鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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中々うまく話を回せない今日この頃。


みこファイヤー

キャンプファイヤー。

私にとってのそれは、文化祭の象徴のようなものだ。

小等部の頃、高等部の後夜祭で見たキャンプファイヤーがとても印象的だった。

周りが暗い中で、ただ一つ、周りを照らし出す暖かな炎。

そして、その炎の周りで、みんなが笑って、踊ってる。

その光景が、私の心を魅了した。

そのキャンプファイヤーは、2年前に深夜まで居座る生徒やポイ捨て問題から、夜間の活動に町内会から許可が下りなくなった。

それはとても残念だと思っているし、だからこそ、風紀を守ることが大切なのだと思う。

……まぁ、最近は今まで言ってきたことのいくつかはやり過ぎなのではとも思うようになったけど。

正直、大分丸くなってきたなとは思う。

昔、いや一学期の頃だったら、そういうことを言ってたら、

 

『何、言ってるの!?そんなだから風紀が乱れるのよ!!』

 

って怒ってたと思う。

そんな考えから変わったのは、石上と仲良くなったからだろう。

石上はもう、そういうことはしていないけれど、自身の経験から、校則を破る側の気持ちというか、考え方を知れた。

そういう意味では、鳴山の提案通りになったと言えるのだろう。

ホント、あいつの手のひらの上にいるようで結構癪だ。

……でも、少しだけ感謝もしている。

話が脱線した。

まぁ、つまり、私はキャンプファイヤーが好きだ。

だから、いつかキャンプファイヤーをもう一度したいと、思っているのだ。

 

***

 

「えっ……、僕と伊井野と白兎で文化祭実行委員のヘルプですか……」

 

文化祭が大分近づいてきた放課後。

会長から、文化祭実行委員のヘルプに入るように頼まれた。

 

「ああ、明日にはもう入って欲しいそうだ」

「生徒会の方の仕事は大丈夫なんですか?」

 

最近、どことなく疲れているような様子のある鳴山が会長に訊くと、

 

「ああ。生徒会の方は残ったメンバーの方でフォローするからな」

「そうですか。なら大丈夫です」

「文実て何をするんですか?」

 

石上が訊くと、会長が答える。

 

「企画の精査。広報や装飾。式典の計画と会場の割り振り。器材管理にパンフ作成。ほかにも、生徒との折衝に見回り雑用……、と言い出したらキリがない位に仕事がある」

「なんだか大変そうですね」

「まぁ、良いじゃん。優は伊井野のフォローをしてればいいでしょ」

「何よ。私が役立ったないとでも言うの?」

 

少し、イラッときて言う。

いやでも、これは普通にイラッとするだろう。

 

「まぁ、行ってみれば分かるでしょ」

 

そう、鳴山は言った。

馬鹿にして。

どういう意味だが分からないけど、やってやろうじゃない!

 

***

 

「それじゃあ、みんなアゲていくよ~~!!」

「「「ウェーイ!ウエェェェイ!!」」」

「「「ウェイ、ウェイ、ウェイ、ウェイ、ウェイ、ウェイ……」」」

 

………?!?!

えっ、ちょっと、えっ!?

 

「ええーっ……、何このテンション凄く苦手………、……ハッ!」

 

そうか。

鳴山はこれを見越していたんだ。

私が、こういうテンションが苦手だから……。

だから、ああ言って……。

チラッと鳴山の方を見る。

 

「ウェーイ!ウェーイ!ウェーーイ!!」

「誰!?」

 

えっ、ちょ、誰!?

かつてない程、テンションが高いんだけど!?

 

「鳴山、どうしたの?」

「何を馬鹿なことを言っているんだ、伊井野。文化祭とは!僕のような、文化系が盛り上がる場!ここで、テンションがアガないなんて選択肢はない!!」

 

断言された。

それはもう、まっすぐに。

否定の余地などないかのように。

ええ……。

その理論だと、私も盛り上がらないとおかしいみたいになるんだけど。

いや、私が文化系かと聞かれたら微妙だけど、でも、どちらかというと文化系だと思う。

別に文化祭が楽しみじゃない訳じゃないんだけど。

それでも、ここまでにはならない。

鳴山って、どちらかと言うと陰の部類だと思ってたけど、意外と陽なの?

