藤原千花は楽しいことが大好きである。
楽しいことはゲームであったり、恋バナだったりと色々だ。
そして、その楽しいことの為ならどんな泥も恥じらいもなくなる。
そういう人物だ。
僕としては、少し自重して欲しいと感じることは多々ある。
色んな人に迷惑がかかるからだ。
具体的には、マスメディア部や生徒会の面々に対して。
去年から数えて、TG部の活動とかで何度謝ったかは覚えていない。
多分、3桁は超えていないと信じたい。
まぁ、そんな風に言うけれど、実際の所、僕自身は千花先輩のそういう振る舞いを決して嫌ってはない。
なんであれ、物事を楽しむのは良いことである。
人生を豊かにするコツは視点を変えることだというのを僕は知っている。
視点を変えれば、あるいはある視点を知ることが有効であることを知っている。
それこそ、優や伊井野はお互いのしてくれたことを知ったことで見事なバカップルに変わったし。
恐らくは、白銀先輩や四宮先輩もまたそういう出来事があったのだろうと思う。
まぁ、それはおいておいて。
とにかく、僕は千花先輩のそういう所を尊敬しているのだ。
何事も楽しむその姿を見るのが好きなのだ。
***
新学期が始まった次の日。
生徒会室に入ると、何故か腕を組んでいる白銀先輩とハゲヅラの千花先輩がいた。
「……なにしてるんですか?」
「えっとね…。私と会長…、冬休みから付き合い始めたの…」
僕が満面の笑みでこう言った。
「へぇーーー!そうなんですかーーー!いやーーーー、めでたいですねーーー!そうですかそうですか!!」
「え、いや、ちょ、ちが…」
「そうですよねーーーー!千花先輩は白銀先輩の特訓にも付き合ってましたし、好みのタイプも白銀先輩ですもんねーーー!納得ですーーー!」
「いや、これ…」
「で、挙式はいつ頃なんですか?いやーーー、きっと千花先輩はウェディングドレスも似合うんだろうな~~~!」
「もういい加減にしてください!」
「それはこっちのセリフだ!!」
でもさ、普通にさ、イライラするんだよ!
大して設定も作ってねぇし!
ていうか、白銀先輩と四宮先輩が両想いだって知ってるんだから、そんな明らかな地雷を埋め込みにかかるんじゃねぇよ!!
「いや、もう、本当にこういうの止めたほうが良いよ?して良いことと悪いことの区別ぐらいつくでしょ?」
「おい、タメ口になってるぞ」
「知りません。こんなアホ、先輩でもなんでもないです」
「……ゴメンナサイ」
「全く」
これだから千花先輩は。
僕じゃなかったら、こんなものじゃ済まない所ですよ全く。
ハァーーーー、ヤレヤレ。
「で、あれですか?四宮先輩の誕生日を祝うためのドッキリ、と見せかけて、自分が祝ってもらうための伏線作りって所ですか?」
「……まぁ、その通りなんだが、……お前どうかしたか?」
「どうもしてませんよ。強いて言うなら、初っ端からこんな展開でイラッときただけです」
「……そうか…」
白銀先輩が少し引いたような態度を取っている。
なんか変なこと言ったかね?
「取り敢えず、この生徒会で恋愛関係でドッキリを仕込むのは禁止です。全員揃ってウロボロス気質なので、拗れやすさが他の人の比じゃないんですよ」
「随分な言いようだな」
「でも、事実でしょ?」
「……そうですね。ごめんなさい。私が本当に間違ってました」
千花先輩が本格的に謝った。
白銀先輩が驚愕している。
でも、そんなに驚くようなことだろうか?
千花先輩、反省すべき時はきちんと反省するタイプなのに。
「でも、それじゃあどういうドッキリを仕掛けましょう?」
「そもそも何でドッキリ限定なんですか?普通に皆でお茶菓子を持ち寄ってパーティーでいいじゃないですか?」
「確かに」
「いえ、それでは駄目なんです」
千花先輩が神妙な顔をする。
しかし、僕は知っている。
このパターンで千花先輩がまともなことを言う訳がないことを。
「だって、それだとかぐやさんの慌てふためく顔が見れないじゃないですか!!」
「だと思いましたよ」
白銀先輩も呆れたような顔をしている。
いつもの千花節だ。
「こんにちわ~~」
ふと、扉が開く。
丁度、美青が来たようだった。
「………なんですか?失恋でもしましたか?」
「………いえいえ。ただのドッキリの為の小道具です」
千花先輩はハゲのズラを外す。
美青と千花先輩は見つめ合う。
冬だからだろうか?
