私の名前は、四条眞妃。
由緒正しき国家の心臓たる四宮家の血を引く、四条家の娘だ。
それに違わず、私は天才だ。
秀知院学園では、本気をださなくても学年3位が取れる。
本気を出せば、学年1位だって取れるだろう。
他にも、基本的になんでもこなせる。
勉強も、運動も、歌も、料理も、なんでも。
だけど、そんななんでも出来る私にも、出来ないことはある。
例えば……、自分の恋とか。
そう、今回の話は私のそんな出来ないことに関する話だ。
私が出来なかったことを。
私がやりきれなかったことを。
出来るように、やれるように、していく物語だ。
さぁ、始めるとしよう。
私の失恋を。
***
「うぐっ…!、ヒック…!、ぐぇっ…!、おぇ…!」
ここは生徒会室。
ここで私は、、、、私は………。
何をしているのだろう。
ああ、アレだ。
ううぅ、辛い。
「ぐぅえっ…!、おえっ…!うっぐ…!、ヒック…!」
「なーにしてるんですか。四条先輩」
「ふぇっ!」
私がえずいていると、そこに、鳴山が呆れたような顔をして来た。
「はぁーーー。で?また、あの神ップルの絡みですか?」
「ハァーーー!違うしー。別に関係ないしー」
「別にツンデレをするのは勝手ですけど、それで後悔するのは懲りた方が良いですよ」
鳴山は、呆れた様子でそう言う。
若干、憐れみさえ入っている気がする。
腹立つ!
「何よ。文句でもあるの?」
「
そう言って、鳴山はソファに座る。
鳴山白兎。
ここ、秀知院学園高等部の生徒会庶務だ。
その実力は確か。
あのかぐやおばさんとも裏工作で戦え、生徒会の業務も当たり前にこなす。
最近は、早坂とも独自のコネクションを築いているらしい。
……正直、一般家庭の出でなかったら、相当な脅威に成り得る人物だ。
私の愚痴を聞いてくれたりするから良い人ではある。
ただ、性格が良いとはあまり言えない。
容赦なく、酷いことも言ってくる。
そんなに仲良くなれるタイプじゃないのだ。
「よう、鳴山」
「ああ、白銀先輩。優も」
「あれ、ツンデレ先輩も居るんですね」
「誰が、ツンデレ先輩よ!」
白銀と石上も来た。
石上は、そのままお茶を入れ始めた。
う~ん。
鳴山もいるけど、ここに来た目的も目的だし、聞いて貰おう。
「
石上がハーブティーを持ってきた。
それを飲む。
美味しい。
体に、心に、染み渡る。
「はぁー……。染みるわぁ……」
「そうでしょう。パッションフラワーはアルカロイドなどの有効成分が入っているので、鎮静作用・抗うつ作用。ヒステリーやノイローゼに効果があるらしいんですよ」
「ぶんなぐんぞ」
落ち着いた気分の中で、苛立ちを感じる。
悪気は無いんだろうけども。
「で…何か?なんか悩みでもあんの?」
「そこまで深刻な話じゃないわよ」
「いや、そんな訳ないじゃないですか。このパターンで深刻、というか面倒なことじゃないパターンを僕は知らないんですけど」
「本当に腹立つわね。まぁ、いいわ」
本当に鳴山は性格悪いのよね。
性格が悪いというか、口が悪い。
最初に会った頃は、ここまでじゃなかったと思うんだけど。
まぁ、今はそのことは置いておこう。
「男の目線から、朝食で何を食べたか程度の軽い質問をしたくてね」
「まぁその位、別に構わないが」
「ねぇ…、友情なんて人を苦しめるだけの物じゃない?」
「やっぱり、面倒なパターンじゃないですか」
鳴山が真顔で言う。
白銀と石上が引き気味のようだ。
取り敢えず、私は淡々とした口調で続ける。
「ほら渚たち、ボランティア部やってるじゃない」
「そうだな」
「あれ、部員数が二人しかいなくて、顧問から部員数増やすように渚が突かれててね。渚がボラ部に入って欲しいって言うから入ったのよ」
「ああ、成程。そういうことですか」
「うん?どういうことだ?鳴山庶務」
「いや、四条先輩は良い人だけど、不憫だよねという話です」