うん?それじゃあ、石上は……

 

「ウェーイ!」

「石上もなの!」

 

そんな、石上まで乗っかって……

そんな……

 

「なんで…?」

「いや、二回目だからだな」

「えっ?」

 

石上が反応した。

それにしても、二回目?

 

「どういうこと?」

「いや、体育祭の時に今のお前と同じ状況になったからな…。経験則というか、こういうのは流れに乗った方が色々と楽なのを学んだ」

「そうなんだ…」

 

ああ、そう言えば言ってたわね。

周りのテンションについていけなかったって。

大変そうだとは思っていたけど、こんな状態だったのか。

実際にその中に入って初めて分かった。

というか、それに即順応出来る鳴山とは……。

 

「まぁ、伊井野が苦手だろうというのは分かってるから。無理して、合わす必要はないぞ。いざとなったら、フォローするし」

「う、うん」

 

こういう所、なんだよね。

こういう所が好きなんだよね。

顔が赤くなるのを自覚する。

でも、石上に頼ってばかりもいれない。

恩返しをするっていう目標が更に遠のいちゃう。

だから、ある程度自分でどうにかしないと。

 

***

 

「それでは文化祭会議の方始めます!まず前回お願いしてた文化祭のスローガン案を持ってきた人はいますか?」

 

文化祭の実行委員長である子安先輩司会の元、会議が始まった。

 

「はいはーい」

「はい。小野寺さん!」

 

同じクラスの小野寺さんが手を挙げた。

そして、そのままスラスラと自身の考えたスローガンを書いていく。

 

「やっぱ秀知院はパないって思いを込めて、こんなのはどうでしょう!」

 

青春だしん!

やばたにえんなチカラァ!!

~秀知院半端ないって~

 

いやなしでしょ!!

こんなの、ノリとテンションの産物じゃない!

こんなの即、却下でしょ。

 

「いいね、エモエモ!」

「ありだわー」

「!?」

 

ありなの!?

これはありなの!?

分からない。

考え方が分からない。

 

「ねぇ、石上」

「……陽キャの皆さんはみんなこういうノリだ。これでも、結構真面目に考えてはいるんだ」

 

これで真面目って言われても。

大分、わるふざけの産物にしか感じないんだけど。

……こういうのをフザケているように感じて、否定するのが私の悪い所なんだろうけど。

う~ん。

それでも、納得いかない。

 

「待ってください、子安委員長!そんな流行に乗っただけのようなスローガンはこの秀知院に相応しくありません」

 

よかった…!

マトモな人もいるのね……!

でも、そうよね!

おかしいもん、あのままじゃ…。

 

「もっと高偏差値なスローガンがよろしいかと」

「高偏差値なスローガン…?どういうのかな?」

 

そうして、スローガンを書いていく。

 

「それは……こういうのです!

 

ぽきたw魔剤ンゴ!?

ありえん良さみが深いw

秀知院からのFFで優勝せえへん?

そり!そりすぎてソリになったwや

漏れのモタクと化したことにNASA✋

そりでわ、無限に練りをしまつ

ぽやしみ~

 

「!??」

 

待って!

どこからツッコめばいいの!!

なにこれ!?

酔っ払っいの言葉にしか感じないんだけど!

というか、何を伝えたいのかさえ伝わってこないんだけど!

 

「京都大学のスローガンを参考にしました」

「京都大学そんななの!?」

 

いくらなんでも、奇を衒いすぎでしょ。

というか、最近のラノベのタイトルみたいな長いスローガンである必要がないでしょ。

しかも、さっさと元のものを見たけど、変わってなさ過ぎでしょ。

せめてもう少し改変しろよ。

 

「み、皆さん……!もう少し、真面目にやりましょう!!」

「いや、真面目なんだけど」

 

小野寺さんはスマホ弄りながら言う。

 

「前々から思ってたけど、伊井野って自分と違う価値観を持つ人を否定しがちだよね。そんなことばっかしてたら話進まなくない?」

「だ…だって、こういうのはちゃんとしなきゃいけないから……」

「じゃあ、あんたの思う良いスローガンを言ってみなよ。言ってる事イマイチピンと来ないんだよね」

 

気づくと、周りから視線が集まっていた。

うう、怖い。

選挙の時に克服したつもりだったのに。

それでも、怖い。

 

「でも、確かに伊井野の言う通り、ちょっと奇を衒い過ぎているというかウケを狙いすぎてはいるよな」

 

隣から声がした。

そこに居たのは、石上だった。

 

