今までのイメージを崩されたくない方は見ないでください。
優や伊井野、白銀先輩や四宮先輩の物語がひとまずの区切りがついた所で、そろそろ僕は鳴山白兎の物語を語らなければならないだろう。
僕の、原点となる物語を語らなければならないだろう。
まぁ、正直に言ってしまえば、本当は語りたくなどない。
この物語では、僕の愚かしさ、残念さ、そして、僕の酷さを伝えなくてはならない。
自分のそういう一面を言いたくない、語りたくないというのは当たり前の感性だと思う。
それこそ、自虐的な人で、罰されることを願っている人でもない限りは。
まぁ、僕の感性が本当に普通なのかどうなのかは疑わしいけれど。
人間は誰しも、自身を基準に考えてしまうのだから。
恐らくは、この物語を読み終えた後に僕のことがすこぶる嫌いになる人も現れるだろうけれど、仕方ない。
そもそもで、僕は人に好かれるようなタイプの人間ではないのだから。
むしろ、嫌われるタイプの人間なのだから。
どこまでもくだらなく、碌でもなく、面倒くさい。
それが、僕という人間なのだから。
さて、長々とした前置きをしても仕方ない。
そろそろ、語るとしよう。
***
2年前の冬休み。
中学2年生の冬休み。
千石撫子が邪神兼蛇神として、君臨していた頃。
僕こと鳴山白兎は公園のブランコに揺られていた。
ギィー、ギィー、ギィー
ブランコの軋む音がする。
東京の空に雪は降らない。
しかし、白い雲はかかっている。
世界は白かった。
恨めしいぐらいに。
ふと、携帯電話を見る。
しかし、そこには何も映し出されてはいない。
「はぁ~~~」
ため息をつく。
そうして、30分位経った後。
僕は家に帰っていく。
***
私は知っている。
あいつの今までを。
あいつがどういう人生を歩んできたのを。
だから、私は動くのだ。
あいつに願われたから。
***
家の前まで来ると、何故かそこにはパトカーが止まっていた。
「なんでパトカー?」
えっ、僕なんかしたっけ?
警察の厄介になることはしてないと思うんだけど。
パトカーから警官服姿の男性が出てきた。
見た所、30代くらいのガッシリしたタイプだった。
「ああ、君、鳴山白兎君だね?」
「は、はい。ええと、何の御用なんでしょうか?」
「まぁ、ここで話すのも寒いだろうから、パトカーで話そうか」
「は、はぁ…」
警察手帳を見せながら、その警察官は近づいてくる。
寒いって言ってはいるけど、要するに周りには聞かせられない話ということなんだろうな。
はてさて、何の話なのやら。
僕は言われるがままにパトカーの中に入る。
我ながら、警戒心の欠片もない行動だ。
これで警察を装った誘拐犯だったら、どうするつもりだったんだか。
まぁ、実際はそんなこともなかったのだけれど。
僕は早速、警察官に切り出す。
「それで、どういった要件なんでしょうか?」
「最近の連続中学生傷害事件は知っているかい?」
「ああ、東京都で中学生ばかりが狙われているっていう…」
「そうだね。で、これは世間には公表されていない情報だけれど、この写真たちを見て欲しい」
「……そういうことですか」
その写真に写っていたのは、僕は知っている人物だった。
他の写真も僕の知っている人達だった。
「そう、この人達は全員被害者なんだけど、共通点があって、君と同じ小学校の出身だっていうことだ」
「つまり、同じ学校出身の僕なら何か知っているんじゃないかと」
「後は、注意喚起だね。君も同じ小学校の出身だ。十分に注意して欲しい」
おおよそ、その通りなのだろう。
これ以上の裏があるとは思えないし、あったとしても一般人に伝えられない情報だ。
どこぞの探偵漫画では無いんだから、一般人に伝えないのは普通だ。
そして、その上で写真を見る。
その写真に写る人物を眺める。
それを眺めた上で、そして僕は……
「すいませんが、僕には分かりません」
「……そうかい。それじゃあ、何か分かったら、この番号に電話してくれ」
そうして、電話番号の書かれた紙を受け取って、僕はパトカーから出る。
「それでは、気をつけてくれ」
そう警官は言うと、そのままパトカーは走り去っていった。
僕はそれを見届けてから考える。
この事件について。
「……まぁ、他の共通点が無い訳じゃないんだけど」
でも、それは共通点というには、あまりに定義の範囲が広すぎる。
「……まさか、ね」
***
『鳴山菌!』
『はぁ、人のことを菌扱いするんじゃないよ』
『だって、本当のことじゃん』
『その本当はどこから出てきたんだよ』
『だって、皆言ってるぞ。お前の横を通り過ぎる時は皆鼻つまんでるしな』
『それは理由にならないだろうが!』
『痛っ!お前殴ったな!』
『うるせえ!』
***
警官が来たその日の夜。
いつもの通り、家族で食事を取る。
