文化祭も徐々に近づいてきた。
あの計画も、鳴山が手伝ってくれているお陰で大分スムーズに進行している。
本当に、あいつに色々と助けられている。
決して、目立った活躍をしている訳ではない。
しかし、影で俺たちの為に動いてくれているのは分かる。
本人はその事をあまり言及はしないが。
そんな鳴山は、最近疲れた顔をすることが多い。
それは、一瞬見せるだけですぐにいつもの表情に戻るが、以前まではそんな表情をみることは無かった。
いつ頃からかを考えると、やはり、期末試験からだろう。
あの日を境に、疲れた表情を見せるようになった。
原因は分からない。
文化祭のことかと思ったが、文化祭の仕事は元気ハツラツ過ぎる程に働いているし、疲れた表情も文化祭の仕事が始まる前に既にしていた。
となると、別の事が理由だろうがそれが何かが分からない。
俺はあいつのことをあまり知らない。
情報収集や事務処理に長けている事。
実は性格が悪い事。
石上や伊井野、それに藤原をからかいつつも大切に思っている事。
その位しか分からない。
だから、あいつに何をすれば助けになるのかは分からない。
だが、出来る限りの手助けはしたいと思っている。
俺も助けられているからな。
***
「ここが中等部の会場か」
今日は中等部の文化祭の日。
俺は、高等部の参考にする為、それと圭ちゃんの様子を見る為にここに訪れていた。
「あれ?白銀先輩?」
「うん?鳴山?」
中等部の会場の入口に、鳴山がいた。
「ああ。そう言えば、妹が中等部に居るって言ってましたっけ?」
「そう言うお前はなんで来たんだ?」
「後輩の様子を見に来たんですよ」
後輩?
ああ、鬼ヶ崎だっけ?
彼女の事か。
彼女の様子をね…。
「……随分と気にかけてるんだな」
「まぁ、友人ですからね。そりゃあ来ますよ」
「そうか」
本当に友人というだけなのか?
…………。
まぁ、今はいいか。
「どうせですから、一緒に行きませんか?」
「……そうだな」
鳴山からの誘いに乗った。
一人で回るのも悪くないが、こういうのは複数で回る方が楽しいだろうしな。
それに、こいつのことをよく知る良い機会だ。
「さて、どこから回るか」
「先輩の妹は何をやっているんですか?」
「たこ焼きだ」
「なら、そこから行きましょう」
***
「…………」
「…………」
…………。
何を話せば良いのか分からん。
いや、知ろうとは言ったが、よくよく考えれば、こいつと普通の話題で話したことがない。
基本的に恋愛頭脳戦のことばかりだ。
日頃から伊井野も含めて後輩と話すことがあまりないからな。
石上位だ。
会長として、それはマズイよな。
どうにかしなくては。
「先輩の妹って、どんな子なんですか?」
「!」
あっちから、話題を振ってきてくれた!
しかも、丁度良さげな話題を!
助かるな。
「圭ちゃんは、優秀な妹だよ。この秀知院学園の中等部で会計を勤めているし、成績も優秀。家の家事もしてくれるし、家計も手伝ってくれる」
「へぇー。良い妹ですね」
「ただ、反抗期なのか、注意を全然聞いてくれなくてな。仕方のない事かもしれんが悩んでいる」
「ま、確かに反抗期、というか思春期の女の子は男家族に厳しくなることは多いらしいですしね」
「お前は兄弟いないのか?」
「居ますよ。妹が」
へぇー。
妹が居たのか。
あれ?
今、おかしな所が無かったか?
「妹が居るのにらしいって、どういうことだ?」
「いえ。思春期には入っているとは思うんですけど、なんというか、変わってないんですよね。全体的に」
「子供っぽいということか?」
「まぁ、それもあるんですけど……、実の妹のことをアレコレ言いたくないんですけど、色々とだらしないんですよね」
「だらしないって……」
どういう意味だ。
まぁ、鳴山自体、変な所はあってもしっかりはしているし、その反動か?
