鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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話の流れ上、二人の視点になる今日この頃。


みこノウズ/みゆきノウズ

一応、石上と付き合いだして2日目。

昨日、鳴山に色々と言われたけれど、しかし、どんなに考えても石上のあの態度に説明がつかない。

強いて挙げるとしたら……、石上が私のことは本当は大して好んでないとかぐらいだ。

石上はそんな不誠実なことはしないと思っているけれど、でも、雰囲気に流されて、つい、OKした可能性もある。

ないとは思うけれども。

石上はそんなことをしないと信じているけれども。

でも、こうして嫌な可能性ばかりを考えている私は、本当は石上のことを信じていないんじゃないか?

そんな風に考える自分に嫌気が差す。

元々私は、自分のことが好きじゃない。

自分に自信なんてない。

学年1位の看板だって、ハリボテみたいなものだ。

いつだってプレッシャーに押しつぶされて、それでもなんとか学年1位になって、でも、それで私に従う人なんていない。

当たり前のことだけれど。

そんな当たり前に中々気づけなかった。

白銀会長を見ていて、気付いた。

会長が皆から慕われているのは、決して学年1位だからではない。

あくまでそれは人の目を引きつける宣伝でしかなく、実際の評価は彼自身の人柄とみんなの気持ちを汲み取った政策があるからなのだろう。

私にはそれがなかった。

今だから、今だから確かに言えることだけど。

そんな、未熟者な私だ。

石上に好かれてなくても、おかしくないのかもしれない。

そもそもで散々と色々と言ってきたんだし。

でも、でも、それでも、石上を諦めることなんて出来ない。

そんなことは絶対にしたくない。

だから、まずは石上のあの態度の理由を知りたい。

きっとそれを知れれば、何かを変えられる筈だから。

 

***

 

ここは体育館裏。

中々と人が来ない場所だ。

相談するなら、この場所が良いだろう。

生徒会室はどうやら四宮先輩に使われているようだし。

と、待っていたら待ち合わせしていた人が来た。

 

「どうも、伊井野ちゃん」

「あっ、マキ先輩。すいません、突然…」

「別に良いわよ、可愛い後輩の相談事位。それでどんな相談?」

「その…、恋愛相談を…」

 

そう、私が相談相手として呼んだのはマキ先輩だ。

文化祭の日。

マキ先輩のアドバイスで石上と仲直り出来たし、親身になってくれた。

私の気持ちも知ってくれてるし、優のことも分かってる。

いや、それだけなら他の生徒会メンバーもそうなんだけど、なんとなくその方がいい気がした。

まぁ、それは置いておいて。

マキ先輩は一瞬、逡巡したようだったけれど、ハァーーと息を吐くと石垣の上に座る。

私はそれを見て、隣に座る。

 

「伊井野ちゃんマジで言ってるの?私に恋愛相談て」

「はい。どうしても私には分からないことがあって…」

「鳴山は?こういうのの場合、私よりも頼りになると思うけど」

「鳴山にもしたんですけど……、話を聞いて断られました。自分で考えるべきだって」

「あ、そう…」

 

マキ先輩はどうやらこの相談には乗り気ではない様子だった。

微妙そうな顔をしている。

 

「まあそういうことなら任せなさい。私恋愛マスターだから」

「そうなんですか!」

「嘘よ」

「そうなんですか…」

 

思わず落ち込む。

マキ先輩の方を見ると若干気まずそうだ。

いや、相談に乗ってもらっておいてその態度は駄目でしょ!

