クリスマス。
世間でも大きなイベントとされる、キリストの誕生日だ。
この国特有というか、何でも受け入れて、混ぜ込む文化に巻き込まれて、浸透しているイベントだ。
下世話な話では、性の6時間というのもあるがそれは割愛。
僕はこの日に解決しないといけない問題が二つある。
まぁ、どちらも僕がそんなに口出すようなものではないけれども。
それでも、出来得る限りのサポートはしたい。
余計なお節介だとしても。
***
クリスマスイヴ。
昨日、白銀先輩が倒れた。
まぁ、正直、予測はしていた。
文化祭以降の様子を見れば、そんなことは簡単に分かる。
睡眠もうまく取れていない様子だったから、睡眠を取るようにも言ったが、どうやらそれも意味はなかったらしい。
現状、白銀先輩は追い詰められている。
以前も話していたと思うが、追い詰められた状態はあまりよろしくない。
簡単なことにも気づけなくなるし、考えが凝り固まりやすくなる。
それはマズイ。
だが、僕にどうこうは出来ない。
一応、挑戦はしてみたが、特に効果はなかった。
やはり、白銀先輩をどうこう出来るのは四宮先輩だけなのだろう。
……まぁ、現状を作ったのも四宮先輩なのだが。
まぁ、今の
閑話休題。
「先輩ー!待たせました?」
「いや、そんなに待ってないよ」
僕は今、美青と駅で待ち合わせをしていた。
先日の約束の通りだ。
「さて、何を選ぶかねー」
「じっ~くり、考えましょうね」
「……そうだな」
パーティーの開始は7時。
今は正午位だから、時間は十分にある。
一緒に歩幅を合わせながら歩く。
「さて、プレゼントの候補を考えていて、ひとつ浮かんだのがあるんだ」
「なんですか?」
「肩揉み機」
「……いや、確かに使えないものじゃないですけど」
う~ん。
やっぱり、微妙か。
色気も何もないからな。
「それ、人によってはイラッとくると思いますよ」
「だよねー。でも、じゃあ、何がいいかな?」
「これなんてどうですか?」
そうして美青が見せたのは、ギフトカタログ。
「いや、なんでそれをチョイスした?」
「えっ?これなら、好きなものを買って貰えばいいだけですし、取り敢えず、いらないものにはならないでしょう?」
「いや、確かにいらないものにはならないだろうけども。それは、色気どころか情緒さえないだろ」
ギフトカタログはないだろう。
そんなものは、適当なお中元とかビンゴの景品で喜ばれる類のものだし。
「誕生日の時も思ったけど、意外とセンスないのな」
「いや、先輩のセンスも人のこと言えなさそうだけど」
「……否定はしないけどさ」
確かに、僕のセンスはあまり良いとはいえない。
具体的には、誕生日に漫画を送ったりとかあったし。
だからといって、ギフトカタログはないと思うけど。
「さて、何が良いかね?」
「そうですね……」
マジで、何にしようか?
