藤原千花は、生徒会書記である。
彼女は一見、天然に見えるが、その実天然混じりの策士であり、邪悪である。
今現在の彼女との関係は、部活の先輩・後輩の関係である。つまり僕の部活はTG部である。
部活に関しては、結構エンジョイしている。
男子1女子3の構成ではあるが、大して気にしたことはない。普段から男よりも女と話すことが多いからだ。
まぁそんな話はいいとして、藤原千花、彼女をよく知る人物は、珍妙生物、ラブ探偵(笑)、ひどいものでは地球の癌、穢れた血脈と言われている。
しかし、そんなひどいあだ名がつけられても彼女の周りから人がいなくならないのは、四宮かぐやに勝るとも劣らない美少女さや周りを楽しませる愉快さ、そして
そして、生徒会ではそんなコミュニケーション能力を買われている。
こと生徒会における調査において、彼女の人脈の豊富さは随一である。
しかし、本人をそうやって褒めると、
「えへへ、もっと褒めて」
と、追加オーダーを要求してくるので、その後は、あまり褒めなくなったが。
つまり、僕にとって藤原先輩は、色々と困る所もあるがしかし、尊敬に足る人物なのである。
***
TG部での僕の愛称は、鳴滝である。どっかの世界の破壊者を倒そうとする変なおっさんではない。しかし、あのおっさんは結局何だったんだろう。
因みにその他のメンバー不治ワラこと藤原先輩、マッキー先輩こと槇原こずえ(同学年)、テラ子ここと、……以下省略。
いや、名前がわからなかったとかそんなじゃないよ、うん。
部活として、テーブルゲームを主に活動している。実際にアナログゲームも人が集まれば結構楽しいものである。
……マル秘の企画として、最後の一人になるまで殺し合う(いや本当の殺し合いじゃないけどね)バトルロワイヤルがあるのだが、まぁ認可はされないだろう。やってみたいけどね。
そんなTG部の本日のゲーム内容は、神経衰弱である。
「そんな訳でやっていきましょう」
不治ワラは、腕を大きく上げながらそう宣言した。
順番として、不治ワラ、僕、マッキー先輩、テラ子である。
因みに、この部活中に年功序列は存在しない。
全員が対等であり、罰ゲームもありである。(とは言ってもそんな過激な罰でもないのだが。)
「まず、私ですね」
そう言って、めくったのはエースの6である。
そしてそのまま次にめくったのはクローバーの3である。
まあ順当である。
次に僕は一枚目エースの4、二枚目スペードの5をめくった。
マッキー先輩は一枚目ハートのK、二枚目スペードの3をめくった。
「やっべ」
そして、次のテラ子はクローバーの3とスペードの3をめくった。
今回のルールでは、揃えた人はもう一度めくることが出来る。
次に引いたのは、一枚目ハートの3、二枚目スペードのJをめくった。
***
このままゲームの様子を文字で追ってもつまらないと思うので、ゲーム風景もそこそこに部活中の会話をメインにしよう。
「そういえば、不治ワラ。伊井野の様子はどうですか?
あれから、ちょくちょく生徒会室を訪れてるはずですが」
「ああ、ミコちゃんですか。なんか、生徒会について誤解しているみたいですよ。
前に来た時は、ちょうど仕事を一段落させて、みんなお茶してたときに来たんですよ」
しれっと二回連続で揃えつつ、新しいカードをめくっていく。
「そしたら、サボってると勘違いされたみたいで、特にゲームをやってる石上くんを中心に怒ってました」
「その石上くんも、よくそこでゲームやるよね」
テラ子がツッコミつつ、3回連続の揃えを行いながら話を続ける不治ワラ。
「まあ、生徒会室は敷地範囲外だからって言ってましたけど、そんなことお構いなしで没収されてました」
流石に4回連続するのは、
正直、石上の
伊井野はまぁあれで、自分を
と、生徒会での出来事への感想を終わらせ、次に僕の番になった。
聡明な人たちなら気づくと思うが、不治ワラはイカサマをしている。
今回のトランプの裏の絵柄はよくあるあのあみだみたいな感じの絵柄なのだが、よく見ると端の所の絵柄がそれぞれで違い、しかも数字に見える。
これが疑わない人や目の悪い人なら騙しきれるかもしれないが、残念ながらそれなりに疑い深く、また視力の良い僕には簡単にバレる。
では、何故僕がそれを指摘しないのか。
それは勿論、勝つためである。
言っておくが、僕は別に何事もフェアでなければならないとは考えていない。
そもそもこの学校のテストもそうなのだが、勝負ごとは完全なるフェアなど存在しない。
例えば、スポーツはその日の気温や体調、何を食べたなどの些細なことで勝敗が決まる。
そして、必ず勝てる戦いなどない。
努力とは、勝利するための確率を上げるための行為であり、裏を返せば、どんなに努力しても負ける時は負ける。
だからプロの世界には、強い弱いなどは相対的なものになる。
そして勝負事は本気で勝ちを目指すから面白いのであり、そのために自分が打てる手はなんでも打つことはなんらおかしなことない。
これもまた、勝負事において重要なことである。
例えるなら、テニス選手が流れを掴むために普段はしないサーブの打ち方をするようなものである。
そこに卑怯と呼ばれるものは存在しない。
それが戦いである。
つまり、ルールを自分に有利な方に先導するのも戦術の一種であり、卑怯者と呼ばれても最終的に勝てば正義、つまり勝てばよかろうーなのだ。
不治ワラを邪悪と評したが、ぼくも大概邪悪だった。
***
その後もゲームは続いていく。
現在不治ワラ14、僕12、マッキー先輩4、テラ子12である。
テラ子が妙に高いのは、マッキー先輩がいままででた数字の相方を引き出しまくっているからである。
そしてそのテラ子の番。
「それで、ミコちゃんが私こそが生徒の模範だーって、言うんです」
「「「それはない(ないね)」」」
全員一致で否定されるとなんでですか!?と驚いたように言う不治ワラ。
いや、なんでて言われても日頃の行いだろうというのはみんなの一致した意見だった。
しかし、伊井野は藤原先輩にそこまでの羨望があるのか。
つくづく勘違いの多い子である。
あれ、最初に尊敬してるって言ってなかったかっけ?だって。
尊敬するのと、盲目的にこの人は凄いと思うのとは違う。
それは、憧れが理解から最も遠い感情なのと一緒である。
尊敬するところはあっても、それはだめな所から目を反らす理由にはならない。
そこら辺はわきまえておかないといつかひどい目にあうのだから。
……あの子が成長するにはどうしたら良いのだろう?
石上への誤解を解消していく中で成長していけたらいいんだけどな。
そうこう話している間に、テラ子が他のすべてをめくり、優勝した。
……ヤベェ、負けた。
***
後日談、というか今回のオチ。
あれだけ不正した不治ワラと僕は見事に惨敗した。
さっき、あれだけ勝利について述べたのに普通にやっている人に負けた。
これがどれだけの恥を生むのかは想像しやすそうで難しい。
ありていに言って死にたくなった。
帰ろう。
見事優勝したテラ子改めギガ子は、マッキー先輩から゜を奪い、マッキー先ハイにした。
許さん。(何がというのもないが)
「もうすぐ期末ですから、今月の部活はこれで終わりですね」
「もう少し遊びたかったな」
そう話す藤原先輩と槇原を見ながら、僕は遠い目をする。
……またテスト期間か。
また戦いの日々が始まる。
おのれ、ディ○イドーーーーーー。
次回、専門家の戦いが始まる。