鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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原作の最新話のお陰で白兎くんが結構凄いことしてることになる今日この頃。


はくとヴァンプ

吸血鬼。

皆もよく知っている西洋の怪異だ。

専門家界隈で有名な吸血鬼と言えば、冗談抜きに世界を滅ぼせると言われるキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードやその産みの親とされるデストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターなどが有名だが、その他にも多くの吸血鬼が存在している。

まぁ、吸血鬼ハンターという職業が成立する位には個体数も相応に多い。

その位ポピュラーで分かりやすい存在ではあるが、それ故に怪異としての格も他の追随を許さない。

怪異は基本的に古ければ古い程、そして語られれば語られる程、格が高くなる。

今日において、吸血鬼を見ない日はない。

RPGや乙女ゲー、漫画などでもよく登場している。

だから、願えば意外と簡単に会えるかもしれない存在なのだ。

怪異は求められるから、願われているから、存在している。

僕にとっての兎のように。

撫子にとっての蛇のように。

誰かが願えば、吸血鬼も現れるのかもしれない。

この場所に。

 

***

 

「うぉぉぉぉ……、マジか……」

「やりました!」

「おお、これは!」

「凄いね!」

 

ここはTG部の部室。

ここで僕は絶望していた。

何が絶望って……。

 

「こっちがストレートフラッシュなのに…」

「残念でしたね!ロイヤルストレートフラッシュです!」

 

そう、今日の部活の内容はポーカー。

その中で不治ワラとの対戦だったのだが。

イカサマは一切なかった。

対等な条件元、ストレートフラッシュを引き、勝ちを確信した。

なのに、負けた。

なんということだ。

ありえない。

イカサマなしでロイヤルストレートフラッシュなんてありえない。

アニメじゃないんだから、そんなに上手くいく訳がないんだろ…!

 

「というわ・け・で!くすぐりの刑です!

「ひぃ!」

 

他の部活メンバーが指を動かしながら近づいてくる。

こ、怖い。

クソ、本来は僕がくすぐるはずだったのに!

やめろ。

止めろ!

止めろ!

 

「オレのそばに近寄るなああーッ!」

 

ぎゃああああああああああぁぁぁぁ!

それが僕の最後の言葉になった。

 

***

 

「……恥ずかし……」

「いやー、お前は普段は余裕保ってると強いけど、余裕失くすと結構ポンコツで可愛いよな」

「いうなー……」

「「「可愛い」」」

 

結局その後散々とくすぐられて恥ずかしめられた。

随分と声を出させられた。

しかも、女子に。

もう顔真っ赤である。

手で覆い隠しているが、全然隠せてない。

駄目だ。

もうこの3人は僕への攻略法が分かっている。

どうにかして、こいつらに対する対抗方法を考えないと。

 

「無理だと思うけどな。お前は弱点さえつけば、意外と簡単に落ちるし」

「アレだよね。強キャラ風に見せかけた弱キャラだよね鳴滝」

「確かに攻略法が分かると大したことないですよね」

「それを本人の前で言うか、普通。僕じゃなかったら怒るぞ多分」

 

マッキー先ハイはしっれと地の文読むし。

いや、なんか出来そうな雰囲気はあったからそこまで意外でもないんだけど。

こいつこそ、正しく強キャラだしな。

 

「まぁそれは良いとして、ハッピーライフゲームの制作はどのくらい進んでる?」

「あっ、話反らしたね。どの位って言うなら、取り敢えず10セットぐらいは作り終えたけど」

「そっか。こっちは作り終えたからな」

「えっ?5セットもう作り終えたんですか?」

 

僕は頷く。

 

「相変わらず、変な所で器用だね」

「変な所って……」

「そう言えば、リモートしてる時点で半分近く終わってましたね」

「別に(ウチ)に来てよかったんだけど」

「いやいや、女子3人のパジャマ姿に囲まれてるって構図が色々な誤解を生みそうで怖かったんだよ。ていうか、僕が居たら紀先輩の誤解がより悪化したでしょ」

 

