伊井野ミコは生徒会会計監査だ。
この俺、白銀御行が伊井野を生徒会に招いた。
招いたはいいのだが。
別に仲が悪い訳ではないのだが、伊井野とは微妙に話題がない。
なんだかんだ、付き合い自体は1学期の頃からではあるのだが。
しかし、伊井野と関係性を築けていない。
自分で生徒会に誘っておいてなんだけど、正直この子苦手なんだよな…。
いや、苦手って話だと鳴山とかも割と苦手なんだけど。
1学期頃とかの石上に対する態度とか酷かったし。
下手を打ったら俺も嫌われそうで怖いというか。
どうしても慎重に接してしまう。
いや、今の伊井野の石上に対する態度を考えると考えすぎなのかもしれないが。
ていうか、1学期の頃から別人みたいなんだよな…。
この生徒会をまとめる会長として。
そして先輩として。
率先して円滑な人間関係を築く責任がある。
気合を入れていかないと!
***
「あっ会長」
「おう伊井野か」
3学期が始まって数日。
今日は生徒会の方では殆ど仕事がなく、くつろいでいた。
そこに丁度伊井野が来た。
「石上は?」
「優は野暮用みたいで…。遅れるって言ってました」
「そうなのか」
優、か。
ごく自然に名前呼びしてるな。
2学期頃から随分と仲良くなったとは思ったが…。
どうやら、順調のようだな。
後輩の恋の成就は素直に祝福すべきだろう。
「………」
「………」
「………」
「………」
……気まずい。
……どうする?
自分の席に戻るか?
だけどなぁ~~。
伊井野は俺の目の前に座った。
ここで離れたらなんかヤな感じするよなぁ~~。
伊井野を傷つけるかもしれんし。
「………」
しかし、伊井野は手持ち無沙汰みたいだしな。
日頃、雑談とかしないからな。
どうする?
こういう時は藤原とかが来ると話が転がるんだが。
ああ~、早く来ねえかな藤原。
「こんにちわ~」
「あっ、鳴山」
鳴山の方が来たか~~。
まぁ、良い。
鳴山は伊井野とも仲が良いし、何かしらの会話を回してくれるだろ。
「珍しい組み合わせだな。白銀先輩と伊井野か」
「言われてみれば確かに」
そうだそうだいいぞ。
そのまんま、何かしらの話に繋いでくれ。
「じゃあ惚気でも聞かせて?」
いや、そうじゃねぇよ!
***
という訳で、その後色々あった末に雑談することになった。
ホントに鳴山は……!
そういう所は藤原に似ているというか、藤原よりもたちが悪い。
「たちが悪いとは失礼な。僕はこのメンバーで一番話しやすい話題を考えた時に恋バナか石上の話だと思っただけですよ」
「だったら、普通に優の話でいいじゃない!なんで惚気なのよ!」
「だって、お前が優の話したら最終的に惚気になるからいいかなーって」
「な!?そんなことないわよ!?」
「というか、しれっと俺の思考を読まなかったか?」
こいつ、たまにこういう所あるんだよな。
俺や四宮の考えさえ正確に読む。
こういう所が油断ならない。
なんていうか、伊井野とは別でこいつも苦手なんだよな。
まぁ、それはひとまず置いておくか。
「しかし、交流を目的とするなら共通の話題だけでは駄目だろう。もっと違う話題を出さないと」
「それもそうですね。じゃあ、ベタに趣味の話でもしますか」
「そうだな。伊井野は何か趣味とかあるのか」
「趣味ですか……。読書とかでしょうか?」
「へぇ」
結構真っ当な感じだな。
湊かなえに村上春樹に乙一。
著名な面子だ。
「鳴山はどんなのを読むんだ?」
「僕ですか?僕は特定の作者というよりも伝記とかそっち寄りですね」
「伝記ね。だれが好きなの?」
「明智光秀、徳川家康、武田信玄、鉄舟etcのまぁ、戦国から幕末辺りが好きだな」
「確かにいいよな」
意外と戦国武将とか好きなのか。
まぁ、読む本も人によって系統が違うのは当たり前か。
伝記かぁ……。
幅広い知識を持つなら、読むのも有りだな。
「ああ、白銀先輩。伝記は後世の人が書いたその人物の創作としての一面がありますから、それが実際の史実とは合っていないケースもあるのは注意したほうがいいですよ」
「そうか。確かにな」
「文学にも色んな種類がありますよね」
「そうだな~。詩とかポエムとか色々あるよな」
「いや、それ一緒じゃん」
