ええ。今でも思い出せば、感動します」
とある昼休み。
普段は誰も使わない教室に私、早坂愛と鳴山くんはいた。
昨日のラップとは、昨日、芝公園で会長のラップを聞いた話です。
御行くんに呼び出され、その時に私とかぐや様、書記ちゃんに鳴山くんと鬼ヶ崎さんが居ました。
どうやら、書記ちゃんは会長の指導をしていたようでしたが、鳴山くんは
そして、鬼ヶ崎さんはそこについていったようです。
……ただ、鳴山くんの
彼の情報網は明らかに異常。
私が細心の注意を払っていても、情報が漏れることがある。
まるで、口に出しただけで情報が漏れているような、そんな感覚に陥ります。
前に見た身体能力と言い、只の人間ではない。
あんなデタラメな能力の種を探ってはいますが、分からないんですよね。
かぐや様の命もあって探ってはいるのですが、何一つ、良い情報が見つからない。
彼の周りは、分からないことばかりです。
閑話休題
それで、御行くんにマトモなラップと共に本音を出すように言われました。
……そんなこと、簡単には出来ませんけど。
「まぁ、雇い主に逆らうのは中々大変ですよね」
「いえ、別に逆らうとまでは言いませんけど」
そう、別に逆らおうとなんてしていません。
ただ、もう少し。
労って欲しいだけです。
「さっさと告れば、こんなことにはならないんですけどね」
「いやいや、あの人は付き合ってからの方が面倒になると思いますよ」
それはないと思いますが。
というか、現段階でも相当に面倒なのにこれ以上があるとは考えたくないんですが。
「そんなに嫌なら転職でもすればいいじゃないですか」
「そんな簡単に転職なんて出来ませんよ」
「それはそうでしょうけど」
彼はよく軽そうなノリで話しているが、心配自体は本気でしているらしい。
これでも四宮家令嬢の近侍。
人を見る目は養っている。
これはかぐや様にも言えることの筈なのですが、最近のアホ化の影響でイマイチ、その辺が鈍っているように感じます。
それはともかく。
彼は、表面上は信頼のおける人物です。
頼みごとや相談をした時、秘密をちゃんと厳守する。
きちんとした結果で返してくれる。
そこは、評価すべきポイントと言える。
「あ、ギャルモードに入って下さい」
「え?」
「ああー。早坂さんと鳴山くんじゃないですか~。何やっているんですか?」
「ああ、書記ちゃん!いやねぇ、ちょっとぉ、相談に乗ってもらってたんだよ。バイトのことで」
「鳴山くんはバイトしてませんよね?それなのに、どうして相談に乗れるんですか?」
「いや、ときどきしてますよ、僕は」
書記ちゃんは彼のことが好きらしい。
2学期始め辺りにその傾向はありましたけど、最近は顕著に感じます。
しかし、一見笑顔に見えますがオーラが怖いです。
嫉妬をしている時のかぐや様並みに怖いです。
いや、聞く分なら笑い話になりますが、実際に
「というか~。早坂さんと鳴山くんって知り合いなんですか?」
「それこそ、バイトで知り合いましたからね」
「………本当ですか?」
「本当ですよ」
「そうなんですか?」
「!!そ、そうだよー。偶然ねー」
「………ムゥゥ…。分かりました。ひとまずは信じます」
取り敢えずは、信じてもらえたらしい。
まだ、疑いはあるようですけど。
この書記ちゃん。
私達の間での通称、
なにせ、予測出来ず、思考が読めず、知らず知らずのうちに場を掻き乱す
私との戦歴は、25戦13勝12敗。
ギリギリの勝ち越しですが、本当にギリギリの勝負ばかりです。
私では、扱いきれていないと言えます。
ただ、
「それで、何のバイトをしてるんですか?」
「僕は知り合いの仕事の手伝いといった感じで、特にコレと言ったのはないですけど、早坂先輩はメイドカフェで、マジのメイドっぽいって評判ですよ」
「ええー。そうなんですか?」
「そだよー」
「まぁ、実際はこうしてギャルですから、全然違いますけどねー」
「そうですねー」
「そうそう。ウチって、意外と演技上手いんだよねー」
「それじゃあ、帰宅したお嬢様!」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「おおー!!」
凄いですね!!って、褒める書記ちゃん。
実のところ、鳴山くんはこの対象Fの機嫌を取るのが上手い。
2学期以降の対象F戦は彼がやっていることが多いですし、その戦績も10戦7勝3敗。
その他にも1年生組の誘導も行えるため、会長とかぐや様を二人きりにするための土台を作る能力は彼の方が高いと言えます。
何気に今の行動で仮にメイドぽい言動をしても、そっちが演技だと思わせる下地が作られました。
中々侮れないんですよね。
「まぁ、千花先輩はメイドよりもお嬢様の方がらしいですよね。というか、リアルお嬢様ですし」
「確かにー。あんまり、ご奉仕とかは想像出来ないかも」
「そうですか~?」
「そうですよ。さて、そろそろ昼休みも終わりますし、教室に戻りましょう」
「そだねー」
そう言って、教室に戻る。
……彼は一体何者なんですかね?