しっかり者がいると、残ったやつは奔放になるとは聞くし。
まぁ、うちの奔放担当は
「まぁ、でも、兄妹仲は普通に良いですよ」
「……それは良かったな」
家族が仲が良いのは良いことだ。
家族の関係は、必ずしもうまくいくとは限らないんだから。
……いかん、いかん。
今、わざわざ考えることじゃない。
と、話していると圭ちゃんがやっている屋台に着いた。
「おう圭ちゃん」
「兄さん…、本当に来たのね」
「彼女が妹さんですか?」
「ああ、そうだ」
鳴山は俺の返事を聞くと、圭ちゃんに軽く一礼をして、圭ちゃんもまた礼をした。
「兄さん、この人は?」
「ああ。高等部の生徒会庶務の鳴山白兎だ。今日はたまたまここで会ってな。どうせなら一緒に回るかと誘われた」
「…ああ。いつも兄がお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそ」
と、またお互いに頭を下げる。
「あーあ!あなたが、鳴山さんだったですね!」
と、出店の奥から、元気がありそうな、ツインテールのどこかで見たような女の子が出てきた。
「姉様から話はよく聞いています!」
「…ああ、藤原先輩の妹ですか?」
「はい!」
ああ、成程。
確か、藤原には妹が居るのは聞いていたな。
彼女がそうなのか。
「あれ?でも、姉様のことを確か名前で呼んでるじゃありませんでした?」
「ああー、いや、まぁ、妹の前で姉を名前呼びはどうかなーっと思ったからなんだけど」
「いえいえ。気にする必要はありませんよ」
そう、藤原の妹は言った。
……意外と普通だな。
藤原の妹と言うからには相当な変人なのではないかと疑っていたんだが。
それこそ、さっきの話通り、奔放な姉が居ることでしっかりしているのかも知れない。
「ところで、ご注文は?」
「それじゃあ、たこ焼きを2つ」
圭ちゃんが尋ねると、鳴山が注文する。
「どうぞ」
「ありがと」
そう言って、たこ焼き2つのお代を払った。
いやいや、それは……
「おい、鳴山。その位、自分で…」
「気にしなくていいですよ。千花先輩にも部活でよく奢らされてますし」
「そこで藤原を出すのは、何か違うだろ」
ふじわらっ…。
そんなことしてたのか。
まぁ、鳴山の方は対して気にもしてなさそうだが。
しかし、生徒会長としてそれは威厳がないだろう。
「しかしだな…」
「日頃のお礼なんですから、大人しく受け取ってください。どの道、ここに長居しても邪魔になるだけですし」
「……それもそうだな」
確かに、ここに長居していたら圭ちゃん達の邪魔になるし、日頃のお礼と言われたら受け取るしかない。
……お礼を言うのは、俺の方の筈なんだがな。
「じゃあな。圭ちゃん」
「…後輩に迷惑かけないようにね」
やはり、素っ気ない。
結構、傷つくな。
そうして、圭ちゃんの所からある程度離れた所で鳴山はもぐもぐと食べながら言う。
「良い子ですね。妹さん」
「……そうだな」
しっかりとした子にはなっている。
実際に、家計簿も付けてくれているし、バイトもしてくれている。
色々と言うことはあっても、出来は良いしな。
「それに、結構可愛い所もあるみたいですし」
「?何の話だ?」
「こっちの話ですよ」
鳴山は笑いながら言った。
こいつはたまにこういう所がある。
急に何かを知ったかのように言う。
そして、普通では知らない筈の事を言う。
一体、どうやって調べているのやら。
「さて、そろそろ美青の所に行きますか」
「ああ」
***
と、言う訳で鬼ヶ崎の居るクラスに来た訳だが……
「そう言えば、何をやるのか訊いて無かったわ」
「ということは、
「ええ。知りませんでした」
そのクラスの出し物とは、
「「「いらしゃいませ。御主人様!」」」
メイドカフェだ。
「いや、まぁ、確かに文化祭のテンプレ的なものではあるけれども」
