鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

55 / 86
クリスマス編のラストになる今日この頃。


せいとかいクリスマス 其の参

白兎の持ってきた桃鉄を終えて、今はスマブラをしている。

今は、後輩達が戦っている。

それぞれ、ピーチとヨッシーだ。

……ここまで、伊井野と話せていない。

四宮先輩にも言われてたし、どこかのタイミングで二人きりになりたいけど、なかなかタイミングが…

 

「あっ、優と伊井野」

「うん?なんだ?」

「ちょっと小腹が空いちゃったから、牛丼買ってきてくれない?」

「なんで、俺が……」

 

怒りよりも先に疑問が浮かぶ。

そういう時、こいつは一人で一言断り入れてから行く筈なのに。

 

「一人で行けばいいじゃない」

「そんなこと言って。お前もまだ腹を空かしてる癖に……」

「そ、そんなこと!」

 

ぐぅぅぅ~~~~

 

大きな腹の音が響く。

どこから、音が出たかなんて聞くまでもない。

 

「……ほら、お腹空いてるんだろ。金はやるから、早く二人で買ってこい」

 

そうやって、僕と伊井野の背中を押していく。

 

「ちょっ、せめて上着着させろ」

 

そう言うと、白兎はパッと手を離す。

そして、僕は上着を着て、財布と、()()()()()を持つ。

玄関前まで来ると、白兎が見送りにきている。

 

「それじゃあ、これお金な。それと……」

 

僕の耳元に顔を近づけると、

 

「1時間位帰ってこなくていいから、けじめをつけてこい」

 

そう言って、顔を離した。

……そんなことだろうとは、思ったけどさ。

 

***

 

「………」

「………」

 

牛丼を買った帰り、二人で無言で歩いていく。

……何を話しかければいいのか分からない。

なんて、切り出せばいいのか分からない。

 

「「……な、なぁ(ね、ねぇ)」」

「「!!」」

「なんだよ……」

「そっちこそ……」

 

くっそ。

どこの漫画のキャラだよ。

なんで、こんなに戸惑ってるんだ?

何がそんなに不安なんだ?

……いや、単純に怖いだけだ。

自分の本心を言って、呆れられるのが、否定されるのは怖いだけだ。

そうやって、ビクビクと怯えて、前に進めなくなって。

……これじゃあ、前と何も変わらない。

周りが見えなくなって、目を見れていなかった一学期(あの頃)と。

 

「ねぇ、石上」

「!なんだよ?」

「石上はどうして、私を避けてたの?」

 

伊井野は正面から聞いてくる。

僕たちは足を止めた。

僕は、何かを言おうとして、でも、何も言えなかった。

何を言えばいいのか分からなかった。

だって、下らないだろ。

自分の課した条件も果たせずに、こうなったのが許せないなんて。

そんな僕に伊井野は呆れたように言う。

 

 

「……ハァ~~~。全く。結構強情よね、アンタ。……きっと、中等部時代の事件もそうして何も言わなかっただろうけど」

「……違うよ。あの時とは違う」

 

今のは、ただ僕が言えていないだけだ。

ただ僕が臆病なだけだ。

そんな僕が、こいつに呆れられるのも仕方ない。

 

「……ねぇ、石上。今更、アンタが何を言ったって私は嫌ったりしないわよ」

「!!」

「私は、アンタの駄目な所を散々見てきた。校則なんて全然守らなかったし、いつも、文句ばっか言ってたし、卑屈で根暗だし」

 

グッ…!

なまじ事実だから何も言い返せない。

 

「……でも、それでも、アンタを好きになった。アンタのしてくれたことを知って、関わっていく内に好きになった」

 

伊井野は懐からある栞を取り出した。

中には、ステラの花が入っていた。

……あれ?あれれ……!?