部屋の温度が随分と寒く感じる。
美青は千花先輩を少しの間見た後、
「で。何をしてたんですか?」
「いや、千花先輩がドッキリを仕掛けたいって言うからじゃあどんなドッキリにするかって話してた」
「……経緯は訊きませんけど、多分恋愛系は禁止なんですよね?」
「そうだが」
「それじゃあこれなんてどうですか?ケーキバズーカ」
そうして美青はテレビでよく見る、バズーカを取り出した。
「いや待て。今、どこから取り出した?」
「えっ、この位のバズーカは簡単に取り出せるでしょ?」
「いや、鳴山何を……。えっ、お前も取り出せるの?」
「全く、鳴山くんも鬼ヶ崎ちゃんも当たり前に取り出したら会長が驚いちゃうじゃないですか?」
「いや、お前も取り出せるのかよ藤原」
そんな訳で僕たち3人は今バズーカを持っている。
勿論、種も仕掛けもある。
元々、このバズーカはこの生徒会室に僕と千花先輩が持ち込んだものだ。
部活の罰ゲーム用に持ってきたものだが、ボードゲームが汚れても困るので結局使わなかった。
しかし、それなりにサイズがあって置き場に困ってこの生徒会室の裏部屋に置いておいたのだ。
それを取ってきただけだ。
「いや、そんなものを置かれても困る、というか、前に裏部屋見た時になかったよな?」
「ああ、あの時は巧妙に隠しましたから」
「しかし、確かにこれならかぐやさんの驚きを誘えるかもしれませんが問題はこれを発射する相手ですよね。まさか、かぐやさんに直接ぶつける訳にもいきませんし」
「難しいですね」
僕と美青と千花先輩は悩みだした。
これを直接、四宮先輩にぶつけると確実にキレられるし、その後が酷いことになるのは確かだし。
それに、四宮先輩の体ってそんなに強くないから、体調崩すかもしれないんだよな。
だとしたら、誰にこれをぶつけるのが最適なんだろうな?
「なんで、バズーカを撃つことが決まってるんだ?」
「「「だって面白いから」」」
「本当に仲良いな」
白銀先輩に疑問を持たれたが、そりゃ面白いからやるのである。
ここなら、そんなに迷惑がかかることもない。
後の二人には、先にメールを送っておけば変な誤解も…
「「こんにちわ」」
と、言ってたら本人達が来た。
優と伊井野。
この度、カップルになった友人達である。
「……白兎、何やってんの?」
「いや、千花先輩が四宮先輩にドッキリ仕掛けたいらしいから、バズーカを持ってきた」
「優。ちょっと取り締まってくる」
「おう」
***
「こんにち……、あら?これはどういう状況かしら?」
四宮先輩は来た頃。
僕と美青と千花先輩と白銀先輩は全員正座させられて、伊井野からのお叱りを受けていた。
「不要物ってレベルじゃないですよね、バズーカって。何でこんなものを持ってきたの?」
「部活で使う為に…」
「例え罰ゲームでも、バズーカはありえないですよ。アレですか?常識がないんですか?」
「あ、あのミコちゃん、そろそろ足が……」
「何を言ってるんですか?まだ、10分も経ってないですよ」
「クソ、なんで俺まで…」
いやー、強くなったなホント。
普通に千花先輩にお説教してるよ。
しかも、イマイチ迫力のなかった、犬がワンワンと騒いでいるようだったのが、優の影響か、正論を冷静に叩きつけられるようになってるし。
いい傾向、いい傾向。
巻き込まれた白銀先輩は気の毒だが、まぁ、たまには怒られる側を経験するのもいい経験になる筈。
「鳴山。普段、アンタが諌める側よね?なんで一緒に悪ノリしてるの?」
「そこに至る前に、ちょっとイラッとしたのを解消したかったのとどうせならお蔵入りしそうなバズーカを使ってあげたかったから」
「馬鹿なの?」
「人間、たまには馬鹿をやりたくなるときもあるんだよ」
「アンタ、なんだかんだ言って、TG部のメンバーよね」
人間、ためすぎるのはよくない。
適度に発散させて、楽にするのも必要なことだ。
「石上くん。これは一体どういう状況なのかしら?」
「ああ、どうやら藤原先輩が四宮先輩にドッキリ仕掛けようとしたみたいで」
「ああ、なるほど。だから、藤原さんが坊主なんですね」
「は!そう言えば、被ったままでした」
そう言って、千花先輩はかつらを脱いだ。
「似合ってたんですけどね」
「白兎くん…………!