「ぶんなぐんぞ」
鳴山は察する能力が高い。
少ない情報の中で、正解へと導く能力が高い。
だから、気づくのも不思議ではないのだけど、それでも簡単に見透かされてる感じがして、苛立つ。
「……最初は、純粋に困っている渚の助けになれば良いと思って入ったのよ」
「なのに、なのに、あの女は」
「私が気づいてい無いと思って、イチャイチャイチャイチャ、チュッチュチュッチュと…」
「「わぁ…」」
白銀も石上も呆れるているような、引いているような、微妙な顔をしていた。
鳴山は、『うん。まぁ、知ってた』みたいな、悟ったような顔をしていた。
「自分たちの関係を見せつける為に部に呼んだんじゃないかと思う程よ」
「ていうかそう…」
「絶対そう…」
「いや、違うと思う」
「なんで、お前はそう逆張りばかりするんだ!」
白銀がツッコむ。
確かに、鳴山は逆張りと言うか、人の意見の否定をよく言っている気がする。
それなりに考えがあるのは知っているけれど。
「いや、紀先輩にその時の話聞いたことありますけど、最終的に田沼先輩に頼まれたのが理由じゃないですか。しかも、流れ的に消去法からって感じだったんでしょう。だったら、違うと思いますけど」
「ちょっと、いつの間にかれんと知り合ってたの!?」
「まぁ、TG部関係でちょっと。それに、知り合いというなら優もでしょう」
「そうなの!?」
「はい」
い、意外な所に繋がりがあったりするのね。
ちょっと、驚いたわ。
「それで、最近は柏木先輩の顔を見たら胃がキュッーとするとか、笑うとなんか嘘ついてる気分になるとか、女の友情は脆いとか、そんな話ですよね」
「……なんで全部言うの」
「今まで聞いてきた愚痴の総合時間を言及して欲しいですか?」
「うっ……」
確かに、結構な回数聴いてもらってた。
ここまで、散々と言ってはいるけど、なんだかんだでこいつに愚痴ることで気が楽になったのは確かなのだ。
聞き上手という感じではないが、相手の話を聞いて、それなりに良いアドバイスを送ることに長けている。
そういう意味で、良い奴であるのは確かだとは、思うのだけれど……。
それはそれとして、酷い奴だとは思う。
「大体鳴山が言っちゃったけど、そういうことよ」
「なるほどなー」
「そう言えば僕。前から疑問だったんですけど。あの人のどこに惚れる要素があるんですか?」
「はあ!?」
何を言っているんだ、
翼くんの良さが分からないなんて…!
「あんたに翼くんの何がわかるってのよ」
「そりゃ翼くんは一見ヘラヘラしてるように見えるけど、私がちょっときついこと言っても、嫌な顔一つしないで笑いかけてくれるの」
「翼くんはなんていうか包容力があって、一緒に居ると心が安らぐというか、兎に角あったかい人なの!!」
「二度と翼くんの悪口は言わないで!!」
大きな声で主張する。
本当に、全然分かっていないんだから。
「あ、来るわ」
「?何が?」
「「こんにちわ!」」
鳴山が何かに気づいたような素振りを見せると、そこに藤原ともう一人女の子が来た。
しかも、表面上は普段通りですーみたいな様子なのに、どこかギスギスしている雰囲気がある。
それにしても、藤原がこんなに怒っている様子なのは初めて見るんだけど。
「ああ、四条さんこんにちわ」
「こんにちわ。どうしたの?」
「いえいえ、別に。大したことじゃないですよ」
いつもの軽い調子なのに、なんか、聞き入ってはならないような雰囲気がある。
もう一人の子は、鳴山の方に来た。
「で?何で、二人で来たんだ?」
「……生徒会室に行く途中で会って、それで行く途中で口論になったんです」
「…そうか」
素っ気無く、鳴山はその子に言った。
……なんか、訳あり?
「それでー。何の話をしてたんですか?」
気を取り直した様子の藤原が聞く。
しかし、言ってもいいんだろうか?