 

「お、お前……、いつの間に……!?」

「気づいたのは1学期の頃だったけどね。でも、私はこれを貰って救われた。そして、それから私はコレを贈ってくれた人に憧れを抱いた」

「うっ……!!」

 

恥ずかしい。

あんなの、黒歴史の塊だってのに。

……それでも、こいつはそう言ってくれるのか。

救われたって、言ってくれるのか。

 

「だから、今更よ。私はアンタが何を言ったって嫌ったりしない。だから、教えて?アンタが何を考えているのかを」

 

伊井野は僕の目を真っ直ぐに見て、そう言った。

数瞬の間が空いた。

その間、伊井野は僕を見続けていた。

……伊井野にここまで言わせておいて、言わない訳にはいかないよな。

 

「……僕は、さ。このまま、お前と付き合っていいのかって思ったんだ。まだ、何もやれてないのに」

「…………」

「僕は、お前に何の恩も返せてない。中等部時代のこともそうだし、体育祭のときも…。それを返せていないのに」

「…………」

「僕はお前と対等な関係でありたい。でも、恩を抱えたままじゃあ対等になれないって思ったから」

「…………」

「ごめん。こんな下らないことで、悩ませて」

「…………ぷっ」

「えっ…」

「アハハハハハハ!!」

 

そうして、伊井野が腹を抱えて、大笑いしだした。

えっ、いや、確かに、下らない理由だけども!

でも、そんな笑わなくてもいいだろ!

こっちは、深刻に悩んでるだぞ!

 

「おい…!」

「ごめん。でも、確かに鳴山の言う通りだなって」

「白兎の?」

「確かに、これは私が気が付かなきゃいけないことだなって」

 

伊井野は一人で納得したように頷いた。

なんか、よく分からないだけど。

 

「私もね。同じことを考えていたの」

「同じこと?」

「アンタに恩を返さなきゃ、付き合えないって」

「いや!だから……」

「いいから聞いて」

 

伊井野は静かな声で僕の言葉を止める。

 

「私も、このステラの花や生徒会選挙の時に沢山助けられた。だから、それを返さなきゃいけないって」

「でも、キャンプファイヤーの時、感じたんだ」

「何やったって、恩を返しきれないって」

「だって、アンタは返した傍から新しく恩を作っていくんだもの」

「そして、そういうアンタのことを好きになったんだって」

「だから、私はあの時に告白したの」

 

……そうだったのか。

僕としては、何も返せていないつもりだったけど。

伊井野から見たら、そんなこともなかったのか。

 

「それで、アンタの今の言葉を聞いて思ったの」

「私達は、お互いに返しきれない恩を抱えて、それを返し合っていくんだって」

 

「やられたらやり返す」

 

「それこそ、中等部時代から…。ううん。もっと前からの私達の関係。きっと、これからどんな風になったって、そこは変わらないんだと思う」

「……だから、ね。そんなに気にしないで。私達はいつまでだってそれを続けているだけなんだから」

 

最後は照れながらも、伊井野はそう締めた。

……やられたらやり返す、か。

確かに、その通りだな。

僕たちがしてきたのはそういうことだ。

だとしたら、これでいいのかもしれない。

きっと、伊井野に対する恩は返しきれない。

でも、返し続けるのが僕なんだ。

そして、それは伊井野も同じで。

僕たちは似たもの同士なんだ。

 

「ありがとうな」

「別にお礼を言われるようなことはしてないわよ」

 

照れたようで、伊井野は前に進む。

……それにしても、伊井野に告白されて。

僕の悩みも解決して貰って。

……ここ最近、伊井野にやらっぱなしだよな。

やられたらやり返す。

だったら、僕もやり返そう。

 

「なぁ、()()

「ふぇっ!?」

 

チュッ

 

驚いて振り向いたミコの腰を引き寄せて、唇を重ねた。

重ねてからすぐに離すと、ミコの顔が真っ赤になっていた。

 

「あ、アンタ…!急に…!」

「……やられたらやり返す、だろ?」

 

顔が熱くなるのを感じる。

うわ、絶対これ、黒歴史になるやつ。

ていうか、現在進行形で黒歴史だわこんなん!

