秀知院学園の期末は戦争である。
出題傾向の共有や
いかに周囲に勉強させないかの心理戦。
知略の限りを尽くして行うそれは、正に仮想戦争と言っていいだろう。
僕こと鳴山白兎もまた、その戦争への参加を余儀なくされる人物である。
成績はこの学校のカーストにも大きく影響する。
勿論、成績だけでその人の社会的立ち位置が決まるわけではない。
それを言うなら、伊井野ミコの立ち位置はもっと高くなるだろう。
しかし、白銀先輩のように成績で大きな成果を出したからこそ、皆に一目置かれるようになることもある。
つまり、僕は成績上位とはいかずとも、中位ぐらいで悪目立ちしない程度が、怪異の専門家として仕事するのに良いのだ。
……そう、僕は怪異の専門家である。
だからこそ、このテスト期間が地獄絵図になるのである。
***
さて、今現在の時刻は夜の10時。
普段なら僕はもう寝ている時間だ。(結構健康的な生活をしている。)
しかし、このテスト期間だけはそうはいかない。
ここ秀知院学園前の今現在の様子を端的に言おう。
……いや別に本当に動物が大量発生している訳ではない。
ある意味では、その方が良かったとも言えるが。
まぁ、お察しの通り、大量発生しているのは
さて、何故このように怪異が大量発生しているのか。
その理由は、いくつかある。
1つ目、元々ここがエアスポットだから。
以前にも話した通り、ここ、秀知院学園は
つまり、元々怪異が発生しやすい場所なのである。
そのよくないものを散らすのが僕の仕事なのだが、いくら散らしてもすぐにまた集まるのが厄介なのである。
最近になり、再び集まるのは場所のせいだけでなく、
まぁ、これだけ散らしにかかっても、こちらに妨害を入れないということは、本人も無意識にやっていることなのだろう。
だからこそ、まだ見つかっていないとも言えるが。
話を戻そう。
2つ目は、嫉妬や妨害が生まれやすいからである。
前語りで話したとおり、ここ秀知院学園のテストは仮想戦争である。
それによって、勝利する者と敗北する者がいる訳だが、どうしても
人生の大きな選択が決まる者、あるいは、プライドを持って勝たなくてはならない者、あるいは、賭けをしている者たち。
様々な理由がある。
努力するのは、当然。
しかし、努力だけでは安心できない者もいる。
どうしたって、伸びきれない者もいる。
そういう者たちが最後に縋るのは神である。
この話を聞き、そういう人達は弱いと感じる人もいるだろう。
神に頼る時点で、すでに自分に自信がない弱者だと言う人達もいるだろう。
私自身もそう考える人であることもある。
しかし、人は必ず
それは神かもしれないし、自分かもしれないし、あるいは尊敬する誰かかもしれない。
あるいは概念、正義、道徳なのかもしれない。
だからこそ、人は時に神に頼る。
怪異に頼る。
その代償がどんなものであるかも考えずに。
とは言え、基本的に普通のひとのする
誰だってするし、おかしな要素もない。
しかし、ここは秀知院学園。
秀才たちの集う場所。
適当な気休めのそれも、それなりのクオリティーで出してくる。
そこに、エアスポットであることが作用して、本来はでてこない儀式ででてきてしまうのである。
全く、出来が良いのも考えものだと思う。
ただ、問題なのが、そこで頼るのが祟り神の方であるということである。
自分自身が登るのではなく、他人を落としていく。
蹴落とし、貶める。
そういう類のものばかりなのである。
そこにはきっと、自分は十分に努力した。
もうこれ以上のものは出来ない。
そのように思い、
そう考えているものもいるのだ。
勿論、一概に否定できたものではない。
「努力すれば夢は必ず叶う」というのは、大人が子供に与える幻でしかないし、「努力出来るのも、才能の一つ」という意見もわかる。
しかし、才能というのは後からでも追いつくものである。
基本的に何をやらせても駄目な人だって、続けて努力すれば出来るようになる。
そして、努力を続けるものは努力の仕方を知ることにもなる。
そういう意味では、努力は人を裏切らない。
結局の所、才能とは努力の中で身についたものを他のことで表現しているだけなのだと僕は考える。
まぁ、これは一意見に過ぎない。
正解など、どこにもないのだ。
閑話休題
そんな訳で、大量発生している怪異は厄介なことに呪い系ものばかりなのだ。
呪い系は下手な手出しをするとその分のしっぺ返しがくる。
そのため、一つ一つ丁寧に消していかないとろくなことにならない。
これが、僕の方に来るならともかく、呪いの
そのかけられた本人を特定するのも難しい上にしっぺ返しが発動した時点でそれに殺されるケースもあるのだ。
専門家である以上、そのようなことは認めらない。
何より、僕自身が認められないのだ。
そのため、中間では一つ一つ丁寧に解いたものの、数が百だの二百だのになると三日三晩かけても終わらず、最終的に臥煙さんに連絡をとり、呪い系に強い専門家10人を動員し、どうにか治めた。
しかし、その結果無理をかけすぎた僕の体は悲鳴をあげ、春近くにまさかのインフルエンザを発症。
中間テストは、病欠となった。
そして、期末に至るのだが、今回のテストをまた病欠と評定はしょっぱいものになるし(基本的に無遅刻無欠席で授業態度も整っているため、留年の危機にはならんだろうが)、受けたら受けたでその比重は他の人は比べ物にならなくなる。
つまり、勉強の時間もかなり取らなくてはいけない。
しかし、専門家の業務として、この阿鼻叫喚に対処しなくてはならない。
今回は、僕一人が出来ることの幅を大きく超えているため、何を言わずとも臥煙さんが呪い系に強い専門家20人を派遣してくれた。
しかし、それでも片付けるのに相当かかるため、この仕事のため、そしてこれからの仕事のため、僕専用の専門家道具を請求した。
他の専門家と違い、
それは、ダンボールに入っていて、開けてみるとそこには、
……なるほど。
一見するとなんの嫌がらせかと思うが、しかし、僕の
ぼくはそのオールを掴むと、屋上にいる呪い振りまく猫を見つけ、思い切りジャンプしてその猫をよくないものまで分解した。
***
後日談。というか今回のオチ。
初めて受けた秀知院のテストは、一瞬問題が怪物に見えるほどの難問揃いであった。
その問題を必死に解き、学年の成績は104位。
まぁ、そこそこの順位だったと言えよう。
しかし、結局勉強と退治で三日三晩の徹夜コースなのは、頂けない。
まだまだ改善の余地はありそうだ。
そして、今日も朝の石上と伊井野の言い争いをBGMに朝のホームルームまで一眠り。
次回から白兎君以外の視点からも物語をお届けします。