「でも好きでしょ。詩」
「まぁ、そうだな」
「へぇーー!」
伊井野が大きな声を出した。
どうしたんだ急に。
「伊井野は詩とかが好きで、自分で詩を書いてたりするんですよ」
「ちょっと!?なんで鳴山は知ってるの!?そして、なんで言うの!?」
「いや、クラスの中で話してるんだから普通に聞いてるに決まってるじゃん。そして、大丈夫。白銀先輩はこんなことで引いたりはしない。ですよね?」
「お、おう」
成程な。
伊井野は詩を書いたりするのか。
しかし、否定する理由もないしな。
「俺は良いと思うぞ!小さい頃は天文学者か詩人になりたいと思っていたもんだ!」
「そっ……。そうだったんですね……。ちょうど……、星をテーマにした詩とかもあって…」
「おっ、詠んでくれよ」
「え~~、どうしよう~~。絶対に笑わないでくださいよ」
そうして、伊井野は詩を詠み始めた。
『私はベガ あなたはアルタイル』
『遠くて遠くて届かない』
『笹の葉は揺れる』
『私達の夢を叶えるように』
『川は流れる』
『私達をつなげるように』
『デネブは羽ばたく』
『私達を運ぶように』
『星は願う』
『私達が会えるように』
『私はベガ あなたはアルタイル』
『近くて近くて離れない』
「……どうでしょうか?」
「なるほどな。うん。素敵だな」
イマイチ、意味が分からないがしかし素敵な歌詞だとは感じる。
けして悲しい歌詞ではない。
意外と好きだな。
「なるほどね~。でも、お前と優が彦星と織り姫なのは違う気するな~」
「べ、別にそんなつもりで書いてないわよ!?」
「まぁ、僕も詩にそんなに詳しい訳じゃないから深くは言えないけど、デネブで白鳥って言うのは良いよな」
「う、そう?」
そうか七夕になぞらえているのか。
これは遠く離れた二人が色んな人の力を借りて手を繋ぐということなのか。
へぇーー。
いい歌詞だな!
「そういう鳴山はなんかないの?」
「僕?う~~ん、あんまりこういうのはやらないけど、ちょっとパッパと書くわ」
そう言って、鳴山は手持ちの手帳に書いていく。
たまにボールペンの上の部分を唇において。
しかし、こうして鳴山を待っててもあれだからな。
「伊井野、他にはどんな歌があるんだ?」
「えっ、あっ、その、、」
「どうした?」
「他の詩はちょっと恥ずかしいのが多いので……」
「まぁ、花とか使った優への想いを書いた詩が多いんだよね」
「なんで知ってるの!?」
「これは普通に予測」
うわーー……。
鳴山はこういう時に躊躇いなく言うのがな。
しかし、本当に石上のことが好きなんだな伊井野は。
「という訳で書き終わりました」
「それじゃあ、見せてもらおうじゃない!」
「では…」
そうして鳴山は詠み始めた。
『かちかちかちかち』
『あなたは狼』
『井戸に沈む』
『ぼうぼうぼうぼう』
『あなたは王妃』
『焼けた靴で踊り続ける』
『かちかちかちかち』
『あなたは猿』
『地に沈む』
『ぼうぼうぼうぼう』
『あなたは魔女』
『焼かれて死を待つ』
『かちかちかちかち』
『ぼうぼうぼうぼう』
『私は狸』
「炎に焼かれ』
『深い泥に私は沈む』
「……どうです?」
「まぁいいんじゃないの」
いや、もの凄く怖いんだけど。
なんでみんな沈んだり、燃えたりするの?
生きようよ。
えっ、何これ心の闇?
「ああ、つまり因果応報について詠ってるんだ」
「流石は伊井野、こういうものの解釈は早いな」
「詩としては大分ストレートだからね。あんたはあんまり回りくどい言い回しはしないし」
「まぁな」
いやでも、伊井野が普通に馴染んでるしな。
ここで俺だけ怖かったって言うのは流石に…。
まぁ、幸いあの二人だけで盛り上がってるみたいだし、このまま流して……。
「さて、それじゃあ、白銀先輩の詩を聞きましょうか?」
「はっ?」
「だって、僕も伊井野も詠ったんですから、当然白銀先輩もしますよね。会長ですし」
「グッ!」
クソ!
鳴山のやつ、いい笑顔で言いやがる。
伊井野も期待の眼差し送ってるし。
これもう、引くに引けないぞ。
どうする!?
ハッ!
そう言えば、ちょっと前……、なんか気の迷いで書いた、ポエミィーすぎる四宮へのラブレター…が!
だが…!!
流石にこれは……!
