長かった文化祭は終わった。
色々な出来事、主に他の生徒会メンバー関連のアレやコレやがあったが、それも無事に終わった、筈だ。
いやー、しかし、本当に疲れた。
正直、精神的にも肉体的にも相当に煮詰まっていた。
だって、臥煙さん含めて撫子以外の専門家とは連絡がつかなくなるし、怪異譚も僕がすぐに気付けないように匂いとかも消してくるし、お陰で早坂先輩の時とかは相当にギリギリだった。
ちょっと、遅かったらマジで死んでたし。
お陰で、ショートスリーパーでもない僕が徹夜一歩手前の生活を続けることになった。
そんな中で文化祭こと、奉心祭。
分かりやすくトラブルの大元になるようなイベントだ。
だから、奉心祭は全力を尽くした。
全力で盛り上げ、出来得る限りトラブルを減らすことに尽力した。
……正直、努力に対してのリターンが薄いような気もする。
どれだけ盛り上げても、起きるときは起きる。
それこそ、優のときのように。
だが、それはやらない言い訳にはならない。
そうでなくても、人命がかかってもいるのだ。
こちらの都合など気にしている場合ではない。
それでも、まぁ、周りには見せないようにしていたつもりだったけど……。
最後の最後で、後輩に見つかってしまうなんて……。
しかも、変なことを口走っちゃうし。
本当に、恥ずかしったらありゃしない。
先輩の面目丸つぶれじゃん!
いやいやもうー、恥ずかしい。
もうね、なんかね、アレだよね。
今までのキャラクター性が纏めて潰されてるよね。
……まぁ、その話はこの辺にして。
優と伊井野。
白銀先輩と四宮先輩。
それぞれの関係性が、奉心祭で発展した。
まぁ、まだまだこれからなんだけども。
それでも、嬉しいものは嬉しい。
願わくば、このまま順調に進んでくれると嬉しいんだけど。
***
文化祭翌日。
みんな忘れているかもしれないが奉心祭は20,21日の二日間。
そして、僕の誕生日は12月22日の冬至。
つまり、今日が僕の誕生日なのだ!
「って、はしゃげたら楽なんだけどな」
目の前の様子を眺めながら、僕は黄昏れるように言う。
まぁ、クラスの中にいるとという情報だけで大体察している人は居ると思うが。
「ね、ねぇ!石上」
「……なんだよ」
「クリスマスの日、どうする?」
「…ああ、どうせ、藤原先輩が何か誘ってくるだろ」
「え、でも……」
「もうすぐ授業が始まるぞ」
「う、うん」
こんな感じだ。
伊井野の方は隠す気0の好意全開なのに対して、優がなんか素っ気ない。
しかも様子を見る限り、照れ隠しでって訳でもなさそうだ。
あいつの性格を考えるに、こうなっているのは多分……。
「授業が始めるぞ!」
先生が来た。
考察は後でだな。
***
結局、優はずっと素っ気ないままで放課後になった。
伊井野が露骨に凹んでいる。
「……大丈夫か?伊井野」
「……大丈夫じゃない」
「お前が素直に認めている時点で相当だな」
まぁ、無理もないというか、付き合いだした翌日にあの態度取られたらそりゃ凹む。
「キャンプファイヤーで何があったんだよ?」
大体、聞いて知ってはいるが、こいつらにそのことを伝える訳にはいかないで聞く。
「……あんたなら、大体知っているんじゃないの?」
「僕をなんだと思ってるんだ?」
「盗み聞き魔」
「酷い」
大体合ってるけどさ。
そんなジト目で言わなくてもいいだろう。
「……私が石上に告白した」
「……だとしたら、OKを貰ったんじゃないか?」
「……貰った。なのに、石上があんな態度を取って……」
前の伊井野なら怒っていただろうにな。
こうして、ずっと凹んで……。
理由が分からないのが、こうなっている一番の理由なんだろうけど。
ヤレヤレだな。
「因みに告白した時の様子はどんな感じだったんだ?」
「……しどろもどろって感じだった。戸惑ってる様子で…」
「…………」
「石上は……、私とお情けで付き合うって言ってくれたのかな?」
「それはない」
僕は断言する。
そうなる気持ちも分かるけれど、それはない。
