鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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小説版の内容を使う今日この頃。


番外編 はくとミステリー

七不思議。

それはどこにでもある怪談であり、ある意味では一番身近で有名な怪談であると言える。

そして、七不思議の定番の場所は学校である。

トイレの花子さんだとか、動く人体模型だとか、誰もいないのに鳴るピアノだとか。

僕も小学校の頃、学校で七不思議とか聞いたりした。

その頃は、若干の恐怖とワクワクを感じたものだ。

今や僕の方が怪談側になるなんてあの頃は思わなかったけれど。

専門家として言うなら、学校の怪談はあくまで怪談。

幽霊の正体見たり枯れ尾花。

意外とちゃんとした理由があることが多い。

まぁ、理由が分からずに生まれる怪異もあるので一概に言えないこともあるが、しかし、そんなのは早々には起きないイベントである。

と、ここまで言っておいて何だが。

意外とこの秀知院学園では、そうとは言い切れないこともある。

なにせエアスポット一歩手前の場所だ。

そうでなくとも、多くの思念やらは集まっている傾向にある。

だとしたら。

もしかしたら、実際に起こり得るかもしれない。

その7つの不思議が。

 

***

 

ある体育祭の前。

石上が応援団に入団して、必死に頑張っている頃の話だ。

 

「それじゃあ、それなりに馴染めたりするのか」

「いや、う~ん。イマイチ、ノリは合わないけどな」

「そ、それでも、石上はちゃんと頑張ってるじゃない」

 

僕たち一年生組は、生徒会室に向けて歩いていた。

 

「あ、鳴山くん!石上くん!ミコちゃん!」

 

と、丁度藤原先輩も来たようだ。

4人揃って、生徒会室に入る。

 

「あれ?これなんでしょうか?

 

生徒会室に入ってすぐに、藤原先輩が手紙を見つけた。

生徒会室はその方針から出入りが自由。

だから、手紙を仕込むことは誰にでも出来るのだけれど。

 

「差出人の名前はありますか?」

「いえ、どうやらないみたいです」

「宛先も書かれてませんね。これじゃあ、誰に当てた手紙か分からない」

「だったら、中身を見ましょうか?どの道、誰かが見なきゃいけないだろうし」

「それもそうですね」

 

そう言って、藤原先輩が手紙を見る。

 

『なぜ私に答えないのですか?あなたが孤高の存在であることは理解している。私は、そう、理解しているのだ。むしろ私だけが理解しているといっていい。美しいあなた。体育祭に向けてグラウンドを走るあなたは、流れ落ちる汗さえもまた美しい。ああ、あなたの美しさを私は永遠にしたいと切に願う。そしてその時は私もまた永遠となろう。二人で永遠となり、あなたの美しさは保存される。それこそが何より重要なことなのにーなのに、どうして私の思いを受け入れてくれないのか?共感してくれないのか?もし、あなたがこのまま私に答えないならば、私は自らの手であなたを永遠にしてしまおうと思う。あなたの意思に反することかもしれないが。あなたの美しさが永遠となることは、きっと神にも認められる正しい行為なのだから』

 

「………へぇー…」

「これは、、脅迫状ですね!?」

「いえ、ラブレターです!!」

 

伊井野と藤原先輩で意見が割れる。

脅迫状か、ラブレターか。

 

「鳴山くんと石上くんはどう思いますか?」

「僕は……、不本意ですが、藤原先輩に賛成です」

「僕はどっちつかず、ですかね」

 

石上は、藤原先輩に賛成、つまり、これをラブレターであると解釈したようだ。

因みに僕としてはそうは思わない。

文面的には、脅迫よりの恋文って感じだ。

この手の手合いの美しさの保存は大概にして、『死』を指すことが多い。

『死』によって永遠となる。

そう信じている。

……現実はそうじゃないと言うのに。

死ねば、後は腐り、骨となり、土に還る。

ただ、それだけだ。

永遠のものなんてない。

……まぁ、それは良いけれど。

問題はこの字だ。

もし、僕の推理が合っているなら、あの人なら、この位の字は当たり前に書けるだろう。

ただし、字の癖を意図的に真似るときには違和感は残る。

何故なら、この字は綺麗すぎる。

字そのものの綺麗さを言ってるんじゃない。

緊張が感じられないのだ。

だって、好きな人にあてたものならもう少し字が乱れている筈なのだ。

恋文だというのならなおさら。

それなのに、そうは見えない。

なまじ文章が強烈であるが故に見逃されやすいんだろうが。

と、ここまで考えれば誰が何の目的でこれをよこしたのかは、想像がつく。

だとすると。

 

「取り敢えず、四宮先輩が来るまで待ったほうがいいんじゃないですかね?」

「どうして、四宮先輩?」

「多分、この手紙の宛先は四宮先輩だから」

 

本人に何の目的なのかを示してもらわないといけない。

それが分からないと立ち回りづらいのだ。

()()()()()()()()()()()()()()

 

「どうして、そう思うんですか?」

「文面的にまず男性宛のものでないのは確かだと思います。男性に対して『美しい』という表現は中々使いません。男性、特に運動関係で美しいと表現するとしたら、それは『肉体美』と考えるのが妥当でしょう。で、その場合、この生徒会の男性陣にそんな肉体美の持ち主にいますか?なんだかんだ、白銀先輩も石上も足は早いし筋肉がないわけでもない。けど、やっぱり美しいと表現する程の質も量もない。よって、除外。そうなると、後は女子勢の中で誰なのか?これに関しては明確な根拠が存在する訳じゃないです。ただ、二人は思い当たる節がなさそうですし、この生徒会で『美しい』という表現が最も合うのは誰かと考えたら、四宮先輩だろうって感じです」

「ふむ。一理はあるか」

「因みに私やミコちゃんに最も合う表現は何なんですか?」

「えっ?藤原先輩には『可愛い』、伊井野は『綺麗』とかですかね」

「「!!」」

 

そう言うと、二人が顔を赤くした。

石上は白けとちょっとの嫉妬が混じった目線を向ける。

いや、そんな言う程のことか?