***
放課後。
4時12分。
今日はかぐや様は生徒会での仕事だ。
この間は、かぐや様の完全なプライベート。
それは、確かに必要なことだ。
私は必ずしも
「はぁ」
ため息を零す。
こうしている間は、私も気を抜ける。
メールによる指示やかぐや様周りの調査はあるが、しかし、それはもう、どうとでもなる。
彼の手伝いのお陰で、調査も簡単に済むようになったのもデカイが。
「そういう意味では、彼には随分と助けられていますね」
本当に助かっている。
少なくとも、学校での仕事は大分少なくなった。
本人は、
『まぁ、手伝っておけば、こっちの弱みで脅すことも少なくなるでしょうからね』
と、言っていた。
……だったら、かぐや様の手伝いをした方がマシになるのに。
「……お人好しなんでしょうね」
「そうですよねー。愚かしい位に」
「!!」
咄嗟に、声のした方を見るとそこには金髪の少女が居た。
見た目から感じる美しさは、まるで雄大な自然を感じさせる、圧倒的な美しさ。
その姿を見たとき、私は純粋に美しいと感じた。
気配もなく現れたのだから、警戒すべき筈なのに。
警戒など無意味なのだと言うような、そんな雰囲気が、彼女にはあった。
私は少し呆けた後、ハッとなって、警戒を強めながらも聞く。
「あなたは何者ですか?」
「そうですねー。強いて言うなら、この学園の主、と言ったところですかね」
「は?」
飄々とした様子でそういう目の前の少女に、私は唖然とした。
意味が分からない。
この学園の主?
何を言っている?
「いや、分からなくて良いんですよ。それが正しい反応なんですから」
からかうようにその少女は笑う。
それもまた、美しく。
一つ一つの挙動に美しさを感じるように。
こんな状況なのに。
その挙動に、見惚れてしまう。
まるで、蛾が光に惹かれるように。
「あなたの目的はなんですか?」
「ふっ」
その少女は、口を弧に描くと、
「
そう言って、私の額に人差し指と中指当てて、そして……
***
「はっ!」
私は目を覚ました。
いや、目を覚ましたというのは、正しくないかもしれない。
何故なら、時計を見ると4時13分を指していたからだ。
「なんだったんでしょう?夢?いえ、それにしては何かが……」
指に唇を当てて、考える。
……分からない。
あの感覚は何だったんだろうか?
「……考えても仕方ないですね」
結論が出ないことに悩んでも仕方ない。
それよりも、この後の予定について考えなくては。
と、そんな風に考えていると、
「あら?早坂さんじゃないですか」
「あっ!紀ちんじゃん!」
紀かれん。
2年C組の生徒で、マスメディア部に所属している。
彼女はかぐや様の情報を探る要警戒対象である。
そのため、なるべく彼女と近しい立場で探るために仲良くしている。
「そうそう私、早坂さんに言わなくてはいけないことがあったんです」
「えー、何々?」
「私、あなたとの友人関係を断とうと思ってたんですの」
……………え?