「私も優くんに賛成かな。もっと純粋にさ。私たちがやりたい文化祭をそのまま言葉にしてみようよ!」

 

更に、つばめ先輩の言葉で周りが落ち着いた。

凄い。

なんというか、凄く落ち着いた雰囲気がある。

 

「大丈夫。落ち着いていいからね」

「はい……」

 

慰められた。

それに、石上にも助けられた。

さっき、自分で決意した筈なのに。

情けない。

 

「とりあえずスローガンは一旦持ち越しで、生徒からのいくつか質問があるので回答しましょう」

 

ひとまず、スローガンはスルーするらしい。

 

「『販売価格をもっと上げたい』『原価率の下限を撤廃してください』どうして駄目なんだろ?」

「子安先輩!それについてはワテがお答えしますので」

 

眼鏡の人は言う。

 

「ガイドラインでは地域交流を目的にした非営利活動に限り臨時営業許可は不要なんですな。つまり、儲けを出す目的での出店はあきまへんちゅーワケですわ」

 

確かにガイドラインにはそう書かれている。

でも……

 

「補足なんですけど、その手のことなら出た利益を学校に寄付や経理計上にすれば問題ないです」

 

鳴山が言う。

私が言いたかったことを。

 

「次!『クレープ屋台はなんで駄目なんですか?』」

「それは僕から…、基本的に保健所の指導で飲食物は直前に熱処理をいたものしか使えないんです。だから…」

 

さっきのとはまた違う眼鏡の人が言う。

 

「補足。確かに乳製品などは弾かれますが、100%植物性油脂の冷凍ホイップクリームだったり、ジャムなどで代用も出来ます」

 

そして、鳴山がまた補足する。

その繰り返し。

一切の滞りなく会議は続いている。

なんだか、鳴山は補足された人たちに睨まれているようだったけれど、本人は気付いているのか気付いていないのか反応しない。

まぁ、あいつのことだから気付いていないことはないんだろうけど。

でも、あいつは凄い。

平然と話せるんだから。

本当は、鳴山が補足していたことは私も知っていた。

でも、私は言えなかった。

私は、出来なかった。

 

 

「えっと、これが最後で『キャンプファイヤーの実施を望む』」

「是非やりましょう!」

 

思わず大きな声で言った。

この時、私は周りも賛成してくれると思ったけれど。

周りは静まり返っていた。

 

「う~ん。流石に、それは難しいかなぁ」

「……もう近年は条例も厳しくなってきていますしね。伊井野さんが選挙の演説で言った通り、火災対策や治安の問題、自治体の許可などが厳しくなっていますからね」

 

そんなことは分かっている。

難しいってことはよく……。

でも!

 

「みんなで頑張れば…」

「あのさ。理想を語るのはいいけどさ。ぶっちゃけ人手が足りないから伊井野もここに借り出されている訳じゃん」

 

「結局、誰がやるの?ソレ」

 

……確かにその通りだ。

人手が足らないから私達は借り出せれている。

ここで、キャンプファイヤーをやるとなったら相当大変だと。

周りからの視線が酷い。

怖い。

やっぱり、怖い。

でも…、でも…、私は…

 

パン

 

背中を叩かれた。

隣を見ると、石上が私の方を見ていて、

 

「大丈夫だ。落ち着け」

 

そう、言ってくれた。

私を信じてくれている。

……本当に、石上には助けられてばかりだ。

返しても返しきれない。

でも、今やるべきなのはその反省じゃない。

深呼吸をする。

息を落ち着け、真っ直ぐ前を見る。

 

「確かに条例は厳しくなっていまし、自治体も渋っています」

「ではそれは何故か。それは私たちが大人から信用されていないからです」

「じゃあ大人からの信用を勝ち取る為に必要な事とは何か?」

風紀です。風紀委員とは大人から信用をもぎ取る仕事のことを指すんです」

 

ここからが、本番だ。

 

***

 

後日談。というか、今回のオチ。

結局、その後、色々と批判とかも飛んだりしたんだけど、

 

『それじゃあ、生徒会からのヘルプ組で交渉をします。その他の仕事の方は勿論やるので、挑戦させてやれませんか?』

 

という、鳴山と石上の頼み込みから、基本的に私達でやることを条件に許可された。

それから、まず町内会に許可を取りに行ったのだけれど、

 