それは冬休み頃の話。

とある場所でハッピーライフゲームを売るために制作を行っていた。

ただ、学校で作業を行うだけでは間に合わなそうなので泊まり込みで作業することになった。

で、そうすることで発生する問題が一つ。

僕はどこで作業する問題だ。

泊まる場所は、マッキー先ハイの家なのは早々に決まった。

だが、その中に男が混じるのはヤバいのである。

まず、マッキー先ハイの親をどう説得すんのから始まり、寝る場所だったり、なんだったり、色々とあるのだ。

いや、一番の理由はさっきから僕への罰ゲームで買ったからあげ食いまくってるどっかの書記さんとそんな泊まるというシチュエーション(じょうきょう)に持ち込みたくないのが理由なのだが。

あのタイミングでそんなイベントしたら絶対に変な感じになる。

そして、あの二人に余計なことを勘付かれる。

それは避けなければならない。

構図の把握を保つようにしないと駄目。

そうしないと飲まれる。

僕の優位性は基本的に情報量だ。

多くの情報を掴んでおくことで、あの天才共と張り合ってきたのだ。

それがなくなると呆気なく雑魚になってしまう。

それは駄目。

絶対に駄目!

とはいえ、製品で誤差以上の違いがでてもまずい。

なので、リモートという形で作業していた。

これなら、実際に会うことはない。

目の前にいなければ、大丈夫。

ボロは出さない。

まぁ、

 

『しかし、ハナの女子高生が3人そろってゲーム作りか。彼氏とか作らないの?特に、不治ワラ』

『えっ!?いやいや、何のことですか!?』

『まぁまぁ、良いじゃない。私も聞きたいなー』

『ちょ、メガ子もまで!』

『まぁ、そういう青春も良いんじゃないですかね?結局、楽しく毎日を過ごせればそれで良いんですよ。そして、そういう話題は寝る間際にやって欲しいな』

『『見てるからやってるんだよ』』

 

とか、紀先輩が会話を勘違いして警察に通報したりとか色々とあった。

勘違い案件は僕が居ると絶対ヤバくなるから、居なくて良かったと心底思った。

ということがあった。

以上、話は終わり。

 

「あれはカプ厨が悪い」

「いや、確かにその通りだけど」

「本当に驚きましたよー」

 

プルルルル

 

スマホが鳴った。

 

「ちょっと失礼」

 

僕は一言断ってからスマホを見た。

そこにはLINEである一文が書かれていた。

 

「……じゃあ、そろそろ別れるな」

「そうだな」

「それじゃあな」

「うん。さようなら~」

 

僕は手を振って三人と分かれる。

 

「……鳴山。やっぱ、なんか抱えてるよな」

「……うん。心配だよね」

「白兎くんは分かってないんですよ。自分が抱え込む程に周りが心配するってことを」

 

そんな三人の言葉に気付かない振りをして。

 

***

 

「で、来た訳だけど」

 

LINEを送ってきたのは撫子だ。

そこに書かれていた内容はこれだ。

 

『吸血鬼が現れた。すぐに、この場所に来て』

 

この文と共に地図が送られてきたので実際にその場に赴いた。

本当は、ビルからビルを飛び回れれば楽だが人目が多すぎた。

流石に人の数が違う。

なので連絡が来てから30分ぐらいかかってしまった。

 

「それでも、秀知院学園からここじゃあ1時間位かかる筈だけどね」

「それは良い。それよりも僕が聞きたいのはこれだ」

 

僕は指を指す。

その死体なのか、それとも吸血鬼の()()なのか、判断がつかないものを。

 

「まだ生きてはいるよ。いや、死んで今生き返ろうとしているから存在しているって言った方が正しいかな」

「まぁ、ここまでグチャグチャになってたら、回復するのにもかなり時間を要するだろうな」

 

吸血鬼は不死身の怪異である。

不死身の怪異にもいくつか種類があるが、吸血鬼は生きているタイプの不死身であり再生能力を持つタイプだ。

流石に上位の怪異というだけあって、再生能力は他のそれらタイプの怪異よりも高い。

が、流石にこのミキサーで切られまくった後みたいな状態からすぐに回復するのは、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードぐらいだろう。