結構、普通のことしか言ってなくないか?

 

***

 

と、そんなやり取りから少しして、白銀先輩と四宮先輩が一緒に生徒会室を訪れた。

 

「あっ、かぐやさん!会長も!」

「どうかしました?皆さんで集まって」

「まぁ、まずこれを見て下さい」

 

そう言って、手紙を渡す。

二人は少しの間、その手紙を眺めると、

 

「……ふむ」

「どのような内容だったのですか?」

「ふむ。まぁ、ただの脅迫状だな」

 

澄ました顔で言うが、内心は大分ビビってるだろうな。

意外とビビリだし。

 

「むぅーー。分かっていませんね。これは思いのたけを綴った切ない恋文ですよ」

「いやこれもう脅迫状だろ、完全に」

「いや、一見すると確かに脅迫っぽいですが、これはラブレター…みたいなものだと思うんですよ。それで鳴山はどっちつかずって言って、多分四宮先輩宛だから四宮先輩が来るまで判断は待つべきだと言って待ってたんです」

「四宮宛?」

「ええ。きっとそうでしょうね。差出人の名前も承知しています」

 

ふと、四宮先輩からアイコンタクトが飛ぶ。

このまま続行。

つまり、このまま恋文として処理しろと。

そういう作戦なんですか。

 

「で、つまり四宮の話を統合するとーー夏休み前、恋文が届いたと俺たちに相談したあと、四宮は差出人に直接『ごめんなさい、あなたとはつき合えません』と言った。だが最近になってまた手紙が届いている、と」

「ええ。これまでの手紙は下駄箱に届いていたのですが、最近は読まずに捨てていきました。だから、趣向を変えて生徒会室に届けたのでしょう」

 

困ったものですね、と全く困っている感じがしない四宮先輩が言う。

まぁ、基本的にそんなしつこいストーカーになる前に処理するだろうしな。

脅しも散々と食らってきたんだろうし。

まぁ、今回は困るも何もないのだろうけど。

 

「しかし、どうしたものでしょう?こうなると誰か人の手を借りなければ解決しないかもしれません。しかし、同じ学校の仲間ですから教師や警察に相談するのもー」

 

よく言うよ。

本当に迷惑しているなら、実家の力を使えば良いだけだ。

少なくとも、それを躊躇する人でないことは知っている。

 

「誰か、びしりと相手を納得させてくれる人はいないものでしょうか?」

 

なるほど、今回はそういう作戦か。

要するに、俺の女だって言わせる作戦か。

と、考えていると白銀先輩は咳をしまくり、四宮先輩はニヤニヤし続けている。

既に想像で出来上がっているらしい。

アホらし。

 

「あ、いいことを思いつきました」

 

藤原先輩はにこやかな宣言をする。

 

***

 

「「付き合ってるふり?」」

 

二人は声を合わせてそう言う。

そして、互いに顔を見合わせては反らす。

いや、もう()()の必要ないじゃん。

とか、ちょっと思うがしかしそれを指摘してはいけない。

そこら辺は本人達の問題なのだから。

 

「まぁ、ありな手だとは思いますけど、誰にやらせるんです?」

 

一応、ここには石上と僕が居る。

九割九分、白銀先輩になるだろうが話の展開上は他の人物が選ばれる可能性もある。

 

「そりゃあ、勿論会長ですよ。生徒会長と副会長ですし」

「いえ、私は相手役は石上くんがいいと思います」

「「「「は?」」」」

 

四宮先輩と藤原先輩の二人以外が一斉に声を上げる。

いやいや何を言ってるんだ?

何故この理想的な状況を自ら乱す?

えっ、何?

天才だと思ってたけど、実は本気の馬鹿?

ギャグで済まない方の馬鹿?

 

「ふむ。ちなみに、今、この場には俺と石上、鳴山の三人だが、石上を選んだ理由は説明出来るのか?リアリティーのある説明が出来るのか?」

「そうですね。重要なのはリアリティーです。石上くんは最近、応援団に入るなどして自分を変えようと努力しています。これを私が評価した、というのも付き合い始めた理由にするのはいかがでしょう?付き合っているふりをするとなれば、必ずその馴れ初めを周りに質問されるでしょうから」

だ…、だ……!駄目です!!

 

伊井野が叫んだ。

皆は一斉に伊井野の方を見る。

 

「あっ、えと、その…」

 

伊井野は一斉に注目が集まって上手く声がでない様子だった。

というか、自分でも咄嗟のことでただ気持ちが先行した感じだ。

可愛いな、おい。

 

「い、石上は確かに最近変わってきていますけど、まだまだで、応援団の人とも馴染みきれてなくて、いや、石上のそういうのが悪いとかじゃなくて、良い所も一杯あるですけど、でも悪い所も一杯あるというか、いや、でも、その、とにかく、駄目なんです!

