鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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文化祭編4日目。


せいとかいフェスティバル 其の肆

二日目の朝。

僕、石上優は朝早くから白兎に呼び出されていた。

 

「おはよう」

「おはよう。しかし、いきなりどうした?こんな朝早くに呼び出して」

「まぁ、少し話したいと思ってな」

 

そう言って、白兎は屋上に向かって歩き出した。

 

「屋上って、この時間開いているのか?」

「文化祭だからな。白銀先輩のオブジェもあるし、開いてるよ」

 

つまり、会長のオブジェの管理のためにも開いているらしい。

しかし、こうして呼び出すなんて珍しい。

こいつが、こうして呼ぶということは人に聞かれたくない話でもするんだろうか?

そう考えていると、屋上についた。

外は肌寒い。

12月だから当たり前だけど。

 

「それで、どうして今日はこんな朝早くに呼び出したんだ?」

「ちょっと伊井野のことで話そうと思ってな」

「伊井野のこと?」

 

なんだ?

こうして呼び出したってことはからかいの為じゃないのは確かだろうけど……。

それにしたって、唐突な気がする。

 

「いや、どうやら昨日、仲直りしたみたいだし今の考えが訊きたくてな」

「今の考えって……」

 

白兎は壁に背中を預けて訊いてくる。

けど、そんなことを訊かれてもな。

伊井野の事は……、好きなのは変わらないし。

イマイチ、何が訊きたいのかが見えてこない。

 

「お前は伊井野とどうありたいんだ?」

「どうって……」

 

なん、だろうな。

恋人になりたいとは、思ってる。

でも、こいつが訊きたいのはきっとそういうことじゃない。

どういう恋人でありたいのかを聞きたいのだろう。

しかし、改めて訊かれると存外分からない。

話したいとか、手を繋ぎたいとか、デートしたいとか。

そういうやりたいことは浮かぶけれど。

……難しい。

 

「ふっ。そんなに難しく考える必要なないよ。イチャイチャしているカップルになりたいとか、落ち着いた様子のカップルになりたいとか、熟年夫婦のようなカップルになりたいとか、そんなんでいいんだぞ」

「えっ、そういう話だったのか?」

 

真面目に訊いてくるもんだから、てっきりお前は伊井野の何になりたいんだーとか、そういう系かと思ってたぞ。

イマイチ、何を考えてるのかが見えないな。

 

「まぁ、実際の所はなんだっていいんだけどな」

「じゃあ、なんで訊いたんだよ?」

「話の導入になるかなーと」

 

なんか、こいつらしくないな。

普段は話の導入とか、そんなことを言わずにすぐに本題に入るのに。

 

「それで、だ。本題に入るけど、最初に注意して欲しいのはこれはあくまで僕から見た意見であってけして正解ではないということを覚えておいて欲しい」

「言われなくても分かってるよ」

 

そうやって、いつもの断りをいれながら、こいつは話し始めた。

白兎から見た伊井野ミコという人物を。

 