騙されないよ?」
「むしろ、これで騙される人が居るなら見てみたいですけどね」
周りの皆も白けた目で見ている。
いや、まぁ、確かにアレだったけども。
「ああ、そういえば皆さんに言おうと思っていたことがあったんです」
「なんですか?」
優が四宮先輩に聞く。
「私、冬休みから会長とお付き合いをしています」
「「「「「知ってますけど」」」」」
「「え」」
白銀先輩と四宮先輩が焦ったような、困惑した表情をしている。
対して、他の人達は真顔だ。
具体的には、何を今更なことをという感じだ。
「ハッ!鳴山くん!?」
「いえ、皆それぞれで察しましたよ?千花先輩も自力で気づいてます」
「……実は大分前からその辺のことは知ってました」
千花先輩は手を合わせて、目を明後日の方向にやりながら言う。
対して、白銀先輩と四宮先輩は『藤原(さん)にさえバレてるとは(なんて)』みたいな顔をしている。
まぁ、正直、千花先輩を舐めすぎだと思う。
これでも、秀知院生徒会の書紀であり、この中でも随一の友好関係を持つのが彼女だ。
その手のことを察せないほど、天然なキャラじゃない。
まぁ、取り敢えず今日一驚いてくれたし、良かったのかな?
「さて、仕事でもしますか」
「いや、まだ説教は終わってないんだけど」
***
と、言った具合に伊井野から一時間ぐらい説教をくらい、本日の生徒会もある程度終わらせた頃。
「皆さんの私に対する態度が最近本当に酷い」
「そんな事………、…んー…、まぁそうだな………、んー…、そうだなぁ。俺もそんな事ないぞって言ってやりたい所なんだけど、ハゲヅラ被ってくる女をどう擁護したらいいのか分からん」
「ほら善人ぶった事を言いつつ、的確に心を抉りにくる!!」
千花先輩が怒り出した。
態度が酷いかぁ。
まぁ、確かにどんどんと酷くなっている感じはあるな。
自業自得な感じではあるけど。
「もーーっ!!皆、酷いです!!人の事ハゲヅラって言ったり!恥知らずとか言いがかりばかり!」
「全部、本当の事じゃないですか」
「私、私は………、すいません。もう尊敬してません」
「もう?」
伊井野。
それ言わない方が良いやつ。
「ミコちゃんでさえ、この有様っ!!ホント、ここの皆さんだけですよ?私はこんなにコケにしてくれるのは……」
「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ」
「言っておきますけど、一番酷いのは白兎くんですからね?」
「そうですかね?」
これでも、僕は千花先輩のことをちゃんと尊敬してるんですけど。
言いませんけど。
「実際の所、藤原先輩って人気者なんですか?」
「人気者だよ。ただし、隣の芝生は青いけど」
「ああ……」
「そこ!何やってるんですか!?」
僕と美青で小声で話していたら、千花先輩に注意された。
う~ん。
中々とコソコソ話しづらいな。
「取り敢えず、今日のゲームはこれです!」
「えっ、これゲームの前振りだったの?」
「私と皆さんで『愛してるゲーム』をしましょう!」
おおっ!
これはまた、ラブコメイベントなゲームを。
やったことはないけど。
「散々、私は馬鹿にしてくれてる皆さんです。まさか照れたりなんてしないですよねぇ?」
「する訳ないでしょう」
「おーい、優」
完全に千花先輩を舐めてる。
はぁ、どうなっても知らんぞ。
「自信の方は?」
「藤原先輩相手に今更…、これまでの事考えてみてくださいよ…」
ああ、ああ、なんでそんなにフラグを建てる。
「だから私ね。石上くんんとやり合ってる時、いらいらより楽しさが先に来ちゃうんだ…。えへへ、石上くん好きだよ」
カァァァァ
「はいどーん!クソザコ極まれリ~!!」
「へいへいどうしたんですか~~?顔真っ赤ですよ~~?ウブちゃんでちゅか~??」
あ~あ。
言わんこっちゃない。
「優?」
ほーら、ラスボスがきた。
「ミ、ミコ!?い、いや違うからな!?」
「……じゃあ、次は私とやろうか」
伊井野が絶対零度の目付きで優を見て、そう宣言する。
二人は向かい合う。
優はちょっと怯えている様子だ。
「じゃあ、ミ、ミコ、愛してる」
なんか、怯えが混じりながらも僅かな照れとともに言う優。
それに対して伊井野は目を見開くと、とても柔らかい笑顔で、
「私は優以上に愛してるよ」
ブワッ!!