まぁ、それにこの吸血鬼の修復の速度を見ても、こいつ自身は吸血鬼の中でも下位に位置することは想像出来るが。

 

「これはお前がやった、はないか」

「そりゃ、私がこんなことを出来るわけないよ。私はただの漫画家だよ」

「それもそうだ」

 

まぁ、不可能ではないことを僕はよく知っているが。

これでもビジネスパートナーだ。

こいつの能力はよく知っている。

やるときはやるやつだってことも。

じゃなければ、蛇をそう何匹も殺して磔にしたりしない。

 

「人の黒歴史を掘り出さないでくれる?」

「悪い。でも、そうなると困ったことがあるな」

「うん。吸血鬼を相手にここまで出来る存在がこの東京に居ることになる」

 

現在、東京に居る専門家は僕と撫子だけだ。

まぁ、具体的な原因はあの金髪の少女なのだが。

それに関するあれやこれやは今は置いておくとして。

現在、僕と撫子は二人で東京の範囲を網羅して専門家活動をしている。

当然のことだが、労力がクソヤバい。

何がきついってどっちも本職持ちな所なのがキツイ。

専門家界隈は基本的に兼業している人が多い。

まぁ、成功報酬が必ずしもあるような環境ではないし、ぶっちゃけ社会的な立ち位置は無職みたいなものだ。

本職として成り立つのは、それこそ高名な陰陽師だとか神主だとかの信仰とかの形で金を貰える人物だけだ。

なので、まぁ、時間が空いた人が見回りに行くみたいな流れになるし、危険な案件は臥煙さんの方から振られるので、10月頃まではその辺で困ったことはなかった。

それが今やこれである。

毎日毎日戦々恐々としながらあくせくと働いている。

まぁ、意外と秀知院学園以外では怪異の発生はむしろ収まっているので良いのだが。

まぁ、それも長くは続かないということだ。

話を戻そう。

つまり、何が言いたいかと言うと、吸血鬼よりもヤバめのものがこの東京にいるということなのだ。

専門家はこんな雑に殺したりはしないし、今いる専門家は僕たち二人だけ。

その中でこれが起きている。

つまりはそういうことなのだろう。

 

「いや、多分犯人は吸血鬼だと思うよ」

「なんでだ?」

「これ」

 

そうして、撫子が吸血鬼の肉片から恐らくは頭に当たるであろう部分を持ち出して髪をかき分ける。

そこにあったのは、真新しい噛まれた跡。

これが指し示すものはつまり同族による吸血だ。

一般に吸血鬼の発生プロセスは生まれついてのものと吸血されたものがある。

吸血されて生まれた吸血鬼には当然噛まれた跡は残る。

が、どう考えてもこの跡は新しく付けられたものだ。

血が出ている。

並の吸血鬼でもただ噛まれた位ならすぐに治る。

そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……だとすると、犯人になる吸血鬼は生まれたての可能性が高いな。特に吸血された奴である可能性が」

「一応確認。どうして?」

「ただの捕食目的なら骨ごと腹に収めるだろ。こんなに肉片を残したりはしない」

「お腹が空いていなかったとかの場合は?」

「だとしても、こうして放置はしないだろう。同じ吸血鬼がギリギリの生存が出来るレベルで生き残らせるなら、何の目的にせよここに放置はしない。だとしたら、出会ったのはそういうローカルなルールを知らない奴だと考えるだろ」

「先天のものでない理由は……聞くまでもないか」

「ああ。先天的なやつは本能レベルでどれくらい食べなければならないかを知っているからな。それを知らないのだとしたら、後天的って考えるのが妥当だ」

 

検分出来るのはここまでだ。

本来的に僕も撫子も吸血鬼は領分の外。

領分の範囲としては、あの少女人形の方が守備範囲だろう。

まぁ、あいつとも連絡はつかないんだけど。

僕は周りの匂いを嗅ぐ。

 