『ああ、お嬢ちゃんかい。いつも、頑張ってて偉いねぇ』

『ああ、いつもの小さい子ね。良いんじゃないかしら?』

『そうだな。お嬢ちゃんはいつも頑張っているから良いぞ』

『えっ!?本当に良いんですか!?』

『色々と条件が付きはするが、だが、お嬢ちゃんなら良いだろう』

 

と、予想外な位にスムーズに町内会の許可は下りた。

それから、消防団に文化祭最終日の防災訓練の申請をして貰って、消防車一台が来ることになり、校長の許可も貰った。

今は小野寺さんと近隣住民に周知して回っている。

 

「あと何軒?」

「マンション含めたら32…」

「うわ、キッツぅ…」

 

疲れたような顔になりつつも、しかし、止めるつもりは無いらしい。

小野寺さんは町内会に行くときも、付き添ってくれた。

あれだけ、否定的な意見も出していたのに…。

私には、その理由がイマイチ分からない。

 

「小野寺さん。…なんで手伝ってくれるの?」

「はぁ?そりゃ手伝うでしょ」

 

さも、当然のような顔をして、小野寺さんは言う。

 

「わたしだって、キャンプファイヤーとかめちゃやりたいし!」

 

想像しただけでアガるよね~と、小野寺さんは言う。

……そっか。

小野寺さんは現実的にものを見て言っているだけで、基本的に楽しいことはやる人なんだ。

その為に努力出来る人なんだ。

 

「うん。めちゃアガる」

「所でさぁ、伊井野」

「何?」

「石上と付き合ってんの?」

「ブゥーーー」

 

私は思わず吹き出した。

え?え?え!?

 

「な、なんでそう思うの?」

「いや、いつも仲よさげに話してるし、会議の時も石上が励ましてたし、多分、クラスの大半がそう思っているよ?」

「え、え~~!?」

 

そ、そんなに?

いや、確かに一緒にいることも、生徒会の仕事もあって多いけど、そんな風に見られてたの?

嬉しいけど、でも、それは……

 

「何一人百面相してんの?」

「え!?いや、うん」

「確かに2学期が始まった位ではそんな状態だったよね。1学期の頃はよく喧嘩してたから、実は話題にもなってたよ」

「そうなの!?」

 

うう、そんな話題、聞いたことも無かった。

もしかして、鳴山はそのことを知ってたのかな?

絶対に知ってただろうな。

それを、敢えて言わなかったんだろう。

私達に気を使ってなのか、後でからかうためなのか…。

……両方な気はする。

 

「で?実際のとこどうなの?」

 

真顔で小野寺さんが尋ねてくる。

 

「……付き合ってないよ」

 

正直に言うかちょっと悩んだけど…。

嘘をつく理由もないし、変な誤解されても石上が困るだけだから。

 

「ふぅ~ん。そうなんだ」

「うん」

 

疑うような目で小野寺さんはこっちを見る。

でも、嘘はない。

……ただ、私があいつのことを好きなだけだ。

 

「てっきり、伊井野は石上のことが好きなのかと思ったけど」

「えっ!?」

 

バレてる!?

えっ、なんで!?

 

「あっ、やっぱそうなんだ」

「どうして!?」

「いや、あんな噂が流れるだからんだから、当然っしょ」

 

確かに、あんな噂が流れるなら当然よね。

……生徒会の人たちにもバレてるし、私って分かりやすいのかな?

 

「ま、深くは訊かないけど、石上って噂で誤解されてるけど良い奴だよね」

「えっ、う、うん」

 

動揺しながらも頷く。

でも、この人も石上のいい所を知ってるんだ。

そう言えば、体育祭の応援団でも一緒だったんだっけ?

………。

 

「意外とモテるかもしれないよね」

「えっ?誰が」

「石上が」

 

石上が…。

おかしくはないのかもしれない。

あいつが良い奴なのは確かで、噂の種の中等部の事件もあいつの正義感によるものだった。

だから、もし、そんな噂が無かったら。

もし、あいつがみんなの輪の中にいたら。

きっと、あいつは……

 

「早めに動いた方が良いんじゃない?」

「……でも……」

 

そこから、僅かな沈黙があった。

でも、その僅かな時間が私には大分長く感じた。

 

「ま、どうするのかは勝手だけど」

「うん」

 

そうして、心に少しのしこりが残った。

 




鳴山くんには、下心はない。
ただ文化祭が楽しみなだけです。

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