鳴山白兎は語りたい   作:シュガー&サイコ

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妹を出す今日この頃。


はくとシスター

白兎先輩の家族構成は意外と謎に包まれている。

白兎先輩が一人暮らしな上に、過去の話をしようとしないからだけど。

実際、白兎先輩の家族について聞いたことはない。

単に話すような機会がないから、だけではないと思う。

伊井野先輩も言っていた。

 

『あいつは多分、家族ともそれなりになにかあると思うよ。なんとなくの勘ではあるんだけどね』

 

伊井野先輩の勘は、お世辞にもそんなに当てになる方ではないけれど。

それでも、その意見はなんとなく正しいと思った。

だって、私もそう感じていたから。

白兎先輩のあの無駄な抱え込み病。

きっと、その原因は誰かに対する引け目。

誰に対してなのかは分からない。

きっと、私の知らない誰かなんだと思う。

その人に対して、引け目を感じ続けている。

私は、あの人の本当に重要な部分を知らない。

あの人は、押し付けるのが嫌だとか、そんな資格なんてないとか言うけど。

きっと、それだって一部であって全体じゃない。

私はあの人を知りたい。

あの人を知らなきゃ、あの人の駄目なところを正すことも、あの人の隣に居ることも出来ないのだから。

 

***

 

とある冬の土曜日。

私は伊井野先輩と石上先輩と一緒にファミレスに来ていた。

 

「白兎先輩は働きすぎだと思うんです」

「確かにそういう傾向あるよな」

「私も同感。本人は隠してるつもりなのかもしれないけど」

 

私の意見に先輩達も同意する。

いや、本当に働きすぎだと思う。

生徒会の仕事に他の人の世話に多分、専門家としての仕事に働き倒しだ。

本人はそういう疲れは隠しているけど、どう考えたって疲れてるに決まってる。

 

「まぁ、単純に仕事の量っていうなら会長も結構な重労働だとは思うけど、あいつの場合、顔に出てないからな」

「だから、イマイチ判断つかないのよね。……私達も文化祭は鳴山働きすぎだと思うし」

「そう思えるようになったのは、クリスマス後だけどな」

 

若干、気まずそうに石上先輩は言う。

 

「いや、でも、あの時先輩方も大変でしたし!」

「だから、あいつも無理してたんだろうからな……」

「キャンプファイヤーの時も結局は鳴山任せにしちゃったしね。感謝してるけど、正直申し訳ないわ」

 

二人はより気まずそうになってしまう。

それもそうですよね。

この二人、そういうの気にするタイプですし、ていうか、私自身も似たようなものですし。

 

「最近は、中等部の方にも色々としてるみたいで色々と悪い噂のある人達を更正させてるらしいんです」

「更正?」

「一回コテンパンにしてから色々と仕込んでいるらしくて、ルールをBRAKE(ブレイク)する男、Bボーイだった人達がランクアップしてCボーイになったりしてるんです」

「Cボーイ?」

「あれですよ。近藤先生っているじゃないですか。美人で巨乳な先生。その人に叱られた時にずっと前屈みになって動けない人達です」

「いや、そのCかよ!」

「あ、でもたまにランクダウンしてAになる人達もいるんですよね。背中にリュック背負ってその中にポスターがあって、丸メガネをかけた人達が」

「Aボーイってか、AKIBAボーイじゃねぇか!?」

「けど、ランクが2段階上昇してDになる人も居るんですよ。散々とそういう本で盛り上がるのに、本番では引け腰になる…」

「CとD、おんなじじゃねぇか!!」

「そして、石上先輩は伊井野先輩に対してYボーイ」

「そんなでもねぇよ!」

「あっ、やっぱりしてたんですね」

「優のバカ!!」

 

そして、石上先輩は伊井野先輩に思い切りビンタされた。

原因の一端は私にあるし、凄く痛そうだけど、謝る気はそんなにない。

 

「ていうか、美青ちゃんもそういうこと言っちゃ駄目でしょ!」

「いやいや、これは下ネタではなく漫画のネタですし、意外と冗談という訳でもないので」

「どういうこと?」

「実際にそういう感じで更正してるんです。今では悪い噂も全然立たない、ちょっとアレな人達になってます」

「それを更正と言っていいのか?」

「人に嫌なことをしないという意味では更正してますから」

 