失礼極まりない。

 

「それで相談っていうのは…?」

「石上が素っ気ないんです」

「優が?」

 

マキ先輩が驚いたような顔をしている。

普段の石上を知ってたら、そういう風にも感じるか。

あいつから、素っ気なくするなんてほとんどないだろうし。

 

「あの奉心祭のキャンプファイヤーのときに私、告白したんです」

「…!それは凄いわね!」

「告白して、それでOKもらったんですよ」

「良かったじゃない」

「なんですけど、それから石上がなんか素っ気無くて、付き合う前よりも距離が開いちゃったっていうか、でもその理由が全然分からなくて…」

「ふ~ん。優がね…」

 

マキ先輩は少しの間目を瞑ると、一回頷き、目を開く。

今の間で考えついたようだった。

凄い。

 

「なるほどね…」

「何か分かったんですか?」

「まぁ、なんとなく分かった気はするけど……、もしこれが合っているなら鳴山の気持ちも分かるわ」

 

大変ねぇ、あいつもと鳴山をねぎらうようなことを言う。

やはり、私自身が見つけなきゃいけないことなのだろうか?

でも、私には思いつかない。

思いつかないから、頼ってもいるんだけど。

 

「それで、どうしてアイツはあんな態度を取っているんですか?」

「う~~ん。優も気づかれることを好まなそうではあるんだけど……。でも、相談にはしっかり答えなきゃよね」

 

マキ先輩は背伸びをすると話始めた。

 

「まぁ、簡単に言うと男のプライドじゃないかしら?」

「男のプライド?」

「ねぇ、伊井野ちゃん。優はなんか頑張っていることなかった?」

「えっ…」

 

急に振られて、反応出来なかった。

でも、よくよく考えれば一つ、思い浮かぶことがある。

 

「そう言えば、期末テスト。50位以内を目指して頑張っていたような気がします」

「期末の50位ねぇ……。私には分かりづらいけど、確かに目標にはなるんでしょうね」

 

マキ先輩は納得するように何度も頷く。

……全然、答えが見えてこない。

何故、期末で50位を取ることが今の素っ気ない態度に繋がるのだろう?

 

「それで、結局、何が理由なんですか?」

「いや、う~ん。言っていいか悩む所ではあるんだけど……。だからね、要するに優は…」

 

 

 

「優は伊井野ちゃんに告白したかったって思ってんのよ」

 

 

 

「………………へぇ?」

 

何を言われてるのか分からない。

石上が私に告白しようとしていた?

いやなんで?

だって、石上は……、

石上は……、

 

「気付いてなかったのかも知れないけど、あんた達両片思いの状態だったからね」

「……そうなんですか?」

「ええ。多分、あんた達以外のみんなが気付いてたわよ」

「そうなんですか!?」

 

そんな……!?

私の気持ちは随分と色んな人にバレていると思っていたけど……!?

ていうか、石上は私のこと……!?

えっ、いや、でも、あれ、その、これ、ちょっ!?

駄目だ。

思考が纏まらない。

色々と気になることは多すぎる!!

 

「…頭が混乱してるみたいね」

「……色々と気になるんですけど、いつからですか?」

「さぁ?少なくとも、私が優と知り合った頃には、優は伊井野ちゃんのことが好きだったんだと思うわよ?その前は聞かれても知らないとしか言えないけど」

「そうなんですか……」

 

石上とマキ先輩が知り合った頃がいつ頃なのかは分からないけど、でも、結構最近なのは確かだと思う。

それでは、正確な時期は特定できないだろう。

いや、まず、石上が私のことが好きなのが驚きなんだけど。

けど、

 

「でも、だとしたら、余計にあの態度に説明がつかなくないですか?」

「いや、言ったじゃない。優は伊井野ちゃんに告白したかったんだって」

「でも……」

 

納得できない。

告白がしたかったっていうのは、まだ信じられないけど、取り敢えず信じてみるとして。

でも、それは確かに心残りにはなるかもしれないけど、それであんな態度を取るなんて考えられない。

だって、本当に好きな人と付き合えるなら、多少の心残りはあっても嬉しいものじゃないの?