「どう?追えそう?」

「いや、無理だな。この吸血鬼の血の匂いで周囲が満たされてる」

「そっか。取り敢えず、この吸血鬼はどうする?」

「まず、こいつ自体が大丈夫なのか襲ったやつはどんなやつなのかを知りたいからな。生かして話を聞きたい所だけど、もし、ギルティの場合は放っておく訳にもいかない。監視の目もいるだろうからな。だから、まぁ、封印が一番まともな手って感じだな」

「その為にはこの肉片を集めないとだね。人払いもそろそろ限界だろうし」

「はぁー。素手で触らないといけないのが辛いな」

 

***

 

その後、どうにかして肉片を集めて、その辺のディスカウントショップで保冷バッグを買い、その中に肉片を詰めた。

気分は砂場の砂集めだと言いたいが、絵面はどう考えても猟奇殺人をした後にその証拠を隠そうとする犯人達だ。

例えるなら、そう、竜宮レナだ。

あれの死体埋めに近い。

いや、もう、凄い精神にクル。

この死体自体が見る人が見たら、例えば白銀先輩辺りが見たら発狂しそうな状態なのにそこから輪をかけてこの様だ。

もう誰かに見られたら一発でOUTな状況なのが特に恐怖心を煽る。

そんないらないドキドキを経験した後、取り敢えず、撫子の部屋で封印することになった。

撫子の方が日常的に家にいる分監視がしやすいことが主な理由だ。

そして、翌日。

取り敢えず、僕は学校に向かった。

昼間であるということと周りに余計な心配をさせない為だ。

病気ということにしてもいいが、そうしたら千花先輩辺りは確実にお見舞いにくる。

そこを上手く誤魔化せる自信はない。

……昨日の発言といい、色々とバレてそうだしな。

まぁ、しかし、授業はちゃんと受けた。

そこでブレたりはしない。

今までも、グロいもの見た次の日に授業とかも受けてたしな。

職業柄、そういうものも見慣れる。

見慣れたくもないが。

高校生探偵でもあるまいし。

閑話休題。

そんな感じで午前中の授業を終えて、昼休み。

昼食を中庭の方で食べていた。

この日は周りに人が来ない。

晴れで心地いいのに、人が来ない。

この流れだと流石に察する。

 

「で?ただでさえクソ忙しいこのタイミングでお前も何か起こす訳?」

「いえ。むしろ、今回は助けにきました」

 

校舎の影になる所にその少女はいた。

金髪の少女(仮)。

(仮)なのは、この少女の怪異の名前を未だに知らないのが理由だ。

名は体を表す。

特に怪異は存在そのものを指し示す場合も多い。

その名を知らないことは相当に厄介だ。

まぁ、それは今は良いとして。

助ける?

 

「何を言ってるんだ?僕に嫌がらせをするんじゃないのか?」

「そうですよ。ですが、それはあなたに対してであって他の人に対してするつもりはないんですよ」

「……早坂先輩とか、色んな人に迷惑かけ倒しておいて何を言ってるんだよ」

「……それをただの迷惑だと本当に思っているようにも見えませんが?」

「……知らないよ」

「そうですか。まぁ、私は基本的に呪う存在ですからね。しかし、呪いが必ずしも不幸を呼び込むとは限らないんですよ」

「悪意的な呪いしかかけてないだろ」

 

これらの言葉に意味はない。

ただの敵同士の戯れ。

本当か嘘かさえ分からない言葉を深く考える必要はない。

 

「それで?お前は何をしてくれるんだ?」

「あなた達の探している吸血鬼の正体を」

「はっ?知ってんの?」

 

いきなり、とんでもない情報が明かされた。

いやいやいや。

 

「ええ。この学園の中での出来事ならなんでも」

「……ということは、その吸血鬼はこの学園の生徒なのか?」

「中等部の灰被未見(はいかぶみけん)という生徒です」

「……被害は?」

「既に……」

「……そうか。随分と教えてくれるな」

「私は敵ですけど、味方ですからね」

「……どうだか。じゃあな」

 