***
今、僕と美青はカフェで一休みしていた。
「ハァーー、疲れたな」
「そうですね」
その後も、色々な所を回った。
意見をだしては、却下、意見をだしては、却下を繰り返し、最終的に菓子に着地した。
「……なんか、肩揉み機と大差ない気がする」
「……そうですね」
無難と言えば、無難だからな。
まぁ、チョイスしたものの種類に関しては無難ではないけども。
「まぁ、アレだから面白みがないということは無いとは思うけどな」
「しっかし、アレって普通に買えるんですね」
「まぁ、種類上は『酒類』には分類されないからな」
ここまで、情報が揃えば、何かは察せれるとは思うがまぁ、アレだ。
漫画とかでよく使われるアレ。
分かりやすい状況を作るために使われるアレ。
使い古された手法のアレ。
まぁ、それは良いとして。
「さて、取り敢えずコレ」
僕はそう言って、紙袋を美青に差し出す。
「なんですか、コレ?」
「クリスマスプレゼント」
「えっ!?」
美青が驚いたような顔をする。
そんなに驚かなくても……。
「なんでそんなに驚いているんだよ」
「いや、だって、今日のお出かけがクリスマスプレゼントなのかなぁーって…」
「お前の中で僕はどんだけ薄情な男になってる訳?こうして一緒に探して貰っているんだし、準備ぐらいするよ」
「でも、買ってるような素振りなかったですよね?」
「なんで、今日買ったと思ってるの?」
全く、心外だ。
プレゼントを本人を見ているかもしれない所で買う訳がないだろう。
そのぐらいの分別は普通にあるわ。
「……だったら、その時にクリスマスプレゼント買えばよかったんじゃないですか?」
「なに言ってるんだ?……約束したんだから、そんなことはしない」
一緒に買いに行く約束だからな。
そこは守る。
「開けてもいいですか?」
「どうぞ」
「………これは……」
僕が美青に買ったプレゼントはスノードーム。
兎が餅をついているものを買った。
この時期だから、スノードームは結構種類があったけど、なんとなくこれを選んだ。
「……綺麗ですね」
「なら、良かった」
美青は目を輝かせていた。
結構、喜んでくれているみたいだ。
……こうして見ると、結構、可愛いよなこいつ。
…………。
いや、今はまだ駄目だ。
まだ、自分が信用出来た訳じゃないんだから。
「あっ、先輩。私からも…」
「おう」
美青から紙袋を貰う。
「開けていいですよ」
貰った紙袋を開ける。
そこに入っていたのは、懐中時計だった。
「これ。結構、値が張るんじゃないの?」
「そうでもないですよ。ほら、私、大手貿易会社の娘ですし」
「ああ、成程」
そう言えば、そうだった。
実際に顔を合わせたことはないけども。
というか、貿易の輸入品だからって、娘だから安くなるなんてそんなないだろうし。
……まぁ、ツッコまない方がこの場合は良いんだろうな。
しかし、懐中時計か…。
結構、好みだ。
「今回は気に入って貰ったようですね」
「そうだな。大切に使わして貰うよ」
そう言って、懐中時計をしまう。
今の時間は…、4時ぐらいか。
「さて、これからどうする?」
「それじゃあ、最後に少しだけ付き合ってくれませんか?」
美青はそう言った。
***
「ここか」
「はい」
美青と二人で大きなツリーを眺める。
12月というのもあって、既に周りは暗い。
その中でそのツリーは綺麗にライトアップされていた。
「……こうしていると、まるでカップルみたいですね」
「実際は違うけどな」
「……なんでそういうことを言うんですか?」
「区切りだよ」
きちんとした区切りを設ける。
それが例え、揺らいでいるものだとしても。
そうしなければ、僕は簡単に傾いてしまう。
僕は弱い人間なのだから。
「……また、一人で抱え込んでるんですか?」
「違うよ。ただ、自制しているだけさ」
「それを抱え込んでいるっていうんです」
美青がまっすぐに見て、僕に言う。
……確かにな。
でも、これに関しては譲るつもりはない。
「逃しませんからね。絶対に」
「ふっ。全く」
なんだかんだ、そう言われるのは嫌いじゃない。
本当に、僕ってやつは…。
自制が足りてないって。
「今日はそれは良いとして。それじゃあ、写真撮りません?」
「いいよ」
そう言って、距離を詰めた。
そして、僕たちはそのまま写真を撮った。
***
僕は今、千花先輩の家の前まで来ていた。
あの後、美青とは駅前で別れた。
別れ際、美青に
『藤原先輩によろしくと言っておいて下さい』
と言われた。
仲良くなったのかとも思ったが、これは普通に私はデートして貰いましたよーという自慢なんだろうな。
全く。
言える訳がないだろう。
ピンポーン
チャイムを鳴らす。
「あっ、鳴山」
後ろから声がしたので振り向くと、そこに居たのはクッソケバい伊井野が居た。
「ようこそ!鳴山くn……誰!?」
丁度、千花先輩が玄関を開けて、伊井野を見た瞬間、驚愕の顔になった。
まぁ、そりゃ、そうだろうな。
「えっ!?そんなにおかしいですか!?」
「取り敢えず、そのメイクは落とせ。そして、千花先輩にメイクして貰え」