少なくとも、私はそうだったんだけど。

 

「まぁ、(こちら)側としては分からない考えよね。私だって、よく分からないし」

「それなら、なんで分かったんですか?」

「まぁ、似たようなことを話していたのを聞いたのよ。弟から」

「弟さんですか?」

「まぁ、正確には弟が相談に乗った時の話らしいけど」

 

ああ、そうなんだ。

でも、様子を見る限りそんなに深く話したわけでもない。

又聞きみたいなのに、こうして覚えているのは凄い。

確か、2年でも学年3位だった筈。

その上は会長や四宮先輩ということも考えるに、マキ先輩も確かに天才なんだと思う。

四条家。

四宮家から派生した分家だった筈だけれど、その娘も只者ではないということなんだと思う。

それにしても、

 

「石上は、そんな風に思ってたんですか……」

「まぁ、実際の所は分からないけどね。男心なんて私もよく分からないし。やっぱり、男で友人な鳴山とか御行の方が正しく理解出来るんだとは思うわよ?」

「そうですか…」

 

マキ先輩は、頭の後ろで手を組んで言う。

正直、こんな風に相談に乗って貰っておいて言うことではないのかもしれないけれど。

……どこか違う気がする。

石上は、自分から出来なかったことにそんなに拘るように思えない。

何か、何か他の、大切なことが隠れている気がする。

結局は、本人の口から聞かないことには確かなことは言えない。

 

「取り敢えず、私から言えるのはその位よ」

「はい。ありがとうございます」

 

私はお礼を言う。

兎も角、どうにかして石上と話す機会を作らないと。

話を聞かなきゃ、教えてくれなきゃ何も分からない。

 

「ああ、後もう一つ」

「なんですか?」

「石上のこと。色々と思う所はあるかも知れないけど、悪いやつじゃないから」

 

それは、マキ先輩なりの気遣いなのだろう。

でも、正直余計なお世話だ。

だって、

 

「そんなこと。私が一番良く知っていますよ」

「ふっ。そうね」

 

マキ先輩はわずかに笑みを浮かべると、

 

「じゃあ、頑張ってきなさい。相談なら、いつでも乗るから」

「はい!!」

 

本当に、いい先輩だ。

 

***

 

「まあ、これ、友達の話なんだけどな」

「僕にその嘘入ります?」

 

放課後。

昨日から様子のおかしい、というか明らかに冷たい、まるで昔のように四宮がなってしまっている。

そのことについて、鳴山に相談しようとしたのだが、

 

「いきなり酷くないか?」

「いや、事実でしょ。四宮先輩の急変についての相談でしょ?」

「いや、そうなんだが…」

 

本当にこいつには、前置きというか、建前を使わせて貰えない。

まるで何でも知っているかのように、見抜いてくる。

それでも、アドバイスはしっかりしているから頼ってもいるんだが。

 

「まぁ、言いづらいのは確かでしょうけど、それでも話さないとアドバイスも出来ませんよ」

「……四宮が言ったんだ。キスなんて気分が乗れば誰とでもする。なんなら、今してみますかって」

「あっははははは!!」

「……いきなり、大笑いをすることないだろう……」

 

鳴山はそれはもう大笑いをする。

何が、そんなにおかしいのだろう?

こっちはそれどころじゃないのに。

 

「いや、すいません。なんというか、笑いどころが多くて……」

「何がそんなにおかしいんだ?」

「白銀先輩は、四宮先輩が本当に変わったように見えますか?」

「?あ、ああ」

 

何が言いたいんだ?

四宮のあの様子は明らかにおかしいだろう。

いつもの四宮なら、あんなに暴力的に動くこともないし、いきなり香水を付けてくるとかそういうこともしない。

 

「そう感じるのは、白銀先輩だからですよ。優も伊井野も千花先輩も、今の四宮先輩にそこまで違和感を感じてはいないでしょう」

「そうなのか?」

「はい。僕だって、自分が接する分には違和感なんてないですから」

 

鳴山はそう言う。

しかし、だとしたら何が理由なんだ?

俺にしか見せてない姿?

いや、そうは思えないが……。

 

「じゃあ、どうして俺だとそう感じるんだ?」

「理由については省略しますよ。僕が言うことじゃない。まぁ、あの人は四条先輩と同系統の人というぐらいでしょうか」

「四条と?」

「そうです」

 

四条と同系統?

どういう意味だ?

