なお、このせいとかいフェスティバルは視点が切り替わる構成になっています。
文化祭。
それは、生徒会の、それぞれの物語の転換点。
白銀先輩の、四宮先輩の、優の、伊井野の、千花先輩の、そして僕の、物語の転換点。
きっと、生徒会の誰もがこの物語を忘れたりはしないのだろう。
そんな物語だ。
まえがきはこの辺りにして。
さぁ、文化祭の開幕だ。
***
私は会長がおかしくなる程好き。
車に揺られながら、私は思う。
ずっと、認められなかった。
その言葉は、『好き』という言葉は、私のプライドを損ねる言葉だったから。
でも、今言葉に出してみれば、仄かな敗北感とそれ以上に重荷を下ろした安堵感があった。
車を降り、校舎の中を進む。
早坂は言った。
『好きなら素直に告白するべきですよ』
『プライドを抱えて苦しみ続けるか、告ってとっとと楽になるか』
『ついに選ぶ時が来たのです』
告白………。
そもそも、なんで私は告白しないのか。
会長はどうせ私の事が好きなのだから問題じゃない!
別に好きになった方の負けという訳でもないですし。
告白なんて簡単な話よ…
『会長好きです!私と付き合って下さい!』
『俺も四宮の事は好きだ』
『!じゃあ…』
『でも、その好きは親愛としての好きであって恋愛感情じゃないんだ』
『ごめん』
…………。
駄目!
無理!
耐えられない!
「何、一人百面相してるんですか?」
「きゃあ!?鳴山くん?」
悲観的な想像していると、後ろから鳴山くんに声をかけられた。
驚いた。
手に暗幕を持っている所を見るに、文化祭実行委員の手伝いかしら?
この子、たまに気配もなく近づくのよね。
「ふ~ん。ああ、そういうことですか」
「な、なによ?」
「いや、ようやく自覚というか認めたんだなーっと思って」
「!!」
な、なんで当たり前のように察しているのよ!?
いや、前提条件その他もろもろを知っているから、気づくこと自体はおかしくないのかも知れませんけど、早すぎじゃないかしら!?
「まぁ、悩みますよねー。特にフラれた時の事を考えると」
「……なんでもお見通しとでも言うわけ?」
「そんなことは言いませんよ。ただ、先輩は比較的、分かりやすい部類というだけです」
そんなことを笑顔で言う。
正直、イラッときます。
分かった風な口を聞く分、より一層に。
「随分、知った風な口を聞くじゃない。そういうあなたはしたことはあるの?」
「ありますよ」
「え?」
「だから、告白したことはあるって言ってるんですよ」
えっ、いや、そうなの?
意外と言うべきなのか、なんというか。
彼、そういう所は受け身な感じだから、そういうことしないと思ってたけど。
素で当たり前のように言うのが、より私を困惑させる。
「まぁ、フラレたんですけどね、ハッハッハ」
「……オチまで言わなくても良かったんですけど」
「これから、告白しようと言うのに失敗例をあげて欲しくないってことですかね?」
随分と軽く言っている。
しかも、私の考えをきちんと見抜いている。
本当に、どうしてこのタイミングで言うのかしらね。
しづらくなるじゃない。
「まぁ、それも随分前のことですし、気にする必要はありません。まぁ、強いて言うならやって後悔しないのと、やらないで後悔するの。どっちが良いですかという位です」
「………それ。実質、一択よね」
「ええ。その一択を選んでくれることを祈ってますよ」
そう言って、彼は文実の仕事に戻っていった。
応援してるのか、軽く馬鹿にしてるのか……。
まぁ、本人的には応援なんでしょうけどね。
会った頃に比べたら、随分と性格の悪さが出ていますよね。
私のものとはまた別なんでしょうけど。
……アレが、彼の素なのかしらね。
***
文化祭開演数時間前。
僕こと石上優は、
「おい、伊井野。この台本のこ…」
ダッ
思わず膝から崩れ落ちそうになるのを、グッとこらえる。
いやでも、これ、相当キツイ。
「石上。本当に伊井野に何をしたの?」
「何もしてないと、思う」
「いや、何もしてないのにコレはおかしいでしょ」
小野寺は紙パックを飲みながら言う。
伊井野が僕を避けるようになったのは、確か4日ぐらい前だったと思う。
その前の日、伊井野が急用で帰り、焼き肉店で伊井野の作ったパンフレットを検分した。
そして、4日前に改善案も持って、伊井野に会いにいったら、
『ありがとう石上。……ゴメン』
と泣きそうな声で言って、すぐに走り去っていた。