「ま、またまた。エイプリルフールはまだまだ先だよ?」
「いえ、本気ですわ。それでは、さようなら。早坂さん」
そう言って、紀かれんは、去っていた。
嫌悪感を丸出しにして。
…………どういうことですか?
脈略も何もあったものじゃない。
私がかぐや様の近侍だと気づかれた?
いえ、それはおかしい。
だとしたら、かぐや様信者としても、かぐや様を探るにしても、もっと私に近づこうと考える筈。
私を警戒するにしても、こんな急に離れれば、余計に警戒するのは当たり前だ。
なんにしても、取り敢えず理由を確認しないと。
電話をかけることにした。
相手は、巨勢エリカ。
紀かれんの相方で、こちらもかぐや信者だ。
『おかけになった番号にはお繋ぎ出来ません』
これは………。
………どうして。
もしかして、紀さんに何かを言われた?
ともかく、巨勢さんを探さないと。
あっ!意外と近くに居た。
「あっ巨勢ちん!ちょっと、聞きたいことがあるんだけど…」
「ああ、早坂さん。こっちに来ないで下さい」
嫌悪感を丸出しにして、巨勢さんは言う。
「ど、どうし……」
「とにかく、あなたとはもう関わりません。さようなら」
そう言って、巨勢さんは離れていった。
顔が強ばる。
頭が真っ白になりそうになるのを、必死で繋ぎ止めた。
……まずは、現状の整理をしましょう。
現在、何故だか、紀かれんと巨勢エリカにかなり嫌われている。
今までの彼女たちの性格から考えるに、あそこまで嫌われるとしたら、かぐや様関係で私が何かした場合の可能性が高い。
前に会ったときから考えると……
駄目だ。浮かばない。
プライベートならともかく、学校でそのようなことは無かった筈だ。
では、何故?
プルルル
電話が鳴る。
見ると、屋敷の方からの電話。
……今は考えている時間はないようですね。
***
その後、電話での指示をしている間に下校時間になり、かぐや様と下校した。
ただ、その時にかぐや様は私の顔を見ては、考え事をしていた。
なんですかと聞いても、『いいえ。なんでもないです』と返される。
その後も屋敷で、他の使用人に指示を出していく。
この場で余計な事を考えている余裕はない。
そうして働いているうちに、かぐや様と話すいつもの夜の時間になりました。
かぐや様は、変わらずに私のことをちらりと見ては考え事をしていた。
「本当に、どうかしたんですか?」
「なんでも無いわよ」
私が呆れたように言うと、かぐや様は不機嫌に返した。
「今日は、もう自室に戻りなさい」
「ですが…」
「戻りなさい!そんなだから…」
「そんなだから?」
「……なんでもないわ」
かぐや様は、怒っていた。
明らかに。
私に向けて。
「……分かりました」
私は退出した。
……存外、傷つくものですね。
かぐや様にああも敵意らしきものを向けられるのは。
自室に戻り、ベットに倒れ込む。
体を動かす気にならない。
思っていた以上にきつかったようだ。
しかし、一体、何が起こっているのでしょうか?