「そう言えば、今日、家の前にパトカーは止まってたね」
「うん?そうなのか?」
瓜子の言葉に父さんが反応する。
まぁ、会いに来ていたのは僕だったが。
「白兎はそれを知ってたのか?」
「うん。最近の事件で注意喚起してるんだってさ」
「そのために、わざわざ家の前に?」
「うん」
本当は小学校時代の人達が狙われてるかもって言うのがあったけど。
余計な不安を煽るだけだし、あっちの捜査の邪魔にもなる。
伝える意味はない。
「なら、良いんだが。……何かあったらちゃんと言えよ」
「分かってるよ」
本当に分かっているかは甚だ疑問だが。
仮に何かあっとしても、多分、父さん達には言わないし。
基本的に隠すと思う。
「それにしても、母さんの料理は相変わらず美味しいね」
「そうだな」
「ご飯が何杯でも進んじゃう」
「そう?なら良いんだけど」
これが、いつも通りの我が家の食事。
それは、ありふれた、家族の日常だ。
***
『コラ!待ちなさい!』
『嫌だよーだ』
『何やってんだか』
『へへん。ほーら』
『あっ……、う、うぇーーーん』
『酷い!鳴山の机に置くなんて』
『本当に最低』
『酷い!』
『死ね!』
『うっっ、グッ……!』
***
次の日。
僕は外を出歩いている。
まぁ、昨日の今日で出歩いているのは些か不用心だとは思うが。
まぁ、気にするようなことじゃない。
どんな形であれ、僕も関わっている事件だし、正直、僕も大分気にしてはいるけれど、今は外を出歩いていたかった。
動いて、少し考えたいことがあった。
「まぁ、僕が襲われた所でっていうのもあるしな」
別に、僕が襲われた所で対局にそこまでの影響は出ない。
僕には、それほどの価値はない。
そう思い、町を歩く。
今日も今日とて、外は寒い。
そうして、3時間ぐらい歩いて、河川敷の所で座り込んでいた。
「はぁーー」
なんというか、現実逃避したいだけなんだろうな。
ただ、フラレて、その後、音沙汰なしのこの状況。
正直、フラれたことはそこまででもないんだけど。
連絡つかなくなったことが、本当にキツイ。
泣きそうになる。
泣かないけど。
「……本当に下らないな」
自業自得だとは、思う。
でも、いつまでも引きずるのは流石に……、
「おい!アレ見ろ!」
「キャーーー」
そんなことを、考えていた時。
周りの叫び声が聞こえる。
川を見るとそこでは人がピクリともせずに流れていた。
***
『飼育委員の兎の世話って本当に嫌だよな』
『うん。なんかフン臭いし』
『なぁ、知ってるか?兎って、フンを食べる習性があるんだぜ』
『ああ、じゃあ、鳴山にピッタリだな』
『『『アハハハ』』』
***
1時間後。
川から流れてきた死体は無事に地上に戻された。
元々良い視力で薄っすらと見えたその死体の顔は、僕の知っている人物だった。
「まさか、田中とはねぇ」
田中団三郎。
小学校時代に同じクラスのやつだった。
もしかしたら、別件かもしれないが。
「まぁ、別件だろうかが同じ件だろうが溺死体は相当な事件だよな」
溺死体。
しかも、結構服装も汚れていて、水草だったりも付いていた。
上流の方から、そこそこ長い時間流れていたのかもしれない。
まぁ、素人目からの判断では間違っている可能性の方が圧倒的に高いが。
事故の可能性は、まぁ、低いだろう。
それなら、もっと前に誰かが見つけてそうだし。
ピーポー、ピーポー。
救急車とパトカーがここに来た。
救急車は田中の死体を運ぶようだ。
確か、死亡届的に必要なんだったか。
よくは知らないが。
なんとなく、パトカーの方に近づく。
警官の話が聞こえてきた。
「あれは、例の事件の被害者候補か」
「そうみたいだな。これで、死亡者は3人。……クソッ!」
「犯人の陰さえ掴めていないしな。しかも、犯行の手法もそれぞれで違う」
「同じ犯人であるかさえも、怪しいからな。だが、野放しに出来ない」
「ああ。これ以上、被害を広げる訳にはいかないからな」
「子どもたちばかりを狙って、卑劣な奴め!」
そういう話だった。
恐らく、本格的な田中の溺死体の捜査は後から行われるようだが、大体同一犯だと考えれているらしい。
ていうか、犯行の手法が毎回変わるって……。
随分とレパートリーに富んだことしてるんだな。
そして、田中を含めて死んだのが3人と。
思っていた以上に、話が聞けたな。
僕はその場から離れていった。
それにしてもと思う。
「……犯人の動機は何なんだ?」
そもそもの疑問だ。
ここまで見た感じ。
おおよその被害者の予想は出来ている。
というか、あの写真のまんまなのだろうけど。
あの面子。
つまり、
しかし、あいつらを狙う理由が見えない。
いや、ひとつ、浮かんでいるものはあるけれど。
「もしそうだとして。でも、そんなことをするやつが居るのか?」