 

理路整然でもなんでもない、どちらかというと感情で話している感じだ。

まぁ、嫌だろうな。

例えふりだろうが、好きな人が他の人と付き合うなんて。

というか、

 

「まぁ、実際。リアリティーはないと思いますよ。石上が四宮先輩と付き合うとかは、まぁ、ありえないと言うか、周りの反応的にも、ねぇ」

 

イマイチ、濁した言い方になるがこれで察して欲しい。

石上と伊井野は既に噂になっている。

というか、半公認状態なのだ。

伊井野の方も自身の気持ちを自覚している。

この状況で、余計なトラブルを招いてほしくない。

 

「……それもそうですね」

「まぁ、確かにな」

「そうですね」

 

二年生は理解してくれたようだった。

まぁ、全員その状況を知ってるしな。

 

「勝手に推薦されて、勝手に却下された」

「……なんか、ごめん。ちょっと酷いこと言っちゃたし」

「別に、伊井野に言われたことは気にしてない。ちょっと嬉しかったし

 

……本当に仲良いな。

ヤレヤレ。

 

「だとすると、鳴山くんですかね」

「何を言ってるんですか、かぐやさん!?」

 

いや、本当に何を言ってるんだこの人は?

だとするとって何だ?

ただ、会長を避けたいだけみたいなニュアンスになるぞ。

それじゃあ、意味ないでしょうが。

 

「だって、鳴山くんですよ!?性格悪くて、悪どい手が好きで、からかいがちな鳴山くんですよ!!絶対、誰も納得しませんよ!!」

「いや、僕の方からも断る気でしたけど…。……そんな風に思ってたんですか?」

「えっ!?いや、違いますよ!ただ、鳴山くんには悪い所が沢山があると言ってるだけです!!」

「その通りではありますけど、それを直接言うのはどうかと思いますよ」

「うっ……」

 

藤原先輩は言葉に詰まっている。

他の人達は、藤原先輩に対する呆れと僕に対するあっ、自覚あったんだという感情が読み取れる。

いやいや、自覚はあるよ、そりゃ。

 

「というわけで、僕は欠点だらけの駄目駄目人間なので、止めておいて下さい」

「そんな自虐せんでも」

「というか、なんで白銀先輩は駄目なんですか?」

「それは、その……」

「心配しなくても、白銀先輩は体調不良でもなんでもないですよ」

 

呆れたように僕は言う。

全員が驚いた顔をしている。

様子から、四宮先輩の思考を読むのは大変だ。

理論的なものならともかく、的外れも良い所の思考されていると判別が効きづらい。

だから、ちょっと時間がかかった。

 

「本当ですか会長」

「えっ、マジでそれが理由だったの?全く、問題ないぞ」

 

酷い勘違いに巻き込まれたもんだ。

さて、

 

「それじゃあ、白銀先輩でいいですね」

「ああ」

「ええ」

 

これで解決だ。

 

***

 

後日談、と、普段ならなる流れだが今回はそうもいかないらしい。

白銀先輩と四宮先輩が恋人のふりをすることが決まった日の帰り頃。

石上が階段に置いてあったバナナに足を滑らせて、頭を打って、気絶した頃。

いや、なんでそんなことになってるんだ?とかの疑問を置いておきつつ、僕は広場の木を眺めていた。

なにやら、気配を感じたからだ。

 

「そこに居るのは誰だ?」

「ぼ、僕のことが分かるの?」

 

そこに居たのは、ごくごく平凡そうでどこか古さを感じさせる男だった。

しかし、本当に平凡という訳でもない。

何故ならそいつは幽霊だったから。

 

「僕のことが見えるし、聞こえるんだね!?」

「見える人を探してたのか?」

「ああ、一緒に探しものして欲しくて…!」

「探しもの?」

「ああ、あの人からの指輪を…」

 

やれやれ。

どうやら、訳ありらしい。

 

***

 

次の日のことである。

 

「取り敢えず、今は僕の体に憑依して離れないようにさせて貰うぞ」

「ねぇ。もしかして君、陰陽師か何か?」

「系統は違うけど、まぁ、似たようなものだ。因みにこんなことも出来る」

『心の声での会話も出来る』

「えっ!?凄い!!」

『校内では基本的にこれで話すから、慣れておいてくれ』

「う、うん」

 

と、こんな感じに昨日出会った男の幽霊を連れている。

名前は一応、聞いてみたが覚えていないらしい。

どうやら、あの人という女性関連のことしか覚えていないらしい。

幽霊にしたって、存在自体が大分薄いことから考えるに、唯一の未練から少しだけ残った魂ということなんだろう。

とはいえ、どちらにしても憑依状態で抵抗にもそれなりの力を使うので聴力に割けなくなるという欠点もある。

まぁ、僕も万能には程遠いということだ。

 

『まぁ、今日は生徒会の仕事はほとんどないから、取り敢えず覚えてることを話していってくれ。ノーヒントじゃあ、流石に分からない』

「う~ん。あっ、階段!」

『階段?』

「確か、13段の階段があってその先に彼女は居た」

『13段の階段ね…』

 

そんな階段、うちの学校にあったけ?

この学校、施設は徐々に変わりつつあるものの、全体的な校舎に変化はない。

なので、階段の塗装や補修ならともかく、段数が変わるような出来事は起こり得ない筈。

まぁ、こいつが100年前とかの生徒ならその限りでもないが。

しかし、その先に彼女が居たという表現が気になる。

先。

ただの階段ならその先にあるのは廊下であり、分かれ道だ。

彼女が居るという言うなら、何かの扉の先が正解の筈だ。

だとすると、階段を登った先に道がない場所。

………屋上か?