そう、そういう意味では更正している。

更正というか、魔改造のような気もするけれど。

 

「つーか、知らなかったな。あいつ、中等部の世話までしてたのかよ」

「……色々とあるみたいですけどね」

 

きっと、灰被が行方不明なのが原因なんだろうけど。

多分、行方不明っていうのも間違いで、実際は生きているかどうかすら怪しいと言える。

それには白兎先輩も絡んでいて、きっとそれを悔やんでいる。

悔やんでいるから、できる限りのことをしようとしている。

でも、そこには無理がある。

能力的な無理じゃない。

精神的な無理。

 

「なんで、白兎先輩は無理して辛いのを我慢するんでしょうね?甘えたっていいのに。頼ってくれていいのに。どうして、そうしてくれないんでしょうね?」

 

文化祭の時に、本人に聞いた話を考えるなら他人に押し付けたくないからだと言っていた。

でも、他人に押し付けるって何のことを言っているんだろう?

他人を頼ることが押し付けることなのか?

他人に甘えることが押し付けることなのか?

他人に助けを求めることが間違いなのか?

そんな訳ない。

だったら、白兎先輩はどうなるというのだ?

散々と頼るように言って、散々と甘えるように言って。

実際にそうして、人を助けてきているあの人に救われて、助けられている人は確かに居る。

私がそうであるように。

多分、白兎先輩自身も気づいている。

そこに矛盾があることに。

でも、気付かないふりをしている。

 

「何か理由がある筈なんです…!あの人が何も言わない、何も言えない理由が…!」

 

二人は私の顔を真剣に見た後、ハァーと僅かにため息をこぼした。

 

「全く、白兎は本当に面倒くさいな」

「そうね。私も優も人のこと言えないけど、でも、こんな風に女の子を泣かせるなんて許せないわ」

 

二人は怒って、そして心配していた。

本当にいい先輩達だな。

 

「けど、実際、何が理由なんだろうな?」

「私達、この秀知院に来てからの鳴山は知ってるけど、それ以前の鳴山のことはほとんど知らないのよね」

「それは私も同じです」

 

あの人は昔の話を殆どしない。

多分、あまりしたくもないのだと思う。

あの人が過去を話している人物が居るとすれば、千石さん位のものだろう。

 

「多分、過去に何かがあったのが理由だとは思うんですけど…」

「あいつが話さない以上は知りようがないしな」

「家族のことで何かありそうだけど…」

「でも、俺たち、鳴山の家族に会ったことないしな。あいつは一人暮らしだし」

「その辺、家庭の闇みたいなのがありそうだよね」

「……結局、言ってくれなきゃ分からないことばかりだよ、あいつは」

 

***

 

私達はそのまま町に出た。

あのまま話していても分からないというのが分かるだけだったし。

それに伊井野先輩と遊べる機会も意外と少ないですしね。

 

「それでどこに行きますか?」

「う~~ん。ショッピングとか?」

「それ、石上先輩がつまらなくないですか?彼氏彼女で行くなら兎も角、このメンバーだと私と伊井野先輩で盛り上がちゃってつまらなくなる、悲しい男状態になるんじゃないですか?」

「いや、優は意外とその辺話せるわよ。妙に推しがファンシー系が多いんだけどね」

「ああ~、女性にそういう願望がありそう……」

「ちょっ……!ミコ!」

「でも、それでいて伊井野先輩も意外と満更でもないんですよね?」

「……そうだけどさ…」

 

ヤバ、可愛いこの人。

ちょっと拗ねてプイッとしてるのが凄い可愛い。

そして、その言葉で照れてる石上先輩も可愛い。

こういうのを見ると、白兎先輩の気持ちも分かるな~。

凄い可愛いもん、この人達。

……って、あれ?