「伊井野って、みんなが言う程正義の人じゃないって思うんだ」

「本質は自己否定感で一杯になってる()()()()()だ」

「伊井野にとっての正義の始まりって、多分、寂しい気持ちの裏返しなんだと思う」

「正義を貫いて、家に中々帰ってこない両親」

「そんな両親のことは伊井野は確かに尊敬してはいるんだと思うし、そんな両親に憧れて正義を標榜している面も確かにあると思う」

「でも、正義を貫こうとしているのは多分、そうしていれば親が家にずっと居てくれるんだって考える、幼い頃の考えが根底にあるように感じる」

「親が家に居ないのは、世の中に悪人が溢れているせいだ」

「みんながちゃんとしないのが悪いんだ」

「みんなが正しくなれば両親は居てくれる筈だ」

「だから、私は正しさを言い続ける」

「そういう考えがそもそもであったんだと思う」

「本人も忘れているようなそんな考えが」

「でも、そう考えるのが悪い訳じゃない」

「実際、可能か不可能かの議論はさておき、この世から悪人がいなくなれば、確かに伊井野の両親は伊井野のことを見てあげられるのだろうし」

「そのために、自分が出来ることをする」

「普通に良いことではあるんだよ」

「それを周りが良しとしないだけで」

「世界平和なんて、ツバサ・ハネカワ並の人物でもなければ成し遂げられないしな」

「まぁ、それは置いといてだ」

「僕がこの学校に来て、伊井野の様子を見ていた頃、僕はこう思ったんだ」

「随分と余裕がなさそうだなって」

「その頃のあいつは、自分の考えが周りに通らずに色々と陰でも言われていた」

「そんな状態がずっと続いていた」

「まぁ、普通にいじめと変わらないんだよね」

「それが、小等部から続いている」

「そりゃあ、自己否定感が育つに決まってる」

「なにせ、人生の大半を自身の行いを否定されて育ってきたんだから当たり前だと言える」

「そして、その否定は孤立を生み、寂しさを生む」

「寂しい気持ちは正義への執着になっていく」

「そういうデフレみたいなのが起こっているんだと思う」

「そうして追い詰めに追い詰められている状況で余裕なんて生まれる訳もない」

「余裕っていうのは、人が変わるのに必要な要素だって思ってる」

「気持ちに余裕があるから、自分を見つめ直すことが出来る」

「気持ちに余裕があるから、外の世界に目を向けられる」

「気持ちに余裕があるから、伸び伸びと成長出来る」

「つまり、伊井野は周りに成長の機会を奪われているって状況だったんだと思う」

「この手の話でよく、ちゃんと周りを見なさいだとか、やりたいことを探せだとか、自分を見つめ直せだとか言う奴が居る」

「勿論、その考えが間違っている訳ではない」

「けど、そんなこと言ったって響いてきたりはしないと思うんだ」

「自己否定感が強い人に厳しい言葉ばかりを投げつけることは、更に相手を閉じこもらせるのと変わらない」

「だって、結局、その人のことを否定しているのと変わらないから」

「今のままじゃあ駄目なんだって、本人が一番思っているよ」

「でも、そうすることも出来ないからずっとにそこにいるんだよ」

「出来るんだったら、とっくに変わっているって、そういう話でしかないんだ」

「だから、僕が必要だと思うのは、肯定なんだと思う」

「それも他の人からの」

「他の人がちゃんと自分を認めてくれている」

「ちゃんと自分は必要にされている」

「そう思えるようになることが必要なんだと思う」

「そうして、心に余裕を作ってあげる」

「そうすれば、後は変えていくだけだよ」

「良い方向にね」

 

そう言って、白兎は話を切った。

……正直、僕には分かる気がする。

僕だって、会長達が助けて、肯定してくれなかったら、こうして高等部に来ることはなかった。

そして、生徒会での活動がなかったら多分、ずっと過去に引きずられて、前なんて向けなかったらだろうから。

 

「途中から脱線気味になったが、まぁ、要するに伊井野のことをちゃんと見て、褒めてやれって話だ」

 

そういって、白兎は自分の頭を掻きながら言う。

やや恥ずかしそうだ。

確かに、こんなこと言うのは恥ずかしいんだろうけど。

 

「しかし、なんでこのタイミングでそんな話をするんだ?」

「さっきも言ったが、仲直りしたからだよ。……伊井野は大分繊細だ。ちょっとしたことで、悩んだり迷ったりする。その時に、味方になれるのはお前だ」

「…そんなことないだろ。僕以外にだって…」

 

そうだ。

僕である必要はない。

大仏も小野寺も居る。

アイツのことを分かってくれている人は他にも居る。

僕に出来ることなんて…

 

「あるよ。色々と」

「えっ、」

「伊井野のことを理解して、あいつの駄目な所も良い所も知っていて、信頼もある」

「でも、大仏とかだって!」

「そいつに関してはノーコメントにしたいかな。ふむ。だったら、言い方を変えよう」

 

そう一拍置いて、白兎は訊く。

 

「お前はあいつがどうしようもなく追い詰められた時に何がしたい?」

「!」

 

その時に僕が想った気持ちは唯一つ。

 

「支えて、やりたい」

 

それ以外の解答なんて必要ない。

 

「……ふん。そういうことだろ」

 

さぁー、戻ろう戻ろうといつもの調子に戻って、白兎は戻ろうとする。

って、いやいや!