「別に四宮先輩へのラブレターだろうが、黒歴史だろうがどうでもいいので言って下さい」
「だからお前なーーー!!」
俺は大きな声をあげた。
***
そうして、結局俺はその詩を詠んでしまった。
しかも、詠んでいる最中に石上が来るし。
「食べかけのガムの詩ですね!」
とか、伊井野に言われるし!
もう本当に踏んだり蹴ったりだ…。
鳴山は今、伊井野と詩についての話をしている。
「会長、何がどうしてこうなってるんですか?」
「ああ、始まりは伊井野や鳴山と雑談しようってことで…」
「で、見事に鳴山に恥かかされたと」
「理解度高いな…」
流石にあいつの親友なだけあるな。
もしくは俺以上にそういうことされたのか。
どちらにしても、
「大変だな……」
「確かに大変なこともありますけど……」
石上は一拍置いて言う。
「でも、あいつは分かった上でやってます。本当に大切なことはきちんと守ってくれる奴なんですよ」
「何か言った?」
「なんでもねえよ」
石上はそう言って、鳴山と伊井野の方に向かった。
3人は楽しそうに話している。
本当に仲が良いな。
***
数日後。
生徒会室の昼にて。
シュッ!!シュッ!!
「鍵が見つからなくて、でも電動自転車は家に持ち帰らなきゃいけない!」
シュッ!!シュッ!!
「後輪持ち上げて移動させたんですけど手が限界でーー、運び方色々試してみたんですよ!」
シュッ!!シュッ!!
「それで最終的に後輪の部分を持って前に押す運び方がもっとも楽だったんです!」
シュッ!!シュッ!!
「って何!?一体何!?」
藤原の素っ頓狂な話を聞きながらそれでも気になる。
石上がスクワットをしている。
「さっきからシュッシュッシュッシュッ…、話に集中出来ないでしょ!」
「すみません。このセットで終わるんで…」
「で……苦労して自転車運んだんですけど、結局鍵はどこにあったと思います?」
シャカシャカシャカ
「んー。ポケットの中とか?」
シャカシャカシャカ
「それは冷蔵庫の中にー」
シャカシャカシャカ
「もーーなんなんですかー!さっきから人がとっておきのエピソードトークしてるのに横からシュッシュッシャカシャカと!」
遂に藤原が大きな声をあげた。
石上がいきなりこういう行動に出るのは珍しい。
何か意図があるんだろうが…。
「急に筋トレなんか始めて…、なんのアニメの影響ですか?」
「いやアニメとか違うんで」
石上は額の汗を拭いながら言う。
「いいですよ筋トレ。達成感あるし頭シャキとして勉強にも身が入る好循環で……」
「まぁ好きにしたらいいですけど……、お昼ごはん食べてる時は控えてください」
「そうですね」
そう言って、石上は昼を食う。
因みにその昼食は鶏ササミ肉をミキサーにかけたササミジュースらしい。
しかし、本当に石上に何が……
あっ!
そう言えば、冬休みの終わり頃……
『僕って、ミコと付き合うことになったじゃないですか』
『それがどうしたんだ?』
『……ミコから告白されて、励まされて、でもなんだかまだ自信が持てないんです』
『……それは自分の手で確かに何かを成し遂げたという感覚にならないからだろうな』
『そうかもしれません』
『なら、挑戦を続ければいいんじゃないか?別に付き合うことがゴールじゃない。むしろ始まりなんだから』
『……確かにそうですね』
……なるほど。
あの時の言葉で……。
伊井野の為に、自分の為に…。
なら、俺は……。
「……よし分かった」
「ふうー」
「これより生徒会は筋トレ推奨月間とする」
「それは止めたほうが良いんじゃないですかね?」
俺の宣言と一緒に鳴山が現れた。
しかしいきなり否定するって、一体、いつから話を聞いていたんだ?
「白兎くん!この人達をなんとかして下さい!私、怖くて怖くて」
「ああ、よしよし」
藤原が鳴山に抱きつき、鳴山は藤原の頭を撫でている。
正直、何を見せられているんだ感はあるがしかし、
「何故、止めたほうが良いと言うんだ?」
「いえ、筋トレそのものを否定するつもりはないんですが、それをすることのリスクを把握せずに行うのは違うと言ってるんです」
リスク?
そんなものがあるのか?