特に、藤原は……、いや、意外と大丈夫なのかも。
「……実はね。私には好きな人が居るんだけど」
「あらー!」
「その人に既に恋人がいるの」
「あら…」
「それで、私はどうすれば良かったんだろうって」
私が聞きたかったのはそれだ。
何が悪かったのか。
どうすればよかったのか。
その答えを知りたい。
「そりゃとっとと告白しないからですよ」
石上は言う。
「恋愛はスピード勝負。好きになったら速攻、告白すべきなんですよ」
白銀は言う。
「向こうから告ってくるのを待つなんて体の良い逃げだ。時にプライドを捨てる勇気が大事なんじゃないか……?」
他の女子たちは神妙な顔で聞いている。
判ってる。
早めに告白しなかったのが悪いなんてことは。
でも、でも……!
「そんな事判ってる!判ってるけど告白なんて怖くて出来ない!」
「分かります!そうなんですよ。怖くて出来ないんです!」
「分かりますよ!先輩」
藤原もあの女の子も励ましてくれる。
「どのみち過ぎた話よ。あの時、ああしてればとは何百回も思ったけど、現実は何も変わらなかった。貴方たちは私みたいになっちゃ駄目よ」
「四条先輩……」
「まぁなんだ。俺もお前の辛さはわかってるつもりだ。しんどくなったらいつでも生徒会に来い。歓迎してやる」
「ハーブティーでも淹れますよ」
「私も話を聞きますよ」
「白銀……、石上……、藤原……」
みんな……。
こうして、人に話せるって結構嬉しいものよね。
「…………」
「おい、白兎。お前も何か言えよ」
「……まぁ、色々と言いたいことはあるんですけど。この場で言うことではないですからね」
「……何よ。言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさいよ」
こういう変に仄めかされるのが嫌いなのよ。
「だから、この場じゃ言いませんよ。今日の夜、電話するのでその時でいいでしょう?」
「……分かったわ」
「え?」
「え?」
「………え?」
え?
なんか、変な風になってる?
「いや、たまに愚痴を聞いてるだけですよ。勘違いしないで下さい」
「……本当ですか、四条さん」
「え、ええ」
なんか、藤原からの目線が怖い。
この子って、こんなに怖かったっけ?
ジィーーー
なんか、背中にも嫌な視線感じるし。
これは、あの子よね。
鳴山は一体に何やっているのよ。
ガチャ
「!眞妃さん……。また来たんですか?」
丁度、かぐやおば様も来たようね。
ここらが、切り上げ時ね。
「別におば様には関係ないでしょ。私は、ただ友達に会いに来ただけなんだから」
「友達?誰の事です?」
「決まっているじゃない」
そう。
「御行と優は私の友達よ」
「え~~。私は友達じゃないんですか?」
「元々は御行と優に会いに来てたし、それに藤原だって、ちゃんと友達よ」
「良かったです」
それじゃあね。
そう言って、部屋を出る。
なんか、スッキリしたー。
***
「うぇっ、グスッ、ヒック…」
「その日の晩で元通りってどうなんですか?」
その日の晩。
約束通りに鳴山は電話してきた。
しかし、私はそのタイミングで辛さがぶり返していた。
正確には、帰ろうとしたタイミングで二人のキスしている光景に出くわしたことが原因だ。
「まぁ、大体は予想ついてましたけど。その手の辛さは人に話した所で、一時は無くせても恒久的に無くすことは出来ないですからね」
「……随分、知ったような口を聞くじゃない」
「そりゃ、知ってますからね」
軽い口調で鳴山は言った。
「えっ?あんた、恋とかしたことあるの?」
「ありますよ。中学の時にね」
「…へぇー」
意外、というべきなのかなんなのか。
一人でいることも多そうだから、そういう経験はないのかと思ったけど。
「だから、言わせて貰うと根本的な解決をしなければ、ずっと辛いままですよ」
「根本的な解決って、……、あの二人の間に入るのは、厳しいでしょう?」
だから、私は苦しんでいるのに。
もう、終わっていることだから辛いのに。
「いや、そういうことじゃないんですよ」
「じゃあ、どういうことなのよ!」
つい、声を荒げてしまう。
でも、そうじゃないなら、どうしろと言うのだろう。
こんな苦しい現実を。
どう乗り越えろというのだろう。
「
「は?」
何を言っているのだろう?