あいつはそんな不誠実なやつじゃないし、伊井野に対する気持ちだって軽くない。
「そこに関しては断言する。あいつはお前のことを、お前が思っている以上に想ってる」
「でもそんなこと!」
「分からないって?分かるさ。あいつの親友なんだから」
本人に聞いたというのもあるけれど、でも、それ以上に、優の伊井野を見る目は違う。
それをずっと眺めてきた。
だから、言える。
まぁ、伊井野にはまだこの話は出来ないけれど。
「だったら、あの石上の態度は……!」
「それに関しては大体予想はついてる」
「!!そうなの!?」
「だけど……」
予想はついているけれど。
しかし、この問題は……。
「これに関しては、お前が自分で気づかないといけない」
「どうして……?」
「だって、優はお前の恋人だろ?互いのことをよく知って、互いを支え合うのが恋人だ。だから、あいつの問題に、あいつの気持ちに気がつくのはお前の役割だ」
役割。
そう、役割だ。
優には優の。
僕には僕の。
そして、伊井野には伊井野の役割がある。
「それで、お前はどうしたいんだ?」
僕は伊井野に尋ねる。
伊井野はこちらを真っ直ぐ見ると、
「……石上のあの態度の理由が知りたい。そして、石上と話し合いたい」
はっきりした声でそう言った。
いつもの伊井野の顔だ。
ちゃんと方向さえ定めれば、真っ直ぐに折れることなく進む。
それが伊井野ミコだ。
「まぁ、場面のセッティング位はしてやるよ」
「頼りにしてる」
「おう、任せろ。取り敢えず、生徒会室行くぞ」
「うん」
本当に、世話の焼ける友人たちだ。
***
そんな訳で生徒会を訪れた訳だが、
「かいちょっ、かいちょっ」
「ちのみや、ちのみや」
「なーにやってるんですか、あんたら?」
そこには幼児退行を起こした白銀先輩と四宮先輩が居た。
伊井野もドン引き顔だ。
いや、僕は確かに一通りの経緯を聞いてはいる。
聞いてはいるんだが、それでも意味不明過ぎる。
「白銀会長。これは一体どういうことですか?」
「ええと、これはだな…」
「スピーー」
「あっ、ちょ、四宮!?」
四宮先輩が倒れるのを、ギリギリで白銀先輩が受け止める。
この様子を見る限り、相当に寝不足だったのか?
それにしたって、こうはならんだろ。
取り敢えず、早坂先輩にメール送ろう。
「大丈夫ですか?」
「ああ、どうやら大分文化祭の疲れが溜まっているらしい」
そう言って、白銀先輩は四宮先輩をソファの上に寝かせた。
ただ疲れたからって、そうはならないと思うが。
そう考えていると、早坂先輩からメールがきた。
『かぐや様は現在、ハッピー6割、現実逃避4割、そして睡眠不足が合わさることで発生する、通称、かぐやちゃんと呼ばれる状態になっております。IQが
……なるほどね。
取り敢えず、早坂先輩にお疲れさまと送るか。
「あれ、かぐやちゃん寝ちゃいましたか……?」
「かぐやちゃん…?」
伊井野が石上のことを思い切り睨む。
ていうか、露骨に嫉妬しとる。
まぁ、名前呼びして貰ったことないもんな。
「石上!どうして四宮先輩のことを名前で読んでる訳!?」
「いや、藤原先輩が四宮先輩のことをそう呼んでたから…」
「だからって!!……私のことを呼んでくれてないのに…」
「……悪い」
石上はそう言って、目を背ける。
どことなく、どんよりとした雰囲気になる。
う~ん。気まずい。
「なぁ、あの二人。何があったんだ?」
「変に関係性が拗れちゃってるんです」
「……大変そうだな」
「まぁ、こっちでなんとかします。そっちもそっちで忙しくなりそうですしね」
お、おうと明らかに驚かれている。
いや、まぁ、ディープ食らって、そのまま流れたら、そりゃそうなるという感じだが。
こっちもこっちで一悶着ありそうなんだよな。
「ああー!鳴山くん!!」
と、大きくドアを開けて現れたのは千花先輩。
千花先輩は笑顔でこちらに近づくと、
「誕生日おめでとう!!」
と、タスキをかけてくれた。
あれ、どこにタスキありましたっけ?