それからというもの、伊井野は僕を認識するとすぐに逃げて、顔も合わせてくれない。
「私から聞いても、何でも無いって泣きそうな顔で言い張り続けてるし。でも、様子から考えるにアンタが原因なのは確かでしょ」
「……やっぱり、そうなのか」
でも、全然心当たりが無いんだけど。
前の日だって、文実の仕事をしていただけだし。
本人に聞こうにも、そもそもで避けられているからどうにもならない。
「おーい。優、大丈夫か?」
「……白兎」
白兎が丁度、暗幕を持って、帰ってきた。
「鳴山は伊井野がああなった原因、分かる?」
「まぁ、大体の予想はついてるけど……。でも、そうだったとしたら優が出来ることはないというか、出来ることをやったら大体全てが終わるんだよね」
「終わるって何が?」
「今までの関係」
「!?」
今までの関係が終わるって……。
そんなにヤバいことしでかしたのか、僕は。
これから、伊井野と花のことだったり、アニメのことだったり、生徒会のことだったりで喋ったり、笑い合ったり出来なくなるのか?
それは、そんなことは……。
「ねぇ、石上が凄い凹んでいるんだけど」
「まぁ、この件に関しては優が原因ではあるけれど、優が悪いという訳ではないというか。もうひとつの原因の方には、僕の推測は教えたからどうにかしてくれるとは思うけど」
「もうひとつの原因?」
「うん。優が接触を持てない以上、そっちに頑張ってもらうしかない」
やっぱり、僕が原因なのか…。
もうひとつの原因。
言葉から考えるに、人なんだろうけど、一体誰なのだろう…?
思い浮かばない。
「まぁ、取り敢えず。優、凹むのはこの奉心祭を成功させてからだ。いままでやってきたことを、凹んでいるからって理由で台無しにするのは僕が許さないぞ」
「………………」
「キャンプファイヤー」
「………ああ」
………そうだな。
僕との関係は…、確かに重要な事だ。
とても大切なことだ。
でも、それでアイツの努力を、願いを、邪魔しちゃ駄目だよな。
やろう。
アイツの為にも。
「……ありがとうな白兎」
「僕は当たり前のことを言っただけだぞ」
それこそ、本当に当たり前のような顔をして、白兎は言った。
当然か。
白兎も、この文化祭にはかなりの情熱を注いでいるもんな。
「そうだな」
「それじゃあ、この暗幕を付けるの手伝って」
***
俺はとっくに恋に落ちていた。
四宮かぐやという女に。
あのプライドが高くて、金持ちで、天才で、性格が悪くて、だが、動くべき時に動ける、例え泥にまみれてもきれいなそんな女に。
そんな女と、長い間恋愛頭脳戦を繰り広げてきた。
色々と大変だったが、今振り返れば、楽しいものだった。
しかし、それもいつまでも続けられない。
スタンフォードの合格通知。
正直、受かるとは思っていなかった。
あくまでも駄目元だったが、折角受かったからには行くという選択肢しかないだろう。
だが、それは同時に四宮といれる時間も決まったということだ。
後、半年。
そのぐらいの時間しかないのだ。
だからこそ、もうグダグダと言い訳している時間はない。
ここが俺の正念場。
ここで決められるかどうかで変わるだろう。
だから、出来うる限りの準備をした。
後は、やるだけだ。
開催前の見回りをしていると、藤原書記が何やら、他の生徒にバルーンを配っているようだった。
「藤原書記。何をしているんだ?」
「あっ、会長!ハートの風船が余ってるので飾りが足りないクラスに配っているんです!やっぱり、奉心祭のキーアイテムはハートですから!!」
「なるほど。いい考えだな」
沢山作った甲斐があったな。
これで、学園の全体にハートの風船が散りばめられたことになる。
ここら辺は賭けではあったが、うまくいったようだ。
そう考えていると、外の舞台のライトがついた。
いよいよ、始まる。
「あっ、そろそろ始まりますね。準備は出来ていますか?」
「ああ。準備は抜かりない」
四宮が告白して来なかったら俺からー
「それでは秀知院文化祭、奉心祭のスタートです!!」
***
「とてもお似合いですわ!」
「正に大和撫子!大正浪漫ですわ!」
「そ……、そんなに似合っているかしら……」
周りの女の子達が褒めている。
周りからの強い要望で和服系の衣装になったのだけれど……。
そんなに可愛いなら……。
「ええ。大変お似合いです。かぐや様」
「びっくりするわぁ!?」
は、早坂が、いつもの早坂なんだけど!?