そう言って僕は中庭を離れた。

 

***

 

離れた後、僕は電話をかける。

 

プルルルプルルル

 

『先輩?どうかしたんですか?』

「ちょっと、聞きたいことがあってな」

 

電話をかけた先は美青だ。

僕は高等部から入った混院だ。

なので、高等部のことなら兎も角、中等部の方には詳しくない。

だから、現役中等部の美青に聞こうと考えた。

まぁ、あいつもあいつで色々と校内のトラブルを抱えてたから有益な情報が手に入るか怪しいラインなんだけど。

 

「灰被未見って奴、知ってる?」

『……今日、休みみたいなんですけど、仕事関連ですか?』

「……説明が省略出来て嬉しいよ」

 

本当はそんなに嬉しいとは言えないけどな。

こいつは怪異を知っているとはいえ、一般人。

あんまり、巻き込みたくないんだが……。

まぁ、言っても仕方ないか。

 

「それで、そいつに関する情報が欲しいんだけど、何かある?」

『そうですね。男子生徒だとか中等部2年だとかの情報ではないですよね?』

「いや、その辺も知らなかったけど…」

『じゃあ、なんで名前は知ってるんですか?』

「……黙秘」

『分かりました』

 

結構、鋭いんだよな。

まぁ、比較的分かりやすい行動しちゃったのが原因だから、自己責任だけど。

 

「まぁ、一番聞きたいのは人間関係のことなんだけど」

『人間関係……、もしかして、他の人が学校休んでるのも関係してます?』

「……知らないけど、無関係とも思えない響きだな…」

 

話が早すぎる。

それに越したことはないんだろうけど。

 

***

 

『灰被未見』

『3年の中でも結構地味めな人ですね』

『なんというか、いつも一人でいるタイプの、典型的なぼっちタイプで友人らしい人を見た覚えがないです』

『私見で言うなら、受け身すぎて自分で人と触れ合うのが苦手な癖に、それを他人の所為にするタイプ。人間関係はお互いで関わろうとしなければ成立しないんですけどね』

『彼自体の情報はこの辺りまでしか知りません』

『今日、学校休んでいる人達は、そうですね……』

『怪しい影のある陽キャ。って所でしょうかね』

『いや、ちゃんとした陽キャではあるんです。クラスや学年の中心で皆を纏め上げて、皆に好かれている』

『でも、どこか怪しいんですよね。漠然としてるんですけど、何かを隠してるというか、悪意があるというか』

『クラスの人はそうは思わないみたいですけどね』

『まぁ、流石に一人でどうこうするのは危険であるのは今までのことでよく知っているので探ったりはしてないですけど』

『……いや、本当ですよ?』

『私から言えるのはこの辺りですかね』

 

***

 

「なるほどね~」

 

もうこの段階で大体の道筋は見えた気がする。

なんというか、優の1件を思い出す構図だけど。

でも、事はあの時の比じゃない問題になっている。

……明言することは避けないとだな。

人の生き死にはそんな軽い問題じゃない。

僕の問題がそうであるように。

 

「ありがとうな。後はこっちだけで大丈夫だから」

『無理はしないで下さいよ?』

「そんなしょっちゅう無理するような事態にはしないよ。じゃあな」

 

そうして、通話を切る。

まぁ、この程度のことを無理と言ってたらこの仕事はやってられないしな。

特に僕の専門分野には()()()だし。

 

「……さて。まずは、その陽キャ共の裏側を調べますか」

 

***

 

その日は、用事があると生徒会メンバーに伝えて、僕は中等部に向かって調べ物をした。

さっきも言ったが、僕の優位性は情報量。

それは何も耳に頼った方法だけではない。

学校の裏サイトや表情、履歴。

人間の行動の一つ一つが確かな情報として参考に出来る。

まぁ、優だったらネットの情報の精査なら上だろうし。

そもそもで四宮家なら僕の半分ぐらいの時間で僕以上に調べられるだろうからな。

まぁ、でも。

今回はぬるいというか、この短時間に簡単に正解に辿り着けてしまう位に情報制限(セーフティ)が甘い。

夜付近までで調査が終わってしまった。

少しは早坂先輩を見習って欲しい位だ。

その癖、やっていることは碌でもない。

人の弱みを握って、無理矢理にとか。

気の弱い人に犯罪をやらせたりとか。

……くだらない。

何の意味もなく、ただ人を貶める。

 

