色々あった2学期の終わり。
具体的には、どっかの会長と副会長が文化祭でキスをしたり、どっかの会計と会計監査が甘酸っぱい青春を過ごしたり、クリスマスにこの二組のカップルがお互いの絆を深め合ったり。
特にクリスマスパーティーの最後は、もう甘々オーラが全開で色んな意味でお腹一杯になった。
そうして、冬休み。
決着の3学期を前にある、ほんの少しの休み。
今回は、その話をしようと思う。
***
「「かんぱーい」」
元旦。
1月1日。
僕は、専門家仲間である千石撫子の家にて、新年会を開いていた。
「うん、ウマっ!」
「そうか?結構、適当に作ったおせちだから、そんなに凝ってないんだけど」
「いやいや、適当でもしっかりとおせちを作っている時点でおかしいって気づこう?いないよ?高校生が一人でこんな量のおせち作っている人」
いやいや、たかだか10人前のおせちプラスカレー程度、普通に作れるって。
そして、これを三ヶ日で消費していくのが、伝統でしょう。
「やっぱり、ズレてるよね。ズレにズレまくってるよね」
「失礼な。僕は常識人で通ってるだぞ」
「いやいや。みんな、あなたが相当にヤバい人だと思ってるよ?隠しきれていないよ」
「ええー」
まぁ、知ってるけども。
最近は奉心祭のことで相当に疲れて、素が大分出てしまっていた。
それ位に、精神的に大分キテいた。
臥煙さんと連絡が取れなくなり、怪異はどんどんと湧き出続ける。
そんな状況に大分追い詰められていたのは事実だ。
言い訳の理由にしたくないけど。
「それを抜きにしてもバレバレだと思うけどね」
「人が論点をワザとずらそうとしているのを軌道修正を入れるなよ」
変人の度合いを認めるには、もう少し素がだせないと駄目だ。
「私相手なんだし、良いよ」
「……まぁ、そうだな」
そうして僕は、りんごジュースを飲む。
***
「それで、誰が遣わしたかは分かったの?」
「微妙。どこまで、本気にしていいか分からないし」
おせちをつまみ、格付けを見ながら仕事の話をする。
「ていうことは、候補はいるんだ?」
「まぁ……。でも、確証はないし、合ってたとしても本人に自覚はないだろうし、素の実力差は圧倒的だし」
「その場合、動機は分かっているの?」
「まぁ、その場合は大体の理由を本人が言ってるだろうからね」
「ふぅ~ん」
関心があるのか、ないのか。
正解は多分、問題への関心はあっても、そこまでの興味はないだろうな。
実際にその通りだとしても、問題の核は大体僕になるしな。
「正直、疲れた」
「背負う必要のないものまで、背負ってるからでしょ」
「いやいや。そんなこともないぞ。あれはやりたくてやってることだし」
「それはこの仕事もでしょ。やりたくてやってるじゃなくて、やらなければならないっていう脅迫概念になってる傾向があるよね」
「……まぁ、否定は出来ないな」
実際、そういう一面があるのも事実だ。
適度に、サボるってことが中々出来ない。
だから、疲れやすくなる。
今後の課題だな。
やれやれだ。
「とは言うものの、そんなに改善する気もないでしょ」
「……改善出来る気がしないからな。僕がそれをすると、抜いちゃいけないタイミングで抜いちゃいそうで怖いんだよ」
「あれだよね。普段から大分明るめな感じだから分かりにくいけど、白兎はかなり自己評価低いよね」
「それこそ、今更でしょ。あんなことをしておいて、自己評価が高い訳無いだろ」
「それ抜きにしても、低いんだけどね」
撫子はやれやれと呆れたように言う。
まぁ、それはそうだ。
調子に乗って、良かったことは殆どないし。
基本的に、今回はたまたまだーっていう意識になってる。
それこそ、殆ど無意識的にだけど。
そういう風に自制するようにしている。
その自制をしなくなったら、大体碌でもなくなる。
「しかし、こういうことを普通に話せるのは本当にお前ぐらいだよ」
「確かに白兎の暗部を知っている人間なんてそうは居ないね」
「お前の暗部も僕は知ってるけどな」
互いに互いの暗部、失敗、やらかしを知っている。
だからこそ、こういう風に話せる。
相手のことをよく知るのが信頼であるなら、僕と撫子は確かな信頼を築いているだろう。
ただ、やっぱりそれは友人の信頼であり、仕事の仲間としての信頼だ。
その線引きを誤ることはない。
関係性を間違えたりはしない。
「でも、実際。僕はどうするのが正解だったんだろうな…」
「我慢出来れば、って、言うのは簡単だけど実際はかなり難しい……ことでもないか」
「まぁな。同じ立場の人が同じことを起こせるかと聞かれたら、無理だし」
結局、あの事件で鍵になるのは僕の精神構造だ。
僕に狂っている所があるから、そういうことが起きる。
「結局、無遅刻無欠席なんだっけ?」
「正確には、病欠があるんだがな」