何かが、おかしい。
おかしいとしたら、かぐや様とあの二人だとは思いますが……。
……違和感が、ある。
ふと、帰ってから初めて、スマホを見る。
「!!」
そこにあったのは、いくつもの連絡を取らないというメールばかりだった。
あの学校での特に話しているクラスメイトから送られていた。
頭が真っ白になる。
ど、どうして…。
どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。
どうして、こんなことに。
何かをしてしまった訳じゃない筈だ。
致命的な何かをした訳じゃない筈だ。
なのに、どうして…。
ふと、目の辺りから暖かさを感じた。
どうやら、涙が溢れてきたようだった。
枕が濡れていく。
「ヒック、ヒック…」
昨日までは、普通だった筈なのに。
当たり前の日常があった筈なのに。
そこでふと気づく。
そう、なのだろうか。
そういうことなのだろうか。
だから、なのだろうか。
かぐや様は、
成程。
それなら、この現状に納得がいく。
かぐや様は、秘密を厳守する人だけを友人にする。
そして、私はかぐや様の一番近くにいながら、裏切り続けていた。
かぐや様の情報を本家に流し続けていた。
それに、かぐや様は気づいた。
ここまで長い期間の裏切りに気づいたとしたら、あの人がただの報復する訳がない。
私を追い詰めるようなことをするだろう。
それがこの現状。
私の友人に根回しをして、絶交するように仕向けた。
かぐや様なら、その位のことは容易く出来る。
「フッ、フフフ…」
涙が流れながらも、変な笑いがこみ上げる。
だとしたら、かぐや様のあの態度は私が辛そうでないのを疑問に思っていたからか。
だったら、イライラする筈だ。
私が気づいた様子がないのだから。
しかし、きっと私はかぐや様を責めることは出来ない。
私が裏切ったのだから。
言う資格なんてない。
仰向けになる。
「…私はこれから一体、どうなるんでしょうね」
今は、私を追い詰めるためにここに置いている。
けれど、それが終わったら、きっと私は始末されるだろう。
情報を渡さないためにも。
当たり前のことなのだから。
「フフ、フフフ」
結局、嘘をついてさえ、私は愛されない。
ただ、それだけだった。
プルルルル、プルルルル
スマホが鳴った。
手に取る気がしなかった。
きっと、私を罵倒するような言葉をかけるつもりの電話だろうから。
これ以上は、聞きたくない。
何も聞きたくなんかない。
そうか。自殺でもすれば、こんな苦しみからも逃げられるだろうか?
どの道、始末されるのだから早い遅いの違いでしかないだろう。
プルルルル、プルルルル
ずっと、鳴っている。
しつこい位に。
部屋の窓を開ける。
肌寒い。
ここから落ちれば、きっと、終わる。
身をのり出す。
これで終わりなのだ。
裏切り者には相応しい結末だ。
そのまま、落ちる……
一歩手前で、
「させるかーーー」
「キャーーー」
私の体は、落ちるどころか上に上がった。
そのまま、天井より上に上がると、ふわりと着地した。
「ううぅ……」
準備もなく急上昇したことで、グロッキー気味になる。
「ハァーー。間に合って良かった」
声がした。
声のした方を見ると、
「鳴山、くん?」
「はい。こんばんわ、早坂先輩」
***
「なんでこの屋敷に居るんですか?」
「自殺しようとしてたのに、切り替えが早いですね」
取り敢えず、自室に戻った。
鳴山くんと一緒に。
「正直、いきなりのこと過ぎて頭がこんがらがっているんですが」
「まぁ、取り敢えず、まともに話せる状況までになったので良しとします」
そう言う彼は、椅子を見つけるとそこに座った。
仮にも女子の部屋の中だというのに、落ち着いている。
「さて、まずはどこから話ましょうかね」
そんな風に、気楽な口調でいる。
まるで、こんなのは日常であるかのように。
なんとなく、気味が悪かった。
「あなたは、知っているんですか。私の状況を…」
「まぁ、大体は。だから、電話もかけてたんですよ」
私は目を見開いた。
すぐにスマホを手に取る。
確かに履歴にあったのは、鳴山くんのものだった。
つまり、先程までの着信音は彼のものだったということなのだろう。
「……すいません」
「別に良いですよ。精神状態はでられるような状態じゃないのは聞いてて分かりましたし」
ここで、彼の異常な能力が見える。
一体、どこで聞くというのだ。
彼がこの部屋に、というか、この家に入るのさえ初めてな筈だ。
なのに、私の部屋の位置や私の声を聞くなんて芸当が、果たして出来るのか。
「あなたは本当に何者なんですか?」
「そこら辺も込みで教えますよ。まずは……。そうですね。『怪異とは何か』について話しますか」
そうして、彼は話し始めた。
怪異というのは、都市伝説・街談巷説・道聴塗説で語られる存在。
人間の信仰・畏怖・噂によって生まれる存在。
「まぁ、簡単に言ってしまえば、妖怪みたいなものだと思ってもらえばいいです。普段は認識出来ない。けれど、確かに傍に居る。そんな存在ですよ」
「にわかには信じがたいですが…」
「それで正しいんですよ。当たり前に、普通に生きている人が関わることなんてないんですから」
「私が普通に…」
「まぁ、こちら側からしたら……、の話です。早坂先輩の暮らしが本当に普通かって聞かれたら違うと思いますよ」
そのように彼は言う。
フォローというよりも、当たり前に思ったことを言った感じだ。
説明もこなれている。
結構な回数、このようなことをしてきたのだろうか?