僕のことを大切に思っている奴なんていないのに。
***
『鳴山くんはいつも偉いね。こうして、毎日早くに来てメダカの水やりして』
『いえ。大したことじゃないですよ』
『そんなことないさ。掃除も勉強も真面目にしていて、駄目なことを駄目と言える人。そういう当たり前のことが出来る人が実は凄い人なんだよ』
『……おだて上手ですね、
『そういう捻くれた見方をするのは、止めたほうが良いよ』
『……そうですね』
***
次の日。
今日も今日とて、僕は町を歩く。
考えながら。
答えのない考えを深めながら。
今考えているのは、事件のことだ。
なんというか、色々と引っかかる。
そこが分からないと、スッキリしない。
一番分からないのは、その動機だ。
あいつらに対しての怨恨。
聞いた限りだと、それは正しいと思う。
でも、個人個人なら知らないけれど、全体になると分からない。
場所もそれぞれで違うから、たまたま被ったということもないのだろう。
やっぱり、いくら考えても、動機が一つしかない。
しかし、そうなると、
「犯人、僕ってことにならないか?」
そう、僕である。
多分、僕の知る人物の中であの面子に恨みがあるのは僕である。
しかし、まぁ、物理的にそれは不可能だ。
それは、田中が川を流れてきた時点で確実に。
もっと前の事件でも、多分、普通にアリバイは成立してる。
というか、僕本人だし。
「でも、それでも無関係、ではないだろうな」
仮に、そういう風に仮説を立てるなら、僕は確実に無関係ではないだろう。
田中団三郎に、昨日写真で見た中山刑部に三村守鶴。
この3人は多分死んでる。
田中は確実に死んでたけど、他の二人も多分。
なんとなくだが、しかし、僕の考えの通りなら死んでる。
「証明のしようがないけどね」
まさか、警察にそんな情報を聞くわけにもいかないし。
そもそも、中学生が深入りするようなことでもない。
少なくとも、僕が犯人でもない限りは。
「大人しく帰ろう」
そうして、帰ろうとした時、僕は見た。
空を跳ぶ兎を。
***
『おい!鳴山!何してるんだ!』
『こら!鳴山!動くんじゃないよ!』
『何してんだ!鳴山!お前のせいでまたやり直しだよ!』
『ねぇ、どうして、鳴山くんのせいにしているの?』
『『『だって、鳴山だから』』』
***
人間、意味が分からない情報を見ると思考が止まるらしい。
その位に、おかしかった。
ていうか、当たり前のようにビルからビルへと跳ぶ兎なんて見たら、普通にビビると思う。
僕は少しの間、呆けていたがすぐに切り替えて、僕はその兎を追った。
追った理由についてはよく分からない。
ただ、追わなければならないと思った。
追わないと、大切なことを見逃すような気がした。
しかし、まぁ、ビルからビルに跳んでいく兎に追いつける訳はなく。
僕は、ある場所に辿り着いた辺りで、もう兎が何処に行ったのか、分からなくなってしまった。
「ハァハァ………」
思い切り、息が乱れる。
そもそもで、運動が得意でない、というか、運動では最下位レベルの僕がこんなに走ったら、そりゃこうなる。
まぁ、走った距離はそうでもないのだが。
多分、1キロもないだろうが。
しかし、中学生なんてそんなものだろう。
「あれ?ここって……」
そうして、兎を追いかけて、走った先にあったのは、焼け落ちた家だった。
***
『鳴山!今度、マルチやらない?』
『良いぞ。面子は誰だ?』
『猿柿と雉鳴だ』
『分かった。じゃあ、8時位にな。白犬』
『おー』
***
焼け焦げた家は今に崩れそうだった。
下手に触れれば二次災害になりそうな位に。
「……花が手向けれてるな」
勿論、別件の、交通事故による可能性はあるけども。
「でも、近くの壁が思い切り焦げてるんだよな…」
目の前の壁に触れると、ポロポロと黒い壁が崩れる。
まぁ、そういうことなんだろうな。
この家が燃えたんだな。
表札があるであろう所を見るけれど、誰の家かは分からない。
まっくろくろすけでておいでーっだ。
ただ、道の所には車の跡も薄っすらとある。
家に車がツッコんで、そのまま火事になったのか。
ただ、テレビとか見てても分かるけれど、最近の車は丈夫だ。
早々に壊れない。
それは、安全性だったりを追求した形だ。
でも、この様子は明らかに車から火がでた流れだろう。
いや、あくまで素人の目から見た意見だから、大いなる間違いは絶対に紛れているだろうけども。
しかし、仮に合っていると仮定してだ。
普通に考えれば、相当に運が悪かったんだろうとなるけれど。
「誰が被害者かが分からないと判断つかないけど…」
多分、これも事件の延長線だろう。
色々と導かれたという側面は確実に存在するように思える。
果たして、それが誰の意志なのかは知らないけれども。
ていうか、警察はこれをどう処理したんだろうな?