「中々、実際には見ないよな」
メイドカフェ。
アニメとか漫画ではよく見る気がするが、実際に見ることがあるとは思わなかった。
なんというか、入りづらい雰囲気がある。
一般人にとって、メイドカフェはかなり入りづらい。
というのも、どうしてもオタクのイメージがつくだからだ。
主に秋葉原辺りのイメージが強い。
あくまでイメージとは言えども、そう思われるのはあまりよろしくない。
生徒会長としても、恋愛頭脳戦をしている側としても。
「まぁ、入りますか」
「おいおい、勇気があるな」
「別に中学生の出し物ですし、こっちは知り合いに会いにきただけですから」
「確かにそうだが」
中々勇気があるというか、まぁ、こいつも大分オタク要素あるしな。
案外、こういうのは慣れているかもしれない。
「言っときますけど、
「何だ、急に」
「いや、勘違いしていそうな顔をしていたので」
怖いな。
こっちも顔に出ていたかも知れないが、それにしても殆ど瞬間的にツッコミいれてくるとはな。
俺が思っている以上に洞察眼が鋭いのかも知れない。
「何名様ですか?」
「2名です」
「はい、こちらにどうぞ」
そうして、テーブルに座ると、
「先輩!来てくれたんですね!」
「おう」
丁度、鬼ヶ崎が来た。
そのメイド服はひらひらとレースがついていて、スカートの丈も短い、アニメで典型的にあるような萌え?を重視したメイド服だ。
しかし、嬉しそうだな。
やはり、こうして会いに来てくれると嬉しいものなのか。
「どうですか、この服。似合います?」
ぐるっと一周しながら言う。
ふむ。
まぁ、似合っているんじゃないだろうか。
「う~ん。あんまりかな」
「そうですか?」
「うん」
えっ、こういうのはひとまず褒めるんじゃないのか?
「因みにどの辺があんまりなんですか?」
「まず、変に萌えに走った所だな。こういうのが好きなんだろうーって、勘違いした産物なんだよな。そもそもで、本来のメイド服は作業服なんだから変に華美にする必要がないんだよ。変にヒラヒラしたりする必要がないんだよ。それに、本来のメイドって主人に意見したりとか、主人と喧嘩したりとかするし。実際のメイドを学んでから、こういう営業をしろって話なんだよな。大体…」
「いえもう大丈夫です。途中から脱線してますし」
意外と饒舌なんだな。
というか、この言い方はスイッチの入った石上を彷彿させる。
類は友を呼ぶとは言うが、こういう所が似ているのかもな。
「ええと、纏めると先輩はこのメイド服が好きではないと」
「まぁ、そういうことだ」
そういうことなのか?
いや、確かにこのメイド服の批判ばかりだったが。
「それで、ご注文は何になさいますか?」
「じゃあ、チャーの為の
「おい、そんなの書かれてないぞ」
「かしこまりました。会長さんは何になさいますか?」
いや、分かるのかよ。
どんだけ通じ合ってんだ。
いや、今はそれはいいか。
さて、何を注文するか。
……よし、これにするか。
「焼きそばで」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
そう言って、鬼ヶ崎は注文を伝えに言った。
10分ぐらい色々と話しいたら、注文した品が出てきた。
鳴山の前には炒飯、俺の前には、焼きそばが出された。
成程。
チャーの為の飯を縮めると炒飯になるのか。
……だったら、普通に炒飯でいいんじゃないのか?
なんで、わざわざ面倒な言い方をするんだ。
それと後、もう2つ。
一つは、なんで焼きそばにマヨネーズでハート型なんだ?
いや、オムライスでハート型というなら分かるんだが、焼きそばでもやるのか?
そして、一番おかしいのはこれ。
炒飯に山盛りのマヨネーズが乗ってる
……いや、マジでなんでこうなった?