 

『それは、屋上への階段か?』

「うん?う~ん?そう、だったかな?」

『あやふやなのか』

「思っている以上に記憶が欠落してるぽい。ごめん」

『いや、別にいいけど』

 

取り敢えず、屋上に向かうか。

 

***

 

と、屋上に行ったのだが特に何の成果もなかった。

階段は13段ではなく、11段だったし。

屋上にも何か物があった様子もない。

完全に空振りだ。

 

「ごめん」

『いいよ。そもそもの記憶が大分欠落してるんだし、13段の階段も何かしら意味はあるだろうしな。他に何か思い浮かぶことがあるか?』

「骸骨」

『骸骨?』

「彼女は骸骨の姿で、僕の所に見舞いに来てくれたことがあった」

 

骸骨の姿。

死んだ後、というのは通らないはずだし、見舞いなのだから保健室だろう。

保健室。

ああ、骨格標本があった筈だ。

そこら辺か?

しかし、保健室は他の教室以上に綺麗だ。

それは学校でどこよりも清潔さを保たないいけない場所だ。

そんな所に隠しものはしないだろう。

とはいえ、こいつの記憶も戻ればいいなという願いの元、保健室に向かった。

 

***

 

結果から述べるなら、何の成果も無かった。

まぁ、保健室だし、そうだろう。

それに加え、

 

「こういうリアルな感じのじゃなくて、もう少し作り物な感じだった」

 

と言われては仕方ない。

しかし、ここまで空振りの連発。

中々と正解へのヒントも掴めない状態だ。

僕たちは廊下を歩きながら話す。

 

『他に何か浮かぶことはないのか?』

「後は絵かな」

『じゃあ、美術室か。で、今度はどんな思い出だ?』

「絵を描いていたんだ」

『誰の絵を?』

「彼女の絵を」

『どうして、そんなのを描こうと思ったんだ?』

「……なんでだったかな?覚えてないや」

 

今度の口調は確実に覚えている側の口調だった。

が、敢えて指摘はしない。

何もかもを引き出すというのが良いことであるとは限らないし、人に触れられたくない思い出でもあるのだろう。

まぁ、煮詰まったらどうにかして吐かせるとしよう。

そう考えていると、美術室についた。

が、まぁ、美術室自体には何もないだろうし、準備室の方に入った。

 

「うわ、汚い!ちゃんと掃除しろよな」

「確かに汚いね」

 

準備室は汚かった。

つい先日掃除があった筈なのに、この体たらく。

掃除を舐めている証拠だ。

環境は人を育てる。

清潔な環境では犯罪は減り、逆に汚い環境では犯罪が増える。

これは、実際に証明されていることだった筈だ。

外側は綺麗でも、中身が汚いのでは意味がない。

お陰で探しものがしづらい。

そもそもで『彼女』の特徴さえ、僕は知らないのだ。

そんな中でする探しものは大変だ。

そう考えていたのだが。

 

「これだ」

 

探しものは存外、簡単に見つかった。

その絵を見ると、四宮先輩に似ていた。

まぁ、よく見ると細部が異なる。

しかし、整った形というのも一定の基準があり、その基準に近いものが美人とされることを考えると美人は総じて顔が似ているのかもしれない。

まぁ、どうでもいいが。

それに、この絵が美化されたものではないとは言い切れない。

結局、当人を見なくては判断はつかない。

 

「でも、相当その人のことが好きだったんだな」

「分かるんですか?」

「まぁ、幽霊になってまで、その人のものを探すんだから分かっていたことですけど。何回も訂正したような後は見えるし、書き込みの量も段違い」

「ちょっと、恥ずかしいですね。でも、失敗作ですよ」

「どうして?」

「……受け取って貰えませんでしたから」

 

その男は寂しそうにそういった。

お陰で、この綺麗な絵にある違和感を指摘することができなかった。

 

***

 

日も大分暮れてきて、今日の捜査は打ち切りにしようとした頃。

四宮先輩と会った。

 

「どうも」

「あら、奇遇ですね」

「先輩は部活帰りですか?」

「ええ、単純作業ばかりですが、体を動かすのにはいいので」

「単純作業…。まぁ、四宮先輩ならそうでしょうね」

 

四宮先輩の部活は弓道部。

重りのような弦を持って、弓を放つ競技。

単純作業になるような競技ではないだろうが、良くも悪くもシングルプレイ。

サッカーや野球などの味方や敵と闘う競技ではないから、一定の正解の動きさえ出来ればそれで良い為、四宮先輩には単純作業にしかならないのだろう。

この人は、完璧に同じ動きが出来るのだから。

 

「彼女に凄い似ている人だ。けど、違う」

『そりゃ、違うでしょう』

「彼女はもっと悪辣な感じで、それでいて、もっと気品があった」

『失礼な奴だな』

 

褒めたいのか貶したいのか。

どちらにしても、どちらの言葉も人によっては嬉しくない言葉だろう。

まぁ、そんなことを一々ツッコむ気もないが。

そうして、僕と四宮先輩が扉を開けると、

 

「藤原先輩に、石上に、何、いや、分かりますけど」

 

そこには、秀知院TRPGをやっている藤原先輩と石上と白銀先輩と神ップルがいた。

 

***

 

秀知院TRPG。

TG部の制作したTRPGのシナリオのひとつ。

学園に封印されている竜の討伐をするというシナリオである。

意外と完成度が高いシナリオで、僕は好きだが何せ学校を歩いてこなすイベントであるため迷惑がかかりやすい。

その為、扱いが難しい作品だ。

まぁ、それは良いのだが。

問題はラスボスのステータス決めには、この竜との強制イベントが発生した際に会った人物がその竜のステータスが決定する。

その基準は、家柄、年齢、部活によって決定する。

そう考えれば、確かに四宮先輩と僕とを比べれば四宮先輩の方が遥かにヤバくなるだろう。

だが、しかし。

だからといって、

 

「いや、鳴山一択だろ」

「鳴山くんなら簡単そうだもんね」

「そうだね。鳴山くんなら余裕」

「鳴山ならいけるだろうな」

 

こんな風に言われれば、僕としては我慢ならない。

随分と舐められたものだ。

僕の部活を考えた上で言うべきなのだ。

 

「皆さん、その辺にしておいた方が」

 

藤原先輩はそう言うが、既に遅い。

完膚なきまでに叩きのめしてやる!