優がさっきの千花先輩の時の比じゃない位に真っ赤になって、照れている。
伊井野はすこぶるいい笑顔で、
「全く、仕方ないわね。もっと、練習しよ?」
と、言ってる。
ご機嫌だな~。
完全に優に『愛してる』って言って貰えるのを楽しんでるな。
まぁ、それはともかく。
「さて、それじゃあ、本丸の白兎くん!」
「僕は優ほど甘くないですよ?」
さて。
凪モード、オン。
そして、僕はソファに座る。
「白兎くんって、なんだかんだで優しいですよね」
「そうですか?」
「そうですよ。色々と私のことを止めたりしますけど、それは皆や私の為なんですよね」
「いやいや、やらないと気が済まないからそうしてるだけですよ」
「……また、そんな事言って…。でも、そういう所がす、……す、好きです」
「声が小さい、もう一回」
「好きです」
「声が小さい、もう一回!」
「好きです」
「声が小さい、もう一回!!」
「好きです」
「声が小さい、もう一回!!」
「もう!大好きです!!」
「ふっ」
僕は薄く笑うと、若干息の荒れている千花先輩に近づき、耳元で
「そうやって、言ってくれる千花先輩が好きですよ」
と言った。
ボンッ!!
何かが爆裂したような音がすると、千花先輩は丸くうずくまった。
「……エゲツないな」
白銀先輩が若干引いたようにそう言う。
ええー。
そんなにエゲツない?
「白兎先輩。次は私とやりましょう!」
「いいぞ」
今度は美青か。
うし、頑張るぞ。
「さっ、どこからでも来い!」
美青は顔を思い切り近づけると、
「だーい好き!」
と、照れの混じった笑顔で言う。
ので、僕は笑って、
「僕も好きだよ」
と返す。
「あっ、そ、あの、私の負け、です」
と、顔を思い切り離し、目線を反らしながら言われた。
「……なぁ、白兎。お前本当に男?」
「失礼な。純然たる男だぞ」
優がなんか失礼なことを言うので、そう返す。
全く。
いちいち照れる純情な時代は、中学の頃に卒業したわ。
と、そろそろ照れから復帰した千花先輩が、
「グヌヌ、このままでは終われません!会長!」
「えっ、俺もやんないとなの?」
白銀先輩が焦ったように言う。
「会長も、対象ですからね!絶対に照れさせてやりますから!」
そうして、二人は向き合う。
「会長……、愛してるっ」
千花先輩の可愛らしい笑顔が炸裂した。
が、しかし、
「ほら見て下さい、会長も…、ってなんで泣いてるんですか!?」
白銀先輩は辛いことを思い出したかのようにというか本当に思い出して泣いていた。
いや、何を思い出してるかは知らないけど。
「さすが会長ですね。殿方はかくあるべきですよ石上くん」
と、ここで四宮先輩が出てくると、
「会長だぁいすき」
と、ああ、こりゃ効くだろうなって笑顔を白銀先輩に向ける。
案の定、白銀先輩はものの見事に照れたのであった。
***
後日談、というか今回のオチ。
「さて、そろそろ帰るか」
「そうですね」
仕事も片付き、日も大分暮れてきたので帰ることになった。
「ああ、僕はちょっと整理に時間がかかるんで先に帰ってて下さい」
「分かった」
白銀先輩はそう返事をすると四宮先輩と一緒に帰っていく。
「さて、優。もっと練習しようね」
「……なぁ、ミコ。もしかして怒ってる?」
「えっ、何のこと?ただ、私は他の女の人に照れたのが気になるだけよ」
「うっ!!」
そうして、二人は帰っていった。
この後、あの二人がどうなったかは知らない。
ただ次の日、優は終始真っ赤だったし、伊井野はすこぶる機嫌が良かったことは伝えておく。
後の二人も出たのを確認すると、僕は凪モードを解除した。
ボフュッン!
「ああ、恥ずっ!」
僕は男子高校生である。
いくら中学時代にアレコレがあったとはいえ、好きだと言われて、真顔を突き通せる程の成熟はしていない。
そういう時に使うのが凪モード、またの名を無関心モード。
元は落ち込みすぎないように誤魔化すために身に着けた
分かりやすく言うなら、四宮先輩のルーティンの状態を常に維持している状態だ。
ただ、これにも弱点はある。
それはこれを外すと一気に感情が流れ込む。
お陰様で今、僕は完熟トマトのように顔が真っ赤だ。
これも冬休み前ならこうはならなかっただろう。
『もう!大好きです!!』
『だーい好き!』
……ああ、恥ずかしい。
こんな顔、見せられない。
白兎くんはどうしてこうなったんだろう?