そもそも、炒飯にマヨネーズでさえ異色にも程があるのに、この山盛りって。
なんだろう、例えるならそう。
犬のエサ。
いや、犬でももうちょっとマシなもの食べているだろうが、その例えが一番合っている気がする。
「おい、美青」
「なんでしょう?」
「僕が頼んだの、土方スペシャルじゃなくて宇治銀時丼なんだけど」
いや、なにそれ!?
そもそも、お前が頼んだのは炒飯じゃないのか!?
なのに、なんで全然別物の名前が出るんだ!?
しかも、どちらにしてもゲテモノの予感がするものを!?
「失礼しました。今から作り直してきます」
「いや、いい。土方スペシャルでも問題ないし」
「そうですか。それでは、ごゆっくり」
そう言って、次の所に行った。
行ったのを確認した後、鳴山はその得体のしれないものを食べ始めた。
「おい!それ、普通に食べて大丈夫なのか!?」
「まぁ、マヨネーズの味が濃いのは確かですね。もうカロ爆にも程がありますが、まぁ、あいつが持ってきたものなので…」
そう言うと、鳴山は食事の方に集中しだして、話しかけても返事がこなくなった。
顔色一つ変えずに淡々と食べている。
よくアレを食えるな。
俺なら、2、3口でギブアップする。
そうして、米粒一つ残さずに食べきった。
「ふぅー。食った」
「よく食いきれたな」
「別に言った程でもありませんよ」
涼しい顔でそう言った。
いや、しかし、本当に凄いな。
アレを食い切るなんて…。
そんあ風に考えていると、鳴山は腕時計で時間を確認して、
「そろそろ行きますか。予定もありますし」
と、席を立った。
しかし、予定?
「予定とは何の事だ?」
「これですよ。これ」
そう言うと、彼は小さな紙を見せていた。
***
鳴山の見せた紙。
そこに書かれていたのは、どうやら待ち合わせの紙だったらしい。
指定された場所で待っていると、
「お待たせしました」
「そんなに待ってないよ。それじゃあ、どこから行く?」
「じゃあ、占いの館いきましょう!」
そうして、鳴山と鬼ヶ崎が歩いていく。
俺もそれに付いて行ってるのだが…
「それで、先輩はどういうコスプレが好みなんですか?」
「その話引っ張るの?そうだな。巫女服とかブレザーかな」
「巫女服はともかく、ブレザーってどういうことですか」
「いや、まぁ、制服とか何だけどさ、でもこの秀知院の女子の制服って一体化してるじゃん。だから、結構イマイチなんだよね」
「……先輩。脱がすこと前提で話してません?」
「いやいや、そんなことないぞ。普通に可愛いかどうかの話をしてるし。巫女服とかは脱がしづらいだろ」
「え、脱がしづらいのを脱がすのが良いんじゃないですか?」
「いや、否定はしないけれども。人を脱がすのが好きな人みたいに言わないでくれる?」
「言いませんよ。したことないんですし」
「コラコラ、公共の場でそういう事言わないの。そもそも付き合ってないんだからしないのが当たり前なの」
「まぁ、確かにそうですけど」
……これ、俺居る?
目の前で凄くイチャイチャされてるんだけど。
俺は何でここに居るんだろう?
何でこんなの見せられてるんだろう?
しかも、何で内容がちょっとアダルトなんだよ。
というか、俺の事はこいつらにちゃんと見えるんだろうか?
忘れられてる気がするんだが。
「ああ、ここです」
そう言って、鬼ヶ崎が指差したのは大きく看板に占いの館と書かれていた。
……占いの館ねぇ。
「それじゃあ、入りますか。ほら、白銀先輩も」
「ああ、……忘れられてなかったのか」
「忘れる訳ないじゃないですか」
いや、忘れてなかったとしたらしたで、扱いが結構酷くないか?