「多分、その時点で結構異端ではあるんだろうけどね。普通、小学生がそのレベルのいじめを食らってたら、学校が嫌になるんじゃないの?」
「いやまぁ、嫌にはなってたんだけどな。でも、行かなきゃいけないからな」
行かなきゃならないから行く。
だって、それが普通だから。
当たり前のことだから。
「義務教育って、親の義務であって子どもの義務じゃなかったと思うけど……」
「それでも普通は行くだろ?」
「当たり前のことを当たり前にするだけで、結構凄いことだと思うけどね」
「流石に、中卒の漫画家は言うことが違う」
「ああん?」
撫子がクチナワモードに入りそうになったので、触れるのは止めよう。
ていうか、どの道、
「当たり前のことを出来ていないから、こういう道に進んでるんだけどな」
「それもそれで、順当な感じではあると思うけど」
「でも、やっぱり人殺しは普通にアウトだよ。それに関して、未だに罪悪感を抱けていないということも含めて」
人を殺すのは重罪である。
それも当たり前のことだ。
特に比較的平和なこの日本という国では。
世界では未だに紛争や貧困が続いている場所が多く存在しているから、この価値観も絶対的なものではないけれど。
でも、やっぱり全体的に肯定されるようなものじゃない。
僕はそれをやらかした。
そして、それに罪悪感を感じられないのが駄目なんだ。
反省も後悔も沢山したけれど。
でも、罪悪感だけは抱けなかった。
理由はすぐに分かった。
僕があいつらを未だに許せていない。
それだけだ。
自分の非を認めて謝る。
小学校時代はよくしていたことだ。
僕だって、ただでやられてた訳じゃない。
嫌なことされたら、文句を言うし、時には拳も飛ばした。
でも、やり返したらこっちだって悪くなるんだから僕も謝る。
先生はそうしてきた。
言ってることは普通のことだ。
でも、そういう時は僕が先に謝って、でも相手は謝らないことが多かった。
先生の説教も聞き流していた。
そして、また、同じことの繰り返し。
結果的に、僕が謝り損になることばかりだった。
じゃあ、謝るようなことをしなければいいとなるかもしれないけれど。
でも、そうしたら本当に只々やられるだけになった。
全体で潰しにかかるだけになった。
それで、結局は元の木阿弥だ。
そして、いつしか僕はこちら側に完全に非があるときにしか謝らなくなった。
間違えて、ボールが当たったとか。
置く所を間違えたときとか。
そういうことでしか、謝れなくなった。
だって、僕ばかりが謝ってたら、僕が悪者みたいになるから。
それが我慢出来なかったから。
きっと、あいつらは僕がやったことを知ったら、僕のことを許せなくなるだろうけど。
でも、その前に僕があいつらを許せない。
許しを請いてもいない相手を許せるような聖人じゃない。
まして、それに罪悪感を感じていない人達のことなんて…。
でも、結局は同じ穴の狢なだけだ。
僕もあいつらと対して変わらない。
でも、僕はそれを変えられない。
本当に愚かだ。
「……本当に罪悪感がないのかは別として…。それこそ、私に言えたことじゃないかな。私だって、暦さんを殺そうとしたときは相当に頭足らずだったし。暦さんじゃなかったら普通に死んでたしね。それにその周りの人達も。そういう意味では、私はまだ一線を超えきっていなかったって言えるのかな?」
「言えるだろうな。しようとして、実行して、でも実行しきれなければ罪にはなりきらない。殺人容疑と殺人未遂容疑で違うように」
「傍目から見たら似たようなものでも、当事者からすれば全然別物であるみたいな話だよね」
「そうだな。でも、少なくとも、僕やお前のときに置けるその違いを他の人が分かるようになっちゃいけないんだろうけどな」
だって、それが分かるということはつまり、同じ条件に置かれているということなのだから。
それは、あってはならない。
分からない方が良いに決まってる。
だから。
だから僕は、
「僕はこの仕事をすることに決めたんだから」
僕と同じ状況になったとき。
同じことをするのを止めて、他の可能性を示す。
僕に出来なかった選択を、僕が取れなかった選択をしてもらう。
そんな風に言うと、まるで先人が行くべき道を指し示しめているようにも感じられそうだけれど。
でも、それは結局押し付けに過ぎない。
他人に自分の願望を押し付けているに過ぎない。
だから、僕は自己中なんだ。
でも、自己中でも、僕はそれを止められない。
同じようなものを見るのは、耐えられないから。
「……本当に、勝手もいいところだよな」
「………どうだろうね?」
撫子は、肯定したものか否定したものか悩むような口調でそう言った。
***
「それで、結局どっちが本命なの?」