この事件のことはニュースで流れた覚えはないんだけど。
このレベルの事故なら、ニュースに出ててもおかしくないのに。
「まぁ、そこは僕の考えるようなことではないか…」
重要なのは、この場での被害者が誰であるのか、だ。
ここでの被害者があの辺の奴らだとほとんど確定的だけれど。
というか、そうじゃないと、完全に手掛かりがなくなるのだけれど。
いや、そもそもで僕が何かしなければならない理由はない、筈なのだけれど。
「……もしかして、鳴山?」
「うん?」
声がして、振り向くとそこには腕を折った、元同級生が居た。
***
『アハハハ、あそこまで振り切ってる所とか可愛いよな』
『うん、私もそう思う』
『でも、芥子ちゃんの性能って実際どの位なんだろうな。鬼灯様とも渡り合えるみたいだし』
『いや、あれも鬼灯様が受けてる側だからじゃない?』
『まぁ、それはあるだろうけど………、ていうか、アレ?なんで、他の連中来ない…』
『………ハァ…』
タタタッ、タン!
『何でそこで覗き見スタイル決め込んでんだ!!』
***
「鳴山はどうしてここに来たの?」
「……適当にぷらついてたら、ここに来てた」
嘘である。
が、それは当然だ。
兎がビルを跳んでて、それを追いかけたらここについたなど、言った所で信じる奴などいないだろう。
それを抜きにしても、正直に話したいとは思わないだろう。
何故なら、大して親しくもない、そもそも僕からしたら会いたくもなかったような人物なのだがら。
「お前はどうしてここに来たんだ?」
「お供え。あいつの好きだった缶コーヒーの」
「あいつ?」
「……中山」
「へぇ、あいつ死んだのか」
特に感慨もなかった。
まぁ、これで事件と関わりがあることが大分確定的になったのは収穫だが。
というか、予想が当たっていることが分かるが。
「……なんか冷たくない?」
「そうか?」
「あの頃のことをまだ根に持ってるの?しつこくない?」
「……そうじゃあないよ」
いや、まぁ、嘘だ。
未だに根に持っている。
というか、もたない訳がない。
あんな全方位からやられてて、根に持たないというのなら、そいつは相当な聖人だ。
あるいは、相当なお人好し、または馬鹿だ。
愛すべき、という枕はつきそうだけど。
まぁ、そこを今掘り下げても仕方ないので。
「なんというか、自分の知らぬ間に死んだって聞かされても、なんか信じられないだけだ」
「……それはそうかも知れないけど」
まぁ、冷たいのは確かだ。
優しくしてもらえるなんて考えているとしたら、それはそれでちゃんちゃらおかしいけど。
「それじゃあ、僕はそろそろ行くわ」
「お供えしないの?」
「そんな持ち合わせはないからな」
「祟られるよ?」
「ないない」
だって、祟るとしたら僕が先に祟ってるから。
***
『ねぇ、今月の22日って暇?』
『暇だけど』
『じゃあ、一緒にここに行かない?』
『脱出ゲーム?ああ、東京タワーでやるのか』
『うん、丁度、二人分のチケットがあるから』
『うっ!……じゃあ、二人きり?』
『?そうだけど?』
『……そっか…』
***
さて、ここまでの確認が取れた範囲だと、死因は溺死に焼死。
まぁ、他にも死んでる面子がいるかも知れないけど、それを一々探ってたらきりが無いだろうし、そもそもで
「さて、まぁ、正直、犯人は僕っぽいよな」
これはそう思う。
僕自身だから、直接的な犯人ではないだろうけど。
面子と死に方を考えると、なんだかそう考えるのが妥当な気がする。
色々とおかしな所が多すぎるけど。
「そのおかしな要素が僕の頭を悩ませるんだけどな」
まず、前提として。
僕に犯行は物理的に不可能だ。
アリバイ的な意味もそうだが、犯行方法的にもそうだ。
特に、車を無理矢理ぶつけて炎上させるなんて、中学生がどうこう出来るようなことじゃないし、出来たとしても何の被害もなくそれを行うことは出来ない。
ていうか、中学生関係なく、基本的に誰がやっても無理!