***
鳴山は隠し部屋からホワイトボードを取り出してきた。
俺と石上と藤原はソファに座っている。
鳴山は眼鏡を取り出し、解説を始めた。
「はい。それではこれから彼女持ちが筋トレをすることについて講義を始めます」
「講義なのか…」
「まず、筋トレすること。それそのものは悪いことではありません。体を動かすことは、精神的にも良いこととされ、体力づくりや健康にも良いというのは医学的に既に示されていることです」
そうだろうな。
これは実際、秀知院であることとは関係なく、中学校でも習うようなことだ。
だが、
「それならなんで筋トレするのが駄目なんだ?」
「筋トレをする環境ですよ。この生徒会で筋トレするのはNGだと思いますよ」
「どういうことだよ」
「まぁ、一言で言うならムサイ」
その一言で俺と石上は白けた雰囲気になった。
「そうです!そうなんです!」
藤原は無茶苦茶同意しているが。
「ムサイことの何が問題なんだ?」
「大問題ですよ。女子にとってのムサイは生理的に嫌だという意味になりますからね」
「そうなんです!そうなんです!」
「そうなのか……」
確かに大問題だ。
生理的に嫌という言葉は男にとって、かなりの一撃。
まして、惚れた女からのその言葉は一発で死ねるレベルだ。
「なぁ優。多分、筋トレすることを勧めたのは風野先輩だな?」
「お、おう。そうだけど」
「大分ショック受けてるな。まぁ、それで風野先輩は大仏にフラレてるだろ。そういうことだよ」
「うん?どういうことだ?」
「フラレてる人の方法をそのまま試した所でフラレるのは自明の理だろ」
「「ああ……」」
言われてみれば確かに。
フラレてる人の方法をそのまま真似た所で成果など上がらない、か。
言ってみれば、数学の問題で間違った解法で解き続けているようなものか。
それでは、確かに正しい解法には辿り着けない。
「いいか。フラレてる人の例を参考にする時、すべきことは何故その人がフラれたかをよく考えることだ。相手を反面教師として扱い、こうならない為にどうすればいいかを考え続ける必要があるんだ」
「しかし、それではどうすればいいんだ?完全に筋トレを止めろって話でもないんだろ」
「そうですね。優は文化系、つまり基本的に運動するタイプの人間ではないです。では、優が筋トレ有効活用するにはどうしたらいいか?答えは簡単、ギャップで攻めればいいんです」
「「ギャップ?」」
鳴山は眼鏡をくいっと上げて、少し早口に話始める。
「細マッチョというのがどうして流行ったのか」
「それを紐解けば、ギャップに行き着きます」
「要するに、普段運動してなさそうでヒョロヒョロ~としているのが、いざとなったら凄い筋肉で動ける」
「そこに魅力を感じる訳です」
「そして、これは文化系であることでより効果を発揮します」
「体育会系、運動部の類は、運動していなければ結果は残せない。そのため、部活などで日々体を鍛えています」
「それを遠目から見る限りはむさ苦しさなどは感じず、単純に努力しているカッコいい姿になります」
「まぁ、これに関しては個人差がありますし、単純に彼女と二人きりなのに筋トレしてたら嫌とかシチュエーションを考慮する必要はありますが」
「でも、それはあくまで体育会系などの話」
「ある意味でそれをするのが普通の環境だからこそ、通じる手法です」
「文化系が運動しているというのは意外性があっても、いざという時のギャップによる意外性は生まれません」
「例えば……、ちょっと失礼」
ぐいっ
「このように普段運動なんてしてなさそうな僕が、しれっと千花先輩を持ち上げたりするとギャップになる訳です」
トスン
「だから、伊井野の目に止まるような生徒会室だったりではせずに、家の中でやった方がいざというときにかっこよくなるのです」
「以上!」
***
後日談。というか今回のオチ。
プシューーー
藤原の頭から湯気が出ていた。
いや、いきなりお姫様抱っこされたからな。
頭がオーバーヒートしてもおかしくはないだろう。
しかし、鳴山はこういうことをあっさりとやるよな。
恥ずかしくはないんだろうか?
「しかし、お前は意外と熱しやすいタイプだよな。それが悪いとは言わないけど、情報の切り分けをちゃんとしないと昔の伊井野みたいに流されやすくなるからな」
「まぁ、確かにな。ちょっと冷静になった。しっかりと考えることにするよ」
「おう。ああ、ちょっと放課後は遅れます」
「うん?何かあるのか?」
「ちょっと、フォローに回ってきます」
フォロー?
鳴山のフォローはちょっと心配なんだが。
「……また、一人で行く気ですか?」
「今回は傷心の先輩を慰めにいくだけですよ」
「……全く。少しは休んでくださいよ」
「分かってます」
鳴山と藤原はそんな会話していた。
……俺は鳴山のことをもう少し知るべきなのかもしれないな。
美青
「はっ!私もお姫様抱っこされたい!」
白兎くんと誰が絡んでいるのが好き?
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鬼ヶ崎美青
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藤原千花
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石上優
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千石撫子
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その他