 

***

 

ラスボス:鳴山竜のステータスはそこまで高くない。

攻撃力も防御力も体力も大したことはない。

 

『キサマラ、ズイブントナメタクチヲタタイテクレタナ。ヨウシャセンゾ』

「な、なにやら威圧感が凄いぞ」

「ステータスは大したことない筈なのに…!」

「えーー、竜の敏捷値は三ですね」

 

僕はサイコロを降る。

6だ。

 

「竜のクリティカル。ガチギレをしている竜の羽ばたきで周囲を威嚇して誰も近づけません。全員このターンは行動不能で、1ダメージ追加です。防御スキルがある人はそれを使って軽減できますよ」

「うそっ!いきなり!?」

「ぐぅっ、幸先悪いな」

『サイサキ?ソンナモノヲキニスルヨユウハナイデスヨ』

 

僕はサイコロを降る。

6だ。

 

『トリアエズ、シロガネヲツブス』

「これで会長の体力は1ですね」

「うお、マジか!?」

「攻撃の要をいきなり失うのはまずいですよ!?」

「はい。他の人達は行動不能なので、次は鳴山くんの番ですね」

『シニサラセ』

 

僕はサイコロを降る。

当然6である。

 

「竜のクリティカル。翼の羽ばたきの風圧で中々近づけません。皆さんの敏捷値が-1です」

「ちょっと待って!?なんでこうもクリティカルが続くの!?」

『ソレハキサマラガワタシヲオコラセタカラダ』

 

僕はサイコロを降る。

当然6!

 

『カクシコマンド:フレイム。ゼンタイニダメージケイサン』

「はい。これで会長は死亡。他の皆さんも3ダメージです」

「酷い!!」

「クソゲーじゃねぇか!!」

『クソゲー?ソウシタノハキサマラダ』

 

僕を煽るからいけないのだ。

キレた竜の逆鱗は、世界を滅ぼす。

 

「次は私ですね。スキルを…」

 

僕は無視してサイコロをぶん投げる。

当然正位置(6)!

 

「竜の隠しコマンドですね。クリティカルで6ダメですので時空航海士は死にますね」

「そんな!?」

「スキルさえ使わせてくれないのか…!」

「強すぎる!!」

『ムクイヲウケルガヨイ』

 

竜は炎を吐く。

時空航海士は防ぐ間もなく焼き消える。

 

「そんな死なないでくれ!」

『カクシコマンド:リアジュウシスベシ。コイビトノキャラガシンダサイニソノママカナシミツヅケイッサイノコウドウフノウ』

「はい。これで呪術医師は一切の行動が不能ですね」

「隠しコマンド連発しすぎだろ!!」

「もう、これ無理じゃないですか。勝ち目ゼロです。チートにも程があります」

 

石上がサイコロを降る。

しかし、2である。

 

「ダメージ2ですね」

『オワリニシテヤル』

 

僕はサイコロを降る。

当然正位置!!

もう一度降る。

当然正位置!!

 

「石上くんに6ダメージ。これでゲーム終了。勇者一行は竜の前に何も出来ずに敗北し、竜は世界を滅ぼしました」

 

その頃の幽霊の男の一言。

 

『……なんだコレ』

 

***

 

次の日。

幽霊の男の探しものの手伝いをしたい所だが、

 

「なぁ、鳴山。相談したいことがあるんだけど」

 

と、石上に相談されれば乗るしかない。

で、その相談内容を白銀先輩と一緒に聞くと、

「最近、呪われたかもしれないんです」

「呪われた!?」

 

あら、気づいちゃった?

呪われてるの気付いちゃった?

いや、危険性が相当低いから無視してたし、寧ろ憑いて貰ってたほうが他のがつかない分安心出来る。

地味に石上が霊媒体質というか憑かれやすいタイプなので本人に気付かれないようにしょっちゅう祓ってのだが、一昨日からそんな霊に憑かれたのでひとまずの蓋として放置していた。

さて、どうしようか?

祓うのは簡単なんだけど、蓋を外すのは怖い。

たまに、マジでヤバイやつに狙われることあるし。

まぁ、石上からしたらどういう奴であれ、憑かれるのは嫌だろうな。

 

「呪われたってどうしたんだよ。まさか、おまえまで変な手紙受け取ったとか?」

「それだったら、クラスメイトからの嫌がらせを疑いますよ」

 

まぁ、その辺じゃあないだろうな。

もしそうだったら、そいつをただで済ますつもりないし。

それで石上の美術準備室掃除の話を聞いた。

まぁ、今日の出来事だけれど。

ていうか、その絵ってあの絵だよな。

怪しい気配とかは感じなかったけど。

まぁ、曰く付きものなのは否定しないけど。

 

「……まるであれだな、藤原たちが話していた七不思議の一つ」

「はい、【動く絵画】そのものじゃありませんか」

「七不思議?」

 

初耳だ。

この学校、七不思議とかあったんだ。

 