 

「……全く、覚悟しなさいよ。いつか倍返しにするんだから」

「だったら、僕はそれを更に倍返しする」

「だったら、私はそれを更に倍返しする」

「だったら、僕はそれを3倍返しにする!」

「だったら、私は……」

「だったら、……」

 

そうやって、何度も倍返しにすると言い続けて、いつの間にか大笑いしていた。

そうだ。

きっと僕たちはこれでいい。

 

***

 

一通り笑いあった後、僕たちは歩き出した。

 

「ああ、ミコ。藤原家用とは別にプレゼントがあったんだ」

「そうなの?私も、ゆ、優用のプレゼントがあるんだ」

 

そう言って、互いに自分のプレゼントを相手に渡した。

 

「ねぇ?開けてもいい?」

「……そっちのも開けていいなら」

「うん。良いよ」

 

うっ……。

なんか恥ずかしい。

こいつが、僕の恋人なんだもんな。

 

「それじゃあ、私から開けるね」

 

そう言って、ミコは袋を開ける。

 

「これは……、仏印の鉢と種?」

「……育てて欲しいなって」

「アンタ、恋人に送るプレゼントとして鉢と種ってどうなの?」

 

そう言われると、ぐうの音もでない。

でも、これが良いんだって思ったんだ。

何故だか分からないけど。

 

「まぁ、良いけど。一体、何の花なのかしらね?」

「……それは咲いてからのお楽しみということで」

「分かってるわよ」

 

ミコの顔を見ると、意外と嬉しそうだった。

………。

恥ずかしい。

 

「それじゃあ、次は僕が開けるからな!」

 

わざと大きな声をだして、恥ずかしさを隠そうとする。

そうして、開けたミコのプレゼントは…、

 

「貝殻の中に燕があって?あっ、これオルゴールか」

「そう。このオルゴールの音色がとても良くて、眠れるのよ!」

「………ミコらしいプレゼントだな」

 

本当にミコらしい。

結構、こういうファンシー系が好きだもんな。

 

「ありがとう。嬉しい」

「そ、それなら良いんだけど」

 

ミコは照れて、顔を背ける。

僕もなんだか恥ずかしくなった。

それでも、互いにチラチラと見て。

自然と手が重なる。

 

「ミコ、好きだよ」

「私も」

 

そうして、僕たちは藤原家に……

 

「「「「あ」」」」

 

……途中で会長と四宮先輩に会った。

僕たちは咄嗟に手を離す。

 

「……なんだか、お邪魔したみたいだな」

「い、いえいえ!?そんなことないですよ!!なぁ、ミコ!!」

「そ、そうよね!!優!!」

「お二人共、名前で呼んでいるんですね」

「「あ」」

 

僕とミコは顔を真っ赤にして下を見る。

今は、色んな意味で他の人の顔が見れない。

絶対、四宮先輩がからかうような顔してるだろうし。

 

「それじゃあ、みなさん戻りましょうか」

 

四宮先輩はそう言った。

 

***

 

クリスマスパーティーの終わり頃。

僕は庭で星を眺めていた。

とは言っても、東京だからあまり星も見えないけれど。

 

「本当に、よく気を使いますね」

「気なんて使ってませんけど」

「会長やかぐやさんにも使っていますし。ていうか、いつから気がついてたんですか?私があの二人の関係を察しているって」

「だから、気なんて使ってません。そして、結構微妙なラインだったんですけど、優と伊井野に気がついておいて、あの二人に気が付かない訳ないで確信しました」

 

これは、文化祭でTG部に残しておいたものだ。

アルセーヌの使いとしてのメッセージ。

それがそういうものだったというだけだ。

そして、別に気を使ったつもりはない。

僕は只々、自分のやりたいようにしているだけだ。

只々、あいつらが幸せそうにしているのを見たいだけ。

 

「じゃあ、そういうことにはしますけど……、でも、鳴山くんは本当に他人のことばかりですね」

「そうですか?結構、自分勝手に動いてると思うんですけど」

「そうですね~。随分とお節介焼きではあると思いますけど。でも、それに助けられてた人も居るんじゃないですか?」

 

助けられた人、ねぇ。

でも、

 