よっぽど、技術力がなければ出来ないだろうし、そんな技術を持つやつがこんなことをする訳がない。
犯人の絞り込みを、警察でさえ行えていない状況で言うことではないのかもしれないが、僕の知っている中に、そんなトンデモ技術を持つやつはいない。
となると、実は人間ではないものが犯人である可能性……
「非科学的だけど、今の所、一番可能性があるな」
あの兎を考えるだけで、十分にあり得る気がした。
そんな馬鹿げた真似をすることも。
僕の中で、ひとつの答えが出る。
そして、物語は終わりに近づく。
***
『花火大会?』
『そうだ。今度クラスで行こうと思うんだけど、お前は来るか?』
『じゃあ、行く』
『分かった。じゃあ、鳴山追加な』
***
僕は、焼け焦げた家を離れ、近くの図書館に向かった。
実は、僕が持っているのはガラケーである。
正確には、母から譲ってもらった、お下がりのガラケーだ。
まぁ、ガラケーで不自由した場面はあまりない。
別に携帯なんてしょっちゅう覗くようなものではないし、必要最低限の連絡が出来れば十分。
それに、連絡を取り合うのも1対1だからだ。
よくも悪くも、多くを欲するタイプじゃない。
と、まぁ、ここまでは単に僕が自力でネットを使えないという説明がしたかったというだけの、前説だ。
そんな訳で、僕が情報を収集するなら、学生らしく、図書館を利用することになるのだ。
そうして、あの兎について調べようと思ったが、これが大変だった。
兎のキーワードだけで相当数の本があって、それに一つ一つ目を通していく作業は中々大変だった。
そして、その上で成果も上がらなかった。
単純に、存在としての情報が足らないのも大きいのだろう。
絞り込む要素が足らない。
そんな中での調べ物は、中々上手くいかない。
ていうか、思った。
遠目からでも分かる兎って、相当デカイのでは?
兎の図鑑を見たが、そんなデカさの兎は載っていなかった。
まぁ、世の中は広いから、本当にいるのかも知れないけれど。
妖怪関連の本も目を通したが、やはり、そういう兎を見つけることは出来なかった。
と、そこまでで日も大分暮れていた。
図書館の閉館時間になり、僕は図書館を出た。
帰り道。
トボトボと、帰る中で僕は考えた。
兎について。
この時に考えていた兎は必ずしも、さっきあったの兎のことだけでなく、他にもあったことのある兎のことを考えていた。
そこで、思いついた。
小学校時代、うさぎ小屋で飼われていた兎を。
小学校で、校内に兎がいる学校がどの位あるのかは僕は知らないけれど、少なくとも、僕の学校では飼われていた。
そして、高学年で委員会というのがあって、僕は飼育委員になった。
そこで、世話したのが兎だった。
最初は色々と大変だったけれど、意外と可愛いのが兎だ。
能面のように、無な顔だけれど。
でも、どこか愛嬌がある。
そう言えば、よく世話してた時に色々と話していたな。
あれくらいだ。
楽しかったことなんて。
***
『いやー、花火綺麗だったなー』
『そうだねー』
『今度、また皆で行こうぜ!』
『うんうん!』
『ここから、夕飯食いに行こうぜ!』
『『『おーーー!』』』
「本当にクダラナイ」
私は目的の場所に向かいながら言う。
途中で、ゆるふわな髪型の少女に見られた気がしたが、どうだって良い。
もう終わりなのだから。
***
次の日。
僕は東京タワーに来た。
脈絡の欠片もないように感じるけれど。
なんとなく、そこに行かないといけない気がした。
あるいは、感傷に浸りたかったのもしれないけれど。
きっと、この事件が解決した時に、何かが大きく変わっってしまうような気がしたから。
でも、まさか、そこが終着地点だなんて思わなかったけれど。
「ようやく、来たね」
実際に行くと、人っ子一人居なかった。
いくら、高さでスカイツリーに抜かされたとはいえ、東京でも有数のランドマークでこれは明らかに異常だった。
だが、まぁ、目の前の
「……わざわざ、占拠したのか?」
「違う。ただ、ちょっとこの辺に結界を作っただけ…」
「そんなことも出来るの?ていうか、普通に話せるの?」
「まぁ、そういうものだからね」
僕は目の前にいる大きい
「お前は何者だ?」
「私は、お前が会ったあの兎で、そしてお前自身だ」
***
結局、僕は何も得てなどいなかった。
小学校時代。
僕の周りは敵だらけだった。
何がそもそもの理由だったのか。
そもそもで確かな理由があったのか。
もう思い出せないし、今となっては重要なことではない。