 

「えっ、いや、ちょっ…!」

「なんだよ?」

「話は…」

「お前は伊井野を助けたい。それ以上の解答なんて必要ないだろ。そうやって、思えることが大切なんだから」

 

そういって、話は終わったとばかりに戻ろうとする。

……こいつは、伊井野に対して、何か特別な思いがある。

でもそれは、けして恋なんかじゃない。

こいつがあいつに向ける視線は、どこか大仏にも似たような視線だ。

どちらかというと、尊敬のような、憧れのような、慈しむような、そんな感情。

それは友人としての好きとも違って、どちらかというと、親としての好きみたいな感じだ。

伊井野のことを大切に、見守っている。

……最近、僕にもその目線を向けているぽいのも気になるけど。

どういう心境なのかが読めない。

 

「お前は、何を思っているんだ?」

「お前たちがイチャイチャしてるのをからかいたいと思ってる」

「お前な!」

 

背中を叩く。

しかし、特に気にすることもなく笑みを浮かべている。

多分、今言ったことは嘘ではないだろうけど、本音の部分は違うだろうと思う。

こいつはそういう所を全然見せない。

思う所もあるんだろうけども。

こっちは沢山助けれてきたし、少しぐらい言って欲しい。

友人なのだから。

 

「怪盗はどこですか~~~!!」

 

藤原先輩の大きな声が響く。

えっ?怪盗?

何の話だ?

 

「藤原先輩も盛り上がってるな」

 

白兎はいい笑顔でそう言う。

……さては、お前が一枚噛んでるな?

 

***

 

はぁ……。

文化祭というのは疲れるばかりで、あまり楽しいものではありませんね。

会長ともすれ違ってばかりですし。

さっき、会長のクラスに行った時も酷い目に合いましたし。

 

「四宮」

「あ、あら会長。奇遇ですね」

 

丁度考えている時に会長が来ました。

 

「いや奇遇ではない。四宮を探していたんだ」

「わ……、私を?」

 

これはもしかして……、

文化祭に誘うために!?

……なんて、まさかね。

会長は忙しいし……

 

「良かったら一緒に文化祭回らないか?」

 

……はれ?

 

「寄付金のノルマも達成してるし、今日は十分に時間があるしな…。四宮を誘おうと思っていたんだ」

 

はれはれ?

……ああ、なるほど…

この文化祭の雰囲気に当てられて、大分ガードが甘くなっているようですね!

これは追い詰めるチャンス!

 

「文化祭を男女で回るなんて、周りに噂されてしまいますよ?私たちが文化祭デートしてるって」

「いやか?」

 

はれ?

 

「…いえ、そういうわけでは……」

「じゃあ、適当にぶらつくか」

 

そう言って、会長は歩き出した。

 

「あっ、待って下さい」

 

私も追う。

 

「ごらんになって」

「かぐや様と白銀会長が連れ添っておられるわ!」

「もしや、文化祭デート中なのでは……っ!?」

「大胆ですわ!」

「かぐや様ったらお照れになられてますわ」

 

は……、はずかしい。

二人で一緒に歩くというのも大分恥ずかしいのに、周りにこうも囃し立てられるなんて…!

 

「対してエスコートする会長はクール…」

「!」

 

なんで会長は表情一つ変えずに居られるんですか。

ずるい……!

こうなったら、意地でも私と同じ気持ちにさせてみせます!

 

「会長。占いですって」

「ん?入ってみるか」

 

ふふふ。

掛かりましたね会長……。

オカ部の部長はカップルを見るとおちょくらずにはいられない性格!

占いにかこつけてセクハラじみた質問ばかりしてくるとか!

これで会長も顔を真っ赤にして照れてしまえばいいです!!

 

「あらあら生徒会のお二方がお忍びかしら?」

「お熱いわね。ちゃんと避妊はしてる?」

 

普通に最低なセクハラ!

 

「さっきも後輩たちが入ってきましたよ。あの二人も大分お熱かったわ。顔を真っ赤にしちゃって…」

 

石上くんと伊井野さんも来たのね…。

あの二人、結構初心(うぶ)ですから、相当におちょくられたわね。

というか、あの二人もデートしてるのね。

昨日の今日で……。

 

「さて…、何を占いましょうか」

「ええと…」

「せっかく二人で来てるんですから、あっ、試しに恋愛相性占いしましょうか」

「~~~!!」

 

ああ、はずかしい。

口がもにゅもにゅするわ!

でも、流石の会長もこれなら……、

 

「仮に俺たちが結婚したらどういう感じになります?」

 

結婚!?

えっ、照れもせずに何を言っているんですか?

 

「四宮様が確か1月1日生まれのAB型。白銀様が9月9日生まれのO型出生体重2118g…」

 

いやいや、なんでそんなこと知ってるの。

気持ち悪いこの人!!

 

「なるほどなるほど、あなたたち相性はとても良いわよ

「白銀様は自分の意志を貫き通す強さがあり、それは優しさでもあり我慢強さでもあります」

「そして何より、目的の為ならば時に人を騙す事も厭わないしたたかさも兼ね備えています」

「妻の四宮様も非常にしたたかですので相性バッチリです」

 

別に妻でもしたたかでもないですけどね!