「はぁ……」

 

思わず、壁をぶち抜く勢いで拳を叩き込みそうなのを息を吐いて防ぐ。

正直、相当に頭にキテる。

しかし、今はそのことを置かなければならない。

冷静になって、考えなければならない。

 

プルルルプルルル

 

電話が鳴る。

どうやら、撫子からのようだ。

いいタイミングだ。

 

「はい!もしもし!」

『……随分と怒ってるみたいだね』

「あれで怒らないなら、僕はあいつらの友人になってない」

『……何を掴んだの?』

「加害者と被害者の構図」

 

どっちが加害者でどっちが被害者かは分からないけど。

簡単に逆転する構図だしな。

僕がそうであるように。

 

「で、そっちは吸血鬼さんがお目覚めしたのか?」

『うん』

「事情は聞けた?」

『無理。英語が喋れないから』

「……今後の生活の為にも英語について知っておくのに越したことはないからな。専門家的にも漫画家的にも」

 

まぁ、そういう僕も英文法はやれても英会話はそこまでじゃないんだけど。

う~ん。

秀知院関連の仕事が終わったら、千花先輩にでもスラング込みで学ぼうかね。

色々と気もつかいそうだけど。

 

「それじゃあ、その吸血鬼に電話変わって」

『分かった。……教養って大切なのかな?』

 

そうして、電話が変わったようだ。

 

『My name is Witch Pumpkin.A vampire that is alive for 200 years』

「I'd like to ask you some questions, can you answer?」

『thumbs up. It's the last whim. You can ask me anything』

「...... Are you a suicide candidate?」

『That's it』

 

ここまでの会話で、この吸血鬼の名前がウィッチパンプキンであること。

200年生きた吸血鬼であり、自殺志願の吸血鬼であることが分かった。

まぁ、珍しいことではない。

吸血鬼の死因の9割。

時期的にも、丁度生きるのに飽きる頃なのだろう。

 

「So why did you come to Tokyo, Japan? I don't think it's a good place to commit suicide」

『I can't say that because I knew you were like this, but it's now known as a place where no professionals exist at all』

「So that's it. You want to die by suicide, not that you want to be killed」

『I just want to die quietly』

 

静かに死にたい、か。

分からない訳じゃないけれど。

むしろ、よく分かるけれど。

だが、それだとおかしい。

 

「So why did you look like that?」

『It's a dumb story, though. I made a man vampire who wants to be a vampire. I was killed, probably because of the man's suppression. Well, he didn't seem to know on which line the vampire would die. Unlike you guys』

「Why did you make that guy a vampire?」

『Because he desperately sought. If that doesn't make sense, leave it to my whims』

 

気まぐれ、か。

死のうと思った時に何を思うのかなんて、人それぞれだ。

まして、人と吸血鬼。

なりたてならともかく、200年も生きたのならそれは人外の感性にもなるだろう。

だから、吸血鬼にすることにどれほどの意味があるかなんて問うた所できっとその答えは全くの別物だろう。

だが、今争うべき論点はそこにはない。

 

「Will you be killed this time?」

『Not really. For you guys, murder may be the best solution, but I don't want to show my death to others』

「……Right. Changed」

 

これで選択肢が一つ減った。

そして、撫子に変わった。

 

『なんだって?』

「ただただ自殺がしたいだけの、はた迷惑な吸血鬼だったよ」

『……細かな話は後で聞く。今の方針を訊きたいな』

「変わらないよ。ただ灰被未見を見つけて、止める。……どんな手を使ってでもね」

 

***

 