ただ、やられ続けた。
汚物のように扱われた。
なにせ、いじめの道具扱いされる位だ。
僕の横を通り過ぎる時に鼻をつまむこともよくされた。
「鳴山菌」と呼ばれることも多々あった。
もはや、飽き飽きするぐらいだ。
そうした時に、僕は正義を頼った。
正義を武器にしようとした。
あるいは、盾にしようとしたのか。
ともかく、
だから、真面目になった。
ルールを守り、駄目なことを駄目と言う。
そういう人になろうとした。
客観的な正義。
それがあれば、僕もそんな目に合わずに済むと思った。
だが、現実はそんなに甘くなかった。
結局、正義というのは、正しさというのは、集団が決めるものだ。
周りが正しいと決めたものが、全体の正義になる。
だから、何も変わらなかった。
むしろ、悪化したと言ってもいい。
中途半端な正義は、火に油を注ぐだけだった。
そうして、事態はそのままに中学校へ進学した。
中学校に行っても、小学校時代の人達も半分位が同じ中学に来た。
中学に入ってすぐに、協力して攻略するアスレチックというイベントがあった。
そこで、失敗すると同じグループの全員が僕を責めた。
僕は何もしていないのに。
それを見かねたそのアスレチックの職員は聞いた。
『ねぇ、どうして、鳴山くんのせいにしているの?』
あいつらは答えた。
『『『だって、鳴山だから』』』
その言葉が、どれだけ残酷なのかをあいつらは知らない。
僕は泣いた。
でも、誰もそれを助けてくれなかった。
その日の夜、僕は考えた。
どうすれば良いのかと。
どうすれば、変えられるのかを。
考えて、考えて、出した結論は自分が変わることだった。
その日から、僕は歩み寄ることにした。
正義を抵抗の武器ではなく、相手を受け入れるために用いることした。
そこから、僕の環境は少しずつ変わった。
まずは、中学校から初めて出会った人達と友達になっていった。
そこから、少しずつ、小学校の人達とも歩み寄っていった。
それでも、色々と言われたりもしたけれど。
少なくとも、小学校の時よりも楽しい学校生活を送っていた。
そして、僕はあいつとの関係を持つようになった。
昔日彩
僕が彼女と話すようになったのは、あいつが先生相手にファンブックを片手に布教活動していた所だった。
あいつが布教してた漫画を僕が読んでいたから気になってその話に割って入って、そこからは意気投合。
昼休みが終わるまで、喋り倒した。
そして、また話すことを約束した。
それから、僕は朝や昼休みにあいつとよく話した。
漫画の話であったり、授業の話であったり、他の趣味の話であったり。
楽しかった。
本当に。
後から振り返った時に、中学時代で一番幸せな時間はいつだったかを聞かれれば、僕は必ずこの時だと答えただろう。
そして、あいつは漫画も描いていて、しかも腐女子だった。
だから、あいつの漫画も見たりした。
まぁ、思い切りBLの漫画だ。
普通だったら、引くと思う。
でも、僕はそういうところも可愛いと感じていた。
いつから、なんて分からないけれど。
でも、僕は確実にあいつのことが好きになっていった。
あいつにイベントに誘われてドギマギしたり。
あいつが、知り合いの男であいつと幼馴染のやつ相手に名前呼びしたら燃え上がるほどの感情を認知したり。
そんな、どこまでもありふれたような、そんな恋心を抱いた。
一緒に居たいと思った。
いつまでも、ずっと。
そうして変わったのだと思った、今年の夏。
僕はクラスのやつに2つ隣の町の花火大会に誘われた。
彩は来なかったけれど、しかし、クラスの人達とも仲良くなっていたから、僕は行った。
河川敷で、シートを引いて、唐揚げだったりポテトチップスだったりを買って。
飲み物を氷と一緒に買って。
花火を見ていた。
そして、花火を見終わって帰る頃。
僕はゴミを纏めて持った。
しかし、十数人分のゴミだと流石に持つのも難しくて、しかも氷で濡れて、滑ったり破けやすくなっていた。
だから、僕は助けを求めた。
『ちょっと、ゴミを持つのを手伝ってくれない?』
その時、周りの奴らは何をしたか。
何もしなかった。
聞いてさえくれなかった。
僕がどうにかこうにか持っているのを放置して、あいつらは進んでいった。
晩御飯を一緒に食べる話をして。
笑い合って。
そこには、一切の悪意がなかった。
僕はそうするのが当たり前なのだと言うかのように、誰も僕のことなんて気にも止めなかった。
その後、そんな無理をしなければ持てないようなゴミを持ったまま、電車や店に入る訳にもいかず。