「鳴山は知らなかったのか?」

「僕が何でも知ってると思わないで下さいよ。知ってることだけです」

「【動く絵画】【見舞う骸骨】【無人のピアノ・ソナタ】【十三階段】【首吊りの木】【願いの叶う指輪】そして、【6つ知ったものは屋上から死ぬ】の7つだよ」

「……へぇー…」

 

この中の3つ位聞き覚えあるな。

ていうか、完璧に幽霊男(こいつ)案件だよな。

 

『おーい、お前案件だよなつまり』

「……知らない。本当に知らない」

 

今の間は何だよ。

思ってたよりも隠してること多そうだなおい。

つーか、だとしたら絶対全部繋がってるよな。

てーことはあれか。

今、石上に憑いてる幽霊も調べたほうが良いってことか。

怪異にはそれに相応しい理由がある。

つまりはそういうことか。

まぁ、取り敢えず。

 

「これで3つ目ですよ……ちょっとヤバくないですか…」

「いや、大丈夫だろ」

「おい」

「聞いた感じ全部恋愛系だろうし、その手のものは恋愛が成就するなら問題ないだろ」

「「恋愛系?」」

「そう、恋愛系」

 

まぁ、具体的な確信の種は幽霊男(こいつ)だが。

こいつ周り逸話が七不思議になったんだろうから、だとしたら全部は元々のこいつの心残りに集約される筈だ。

 

「取り敢えず、【無人のピアノ・ソナタ】とやらを聞きにいきますか」

 

***

 

という訳で音楽室の近くに来たわけだが。

 

「……鳴りませんね」

「……まぁ、そんなものだろう」

 

二人はそういうけれど。

僕は知っている。

あそこに生徒会の女子勢がいることを。

 

チャラランチャララン

 

二人がビックとした。

 

「えっ、なんで鳴ってんの?」

『いや、人が居るからだろ』

「あっ、居るんだ」

 

幽霊男もビビったようだ。

何をビビってるんだか。

自分も幽霊の癖に。

 

「しかし、部活終了時間は過ぎているな。軽く声だけかけていくか」

「ですね、幽霊なんて実際いないんですから」

 

残念だったな。

幽霊も呪いも存在するんだよ。

そして、僕はどちらかというとそちら側の人なんだよ。

そんなことを考えていると、白銀先輩は扉を開けようとした。

が、開かなかった。

 

「おい、誰か。誰か中にいるのか?」

 

いる。

よく見知った3人が。

 

「怒らないから、出てくるんだ。頼む。少しでいいから顔を見せてくれ」

 

顔見せたら、安心と共に呆れが発生するのは察せられる。

まぁ、それは良いとして。

石上が完全に怯えている。

白銀先輩は熱心な生徒がやっていると主張し、石上は誰かの悪ふざけだと主張する。

正解は石上だ。

まぁ、示唆ぐらいはしてやるか。

 

「そう言えば、伊井野って昔ピアノ弾いてただっけ?」

「あ、ああ。確か、この曲も昔伊井野が弾いてたの聴いたことがある」

「へぇーー。そういうのは、覚えているんだ?」

「……上手なものは覚えるだろ」

「まぁ、確かにね」

 

石上が照れている。

いやー、可愛いな。

 

「これで怪談とか関係なかったら、きっと聞き惚れてるだろうなー」

「いや、それとこれは違うと思うが」

 

白銀先輩はロマンのないことを言う。

そして、折角のヒントを取り零す。

ヤレヤレだわ。

 

「もう良いです。二人はここに残ってて下さい。僕は反対側から確認してきます」

「あっ、おい」

 

白銀先輩が止めるのも聞かずに逃げるように立ち去った。

その数分後。

白銀先輩のスマホに電話がかかる。

しかし、未だに音楽は流れている。

声を聞いた感じ、本気で怯えているようだった。

そして、そのまま中庭の方で集まるという話になるようだった。

白銀先輩はすぐにでも向かおうとするが、僕はその場に留まっていた。

 

「おい!行くぞ!」

「先に行ってって下さい。ちょっと気になることがあるので」

「そうか?早めに来いよ!」

 

そう言って、去っていった。

そして、ある程度の距離が離れたことを確認すると、

 

「オイコラ、生徒会三人娘出てこい!」

 

大きな声で、そう言った。

 

***

 

「……いつから気づいてたんですか?」

「そうですね。消化器の辺りに藤原先輩のスマホを発見した時点ですかね」

 

本当は最初から気づいてたがそれは言わない。

 

「で、せっかくなら綺麗な音色でドキドキしてもらおうって所ですか?」

「大体、当たりよ」

「相変わらず、察する能力が高いわね」

 

若干、膨れ気味に言われる。

ええーー。

 

「まぁ、ここ最近の出来事のせいでホラー的な解釈しちゃってますけど。主に石上が」

「そうなんですか?けど、次の企画なら大丈夫です!」

 

あっ、これ大丈夫じゃない.