「あっ、そう言えば、まだプレゼント渡してなかったな」
「ごめん」
「いや、昨日が昨日だから仕方ないよ」
正直、みんな忘れてるよなーっでスルーする気だったけど。
それどころじゃない人ばっかだし。
「はい!これ、プレゼントです!」
「ありがとうございます」
そう言って、千花先輩のプレゼントを貰う。
「開けてもいいですか?」
「それは……、家に帰ってからに下さい」
千花先輩は恥ずかしそうに言う。
一体、どういうものなんだ?
「はい」
「うん」
「ゴメンね」
「いや、別に良いよ」
優と伊井野からもプレゼントを貰う。
「開けていいか?」
「いいぞ」「いいよ」
喧嘩中、というより拗れ中の癖にこういうときは仲良く返事をする。
お互いに顔を赤くして…。
そうなるくらいなら、喧嘩するなっつーの。
まぁ、それは置いておいて。
中を見ると、優はブルーライトカットメガネ、伊井野はノイズキャンセルイヤホンだった。
「お前らは本当に仲が良いな」
「言っとくけど、別に一緒に買いに行ったりしてないからな」
「そりゃそうだろうけど」
その通りではあるんだろうけど。
しかし、この組み合わせはつまり、パソコンで作業する時にセットで使えということだ。
これで負担とかを和らげろということなのだろう。
本当に、思考回路が似ているというか、喧嘩してても変わんないというか。
考えるのが馬鹿らしくなる。
人へのプレゼントでこれだけイチャつけるなら、まぁ、大丈夫だろうな。
「あれ?会長。どうかしたんですか?」
白銀先輩が気まずそうに目をそらしている。
……なるほどな。
「白銀先輩、いくら渡してくれたプレゼントが安いものでも気にしませんって」
「……え?」
「文房具セットでも十分に嬉しいですよ?」
「あ、ああ!そうか」
「あれ?会長からはもう貰ったのか?」
「ああ。朝、偶然あってな」
勿論、嘘である。
会長は素で僕の誕生日を忘れていたのだろう。
まぁ、文化祭で決着をつけるのに必死だったのだから仕方がないが。
そこを責めるつもりはない。
しかし、それでも会長が役員の誕生日を忘れるのは信用問題に関わる。
なので、嘘をついている。
まぁ、文房具セットは無難というか、会長らしいものの筈だ。
「そうだったんですか。ところで鳴山くん」
「なんですか?」
「イブの夜って、ヒマですか?」
「成程。家でパーティーをやるので生徒会メンバーで来ませんか?ということですか」
「……なんで、オチも含めていうんですか」
千花先輩がむくれる。
まぁ、でも分かっちゃうものは仕方ない。
分かるんだから。
「という訳で生徒会の皆でクリスマスパーティーしましょう!!」
千花先輩はそう宣言する。
「かぐやさんも行きますよね」
「う~~ん」
「行くそうです!」
「いや、明らかに唸り声でしたよ」
本当に、こういう所は強引だなーっと思う。
そのマイペースさが良いところでもあるんだけど。
「という訳で、石上くんとミコちゃんはどうしますか?」
「私は……
「別に僕はいいですけど」
……私もそっちに行きます」
「わかりました!!」
伊井野は渋々という感じで同意する。
まぁ、このタイミングだったら二人きりで過ごしたいよな、普通。
とはいえ、この拗れたまま二人きりにするのもちょっと怖いんだけど。
「それで、鳴山くんはどうします?」
「参加しますよ」
「会長は?」
「みんなが参加するし、行くよ」
「それじゃあ、全員参加ですね!」
全員参加、か。
これは、中々と波乱のあるクリスマスになりそうだ。
***
後日談。というか、今回のオチ。
イブの予定を立てて、そのまま今日は解散となった。
優はせっせと帰り、伊井野はそれを追いかけた。
千花先輩もペスの散歩の為に帰った。
白銀先輩は唸っている四宮先輩を放おってはいけないと残っている。
あのまま帰るようなら、早坂先輩に伝えておけばそれで良かったんだけど。
一応、早坂先輩にもメールを送っておく。
「ハァーー。あっ、そうだ。今のうちに千花先輩のを確認しておくか」
そうして、僕は千花先輩からのプレゼントを開ける。
中に入っていたのは、ブレスレッドだった。