僕は歩いて家まで帰った。
そして、それを誰も疑問に思わずに見送った。
その時に、僕は知った。
僕が変わったことで変わったのは所詮僕の視点でしかなかった。
周りが変わった訳ではなかった。
いや、周りも変わってはいた。
ただ、それは形が変わっただけで本質が変わった訳ではなかった。
僕は彩に縋った。
何も得ていなかったと思いたくなくて。
確かに、僕の努力が、積み重ねが、価値があったのだと思いたくて。
僕は彩に告白した。
そして、振られた。
実の所、僕は振られることが分かっていた。
見ていれば分かる。
でも、どうしても深いつながりが欲しかった。
この時の僕は、相当に頭が駄目になっていたのだろう。
それからというもの、彩と話せなくなった。
僕が話しかけようとしても、逃げられた。
僕が電話をかけようとしても、着信拒否された。
そして、僕には何もなかった。
何も得られていなかった。
そして、夢の中で僕は願ったんだ。
思い出した。
文字通りの夢の中で、僕は兎に会って、聞かれたんだ。
『どうして、欲しい?』
僕は答えた。
『僕には許せない人がいる』
つまり。
僕はそんな人間だったんだ。
***
「ーだから、何も得れなかったお前は呪った。小学校の奴らを。人歪めるだけ歪めた存在を。それでいて、自分たちは自分のやらかしたことも自覚せずにのうのうと笑って生きていることを」
そうだ。
そう、思っていた。
あの時から、僕は誤魔化せなくなった。
どうしたって、許せなくなった。
許す理由がない。
聖人にはなれない。
善人にはなれない。
でも、
それでも、
「だからって、こんなことしていい理屈にもならないだろ?こうして、他人を傷つけて、殺して良い理屈にはならないだろ!」
「私を言い訳の材料するなよ。そう思ったのも、そう願ったのも全部お前だ。私でさえ、お前なんだ」
「違う!そんなことしたって、何にも得られないことを僕は知っている!」
「本当にそうか?」
「何?」
「ぶっちゃけ、初めて被害を聞いた時、お前は何を思った?『ざまぁみろ』って、そう思ったんじゃないのか?」
「!」
僕は、声を出せなかった。
出せるわけもなかった。
だって。
だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって、だって!
僕を散々苦しめてきたんだぞ!
僕を追い詰めてきたんだぞ!
それで、何の罪悪感もないだぞ!
許せるわけないだろ!
許していい訳がない。
それを許したら、僕は一体何なんだ?
痛めつけられるのが当然の存在なのか?
そうして、傷つられて、周りは仲良くなる中で一人でいるのが普通なのか?
そんななら、僕なんていらないだろ!
必要ないだろ!
そんな風に思いたくなかった。
考えたくなかった。
自分で自分の存在を、価値を、否定するしかないような中にいたくない。
だったら、僕は呪うしかない。
他人を呪って、他人のせいにして、周りが悪いって言わないと自分を肯定出来ない。
そんな中で、呪っている相手のそんな、傷つけられている話を聞いて、そうやって思わないことなんて出来ない。
僕は結局、そういう、最低な人間だ。
愚かで、残念で、碌でもない。
そんな人間なんだ。
否定なんて出来ないし、どうせ、ここにいるのは
でも、
「……それでも、やっちゃ駄目なことなんだよ。ただ隣の芝生は青いだけかもしれないじゃないか」
「それはお前が受けてきたことと関係あるのか?都合の良いサンドバックにされているだけじゃないのか?」
「本当はあいつらだって、優しい奴らだ。それは知っている」
「けど、それはお前に向けられなかったんだろう?人は認識しなけばそれはないと同じだ。自分に向けれることのない行為には、何の価値もない」
「こんな事しても、同じ穴のムジナだ」
「今更だ。人間は誰かを意識的にしろ無意識的にしろ虐げて生きている。それがお前に向かった。お前はそれを向けられる続けることに我慢ならなかった。それだけだ」
何を言っても、簡単に返される。
しかし、そこには何のおかしさもない。
だって、これはとっくの昔に、自分の中で散々と行われてきたことだから。
散々と僕の中で繰り返して、それで今の結果になった。
そして、小学校時代の僕があの兎に言い続けてきたことだから。
そんな僕に、変えるような意見など無かった。
変われない。
変えられない。
なら、もう答えは一つしかない。
「……終わりにしよう。全てを」
「ああ、最後の願いを叶えるときだ」