「違いますよ。もし助けれたと言う人が居たとしても、本当に助けたのは、別の人ですよ」

「……でも、そのきっかけを作ったのはあなたでしょう?」

「僕が居なくても、きっと助けられてましたよ」

 

別に、僕が何か特別なことをした訳じゃない。

僕はただ、自分の意見を出しただけ。

そこから動いたのは、元々助ける役割を持った人だ。

 

「それに、僕はそんな大層な人間じゃないですよ。そういう正義マンは優や伊井野みたいな人のことを言うんです」

「私から見れば、石上くんやミコちゃんよりもちゃんと助けているように見えますけど」

「違いますよ。例え失敗しようとも、人の為に動けるのが本当の正義マンなんですよ。僕はただ、他の人の幸せに自分を重ねたいだけ。そういう幸せもあっただろうなって、過去の自分を慰めたいだけです」

「……珍しく、話しますね」

 

確かに、珍しい。

疲れと文化祭で随分と緩んでいるらしい。

こんなに本音をさらけ出すなんて。

らしくないにも程がある。

こんなの聞いたって、人は何もしてくれないというのに。

 

「……でも、嬉しいです!」

「えっ」

 

そんな明るいトーンで何を……

 

「だって、人には散々本音を話せって言っておいて、自分は話さなかった人がちゃんと本音を言ってくれたんですから!」

「それは……」

「……鳴山くんだって、一緒ですよ。本音を話したからって誰も嫌ったりしません。少なくとも、私はしませんよ」

 

千花先輩は真っ直ぐな目をして言った。

そこには、嘘の欠片もなかった。

 

「……全く、本当に勝てないな…」

「そりゃあ、先輩ですからね!」

 

理由になっていないけれど。

でも、らしい理由だった。

 

「……鳴山くんは、石上くんやミコちゃんに憧れているんですか?」

 

「……まぁ、似たようなものです」

「例え、周りに何と言われようとも、どんなに逆境に揉まれても、それでも自分の正義を貫いている」

「人が思っているよりもそれは難しくて。人は悪い方に流れるのが簡単なんですよ」

「そうして、人は周りに流されて、人を傷つける」

「傷つけられてた人に出来るのは、逆らうか、耐えるか、折れるかしかない」

「でも、逆らったら、更に傷つけられることもあるし、耐えた所で、問題が解決する訳じゃない」

「そういう時にあいつらみたいなのが居ると、救われるんですよ」

「あいつらみたいに、駄目なものは駄目と言ってくれる人がいる心強さがどんなに大きいことか」

「あいつらは気付いていないかもしれないけど」

「だから、僕はあいつらの事が好きなんですよ」

 

絶対に本人達には言えないことだけれど。

恥ずかしすぎて死んでしまう。

 

「へぇ~~。あの二人のことをそう思ってたんですか~」

「言わないで下さいよ。恥ずかしいから」

「ええ!分かっていますよ!」

「……なら良いですけど」

 

その辺は、信用しているけれど。

千花先輩は秘密を確実に守る。

だからこそ、四宮先輩の親友になれたのだから。

 

「でも、鳴山くんだってそうじゃないんですか?」

「何の話です?」

「知ってますよ。石上くんやミコちゃんの為にマスメディア部と協力していること」

「うぉっ、よくそれ知ってますね」

 

正直、言う必要性もないから誰にも言ってなかったんだけど。

優と伊井野、特に優の方はあの中等部の時の事件の影響が大きく、周りから避けられている。

しかし、まぁ、そういうのは見ていて面白くないし、言ってしまえばすこぶるイライラする。

僕はそういう光景が嫌いだ。

そうされるだけの理由があるにしてもないにしても。

特に優は、あいつに非がない訳ではないけど、それにしてもいき過ぎな面が目立つ。

伊井野についても、あいつの主張そのものが間違っている訳ではない。

ちょっと、方法とか考えが硬すぎていただけだし、それも優との関わりの中で柔らかくなっている。

だから、それをどうにかしたいと思った。

因みに伝手自体はあの二人から部長さんに繋いで貰った。

その後の会話は聞かれないようにしたけど。

 