 

「四宮様は透き通った水面……。空の色で何色にも変わる清水。側にいる人によって、善人にも悪人にもなります」

「元々尽くすタイプなので娶れば良妻賢母になりますよ」

 

良妻……!

 

「それに学習能力も高いので教え込めば夜も凄いと占いに出ています」

「どんな占いなの!絶対そんな結果出てないでしょ!」

 

ふざけるのも大概にして!

何をどう占ったらそうなるの!

 

「あと面白い結果が一つ」

「運命の日は12月21日……。奇しくも今日この日」

「将来に関わる重大な決断あると」

 

そうって、部長さんは微笑むと、

 

「一体どんな決断があるのでしょうね」

 

***

 

そうして、私達は部屋を出た。

酷い目にあったわ……。

会長はずっと冷静でしたし…。

私もセクハラに巻き込まれてワケがわからなくなって…。

 

「ほんとひどい目にあった…。阿天坊先輩があんな愉快な性格をしていたとはな。表情を抑えるのに必死だったよまったく…」

 

…そっか、会長も…。

そうよね。

変に意地張ると何故かいつも妙な方向に転がるじゃない。

これは会長とのデート………。

楽しまきゃ損…!

そうよ!何も考えずに楽し…

前を見ると、藤原さんが来て、来て………。

藤原さん!

またこういうタイミングで!!

どうせまたいつもみたいに場を散らかして……、折角のデートを台無しにするんだわ…!

終わっ………。

って、アレ?

通り過ぎた?

どういうこと?

 

「藤原は例の怪盗騒ぎに夢中みたいだな」

「この予告状……。どう思う?」

 

会長が見せてくれた紙には数字が羅列していた。

『2023152202315015145115145220231512023152151455151457151451202315120231531514551514532023151202315220231522023151151452』

『アルセーヌの使いより』

何かしらの法則はありそうですが……。

というか、アルセーヌの使いとは誰のことですか?

でも、取り敢えずは助かりました。

考えてみれば……、藤原さんが私に気づかない程何かに熱中してるこの状況は千載一遇のチャンスなのでは…!?

という事は…、今日のデートはなんの邪魔も入らない!

 

「四宮、これ半分食べないか?」

「あっ、頂き……

「おい、伊井野。いい加減立ち直れよ」

「……石上は気にしないの?」

「いや、大分引きずってるけど……、それで楽しめないのは嫌なんだよ」

「……それもそうね」

 

石上くん!伊井野さん!

そう言えば、この二人もデートしてるのよね。

 

ぐぅぅぅぅぅ

 

伊井野さんのお腹の音。

まさか、この流れは…!!

 

「これよりわんこそば大会を始めます!飛び入り参加かんげーい!」

「……入るか?」

「……うん」

 

伊井野さんが顔を真っ赤にして、中に入っていきました。

えっ、正直、こちらに気付いて、『ください!』の流れだと思ったのに…。

 

「?いらないのか」

「い、いえ!」

 

会長から頂いて食べる。

あっ、美味しい。

 

「さぁて、どこに行こうかな?」

 

鳴山くん!

こんなに生徒会メンバーに会うなんて。

 

「あ、」

 

鳴山くんがこっちに気付いて……

 

シュッ

 

親指を立てると、そのまま去っていた。

………彼だけなんか違う。

 

「さて、そろそろライブやるんだったな。行くか?」

「はい」

 

そうして、二人で色々と回った。

バンドを見たり、お絵描きせんべいを食べたり、口についたカスをハンカチで拭いて貰ったりした。

来てる!

来てる!

死ぬ程、来てる!

こんな日がずっと続けばいいのに……。

そして、私達は生徒会室に来た。

 

「文化祭を回った後じゃ、ここも少し殺風景に思えます」

 

本当に今日は楽しかった。

きっと、来年も楽しくなります。

流石に生徒会には入れないでしょうけど、伊井野さんたちの手伝いなら…

 

「来年はもっと……」

「四宮」

 

会長が言う。

 

「大事な話がある。とても、大事な話だ」

 

会長がそう言うなんて……。

もしかして、もしかして、これは…!

 

「これを……」

 

そうして、会長に手渡された封筒には……、

スタンフォード大学の合格通知が入っていた。

 

「スタンフォードの合格通知書」

「俺は一年飛び級で海外に進学する」

「来年、俺は皆より一足早くこの秀知院を巣立つ」

「これが俺にとって、最後の文化祭だ」

 




マジで白かぐはいじる要素がねぇ。

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