俺は許せない。

あいつらが、許せない。

何度殺しても殺しても殺し足りないくらい。

上から目線で、俺達は正しいだよみたいな顔をして。

人を傷つける。

それがどれだけ腹の立つことか。

だから、俺はこの力を手に入れたんだ。

 

「次はお前だ」

 

俺は降り立つ。

空の上から。

奴の前に。

奴は心底驚いたような顔をして、

 

「な、なんだよ!?い、一体どこから現れたんだよ!?」

「地獄からお前を殺すために」

 

俺は一歩一歩、足音を鳴らしながら近づいていく。

一歩近づく度に、ビビリって後ろにのけ反っていく。

その様子に愉悦を覚える。

人を散々といたぶってきた連中がこうしていたぶられる側に回る。

まさしく、因果応報というものだ。

 

「さぁ、お前もやつらと同じ地獄(ところ)に連れて行ってやる」

「や、やめろ。止めろーー!」

 

奴は絶叫を聞いて、思わず笑みを浮かべて。

俺はヤツの血を吸おうと飛びかかり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹き飛ばされた。

 

「……は?」

「……そこまでだよ。灰被未見」

 

***

 

狙われる恐れのある奴らの周りを巡回しながらだったから、大分時間がかかってしまった。

ちょっと、遅かったら危ない所だった。

僕は僕の登場で更にビビった様子のクソ…、被害者の男を軽く叩いて気絶させた。

後で家の近くに転がせて置くとしよう。

それより今は、

 

「お前は誰だ?」

「……単なる専門家だよ」

 

軽い調子で言う。

そうでもしなければ、感情的になりそうだから。

 

「……ああ。そう言えば、見た覚えがある。2学期の始め辺りに中等部に出入りしてた高等部の人か」

「へぇー、意外とそういうの見てるんだ」

「鬼ヶ崎、あいつの面倒みてたらしいじゃないか」

 

随分と見ているようだな。

他人に興味がない訳じゃないのか。

 

「なんであいつなんだ?他にも困ってるやつなんていくらでも居たのに」

「………」

「なんであいつらは笑ってるんだ?悪いことをしてるのはあいつらの方なのに」

「………」

「どうして、俺は虐げられなければならないんだ?俺は悪いことしてないのに」

「それは違うな」

 

僕はここで反論する。

しなければ、ならない。

 

「お前は人を殺したんだ。それは悪いことだよ」

「なんで!?悪人はあいつらだろ!?」

「悪人だからって、殺していいわけじゃない」

「ふざけるな!?あいつらがしてきたことをお前は知らないからそんなこと…」

「知ってるよ」

「だったら!!」

「でも、それ以上に()()というのがどういうことなのかを知ってるんだよ」

 

殺すということは終わりにしてしまうこと。

まだ先があったものを。

変われるかもしれないものを。

終わらせてしまうことだ。

それがどれだけ罪にまみれているか。

僕はそれを、身を以て知っている。

 

「人の未来を奪うことの意味を軽く考えるな」

「あんな奴らの未来に価値なんてねぇよ!!」

「あるよ。お前の未来に価値があるように」

 

僕はそう言わなきゃいけない。

人殺しは大きな罪だ。

決して消えたりはしない。

いつまでだって、残り続けて色んな人を傷つける。

でも、本当に吸血鬼になったらそれが罪でなくなってしまう。

ただの事象になってしまう。

そしたら、僕はそれを止めなくてはいけなくなる。

僕はそうしたくない。

まだ、()だと思っているから。

吸血鬼として、扱いたくないから。

そこには大きな線引きがある。

その一線を超えてしまったら。

もう戻れない。

 

「もう止めろ。そいつらを殺して、どれだけ愉悦を感じても、後に残るのは虚しさだけだ。後悔と不幸しか残らない」

「知ったような口を叩くな!」

「知ってるよ!だって、だって僕がそうだったから」

 

そうだ。

僕がそうだった。

復讐なんてした所で、いくら呪いをふりまいったって、何もない。

何もないんだ。

 