やれやれ。
先が思いやられる。
***
「待ってたわよ、石上くん」
クリスマスパーティーの6時間前。
四宮先輩に呼び出されて、僕はデパートに来ていた。
「さぁ、プレゼントを選びましょう」
「いやいや説明して下さいよ。なんで僕呼び出されたんです?」
「貴方、伊井野さんに贈るプレゼントまだ用意してないでしょう?」
「いや、それはもう準備していますけど」
「えっ、そうなの?」
ちゃんと準備はしてある。
……ここ数日は、時間が沢山あったしな。
「それじゃあ、藤原さんの家用の準備も出来ているんですね」
「あっ、いえ、それはまだ…」
「なら、それを選ぶのを手伝ってあげるわ」
……なんか怪しいな。
特に、四宮先輩が何の前触れもなく、こうして親切する所が。
「……何か裏があるんでしょう?」
「はぁーー。疑い深いわね貴方も」
そう言って、四宮先輩は一拍置くと、
「可愛い後輩を手助けしてあげようという純粋な善意……、100%の思いやりじゃない」
「はぁー、でも後々に対価を要求しません?」
「そんなに不安なら?私も偶然?準備がまでですし?折角だから私のプレゼント選びにも協力すればいいんじゃない?」
成程。
それが狙いですか。
……だったら、そう言えばいいのに。
素直じゃないんですから。
「企画意図は理解しました。要はお互いのプレゼント選びに客観的意見を与えあうということですね」
「そうなるわね」
「それだったら、良いものがありますよ」
「どんなプレゼント?」
四宮先輩がメモを準備する。
真剣な様子だ。
「いいですか先輩。クリスマスプレゼントに於いて、最も避けるべき事態とは何か…」
「それは『うわっ要らね!』って思われる事です」
「そうなれば使用されることもなくメル○リ行き……。最悪、ゴミ箱へポイです」
悲しすぎるわねと、同調する四宮先輩。
「そんな悲しい事態を100%回避するプレゼント。それが…」
僕はその物を手に持つ。
「このギフトカタログです!」
しらーー………
「あれ?」
えっ?
なんで四宮先輩黙るの?
「気色悪い」
「ええーーっ…。これダメですか……?」
「なんていうか絶対に失敗したくないという気持ちが濃く出過ぎている。守りに入り過ぎてて気色悪いわ…」
「そうですか……」
「この調子だと、伊井野さんへのプレゼントも大分不安ね」
「グッ…!?」
女性にそう言われるとキツイ。
結構、自信あるんだけどな……。
「じゃあ何を選べば……」
「まぁ、生徒会メンバーと後、圭と萌葉さんですから、実用性と意外性があれば良いんじゃないですか?」
となると、衣類とかは基本的に駄目。
男に当たるにしても、女に当たるにしても無難なものでないといけない。
ぬいぐるみ系も、男に当たると悲惨か。
なら、
「石鹸とかならどうですか?」
「……こ、このはれんち!!」
「いや、石鹸の何処にハレンチ要素があるんですか?」
なんか四宮先輩が変なこと言い出した。
「言い逃れしようとしてもムダよ!」
「石鹸は全裸の女性の素肌に隅から隅までこすりつけるもの…!女性の秘部から恥部にぬるぬるしたものをまさぐるように這わせたいという、そういった男性の利己的な欲求が透けて見えるわ!」
「そんな欲求。一つも抱いて無かったですけど!?」
……この人、定期的におかしくなるよな。
***
「結構、無難な所に落ち着きましたね」
「私はアロマいいと思うけれど」
結局、僕がアロマ、四宮先輩は肩揉み機に落ち着いた。
「石上くん。ハーブとか花とか好きだものね。貴方らしくて素敵だと思うわ」
「そうですかね」
「……そう言えば、一つ聞きたいことがあったのよね」
「なんですか?」
「どうして、伊井野さんを避けているの?」
「!?」
まさか、四宮先輩に聞かれるとは思わなかった。
白兎も触れてきていなかったから、てっきりスルーされると思ってた。
「どうして、それを訊こうと思ったんですか?」
「この際だからと思っただけよ」
……きっとそれだけではないんだろうけど。
少なくとも、出歯亀する為ではないんだろうな。
この人は、優しいから。
「……文化祭の日。伊井野に告白されたんです」
「最初は嬉しかったし、それが続くと思ってました」
「でも、なんかスッキリしなくて」
「その理由はなんだって思った時に気付いたんです」
「僕は何も成し遂げていないって」
「テストで50位以内に入れた訳じゃないし」
「伊井野への恩だって返しきれていない」
「そんな僕が、このまま伊井野と付き合って良いのかな?ってそう思ったんです」
勿論、それは伊井野に素っ気無くする理由にはならないことは分かってる。
でも、なんとなく顔が合わせづらかった。
罪悪感みたいなものを感じて。
それで、素っ気無くしてしまった。
きっと、伊井野からの印象も悪くなっているんだろうな。
ていうか、伊井野に悪いことをしてしまっている。
「全く、貴方も面倒くさい人ね」
「……そうですね」
「少しは自覚したほうが良いと思ったわ」
「え?何の話ですか?」
自覚って何のことだ?