「あなた、その格好……」
「ええ。メイドのコスプレですよ」
「愛ちゃん、キャラが仕上がってるね~」
「はい。長い時間をかけてキッチリ仕上げてきました」
確かに長い時間をかけては要るけれども。
いつも通り過ぎて、逆に怖いのだけれど。
「非日常感を演出する為にいつもと違う装いでお客様にドキッとして頂くのがコンセプトですから」
「私にとっては日常感が強くて、違う意味でドキッとするわ」
「あはは~。かぐやちゃんまじイミフ~!ちょー、おもろーい!」
こっちの方が、私にとって非日常感が強いんだけど。
そこまで、ツッコんでいたらここから先持たない気がするわね。
「ほらほら愛ちゃんは仕事に戻って、かぐや様はこっち!」
そう言われると、私は看板の前に立たせられました。
「ここでニコニコしながら時々お客を中に誘導するだけでいいから!」
「なるほど……。名実ともに看板娘という訳ですか」
確かに、私の美貌があれば、人気がでるのも当たり前と言えるのかもしれないけれど……。
なんだか、いかがわしいわね。
***
皆が仕事に入って、それなりに経つ。
私のシフトは11時から13時の2時間。
会長には時間を伝えておいたけれど、来てくれるかしら。
まるで、待ち合わせでまちぼうけ食らっている気分ね。
約束をしている訳じゃないのだけど。
………。
もし、仮にこの文化祭で告白するならば、やっぱり助走……。
二人で会う時間が欲しいわね。
この店は、スペースの都合上、お客の前で珈琲や紅茶を淹れるシステム。
十分に会長と接する時間がある……!
この服を至近距離で魅せつける時間がある!
このシステムなら会長もドキドキ間違いなし!!