天然で踏み抜くやつ。

フォローになるやつ。

 

「はぁ、まぁ、良いですけど。あんまりビビらせると石上がショック死しかねないんで止めてくださいね」

 

一応は言っておく。

意味はないだろうけど。

 

「分かってますよ」

 

***

 

という訳で裏庭に来ると、二人が話していた。

 

「だとしたら、僕ここにいれば告白されるんじゃありませんか!?」

「おまえ急に何を言い出すかと思えば……」

「だってそうでしょう。いま僕は七不思議を引きつけるパワーを持っていると言っても過言ではありません。だったらこの木が持つ『ここで告白された者には波乱続きの恋が待つ』という告白イベントすら引き起こしてしまうのではないでしょうか」

 

何を言っているんだろうこの男は。

まるで自分はモテないかのように。

いやいや、お前は違うだろう。

心配しなくても、波乱ばっかりになるどころか、現在進行形で波乱が起きてるよ。

そして、僕はその波乱の規模を縮小する担当なんだよ。

 

「勝負しようじゃないですか、僕の童貞力と七不思議の力。世紀のドリームマッチです」

 

何、馬鹿なこと言ってるんだろう。

この七不思議の特徴的に、童貞力高い方が効果高いのは当たり前だろうに。

というか、そんなの考えるまでもなく、達成されるよ。

お前を想ってる人の手によってな。

 

すいーーーー、こと

 

紙飛行機が落ちた。

 

「どうやら、オカルトはマジであるっぽいです」

「俺も鳥肌が立ってる」

 

因みに僕は立たない。

立つわけはない。

種も仕掛けも分かりきっているものにビビるような人間ではない。

二人はなんか色々と話しているが、是非とも内容が気になるので見せて欲しい。

 

「まぁ、実際の内容を見てからにしましょうよ。本物だったら、それから逃げるのは失礼でしょ」

 

と、僕は口を挟む。

 

「それもそうだな。読むよ」

「まぁ、違ったら違ったで結果オーライになるだろう」

 

皆の賛同を得られた所で読み始めた。

『あなたのことが好きです』から始まる文章は、ガチだった。

いや、もう、これ、本気のやつだ。

誰が制作したのかがわかり易すぎる。

もうこの時点で、ちょっと笑いそうになっていたが最後のでダメだった。

 

『FROM 親愛なるあなたへ ピアノ少女より』

 

「さっきの葬送行進曲の幽霊やーー!!」

「石上ぃぃぃぃっ!」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

そこにあったのは、勘違いして逃げ出した石上とそれを止めようとしたのか、共に逃げようしているのか分からない白銀先輩と、種を知ってるとこの文章を書いた人物のド直球な恋文になってることが分かって、おかしくておかしくて仕方なくて大笑いしている僕という異常な状況だった。

 

「僕は何を見せられているんだ?」

 

困惑している幽霊が実は一番まともという所が特にお笑いだった。

 

***

 

それなりに大笑いした後。

僕は生徒会室に戻ったのだが、そこには『親愛なるあなたへ』と書かれたメッセージと指輪、そしてそれを見て、顔を青くしている石上と白銀先輩の姿があった。

 

「もしかして、コンプリートしちゃった?」

「アハ、アハハ、もう僕はダメかもしれない」

「心配するな。僕が居る限り、そんな展開にはなりえないから」

「ありがとうな。でも、もう駄目だ。ああ、せめて死ぬ前に誰かに真正面から告白されたかったな」

「逆に言えば、それをされなかったら死なないんじゃないの?」

「僕なんかと、友達になってくれて、ありが…」

「ほら、どうすんの!やっぱり、石上が死にかけてるじゃねぇか!」

「えっ、私のせいですか?」

「石上!死なないで~~!」

「伊井野さん落ち着いて下さい。緊張の糸が途切れて寝ているだけです。鳴山くんも不安を煽らない」

「原因の半分を担っている人が言わないで下さい」

「えっ、どういうこと?」

 

そんな感じのドタバタしたような状況でその日は終わった。

次の日。

四宮先輩はルビーの指輪を眺めていた。

さて、どこからどこまでが四宮先輩の策略なのか。

最初の話で結果的に白銀先輩となったとはいえ、元は石上の方を選んだ。

ということは、最初の話はあくまで話の導入で重要なのは別の部分。

そこで繋がるであろう七不思議。

……ああ、そういうことか。

だとするなら、一つだけ確かめたい。

 

「四宮先輩」

「何かしら?」

「スタンフォード監獄実験ですか?」

「……会長が辿り着けそうになかった時を頼むわ」

「了解」

 

更に次の日。

その放課後。

 

「……なぁ、本当に探しものを見つける気があるの?」

『ある。っていうか、何となくストーリーも読めてきたから今日中に解決すると思うぞ』

「えっ、そうなの?なんか調べてる感じがなかったけど」

『日常を送りながら、仕事するのは身につけるべき能力だからな』

「……大変そうなんだな。いや、一昨日の様子から既に大変そうだったけど」

「大変だけど、好きだよ。この日常は」

 

僕は声に出して言う。

こうして、口に出すと気分が良い。

 

ピンポンパンポーン

 

『栄えある秀知院学園のみなさん』

 

「えっ!?これは……」

「さぁ、ゲームの始まりだ」

 

***

 

四宮先輩の放送が終わったのを確認し、僕は歩く。

 

「取り敢えず、生徒会室に行くかな」

「……おい、これ!?」

「ああ、お前の時の焼き直し。そう思ってるのか?」

「!!」

 

図星をつかれたような顔をする。

なんてことはない。

あの七不思議はきっと、()()()()()()()()()()なのだ。

全ての物事は繋がっている。

そして、正解を知るためには過去をきちんと知るべきなのだ。

だから、僕は生徒会室に来た。

そして、裏部屋を開ける。

 

「ええ!!ここ開くの!?」

「生徒会室に出入りしない人は分かりっこないか」

「マウントはいいよ。ここに何がある?」

「昔の記録」

 

階段を登り、そこにある指輪に言及されている資料を探す。

結構、簡単に見つかった。

そして、その物語を僕は読んだ。

人を避ける為の【十三階段】

無理難題をクリアする為の【無人のピアノ・ソナタ】

その努力の見舞いとして来た【見舞う骸骨】

彼女に受け取って貰いたかった【動く絵画】

気づいて欲しかった【願いの叶う指輪】

しかし、それに気づかずに死んだ【屋上からの死】

そして、女子生徒が後を追った【首吊りの木】

やっぱり、全ては繋がっていた。

そして、この中でひとつだけ話と噛み合わないものがある。

【動く絵画】

答えは出た。

そして、僕は幽霊男に向けて聞く。

 