失恋をする?
既に失恋してるというのに。
既に失われているのに。
フザケルな!!
「フザケルないでよ!私はもう、失恋してるの!どうやったって、覆せないのよ!なのに、何!失恋をしましょうって!私のことを馬鹿にしてるの!?」
本当に、フザケていると思う。
電話を切らなかったのが奇跡だ。
こんなことを言われて、ムカつかない訳がない。
勝手なことばかり言って!!
「なんなのよ!アンタは!!」
「只の失恋経験者ですよ」
鳴山は、私の騒ぎようを意にも返していないように冷静に言う。
「四条先輩は今、失恋し損なっているんですよ」
「きちんとした区切りを設けられなかったから、いつまでも恋心が宙ぶらりんになってしまっている」
「だから諦め切れない」
「どこかで期待してしまう」
「そして、現実を見て、その度にまた傷つく」
「負の循環を繰り返す」
「だから、区切りをつけましょう」
「先輩が前に進む為に」
「八方塞がりな現状から抜け出す為に」
「そのために失恋しましょう」
……コイツの言うことを理解出来ない訳じゃない。
私の現状をコイツなりに捉えて、一つの正解を示しているのも分かる。
でも……。
「……勝手なことばかり言わないでよ。それって、つまり告白して傷つけってことでしょう?フラれる為に告白しろって言ってるんでしょう?そんなのやりたくないわよ」
誰だって、傷つきたくない。
そんなのは、当たり前のことだ。
まして、自分から傷つきにいくなんて……
「……人間関係、特に恋愛において、一切傷つかないなんてことはないんですよ」
「分かってるわよ!そんなこと!」
「いいえ、分かっていません。うまくいった恋愛だって、傷つかないで済むわけがない。傷つく覚悟もないで、恋愛なんてすることは出来ないんですよ」
「だから傷つけって言うの?」
「そうです」
「私の周りの人間関係もどうなるか分からないのに」
「そのままでいたとしても、いつかは崩れますよ」
「本当に、最低」
それだけ言って、電話を切った。
本当に酷い奴。
最低。
でも、間違ったことを言った訳じゃない。
確かに私は宙ぶらりんなままだ。
でも、告白なんて……。
傷つきたくなんてない。
……………
私は、どうすれば、いいのだろう。
***
次の日。
私は、どこか、上の空になっていた。
イマイチ、何にも集中出来なかった。
「マキさん。大丈夫ですか?」
「大丈夫よ」
かれんやエリカにも心配されている。
早めに結論を出さなきゃいけないのに、でも全然出せる気がしなかった。
そうこうしている内に昼休みになったけれど、なんだかみんなで一緒に食べる気分じゃなくて、今日は離れていった。
「う~ん。結構、気持ちいいわね」
そう声にはだしたものの、本当はそんな気にはなっていなかった。
今日は、屋上で食べることにした。
晴れていて、昼寝にも向いていそうな位に穏やかだった。
弁当を一口、一口食べていくが、どうにも普段よりも美味しくなかった。
鬱々とした気分になる。
「なんで、こんなことになったんだろう?」
私は、ただ、一人の男を好きになっただけなのに。
友人と心から笑えなくなった。
泣き続けることになった。
何も掴めなくなった。
なんで、こうなるんだろう。
何が間違っていたんだろう?
「ハァーー」
「マキちゃん。大丈夫?」
「!」
ふと、声のした階段の方を見ると、そこには翼くんが居た。
「翼、くん?」
「うん」
翼くんは私に近づくと、
「横、いいかな?」
「う、うん」
と、私は言って、横に幅を作り、翼くんはそこに座った。
「マキちゃん。何か、あった?」
「えっ」
「何か、上の空だったから。渚も心配してたし」
心配、してくれてたんだ。
「何か、悩み事でもあるの?」
悩み事、って、原因そのものに聞かれたけど。
でも、心配から言ってくれたことだ。
本当に優しい。
こういう時、どうしたらいいだろう?