 

「「あ」」

 

そこには、白兎先輩が知らない女の人連れて目の前に居た。

 

「「「「…………」」」」

 

謎の気まずそうな雰囲気が流れている。

いや、多分、そういう関係ではないのは察しはついているけれど、それでもなんか聞きづらい。

 

「あれ?もしかして、兄の同級生の方ですか?」

「兄?」

「ああ、こちら妹の鳴山瓜子だ」

「はじめまして、鳴山瓜子です。兄がいつもお世話になっています」

 

***

 

白兎先輩の妹。

存在は仄めかされてたような感じはするけれど、まともに話題に上がったことはなかった。

だから、どんな人かと思ったけれど。

 

「それで、兄はなんで正月に家に帰ってこない訳?お母さんが寂しがってたよ?」

「色々あるんだよ。ゲーム制作したり、閉じこもってるやつの世話したり色々な」

「ほとんど遊んでるように見えるんだけどー」

「うんな訳ないだろ」

 

なんというか、普通に兄妹だ。

ブラコンやシスコンとかみたいな極端な風でもなく、普通に仲が良い兄妹だ。

 

「大体、お前はちゃんと起きてるのか?遅刻の回数が減ってないって聞いてるけど」

「問題ないもん。点数はとれてるし」

「そういう問題じゃないんだけど」

「結構、普通に仲が良いんだな」

「別に仲が悪いだなんて言った覚えはないけど」

「そりゃ、そうだけども」

 

白兎先輩は呆れたようにそう言う。

さっきまで家族との仲が悪いんじゃないかって話していたから、つい、そういう思考になちゃった。

 

「それで、そこの3人は遊びに来ていたと。それなら、これからボーリングやる予定だったんだけど、一緒に来る?」

「「「………」」」

 

3人で顔を見合わせて、頷き合う。

 

「それなら、一緒に行きましょう!」

 

***

 

そんな訳で色々と話しながら、移動した訳だけど。

鳴山瓜子。

中学1年生。

当たり前だけど、一般の出だから通ってるのも普通の中学校ではある。

でも、曲がりなりにも秀知院に通ってる兄がいるからか、頭がいいらしい。

というか、

 

「年齢的に習ってる範囲が狭いだけで、地頭はあっちの方が上」

 

と、白兎先輩は言っていた。

妹さんも全く否定しなかったので、事実のようだ。

だけど、重要なのは頭ではなく、その性格のようで。

極端に言えば、超図太い。

人当たりがよく、友達も多いタイプらしい。

そして逸話。

そんなに友達が多いので、嫉妬深い天ノさんという人が嫌がらせをしていたらしい。

が、妹さんはそれに動じずに正論で弾き返し、しまいには直接攻撃してきたのを一本背負いで転ばしたらしい。

それ以来、嫌がらせも大分なくなり、あっても全く効かない。

ついた異名は、『無敵の瓜子姫』

 

「大人しさもなければ、儚さもない、物語さえ歪めて自力で幸せを掴む奴」

 

と、白兎先輩は言っていた。

遠い目でそういう白兎先輩は呆れと羨望が見て取れた。

それで、ボーリング。

 

「えい!」

 

ゴロゴロゴロゴロ、カコーン!

 

『ストライク!』

 

「まぁ、こんなものでしょ」

「……凄いなお前の妹。ここまでストライクしかだしてないぞ」

「それなりにやっていたのもあるけど、基本的に要領の良さも僕よりも上だからな。この位はこなす」

「先輩も先輩でハイスコアですけどね」

 

白兎先輩は呆れたように言う。

今の所、白兎先輩がストライクかスペア。

石上先輩が基本スペア、時々8本位。

伊井野先輩と私が基本的に8本位のたまにスペア。

そして、妹さんが全てストライク。

 

「ていうか、鳴山って意外と器用になんでもこなすよね」

「それは勘違いだな。器用に見えてるだけだよ。実際はそんなに器用じゃないし、マジモンの天才達は2回目位から正確に投げられるからな。四宮先輩とか四条先輩とかね」

「四宮先輩は兎も角、ツンデレ先輩がそんなに天才な感じしないんだけど」

「それこそ勘違いだよ。四条先輩は四宮先輩と対を為す天才。そこはちゃんと認識しておいた方が良いぞ」

「……意外と兄がちゃんと友人してる…」

「お前もお前で失礼だな。瓜子」

 

ここかな?