おせちも今日の分は食べ終わり、こたつで茶を飲み、みかんを食べながら撫子は聞く。
「………何の話?」
「いや、誤魔化さなくても分かるから。白兎の気持ち、というか、考え方に変化が起きているのは」
「何を言ってるのかね?そんな証拠があるのかね?」
「だから、誤魔化しになってないって」
ちょっと、おどけた風に言うと、撫子は呆れたように言い返す。
しかし、撫子にバレるとは……。
まぁ、僕との距離が一番近いのは確かだから、気づかれてもおかしくないんだけど……。
「……やっぱり、顔に出てるのかね?」
「そんなには出てないと思うよ。ただ、白兎はよく見ていたら、なんとかそうだろうなってのは分かる」
「それ、結局同じことなんじゃ…」
「違うよ。少なくとも、白兎の性格や考え方、あり方を知ろうとしなくちゃ、気づけない。白兎って、嘘つきだしね」
嘘つきね…。
まぁ、確かに色々と騙したり嘘ついてたりすることも多いけど。
「それは黙っていることは嘘ついてるのと同義みたいな意味か?」
「全然違うよ。単純な意味での嘘つきだって言ってる」
「そうか?これでも、それなりに正直に生きてるつもりだけど」
「いやいや。正直者には程遠いよ。本当は辛いのに平気なふりをしたり、本当は人の為にしていることを自己満足だって言ってたり、相手に対して、無駄な気遣いしている」
「……話がさっきの話に戻ってるな…」
僕の異端性の話。
あるいは、僕の愚かさの話。
「別に相手を気遣ってる訳じゃない。あれは僕の中での線引きだし」
「そんなに相手に裏切られるのが怖い?あるいは、自分が相手を裏切るのが。」
撫子は言う。
こいつの前での隠し事は意味がない。
僕のことをよく知っているから、隠し事を簡単に見抜ける。
だからこそ、信頼しているんだけど。
「……そうだな。怖いんだと思う。僕の怪異譚も元を辿れば裏切りだしな」
あの花火大会。
あそこでの出来事を僕は裏切りだと感じた。
僕からの信頼の裏切り。
奴らは決して、そんな風には思ってはいないだろうけど。
まぁ、今更あいつらのことを言うつもりはないけれど。
……もう、終わりきったことだ。
この物語に関しては、決して続きは存在しない。
まぁ、それは置いておいて。
散々と変えようとして、変えられなかった。
あの頃も、人のことを信じきれていた訳じゃないけれど。
それでも、信じようとして、変えようとした中でのあの結末だ。
もし、
そもそもで、僕はまた信じようとさえ考えもしなかったかもしれない。
人からの信頼と人への信頼を信じられない。
そんな人間のままだっただろう。
でも、今が違うかと聞かれたらそうじゃない。
今でも、怖い。
あいつらが裏切るかもしれないと考えることが。
そして、あいつらにその呪いを相手にぶつけてしまうことが。
あいつらを傷つけてしまうことが。
怖い。
「……僕はあいつらを傷つけたくない。僕を救ってくれたあいつらを」
「救ってくれた?彼ら、あなたに何かしたの?」
「あいつらは知らないことだよ。何か特別なことをしたわけでもなく、普段通りに過ごしてただけだし」
普段通りに自分の正義を貫いただけだ。
でも、その姿に僕は救われた。
間違っていることを間違っていると言うその姿に。
色々と挫折を味わって、それでも自分なりの正義を貫いているその姿に。
あいつらが気づいていないだろうけど。
あの頃の未熟さを悔いているかもしれないけれど。
未熟でも、失敗ばかりでも、そんなあいつらに救われた人たちもいるんだ。
僕みたいに。
「ふ~ん。そうなんだ」
「本人達には恥ずかしくて言えないけどな」
「分かった。私から言っとく」
「……言いたきゃどうぞ!」
不貞腐れながら僕は言う。
いや、僕が止めろって言うのは簡単だけど。
同じシチュエーションだと僕も似たようなことを言うだろうから否定出来ない。
「いやだ。可愛いこの人」
「おい、キャラが変な方にいきかけてるぞ」
「私はキメ顔でそう言った」
「そこで、イラつく童女をださないでくれる?」
閑話休題
「で、話を戻すけど、本当にどっちが本命なの?」
「……別にどっちが本命とかないし。というか、まだ恋愛解禁もしてないし」
今まで知らんぷりをしてきたことに、いよいよ嘘がつけなくなったきただけだ。
自制が効かなくなってきているだけ。
いや、まぁ、それが大問題になるんだけど。
特に僕の場合は。
「正直、臆病なだけだよね。そうやって逃げているの、凄い不誠実だと思うよ」
「……まぁ、そうなんだけどな」
相手から告白されていないとか、本当は言い訳にならない。
相手の気持ちに気づいてる時点で、ちゃんと向き合うべきなんだ。
それが出来ていない僕は、不誠実で、駄目な男だ。
本当に。
「マイナス思考もいい加減しろ!」
「うん!?」
クチナワさんモードに入った!?