………
疑問はあるが、ひとまずは…
「つまり、私がその怪異という存在に関わっていると?」
「まぁ、憑かれている、というのが正しいでしょうね。もしかしたら、
「?何がですか?」
「嘘を」
「!」
虚をつかれたような感じがした。
うまく、声がでない。
彼は知っていたのだろうか?
私が何をしてきたのかを。
彼は、それを眺めると、納得したような顔をした。
「まぁ、心配しなくても、解決はしますよ」
そう、彼は言った。
そして、彼は語りだした。
私の怪異について。
「嘘喰いオオカミ」
「モデルとしては、『オオカミ少年』。『嘘をつく子供』というタイトルでもある、有名な童話からきていますね」
「嘘つきの子供が、散々村の人にオオカミが来ると嘘をつき続けた結果、本物のオオカミが来た時に信じてもらえずに羊を食われるという話です」
「嘘喰いオオカミは、嘘つきに対して、その人の大切なものを食う。というよりも、無くす怪異なんですよ」
「その人にとっての大切なものを食うことによって、罰を与える。そういう怪異なんです」
***
「…私が嘘つきだと、だから、怪異に憑かれたということなんですか」
「…まぁ、そうなんでしょうね。原因はそれだけではないでしょうけど」
怪異という存在に関しては未だに信じがたい所もありますが、しかし、
「嘘つきというのは、分かりますよ」
「…どうしてですか?」
「私は、かぐや様に関しても、学校のクラスメイトに関しても、嘘をつき続けています」
そう、かぐや様に関しても、クラスメイトに関しても、嘘をつき続け、騙し続けている。
本当の自分を見せずに、偽りの仮面を被って。
「だから、きっと。これは、只の因果応報なんですよ。怪異なんて存在がなくても起こった。そんなことなんですよ」
「そんな私が、嫌われるのは、当たり前なんですよ」
悪いのは、私だ。
私は、嫌われて当然だ。
「……そんなことはないですよ」
「え?」
彼は真面目な顔をして、否定する。
「確かに、嘘をついてきたんでしょうね」
「主人に対しても、
「でも、きっと嘘ばかりではない筈です」
「本音で話していることも確かにあった筈です」
「それに、
「そんな訳ないじゃないですか」
「人間なんですから」
「誰だって、嘘くらいつきますよ」
「騙しますよ」
「でも、人は案外、そのくらいじゃ嫌いになったりなんかしませんよ」
「それに例え、嫌われたとしても、正直に話し続ければ、謝り続ければ、人は許してくれます」
彼はそんなことを言った。
でも、信じられない。
私の周りには、そんな優しい人はいない。
一度嫌われれば、それで終わりだ。
終わりなのだ。
「……信じられませんか?」
「……当たり前、じゃないですか」
「ふっ」
彼は笑う。
「なんですか」
「だったら、聞いてみますか?あなたの主人に」
「え?」
その時、私の部屋の扉が開いた。
そこには、かぐや様が居た。
「早坂」
「かぐや様、あの、私」
かぐや様の登場に、私は慌てた。
まるで、言葉が出ないでいると、かぐや様は私を抱きしめた。
「え?あの、かぐや、様」
「早坂。私は、確かに秘密を守らない人とは友達にもなりませんよ」
「………」
「秘密を、裏切りを許したことはありませんよ」
「………」
「でも、私は、許せるようになりたい」
「!」
「例えあなたがどんな風に私を裏切っていたとしても」
「かぐや、様」
「あなたが何を抱えて、抱えさせられているのかは分からないけど」
「かぐや…様……」
「それでも、多分、きっと、許そうって思うと思うから」
「かぐや…様…!」
「これからも、私の傍に居てくれる?」
「うぅぅ、はい、かぐや様!」
果たして、今日はこれで何度目になるだろうか。
私は泣いた。
思いっきり、泣いた。
ここには、鳴山くんもいるというのに。
それでも、私はかぐや様の胸で泣いた。
それは、従者と主人というよりも、姉と妹というよりも、友達が仲直りして、泣いているようだった。