四条は確かに四宮似ている所があるが、一体それとこれがどう関わってくるんだ?

 

「……まぁ、キスの話の補足ぐらいはしましょうか」

「最初の話か?」

「ええ。気分が乗れば誰とでもする。まぁ、嘘は言ってませんけど、そんな気分になれる人はどの位いるのかって話ですよ」

「どういうことだ?」

「嫌いな人と一緒にいる時にはそんな気分にはならないという話です」

「それはそうだろうが、しかし、……」

「まぁ、僕から言えるのはこの位ですかね」

 

そう言って、鳴山はさっさと立ち上がった。

もう話すことはないと言うように。

 

「お、おい!」

「取り敢えず、白銀先輩は今日はもう勉強せずに寝て下さい」

「はぁ!?」

「そんな、僕の発言の意味さえ分からない程、頭が回っていないなら、これ以上の話をした所で無意味です」

 

訳が分からない。

鳴山の発言に一体どんな意味が隠されているっていうんだ?

こいつが含み、というか仄めかしを交えたことを言うことは多々あるが、今までの会話でそこまでの仄めかしがあったのか?

 

「僕はですね、肝心なことは本人達で話すべきだと思っているんですよ。だから、ヒントはだしても答えを言うつもりはないんです」

「何が言いたいんだ?」

「言いたいことはもう言いましたよ」

 

そう言って、鳴山はどこか呆れたような目で俺を見る。

呆れている?

何に?

俺が、何か大事なことを見落としているというのか?

 

「貴方たちの恋愛頭脳戦を思い出して下さいよ。相手の言葉の裏の裏まで読む。それが貴方たちでしょう?」

「…………」

「それから、本当にちゃんと睡眠を取ったほうが良いですよ。文化祭の時点で相当に溜まっていると思いますし」

 

疲れてぶっ倒れるとか、そういうのは色んな人の迷惑になるのでちゃんと寝てくださいよ。

そう言って、鳴山はその場から立ち去っていった。

 

***

 

後日談。というか、今回のオチ。

俺は鳴山が立ち去ってから、ずっと木の下に居た。

 

『白銀先輩は、四宮先輩が本当に変わったように見えますか?』

『まぁ、あの人は四条先輩と同系統の人というぐらいでしょうか』

『そんな、僕の発言の意味さえ分からない程、頭が回っていないなら、これ以上の話をした所で無意味です』

 

鳴山はそう言っていた。

四宮は本当に変わったように見えるのか?

俺には確かにそう見えた。

いや、変わったと言うよりも戻った、の方が近い気がする。

でも、その理由が分からない。

分からないんだ。

きっと、鳴山は正解を知っている。

あいつは石上以上に聡い。

当たり前のように気持ちに気付いてくる。

正直、気持ち悪ささえ感じる。

あいつのアドバイスしている様子を実際に見たことはないが、石上や伊井野を見ていると、的確なのは分かる。

そんなあいつが、これ以上のアドバイスは無意味だと言ったんだ。

俺に呆れたからなのか?

いや、あいつはこうも言っていたか。

 

『言いたいことはもう言いましたよ』

 

つまり、あいつの中でアドバイスは既に言い終えていた。

だから、何も言わなかった。

いや、本当は呆れて、何も言いたくなったのかもしれない。

あいつの本心は、イマイチ分からない。

鳴山は、どこか距離があるんだ。

相手の事情には首を突っ込むのに、自分の事情は全然見せようとはしない。

あいつも何かしらを抱えているようには感じるんだが。

それを見せようとはしない。

……ある意味、俺と同じか。

俺だって、四宮には絶対に見せられない部分がある。

俺は、どこまでも弱くて、臆病で、ポンコツだ。

そんな俺を四宮に見せることなんて出来ない。

 

「うっ、眠っ…」

 

昨日が眠れなかったこともあるだろう。

鳴山にも指摘されていたし、少しだけ寝るか。

 

「四宮は……、俺の事をどう思って……」

 

答えは返ってこない。

 

 




この辺は、中々と難しいなー。

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