しかも、これ本気モードなやつ!!
「自分には資格がないだとか、裏切られるのが怖いだとか、そんなことはどうでもいいんだよ!」
「重要なのは、お前があいつらをどう思っているのかだろうが!」
「グダグダと言い訳しやがって!」
「お前はあいつらをどう思ってるんだ!」
「あいつらとどうしたいだ!」
………ここまで言われるとは。
いや、まぁ、全くの正論で反論のしようもないのは確かだけども。
はぁ、あいつらのことをどう思っているか、かぁ……。
「……大切だと思ってる。あいつらと過ごす日常は楽しいし、助けれてもいるし」
「なんだかんだ、僕に対して向けれる好意が嫌なのかと聞かれたら、そんなことは全然ないし」
「つーか、まともに好意抱かれるとか初めてだしな」
「嬉しくないわけがないだろ」
「でも、まぁ、前科持ちの軽い人間不信が入ってる危険人物が僕な訳で」
「いやいや、駄目でしょ、許されねぇよの気持ちで、そういう方向に考えるのは抑えてきた」
「それをあいつらは、クリティカル飛ばして、引っ剥がしにかかってるのが今現在」
「正直、意識してますよ、ええ」
「つーか、この期に及んで意識してないとかありえないし」
「どんな鉄壁だよってなるし」
「で、まぁ、僕がどうしたいって聞かれたらそりゃあ楽しい毎日を過ごしたいよ」
「美青とも千花先輩とも」
「ゲームしたり、雑談したり、ちょっとした喧嘩をしたり、行事を楽しんだり」
「そういう、ありふれたことをしていたい」
「………そんなこと言う権利ないのにな」
なんてことはない。
僕はただ、今の日常を続けていたいんだ。
いや、まぁ、僕の内面的にも、怪異的にも、それを放置し続けるのは訳にはいかないけれど。
でも、それは抜きにして。
優と伊井野がイチャイチャするのを尊いと思いながら、眺めて。
白銀先輩と四宮先輩のコントのような恋愛惚気戦見て。
それを、美青や千花先輩と笑い合っていたい。
ただ、それだけだ。
……本当に、随分と高望みだと思う。
「……恋する乙女としては、圧倒的にNOなんだけど」
「だよねーー」
「ついでに言えば、言ってることが持ってる人の上から目線な感じで腹立つんだけど」
「僕もそう思う」
いや、分かってるよ。
相当に勝手だって。
結局、現状維持とかいうふざけた選択しているってことも。
でも、
「それが本当に本音なんだから、偽ったって仕方ないでしょ」
「開き直んな」
「すいません」
これだから、本音は言いたくないんだよな。
まぁ、撫子相手だから言えるんだけどさ。
「取り敢えず、反省して、その上でちゃんと結論出せよ」
「……分かってる」
こういうことをちゃんと言ってくれてるから信用してるんだけどな。
***
後日談。というか、新学期。
あのクリスマスの後、何もない………
などということは当たり前のことだがなく。
「会長は嫌なんですか?」
「嫌な訳ないだろ……」
とか、
「ねぇ、優」
「なんだ、ミコ」
「一緒に食べない?」
「おう。どこで食べるかな」
とか。
まぁ、初っ端から存分にイチャイチャしてくれちゃって。
なんというか。
「胸焼けしそうなんだよな」
「「いやいや、顔がニヤけすぎる程にニヤけきってますよ」」
新学期。
早々に始業式を終わらせた美青とホームルームが終わってからすぐに来たっぽい千花先輩と合流し、じゃあ、取り敢えず昼食にしようかと生徒会室に向かった際の出来事だ。
「本当に好きですよね。特に石上くんとミコちゃん」
「好きで何が悪いんですか?可愛い奴らを全力で可愛いって言って何が駄目なんですか!」
「いや、可愛いは言ってないですよ。そう思ってるんだろうなとは思ってましたけど」
二人は呆れたようにそう言う。
でも、こころなしか少し嬉しそうだな。
そして、場面は放課後。
生徒会室に、生徒会メンバーは集まる。
「各々、色々とあったようだな」
「そうですね」
「ええ……」
「まぁ……」
「先輩達も色々あったんじゃないですか?」
「「いやいやいやいや!」
そうやって、手を振って白銀先輩と四宮先輩は否定する。
優と伊井野は気まずそうに照れくさそうに目をそらす。
藤原先輩は、狙いすましたような顔で僕を見ている。
これは、楽しい3学期になりそうだ。