一応、生徒会長なんだが……。
そんな考えもそこそこに二人と一緒に中に入る。
内装は大分凝っている様子だった。
「へぇー。結構、凝ってるな」
「はい。このクラスは3年の中でも美術に強い人が多いですから」
「そうなのか」
……やっぱり、二人だけで行けば良かったんじゃないか?
凄い場違いに感じる。
「では、こちらへどうぞ」
「ああ、ありがとう」
そうして中に入ると、占い師の格好をした女子が居た。
「初めまして、鳴山先輩。美青ちゃんがお世話になってます」
「……ええと、もしかして?」
「はい!赤崎美玲です!」
?
どういう関係だ?
鬼ヶ崎関連なのは間違いなさそうだが。
「美青に聞いてはいたけど、思っていたよりも元気そうで安心したよ」
「いえ、こちらも見えない所で随分とお世話になったようで、ありがとうございます」
「言われる程のことはしてないよ」
そう言って、鳴山は笑った。
駄目だな。
どういう関係なのか見えてこない。
何やら、鳴山に恩があるということ位しか分からない。
というか、俺が完全にアウェーなんだが。
「まぁ、お話はまた今度にして!今日は何を占いますか?」
と、そこでやっと本来のやるべきことをするようだ。
しかし、占いか。
まぁ、聞いておいて損のある話ではない筈だ。
「それじゃあ、まずは白銀先輩の恋愛運を占いましょうか」
「お、おい」
「どうせ、占う内容はそんな感じでしょう?だったら良いじゃないですか」
そう言って、鳴山は俺に近づくと、
「あの計画で決めるって、決めたんですし」
「……ああ、そうだな」
そうだ。
俺は決めたんだ。
だからこそ、自信をつけるにこしたことはない。
「俺は恋愛運を占って貰おう」
「分かりました。それでは、生年月日や血液型などをこちらに。勿論、後で処分致しますので」
「ああ」
そう言って、スラスラと書く。
それを受け取ると、そこから占い出した。
「はい。出ました。ふむふむ成程」
「どんな感じなんだ」
「結果を正直言わせて貰うと、前途多難ですね」
「前途多難?」
確かに現状、相当に前途多難なのは確かだが。
「はい。好きになる相手も相当に面倒で、付き合うまで、そして付き合いだしてからも沢山のトラブルとすれ違いに見舞われます。挫けそうになる時も多々あるかもしれませんが、そこを乗り越えれば、最上の幸せが手に入るでしょう」
……分かってるよ。
あいつと付き合うのは多くの困難があること位。
でも、それでも、やれるだけのことはやるしかない。
「それともうひとつ。大きな転機が近いようです。その時に向けて、出来る限りの準備をしておいた方がよろしいでしょう」
「分かった」
大きな転機。
きっと、あの計画のことを指しているのだろう。
その為の準備。
……やるしかない。
しかし、随分と具体的と言うか、こちらの現状を捉えているような結果だな。
「ありがとう。参考にさせて貰うよ」
「はい!それじゃあ、次は……鳴山先輩」
「おう。でも、美青は良いのか?」
「私はもう個人的にしてもらっているので」
「そうか」
そう言うと、鳴山は椅子に座った。
「それじゃあ、何を占いますか?」
「そうだな。う~ん。じゃあ、勝負運を」
「勝負運ですね。分かりました」
そう言って、占いだした。
「しかし、何でまた勝負運なんだ?」
「なんとなくですけど。特に深い意味はないです」
鳴山はきょとんとした顔でそう言った。
なにかあるんじゃないかとも思ったが、そうではないらしい。
「ええと、鳴山先輩の勝負運はですね。なんというか、不安定ですね」
「不安定?」
「近い将来に大きな勝負があるそうなんですが、その時の勝負運が凄まじい勢いで変化し続けているんです。完全に振り切れることはないんですけど……」
?
イマイチ、分からんな。
というか、どういう占い方をしてるんだ?