と、そんな風に考えていたけれど、世の中はそんなにうまく回らないらしい。
接客に時間がかかる関係上、人が並びだしている。
しかも、数人、既に見た客もいるから多分リピート客もいるのね…。
いつの間にか長蛇の列になっている。
これじゃあ、会長が来ても……、
「ごめんなさいかぐや様。店の方が忙しくなってきたから接客を頼めますか?」
「あっ、はい」
そして、私は伝票を持ってお客の所に行く。
「お待たせ致しました。ご注文をお伺いしま……、千石さん?」
「こんにちわ。四宮さん」
そこに居たのは、千石さんだった。
千石撫子。
鳴山くんと同じ怪異の専門家。
私が彼女に会ったのは、早坂の出来事から次の土曜日。
『こんにちわ』
『初めまして』
『ええ、ようこそ』
二人を私の家に招いた。
そうして、早坂以外の使用人には部屋の中の入らないように厳命して、早坂も含めて4人で座った。
自己紹介を済ませると、本日の要件を話した。
『四宮先輩には、ある人を捜索して欲しいんです』
『ある人?』
『はい。あの人を見つけ出して欲しいんです』
真剣な口調で、彼らは言った。
秀知院学園は怪異と呼ばれる存在が生まれやすいパワースポットの逆、エアスポットになりつつあること。
鳴山くんはそれを解決する為に、この秀知院学園に来たこと。
そして、最近、その元凶と対峙したことを話した。
『それで、現状を上司に当たる人物に報告しようとした所、その人と連絡が取れなくなってしまったんです』
『それに、同じ専門家仲間とも次々と連絡が取れなくなっていて……』
『だから、かぐや様にその人達の追跡を頼みたいということですか?』
『はい』
ふむ。
鳴山くんの事情は大体分かりました。
確かに、早坂の実例がなければ、決して信じないような内容ばかりでした。
だから、彼は最初に問い詰めた時に誤魔化したのでしょう。
さて、この頼みをどうしますか…。
鳴山くん達が困っているのは確か。
そして、彼らの困りごとはそのまま秀知院学園の生活にも響いてくる。
ですが、私の権限でその人を探すのは難しい。
話を聞く限り、海外の可能性もありますし、そもそもでどういう人かも判別するのは難しい。
別邸で限られた人材しか扱えない私ではどうしても無理が出る。
それに、最近は本家の人達の目も存在する。
どうしますかね……
『それならば、私が調査しますよ』
『早坂!?』
『鳴山くんには借りがあります。それに、本家の目を掻い潜るにはかぐや様が動かない方が掻い潜りやすいのは事実です』
『でも…!!』
でも、ここで本家の人達の目に早坂が止まったら、下手をしたら解任になる恐れもある。
私は、早坂を失いたくは……
『かぐや様。これは私が自分でしたいことです。鳴山くんには
『早坂…』
早坂は本気の目でそう言った。
そう、そうなのね。
『良いわ。好きになさい。ただし、バレないようにね』
『ええ』
『……ありがとうございます』
そうして、現在早坂は二人に頼まれたことを日常生活のちょっとした合間に探している。
必ずしも、日本に居るとは限らないというのがネックになっているようですけど。
「それで、今日はどうしてここに?」
「ああ、白兎に誘われたんですよ。息抜きも兼ねて」
「そうなの」
漫画家というのは、私が思っている以上にハードらしい。
何でも、睡眠時間が3時間位だとか。
私はロングスリーパーですから、そんな生活は送れませんね。
「それで、ご注文は?」
「それじゃあ、紅茶で」
注文を受け取り、紅茶を作っていく。
「四宮さんって好きな人がいるんですか?」
「ええ!?ど、どうしてそんなことを聞くんですか?」
「いえ、漫画のネタにならないのかなと」
「ああ、そういう…」
急に言われたからびっくりしたわ。
「でも、その様子だと居そうですね」
「そ、そんなこと…」
ま、マズイわね。
鳴山くんの知り合いなだけあって、鋭いわ。
「そんなに鋭くないです。ただ分かりやすいだけです」
「……今、心を読みませんでした?」
「気のせいじゃないですか?」
中々と厄介な人物のようですね。
鳴山くん周りはそんな人ばかりなのかしら。
というか、鳴山くんにも言われたけど、私ってそんなに分かりやすいのかしら?
そんな風に考えつつも、紅茶を作り終えて注いだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
千石さんは紅茶を飲む。
「美味しいです」
「それは良かったです」
本当に美味しそうに飲む。
嬉しいものね。
「よっ」
「会長!」
どうやら、会長が訪れたようだ。
「会長は何がよろしいですか?」
「紅茶」
「かしこまりました」
会長が椅子に座る。
ふと、振り返ると千石さんはニヤニヤとしていました。
「……なんですか?」
「別に何でもないですよ」
そう言って千石さんは席を立つと、すれ違い際に、
「…実るといいですね」
と、可愛い笑顔と共に去っていた。
全く、鳴山くん関連はどうして下世話な人が多いのかしら。
会長に紅茶を出す。
「うむ。やはり四宮の紅茶は美味しいな」
後日談は、文化祭の終わりに導入する形式です。