そう言った次の瞬間には、もうあいつの姿は無かった。
そして、僕は10mも吹き飛ばされた。
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
自分の悲鳴さえ、どこか遠くに感じられた。
口と腹からは血が流れていた。
何故、自分がまだ死んでおらず、意識も失っていないのか不思議でならなかった。
兎は僕の近くまで来ると、
「後、5分もすれば死にますよ」
と、告げた。
最初から、分かりきっていたことだった。
あいつとこうして、ここに会ったときから。
あいつの最終目標が僕だってことも。
僕はそれに抗えないことも。
だって、僕のことだから。
僕が僕のことが嫌いなこと位。
僕がよく知っていたから。
だから、僕は最後に兎に手を伸ばした。
「……何がしたいんだ?」
「謝りたいんだ」
「何に?」
「お前に。こんな役回りさせて、ごめんな。こんな意味のない、価値のない茶番に付き合わせてごめんな」
「……気にしないでいい。私は、ただ、死んだ時に可愛がってくれたあなたに、恩を返したかっただけだから」
「……律儀、だな。味方なんて、いないと、思ってたけど、こんな、所にいたのか」
「そんなことはないと思いますよ。味方なんて意外とどこにでもいるよ」
「だったら、そいつらに会って見たかった、な」
その言葉を最後に、僕は目を閉じた。
あの兎のことを考えながら。
***
後日談。
バットエンドで終わり告げた物語は、しかし、デットエンドで終わることを許してはくれなかった。
まぁ、死ぬことが救いになるとも、ましてや、償いになるとも思わないけれど。
皆不幸になって終わりであることには変わりないのだから。
事件から、数日後。
新年も迎えていたであろう日に。
僕はようやく目を覚ました。
「……死んでないのか」
僕が目覚めて、最初に口に出したのはそんな言葉であった。
入院中に、見舞いにきたのは家族だけであった。
相も変わらず、僕は変わっていなかった。
まぁ、それは僕の性格であり、人間性であり、僕自身の成長の話だ。
肉体的、というより生態的には、大きな変化があった。
具体的には、耳がすごく良くなった。
そこら辺から、声が響きに響いた。
最初は、あまりの声の多さに頭の処理が追いつかなかった。
聖徳太子でもあるまいし、10人が同時に話したら、内容の理解など追いつかない。
それは、2年後でも変わらない。
ただ、聞くべきポイントを定めて、仕分けるようになっただけだ。
それが出来るようになるまで、相応に時間がかかったりした。
他にも、身体能力が大幅に上昇したとかがあるが、まぁ、そこは余談だ。
こうした生態的な変化に関しては、僕は周りには言わなかった。
この当時でさえ、僕は怪異という言葉を知らない頃だ。
だが、その時でも僕はなんとなく知っていた。
これは、僕に与えられた罰であると。
普通の人で無くなること。
人間性を失うこと。
化け物となること。
それは、当たり前の権利を失うことと同義だ。
しかし、この時の、いや、今でさえ、僕はそのことをあまり悲しんでいない。
そんな資格はない。
それが人を呪うということだ。
人を呪わば穴二つ。
人を呪った分だけ、呪いを背負う。
むしろ、あの時に死んでいないだけで、十分に幸運と言うべきなのだろう。
ならば、これ以上の幸せを望む権利はない。
人の幸せを呪ったのだ。
ならば、僕も同じだけの呪いがある。
それ以上に、今回のことで僕は相当の危険人物であることがよく分かった。
もし、大切な人が今後出来たとしても。
僕がその大切な人のことを思うなら、僕は踏みより過ぎてはいけない。
踏みよれば踏み寄る程、それは大きな反動を生みかねない。
まぁ、そんな風には言うけれど。
僕は結局、信用出来なくなっただけだ。
人のことを、僕自身のことを、僕は信用出来なくなっただけだ。
そんな下らなく、碌でもなく、ただただ愚かなだけなんだ。
そして僕は、日常に戻る。
臥煙伊豆湖と会うのは、その年の3月のことだ。
なので、僕の中学時代の物語は一旦終わり。
決して話せない、僕の失敗談だ。
前日譚は、こんな感じで良かったのだろうか?
初期から設定で決めてたけど、明らかに今までの話よりもエグいんだけど。
白兎くんの解説いる?
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いる
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いらない