「成程ね。大体分かった」
いや、分かったのかよ。
俺は全然分からんぞ。
「その大きな勝負が起きるのは、ほぼ確定なのか?」
「いえ、可能性としては五分五分位です」
「分かった。ありがとうな」
「いえいえ、お役に立てなくてスミマセン」
そう言って、鳴山は席を立つと、
「それじゃあ、次の所行くか」
と、占いの館を出て、鬼ヶ崎もそれに続いた。
……いや、ちょっと待てよ!
***
後日談。というか、今回のオチ。
「なぁ、俺が一緒に行く意味ってあったか?」
「なかったかもしれないですね」
と、俺の疑問に対して考える様子もなく、詫び入れる様子もなく、鳴山はそう言った。
いや、あの占いの館をでた後も色々あったのだが、なんというか、俺そっちのけでひたすら鳴山と鬼ヶ崎がイチャイチャしているだけだった。
鳴山が買った今川焼きを二人で食べたり、鬼ヶ崎が射的で当てたゲーム機をそのまま鳴山にあげたり、その他にも色々とやっていた。
本人達はすこぶる楽しそうに過ごしていたから何も言えなかったが、俺はただそこに立ってるだけだった。
今なら、四条の気持ちがもの凄く分かる気がした。
いや、四条の場合はもっと酷いが。
「え?でも私、白銀先輩の方は話しかけてこなかったから、てっきり静かに見るのが好きなのかなって思ってましたけど?」
「いや、美青。白銀先輩は大して関わっていない後輩といきなり喋るとか出来ないタイプの人だからな。陽キャのあのガンガン行こうぜのタイプじゃないから」
「ああ、成程」
確かに、俺に陽キャなノリをすることは出来ないし、事実その通りなんだが、言い方があるとは思わんのか?
というか、この文化祭でのノリを見ていて確信したが、やっぱりお前、基本的に藤原と同じ
「あっ、ゴメン。トイレ行ってくるわ」
「ああ、はい。行ってらしゃい」
そう言って、鳴山は結構な速さでトイレに向かった。
「……もしかして、土方スペシャルがあたっちゃいましたかね?途中から青い顔してましたし」
「え、青い顔なんてしてたか?というか、何故あんな料理?をだしたんだ?」
「いや、最初は軽いジョーク位の感覚で、後ろには普通の炒飯もあったんですけど、鳴山先輩が普通に頂いちゃうから…」
どうやら、あくまでただのシャレのつもりだったらしい。
鳴山がそれに気づかずに……、いや、どうなんだろうな?
鳴山がそれに気づかないことなんてあるのか?
あの察することにかけては、生徒会一のあいつが。
「なんでしょうね。鳴山先輩は何でも無いような顔をして、大変なことばかりしているんですよね。本当は疲れ果てている筈なのに」
「確かに、色々と働いては貰っているが…」
「多分、白銀先輩が思っている以上に動いていますよ」
さっきまでのふわふわしたような雰囲気だった彼女は、真面目な、静かな雰囲気を纏っていた。
「最近、露骨に疲れた表情が多くなっていますし、そろそろ限界も近いのかもしれません」
「露骨?確かに、疲れたような表情を見せるようになっているが」
「……そう見えますか?」
意外そうな顔された。
いや、だが、露骨と言う程には出てないと思うが。
これは俺がおかしいのか、鬼ヶ崎がおかしいのか。
…………。
どちらかは分からないが、どちらにしても鳴山が疲れているのは確かだろう。
「ま、あまり無理をしすぎないように気にかけるよ」
「お願いします。私が手伝えることはあまりないですから」
何せ、中等部と高等部ですから、と、鬼ヶ崎は申し訳無さそうな顔していた。
確かに、中等部と高等部では出来ることにも限りはあるだろう。
やっぱり、こういう時の差は大きい。
「それじゃあ、私もそろそろシフトがあるので」
「ああ」
「鳴山先輩のこと頼みますよ」
そう言って、鬼ヶ崎は離れていった。
だが、頼まれるまでもない。
出来うる限りのサポートはしよう。
なお、この後鳴山が戻ってきたのは1時間後だったという。