銀色と桃色が混じったシンプルなものだ。
意外と好みだ。
センスは良いんだよな。
まぁ、ブレスレッドとかつけたことないんだけど。
「白兎先輩!」
玄関前に行くと、美青が待っていた。
「……来たのか」
「そりゃ、先輩の誕生日ですし」
そう言って、箱を差し出す。
どうやら、プレゼントらしい。
「ありがとう」
「いえいえ、誕生日おめでとうございます!」
笑顔で、美青は言う。
正直、昨日の今日で顔を合わせづらいんだけど。
恥ずかしいし。
しかし、ここで動揺を見せていると色々とアレなので。
アレっていうのはアレだよ。
色々なアレだよ。
って、何考えてるんだろ。
アホか。
「先輩」
「なんだ?」
「開けてみてくれませんか?」
校門を出る。
美青は期待に満ちた目をして、見ている。
そんなに自信あるの?
中を見てみる。
あったのは、青と白のネックレスだった。
「青と白、ねぇ…」
「どうですか?」
「まぁ、嬉しいけど…」
結構、露骨だな。
まぁ、嫌いじゃないけども。
しっかし、貰ったものがことごとく僕が普段使わないようなものだな。
そんなに着飾るタイプじゃないし。
服装を考えるのが大変になるな。
「どうやら、微妙そうですね…」
「いや、そんなことないけど」
「顔が言ってますよ」
それはまずいな。
こういうときに表情にでるのは駄目だろう。
折角のプレゼントなのに。
「いいです。クリスマスにリベンジします。そう言えば、クリスマスに何か予定あります?」
「ああ。イブの日に生徒会メンバーでパーティーに行くぞ」
「……そうですか」
微妙そうな顔をする。
まぁ、千花先輩と一緒に居るのが嫌なんだろうけど。
「それって、何時ぐらいですか?」
「7時位だけど」
「それじゃあ、それまで私と一緒に居てくれませんか?」
「………」
デートのお誘いだ。
これまでも、結構デートまがいというか、実質デートみたいなことはしてきたけれど、ここまでのストレート球は中々珍しい。
クリスマスだから、というのもあるんだろうけど。
まぁ、僕がどういう風に返事するかは決めてある。
「パーティー用にプレゼント選ばないといけないし、手伝ってくれない?」
「……それはどうかと思いますよ」
「ランダムだから、男女両方の意見が欲しいんだよ。お返しとして、昼食を奢るし」
「……普通に一緒に居るって言ってくれればいいのに」
そんな美青の言葉が聞こえる。
まぁ、聞かれていることを分かった上で言ってるんだろうけど。
まだ恋愛解禁とはいかない。
自分を信じるには、自分を信用するには、全然足らない。
ていうか、そんな資格はないような気がする。
……いや、これは嘘だな。
恋愛に資格なんていらないし、人を好きになるのに理由なんていらない。
ただ、僕は向き合いたくないだけだ。
あの過去と。
そして、自分自身と。
「先輩。悩んでるならちゃんと言って下さい。昨日も言いましたよね」
美青が僕をジィーーと睨んでいる。
この感じだと、随分前からバレてそうだな。
僕も大概分かりやすい部類、かぁ。
「別に。ただ、優と伊井野の二人をそうするか悩んでいるだけだよ」
「絶対にそのことに悩んでた訳じゃないだしょうけど、あの二人がどうしたんですか?」
「いや、こう~、トラブルというか、問題が起きるんだろうな、あいつら」
「またですか」
クリスマスまで、後2日
文化祭とクリスマスはセットメニュー。
後、一応アンケートを乗っけたので回答してくれると嬉しいです。
この小説、ぶっちゃけ何が目当て?
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白兎くんの仕事振り
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白兎くんの恋愛事情
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石ミコのイチャイチャ
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その他