話せばいいのか。
誤魔化せばいいのか。
分からない。
「俺じゃあ、頼りにならないかもしれないけど、それでも言うだけでも楽になると思ううから……」
「翼くん…」
……少し位ならいいかな。
「私ね。動くか動かないで悩んでいるの」
「うん」
「動いたら、きっと、ううん、必ず後悔するってことは分かるの」
「うん」
「でも、動かなかったら、多分、前には進めないことも分かるの」
「うん」
「どうしたら良いと思う?」
翼くんに聞いた。
自分の行くべき道を。
「う~~ん。ゴメン。なんだか、よくわからないかな」
「ううん。こっちこそゴメン」
結構、抽象的だったし。
分かりづらくもあっただろう。
「でも、マキちゃんが選んだことなら、きっとそれが正しいんだと思うよ。マキちゃんは天才だし。俺も色々と助けてもらったりしてるしさ。だから、大丈夫だよ、きっと」
「!」
それはきっと、なんてことない言葉なのだと思う。
説得力なんてない言葉だとも思う。
誰にだって言える言葉なんだと思う。
でも、彼から言って貰えるその言葉は、どんな言葉にも勝る言葉だ。
そんな言葉が、私に勇気をくれる。
前に進む勇気を。
「ねぇ、翼くん」
「?何?」
だから、私は伝えようと思う。
「私は、翼くんの事が好き」
言った。
自分の気持ちを。
今まで言えなかった気持ちを。
「えっ」
翼くんは動揺している。
目が揺れ動いている。
それもそうだろう。
女友達だと思ってた相手が、急にこんなことを言うのだから。
「…いつから?」
「ずっと前から。少なくとも、渚と付き合い出すよりも前から」
翼くんは呆然として、聞いてきたので答える。
「そうか。そうだったんだ」
翼くんは噛みしめるように言う。
「ごめんね。今まで気づけなくて」
「ううん。私も相当、素直になれなかったから」
静寂が訪れる。
互いに、なんて切り出したらいいのかが分からない。
数分。
でも、私にとっては永遠に感じた時間が経ち、翼くんは言う。
「ごめん。気持ちは嬉しいけど、でも、渚が、好きな子が居るから」
「ううん。私の方こそごめん。こんなこと言って」
互いに謝る。
果たして、それは何に対しての謝罪なんだろうか。
相手に対してなのか。
あるいは、もう一人の当事者に対してなのか。
「まぁ、そんなに気にしないでよ。ただ、翼くんは意外とモテるって分かっただけなんだから」
「ちょっと…」
「渚には言わないでよ。これからも友人なんだし」
「待って…」
「それじゃあ…」
「待って!」
腕を掴まれた。
結構、気まずいから早めに離れたかったんだけど。
「こんな、勝手な言葉だと思うけど…」
翼くんはそう一拍おくと、
「これからも友達でいてくれる?」
それは、酷い言葉なのだと思う。
でも、どこかで嬉しいと思えてしまう言葉だった。
「当たり前でしょ」
苦笑いをして、それでも私はそう告げた。
***
後日談。というか、今回の失恋談。
「マキ」
屋上の階段から下に降りると、そこには渚が居た。
察するに、きっと、さっきのやり取りも聞いていたのだろう。
「ごめんマキ。私、あなたの気持ちを知らずに…」
渚が言い切る前に渚の手を掴んだ。
「ううん。悪いのは、私。私が臆病だったから、こんなことになったの。私の方こそごめん。あなたの彼氏にあんなことを言って」
「確かに、嫉妬した。でも、それ以上に自分が許せなかった。辛い思いさせてごめん」
お互いに、目に水を貯めていた。
「渚!」「マキ!」
互いに抱きしめた。
自然と涙が流れた。
「ごめん、ごめん…」
「こっちこそ、ごめん、ごめん…」
互いに謝り続けた。
きっと、これから先、私達はもっと仲良くなれる。
そんな気がした。
そして、次の日。
教室に入ると、白銀が居て、渚が居て、……翼くんが居た。
「おはよう。渚。翼くん」
「おはよう。マキ」
「おはよう。マキちゃん」
もう、その事を心苦しく思うことは無くなった。
……嘘。
まだ、胸の奥がチクリとすることはある。
でも、大丈夫。
私は、ちゃんと、前に進むから。