「マスメディア部の部長さんに生徒会の記事や学校の裏サイトの方で石上くんやミコちゃんの良い噂を流すように頼んでたんですよね」

「すこし違いますね。僕が流していたのはあいつらの()()()()()()()()()。まぁ、それ自体はあくまであいつらに注目を集めるための手段でしかなくて、それによって実際のあいつらを見てくれるようにってことぐらいですよ」

「……確かに石上くんやミコちゃんが実際にしてきたものばかりでした。でも、中等部の事件の真相は流してませんね」

「優が嫌がりますからね」

「でも、それとなく示唆するような情報も流していますよね」

「偏見のない頭のいい人なら気づくでしょうね。悪意的な解釈ばかりをする頭の悪い人は気がつけないでしょうけど」

「……はぁーー。全く。せめて、他の生徒会のメンバーに相談してくださいよ」

 

千花先輩は呆れたような目線をこちらに向ける。

まぁ、確かにそうした方が良かったのかもしれないけど。

 

「でも、結構ギリギリのラインになりますから。いざと言う時に、僕一人が悪かったってことにしないと色々と迷惑がかかるでしょ?」

「……迷惑かどうかなんてこっちで決めます。だから、勝手に一人で決めて抱え込まないで下さいよ!元々、あなたは混院であることに加えて、石上くんやミコちゃんと仲が良いってことで周りに煙たがられてるですよ!なのに…」

「いや、そっちはどうだって良いです。優や伊井野のことをちゃんと見ずに批判ばかりをするような連中の言葉なんて響きはしません」

「でも!それで鳴山くんが同じ目にあったら意味がないですよ!そんなこと、石上くんもミコちゃんも望んでません!」

 

そこまで言って、僕も千花先輩も黙った。

僕も分かっている。

これが優や伊井野が好まない方法だってことぐらい。

でも、

 

「……あいつらは、誰かの為に身を切れる人間で、見返りを求めたりはしない。でも、見返りはあるべきですよ。その為に、僕は動きます」

「……止めて下さい。と言っても、止まるつまりはないですよね。なら、私にも一枚噛ませて下さい。そのまま、あなたが自己満足ならぬ自己犠牲で進んでいくのを見るのは嫌です。あなたが石上くんやミコちゃんにそうであって欲しいように、私も鳴山くんには、白兎くんには見返りを得て欲しい。自己満足なんて言葉で誤魔化さないで、あなたも素直に誰かに、私に甘えて欲しい」

「……………」

 

僕は黙った。

僕自身の考えは変わっていない。

けれど。

けれど……

 

パン

 

「今すぐなんて言っても、どうせ白兎くんはどこかで誤魔化します。なので、何度だって言い続けます。甘えて下さい。一人で抱え込まないで、頼って下さい」

 

顔を手で抑えられて、真っ直ぐな目で今にもキスしそうな距離でそう言われた。

僕の考えは変わらない。

変わらない、筈だった。

変えてはならない筈なのだ。

だって、僕にはそんな資格なんてない。

何の対価もなく、頼ることや、まして甘えることなんて出来ない。

してはならない。

それだけのことを僕はした。

きっと、僕は許せない。

僕自身を許せない。

いつまでだって、批判し続ける。

なのに……。

なのに、なのに、なのに、なのに!

そんなことを言われたら、どうしたらいいか分からなくなってしまう。

僕は、僕にどうしろと言うんだ。

 

「…………」

 

千花先輩は僕の顔を見続けると、何かに気づいたように手を話す。

足音が4つ聞こえてきた。

帰ってきたようだ。

あのバカップル4人が。

 

「……かぐやさん達が帰ってきたみたいですね」

「……そうみたいですね」

「……今日はここで終わりです。でも、覚えておいて下さい。あなたがどう()()()()()と、あなたのことを想っている人が、人達が、ここに居るってことを」

 

そうして、千花先輩は家の中に入っていた。

 

「………」

 

僕は顔を一回、思い切り叩く。

そして、いつもの顔で家の中に戻っていった。

 




次回、遂に過去編。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。