なんかよく分からないこと言われたんだけど。
「まぁ、いいわ。……ちゃんと、伊井野さんと話し合いなさい。彼女なんだったら、不安にさせては駄目よ」
四宮先輩はそう言った。
どちらかと言えば、女性側の意見なのだとは思う。
でも、きちんと僕たちの心配をしてくれている。
本当に優しい先輩だ。
この先輩に出来ることは……、
「じゃあ、本番の
「……!!なっ、なんで会ちょ…!」
「いやだって……、男にプレゼント選びを手伝わせるってことは、男の喜ぶプレゼントを知りたいって事でしょう?そしたら、大体分かると思いません?」
「……あなた。鳴山くんに少し似てきたわね」
「そうですか?」
四宮先輩が呆れたように言われた。
白兎に似てきたって……。
そんなに嬉しくないな。
***
四宮先輩と藤原先輩宅を目指す。
「ありがとう。おかげでいいプレゼントが買えたわ」
「それなら良かったです」
四宮先輩も満足しているようだ。
色々とお世話になっている人だし、良かったと思う。
「石上くん、左手を出して」
「えっ?はい…」
そうして、左手を差し出すと、人指し指に指輪を付けられた。
「これは今日のお礼よ」
「指輪っすか?」
「ええ、左手の人差し指の意味は『進むべき道を指し示す』よ」
「!」
「ここからよ。あなた
四宮先輩はそう言った。
……そうだ。いつまでも後ろを向いていられない。
それは、こうして応援してくれる四宮先輩や白兎、何よりも伊井野に対して失礼だ。
「頑張りなさい」
「はい」
僕ははっきり返事をした。
「さて、ここね」
四宮先輩は言った。
どうやら、ここが藤原先輩の家のようだ。
大きな家だ。
流石に政治家の家ではある。
四宮先輩がインターホンを鳴らす。
はーい、という返事が聞こえると、すぐに、
「かぐやさん!待ってましたよ!」
と言って、藤原先輩は出てきた。
「ああ!石上くんも一緒に来たんですね!だったら、丁度良かったです!」
「何がっすか?」
丁度良い?
なんだろう?
藤原先輩って言うだけでなんか怖いんだけど。
「ホラホラ来て下さいよ」
「えっ、でも…」
「心配いらないよ」
奥から、なんか声が聞こえるけど。
伊井野と白兎か?
藤原先輩は後ろで確認して、前を向くと、ジャンジャジャーン!!と横に飛び退いた。
そして、前に出たのは綺麗にメイクされた伊井野だった。
「ど、どうかな?」
伊井野は恥ずかしそうに言ってたと思う。
言ってたと思うというのが、何で『思う』なのかは決まっていて、
「い、石上?何か反応を…」
「ああ、駄目だね」
「えっ!?私、変!?」
「いや、脳の処理が追いつかずにフリーズしてる」
……白兎が言っているように頭がフリーズ、というか、あまりにも綺麗だから見惚れてしまっていた。
おかげで、周りの声がイマイチ認識できない。
ふと、脇を小突かれる。
横を見ると、四宮先輩が首で伊井野の方を指した。
つまりは、そういうことで…
「伊井野」
「う、うん」
「凄い似合ってる」
伊井野はそれを聞くと、花が咲くような顔で笑った。
藤原は社交界とかにも参加していて、着飾りのテクはかぐや様よりもある。という設定です。ていうか、政治家と財界最上位の人、どっちがより社交界に参加するんだ?