***
後日談。というか、今回のオチ。
翌日の朝。
私が目を覚ますと、隣にかぐや様が寝ていた。
鳴山くんは居ない。
あの後、鳴山くんは、『時間が時間ですし、そろそろ警備が怖いので帰ります』と言って、帰っていった。
そういえば、彼、あれで不法侵入をしていた。
このセキュリティーが堅い四宮家に入り込めるだけで相当のものだ。
……彼自身のことも聞かなくてはいけない。
かぐや様は、本来、寝ている頃の時間だったこともあり、この部屋で寝た。
久々に、かぐや様の寝顔を眺める。
どことなく、子供のような顔だった。
「今まで、ごめんなさい」
寝ている相手に、聞こえもしないであろう謝罪を言う。
いつかは、私がしてきたこともちゃんと言わないといけない。
それが、いつになるのかは分からないけれど。
そうして、許して貰えたなら……、その時は……。
その、時は……。
「……いえ、今は止めておきましょう」
そして、シャワーを浴びにいく。
いつものルーティンとして。
今日もいつも通りに働き、学校に行く。
いつも通りのギャルモードで。
「ゴメンね!!変なメールを送って!!別に嫌ってなんかいないからね!!」
「すいませんわ早坂さん。あの日は私もどこかおかしくて…」
「ゴメンナサイ」
学校に着いて早々、こんな謝罪をされまくった。
どうやら、元に戻ったらしい。
「いいよ」
私はその謝罪を受けて、許していった。
そして、昼休み。
今日は、鳴山くんと弁当を食べていた。
ついでに、彼自身の本来のプロフィールや彼に憑いている怪異についても教えて貰いました。
かぐや様にも言っていいと言っていました。
まぁ、私への説明の時も居たみたいですし、隠せるようなものではないからなんでしょうね。
そして、彼は本題として切り出す。
「嘘喰いオオカミの対処法って、つまり、憑かれた相手の本音を嘘をついている相手に吐き出させることなんですよ」
「だから、あの時、かぐや様があそこに居たんですね」
そう。
よくよく、考えれば。
というか、よく考えなくても、あのタイミングでかぐや様があそこに居るのは都合が良すぎる。
つまり、アレも込みで彼の仕込みでもあったようだ。
「先輩の異変には帰る時に気づいたんですけど、こっちも色々と立て込んで、対処が遅れました。すいません」
「気にしてませんよ。そもそもあなたが来なかったら、私がどうなっていたか、分かりませんから」
本当に、彼がいなかったらどうなっていたか。
いえ、死んでいましたね。
投身自殺していました。
「…僕が居たから、というのはありそうですけどね」
「何か言いました?」
「いえ、なにも」
「そういえば、かぐや様はどうして、その怪異の影響を受けていないんですか」
「影響を受けていなかった訳ではなかったようですよ。『早坂に対して、何故だかモヤモヤする』って、言ってましたし」
「だから、私をチラチラ見ていたんですか。でも、他の人の事例を見ると…」
「多分ですけど。四宮先輩と早坂先輩は、普通の友人であり、主従でもあり、姉妹でもあったってことじゃないですか」
「……どういうことですか?」
「いえ。早坂先輩の求めているものなのか、そうでないのかが怪しいラインだったから、繋ぎ止められただろうなと思っただけです」
鳴山くんはそう言った。
私の求めているもの。
今までは、掴めそうで掴めないものだと思っていましたが。
本当は、そうではないのかもしれませんね。
「こっちもひとつ聞いていいですか?」
「なんですか?」
「もしかして、金髪の少女に会いませんでした?」
金髪の少女?
そんなのには……
!いえ…
「会いました。丁度、異変が起きる前に。夢だと思って、忘れかけていたのですが」
「そうですか。では、もしもまた会ったら、僕に伝えて下さい」
「あの少女は、なんですか?」
私は聞いた。
「僕の宿敵です」
こうして、私の怪異譚は閉じたのだった。
早坂周りは難しいな。