「これが僕に出来る最終通告だ。もう、止まれ。まだ、人に戻れるうちに。化け物にならないうちに」

「駄目だ!邪魔するなら、お前も殺す」

「……止まっては、くれないんだな」

「しつこい!」

 

そして、灰被は僕に襲いかかった。

……決着は一瞬だった。

 

***

 

時間は次の日の日の出前。

辺りには肉片が散らばっていた。

僕は日の出る方向を眺めていた。

後ろから、撫子とウィッチパンプキンが来たのは分かったが、反応する気にもならなかった。

 

「Did you kill it?」

「……Yes」

「Then I let myself die」

「……Do it yourself」

 

そうして、その吸血鬼は離れていった。

一応、聴覚で場所は把握しておく。

まぁ、多分大丈夫だろうけど。

 

「お疲れ様」

「……労われるようなことはしてないぞ」

「そういう意味じゃないよ」

 

全く。

 

「どうして、こういう結末にしか出来なかったのかな?」

「まだ、ベターエンドじゃないかな?」

「どう考えたって、ベターでもなければビターでもない。ベストには遥かに程遠い、バットエンドだよ」

 

彼の訴えが分からない訳ではない。

僕だって、似たようなことをしている。

してきた。

だから、気持ちは分かる。

……なんて、そんな風に言える程彼のことを知っている訳じゃない。

正気には程遠い彼を見ただけで、彼のことを知ったような口を叩くのは間違いだろうし。

 

「でも、ワーストエンドじゃない」

「それでも、下から2、3番目位の結末だ。全く誇れない」

「……気にしないで。なんて言っても気にしちゃうんだろうけど。いつまでも、こだわり続けないのもプロだと思うよ」

「はぁーー。簡単に言ってくれるな」

 

朝日は昇った。

そして、そこには何もなくなった。

 

***

 

後日談。というか、今回のオチ。

僕は校長に今回の一連の真相を話した。

もし、何かしらの人的な被害が起こった場合の説明責任。

それも、僕の仕事のひとつだ。

 

「ソウですか。ソウナッて、しまいまシタか」

「……すいません」

「イイエ。あなたは出来うるカギリのことをシマシタ。……慰めにもナラないでしょうが、ありがとうゴザイマス」

「……そんなこと、ないですよ」

 

僕はそう言って、校長室を去った。

そして、生徒会室に向かう。

生徒会室に入ると、他のメンバーが既に来ていた。

 

「すいません。ちょっと、呼び出されちゃって」

「あの校長にだろ。何か、変なことを頼まれてないか?」

「心配しなくても、しょうもないことなので問題ないですよ」

「………」

 

僕はいつもの声と表情で受け答えする。

優は、

 

「あの校長はなぁ……。いい人ではあるんだけど自由なんだよな」

「ホントよね。正直、取締るべきかどうかちょっと悩んだときあった」

「そんな言うほどじゃないよ。根っこはなんだかんだ真面目だし」

 

一応、フォローは入れておく。

あの人の緩さは、素の部分も大きいがそれ以上に相手を油断させる意図がある。

 

「まぁ、あの人に付き合うのはほどほどにしておいた方が良いですよ」

「そうですね。そうしておきます」

「………」

 

四宮先輩の意見に一応頷いておく。

この人にも伝えないようにしないとな。

美青と同じく、怪異を知っているだけの一般人なんだから。

こんな結末を知るべきじゃない。

そして、その日の終わり。

僕が帰るとき。

 

「「白兎先輩(君)」」

 

美青と千花先輩が正面玄関の所で待っていた。

 

「どうしたんですか?」

「一緒に帰ろうって思っただけですよ」

 

千花先輩が答える。

 

「この3人で?ええーー。変な誤解されそうなんですけど…」

「「………」」

 

二人は何も言わない。

ただ、無言のまま僕を見ている。

僕は息を少し吐き、

 

「分かりましたよ。一緒に帰りますよ」

 

そして、僕を挟んで一緒に帰る。

二人が手を不自然に揺らす。

その意図は分かるけれど。

でも、僕はその手を握れない。

そんな資格は僕にはない。

 




シリアスモードにも程があるな…。

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