 

「そういえば、白兎先輩って昔はどんなだったんですか?」

「えっ、兄の昔?そうだね。なんか変に真面目っていうか、固いというか、無駄にルールに厳しいって感じだったよ。お陰で友達らしい友達見た覚えないし」

「なんか、伊井野先輩みたいですね」

「うっ!……そうね。正直、ちょっとやりすぎてた面があるのは確かだし……」

「今はメリハリがついて、ゆるゆるな所は凄いゆるゆるだよね。お陰で良い彼氏いるし」

「「ちょっと!」」

「でも、あの事件以来、人と関わろうとしなくなったから友達とか出来るって思わなかったな」

「あの事件?」

「瓜子」

 

白兎先輩が一言、低い声で言うと、妹さんは黙った。

先輩の低い声なんて聞いた覚えがないから、少し怖かった。

 

「……分かった。ああ、そういえば兄って小学校頃、結構ネガティブだったよね」

「なぁ、それもそれで話題としてどうなんだよ」

「だって、よく『自分なんて』とか言ってたじゃん。いつの日だったか、お父さんにウザいって言われて以降、言わなくなったけど」

「………えっ」

「人の黒歴史を暴露すんの止めてくれない?みんな、引いちゃってるじゃん」

 

確かに引いてるし、先輩がそういう所があるんだっていうのは驚きなんだけど。

でも、何に引いてるかって言われたら、『ウザい』って言ったこととそれ以降言わなくなったことだ。

もしかして、白兎先輩がそういうことを言わなくなったのって、そこが原因なんじゃ……。

 

「なぁ、白兎。お前大丈夫か?」

「何が?うちの家族、皆図太いからそういうのがイラッとするタイプが多いってだけで大して気にすることじゃないよ」

 

白兎先輩はそうして、笑ってた。

 

***

 

後日談。というか、今回のオチ。

 

「あっ、ちょっとトイレ」

 

そう言って、白兎先輩はこの場から離れた。

私と石上先輩と伊井野先輩は黙っていた。

確かに人のネガティブな姿を見続けるのは嫌かもしれないけど、でも家族だ。

家族なら、ちゃんと訊いて励ますものじゃないの?

それにそれ以降言わないからって、直っている訳じゃない。

むしろ、ただ言わなくなっているなら溜め込んでいるって考えるのが普通だ。

なのに、何も言わないの?

 

「ねぇ、家族の人は白兎先輩がそういうことを言わなくなってから何も言わないの?」

「そうね。うちの家族、みんな図太くて強いから、ああ強くなったんだなって感じで何も言わないよ?」

「そう……」

 

歪んでる。

明らかに歪んでる。

だって、あの人がそんなに()()()()()()()

家族が図太くても、その家族の一員が本当に図太いとは限らない。

仮に図太いんだとしても、絶対それが仇になってる。

一人で抱え込むようになってる。

なんていうか、やっぱり家庭に闇があるじゃん!

 

「……そういえば、あの事件って何のことだ?」

「ああ。……兄がいないからいっか、そこまでの事じゃないし。2年前の雪兎事件って覚えてます?結局、犯人の見つからなかった当時中学生の人を標的とした傷害事件」

「あったわね、そんな事件。……もしかして…」

「ええ。うちの兄もその被害者なんですよ。被害受ける前に警察の人にも注意するように言われたらしいんですけど、結局被害に遭っちゃって。それ以来、なんか知らないけど人と関わろうとしなくなったですよね」

 

意味不明ですけど。っと、妹さんは言う。

けど、それってつまりあの事件はあの人と深い関わりがあるってことで、恐らくはそれはあの人の仕事と関わってるんじゃないの?

 

「フン!」

「いったぁ!何するの!」

「いや、言うなって言ったよなこの愚妹。少しは気遣えよ」

「別に大した事じゃないでしょ!ちょっと、事件に巻き込まれたぐらい」

「十分に大事だわ。そういう所で気遣えないから彼氏出来ないんだよ」

「中学生で出来てないのは普通じゃん!それ言ったら、兄だって別に彼女とかいないじゃん!」

「うるせーバーカ」

 

そうして、二人は喧嘩しだした。

けれど、今はそれを気にする余裕はなかった。

 

「……ちょっと、これは…」

「白兎の周り、相当に歪んでそうだよな」

「調べてみたほうが、いいかも知れないわね」

 

そうして3人で頷き合う。

白兎先輩はちょっとヤバい。

 




これでも、普通に仲が良いんですよこの家族。
ただ、仲がいい家族が決して良い家族とは限らないということで。
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