「どうだ。自分が死んだ後の彼女の様子を知った気分は」

「……結構、最悪な気分だよ。後を追って自殺したなんて。……それに、受け入れてくれるつもりだったなんて」

「なぁ、本当は何も忘れてないんだろう?死んだ瞬間を覚えてないのは確かにしても、本当は名前も他の過去も覚えているんだろう?」

「………」

「別に教えろとは言ってない。ただ、死んでなお、会いたいって本気で考えてまだここに居るのか?」

「……そうだな。そうだよ。僕は何もかも憶えているし、ただ、彼女を最後に見れないまま死ぬのが嫌だっただけです」

「なら、会いに行くか?」

「……会えるの?死んでしまったのに」

「物語は続いているからな」

 

そして、僕はスマホを使って、会長にこの議事録のことを伝える。

 

「という訳で、後はこの後に来る目付きの悪い生徒会長に付いていけ」

 

***

 

夜。

会長が指輪を絵画から抜き出した後。

改めて、その絵を眺める。

綺麗な絵だ。

よく見ていたことが分かる。

ただ。

見ているだけじゃ、話さなきゃ、分からないこともあるのだろう。

 

「……彼女は成仏シマシタか?」

 

背後の校長先生が訊く。

 

「いいえ。()()、してないみたいですよ。因みに僕が案内したのは()ですよ」

「……彼もマダ死ねませんデシタか」

「なんだかんだで、本当の愛っていうか、ちゃんと通じ合っていたみたいですね」

「それは吉報なんデショウガ、しかし、それ故にカナシイですネ」

「確かにそのまま終わればバットエンドですけど」

 

僕は校長の方を向くと、

 

「死んでから結ばれるのも、ハッピー、とまでいかなくともビター位にはなるんじゃないですか?」

 

確かな幸せかと言われれば、僕には分からない。

こんなものは価値観次第。

そして、本人達次第なのだ。

 

「……君はそうして、救ってきたんデスカ?」

「救ってなんていません。救っている人はいつも別の人物で、僕がしていることなんてそこまでの道筋を作ることぐらいです。今回だって、明確に救ったと言えるのは、この計画を立てた四宮先輩あるいはそれに付き合った白銀先輩です」

「自分が救ったとは、言いたくないんデスネ」

「だって、そうしないと見返りを求めてしまいますから。基本的に僕がしているのは、自分が満足するためにしていることでだから、見返りなんて帰ってこないのが当たり前。そういう風にするって決めたんです」

「君は善性を持ってイル」

「悪性ばかりですよ。性悪説を推奨するぐらいですし」

「でも、君自身はそれで痛い目ばかりを見てキタ」

「良いことをしても、悪いことをしても、それを正しく見る人がいなければ曲解されるだけです」

「君は今、自分を否定することでしか生きれナイ。それはとてもカナシイデス」

 

互いに、言いたいことを言ってるだけだ。

文章的なつながりがあるわけじゃない。

それでも、構図は決まっていた。

ふざけているようでいて、この校長は意外としっかりしている、人を見ることの出来る人物だ。

 

「私には、君を助けるための素養が足ラナイ。それを悔しくオモイマスっ!」

「……いいんですよ。そう言える大人なんてそうはいませんから」

「デモ、私は君に前を向いてホシイ。罪を背負っても、自分を認めてあげてホシイ。君の背中を押してくれる人はタシカニ居る筈ダカラ」

 

その言葉を最後に、僕は家路に着いた。

 

***

 

後日談。というか、今回のオチ。

翌週となり、生徒会室は今日も騒がしい。

藤原先輩と伊井野は四宮先輩を問い詰めているらしい。

まぁ、あれだけのことを起こせば当然だけれど。

そして、四宮先輩の用意した建前は鎮魂だった。

まぁ、正解だ。

今朝、二人の気配を探ったり、石上も軽く調べたが何もいなかった。

成仏したのだろうと納得しておく。

どこかで、イチャイチャ地縛霊生活を送っているかもしれないと考えるのも一興だが、流石に野暮だろう。

 

「実は僕、悪夢ばかり見るんですけど、昨日も赤黒いうねうねした怪物に追われる夢だったんですけど、四宮先輩に『今までのお礼です』って言ってそいつをやつけてくれたんですよ」

 

おや、昨晩までは居たようだ。

 

「それで、その四宮先輩が『あなたの友人には随分と世話になったわ。お陰で彼とも会えたし、感謝すると伝えて置いて。後、あなた的にはいっそ守護霊として守ってくれたほうが安心とか思っていたみたいですけど、彼とイチャイチャしたいのでさっさと行くわとも伝えておいて。……あなたも不幸体質だから、水際と高い場所と見通しの悪い交差点と銀行強盗と飛行機事故と地球温暖化に気をつけてね。……まぁ、可愛い彼女がいるから平気でしょうけど』って言ってたんですけど、どういう意味ですかね?」

「知りませんよ。それを言ったのは私じゃないですから」

「アハハハ」

「……なんで、笑ってるんだ?」

 

性格が悪いって伝聞の割に随分と律儀な人だ。

どうやら、ビターというほどビターでもなさそうで安心した。

僕は会長の横を通って外を眺める。

目を瞑って、こう思う。

たまには、こういう謎も悪くない。

 




元が小説版で4話だから、文章量がえらい長さになってる。

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